(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043855
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240326BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240326BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240326BHJP
B60L 58/13 20190101ALI20240326BHJP
B60L 58/18 20190101ALI20240326BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240326BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240326BHJP
B60L 9/18 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L7/14
B60L50/60
B60L58/13
B60L58/18
H02J7/00 P
H01M10/48 P
B60L9/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149062
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 大志
(72)【発明者】
【氏名】山崎 義暢
(72)【発明者】
【氏名】小栗 昌己
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】神 義幸
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章也
(72)【発明者】
【氏名】山田 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】荒木 拓海
(72)【発明者】
【氏名】三浦 駿太郎
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503AA07
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA17
5G503CB11
5G503DA08
5G503EA05
5G503FA06
5G503GB06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA05
5H125BB07
5H125BC08
5H125BC12
5H125BC28
5H125CA02
5H125CB02
5H125EE22
5H125EE27
(57)【要約】
【課題】前輪および後輪のモータ駆動を継続させる。
【解決手段】車両に設けられる車両用制御装置は、前輪に機械的に接続される第1走行用モータと、前記第1走行用モータに電気的に接続される第1蓄電体と、を備える前輪駆動系を有する。前記車両用制御装置は、後輪に機械的に接続される第2走行用モータと、前記第2走行用モータに電気的に接続される第2蓄電体と、を備える後輪駆動系を有する。前記車両用制御装置は、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記第1走行用モータおよび前記第2走行用モータを制御する制御システムを有する。前記制御システムは、前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が閾値を上回る場合に、前記第1走行用モータと前記第2走行用モータのトルク分配比を基準分配比から変化させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる車両用制御装置であって、
前輪に機械的に接続される第1走行用モータと、前記第1走行用モータに電気的に接続される第1蓄電体と、を備える前輪駆動系と、
後輪に機械的に接続される第2走行用モータと、前記第2走行用モータに電気的に接続される第2蓄電体と、を備える後輪駆動系と、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記第1走行用モータおよび前記第2走行用モータを制御する制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が閾値を上回る場合に、前記第1走行用モータと前記第2走行用モータのトルク分配比を基準分配比から変化させる、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が前記閾値を上回り、かつ前記第1蓄電体のSOCが前記第2蓄電体のSOCを上回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの力行トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも上げ、かつ前記第2走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも下げ、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が前記閾値を上回り、かつ前記第1蓄電体のSOCが前記第2蓄電体のSOCを下回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの力行トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも下げ、かつ前記第2走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも上げる、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が前記閾値を上回り、かつ前記第1蓄電体のSOCが前記第2蓄電体のSOCを上回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの回生トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも下げ、かつ前記第2走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも上げ、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が前記閾値を上回り、かつ前記第1蓄電体のSOCが前記第2蓄電体のSOCを下回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの回生トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも上げ、かつ前記第2走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも下げる、
車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用制御装置において、
前記第1蓄電体および前記第2蓄電体における下限SOCと上限SOCとの間は、複数の充放電範囲に区画されており、
前記制御システムは、
前記充放電範囲毎に前記第1蓄電体の充電電流を積算して第1積算充電量を算出し、
前記充放電範囲毎に前記第2蓄電体の充電電流を積算して第2積算充電量を算出し、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとが、互いに同一の前記充放電範囲である同一範囲に収まっている状況のもとで、
前記同一範囲における前記第1積算充電量と前記第2積算充電量との差分が充電量閾値を上回り、かつ前記同一範囲における前記第1積算充電量が前記第2積算充電量を上回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの回生トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも下げ、かつ前記第2走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも上げ、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとが、互いに同一の前記充放電範囲である前記同一範囲に収まっている状況のもとで、
前記同一範囲における前記第1積算充電量と前記第2積算充電量との差分が前記充電量閾値を上回り、かつ前記同一範囲における前記第1積算充電量が前記第2積算充電量を下回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの回生トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも上げ、かつ前記第2走行用モータの割当回生トルクを前記基準分配比に基づく割当回生トルクよりも下げる、
車両用制御装置。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の車両用制御装置において、
