(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043746
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】吹付用水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240326BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148909
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】谷本 理勇
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA06
(57)【要約】
【課題】水硬性組成物を用いた湿式吹付工法の吹付け作業の生産性を向上する吹付用水硬性組成物を提供する。
【解決手段】水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水と、を配合してなる、吹付用水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水と、を配合してなる、吹付用水硬性組成物。
【請求項2】
三価の金属イオンは、三価の鉄イオン及び三価のアルミニウムイオンから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の吹付用水硬性組成物。
【請求項3】
粘土鉱物は、ベントナイトを含む、請求項1又は2に記載の吹付用水硬性組成物。
【請求項4】
水硬性粉体100質量部に対して、前記の水を50質量部以上70質量部以下配合する、請求項1~3の何れか1項に記載の吹付用水硬性組成物。
【請求項5】
粘土鉱物の膨潤度が10mL/2g以上50mL/2g以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の吹付用水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水とを混合してなる吹付用水硬性組成物を、対象物に吹き付ける、湿式吹付工法。
【請求項7】
水硬性粉体と三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水とを混合してなる水硬性組成物に、粘土鉱物を混合して吹付用水硬性組成物を製造し、前記吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける、湿式吹付工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付用水硬性組成物及び吹付用水硬性組成物を用いた湿式吹付工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削等露出した地山の崩落を防止するために、急結剤をコンクリートに配合した急結性コンクリートを用いた吹付工法が行われている。この工法のうち、湿式吹付工法と呼ばれるものは、通常、掘削工事現場に設置した、セメント、骨材及び水の計量混合プラントで吹付コンクリートを調製し、それをアジテータ車で運搬・吹付け機に移送する。コンクリートと粉末急結剤の混合は、吹付け機のポンプでコンクリートを吐出口まで空気圧送するラインと、その途中に設けた合流管で粉末急結剤を他方から空気圧送するラインとで合流混合し、急結性吹付コンクリートとして地山面に所定の厚みになるまで吹き付ける工法である。
【0003】
特許文献1には、セメント、ベントナイト、細骨材及び水を組成とする配合物からなる吹付けコンクリートにおいて、ベントナイト質量のセメント質量に対する比率を20質量%以下とする、ベントナイト配合吹付けコンクリートが開示されている。そして、このベントナイト配合吹付けコンクリートが、粉塵発生を押さえ、吹き付け時のリバウンドを減少させることが開示されている。
特許文献2には、粘土鉱物とアルミニウム含有物質を含有してなるスランプ低減用吹付混和剤が開示されている。そして、このスランプ低減用吹付混和剤が、吹付時のセメントコンクリートのスランプを大幅に低減し、ダレを防止でき、コテ仕上げを行うのに適度な硬さに調整できることが開示されている。
特許文献3には、(A)膨潤度が15mL/2g以上50mL/2g以下の粘土鉱物と、(B)セメント鉱物系急結剤及びアルミニウム系急結剤から選ばれる1種以上の急結剤とを含む、吹付用水硬性組成物用添加剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-026598号公報
【特許文献2】特開2001-322850号公報
【特許文献3】特開2021-070611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吹付用水硬性組成物を対象物に吹付けたときに該組成物が吹付部位から広がると、吹付用水硬性組成物の積層に時間がかかり、作業効率が低下するおそれがある。
本発明は、吹付用水硬性組成物を吹付けたときに、該組成物の吹付け部位からの広がりを抑制し、吹付け作業の生産性を向上する吹付用水硬性組成物及び湿式吹付工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水と、を配合してなる、吹付用水硬性組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水とを混合してなる吹付用水硬性組成物を、対象物に吹き付ける、湿式吹付工法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吹付用水硬性組成物を吹付けたときに、該組成物の吹付け部位からの広がりを抑制し、吹付け作業の生産性が向上する吹付用水硬性組成物及び湿式吹付工法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の吹付用水硬性組成物が、該組成物の吹付け部位からの広がりを抑制できる理由は必ずしも定かではないが以下のように推察される。
