(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043851
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149057
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上松 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 香里
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131AA03
5F131CA17
5F131EB11
5F131EB25
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】板状部材とベース部材との接合強度を向上させることができる保持装置を提供すること。
【解決手段】保持面11と、保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備える板状部材10と、上面21と、上面21とは反対側に設けられる下面22とを備えるベース部材20と、下面12と上面21との間に配置されて板状部材10とベース部材20を接合する接合層30と、を有し、板状部材10の保持面11上に半導体ウエハWを保持する静電チャック1において、接合層30は、金属を主成分とする接合材32と、互いに連通する複数の孔を有する金属部材31とを備えており、金属部材31の孔の少なくとも一部に接合材32が入り込んでおり、金属部材31は、板状部材10とベース部材20との配列方向から見たときに、高密度領域R1と低密度領域R2とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、
前記第2の面と前記第3の面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材を接合する接合層と、を有し、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記接合層は、金属を主成分とする接合材と、互いに連通する複数の孔を有する金属部材とを備えており、
前記金属部材の孔の少なくとも一部に前記接合材が入り込んでおり、
前記金属部材は、前記板状部材と前記ベース部材との配列方向から見たときに、高密度領域と低密度領域とを有する
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記接合層は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、
前記高密度領域は、前記貫通孔の周囲に形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1に記載する保持装置において、
前記高密度領域は、前記接合層の中央部分に形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記接合層は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、
前記高密度領域は、前記貫通孔の周囲に形成される第1高密度領域と、前記接合層の中央部分に形成される第2高密度領域とを含み、
前記第1高密度領域は、前記第2高密度領域よりも前記金属部材の密度が高い
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1に記載する保持装置において、
前記金属部材の熱伝達率は、前記接合材の熱伝達率の1/4倍~3倍である
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を保持する保持装置として、保持部材(板状部材)と、ベース部材と、保持部材とベース部材とを接合する接合層を有するものが知られている。この種の保持装置には、表面張力が小さい金属が含まれる接合材を備える接合層を用いて、保持部材とベース部材とを接合しているものがある。例えば特許文献1に記載の静電チャック(保持装置)では、絶縁部材(板状部材)と基台(ベース部材)とを接合する接合層に、熱伝導率が高いメッシュ部材を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の保持装置において、板状部材とベース部材との間に熱膨張差があるため、温度が上昇/下降する際におけるそれぞれの寸法変形量が異なり、熱膨張/収縮時において径方向の寸法に差が生じてしまう。そのため、熱膨張/収縮時に両部材間で生じる径方向の寸法差が大きいと、熱膨張/収縮時に接合層が損傷するおそれがある。そして、上記の保持装置では、接合層にメッシュ部材を備えているため、メッシュ部材が熱膨張/収縮時における接合材の変形を阻害してしまうので、接合層が損傷し易いという問題があった。
【0005】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、接合材を含む接合層の損傷を防止しつつ、板状部材とベース部材との接合強度を向上させることができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面とを備える板状部材と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面とを備えるベース部材と、