前記第1蓄電体および前記第2蓄電体における下限SOCと上限SOCとの間は、複数の充放電範囲に区画されており、
前記制御システムは、
前記充放電範囲毎に前記第1蓄電体の放電電流を積算して第1積算放電量を算出し、
前記充放電範囲毎に前記第2蓄電体の放電電流を積算して第2積算放電量を算出し、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとが、互いに同一の前記充放電範囲である同一範囲に収まっている状況のもとで、
前記同一範囲における前記第1積算放電量と前記第2積算放電量との差分が放電量閾値を上回り、かつ前記同一範囲における前記第1積算放電量が前記第2積算放電量を上回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの力行トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも下げ、かつ前記第2走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも上げ、
前記制御システムは、
前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとが、互いに同一の前記充放電範囲である前記同一範囲に収まっている状況のもとで、
前記同一範囲における前記第1積算放電量と前記第2積算放電量との差分が前記放電量閾値を上回り、かつ前記同一範囲における前記第1積算放電量が前記第2積算放電量を下回る場合に、
前記第1走行用モータと前記第2走行用モータの力行トルク分配比を前記基準分配比から変化させることにより、
前記第1走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも上げ、かつ前記第2走行用モータの割当力行トルクを前記基準分配比に基づく割当力行トルクよりも下げる、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車両として、前輪および後輪のそれぞれに駆動用の電動モータを備えた車両が開発されている(特許文献1~3参照)。このように、前輪および後輪に対して電動モータを設けることにより、前後輪のトルク分配比を自在に制御することができ、車両の走行性能を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-68680号公報
【特許文献2】特開2018-50388号公報
【特許文献3】国際公開第2020/184537号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前輪用の電動モータに対して前輪用のバッテリを接続するとともに、後輪用の電動モータに対して後輪用のバッテリを接続することが考えられている。このように、前輪用と後輪用とのバッテリを分けて搭載した場合には、前輪および後輪のモータ駆動を継続することが困難になる虞がある。つまり、前輪用または後輪用のバッテリの電力が先に枯渇した場合には、枯渇したバッテリによるモータ駆動を継続することが困難であった。前輪または後輪のモータ駆動を停止させることは、車両の走行性能を低下させる要因であるため、前輪および後輪のモータ駆動を継続させることが求められている。
【0005】
本発明の目的は、前輪および後輪のモータ駆動を継続させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態の車両用制御装置は、車両に設けられる車両用制御装置であって、前輪に機械的に接続される第1走行用モータと、前記第1走行用モータに電気的に接続される第1蓄電体と、を備える前輪駆動系と、後輪に機械的に接続される第2走行用モータと、前記第2走行用モータに電気的に接続される第2蓄電体と、を備える後輪駆動系と、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記第1走行用モータおよび前記第2走行用モータを制御する制御システムと、を有し、前記制御システムは、前記第1蓄電体のSOCと前記第2蓄電体のSOCとの差分が閾値を上回る場合に、前記第1走行用モータと前記第2走行用モータのトルク分配比を基準分配比から変化させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、制御システムは、第1蓄電体のSOCと第2蓄電体のSOCとの差分が閾値を上回る場合に、第1走行用モータと第2走行用モータのトルク分配比を基準分配比から変化させる。これにより、前輪および後輪のモータ駆動を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態である車両用制御装置が設けられた車両の構成例を示す図である。
【
図3】各制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
【
図4】パッシブ制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】パッシブ制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】パッシブ制御が実行されるタイミングの一例を示す図である。
【
図7】パッシブ制御において変更される力行トルク分配比および回生トルク分配比の一例を示す図である。
【
図8】パッシブ制御の実行前後におけるSOCfおよびSOCrの変化の一例を示す図である。
【
図9】バッテリモジュールの劣化特性の一例を示す図である。
【
図10】条件判定制御1の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】条件判定制御1の実行状況の一例を示す図である。
【
図12】条件判定制御2の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】条件判定制御2の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図14】条件判定制御2の実行状況の一例を示す図である。
【
図15】条件判定制御2の実行状況の一例を示す図である。
【
図16】アクティブ制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図17】アクティブ制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図18】アクティブ制御の実行前後における積算充電量および積算放電量の変化の一例を示す図である。
【
図19】充電電流や放電電流を補正する補正係数の一例を示す図である。
【
図20】充電電流の積算状況および放電電流の積算状況の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両]
図1は本発明の一実施形態である車両用制御装置10が設けられた車両11の構成例を示す図である。
図1に示すように、車両11には、前輪20を駆動するフロントアクスル21が設けられており、後輪40を駆動するリアアクスル41が設けられている。電動モータが組み込まれるフロントアクスル21には、フロントインバータ22を介してフロントバッテリパック23が接続されている。これらのフロントアクスル21、フロントインバータ22およびフロントバッテリパック23によって、前輪20を駆動する前輪駆動系30が構成されている。同様に、電動モータが組み込まれるリアアクスル41には、リアインバータ42を介してリアバッテリパック43が接続されている。これらのリアアクスル41、リアインバータ42およびリアバッテリパック43によって、後輪40を駆動する後輪駆動系50が構成されている。
【0011】
[前輪駆動系]
図2は車両用制御装置10の一例を示す図である。
図2に示すように、前輪駆動系30のフロントアクスル21には、フロントモータ(第1走行用モータ)31およびフロントデファレンシャル32が設けられている。フロントモータ31のロータ31rには、ギア列33を介してフロントデファレンシャル32が接続されている。また、フロントデファレンシャル32から車軸34が延びており、この車軸34には前輪20が接続されている。このように、前輪駆動系30のフロントモータ31には、前輪20が機械的に接続されている。
【0012】
また、フロントモータ31のステータ31sにはフロントインバータ22が接続されており、フロントインバータ22にはフロントバッテリパック23が接続されている。フロントバッテリパック23には、複数のバッテリセルからなるバッテリモジュール(第1蓄電体)35が設けられている。このように、前輪駆動系30のバッテリモジュール35には、電動モータであるフロントモータ31が電気的に接続されている。なお、図示するバッテリモジュール35は、リチウムイオンバッテリである。
【0013】
フロントバッテリパック23には、バッテリモジュール35の充放電を監視するフロントバッテリ制御ユニット36が設けられるとともに、充放電電流や端子電圧等を検出するバッテリセンサ37が設けられている。フロントバッテリ制御ユニット36は、バッテリセンサ37によって検出される充放電電流や端子電圧等に基づき、バッテリモジュール35の充電状態であるSOC(State of Charge)を算出する。なお、バッテリモジュール35のSOCとは、バッテリモジュール35に蓄えられる電気残量を示す比率であり、バッテリモジュール35の満充電容量に対する蓄電量の比率である。以下の説明では、フロントバッテリパック23に設けられるバッテリモジュール35のSOCを「SOCf」と記載する。