一般的に多価金属イオンは粘土鉱物を凝集させて増粘効果を低下させるため、吹付けられた水硬性組成物は薄く広がりやすくなると考えられる。本発明では、三価金属イオンを予め特定濃度で水硬性組成物に練り込んでおくことで、水硬性粉体と粘土鉱物が強く相互作用し、吹付用水硬性組成物のまとまりを増加させ、当該吹付用水硬性組成物を対象物に吹付けたときに、該組成物の吹付け部位からの広がりを抑制していると推察される。一方、三価金属イオンの濃度が高くなりすぎると粘土鉱物が凝集し、この広がりを抑制する効果が低下し、水硬性組成物の吹付け部位における広がりが大きくなると推察される。
なお、本発明の吹付用水硬性組成物及び湿式吹付工法は、上記の作用機構になんら制限されるものではない。
【0010】
<吹付用水硬性組成物>
本発明の吹付用水硬性組成物は、水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水と、を配合してなる。以下、特に断りがないかぎり、本発明の吹付用水硬性組成物の配合成分として記載される水は、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水である。
また、本発明の吹付用水硬性組成物に含まれる各成分の含有量に関する規定は、該水硬性組成物における各成分の配合量と置き換えて適用することができる。
【0011】
本発明の吹付用水硬性組成物に使用される水硬性粉体としては、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0012】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
【0013】
本発明の吹付用水硬性組成物は、骨材を含有することが好ましい。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。骨材は細骨材が含まれることが好ましい。細骨材として、JIS A0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
本発明の吹付用水硬性組成物は、骨材として細骨材を含有することが好ましい。本発明の吹付用水硬性組成物での細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m3以上、より好ましくは900kg/m3以上、そして、好ましくは1300kg/m3以下、より好ましくは1200kg/m3以下である。
本発明の吹付用水硬性組成物では、細骨材率が好ましくは35%以上、より好ましくは45%以上、そして、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下である。ここで細骨材率は、全骨材中の細骨材の容積含有率である。
【0014】
本発明の吹付用水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/C)が、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
すなわち、本発明の吹付用水硬性組成物は、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、水を、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、そして、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは65質量部以下含有する。
なお、この水/水硬性粉体比(W/C)は、吹付用水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、(水/水硬性粉体)×100で算出される。
また、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
【0015】
本発明の吹付用水硬性組成物は、粘土鉱物を含む。粘土鉱物は、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、膨潤度が15mL/2g以上50mL/2g以下の粘土鉱物が好ましい。
【0016】
粘土鉱物の膨潤度は、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、15mL/2g以上、好ましくは20mL/2g以上、そして、50mL/2g以下、好ましくは45mL/2g以下、より好ましくは40mL/2g以下である。
この膨潤度は、日本ベントナイト工業会JBAS104:77のベントナイト(粉状)の膨潤試験方法に従って測定する。すなわち水分8.0質量%に調整した試料2.0gを、蒸留水100mlを入れた100mlの共栓メスシリンダーに約10回に分けて加える。このとき、前の添加物がメスシリンダー底に沈着してから次の添加を行う。24時間放置するとき、メスシリンダー底部の試料の塊が膨潤した見掛けの体積をメスシリンダーの目盛から読み膨潤度(mL/2g)として表示する。
【0017】