前記第2の面と前記第3の面との間に配置されて前記板状部材と前記ベース部材を接合する接合層と、を有し、
前記板状部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記接合層は、金属を主成分とする接合材と、互いに連通する複数の孔を有する金属部材とを備えており、
前記金属部材の孔の少なくとも一部に前記接合材が入り込んでおり、
前記金属部材は、前記板状部材と前記ベース部材との配列方向から見たときに、高密度領域と低密度領域とを有することを特徴とする。
【0007】
このように、接合層に互いに連通する複数の孔を有する金属部材を設けることにより、金属部材の孔の少なくとも一部に金属を主成分とする接合材が入り込むため、接合層において、接合材が板状部材及びベース部材と接合層との接合界面の全域に広がりつつ、板状部材とベース部材との間から接合材が流れ出にくくなる。これにより、接合材が、接合層に保持されるため、板状部材とベース部材との接合強度の低下を抑制することができる。なお、接合材の主成分とは、接合材に含まれる成分のうち、接合材の全重量に対して50%以上の重量割合を示す成分を指す。
【0008】
ここで、金属部材には、密度が高い(気孔率が低い)高密度領域と、密度が低い(気孔率が高い)低密度領域とが形成されている。なお、高密度領域には、気孔率がゼロの場合も含む。そして、高密度領域においては、低密度領域よりも接合材を保持する(留める)ことができるとともに、接合材の厚みをばらつきなく一定にすることができる。高密度領域では厚みの変化が少なく、接合時の加熱・加圧による影響を受け難いからである。一方、低密度領域においては、接合材の変形を阻害しないようにすることができる。
【0009】
そのため、接合層において、熱膨張/収縮時に板状部材とベース部材との間に生じる寸法差が大きい領域に、金属部材の低密度領域を形成し、板状部材とベース部材との間から接合材を流出させたくない領域に、金属部材の高密度領域を形成することにより、熱膨張/収縮による接合層の損傷を防止しつつ、接合層の接合強度を向上させることができる。
【0010】
上記した保持装置において、
前記接合層は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、
前記高密度領域は、前記貫通孔の周囲に形成されていることが好ましい。
【0011】
これにより、高密度領域では接合材が保持されるため、貫通孔内への接合材の流れ込みを防止することができる。従って、貫通孔が端子孔の場合には、貫通孔への接合材の漏れ出しによる絶縁不良の発生を抑制することができる。貫通孔がリフトピン穴の場合には、貫通孔への接合材の漏れ出しによるリフトピンの動作不良の発生を抑制することができる。また、貫通孔が第1の面に不活性ガスを供給するガス穴の場合には、貫通孔への接合材の漏れ出しによる貫通孔の閉塞を抑制することができる。このように、保持装置における、絶縁不良や動作不良の発生、貫通孔の閉塞などを抑制することができるため、保持装置の機能喪失を抑制することができる。
【0012】
上記したいずれかの保持装置において、
前記高密度領域は、前記接合層の中央部分に形成されていることが好ましい。
【0013】
これにより、接合層の中央部分にて、中央部分の外側に位置する外周部分よりも金属部材の密度が高くなる。そのため、金属部材の密度が高められた中央部分では、板状部材とベース部材との間から接合材が流れ出にくくなるため、接合層の接合強度を向上させることができる。その一方、熱膨張/収縮時に、板状部材とベース部材との間で生じる径方向の寸法差が大きくなる外周部分では、金属部材の密度が低いため、接合材の変形を阻害しないようにすることができる。従って、熱膨張/収縮時における接合層の損傷を防止することができる。
【0014】
上記したいずれかの保持装置において、
前記接合層は、厚さ方向に貫通する貫通孔を有し、
前記高密度領域は、前記貫通孔の周囲に形成される第1高密度領域と、前記接合層の中央部分に形成される第2高密度領域とを含み、
前記第1高密度領域は、前記第2高密度領域よりも前記金属部材の密度が高いことが好ましい。
【0015】
このように、接合層の貫通孔周囲と中央部分に高密度領域が形成される場合には、金属部材の密度を中央部分より貫通孔周囲にて高くすることにより、接合層の接合強度を向上させつつ、接合層(接合材)の厚みを製品毎にばらつきなく一定にするとともに、貫通孔内への接合材の流れ込みを防止することができる。
【0016】
上記したいずれかの保持装置において、
前記金属部材の熱伝達率は、前記接合材の熱伝達率の1/4倍~3倍であることが好ましい。
【0017】
接合層全体における熱伝導は、金属部材と接合材の組み合わせによって決まる。そのため、金属部材の熱伝達率が、接合材の熱伝達率の1/4倍より小さくなると、接合層全体の熱伝導率が低くなってしまい、第1の面における均熱性が低下するおそれがある。
【0018】
