(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043772
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20240326BHJP
F16J 1/01 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F02F3/00 Z
F02F3/00 302Z
F16J1/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148947
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】阪井 博行
(72)【発明者】
【氏名】市川 和男
(72)【発明者】
【氏名】乃生 芳尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 光一
(72)【発明者】
【氏名】坂木 民司
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩康
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA05
3J044AA06
3J044AA14
3J044BA04
3J044CA01
3J044CA40
3J044DA09
3J044EA01
(57)【要約】
【課題】ピストン内部に充填された粒子の凝集を抑制して振動抑制機能を効果的に発揮することが可能なピストンの提供を目的とする。
【解決手段】ピストン1は、ピストン本体20の空間部30の内部に充填された粉粒体40と、空間部30の内部に配置され、ピストン1の往復移動に伴って粉粒体40が空間部30の内部で往復移動する際に粉粒体40を分散する分散フレーム50とを備える。分散フレーム50は、往復動方向に対して交差する方向に延びる少なくとも1つ以上の梁部材51、52を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダ内で所定の往復動方向に往復移動するピストンであって、
内部に空間部が形成されたピストン本体と、
前記空間部の内部で移動可能な充填率で前記空間部に充填された粉粒体と、
前記空間部の内部に配置され、前記ピストンの往復移動に伴って前記粉粒体が前記空間部の内部で往復移動する際に前記粉粒体を分散する分散フレームと
を備え、
前記分散フレームは、前記往復動方向に対して交差する方向に延びる少なくとも1つ以上の梁部材を備えていることを特徴とするピストン。
【請求項2】
請求項1記載のピストンにおいて、
前記梁部材は、平面視で互いに交差して延びるように複数配置されている、
ことを特徴とするピストン。
【請求項3】
請求項2記載のピストンにおいて、
前記ピストン本体は、前記往復動方向から見て前記空間部と重なる位置にエンジンのコネクティングロッドと当該ピストン本体とを結合するピストンピンが挿入されるピンボス部を備え、
複数の前記梁部材が交差する交点は、前記往復動方向から見て前記ピンボス部と重なる位置にある、
ことを特徴とするピストン。
【請求項4】
請求項3記載のピストンにおいて、
交差する前記梁部材のうちの1本の前記梁部材は、前記ピンボス部に沿って延びる、
ことを特徴とするピストン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記分散フレームは、前記往復動方向に延びる柱部材をさらに備える、
ことを特徴とするピストン。
【請求項6】
請求項1に記載のピストンにおいて、
前記分散フレームは、平面視において互いに直交して延びる2本の前記梁部材と、2本の前記梁部材の交点を通って前記往復動方向に延びる柱部材とによって構成された面心立方構造である、
ことを特徴とするピストン。
【請求項7】
請求項1に記載のピストンにおいて、
前記分散フレームは、立方体における中心を通る4本の対角線に沿って延びる4本の前記梁部材によって構成された体心立方構造である、
ことを特徴とするピストン。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記粉粒体の前記充填率は、前記空間部の容積に占める体積割合として、35~50%である、
ことを特徴とするピストン。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載のピストンにおいて、
前記分散フレームが前記空間部の内部で占める容積率は、15%以下である、