粘土鉱物としては、カチオン交換性層状シリケートが挙げられる。このような粘土鉱物の一例としてスメクタイト及びベントナイトから選ばれる1種以上の粘土鉱物が挙げられる。スメクタイトは、粘土鉱物に属する一群のカチオン交換性層状シリケートであり、天然物としてはベントナイトの主成分として良く知られているモンモリロナイトの他、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイトなどが挙げられ、合成物として膨潤性弗素系雲母類などが挙げられる。これらの中で、本発明の吹付用水硬性組成物に含まれる粘土鉱物としては、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト及びモンモリロナイトから選ばれる粘土鉱物が好ましく、ベントナイト及びモンモリロナイトから選ばれる粘土鉱物がより好ましく、ベントナイトが更に好ましい。
ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト及びモンモリロナイトから選ばれる粘土鉱物の含有量は、吹付用水硬性組成物に含まれる粘土鉱物中、60質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましく、ベントナイトの含有量が100質量%であることが更に好ましい。
【0018】
本発明の吹付用水硬性組成物は、粘土鉱物を、吹付用水硬性組成物の広がりと吐出作業性の観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.2質量%以上、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下含有する。
【0019】
本発明の吹付用水硬性組成物は、粘土鉱物を、該吹付用水硬性組成物に含まれる水硬性粉体100質量部に対して、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、そして、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下、更に好ましくは2質量部以下含有する。
【0020】
本発明の吹付用水硬性組成物は、水を含有する。水は、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む。
三価の金属イオンは、三価の鉄イオン、三価のアルミニウムイオン、三価のクロムイオン、三価のガリウムイオン、三価のインジウムイオン、三価のタリウムイオン、三価のビスマスイオン、三価のランタンイオン及び三価の希土類イオンから選ばれる1種以上が挙げられる。三価の金属イオンは、吐出作業性の観点から、三価の鉄イオンが好ましい。また、三価の金属イオンは、低濃度で吹付用水硬性組成物の広がりを小さくできる観点から、三価のアルミニウムイオンが好ましい。三価の金属イオンは、上記観点から、三価の鉄イオン及び三価のアルミニウムイオンから選ばれる1種以上が好ましい。
【0021】
水中の三価の金属イオン濃度は、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、60ppm以上、好ましくは75ppm以上、より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは150ppm以上、より更に好ましくは200ppm以上、そして、750ppm以下、好ましくは600ppm以下、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは400ppm以下である。
【0022】
水中の三価の金属イオン濃度は、例えば、株式会社共立理化学研究所製のデジタルパックテスト試験を用いて測定することができる。三価の鉄イオンはデジタルパックテスト試験(型式 WAK-Fe3+)のスルホサリチル酸比色法により測定することができる。また、三価のアルミニウムイオンはデジタルパックテスト試験(型式 LR-Al)のECR法により測定することができる。
【0023】
<急結剤>
本発明の吹付用水硬性組成物は、任意に急結剤を含むことができる。急結剤は、粉末状の急結剤が好ましい。急結剤は、例えば、セメント鉱物系急結剤及びアルミニウム系急結剤から選ばれる1種以上の急結剤である。
【0024】
セメント鉱物系急結剤としては、アルミン酸カルシウム、カルシウムサルホアルミネート及びカルシウムアルミネートから選ばれる1種以上が挙げられる。
アルミニウム系急結剤としては、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、カリウムミョウバン、鉄ミョウバン及びアンモニウム鉄ミョウバン等を含むアルミニウム塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
急結剤は、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、アルミン酸カルシウム、カルシウムサルホアルミネート、カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種以上が好ましく、カルシウムアルミネート、カルシウムサルホアルミネート及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種以上がより好ましく、カルシウムアルミネート及び硫酸アルミニウムから選ばれる1種以上が更に好ましい。
【0025】
本発明の吹付用水硬性組成物では、上記粘土鉱物と急結剤の混合物である吹付用水硬性組成物用添加剤(以下、本発明の添加剤という)を用いてもよい。該添加剤は、吹付用水硬性組成物を吹付けるときに、水硬性粉体及び水を含む水硬性組成物に混合される。
本発明の添加剤は、急結剤を、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは95質量%以下含有する。
【0026】
本発明の添加剤において、前記粘土鉱物の含有量と前記急結剤の含有量との質量比(急結剤)/(粘土鉱物)は、吐出作業性と粉塵量の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは4.5以上、そして、好ましくは90以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下、より更に好ましくは20以下、より更に好ましくは18以下、より更に好ましくは15以下である。