【0014】
フロントバッテリ制御ユニット36は、バッテリセンサ37によって検出される充放電電流に基づいて、バッテリモジュール35の積算充電量Icfおよび積算放電量Idfを算出する。つまり、フロントバッテリ制御ユニット36は、バッテリモジュール35の充電電流を積算することにより、バッテリモジュール35の積算充電量Icfを算出する。また、フロントバッテリ制御ユニット36は、バッテリモジュール35の放電電流を積算することにより、バッテリモジュール35の積算放電量Idfを算出する。
【0015】
後述するように、バッテリモジュール35,45には3つの充放電レンジR1~R3が設定されており、フロントバッテリ制御ユニット36は、充放電レンジR1~R3毎に積算充電量(第1積算充電量)Icfおよび積算放電量(第1積算放電量)Idfを算出する。また、積算充電量Icfとは、工場出荷時からの充電電流を積算することで得られる充電量、つまりバッテリモジュール35,45の新品状態からの充電電流を積算することで得られる充電量[Ah]である。同様に、積算放電量Idfとは、工場出荷時からの放電電流を積算することで得られる放電量、つまりバッテリモジュール35,45の新品状態からの放電電流を積算することで得られる放電量[Ah]である。
【0016】
また、フロントモータ31を制御するため、フロントインバータ22にはフロントモータ制御ユニット38が接続されている。フロントモータ制御ユニット38は、複数のスイッチング素子等からなるフロントインバータ22を制御することにより、ステータ31sの通電状態を制御してフロントモータ31のモータトルク(力行トルク,回生トルク)を制御する。フロントモータ31を力行状態に制御する際には、バッテリモジュール35からフロントモータ31に電力が供給される。一方、フロントモータ31を回生状態つまり発電状態に制御する際には、フロントモータ31からバッテリモジュール35に電力が供給される。
【0017】
[後輪駆動系]
図2に示すように、後輪駆動系50のリアアクスル41には、リアモータ(第2走行用モータ)51およびリアデファレンシャル52が設けられている。リアモータ51のロータ51rには、ギア列53を介してリアデファレンシャル52が接続されている。また、リアデファレンシャル52から車軸54が延びており、この車軸54には後輪40が接続されている。このように、後輪駆動系50のリアモータ51には、後輪40が機械的に接続されている。
【0018】
また、リアモータ51のステータ51sにはリアインバータ42が接続されており、リアインバータ42にはリアバッテリパック43が接続されている。リアバッテリパック43には、複数のバッテリセルからなるバッテリモジュール(第2蓄電体)45が設けられている。このように、後輪駆動系50のバッテリモジュール45には、電動モータであるリアモータ51が電気的に接続されている。なお、図示するバッテリモジュール45は、リチウムイオンバッテリである。
【0019】
リアバッテリパック43には、バッテリモジュール45の充放電を監視するリアバッテリ制御ユニット56が設けられるとともに、充放電電流や端子電圧等を検出するバッテリセンサ57が設けられている。リアバッテリ制御ユニット56は、バッテリセンサ57によって検出される充放電電流や端子電圧等に基づき、バッテリモジュール45の充電状態であるSOCを算出する。なお、バッテリモジュール45のSOCとは、バッテリモジュール45に蓄えられる電気残量を示す比率であり、バッテリモジュール45の満充電容量に対する蓄電量の比率である。以下の説明では、リアバッテリパック43に設けられるバッテリモジュール45のSOCを「SOCr」と記載する。
【0020】
リアバッテリ制御ユニット56は、バッテリセンサ57によって検出される充放電電流に基づいて、バッテリモジュール45の積算充電量Icrおよび積算放電量Idrを算出する。つまり、リアバッテリ制御ユニット56は、バッテリモジュール45の充電電流を積算することにより、バッテリモジュール45の積算充電量Icrを算出する。また、リアバッテリ制御ユニット56は、バッテリモジュール45の放電電流を積算することにより、バッテリモジュール45の積算放電量Idrを算出する。
【0021】
後述するように、バッテリモジュール45には3つの充放電レンジR1~R3が設定されており、リアバッテリ制御ユニット56は、充放電レンジR1~R3毎に積算充電量(第2積算充電量)Icrおよび積算放電量(第2積算放電量)Idrを算出する。また、積算充電量Icrとは、工場出荷時からの充電電流を積算することで得られる充電量、つまりバッテリモジュール45の新品状態からの充電電流を積算することで得られる充電量[Ah]である。同様に、積算放電量Idrとは、工場出荷時からの放電電流を積算することで得られる放電量、つまりバッテリモジュール45の新品状態からの放電電流を積算することで得られる放電量[Ah]である。
【0022】
また、リアモータ51を制御するため、リアインバータ42にはリアモータ制御ユニット58が接続されている。リアモータ制御ユニット58は、複数のスイッチング素子等からなるリアインバータ42を制御することにより、ステータ51sの通電状態を制御してリアモータ51のモータトルク(力行トルク,回生トルク)を制御する。リアモータ51を力行状態に制御する際には、バッテリモジュール45からリアモータ51に電力が供給される。一方、リアモータ51を回生状態つまり発電状態に制御する際には、リアモータ51からバッテリモジュール45に電力が供給される。
【0023】
なお、フロントバッテリパック23およびリアバッテリパック43には、図示しない外部電源を用いて各バッテリモジュール35,45を充電するための車載充電器59が接続されている。
【0024】
[制御システム]
図2に示すように、車両用制御装置10には、前輪駆動系30および後輪駆動系50を制御するため、複数の電子制御ユニットからなる制御システム60が設けられている。制御システム60を構成する電子制御ユニットとして、前述したフロントバッテリ制御ユニット36、フロントモータ制御ユニット38、リアバッテリ制御ユニット56およびリアモータ制御ユニット58が設けられている。また、制御システム60を構成する電子制御ユニットとして、前述した制御ユニット36,38,56,58に制御信号を出力する車両制御ユニット61が設けられている。
【0025】
制御システム60を構成する各制御ユニット36,38,56,58,61は、CAN等の車載ネットワーク62を介して互いに通信可能に接続されている。車両制御ユニット61は、各種制御ユニットや後述する各種センサからの入力情報に基づき、フロントモータ31やリアモータ51等の作動目標を設定する。そして、フロントモータ31やリアモータ51等の作動目標に応じた制御信号を生成し、これらの制御信号をフロントモータ制御ユニット38やリアモータ制御ユニット58に出力する。
【0026】
車両制御ユニット61に接続されるセンサとして、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ63、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルセンサ64、およびブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキセンサ65等がある。また、車両制御ユニット61には、制御システム60を起動する際に運転者によって操作されるスタートスイッチ66が接続されている。
【0027】
図3は各制御ユニット36,38,56,58,61の基本構造の一例を示す図である。
図3に示すように、電子制御ユニットである制御ユニットは、プロセッサ70およびメインメモリ(メモリ)71等が組み込まれたマイクロコントローラ72を有している。メインメモリ71には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ70によってプログラムが実行される。プロセッサ70とメインメモリ71とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ72に複数のプロセッサ70を組み込んでも良く、マイクロコントローラ72に複数のメインメモリ71を組み込んでも良い。
【0028】
また、制御ユニットには、入力回路73、駆動回路74、通信回路75、外部メモリ76および電源回路77等が設けられている。入力回路73は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ72に入力可能な信号に変換する。駆動回路74は、マイクロコントローラ72から出力される信号に基づき、前述したインバータ22,42等の各種デバイスに対する駆動信号を生成する。通信回路75は、マイクロコントローラ72から出力される信号を、他の制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路75は、他の制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ72に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路77は、マイクロコントローラ72、入力回路73、駆動回路74、通信回路75および外部メモリ76等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ76には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0029】