その一方、多孔質体の熱伝達率が、接合材の熱伝達率の3倍より大きくなると、接合層における熱伝導のほとんどが金属部材を介して行われる。そのため、第1の面における温度分布に金属部材の形状が転写されて、第1の面における均熱性が低下するおそれがある。
【0019】
そこで、金属部材の熱伝達率を、接合材の熱伝達率の1/4倍~3倍にすることにより、接合層全体して適切な熱伝導率を確保することができるため、第1の面における温度分布を均一にすることができる。好ましくは、金属部材の熱伝達率を、接合材の熱伝達率の1~2倍にするとよい。これにより、接合層全体における熱伝導率を適切に高めることができるため、第1の面における温度分布の均熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、接合材を含む接合層の損傷を防止しつつ、板状部材とベース部材との接合強度を向上させることができる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
【
図2】第1実施形態の静電チャックの部分断面図である。
【
図5】金属部材と接合材の組み合わせ例を示す図である。
【
図6】第1実施形態における変形例を示す図である。
【
図7】第2実施形態における金属部材(接合層)を示す平面図である。
【
図8】第2実施形態における変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置など)やエッチング装置(プラズマエッチング装置など)といった半導体製造装置に使用される静電チャックを例示する。
【0023】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態の静電チャック1について、
図1~
図4を参照しながら説明する。本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。
図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層30とを有する。
【0024】
以下の説明においては、説明の便宜上、
図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(
図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。なお、Z軸方向は、本開示の「板状部材とベース部材と配列方向」や「厚さ方向」の一例である。
【0025】
板状部材10は、
図1に示すように、円形の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al
2O
3)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。
【0026】
また、板状部材10の直径は、例えば150~350mm程度である。板状部材10の厚さは、例えば1~6mm程度である。なお、板状部材10の熱伝導率は、10~200W/mKの範囲内が望ましい。
【0027】
図1、
図2に示すように、板状部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0028】
板状部材10の内部には、
図2に示すように、チャック電極40を備えている。チャック電極40は、Z軸方向視で、例えば略円形をなしており、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。そして、チャック電極40に対して図示しない外部電源から電力が供給されることによって、静電引力(吸着力)が発生し、この静電引力により半導体ウエハWが板状部材10の保持面11に吸着固定される。
【0029】
そして、板状部材10の下面12には、凹部13が形成されている。この凹部13には、図示しない外部電源からの電力をチャック電極40などの内部電極に供給する電極端子15の端部15aが配置されている。また、板状部材10には、貫通孔16,17が形成されている。貫通孔16は、Z軸方向に板状部材10を貫通しており、リフトピン18が挿入されている。貫通孔17は、保持面11に半導体ウエハWが保持されているときに、保持面11と半導体ウエハWとの間に供給される不活性ガス(例えばヘリウムガス)が流れるガス流路となる。
【0030】
ベース部材20は、
図1に示すように、上面21と、ベース部材20の厚さ方向(すなわち、Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22とを備え、円柱状に形成されている。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていることが好ましいが、金属以外であってもよい。
【0031】
ベース部材20の直径は、例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。なお、ベース部材20(アルミニウムを想定)の熱伝導率は、100~250W/mK(好ましくは、230W/mK程度)の範囲内が望ましい。
【0032】
このベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路(不図示)が形成されている。これにより、接合層30を介して板状部材10が冷却され、板状部材10に保持された半導体ウエハWが冷却されるようになっている。
【0033】
そして、ベース部材20には、貫通孔25,26,27が形成されている。貫通孔25,26,27のそれぞれは、
図2に示すように、Z軸方向にベース部材20を貫通している。貫通孔25には、電極端子15が挿通され、貫通孔26には、リフトピン18が挿入されており、貫通孔27は、不活性ガスを流すガス流路となっている。
【0034】
接合層30は、
図1に示すように、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層30を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。接合層30は、互いに連通する複数の孔を有する金属部材31と、金属を主成分とする接合材32とを備えている。
【0035】
金属部材31は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置されている。金属部材31は、略円形平面状のメッシュ部材であり、例えばモリブデン(Mo)からなる複数の線材を用いて網目を形成するように編まれている。これにより、金属部材31には、互いに連通する複数の孔が形成される。なお、金属部材31は、メッシュ部材に限定されず、ポーラス材や網目構造材であってもよい。金属部材31を形成する材料は、モリブデンに限定されず、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、これらの合金などから形成されてもよい。
【0036】
金属部材31(接合層30)には、厚さ方向(Z軸方向)に貫通する貫通孔35,36,37が形成されている。貫通孔35は、板状部材10の凹部13と、ベース部材20の貫通孔25とを連通している。貫通孔36は、板状部材10の貫通孔16と、ベース部材20の貫通孔26を連通している。貫通孔37は、板状部材10の貫通孔17と、ベース部材20の貫通孔27とを連通している。
【0037】
これにより、静電チャック1において、凹部13と貫通孔35,25貫通孔によって電極端子15が配置される端子孔が形成されている。また、貫通孔16,36,26によってリフトピン18が配置されるリフトピン孔が形成されている。また、貫通孔17,37,27によって不活性ガスを流すガス孔が形成されている。本実施形態における金属部材31(接合層30)には、例えば
図3に示すように、貫通孔35(端子孔の一部)が7個、貫通孔36(リフトピン孔の一部)が3個、貫通孔37(ガス孔の一部)が2個設けられている。
【0038】
そして、金属部材31には、
図3、
図4に示すように、高密度領域R1と低密度領域R2とが形成されている。高密度領域R1は、その他(高密度領域R1以外)の領域よりも密度が高い領域であり、低密度領域R2は、高密度領域R1よりも密度が低い領域である。本実施形態では、貫通孔35,36,37の周囲に高密度領域R1が形成され、それ以外に低密度領域R2が形成されている。つまり、金属部材31の大部分が低密度領域R2であり、貫通孔35,36,37の周囲が高密度領域R1となっている。なお、本実施形態では、高密度領域R1が例えば50メッシュのメッシュ部材で形成され、低密度領域R2が例えば20メッシュのメッシュ部材で形成されている。
図4では、1つの貫通孔36の周囲を例示しているが、他の貫通孔35,36,37の周囲の構造も
図4に示す構造と同じである。
【0039】
接合材32は、金属を主成分とする接合材である。接合材の主成分とは、接合材に含まれる成分のうち、接合材の全重量に対して50%以上の重量割合を示す成分を指す。接合材の主成分は、走査型電子顕微鏡(SEM)のエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いることで特定される。接合材32として、例えば、インジウム(In)、スズ(Sn)、金スズ(AuSn)、これらの合金などの金属を主成分とするものを使用することができる。このような接合材32は、接合層30において、金属部材31の板状部材10側とベース部材20側とのそれぞれに位置しており、金属部材31が有する複数の孔の少なくとも一部に入り込んでいる。なお、本実施形態では、接合材32の全重量に対するインジウムの重量割合は、100%である。
【0040】
そのため、接合層30において、接合材32が板状部材10及びベース部材20と接合層30との接合界面の全域に広がりつつ、板状部材10とベース部材20との間から接合材32が流れ出にくくなる。これにより、接合材32が、接合層30に保持されるため、板状部材10とベース部材20との接合強度の低下を抑制することができる。
【0041】
ここで、接合層30における熱伝導は、金属部材31と接合材32の組み合わせによって決まる。そのため、接合材32の熱伝導率が低い場合には、金属部材31の熱伝導率が高い方がよい。ところが、金属部材31の目開きが大きい(例えば3mm以上)、又はメッシュの線径が大きい(例えば3mm以上)場合、金属部材31の高密度領域R1と低密度領域R2において熱伝導率の差が大きくなり、保持面11における均熱性が低下するおそれがある。