ことを特徴とするピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダ内で往復移動するピストンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内に往復動可能に収容されるピストンを備えたエンジン(レシプロエンジン)では、燃費向上と出力確保の観点から、圧縮比を大きくするとともにピストンの慣性重量を低減することが考えられる。ここで、慣性重量の低減のためには、従来からピストン内部に空間部を設けて軽量化が図られている。ただし、燃焼圧力の最大値を高めると、ピストンに生じる振動からエンジンの振動や騒音がともに大きくなる。そのため、起振源となるピストンは、軽量化とともに振動抑制も要求される。
【0003】
起振源となるピストンの軽量化および振動抑制の両立を図る従来の構造として、特許文献1に記載されているように、ピストンの空間部に粒子状充填材を移動可能な充填率で充填した構造が提案されている。この構造では、ピストンの往復移動中に、粒子状充填材が空間部内部を移動することによって、ピストンで生じる振動のエネルギーを粒子状充填材同士の摩擦による熱エネルギーに変換し、それにより、ピストンの振動を減衰させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなピストンの空間部に充填された粒子状充填材を用いてピストンに生じる振動を減衰させる構造では、ピストンの往復移動中に粒子状充填材が凝集してほぼ一体の塊となって空間部内部で往復移動する現象が生じる。このため、粒子状充填材同士の摩擦による振動抑制機能が効果的に発揮できない。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、ピストン内部に充填された粒子の凝集を抑制して振動抑制機能を効果的に発揮することが可能なピストンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明のピストンは、エンジンのシリンダ内で所定の往復動方向に往復移動するピストンであって、内部に空間部が形成されたピストン本体と、前記空間部の内部で移動可能な充填率で前記空間部に充填された粉粒体と、前記空間部の内部に配置され、前記ピストンの往復移動に伴って前記粉粒体が前記空間部の内部で往復移動する際に前記粉粒体を分散する分散フレームとを備え、前記分散フレームは、前記往復動方向に対して交差する方向に延びる少なくとも1つ以上の梁部材を備えていることを特徴とする。
【0008】
上記のピストンは、ピストン本体の空間部に粉粒体が充填された構成において、粉粒体を分散する分散フレームを備えている。分散フレームは、ピストンの往復動方向に対して交差する方向に延びる少なくとも1つ以上の梁部材を備えている。このため、ピストンの往復移動中では、粉粒体が空間部における往復動方向の端部に一時的に集まっても粉粒体が往復動方向に移動する途中で当該粉粒体が分散フレームの梁部材に衝突することにより粉粒体の分散を促進するとともに粉粒体の移動方向を変えることが可能になる。これにより、粉粒体の凝集を抑制するとともに粉粒体間の摩擦を増幅させるので、ピストンの振動抑制機能を効果的に発揮することが可能である。
【0009】
上記のピストンにおいて、前記梁部材は、平面視で互いに交差して延びるように複数配置されているのが好ましい。
【0010】
かかる構成によれば、梁部材は、平面視で互いに交差して延びるように複数配置されているので、梁部材が空間部の広範囲にわたって平面的に張り巡らされる。そのため、粉粒体が往復動方向に移動する途中に複数の梁部材うちのいずれかに確実に衝突して粉粒体を分散させることが可能になり、減衰効果を確実に高めることが可能である。
【0011】
上記のピストンにおいて、前記ピストン本体は、前記往復動方向から見て前記空間部と重なる位置にエンジンのコネクティングロッドと当該ピストン本体とを結合するピストンピンが挿入されるピンボス部を備え、複数の前記梁部材が交差する交点は、前記往復動方向から見て前記ピンボス部と重なる位置にあるのが好ましい。
【0012】
往復動方向から見て空間部におけるピンボス部と重なる位置では、往復動方向における空間部の幅が最も広くなるので、粉粒体がたまりやすい。そこで、上記の構成では、梁部材の交点が往復動方向から見てピンボス部と重なる位置にあることにより、空間部における往復動方向から見てピンボス部と重なる位置で集まった粉粒体を往復動方向に移動中に確実に交差する2本の梁部材に衝突させて粉粒体を分散させることが可能である。
【0013】
上記のピストンにおいて、交差する前記梁部材のうちの1本の前記梁部材は、前記ピンボス部に沿って延びるのが好ましい。
【0014】
交差する梁部材のうちの1本の前記梁部材がピンボス部に沿って延びるので、空間部における往復動方向から見てピンボス部と重なる位置で集まった粉粒体を往復動方向に移動中に確実にピンボス部に沿って延びる梁部材に衝突させて粉粒体を分散させることが可能である。
