(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043857
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】磁性楔、及び磁性楔を用いた回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/493 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
H02K3/493
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149064
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】須川 剛
(72)【発明者】
【氏名】潮湖 肇夫
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB03
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC14
5H604DA02
5H604DA06
5H604DA14
5H604DB01
5H604QC01
(57)【要約】
【課題】周方向に貫通する漏れ磁束を低減した磁性楔を提供することである。
【解決手段】回転電機のステータコアを励磁するコイルを収容するスロットの開口を塞ぐ磁性楔であって、前記スロットの周方向一方側の内壁をなす第1ティースと接する第1高透磁率部と、前記スロットの周方向他方側の内壁をなす第2ティースと接する第2高透磁率部と、周方向で前記第1高透磁率部と前記第2高透磁率部との間に設けられ、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部よりも低透磁率である低透磁率部と、を有し、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部は、高透磁性剤を含み、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部は、ガラスクロスに前記高透磁性剤を含有する合成樹脂を塗布してなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のステータコアを励磁するコイルを収容するスロットの開口を塞ぐ磁性楔であって、
前記スロットの周方向一方側の内壁をなす第1ティースと接する第1高透磁率部と、
前記スロットの周方向他方側の内壁をなす第2ティースと接する第2高透磁率部と、
周方向で前記第1高透磁率部と前記第2高透磁率部との間に設けられ、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部よりも低透磁率である低透磁率部と、
を有し、
前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部は、高透磁性剤を含み、
前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部は、ガラスクロスに前記高透磁性剤を含有する合成樹脂を塗布してなる、
することを特徴とする磁性楔。
【請求項2】
前記高透磁性剤は、アモルファス、パーマロイ、又はケイ素鋼である、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁性楔。
【請求項3】
前記低透磁率部は、前記ガラスクロスに前記高透磁性剤を含有しない合成樹脂を塗布してなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁性楔。
【請求項4】
請求項1に記載の前記磁性楔と前記ステータコアを有するステータと、
前記ステータの径方向内側にエアギャップを介して配置されるロータと、
を有する、
ことを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性楔、及び磁性楔を用いた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータの隣り合うティース同士の間に形成されたスロットに収容されたコイルに通電することで励磁し、ロータを回転させる回転電機が知られている。このような回転電機においては、隣り合うティース同士の間のスロットの開口を塞ぐように楔を挿入することで、コイルを固定し、脱落を防ぐ場合がある。
【0003】
スロットの開口を塞ぐ楔として非磁性楔を用いた場合、スロット部分に対してティース部分に磁束が集中するため、エアギャップの磁束密度の空間分布は周方向に粗密が生じる。この磁束密度の粗密は、回転電機のエアギャップの磁束密度の基本波にその整数倍の高次周波数成分である高調波を加えてしまい、効率低下の原因となっていた。
【0004】