[パッシブ制御]
続いて、バッテリモジュール35のSOCfとSOCrとを互いに近づけるためのSOC均等化制御であるパッシブ制御について説明する。
図4および
図5はパッシブ制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図4および
図5に示すフローチャートは、符号A,B,Cの箇所で互いに接続されている。また、
図4および
図5に示されるパッシブ制御の各ステップには、制御システム60を構成するプロセッサ70によって実行される処理が示されている。さらに、
図4および
図5に示されるパッシブ制御は、制御システム60が起動された後に、制御システム60によって所定周期毎に実行される制御である。
【0030】
図4に示すように、ステップS10では、バッテリモジュール35のSOCfおよびバッテリモジュール45のSOCrが読み込まれる。続くステップS11では、SOCfからSOCrが減算され、SOCの差分であるΔSOCが算出される。続いて、ステップS12では、ΔSOCの絶対値が所定の開始閾値(閾値)αを上回るか否かが判定される。ステップS12において、ΔSOCの絶対値が開始閾値αを上回ると判定された場合、つまりSOCfとSOCrとが乖離した状況であると判定された場合には、ステップS13に進み、パッシブ制御の実行を意味するパッシブ制御フラグFp1が設定される(Fp1=1)。
【0031】
続くステップS14では、SOCfがSOCrを上回るか否かが判定される。ステップS14において、SOCfがSOCrを上回ると判定された場合には、フロント側のバッテリモジュール35のSOCfが過度に高い状況であることから、ステップS15に進み、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比が所定の基準分配比から変更される。つまり、フロント側のバッテリモジュール35の放電を促してSOCfを低下させるとともに、リア側のバッテリモジュール45の充電を促してSOCrを上昇させるように、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比が基準分配比から変更される。
【0032】
ここで、基準分配比とは、車種毎に予め設定されるフロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比である。例えば、前後の基準分配比が「50:50」に設定されている場合には、アクセル操作等に基づく要求駆動力から目標モータトルクを設定する際に、フロントモータ31とリアモータ51とのモータトルクが同じ値になるように制御される。また、例えば、前後の基準分配比が後輪偏重の「40:60」に設定されている場合には、アクセル操作等に基づく要求駆動力から目標モータトルクを設定する際に、フロントモータ31よりもリアモータ51のモータトルクが20%だけ大きくなるように制御される。また、例えば、前後の基準分配比が前輪偏重の「60:40」に設定されている場合には、アクセル操作等に基づく要求駆動力から目標モータトルクを設定する際に、リアモータ51よりもフロントモータ31のモータトルクが20%だけ大きくなるように制御される。なお、基準分配比は、固定されたトルク分配比であっても良く、走行状況に応じて変化するトルク分配比であっても良い。また、力行トルクに関する基準分配比と、回生トルクに関する基準分配比とは、互いに一致する分配比であっても良く、互いに相違する分配比であっても良い。
【0033】
ステップS15においては、フロント側のバッテリモジュール35の放電を促してSOCfを低下させるように、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比を基準分配比から変化させる。つまり、力行トルク分配比については前輪偏重に変化させることにより、フロントモータ31の割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクよりも増加させる一方、リアモータ51の割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクよりも減少させる。これにより、フロント側のバッテリモジュール35の放電を促してSOCfの低下を促進させるとともに、リア側のバッテリモジュール45の放電を抑えてSOCrの低下を抑制することができる。すなわち、SOCfとSOCrとが互いに接近するように、加速走行や定常走行におけるフロントモータ31およびリアモータ51の力行状態が制御される。なお、フロントモータ31の割当力行トルクとは、フロントモータ31に割り当てられる力行トルクの目標値、つまりフロントモータ31に割り当てられる目標力行トルクである。同様に、リアモータ51の割当力行トルクとは、リアモータ51に割り当てられる力行トルクの目標値、つまりリアモータ51に割り当てられる目標力行トルクである。
【0034】
また、ステップS15においては、リア側のバッテリモジュール45の充電を促してSOCrを上昇させるように、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比を基準分配比から変化させる。つまり、回生トルク分配比については後輪偏重に変化させることにより、フロントモータ31の割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクよりも減少させる一方、リアモータ51の割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクよりも増加させる。これにより、フロント側のバッテリモジュール35の充電を抑えてSOCfの増加を抑制するとともに、リア側のバッテリモジュール45の充電を促してSOCrの増加を促進させることができる。すなわち、SOCfとSOCrとが互いに接近するように、減速走行におけるフロントモータ31およびリアモータ51の回生状態が制御される。なお、フロントモータ31の割当回生トルクとは、フロントモータ31に割り当てられる回生トルクの目標値、つまりフロントモータ31に割り当てられる目標回生トルクである。同様に、リアモータ51の割当回生トルクとは、リアモータ51に割り当てられる回生トルクの目標値、つまりリアモータ51に割り当てられる目標回生トルクである。
【0035】
一方、ステップS14において、SOCfがSOCrを下回ると判定された場合には、リア側のバッテリモジュール45のSOCrが過度に高い状況であることから、ステップS16に進み、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比が所定の基準分配比から変更される。つまり、フロント側のバッテリモジュール35の充電を促してSOCfを上昇させるとともに、リア側のバッテリモジュール45の放電を促してSOCrを低下させるように、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比が基準分配比から変更される。
【0036】
ステップS16においては、リア側のバッテリモジュール45の放電を促してSOCrを低下させるように、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比を基準分配比から変化させる。つまり、力行トルク分配比については後輪偏重に変化させることにより、フロントモータ31の割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクよりも減少させる一方、リアモータ51の割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクよりも増加させる。これにより、フロント側のバッテリモジュール35の放電を抑えてSOCfの低下を抑制するとともに、リア側のバッテリモジュール45の放電を促してSOCrの低下を促進させることができる。すなわち、SOCfとSOCrとが互いに接近するように、加速走行や定常走行におけるフロントモータ31およびリアモータ51の力行状態が制御される。
【0037】
また、ステップS16においては、フロント側のバッテリモジュール35の充電を促してSOCfを上昇させるように、フロントモータ31およびリアモータ51のトルク分配比を基準分配比から変化させる。つまり、回生トルク分配比については前輪偏重に変化させることにより、フロントモータ31の割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクよりも増加させる一方、リアモータ51の割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクよりも減少させる。これにより、フロント側のバッテリモジュール35の充電を促してSOCfの増加を促進させるとともに、リア側のバッテリモジュール45の充電を抑えてSOCrの増加を抑制することができる。すなわち、SOCfとSOCrとが互いに接近するように、減速走行におけるフロントモータ31およびリアモータ51の回生状態が制御される。