【0015】
上記のピストンにおいて、前記分散フレームは、前記往復動方向に延びる柱部材をさらに備えるのが好ましい。
【0016】
ピストン本体の空間部の部位では剛性が弱いが、上記の構成では、往復動方向に延びる柱部材が空間部の内壁を往復動方向で支持することにより、ピストン本体における空間部の部位を補強することが可能である。
【0017】
上記のピストンにおいて、前記分散フレームは、平面視において互いに直交して延びる2本の前記梁部材と、2本の前記梁部材の交点を通って前記往復動方向に延びる柱部材とによって構成された面心立方構造であるのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、3本の棒状体、すなわち、2本の梁部材および1本の柱部材のみで粉粒体の高い分散効果を得ることが可能である。しかも、2本の梁部材および1本の柱部材が1点で交差するので、分散フレームおよびそれによって支持されるピストン本体の強度が高くなる。
【0019】
上記のピストンにおいて、前記分散フレームは、立方体における中心を通る4本の対角線に沿って延びる4本の前記梁部材によって構成された体心立方構造であるのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、4本の梁部材で粉粒体の高い分散効果を得ることが可能である。しかも、4本の梁部材が1点で交差するので、分散フレームおよびそれによって支持されるピストン本体の強度が高くなる。
【0021】
上記のピストンにおいて、前記粉粒体の前記充填率は、前記空間部の容積に占める体積割合として、35~50%であるのが好ましい。
【0022】
上記の範囲であれば、粉粒体が空間部の内部を円滑に往復移動することができ、ピストンの減衰効果が確実に発揮される。
【0023】
上記のピストンにおいて、前記分散フレームが前記空間部の内部で占める容積率は、15%以下であるのが好ましい。
【0024】
上記の範囲であれば、分散フレームの梁部材の本数や太さを減らしながら粉粒体の効果的な分散をしてピストンの減衰効果を十分に発揮することが可能である。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明のピストンによれば、ピストン内部に充填された粒子の凝集を抑制して振動抑制機能を効果的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係るピストンを備えたエンジンの断面図である。
【
図3】
図2のピストン本体内部に収容された粉粒体および分散フレームを示すピストンの一部切欠斜視図である。
【
図4】
図2のピストン本体内部に収容された粉粒体および分散フレームを示す一部切り欠いたピストンを後方側から見た図である。
【
図5】
図2のピストン本体内部に収容された粉粒体および分散フレームを示す一部切り欠いたピストンを右側から見た図である。
【
図6】
図2のピストン本体内部に収容された粉粒体および分散フレームを示す一部切り欠いたピストンを上方から見た図である。
【
図7】
図3の一対の空間部および一対の分散フレームの位置関係を模式的に示す説明図である。
【
図8】
図3の分散フレームが面心立方構造であることを模式的に示す説明図である。
【
図9】本発明のピストンの変形例として体心立方構造の分散フレームを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係るピストンについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
(1)エンジンの構成
図1は、本発明の一実施形態に係るピストン1を備えたエンジンEの断面図である。本図に示されるエンジンEは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリン直噴エンジンである。このエンジンEは、シリンダ2を内部に備えるシリンダブロック3と、 シリンダ2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、シリンダブロック3の下面に取り付けられ、当該シリンダブロック3と協働してクランク室17を形成するクランクケース5と、シリンダ2に往復動可能に挿入された上記ピストン1とを有している。
【0029】
ピストン1の上方には燃焼室7が画成されている。燃焼室7には、ガソリンを含有する燃料が図外のインジェクタからの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室7で空気と混合されつつ図外の点火プラグによる点火により燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン1が上下方向に往復動する。
