(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043876
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】固体電池、固体電池の製造方法及び固体電池用負極
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240326BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240326BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240326BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240326BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240326BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240326BHJP
C01G 23/047 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/48
H01M4/13
H01M10/0585
H01M4/139
C01G23/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149100
(22)【出願日】2022-09-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「ルチル型酸化チタン負極を用いた高エネルギー密度小型固体電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 羊一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】道見 康弘
(72)【発明者】
【氏名】薄井 洋行
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕樹
【テーマコード(参考)】
4G047
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB08
4G047CC03
4G047CD04
4G047CD07
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ06
5H029CJ08
5H029HJ05
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050DA03
5H050FA02
5H050GA02
5H050GA08
5H050GA10
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】レート特性が良好な固体電池を提供する。
【解決手段】正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含む積層体の焼成物を含み、前記負極層は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む、固体電池。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含み、
前記負極層は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む、
固体電池。
【請求項2】
前記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子は、Nb元素がドープされている、
請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子の平均長径は、80~140nmである、
請求項1に記載の固体電池。
【請求項4】
前記固体電解質層は、酸化物固体電解質を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項5】
紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む負極合剤を得る工程と、
前記負極合剤から得られる負極合剤層と、正極合剤層と、前記負極合剤層と前記正極合剤層との間に配置された電解質合剤層とを含む積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、
を含む、
固体電池の製造方法。
【請求項6】
前記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子は、Nb元素がドープされている、
請求項5に記載の固体電池の製造方法。
【請求項7】
前記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子の平均長径は、80~140nmである、
請求項5又は6に記載の固体電池の製造方法。
【請求項8】
紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む負極層を含む、
固体電池用負極。
【請求項9】
前記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子は、Nb元素がドープされている、
請求項8に記載の固体電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池、固体電池の製造方法及び固体電池用負極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、各種電池の中でもエネルギー密度が高いことで知られている。一般に普及しているリチウム二次電池は、電解質として可燃性の有機電解液を用いている。そのため、リチウム二次電池では、液漏れ、短絡、過充電等に対する安全対策が、他の電池よりも厳しく求められている。
【0003】
そこで近年、電解質として酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料であり、従来のリチウム二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。
【0004】
酸化物系の固体電解質を用いた固体電池として、特許文献1には、正極層と、負極活物質として酸化チタン(TiO2)を含む負極層と、それらの間に配置されたNASICON型の固体電解質層とを有する固体電池が開示されている。当該文献では、酸化チタンの中でも、アナタース型の酸化チタンは、Liイオンの脱挿入反応が容易に起きやすいため、特にアナタース型の酸化チタンが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような酸化物系の固体電解質を用いた固体電池は、通常、焼結法、即ち、正極合剤層、電解質合剤層、及び負極合剤層を積層した後、高温で焼成して製造される。しかしながら、負極活物質としてアナタース型の酸化チタンを用いた固体電池は、レート特性(負荷特性)が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、レート特性が良好な固体電池、固体電池の製造方法及び固体電池用負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の固体電池、固体電池の製造方法及び固体電池用負極によって解決することができる。