【0038】
次いで、
図5に示すように、ステップS17では、SOCfおよびSOCrが読み込まれ、ステップS18では、SOCfからSOCrを減算することでΔSOCが算出される。続くステップS19では、ΔSOCの絶対値が開始閾値αよりも小さな終了閾値γを下回るか否かが判定される。ステップS19において、ΔSOCの絶対値が終了閾値γを下回ると判定された場合、つまりΔSOCが解消されたと判定された場合には、ステップS20に進み、力行トルクや回生トルクのトルク分配比が基準分配比に戻され、ステップS21に進み、パッシブ制御フラグFp1が解除される(Fp1=0)。
【0039】
ここで、
図6はパッシブ制御が実行されるタイミングの一例を示す図である。また、
図7はパッシブ制御において変更される力行トルク分配比および回生トルク分配比の一例を示す図である。さらに、
図8はパッシブ制御の実行前後におけるSOCfおよびSOCrの変化の一例を示す図である。なお、
図7において、「Taf,Tafx」はフロントモータ31の割当力行トルクであり、「Tar,Tarx」はリアモータ51の割当力行トルクであり、「Tbf,Tbfx」はフロントモータ31の割当回生トルクであり、「Tbr,Tbrx」はリアモータ51の割当回生トルクである。
【0040】
図6に時刻t1で示すように、SOCfとSOCrとの差分であるΔSOCが開始閾値αを上回ると(符号a1)、パッシブ制御フラグFp1が設定されてパッシブ制御が開始される(符号b1)。そして、トルク分配比を基準分配比から変化させることでΔSOCを徐々に減少させ、時刻t2で示すように、ΔSOCが終了閾値γを下回ると(符号a2)、パッシブ制御フラグFp1が解除されてパッシブ制御が終了する(符号b2)。つまり、パッシブ制御によって変更されていたトルク分配比が基準分配比に戻される。
【0041】
また、
図7に矢印x1f,x1rで示すように、パッシブ制御においてSOCfがSOCrを上回る場合には、フロントモータ31の割当力行トルクTafが基準分配比に基づく割当力行トルクTafxよりも上げられ(矢印x1f)、リアモータ51の割当力行トルクTarが基準分配比に基づく割当力行トルクTarxよりも下げられる(矢印x1r)。これにより、フロント側のバッテリモジュール35の放電を促してSOCfの低下を促進させるとともに、リア側のバッテリモジュール45の放電を抑えてSOCrの低下を抑制することができるため、
図8に示すように、SOCfとSOCrとを互いに近づけることができる。
【0042】
一方、
図7に矢印x2f,x2rで示すように、パッシブ制御においてSOCfがSOCrを下回る場合には、フロントモータ31の割当力行トルクTafが基準分配比に基づく割当力行トルクTafxよりも下げられ(矢印x2f)、リアモータ51の割当力行トルクTarが基準分配比に基づく割当力行トルクTarxよりも上げられる(矢印x2r)。これにより、フロント側のバッテリモジュール35の放電を抑えてSOCfの低下を抑制するとともに、リア側のバッテリモジュール45の放電を促してSOCrの低下を促進させることができるため、
図8に示すように、SOCfとSOCrとを互いに近づけることができる。
【0043】
また、
図7に矢印x3f,x3rで示すように、パッシブ制御においてSOCfがSOCrを上回る場合には、フロントモータ31の割当回生トルクTbfが基準分配比に基づく割当回生トルクTbfxよりも下げられ(矢印x3f)、リアモータ51の割当回生トルクTbrが基準分配比に基づく割当回生トルクTbrxよりも上げられる(矢印x3r)。これにより、フロント側のバッテリモジュール35に対する充電を抑えてSOCfの上昇を抑制するとともに、リア側のバッテリモジュール45に対する充電を促してSOCrの上昇を促進させることができるため、
図8に示すように、SOCfとSOCrとを互いに近づけることができる。
【0044】
一方、
図7に矢印x4f,x4rで示すように、パッシブ制御においてSOCfがSOCrを下回る場合には、フロントモータ31の割当回生トルクTbfが基準分配比に基づく割当回生トルクTbfxよりも上げられ(矢印x4f)、リアモータ51の割当回生トルクTbrが基準分配比に基づく割当回生トルクTbrxよりも下げられる(矢印x4r)。これにより、フロント側のバッテリモジュール35に対する充電を促してSOCfの上昇を促進させるとともに、リア側のバッテリモジュール45に対する充電を抑えてSOCrの上昇を抑制することができるため、
図8に示すように、SOCfとSOCrとを互いに近づけることができる。
【0045】
これまで説明したように、パッシブ制御を実行することにより、フロント側のバッテリモジュール35のSOCfと、リア側のバッテリモジュール45のSOCrとを、互いに近づけることができる。これにより、車両11走行時にはSOCfとSOCrとをほぼ均等に減らすことができ、長時間に亘って前輪20および後輪40のモータ駆動を継続することができる。つまり、SOCfとSOCrとの一方だけを過度に低下させることがなく、長時間に亘って前輪20および後輪40のモータ駆動を継続することができる。
【0046】
[バッテリモジュールの劣化特性]
前述したように、図示するバッテリモジュール35,45は、充放電に伴ってリチウムイオンを正負極間で移動させるリチウムイオンバッテリである。また、バッテリモジュール35,45には、正極活物質としてリチウム含有酸化物が用いられており、負極活物質として層状構造を有するグラファイトやシリコンが用いられている。
【0047】
図9はバッテリモジュール35,45の劣化特性の一例を示す図である。
図9にはバッテリモジュール35,45のdV/dQ曲線が示されている。dV/dQ曲線は、バッテリモジュール35,45の放電曲線における電圧Vを、容量Qで微分することによって得られる曲線である。
図9に示すように、充放電時の膨張収縮によって負極活物質内の層状構造が大きく変化する容量を、dV/dQ曲線のピークP1,P2として検出することが可能である。つまり、ピークP1,P2およびその近傍での充放電は、他の領域での充放電に比べて、バッテリモジュール35,45を劣化させる要因となっていた。このように、バッテリモジュール35,45は、充放電が行われる容量毎に異なる劣化特性を有している。
【0048】
図9に示すように、バッテリモジュール35,45には、容量に関する4つの境界値S1~S4が設定されている。また、バッテリモジュール35,45には、境界値(上限SOC)S1と境界値(下限SOC)S4との間に、3つの充放電レンジ(充放電範囲)R1~R3が設定されている。つまり、バッテリモジュール35,45には、境界値S1,S2によって区画される充放電レンジR1と、境界値S2,S3によって区画される充放電レンジR2と、境界値S3,S4によって区画される充放電レンジR3と、が設定されている。なお、境界値S1とは、SOCが100%として算出されるときの容量、つまりバッテリモジュール35,45を充電する際の上限容量である。また、境界値S4とは、SOCが0%として算出されるときの容量、つまりバッテリモジュール35,45を放電させる際の下限容量である。
【0049】
図9に示すように、充放電レンジR1には、dV/dQ曲線のピークP1が含まれており、充放電レンジR3には、dV/dQ曲線のピークP2が含まれている。つまり、充放電量が同一であったとしても、充放電レンジR2での充放電に比べて、充放電レンジR1,R3での充放電は、バッテリモジュール35,45を劣化させる要因である。このように、バッテリモジュール35,45は、充放電レンジR1~R3毎に異なる劣化特性を有している。そこで、制御システム60は、充放電レンジR1~R3毎に充放電量を制御することにより、各バッテリモジュール35,45をほぼ均等に劣化させるアクティブ制御を実行する。
【0050】
[条件判定制御1(アクティブ制御)]
以下、アクティブ制御の実行条件を判定する条件判定制御1,2を説明した後に、バッテリモジュール35,45をほぼ均等に劣化させるための劣化均等化制御であるアクティブ制御について説明する。
図10は条件判定制御1の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図11は条件判定制御1の実行状況の一例を示す図である。なお、
図10に示される条件判定制御1の各ステップには、制御システム60を構成するプロセッサ70によって実行される処理が示されている。また、
図10に示される条件判定制御1は、制御システム60が起動された後に、制御システム60によって所定周期毎に実行される制御である。
【0051】
図10に示すように、ステップS30では、バッテリモジュール35,45のSOCfおよびSOCrが読み込まれる。ステップS31では、フロント側のバッテリモジュール35のSOCfに基づいて、バッテリモジュール35の現在の充放電レンジR1~R3が判定される。また、ステップS32では、リア側のバッテリモジュール45のSOCrに基づいて、バッテリモジュール45の現在の充放電レンジR1~R3が判定される。