【0030】
ピストン1の下方には、エンジンEの出力軸であるクランクシャフト8が設けられている。クランクシャフト8は、コンロッド(コネクティングロッド)9を介してピストン1と連結されている。詳しくは、コンロッド9の上側の端部である小端部9aがピストンピン6を介してピストン1に結合されるとともに、コンロッド9の下側の端部である大端部9bがクランクシャフト8に結合されることにより、ピストン1とクランクシャフト8とがコンロッド9を介して連結されている。ピストン1の往復運動(上下運動)は、コンロッド9により回転運動に変換された上でクランクシャフト8に伝達され、クランクシャフト8を中心軸回りに回転させる。
【0031】
シリンダヘッド4には、燃焼室7に空気を導入するための吸気ポート10と、燃焼室7で生成された排気ガスを導出するための排気ポート11と、吸気ポート10の燃焼室7側の開口を開閉する吸気弁12と、排気ポート11の燃焼室7側の開口を開閉する排気弁13とが設けられている。なお、本実施形態のエンジンEのバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、シリンダヘッド4には、1つのシリンダ2に対し、
図1の紙面に直交する方向に並ぶ2つの吸気ポート10および2つの排気ポート11が設けられるとともに、各ポートに対応した2つの吸気弁12および2つの排気弁13が設けられている。
【0032】
吸気弁12および排気弁13は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランクシャフト8の回転に連動して開閉駆動される。
【0033】
シリンダブロック3の内部には、潤滑用のオイル(エンジンオイル)が流通するオイルギャラリ14が設けられている。シリンダブロック3の内壁にはオイルジェット15が取り付けられている。オイルジェット15は、その先端のノズル15aがピストン1の下方に位置するように配設されている。オイルジェット15は、図外のオイルポンプからオイルギャラリ14に送出されたオイルをノズル15aを通じてピストン1の下側から噴射する。
【0034】
(2)ピストンの構造
図2~
図7は、ピストン1の具体的構造を示す図であり、
図2は斜視図、
図3~
図6はピストン1の一部切り欠いてピストン1内部の空間部30に収容された粉粒体40および分散フレーム50を示す図、
図7は一対の空間部および一対の分散フレームの位置関係を模式的に示す図である。
【0035】
なお、ピストン1に関する以下の説明において、「上下方向」はシリンダ2の中心軸の方向(シリンダ軸方向)およびピストン1の往復動方向と同義であり、燃焼室7側が「上」、その反対側(クランク室17側)が「下」である。また、「前後方向」とはクランクシャフト8の軸方向と平行な方向のことであり、その一方側を「前」、他方側を「後」とする。さらに、「左右方向」とは「上下方向」および「前後方向」の双方に直交する方向のことであり、その一方側を「左」、他方側を「右」とする。この場合、左側は排気側から吸気側を向く側であるから、左側は吸気側と同義である。また、右側は吸気側から排気側を向く側であるから、右側は排気側と同義である。図中において、「左」「右」の表記に括弧付きで「IN」「EX」を併記しているのはこのためである。
【0036】
ピストン1は、エンジンEのシリンダ2内で所定の往復動方向(上下方向)に往復移動する部材である。
【0037】
ピストン1は、ピストン本体20と、粉粒体40(
図3~
図6参照)と、分散フレーム50(
図3~
図7参照)とを備える。
【0038】
ピストン本体20は、
図2~
図5に示されるように、ピストンヘッド21と、ピストンヘッド21の外周から下方に延びる一対のスカート部26とを有している。
【0039】
ピストンヘッド21は、比較的扁平な円柱状の部材であり、燃焼室7の底面を形成する冠面22と、シリンダ2の側周面と摺接する外周面24とを備える。冠面22は、ペントルーフ型の燃焼室7の天井面と対向する面であり、その外縁部分を除く主要領域が、当該天井面に対応するように山型に突出するように形成されている。冠面22には、下方に窪むキャビティ23が形成されている。キャビティ23は、燃焼室7の天井面に配置された図外のインジェクタからの燃料噴射を受けるための凹部であり、本実施形態では平面視で略楕円形に形成されている。詳しくは、キャビティ23は、前後方向に長尺な略楕円形の上縁23aと、略円形の底面23cと、当該底面23cの周縁と上縁23aとを接続する湾曲した周面23bとを有している。キャビティ23は、底面23cから上方に離れるほど(上縁23aに近づくほど)面積が拡大するように形成されている。
【0040】