【0042】
そのため、金属部材31の熱伝達率は、接合材32の熱伝達率の1/4倍~3倍(熱伝達率比25%~300%)であることが好ましい。このような熱伝達率比になるように、金属部材31と接合材32との組み合わせを選別するとよい。金属部材31の熱伝達率が、接合材32の熱伝達率の1/4倍より小さくなると、接合層30における熱伝導率が低くなってしまうため、保持面11における均熱性が低下するおそれがあるからである。その一方、金属部材31の熱伝達率が、接合材32の熱伝達率の3倍より大きくなると(例えば、接合材がインジウム(熱伝達率:82W/m・K)、金属部材が銀(熱伝達率:429W/m・K)の場合(熱伝達率比:523%))、接合層30における熱伝導のほとんどが金属部材31を介して行われるため、保持面11における温度分布に金属部材31の形状が転写されて、保持面11における均熱性が低下するおそれがあるからである。
【0043】
このように金属部材31の熱伝達率が、接合材32の熱伝達率の1/4倍~3倍(熱伝達率比25%~300%)の範囲、より好ましくは1倍~2倍の範囲となるように、金属部材31と接合材32との組み合わせを選別することにより、接合層30全体して適切な熱伝導率を確保することができるため、保持面11における温度分布を均一にすることができる。本実施形態では、金属部材31がモリブデン(熱伝達率:138W/m・K)、接合材32がインジウム(熱伝達率:82W/m・K)であるため、熱伝達率比が168%となっている。
【0044】
なお、金属部材31と接合材32の組み合わせは、モリブデンとインジウムに限られることはなく、例えば
図5に示すように、タングステンとインジウム、アルミニウムとインジウム、チタンとスズ、モリブデンとスズ、タングステンとスズ等であってもよい。このような組み合わせにすることにより、接合層30全体して適切な熱伝導率を確保することができるため、保持面11における温度分布を均一にすることができる。
【0045】
ここで、静電チャック1の使用時には、温度が上昇/下降する。そのため、板状部材10とベース部材20との熱膨張差によって、温度が上昇/下降する際、それぞれの寸法変形量が異なるため、熱膨張/収縮時において径方向の寸法に差が生じてしまう。そのため、熱膨張/収縮時に両部材間で生じる径方向の寸法差が大きいと、熱膨張/収縮時に接合層30が損傷するおそれがある。そして、接合層30に金属部材31を備えているため、金属部材31が、熱膨張/収縮時における接合材32の変形を阻害してしまうと、接合層30が損傷するおそれが高まる。
【0046】
そこで、本実施形態の静電チャック1では、金属部材31に高密度領域R1と低密度領域R2を設けている。すなわち、静電チャック1では、金属部材31の貫通孔35,36,37の周囲において密度を高めて高密度領域R1を形成している。この高密度領域R1では、低密度領域R2よりも接合材32を保持する(留める)ことができる。そのため、貫通孔35,36,37内への接合材32の流れ込みを抑制することができる。これにより、貫通孔35への接合材32の漏れ出しによる端子孔での絶縁不良の発生を抑制することができる。また、貫通孔36への接合材32の漏れ出しによるリフトピン18の動作不良の発生を抑制することができる。さらに、貫通孔37への接合材32の漏れ出しによるガス孔の閉塞を抑制することができる。従って、静電チャック1における、絶縁不良や動作不良の発生、貫通孔の閉塞などを抑制することができるため、静電チャック1の機能喪失を抑制することができる。
【0047】
ここで、金属部材31の貫通孔35,36,37の周囲における高密度領域R1として、50メッシュのメッシュ部材を例示したが、
図6に示すように、高密度領域R1をメッシュ部材でない(孔のない:気孔率ゼロ)金属体で形成することもできる。これにより、貫通孔35,36,37内への接合材32の流れ込みを確実に防止することができる。このような気孔率ゼロの高密度領域R1と20メッシュの低密度領域R2とを備える金属部材は、エッチングにより容易に製作することができる。
【0048】
また、高密度領域R1においては、金属部材31の厚みの変化が少なく、接合時の加熱・加圧による影響を受け難いため、接合材32(接合層30)の厚みをばらつきなく一定にすることができる。一方、低密度領域R2においては、接合材32の変形を阻害しないようにすることができる。
【0049】
そして、静電チャック1では、接合層30に形成された多数の貫通孔35,36,37の周囲に高密度領域R1が形成されているため、接合層30の厚みをばらつきなく一定にすることができ、接合層30における接合強度を向上させることができる。また、貫通孔35,36,37の周囲以外に低密度領域R2が形成されているため、使用時の熱膨張/収縮による接合層30の損傷を防止することができる。従って、本実施形態の静電チャック1によれば、熱膨張/収縮による接合層30の損傷を防止しつつ、接合層30の接合強度を向上させることができる。高密度領域R1の気孔率と、低密度領域R2の気孔率とは、20%以上の差があることが好ましい。
【0050】