【0027】
本発明の吹付用水硬性組成物が急結剤を含む場合、本発明の吹付用水硬性組成物は、急結剤を、該吹付用水硬性組成物に含まれる水硬性粉体100質量部に対して、吹付用水硬性組成物の広がりと強度発現性と吐出作業性の観点から、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上、更に好ましくは6.5質量部以上、より更に好ましくは7質量部以上、そして、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下含有する。
【0028】
本発明の吹付用水硬性組成物が急結剤を含む場合、本発明の吹付用水硬性組成物において、粘土鉱物の含有量と急結剤の含有量との質量比(急結剤)/(粘土鉱物)は、吹付用水硬性組成物の広がりと強度発現性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは4.5以上、そして、好ましくは90以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下、より更に好ましくは20以下、より更に好ましくは18以下、より更に好ましくは15以下である。
【0029】
本発明の吹付用水硬性組成物は、必要に応じて、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む減水剤、膨張材、硬化促進剤、硬化遅延剤、セメント用ポリマー、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、顔料、繊維、撥水剤、白華防止剤、増粘剤等の1種又は2種以上を含有してもよい。
【0030】
<湿式吹付工法>
本発明は、水硬性粉体と、粘土鉱物と、三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水とを混合してなる吹付用水硬性組成物を、対象物に吹き付ける、湿式吹付工法を提供する。
また、本発明は、水硬性粉体と三価の金属イオンを60ppm以上750ppm以下含む水とを混合してなる水硬性組成物に、粘土鉱物を混合して吹付用水硬性組成物を製造し、吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける、湿式吹付工法を提供する。
本発明の湿式吹付工法では、前記の水硬性組成物又は吹付用水硬性組成物に急結剤を混合して、急結剤が混合された水硬性組成物又は吹付用水硬性組成物を、対象物に吹き付けてもよい。
本発明の湿式吹付工法において、水硬性粉体、粘土鉱物、三価の金属イオンを含む水及び急結剤は、本発明の吹付用水硬性組成物において記載した態様と同じである。
本発明の湿式吹付工法における好ましい態様として、本発明の吹付用水硬性組成物において記載した態様を適宜適用することができる。
【0031】
本発明の湿式吹付工法について、具体的な例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明の湿式吹付工法は、この具体例になんら限定されるものではない。
本発明の湿式吹付工法では、まず、水硬性粉体と、水と、任意に骨材とを混合して、水硬性組成物を製造する。
水硬性粉体、水及び任意に骨材を混合して製造された水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/C)〔水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)〕が、吹付用水硬性組成物の広がりと吐出作業性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。通常、当該水硬性組成物の水/水硬性粉体比は、引き続き製造される吹付用水硬性組成物に反映される。従って、本発明では、前記吹付用水硬性組成物も、水/水硬性粉体比は、前記範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明において、水硬性粉体、水及び骨材などの任意成分の混合は、公知の方法により行うことができる。具体的には、水硬性粉体と水と骨材とを同時に混合する方法が挙げられる。これらの成分の混合には、パン型強制ミキサー、2軸強制ミキサー、可傾式ミキサー等の混合ミキサーを使用することができる。
【0033】
本発明では、水硬性粉体、水及び任意の骨材を混合して得た水硬性組成物に、前記の粘土鉱物と前記の急結剤とを添加して、吹付用水硬性組成物を製造する。前記水硬性組成物と粘土鉱物と急結剤との混合は、例えば、前記水硬性組成物と、粘土鉱物と急結剤とを別々に空気圧送して合流混合する一般的な湿式吹付工法で実施できる。また、粘土鉱物と急結剤は、予め粘土鉱物と急結剤を混合して、前記水硬性組成物と混合することが好ましい。粘土鉱物と急結剤の混合物は、前記の本発明の吹付用水硬性組成物用添加剤であってよい。
なお、本発明では、水硬性粉体、粘土鉱物、水及び骨材などの任意成分を混合して水硬性組成物を製造し、該水硬性組成物に急結剤を添加して、吹付用水硬性組成物を製造することもできる。
【0034】
本発明では、前記粘土鉱物を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体100質量部に対して、吹付用水硬性組成物の広がりの観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、そして、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下、更に好ましくは2質量部以下混合する。