ピストンヘッド21の外周面24には、ピストンリング(図示省略)が嵌め込まれる複数の(ここでは3つの)リング溝25が形成されている。ピストンリングは、燃焼室7からクランク室17への燃焼ガスの漏出を防ぐ機能、および、シリンダ2の側周面に付着した余分なオイルを掻き落とす機能を有している。
【0041】
一対のスカート部26は、その一方が左側(吸気側)に、他方が右側(排気側)に位置するように配置されている。各スカート部26がシリンダ2の側周面に摺接することにより、ピストン1が往復動する際の首振り振動が抑制される。
【0042】
ピストンヘッド21の下側であって両スカート部26の間の部位には、前後一対の縦壁27が設けられている。前側の縦壁27は、両スカート部26の前端どうしをつなぐように左右方向に延びる壁部であり、後側の縦壁27は、両スカート部26の後端どうしをつなぐように左右方向に延びる壁部である。
【0043】
一対の縦壁27は、その左右方向の中間部にピンボス部28を有している。各ピンボス部28は、前後方向に貫通するピン孔28aを規定する環状の壁部である。ピン孔28aには、ピストン本体20とコンロッド9とを結合するために前後方向に延びるピストンピン6(
図1)が固定的に挿入される。すなわち、ピストンピン6は、その前端部および後端部がそれぞれ各ピンボス部28のピン孔28aに嵌入されることにより、一対の縦壁27に跨るような状態でピストン本体20に固定される。さらに、両ピンボス部28の間に位置するピストンピン6の中間部には、コンロッド9の小端部9a(上端部)が外挿される。すなわち、ピストン本体20は、ピストンピン6を介してコンロッド9の小端部9aに結合される。コンロッド9の小端部9aは、一対のピンボス部28の前後方向の中間部に位置する上方に凹む収容凹部29(
図5参照)に収容される。
【0044】
ピストンヘッド21の内部、具体的には、一対のピンボス部28のそれぞれ上の部分に一対の空間部30が形成されている。一対の空間部30は、収容凹部29を間に挟みながら前後方に並んで配置されている。
【0045】
それぞれの空間部30は、
図3および
図4に示されるように、その前後方向に沿った断面(左右方向と直交する切断面により切断した断面)が中央側ほど拡大するように形成されている。詳しくは、各空間部30は、前後方向視で下側に凸となるように突出した底面を有しており、その突出量がピストン本体20の左右方向の中央位置において最も大きくなるように形成されている。言い換えると、各空間部30は、その断面積(すなわち、
図5に示される左右方向に直交する断面についての断面積)が
図3および
図4のピン孔28aの中心Oに近づくほど拡大するように形成されている。このため、各空間部30の断面積は、ピン孔28aの中心Oに対応する位置(左右方向の中央)において最も大きくなる。また、各空間部30は、その前後方向の幅が下側ほど縮小するように形成されている。また、
図5に示されるように、各空間部30の前後方向の幅は、上下方向において、3本のリング溝25のうち一番上のリング溝25の高さ位置で最も大きくなるように設定される。そして、各空間部30のその高さ位置で後述の第1梁部材51およびそれに直交する第2梁部材52が配置されている。
【0046】
本実施形態では、一対の空間部30は、
図7に示されるように、ピストン本体20の外周方向に沿って前後方向に延びる一対の細い流路31を通して連通している。したがって、ピストン本体20の内部には、一対の空間部30および一対の流路31によって1つの大きな空間部が形成されている。
【0047】
それぞれの空間部30には、
図3~6に示されるように、粉粒体40および分散フレーム50が配置されている。
【0048】
粉粒体40は、多数の微細な粒子の集合体である。粉粒体40は、空間部30の内部で移動可能な充填率(すなわち、空間部30を粉粒体40によって完全に塞がない程度の充填率)で空間部30に充填されている。
【0049】
粉粒体40の充填率は、例えば、空間部30の容積に占める体積割合として、35~50%であれば粉粒体40は往復移動中に分散フレーム50の2本の梁部材51、52に衝突して円滑に分散することが可能である。
【0050】
粉粒体40としては、ピストン鋳造時およびエンジン使用時の熱に耐えられる程度の耐熱性を有するセラミックなどの無機材料または金属材料からなる粉体または粒体が選定される。粉粒体40の粒子の大きさおよび形状は、ピストン1の往復移動に伴って粉粒体40が空間部30の内部で移動可能な条件を満たすように適宜選定される。
【0051】
図3~7に示されるように、分散フレーム50は、各空間部30の内部に配置され、ピストン1の往復移動に伴って粉粒体40が空間部30の内部で往復移動する際に粉粒体40を分散するように構成されている。
【0052】