【0052】
ステップS32では、バッテリモジュール35とバッテリモジュール45との充放電レンジR1~R3が互いに同一であるか否かが判定される。つまり、バッテリモジュール35,45のSOCfとSOCrとが、互いに同一の充放電レンジ(同一範囲)に収まっているか否かが判定される。ステップS33において、充放電レンジが互いに一致していると判定された場合には、ステップS34に進み、第1判定フラグFa1が設定される(Fa1=1)。一方、ステップS33において、充放電レンジが互いに一致していないと判定された場合には、ステップS35に進み、第1判定フラグFa1が解除される(Fa1=0)。
【0053】
つまり、
図11に時刻t2で示すように、SOCfが充放電レンジR1内で推移している状態のもとで、SOCrが低下して充放電レンジR1から充放電レンジR2に移った場合には(符号a1)、充放電レンジR1,R2が異なることから第1判定フラグFa1が解除される(符号b1)。また、時刻t4で示すように、SOCrが充放電レンジR2内で推移している状態のもとで、SOCfが低下して充放電レンジR1から充放電レンジR2に移った場合には(符号a2)、充放電レンジR2が一致することから第1判定フラグFa1が設定される(符号b2)。また、時刻t5で示すように、SOCrが充放電レンジR2内で推移している状態のもとで、SOCfが低下して充放電レンジR2から充放電レンジR3に移った場合には(符号a3)、充放電レンジR2,R3が異なることから第1判定フラグFa1が解除される(符号b3)。また、時刻t6で示すように、SOCfが充放電レンジR3内で推移している状態のもとで、SOCrが低下して充放電レンジR2から充放電レンジR3に移った場合には(符号a4)、充放電レンジR3が一致することから第1判定フラグFa1が設定される(符号b4)。
【0054】
また、
図10のフローチャートに示すように、ステップS36では、SOCfからSOCrが減算され、SOCの差分であるΔSOCが算出される。次いで、ステップS37では、ΔSOCの絶対値が所定の開始閾値βを下回るか否かが判定される。ステップS37において、ΔSOCの絶対値が開始閾値βを下回ると判定された場合、つまりSOCfとSOCrとが互いに接近している状況である場合には、ステップS38に進み、第2判定フラグFa2が設定される(Fa2=1)。一方、ステップS37において、ΔSOCの絶対値が開始閾値β以上であると判定された場合、つまりSOCfとSOCrとが互いに離れている状況である場合には、ステップS39に進み、第2判定フラグFa2が解除される(Fa2=0)。
【0055】
つまり、
図11に時刻t1で示すように、ΔSOCの絶対値が開始閾値β以上になる場合には(符号c1)、第2判定フラグFa2が解除される(符号d1)。また、時刻t3で示すように、ΔSOCの絶対値が開始閾値βを下回る場合には(符号c2)、第2判定フラグFa2が設定される(符号d2)。
【0056】
[条件判定制御2(アクティブ制御)]
続いて、アクティブ制御の実行条件を判定する条件判定制御2について説明する。
図12および
図13は条件判定制御2の実行手順の一例を示すフローチャートであり、
図14および
図15は条件判定制御2の実行状況の一例を示す図である。なお、
図12および
図13に示すフローチャートは、符号Dの箇所で互いに接続されている。また、
図12および
図13に示される条件判定制御2の各ステップには、制御システム60を構成するプロセッサ70によって実行される処理が示されている。さらに、
図12および
図13に示される条件判定制御2は、制御システム60が起動された後に、制御システム60によって所定周期毎に実行される制御である。
【0057】
前述したように、フロントバッテリ制御ユニット36は、充放電レンジR1~R3毎に積算充電量Icfおよび積算放電量Idfを算出する。以下の説明では、充放電レンジR1の積算充電量Icfを「Icf1」と記載し、充放電レンジR2の積算充電量Icfを「Icf2」と記載し、充放電レンジR3の積算充電量Icfを「Icf3」と記載する。また、充放電レンジR1の積算放電量Idfを「Idf1」と記載し、充放電レンジR2の積算放電量Idfを「Idf2」と記載し、充放電レンジR3の積算放電量Idfを「Idf3」と記載する。
【0058】
また、前述したように、リアバッテリ制御ユニット56は、充放電レンジR1~R3毎に積算充電量Icrおよび積算放電量Idrを算出する。以下の説明では、充放電レンジR1の積算充電量Icrを「Icr1」と記載し、充放電レンジR2の積算充電量Icrを「Icr2」と記載し、充放電レンジR3の積算充電量Icrを「Icr3」と記載する。また、充放電レンジR1の積算放電量Idrを「Idr1」と記載し、充放電レンジR2の積算放電量Idrを「Idr2」と記載し、充放電レンジR3の積算放電量Idrを「Idr3」と記載する。
【0059】
図12に示すように、ステップS40では、バッテリモジュール35の積算充電量Icf1,Icf2,Icf3が読み込まれ、バッテリモジュール45の積算充電量Icr1,Icr2,Icr3が読み込まれる。続くステップS41では、バッテリモジュール35の積算放電量Idf1,Idf2,Idf3が読み込まれ、バッテリモジュール45の積算放電量Idr1,Idr2,Idr3が読み込まれる。
【0060】
ステップS42では、積算充電量Icf1から積算充電量Icr1が減算され、充放電レンジR1における積算充電量の差分ΔIc1が算出される。続くステップS43では、差分ΔIc1の絶対値が所定の充電量閾値Xc1を上回るか否かが判定される。ステップS43において、差分ΔIc1の絶対値が充電量閾値Xc1を上回ると判定された場合には、充放電レンジR1での積算充電量が乖離していることから、ステップS44に進み、充電差フラグFa31が設定される(Fa31=1)。一方、ステップS43において、差分ΔIc1の絶対値が充電量閾値Xc1以下であると判定された場合には、充放電レンジR1での積算充電量が乖離していないことから、ステップS45に進み、充電差フラグFa31が解除される(Fa31=0)。
【0061】
また、ステップS46では、積算充電量Icf2から積算充電量Icr2が減算され、充放電レンジR2における積算充電量の差分ΔIc2が算出される。続くステップS47では、差分ΔIc2の絶対値が所定の充電量閾値Xc2を上回るか否かが判定される。ステップS47において、差分ΔIc2の絶対値が充電量閾値Xc2を上回ると判定された場合には、充放電レンジR2での積算充電量が乖離していることから、ステップS48に進み、充電差フラグFa32が設定される(Fa32=1)。一方、ステップS47において、差分ΔIc2の絶対値が充電量閾値Xc2以下であると判定された場合には、充放電レンジR2での積算充電量が乖離していないことから、ステップS49に進み、充電差フラグFa32が解除される(Fa32=0)。
【0062】
また、ステップS50では、積算充電量Icf3から積算充電量Icr3が減算され、充放電レンジR3における積算充電量の差分ΔIc3が算出される。続くステップS51では、差分ΔIc3の絶対値が所定の充電量閾値Xc3を上回るか否かが判定される。ステップS51において、差分ΔIc3の絶対値が充電量閾値Xc3を上回ると判定された場合には、充放電レンジR3での積算充電量が乖離していることから、ステップS52に進み、充電差フラグFa33が設定される(Fa33=1)。一方、ステップS51において、差分ΔIc3の絶対値が充電量閾値Xc3以下であると判定された場合には、充放電レンジR3での積算充電量が乖離していないことから、ステップS53に進み、充電差フラグFa33が解除される(Fa33=0)。
【0063】
つまり、
図14に時刻t1で示すように、充放電レンジR1における積算充電量の差分ΔIc1の絶対値が、所定の充電量閾値Xc1を上回る場合には(符号a1)、充電差フラグFa31が設定される(符号b1)。また、時刻t2で示すように、充放電レンジR2における積算充電量の差分ΔIc2の絶対値が、所定の充電量閾値Xc2を上回る場合には(符号c1)、充電差フラグFa32が設定される(符号d1)。また、時刻t3で示すように、充放電レンジR3における積算充電量の差分ΔIc3の絶対値が、所定の充電量閾値Xc3を上回る場合には(符号e1)、充電差フラグFa33が設定される(符号f1)。
【0064】
また、
図13のフローチャートに示すように、ステップS54では、積算放電量Idf1から積算放電量Idr1が減算され、充放電レンジR1における積算放電量の差分ΔId1が算出される。続くステップS55では、差分ΔId1の絶対値が所定の放電量閾値Xd1を上回るか否かが判定される。ステップS55において、差分ΔId1の絶対値が放電量閾値Xd1を上回ると判定された場合には、充放電レンジR1での積算放電量が乖離していることから、ステップS56に進み、放電差フラグFa41が設定される(Fa41=1)。一方、ステップS55において、差分ΔId1の絶対値が放電量閾値Xd1以下であると判定された場合には、充放電レンジR1での積算放電量が乖離していないことから、ステップS57に進み、放電差フラグFa41が解除される(Fa41=0)。
【0065】