さらに、静電チャック1では、金属部材31の熱伝達率が、接合材32の熱伝達率の1/4倍~3倍(熱伝達率比25%~300%)となるように、金属部材31と接合材32の組み合わせを決定している。これにより、接合層30全体して適切な熱伝導率を確保することができ、保持面11における温度分布を均一にすることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、金属部材31の貫通孔35,36,37の周囲に高密度領域R1が形成され、それ以外に低密度領域R2が形成されている。これにより、板状部材10とベース部材20との接合を、接合層30による高品質な金属接合で行うことができるため、熱膨張/収縮による接合層30の損傷を防止しつつ、接合層30の接合強度を向上させることができる。
【0052】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、第1実施形態と基本的な構成は同じであるが、金属部材31における高密度領域R1と低密度領域R2の形成領域が第1実施形態とは異なる。そこで、第1実施形態と同様の構成については同符号を付して説明を適宜省略し、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0053】
図7に示すように、第2実施形態の静電チャックでは、金属部材31(接合層30)の中央部分に高密度領域R1bが形成され、金属部材31(接合層30)の外周部分(高密度領域R1の外側)に低密度領域R2が形成されている。そして、貫通孔35,36,37の周囲に高密度領域R1aが形成されている。高密度領域R1aの構成はすべて同じであるため、
図7では、1つの貫通孔37の周辺を拡大して例示している。高密度領域R1aは、高密度領域R1bよりも密度が高い。本実施形態では、例えば、高密度領域R1aは金属体で形成し、高密度領域R1bは50メッシュのメッシュ部材で形成し、低密度領域R2は20メッシュのメッシュ部材で形成している。なお、高密度領域R1aは本開示の「第1高密度領域」の一例であり、高密度領域R1bは本開示の「第2高密度領域」の一例である。
【0054】
このように第2実施形態の静電チャックによれば、金属部材31(接合層30)の中央部分(高密度領域R1b)が外周部分(低密度領域R2)よりも密度が高くなっている。そのため、金属部材31の密度が高められた高密度領域R1bにて、接合層30の接合強度を向上させることができる。また、熱膨張/収縮時に、板状部材10とベース部材20との間で生じる径方向の寸法差が大きくなる外周部分に低密度領域R2が形成されているため、接合材32の変形を阻害しないようにすることができる。そのため、熱膨張/収縮時に接合層30が損傷することを防止することができる。
【0055】
そして、貫通孔35,36,37の周囲には最も密度が高い高密度領域R1aが形成されているため、貫通孔35,36,37内への接合材32の流れ込みを防止すことができる。また、多数の貫通孔35,36,37の周囲、及び中央部分に高密度領域R1a,R1bが形成されているため、接合時の加熱・加圧による影響を受け難く、接合材32の厚みをばらつきなく一定にすることができる。このような接合層30により、板状部材10とベース部材20とを、高品質な金属接合によって接合することができる。高密度領域R1aは、貫通孔35,36,37の外縁部から1mm~5mmの大きさで形成されるのが好ましい。
【0056】
ここで、上記の実施形態では、低密度領域R2における密度は一定である場合を例示したが、低密度領域R2において、外側に向かって密度を段階的又は連続的に小さくするように変化させてもよい。例えば
図8に示すように、低密度領域R2aを20メッシュのメッシュ部材で形成し、低密度領域R2aより外側の低密度領域R2bを10メッシュのメッシュ部材で形成することができる。これにより、熱膨張/収縮時に、板状部材10とベース部材20との間で生じる径方向の寸法差がより大きくなる外周部分で、接合材32の変形をより阻害しないようにすることができるため、熱膨張/収縮時における接合層30の損傷を防止することができる。
【0057】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、接合材32の全重量に対するインジウムの重量割合が100%の場合を例示したが、インジウムの重量割合はこれに限定されることはなく、接合材32の全重量に対する重量割合は50%以上であればよい。
【0058】
また、上記の実施形態では、低密度領域R2において密度を変化させる場合として、低密度領域R2における密度変化が2段階のものを例示したが、低密度領域R2における密度変化は、3段階以上であってもよい。また、低密度領域R2における密度変化は、段階的に変化させる場合に限られず、連続的に変化させることもできる。さらに、低密度領域R2b(接合層30の最外周部分)にメッシュ部材を設けずに、この領域を接合材32のみで構成することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
20 ベース部材
21 上面
22 下面
30 接合層
31 金属部材
32 接合材
35 貫通孔
36 貫通孔
37 貫通孔
R1 高密度領域
R1a 高密度領域
R1b 高密度領域
R2 低密度領域
W 半導体ウエハ