具体的には、分散フレーム50は、往復動方向(上下方向)に対して交差する方向(
図3~8に示される前後方向および左右方向)に延びる少なくとも1つ以上の梁部材として、第1梁部材51および第2梁部材52を備えている。さらに詳述すれば、本実施形態の分散フレーム50は、前後方向に延びる第1梁部材51と、左右方向に延びる第2梁部材52と、往復動方向(上下方向)に延びる柱部材53とを備える。第1梁部材51は、前後方向に延びる円柱状の部材であり、その両端は空間部30の前後方向に対向する一対の側壁に支持されている。第2梁部材52は、左右方向に延びる円柱状の部材であり、その両端は空間部30の左右方向に対向する一対の側壁に支持されている。柱部材53は、上下方向に延びる円柱状の部材であり、その両端は空間部30の上下方向に対向する天壁おおよび底壁に支持されている。
【0053】
本実施形態では、複数の梁部材として、第1梁部材51および第2梁部材52が平面視で互いに交差(直交)して延びるように配置されている。なお、第1梁部材51および第2梁部材52は交差していればよく、直交していなくてもよい。
【0054】
第1梁部材51および第2梁部材52が交差する交点54は、往復動方向(上下方向)から見てピンボス部28と重なる位置、すなわち、ピンボス部28の上にある。具体的には、交点54は、ピンボス部28のピン孔28aの中心Oの上にある。
【0055】
交差する梁部材51、52のうちの1本の梁部材である第1梁部材51は、各ピンボス部28に沿って延びる。具体的には、第1梁部材51は、
図3および
図5に示されるように、ピンボス部28のピン孔28aの中心Oを通る中心線C(前後方向に延びる線)に沿って延びる。
【0056】
柱部材53は、第1梁部材51および第2梁部材52が交差する交点54を通って上下方向に延びる。
【0057】
以上のように、本実施形態の分散フレーム50は、
図8に示されるように、平面視において互いに直交して延びる第2本の梁部材51、52、すなわち、前後方向に延びる第1梁部材51および左右方向に延びる第2梁部材52と、第1梁部材51および第2梁部材52の交点54を通って上下方向に延びる柱部材53とによって構成された面心立方構造である。
【0058】
この面心立方構造では、立方体を構成する6つの平面S11、S12、S21、S22、S31、S32の互いに対向する平面の中心同士を結ぶように、第1梁部材51、第2梁部材52、および柱部材53が延びている。すなわち、第1梁部材51は、前後方向に延びて前後方向に向かい合う2つの平面S11およびS12の中心同士を結ぶ。第2梁部材52は、左右方向に延びて左右方向に向かい合う2つの平面S21およびS22の中心同士を結ぶ。柱部材53は、上下方向に延びて上下方向に向かい合う2つの平面S31およびS32の中心同士を結ぶ。
【0059】
本実施形態では、分散フレーム50を構成する第1梁部材51、第2梁部材52、および柱部材53は、円柱状であるので、粉粒体40との衝突時に粉粒体40を分散させる効果が高く、かつ、梁部材の劣化や損耗が少ない。なお、本発明はこれらの梁部材51、52および柱部材53の断面形状についてとくに限定するものではなく、粉粒体40を分散させることが可能であればいかなる断面形状(例えば多角形の断面形状)でもよい。
【0060】
分散フレーム50が空間部30の内部で占める容積率は、15%以下(好ましくは6~6.8%)であれば、上記の梁部材51、52および柱部材53の本数および太さを減らしても粉粒体40の効果的な分散によりピストンの減衰効果を十分に発揮することが可能である。
【0061】
分散フレーム50を構成する第1梁部材51、第2梁部材52、および柱部材53は、ピストン本体20とともに鋳造される。
【0062】
鋳造方法としては、例えば、
図7に示される一対の空間部30および一対の流路31に対応する中子であって、分散フレーム50の第1梁部材51、第2梁部材52、および柱部材53に対応する部位に貫通孔が形成された中子を準備する。この中子をピストン本体鋳造用の鋳造型の内部にセットして、鋳造型の内部に溶融したアルミニウム合金(溶湯)を流し込むことにより、ピストン本体20およびその内部の分散フレーム50を一体成形することが可能である。
【0063】
なお、粉粒体40をピストン本体20の空間部30内部に充填させる方法としては、例えば、あらかじめ中子のベース材料(水や塩など)に混ぜておき、鋳造後にベース材料をピストン本体20の外部に排出する方法が採用される、なお、ピストン本体20の鋳造後に空間部30内に粉粒体40を充填してもよい。