また、ステップS58では、積算放電量Idf2から積算放電量Idr2が減算され、充放電レンジR2における積算放電量の差分ΔId2が算出される。続くステップS59では、差分ΔId2の絶対値が所定の放電量閾値Xd2を上回るか否かが判定される。ステップS59において、差分ΔId2の絶対値が放電量閾値Xd2を上回ると判定された場合には、充放電レンジR2での積算放電量が乖離していることから、ステップS60に進み、放電差フラグFa42が設定される(Fa42=1)。一方、ステップS59において、差分ΔId2の絶対値が放電量閾値Xd2以下であると判定された場合には、充放電レンジR2での積算放電量が乖離していないことから、ステップS61に進み、放電差フラグFa42が解除される(Fa42=0)。
【0066】
また、ステップS62では、積算放電量Idf3から積算放電量Idr3が減算され、充放電レンジR3における積算放電量の差分ΔId3が算出される。続くステップS63では、差分ΔId3の絶対値が所定の放電量閾値Xd3を上回るか否かが判定される。ステップS63において、差分ΔId3の絶対値が放電量閾値Xd3を上回ると判定された場合には、充放電レンジR3での積算放電量が乖離していることから、ステップS64に進み、放電差フラグFa43が設定される(Fa43=1)。一方、ステップS63において、差分ΔId3の絶対値が放電量閾値Xd3以下であると判定された場合には、充放電レンジR3での積算放電量が乖離していないことから、ステップS65に進み、放電差フラグFa43が解除される(Fa43=0)。
【0067】
つまり、
図15に時刻t1で示すように、充放電レンジR1における積算放電量の差分ΔId1の絶対値が、所定の放電量閾値Xd1を上回る場合には(符号a1)、放電差フラグFa31が設定される(符号b1)。また、時刻t2で示すように、充放電レンジR2における積算放電量の差分ΔId2の絶対値が、所定の放電量閾値Xd2を上回る場合には(符号c1)、放電差フラグFa32が設定される(符号d1)。また、時刻t3で示すように、充放電レンジR3における積算放電量の差分ΔId3の絶対値が、所定の放電量閾値Xd3を上回る場合には(符号e1)、放電差フラグFa33が設定される(符号f1)。
【0068】
[アクティブ制御]
続いて、バッテリモジュール35,45をほぼ均等に劣化させるための劣化均等化制御であるアクティブ制御について説明する。
図16および
図17はアクティブ制御の実行手順の一例を示すフローチャートであり、
図18はアクティブ制御の実行前後における積算充電量および積算放電量の変化の一例を示す図である。なお、
図16および
図17に示すフローチャートは、符号Eの箇所で互いに接続されている。また、
図16および
図17に示されるアクティブ制御の各ステップには、制御システム60を構成するプロセッサ70によって実行される処理が示されている。さらに、
図16および
図17に示されるアクティブ制御は、制御システム60が起動された後に、制御システム60によって所定周期毎に実行される制御である。
【0069】
以下の説明では、積算充電量Icf1,Icf2,Icf3の何れかであることを「Icfn」を用いて説明し、積算放電量Idf1,Idf2,Idf3の何れかであることを「Idfn」を用いて説明する。また、積算充電量Icr1,Icr2,Icr3の何れかであることを「Icrn」を用いて説明し、積算放電量Idr1,Idr2,Idr3の何れかであることを「Idrn」を用いて説明する。さらに、充電差フラグFa31,Fa32,Fa33の何れかであることを「Fa3n」を用いて説明し、充電差フラグFa41,Fa42,Fa43の何れかであることを「Fa4n」を用いて説明する。
【0070】
図16に示すように、ステップS70では、前述したパッシブ制御フラグFp1が解除されているか否かが判定される。ステップS71において、パッシブ制御フラグFp1が設定されていると判定された場合、つまりΔSOCを解消するためのパッシブ制御が実行されていると判定された場合には、アクティブ制御を実行することなくルーチンを抜ける。
【0071】
ステップS71では、第1判定フラグFa1および第2判定フラグFa2の双方が設定されているか否かが判定される。ここで、
図11に示すように、第1判定フラグFa1が設定されている状況とは、SOCfとSOCrとが同一の充放電レンジR1~R3に収まっている状況である。第2判定フラグFa2が設定されている状況とは、SOCfとSOCrとの差分ΔSOCが閾値βを下回る状況である。ステップS71において、第1判定フラグFa1および第2判定フラグFa2の何れか一方が解除されている場合、つまりSOCfとSOCrとが異なる充放電レンジR1~R3に収まっている場合や、SOCfとSOCrとの差分ΔSOCが閾値βを上回る場合には、アクティブ制御を実行する状況ではないことから、アクティブ制御を実行することなくルーチンを抜ける。
【0072】
ステップS71において、第1判定フラグFa1と第2判定フラグFa2との双方が設定されていると判定された場合には、ステップS72に進み、SOCfおよびSOCrが収まる同一の充放電レンジR1~R3に関し、充電差フラグFa3nが設定されているか否かが判定される。例えば、SOCfおよびSOCrが共に充放電レンジR1に収まっている場合には、充放電レンジ(同一範囲)R1における充電差フラグFa31が設定されているか否かが判定される。ステップS72において、充電差フラグFa3nが設定されていると判定された場合、つまり第1積算充電量Icfnと第2積算充電量Icrnとが乖離している場合には、ステップS73に進み、積算充電量Icfnと積算充電量Icrnとの差分を解消するアクティブ制御が開始される。
【0073】
ステップS73では、積算充電量Icfnが積算充電量Icrnを上回るか否かが判定される。ステップS73において、積算充電量Icfnが積算充電量Icrnを上回ると判定された場合には、フロント側のバッテリモジュール35の積算充電量Icfnが多い状況であることから、ステップS74に進み、フロントモータ31およびリアモータ51の回生トルク分配比が所定の基準分配比から変更される。つまり、フロントモータ31については、割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクから下げるように変更され、フロント側のバッテリモジュール35の充電が抑制される。また、リアモータ51については、割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクから上げるように変更され、リア側のバッテリモジュール45の充電が促進される。これにより、
図18に符号a1で示すように、積算充電量Icfnと積算充電量Icrnとを互いに近づけることができ、バッテリモジュール35,45を同様に劣化させることができる。
【0074】
一方、ステップS73において、積算充電量Icfnが積算充電量Icrnを下回ると判定された場合には、フロント側のバッテリモジュール35の積算充電量Icfnが少ない状況であることから、ステップS75に進み、フロントモータ31およびリアモータ51の回生トルク分配比が所定の基準分配比から変更される。つまり、フロントモータ31については、割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクから上げるように変更され、フロント側のバッテリモジュール35の充電が促進される。また、リアモータ51については、割当回生トルクを基準分配比に基づく割当回生トルクから下げるように変更され、リア側のバッテリモジュール45の充電が抑制される。これにより、
図18に符号a1で示すように、積算充電量Icfnと積算充電量Icrnとを互いに近づけることができ、バッテリモジュール35,45を同様に劣化させることができる。
【0075】
次いで、ステップS76に進み、SOCfおよびSOCrが収まる同一の充放電レンジに関し、放電差フラグFa4nが設定されているか否かが判定される。例えば、SOCfおよびSOCrが共に充放電レンジR1に収まっている場合には、充放電レンジ(同一範囲)R1における放電差フラグFa41が設定されているか否かが判定される。ステップS76において、放電差フラグFa4nが設定されていると判定された場合、つまり第1積算放電量Idfnと第2積算放電量Idrnとが乖離している場合には、ステップS77に進み、積算放電量Idfnと積算放電量Idrnとの差分を解消するアクティブ制御が開始される。
【0076】
ステップS77では、積算放電量Idfnが積算放電量Idrnを上回るか否かが判定される。ステップS77において、積算放電量Idfnが積算放電量Idrnを上回ると判定された場合には、フロント側のバッテリモジュール35の積算放電量Idfnが多い状況であることから、ステップS78に進み、フロントモータ31およびリアモータ51の力行トルク分配比が所定の基準分配比から変更される。つまり、フロントモータ31については、割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクから下げるように変更され、フロント側のバッテリモジュール35の放電が抑制される。また、リアモータ51については、割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクから上げるように変更され、リア側のバッテリモジュール45の放電が促進される。これにより、