【0009】
本発明の固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを含み、前記負極層は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む。
【0010】
本発明の固体電池の製造方法は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む負極合剤を得る工程と、前記負極合剤から得られる負極合剤層と、正極合剤層と、前記負極合剤層と前記正極合剤層との間に配置された電解質合剤層とを含む積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含む。
【0011】
本発明の固体電池用負極は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタンを含む負極層を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レート特性が良好な固体電池、固体電池の製造方法及び固体電池用負極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、紡錘形状を有する粒子の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8A~
図8Cは、実施例及び比較例のレート特性の放電カーブを示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例及び比較例のレート特性をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.固体電池
図1は、本実施形態に係る固体電池1の構成を示す模式図である。このうち、
図1Aは、固体電池の模式的な要部斜視図であり、
図1Bは、
図1Aの1B線に沿った模式的な断面図であり、
図1Cは、
図1Aの1C線に沿った模式的な断面図である。
【0015】
図1A~1Cに示すように、固体電池1は、固体電池本体10、保護層20、外部電極31及び外部電極32を含む。
【0016】
1-1.固体電池本体10
固体電池本体10は、正極層11、負極層12、及びそれらの間に配置された固体電解質層13を有する。本実施形態では、複数の正極層11、複数の負極層12及び複数の固体電解質層13が、一対の正極層11と負極層12との間に固体電解質層13が介在されるように積層されている。即ち、本実施形態の固体電池本体10は、下から順に、負極層12、固体電解質層13、正極層11、固体電解質層13、負極層12、固体電解質層13、正極層11が積層された構造となっている。
【0017】
(正極層11)
正極層11は、固体電解質層13の一方の面13aの一部に配置されている。
正極層11は、正極活物質を含む。正極活物質の例には、正極活物質の例には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、及びニッケル酸リチウム(LiNiO2)等の層状酸化物、ピロリン酸コバルトリチウム(Li2CoP2O7、以下「LCPO」ともいう)、及びリン酸コバルトリチウム(LiCoPO4)等のオリビン構造を持つ化合物、LiMO2(MはNi、Mn、Coのうち一種または複数種)等のスピネル構造を有するマンガン酸リチウム、並びに、リン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3、以下「LVP」ともいう)、Li2FeP2O7、Li2CoP2O7、Li2NiP2O7、Li2MnP2O7等のリン酸金属リチウム等が含まれる。中でも、LCPOが好ましい。正極活物質は、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0018】
正極層11は、必要に応じて固体電解質や導電助剤をさらに含んでもよい。正極層11固体電解質の例には、後述する固体電解質層13に用いられる固体電解質と同様の材料が含まれ、好ましくは後述するLAGP等の酸化物固体電解質が用いられる。導電助剤の例には、カーボンファイバー、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素材料が含まれる。
【0019】
正極層11の厚みは、特に制限されないが、例えば5~30μm、好ましくは例えば10~20μmである。正極層11の厚みが下限値以上であると、放電容量を一層高めやすく、上限値以下であると、正極層11の厚み方向におけるLiイオンの拡散による抵抗上昇を一層抑制できる。
【0020】
(負極層12)
負極層12は、固体電解質層13の他方の面13bの一部に設けられている。
図1Bに示すように、対をなす正極層11と負極層12は、固体電解質層13を介して互いに部分的に重なり合うように配置されている。
【0021】
負極層12は、負極活物質を含む。負極活物質は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン(TiO2)粒子を含む。
【0022】
図2は、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子の一例を示す模式図である。
図2に示すように、「紡錘形状」とは、例えば長軸方向の中央部が太く、両端部に向かって次第に細くなり、両端部が尖ったような形状をいう。具体的には、アスペクト比(最大短径b/長径a)が、好ましくは0.28~0.48、より好ましくは0.3~0.45である形状をいう。ここで、最大短径bとは、短軸方向の長さ(短径)のうち最大値を意味する。
【0023】
上記酸化チタン粒子のアスペクト比は、負極層12の厚み方向の断面を、走査電子顕微鏡SEM(例えば日本電子株式会社製JSM-IT700HR)により、以下の条件で観察して測定することができる。
(SEM観察条件)
信号:SED
入射電圧:15.0kV
WD:11.0mm
倍率:100000
観察範囲:1.280×0.960μm
照射電流番号:Std.50.0
スキャンローテーション:353.0°
真空モード:High Vacuum
そして、得られたSEM画像において、任意の酸化チタン粒子を選び、その長径aと最大短径bを測定し、アスペクト比を求める。この操作を、任意の3個の酸化チタン粒子について行い、それらの平均値を、上記酸化チタン粒子の「アスペクト比」とする。なお、焼結工程を経た固体電池であっても、上記酸化チタン粒子の形状は、焼結前後で変わらず保持されるため、上記測定方法によりアスペクト比を算出することができる。
【0024】