【0064】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のピストン1は、ピストン本体20の空間部30に粒子状の粉粒体40が充填された構成において、粉粒体40を分散する分散フレーム50を備えている。分散フレーム50は、ピストン1の往復動方向に対して交差する方向に延びる少なくとも1つ以上の梁部材(第1梁部材51および第2梁部材52)を備えている。このため、ピストン1の往復移動中では、粉粒体40が空間部30における往復動方向(上下方向)の端部、すなわち、空間部30の下部または上部に一時的に集まっても粉粒体40が上下方向に移動する途中で当該粉粒体40が分散フレーム50の梁部材に衝突することにより粉粒体40の分散を促進するとともに粉粒体40の移動方向を変えることが可能になる。これにより、粉粒体40の凝集を抑制するとともに粉粒体40間の摩擦を増幅させるので、ピストン1の振動抑制機能を効果的に発揮することが可能である。
【0065】
また、第1梁部材51および第2梁部材52がピストン本体20の空間部30の内壁を支持することにより、ピストン本体20の強度を上げることが可能になる。すなわち、第1梁部材51および第2梁部材52を含む分散フレーム50をピストン本体20の補強のための補強部材として活用することが可能である。
【0066】
(2)
本実施形態のピストン1では、
図6に示されるように、第1梁部材51および第2梁部材52は、平面視で互いに交差して延びるように配置されているので、第1梁部材51および第2梁部材52が空間部30の広範囲にわたって平面的に張り巡らされる。そのため、粉粒体40が往復動方向(上下方向)に移動する途中に第1梁部材51および第2梁部材52のうちのいずれかに確実に衝突して粉粒体40を分散させることが可能になり、減衰効果を確実に高めることが可能である。
【0067】
とくに
図6に示されるように平面視で広い空間部30であっても、上記のように第1梁部材51および第2梁部材52が広範囲にわたって平面的に張り巡らされているので、粉粒体40が確実に第1梁部材51および第2梁部材52に衝突して粉粒体40を分散させることが可能になる。
【0068】
(3)
本実施形態のピストン1では、
図6に示されるように、ピストン本体20は、往復動方向(上下方向)から見て空間部30と重なる位置(すなわち、空間部30よりも下方の位置)にエンジンEのコンロッド9と当該ピストン本体20とを結合するピストンピン6が挿入されるピンボス部28を備える。
【0069】
第1梁部材51および第2梁部材52が交差する交点54は、上下方向から見てピンボス部28と重なる位置、すなわち、ピンボス部28の上にある。
【0070】
空間部30におけるピンボス部28の上の位置では、空間部30の上下方向の幅が最も広くなり、それにより空間部30の底面が最も低くなるので、粉粒体40がたまりやすい。そこで、上記の構成では、梁部材の交点54がピンボス部28の上にあることにより、空間部30の底面における上下方向から見てピンボス部28と重なる位置で集まった粉粒体40を往復動方向に移動中に確実に交差する第1梁部材51および第2梁部材52に衝突させて粉粒体40を分散させることが可能である。
【0071】
(4)
本実施形態のピストン1では、
図5および
図6に示されるように、交差する第1梁部材51および第2梁部材52のうちの第1梁部材51は、ピンボス部28に沿って延びるので、空間部30の底面における往復動方向(上下方向)から見てピンボス部28と重なる位置で集まった粉粒体40を上下方向に移動中に確実にピンボス部28に沿って延びる第1梁部材51に衝突させて粉粒体40を分散させることが可能である。
【0072】
(5)
本実施形態のピストン1では、分散フレーム50は、
図3~7に示されるように、上下方向に延びる柱部材53をさらに備える。ピストン本体20の空間部30の部位では剛性が弱いが、上下方向に延びる柱部材53が空間部30の内壁を上下方向で支持することにより、ピストン本体20における空間部30の部位を補強することが可能である。
【0073】
また、本実施形態では、柱部材53は、ピンボス部28の上にあるので、ピストン本体20におけるピンボス部28上の位置の部位を効果的に補強することが可能である。さらに詳細にいえば、空間部30におけるピンボス部28の上の位置では、空間部30の底面が最も低くなり、空間部30の上下方向の寸法が大きくなっているので、ピストン本体20におけるピンボス部28上の位置における剛性が他の部分よりも相対的に弱い。そこで、上記のように、柱部材53をピンボス部28上に配置することにより、ピストン本体20の効果的な補強が可能になる。
【0074】
(6)
本実施形態のピストン1では、分散フレーム50は、
図7に示されるように、平面視において互いに直交して延びる第1梁部材51および第2梁部材52と、第1梁部材51および第2梁部材52の交点54を通って上下方向に延びる柱部材53とによって構成された面心立方構造である。
【0075】