【0035】
本発明では、前記急結剤を用いる場合は、該急結剤を、前記水硬性組成物中の水硬性粉体100質量部に対して、吹付用水硬性組成物の広がりと強度発現性と吐出作業性の観点から、好ましくは4質量部以上、より好ましくは6質量部以上、更に好ましくは6.5質量部以上、より更に好ましくは7質量部以上、そして、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下混合する。
【0036】
本発明では、前記急結剤を用いる場合は、粘土鉱物の混合量と急結剤の混合量との質量比(急結剤)/(粘土鉱物)が、吹付用水硬性組成物の広がりと強度発現性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは4.5以上、そして、好ましくは90以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下、より更に好ましくは20以下、より更に好ましくは18以下、より更に好ましくは15以下である。
【0037】
本発明の吹付工法では、このようにして調製した吹付用水硬性組成物を対象物に吹き付ける。この方法は、いわゆる湿式吹付工法に相当する。
本発明の湿式吹付工法は、従来の吹付設備により実施可能である。吹付設備は、湿式での吹き付けが支障なく行われればよく、例えば、前記水硬性組成物の圧送に、アリバ社製、商品名「アリバ280」等を用い、粘土鉱物と急結剤の混合物の圧送にちよだ製作所製、商品名「ナトムクリート」等を用い、両者を混合して吹付用水硬性組成物を調製して吹き付けを行うことが可能である。
【実施例0038】
表中の成分は以下のものを用いた。
<粘土鉱物>
粘土鉱物:ベントナイト、クニゲルGS、クニミネ工業株式会社製、膨潤度33mL/2g
【0039】
粘土鉱物の膨潤度は、日本ベントナイト工業会JBAS104:77のベントナイト(粉状)の膨潤試験方法に従って測定した。すなわち水分8.0質量%に調整した試料2.0gを、蒸留水100mlを入れた100mlの共栓メスシリンダーに約10回に分けて加えた。このとき、前の添加物がメスシリンダー底に沈着してから次ぎの添加を行った。24時間放置するとき、メスシリンダー底部の試料の塊が膨潤した見掛けの体積をメスシリンダーの目盛から読み膨潤度(mL/2g)とした。
【0040】
(1)水硬性組成物の作製
水硬性組成物の配合成分は以下の通りである。なお、水は、三価の鉄イオン濃度と三価のアルミニウムイオン濃度が表1の濃度となるように、水道水に塩化鉄(III)又は硫酸アルミニウム(III)を溶解して調製した。
水の鉄イオン濃度を、株式会社共立理化学研究所製のデジタルパックテスト試験(型式 WAK-Fe3+)で測定すると、水道水は1ppm以下の検出下限値以下だった。また、水道水に塩化鉄(III)を溶解して調製した水溶液は、それぞれ50、101、203、564,976ppmだった。この時、101、203、564,976ppmの水溶液は検出上限値を超えていたので、検出上限値の50ppmを下回る濃度に希釈して測定した。
また、水のアルミニウムイオン濃度を、株式会社共立理化学研究所製のデジタルパックテスト試験(型式 LR-Al)で測定すると、水道水は0.05ppm以下の検出下限値以下だった。また、水道水に硫酸アルミニウム(III)を溶解して調製した水溶液は、65、102ppmだった。この時、65、102ppmの水溶液は検出上限値を超えていたので、検出上限値の0.40ppmを下回る濃度に希釈して測定した。
【0041】
<水硬性組成物の配合成分>
水:上記の方法で調製した、表1の濃度でFe(III)イオン又はAl(III)イオンを含む水
セメント(水硬性粉体):太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントと住友大阪セメント製普通ポルトランドセメントとの質量比1:1の混合物
骨材(砂):京都府 城陽市産 山砂 表乾状態 比重2.55
粘土鉱物:ベントナイト、クニゲルGS クニミネ工業株式会社社製 膨潤度33mL/2g
【0042】
水硬性組成物の作製には、「JIS R 5201 セメントの物理試験方法」に規定されるモルタルミキサーを使用した。
モルタルミキサーの練鉢に水を240g、セメントを400g、砂を1054g加え低速で2分撹拌した。得られたモルタルに粘土鉱物を加え、高速で10秒間撹拌し、吹付用水硬性組成物を得た。
【0043】
(2)評価
得られた吹付用水硬性組成物1500gを、粉粒体搬送装置(ブレスライダー、型番K―20、株式会社ブレス社製)を用いて、粉粒体搬送装置の噴射口から18cm離れた木板に噴射した。粉粒体搬送装置に接続されたコンプレッサの圧力は0.6MPa、噴射口の口径φは2cmであった。木板に吹付けた吹付用水硬性組成物の中心部を中心とする直径12cmの円の内側に付着した吹付用水硬性組成物の質量と、この円の外側に付着した吹付用水硬性組成物の質量を測定し、下記式(1)より広がり率(%)を算出した。この広がり率が低いほど、吹付用水硬性組成物を吹付けたときに、該組成物の吹付け部位からの広がりが抑制されているといえる。
広がり率(%)=100×(直径12cmの円の外側に付着した吹付用水硬性組成物の質量)/(直径12cmの円の内側に付着した吹付用水硬性組成物の質量) (1)
【0044】
【0045】
※注1:添加剤の添加量は、セメント(C)に対する質量百分率(質量%×C)で表す。
※注2:『W/C』は、セメント(C)に対する水(W)の質量百分率(質量%)を表す。
【0046】
表1に示すように、実施例の吹付用水硬性組成物は、広がり率が低くなっており、これにより、吹付用水硬性組成物の積層に要する時間が低減され、水硬性組成物の吹付け作業効率が向上する。