図18に符号b1で示すように、積算放電量Idfnと積算放電量Idrnとを互いに近づけることができ、バッテリモジュール35,45を同様に劣化させることができる。
【0077】
一方、ステップS77において、積算放電量Idfnが積算放電量Idrnを下回ると判定された場合には、フロント側のバッテリモジュール35の積算放電量Idfnが少ない状況であることから、ステップS79に進み、フロントモータ31およびリアモータ51の力行トルク分配比が所定の基準分配比から変更される。つまり、フロントモータ31については、割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクから上げるように変更され、フロント側のバッテリモジュール35の放電が促進される。また、リアモータ51については、割当力行トルクを基準分配比に基づく割当力行トルクから下げるように変更され、リア側のバッテリモジュール45の放電が抑制される。これにより、
図18に符号b1で示すように、積算放電量Idfnと積算放電量Idrnとを互いに近づけることができ、バッテリモジュール35,45を同様に劣化させることができる。
【0078】
これまで説明したように、アクティブ制御を実行することにより、充放電レンジR1~R3毎に、フロント側のバッテリモジュール35の積算充電量Icfnと、リア側のバッテリモジュール45の積算充電量Icrnとを、互いに近づけることができる。これにより、バッテリモジュール35,45を同様に劣化させることができる。また、アクティブ制御を実行することにより、充放電レンジR1~R3毎に、フロント側のバッテリモジュール35の積算放電量Idfnと、リア側のバッテリモジュール45の積算放電量Idrnとを、互いに近づけることができる。これにより、バッテリモジュール35,45を同様に劣化させることができる。
【0079】
[積算充電量および積算放電量の温度補正]
前述したように、フロントバッテリ制御ユニット36は、バッテリモジュール35の充電電流を積算することで積算充電量Icfnを算出し、バッテリモジュール35の放電電流を積算することで積算放電量Idfnを算出する。また、リアバッテリ制御ユニット56は、バッテリモジュール45の充電電流を積算することで積算充電量Icrnを算出し、バッテリモジュール45の放電電流を積算することで積算放電量Idrnを算出する。
【0080】
ところで、バッテリモジュール35,45の劣化状態は、充放電量だけでなくバッテリモジュール35,45の温度によっても左右される。つまり、高温環境下でバッテリモジュール35,45を充放電させた場合には、高温環境下よりも低温の常温環境下でバッテリモジュール35,45を充放電させた場合よりも、バッテリモジュール35,45の劣化状態が進行することが想定される。このようなバッテリモジュール35,45の劣化状態を精度良く反映させるため、バッテリモジュール35,45の温度に基づいて積算充電量Icfn,Icrnや積算放電量Idfn,Idrnを補正しても良い。
【0081】
ここで、
図19は充電電流や放電電流を補正する補正係数の一例を示す図であり、
図20は充電電流の積算状況および放電電流の積算状況の一例を示す図である。
図19に示すように、補正係数は、バッテリモジュール35,45の温度(以下、バッテリ温度と記載する。)が高くなるほどに大きく設定されている。そして、積算充電量Icfn,Icrnを算出する際には、補正係数が乗算された充電電流が積算されるとともに、積算放電量Idfn,Idrnを算出する際には、補正係数が乗算された放電電流が積算される。
【0082】
つまり、
図20に示すように、バッテリモジュール35,45に対して同一の充電電流が流れる場合であっても、バッテリ温度が高くなるほどに積算充電量Icfn,Icrnが増加することになる。例えば、同一の充電電流が流れる場合であっても、バッテリ温度が45℃であるときは、バッテリ温度が30℃であるときよりも、積算充電量Icfn,Icrnが増加する。例えば、同一の充電電流が流れる場合であっても、バッテリ温度が60℃であるときは、バッテリ温度が45℃であるときよりも、積算充電量Icfn,Icrnが増加する。また、
図20に示すように、バッテリモジュール35,45から同一の放電電流が流れる場合であっても、バッテリ温度が高くなるほどに積算放電量Idfn,Idrnが増加することになる。例えば、同一の放電電流が流れる場合であっても、バッテリ温度が45℃であるときは、バッテリ温度が30℃であるときよりも、積算放電量Idfn,Idrnが増加する。例えば、同一の放電電流が流れる場合であっても、バッテリ温度が60℃であるときは、バッテリ温度が45℃であるときよりも、積算放電量Idfn,Idrnが増加する。これにより、バッテリ温度が劣化状態に与える影響を適切に反映させることができ、アクティブ制御によってバッテリモジュール35,45の劣化状態を適切に調整することができる。
【0083】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、5つの制御ユニットによって制御システム60を構成しているが、これに限られることはなく、1つの制御ユニットによって制御システム60を構成しても良く、2つから4つの制御ユニットによって制御システム60を構成しても良く、6つ以上の制御ユニットによって制御システム60を構成しても良い。また、積算充電量Icfn,Icrnについては、外部電源を用いた外部充電時の充電電流を含めて積算した充電量であっても良く、外部充電時の充電電流を除いて積算した充電量であっても良い。
【0084】
前述の説明では、パッシブ制御とアクティブ制御との双方を実行しているが、これに限られることはなく、パッシブ制御だけを実行しても良く、アクティブ制御だけを実行しても良い。前述の説明では、全ての充放電レンジR1~R3についてアクティブ制御を実行しているが、これに限られることはなく、充放電レンジR1~R3の何れかについてアクティブ制御を実行しても良い。また、充電量閾値Xc1,Xc2,Xc3としては、互いに同一の値であっても良く、互いに異なる値であっても良い。また、放電量閾値Xd1,Xd2,Xd3としては、互いに同一の値であっても良く、互いに異なる値であっても良い。前述の説明では、バッテリモジュール35,45に対して3つの充放電レンジR1~R3を設定しているが、これに限られることはなく、バッテリモジュール35,45に対して2つの充放電レンジを設定しても良く、バッテリモジュール35,45に対して4つ以上の充放電レンジを設定しても良い。
【0085】
前述の説明では、バッテリモジュール35,45としてリチウムイオンバッテリを用いているが、これに限られることはなく、容量に応じて劣化特性の異なる蓄電体であれば、如何なる蓄電体であっても良い。また、図示するバッテリモジュール35,45は同一種類のリチウムイオンバッテリであるが、これに限られることはなく、互いに同様の劣化特性を備えた蓄電体であれば異なる種類の蓄電体を用いても良い。また、バッテリモジュール35,45の上限容量は互いに同一であっても良く、バッテリモジュール35,45の上限容量に多少のずれが生じていても良い。また、バッテリモジュール35,45の下限容量は互いに同一であっても良く、バッテリモジュール35,45の下限容量に多少のずれが生じていても良い。
【0086】
図示する例では、左右の前輪20に対して1つのフロントモータ31を接続しているが、これに限られることはなく、1つの前輪20に対して1つのフロントモータを接続しても良い。同様に、左右の後輪40に対して1つのリアモータ51を接続しているが、これに限られることはなく、1つの後輪40に対して1つのリアモータを接続しても良い。また、図示する車両11は、エンジンを備えていない電気自動車であるが、これに限られることはなく、例えば、シリーズ方式のハイブリッド車両に対して、本発明の車両用制御装置を適用しても良い。
【符号の説明】
【0087】
10 車両用制御装置
11 車両
20 前輪
30 前輪駆動系
31 フロントモータ(第1走行用モータ)
35 バッテリモジュール(第1蓄電体)
40 後輪
50 後輪駆動系
51 リアモータ(第2走行用モータ)
55 バッテリモジュール(第2蓄電体)
60 制御システム
70 プロセッサ
71 メインメモリ(メモリ)
72 マイクロコントローラ
SOCf SOC
SOCr SOC
ΔSOC 差分
Taf,Tafx,Tar,Tarx 割当力行トルク
Tbf,Tbfx,Tbr,Tbrx 割当回生トルク
α 開始閾値(閾値)
S1 境界値(上限SOC)
S4 境界値(下限SOC)
R1,R2,R3 充放電レンジ(充放電範囲)
Icf,Icf1,Icf2,Icf3,Icfn 積算充電量(第1積算充電量)
Icr,Icr1,Icr2,Icr3,Icrn 積算充電量(第2積算充電量)
Idf,Idf1,Idf2,Idf3,Idfn 積算放電量(第1積算放電量)
Idr,Idr1,Idr2,Idr3,Idrn 積算放電量(第2積算放電量)
ΔIc1,ΔIc2,ΔIc3 差分
ΔId1,ΔId2,ΔId3 差分
Xc1,Xc2,Xc3 充電量閾値
Xd1,Xd2,Xd3 放電量閾値