かかる構成によれば、3本の棒状体、すなわち、2本の梁部材(すなわち第1梁部材51および第2梁部材52)および1本の柱部材53のみで粉粒体40の高い分散効果を得ることが可能である。しかも、第1梁部材51、第2梁部材52および柱部材53が1点で交差するので、分散フレーム50およびそれによって支持されるピストン本体20の強度が高くなる。
【0076】
また、この構成であれば、分散フレーム50が空間部30の内部で占める容積率を十分に下げながら高い減衰効果を得ることが可能である。
【0077】
(7)
本実施形態のピストン1では、粉粒体40の充填率は、空間部30の容積に占める体積割合として、35~50%である。この範囲であれば、粉粒体40が空間部30の内部を円滑に往復移動することができ、ピストン1の減衰効果が確実に発揮される。
【0078】
(8)
本実施形態のピストン1では、分散フレーム50が空間部30の内部で占める容積率は、15%以下(好ましくは6~6.8%)である。この範囲であれば、分散フレーム50の梁部材の本数や太さを減らしながら粉粒体40の効果的な分散をしてピストンの減衰効果を十分に発揮することが可能である。
【0079】
(変形例)
(A)
上記の実施形態では、本発明のピストン1の一例として、面心立方構造の分散フレーム50(すなわち、前後方向に延びる第1梁部材51、左右方向に延びる第2梁部材52、および上下方向に延びる柱部材53を備えた構成)を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の分散フレームは、往復動方向に対して交差する方向に延びる少なくとも1つ以上の梁部材を備えていれば種々の構成を採用することが可能である。
【0080】
本発明の変形例として、例えば、
図9に示されるように、分散フレーム60が往復動方向(上下方向)に交差する4本の梁部材61、62、63、64によって構成された体心立方構造であってもよい。
【0081】
4本の梁部材61、62、63、64は、立方体における中心BCを通る4本の対角線に沿って延び、すなわち、立方体の6つの角部P1~P8のうちの2点を結ぶように延びる。具体的には、第11梁部材61は、中心BCを通るとともに角部P1およびP8を結ぶ。第12梁部材62は、中心BCを通るとともに角部P2およびP7を結ぶ。第13梁部材63は、中心BCを通るとともに角部P3およびP6を結ぶ。第14梁部材64は、中心BCを通るとともに角部P4およびP5を結ぶ。
【0082】
このような体心立方構造の分散フレーム60では、4本の梁部材61~64で粉粒体40の高い分散効果を得ることが可能である。しかも、4本の梁部材61~64が1点で交差するので、分散フレーム60およびそれによって支持されるピストン本体20の強度が高くなる。
【0083】
また、この構成であれば、分散フレーム50が空間部30の内部で占める容積率を十分に下げながら高い減衰効果を得ることが可能である。
【0084】
なお、
図8に示される上記の面心立方構造の分散フレーム50の方が
図9に示される体心立方構造の分散フレーム60よりも少ない梁部材により粉粒体40と衝突して分散させて減衰効果が高いので、
図8に示される上記の面心立方構造の分散フレーム50を採用する方が好ましい。
【0085】
(B)
また、分散フレームの他の変形例として、柱部材を省略して、往復動方向に対して交差する方向に延びる梁部材のみの構成、例えば、前後方向に延びる第1梁部材51および左右方向に延びる第2梁部材52のうちのいずれか1つまたは両方を備えた構成であってもよい。または、往復動方向に交差する方向であって、前後方向または左右方向に対して傾斜する方向に延びる梁部材を備えた構成であってよい。さらに、1つの空間部30につき、複数の梁部材が多数の交点で交差する構成、例えば、マトリックス状に張り巡らされた多数の梁部材を備えた構成であってもよい。
【0086】
(C)
なお、上記の実施形態では、ピストンの往復動方向が上下方向と一致している例が示されているが、ピストンの往復動方向が上下方向と一致していない場合でもよい。例えば、往復動方向が上下方向に対して前後方向または左右方向に傾斜している場合、または往復動方向が水平方向と一致している場合であってもよい。その場合も、上記実施形態の作用効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 ピストン
2 シリンダ
6 ピストンピン
8 クランクシャフト
9 コンロッド(コネクティングロッド)
20 ピストン本体
28 ピンボス部
28a ピン孔
30 空間部
40 粉粒体
50、60 分散フレーム
51 第1梁部材
52 第2梁部材
53 柱部材
54 交点
60 分散フレーム
61 第11梁部材
62 第12梁部材
63 第13梁部材
64 第14梁部材