これに対し、例えば特許文献1には、スロットの開口を塞ぐ楔として磁性楔を用いることで、高調波による損失を低減する技術が開示されている。磁性楔を用いた場合、スロット部分でも磁性楔を介して磁束が流れるため、磁束密度の粗密が緩和され、高調波による損失を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の磁性楔では、楔の透磁率を上げると必要な方向以外にも磁束が流れ、例えば磁束が磁性楔を周方向に貫通する場合があった。この場合、磁性楔の両脇のティースのうちの一方のティースから磁性楔を介して他方のティースに漏れ磁束が流れ、さらに前記他方のティースからロータに流れ、ロータから前記一方のティースに流れるという漏れ磁束の循環が生じてしまう。このように循環する漏れ磁束が増えると電流が増加し、回転電機の効率が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、周方向に貫通する漏れ磁束を低減した磁性楔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る磁性楔は、回転電機のステータコアを励磁するコイルを収容するスロットの開口を塞ぐ磁性楔であって、前記スロットの周方向一方側の内壁をなす第1ティースと接する第1高透磁率部と、前記スロットの周方向他方側の内壁をなす第2ティースと接する第2高透磁率部と、周方向で前記第1高透磁率部と前記第2高透磁率部との間に設けられ、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部よりも低透磁率である低透磁率部と、を有し、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部は、高透磁性剤を含み、前記第1高透磁率部及び前記第2高透磁率部は、ガラスクロスに前記高透磁性剤を含有する合成樹脂を塗布してなることを特徴とする。
【0009】
上記の一態様の磁性楔において、前記高透磁性剤は、アモルファス、パーマロイ、又はケイ素鋼である、ことを特徴とする。
【0010】
上記の一態様の磁性楔において、前記低透磁率部は、前記ガラスクロスに前記高透磁性剤を含有しない合成樹脂を塗布してなる、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る回転電機は、前記磁性楔と前記ステータコアを有するステータと、前記ステータの径方向内側にエアギャップを介して配置されるロータと、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、周方向に貫通する漏れ磁束を低減した磁性楔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るモータの部分断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る磁性楔を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータの部分断面図である。第1実施形態のモータ10は、回転電機の一例である。モータ10は、インナーロータ型モータである。モータ10は、ステータ20と、ロータ30とを有する。ステータ20は、ロータ30の径方向外側にエアギャップを介して配置される。ロータ30は回転軸を中心に回動可能である。
図1は、モータ10を回転軸と直交する面で切断して示す図である。
【0016】
なお、特に断りのない限り、回転軸の延びる方向に沿った方向を単に「軸方向」と呼ぶ。また、回転軸を中心とする径方向を単に「径方向」と呼ぶ。径方向において回転軸に近づく側を「径方向内側」と呼び、回転軸から遠ざかる側を「径方向外側」と呼ぶ。また、回転軸を中心とする周方向、すなわち、回転軸の軸周りを単に「周方向」と呼ぶ。周方向において、
図1における反時計回り側を「周方向一方側」と呼び、
図1における時計回り側を「周方向他方側」と呼ぶ。
【0017】
ステータ20は、円筒形状であり、回転軸と同軸である。ステータ20は、ステータコア50を有する。ステータコア50は、径方向外側を一周するコアバック20aと、コアバック20aから径方向内側に延びるティース20bとを有する。ティース20bは周方向に等間隔で複数配置される。複数のティース20bのうちのあるティース20bと、そのティース20bに周方向で隣接するティース20bとの間には、スロット21が形成される。スロット21は、径方向内側に開口する。ステータ20は、コイル22を有する。スロット21は、コイル22を収容する。コイル22は、ティース20bに巻き回される。
【0018】
ロータ30は、円柱形状であり、回転軸と同軸である。ロータ30は、不図示の永久磁石が埋め込まれたロータコア60を有する。ティース20bの径方向内側端は、ロータコア60の径方向外側端と、エアギャップを介して対向する。
【0019】
ティース20bは、スロット21に収容されたコイル22の径方向内側位置に、周方向に凹む溝部23を有する。ステータ20は、楔25を有する。楔25は、隣り合うティース20bの溝部23に嵌まり、スロット21に収容されたコイル22の脱落を防ぐ。楔25は、スロット21の径方向内側の開口を塞ぐ。
【0020】
楔25は、低透磁率部25aと、高透磁率部25bと、高透磁率部25cとを有する。楔25は、磁性楔の一例である。高透磁率部25bは隣り合うティース20bの一方と接し、高透磁率部25cは、隣り合うティース20bの他方と接する。すなわち、スロット21の周方向一方側の内壁をなすティース20bは、楔25の高透磁率部25bと接し、スロット21の周方向他方側の内壁をなすティース20bは、楔25の高透磁率部25cと接する。高透磁率部25bは、低透磁率部25aよりも周方向一方側に位置する。高透磁率部25cは、低透磁率部25aよりも周方向他方側に位置する。なお、低透磁率部25aは、高透磁率部25bと高透磁率部25cとの間の磁束の流れを阻害するものであればよく、低透磁率部25a内のすべてが低透磁率でなくてもよい。
【0021】
図1において、矢印Aは、磁束の流れの一例を示す矢印である。磁束は、矢印Aに示すように、ティース20bから楔25の高透磁率部25b、25cを通ってロータコア60へと流れる。このように本実施形態によれば、スロット21の開口を非磁性楔で塞いだ場合と違い、周方向位置がスロット21の開口位置であっても磁束が流れる。このため、周方向での磁束密度の粗密が緩和され、高調波による損失を低減することができる。
【0022】
図2は、楔25について説明する図である。
図2(A)は、楔25の基となる板状部材50を示す。
図2(B)は、板状部材50を切削加工して得た楔25を示す。
【0023】
まず、板状部材50の製造方法について説明する。板状部材50は、
図2(A)に示すように、複数のシート状部材50cを積層して形成される。複数のシート状部材50cのそれぞれには、高透磁率部50aと低透磁率部50bとが交互に、ストライプ状に配置されている。シート状部材50cは、非磁性体でシート状のガラスクロスを含み、このガラスクロス上の高透磁率部50aの部分には高透磁性剤を含有する合成樹脂を塗布し、低透磁率部50bの部分には高透磁性剤を含有しない非磁性の合成樹脂を塗布することで形成される。合成樹脂は、接着剤の役割を果たし、複数のシート状部材50cを積層して必要に応じて加圧や加熱することで、シート状部材50c同士を接着する。このとき、合成樹脂はガラスクロスに含浸する。ガラスクロスの全面を合成樹脂で接着する場合、強度を向上することができる。楔25は、ガラスクロスを積層することで、強度を向上することができる。
【0024】
楔25は、シート状部材50c同士を接着して得た板状部材50を所望の形状に切削加工して得られる。楔25は、スロット21の開口を塞ぎ、ティース20bの溝部23に嵌まる形状に切削される。本実施形態では、板状部材50の高透磁率部50aが楔25の高透磁率部25bになり、板状部材50の低透磁率部50bが楔25の低透磁率部25aになり、板状部材50の高透磁率部50aが楔25の高透磁率部25cになるように、板状部材50から楔25を切り出す。
【0025】
高透磁率部50aの高透磁性剤としては、アモルファス、パーマロイ、又はケイ素鋼等を用いることができる。高透磁性剤としては鉄粉を用いることもできる。しかしながら、高透磁性剤として鉄粉を合成樹脂に混ぜた場合、透磁率を上げるために鉄粉含有量を増やすと楔としての強度が低下してしまう。これに対し、高透磁性剤としてアモルファス、パーマロイ、又はケイ素鋼等を用いれば、金属粉含有率を上げず、すなわち強度を低下させずに透磁率を向上させることが出来る。
【0026】
本実施形態の楔25は、隣接するティース20b同士の間の周方向で、高透磁率部25bと高透磁率部25cとの間に低透磁率部25aを有するため、磁束が楔25を周方向に貫通しにくく、漏れ磁束を低減し、モータ10の効率低下を防ぐことができる。
【0027】
なお、上述の例では、低透磁率部50bには、高透磁性剤を含有しない非磁性の合成樹脂を塗布するとしたが、本発明はこれに限られるものではなく、低透磁率部50bには何も塗布せず、ガラスクロスだけであってもよい。
【0028】
また、楔25の周方向における、高透磁率部25b、低透磁率部25a及び高透磁率部25cの寸法比率は、モータ10に求められる性能に応じて定めることができる。例えば、高透磁率部25b及び高透磁率部25cの周方向長さを低透磁率部25aよりも長くすることで、周方向での磁束密度の粗密をより緩和することができる。また、高透磁率部25b及び高透磁率部25cの周方向長さを低透磁率部25aよりも短くすることで、周方向での磁束密度の粗密をより緩和することができる。
【0029】
なお、板状部材50は、ガラスクロスの全面に非磁性の合成樹脂を塗布し、高透磁率部50aの部分にのみ高透磁性剤を含有する合成樹脂を上塗りして形成してもよい。
【0030】
本実施形態によれば、上述のように板状部材50を形成してから切削加工により楔25を製造することで、当初から楔25の形状、サイズで低透磁率部25a、高透磁率部25b及び高透磁率部25cを形成する場合と比べて、製造工程を簡略化し、製造コストを低減することができる。
【0031】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。また本発明は、各実施形態の組み合わせを含む。加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0032】
10…モータ、20…ステータ、30…ロータ、25…楔