上記酸化チタン粒子の平均長径は、特に制限されないが、例えば80~140nmであることが好ましく、80~100nmであることがより好ましい。上記酸化チタン粒子の平均長径が140nm以下、好ましくは100nm以下であると、粒子サイズが十分に小さいため、Liイオンの拡散距離がより小さくなりやすく、レート特性を一層高めやすい。上記酸化チタン粒子の平均長径は、上記SEM観察により、任意の3個の酸化チタン粒子について長径aをそれぞれ測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0025】
また、上記酸化チタン粒子は、好ましくは単結晶である。単結晶であるかどうかは、例えば電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)を用いて、結晶軸を観察することによって確認することができる。結晶のどの位置であっても、結晶軸の方向が変わらないものは単結晶であり、結晶の位置によって結晶軸の方向が変わるものは多結晶である。
【0026】
また、上記酸化チタン粒子の結晶相がルチル型であるかどうかは、例えばX線回折装置により確認することができる。X線回折装置による測定において、ルチル型単相であればルチル型であると判断できる。
【0027】
このように、紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を用いた固体電池は、従来、一般的に用いられているアナタース型酸化チタン粒子や、他の粒子形状のルチル型酸化チタン粒子を用いた場合と比べて良好なレート特性を示す。この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0028】
まず、アナタース型酸化チタン粒子の結晶構造では、Liイオンの拡散パスが3次元的となるのに対し、ルチル型酸化チタン粒子の結晶構造では、Liイオンの拡散パスが1次元的となる。そのため、Li拡散パスが短いため、Liイオンの拡散速度を高めやすい。
また、ルチル型酸化チタン粒子の形状には、球状、針状、樹枝状、紡錘形状等の種々のものが存在する。その中でも、紡錘形状のルチル型酸化チタン粒子は単結晶であり、不純物相が少ないため、化学容量が低下しにくいだけでなく、Liイオンの拡散速度をより高めやすい。
さらに、アナタース型酸化チタン粒子や他の形状の酸化チタン粒子は、通常、多結晶であり、結晶構造が強固ではないため、固体電池を製造する際の焼成時に固体電解質(例えば非晶質LAGP)と副反応を生じやすい。これに対し、紡錘形状のルチル型酸化チタンは単結晶であり、結晶構造が強固であるため、焼成時に固体電解質との間で副反応を生じにくい。そのため、固体電池の内部抵抗を増大させにくい。
これらの理由から、本実施形態に係る固体電池1は、高いレート特性を有すると考えられる。
【0029】
また、上記酸化チタン粒子は、異種元素がドープされていてもよい。例えば、上記酸化チタン粒子は、Nbドープされた酸化チタン粒子であってもよい。そのような酸化チタン粒子は、固体電池1のレート特性を良好に維持しつつ、放電容量を一層高めうる。即ち、ルチル型酸化チタンを用いた固体電池では、固体電解質の存在下での焼成後に、不規則単斜晶α-NaFeO2型LixTiO2を生成しやすい。それによる放電容量の低下をNbドープによって一層抑制しうる。
【0030】
上記酸化チタン粒子の比表面積は、平均長径の大きさにもよるが、例えば、105~120m2/gであることが好ましい。比表面積が上記範囲内であると、粒子径が十分に小さいため、Liイオンが負極中を一層移動しやすい。上記酸化チタン粒子の比表面積は、BET法により測定することができる。
【0031】
負極層12における紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子の含有量は、特に制限されないが、負極層12に対して15~40質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。負極活物質は、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。例えば、Nbドープされた紡錘形状のルチル型酸化チタン粒子と、Nbドープされていない紡錘形状のルチル型酸化チタン粒子とを併用してもよい。
【0032】
負極層12は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他の負極活物質をさらに含んでもよい。他の負極活物質の例には、上記以外の酸化チタンや、LATP、LVP、酸化ニオブ(Nb2O5)、ニッケル(Ni)等の金属シリサイド等が挙げられる。
【0033】
負極層12は、必要に応じて固体電解質や導電助剤をさらに含んでもよい。負極層12に用いられる固体電解質や導電助剤は、正極層11に用いられる固体電解質や導電助剤と同様のものを用いることができる。
【0034】
負極層12の厚みは、特に制限されないが、例えば5~30μm、好ましくは10~20μmである。負極層12の厚みが下限値以上であると、放電容量を一層高めやすく、上限値以下であると、負極層12の厚み方向におけるLiイオンの拡散による抵抗上昇を一層抑制できる。
【0035】
(固体電解質層13)
固体電解質層13は、固体電解質を含む。固体電解質としては、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等が挙げられるが、好ましくは酸化物固体電解質である。酸化物固体電解質としては、一般式Li1+yAlyM2-y(PO4)3で表されるNASICON型(Na super ionic conductor型、「ナシコン型」とも称される)の酸化物固体電解質が好適である。ここで、組成比yは0<y≦1であり、Mはゲルマニウム(Ge)及びチタン(Ti)の一方又は両方である。中でも、LAGPが用いられる。LAGPは、一般式Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(0<x≦1)で表される酸化物固体電解質であって、アルミニウム置換リン酸ゲルマニウムリチウム等と称される。例えば、固体電解質層13のLAGPとして、組成比x=0.5のLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3が好ましく用いられる。また、LAGPとしては、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3の組成に限らず、Li1.4Al0.4Ge1.6(PO4)3といった他の組成のNASICON型LAGPが用いられてもよい。LAGPには、非晶質のLAGPであってもよいし、結晶質のLAGPであってもよいし、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0036】
固体電解質層13の厚みは、特に制限されないが、例えば2~10μm、好ましくは3~6μmである。固体電解質層13の厚みが下限値以上であると、正極層11と負極層12との間の絶縁性を一層高めやすく、上限値以下であると、固体電解質層13の厚み方向におけるLiイオンの拡散による抵抗上昇を一層抑制できる。
【0037】
上記のように構成された固体電池本体10では、充電時には、正極層11から固体電解質層13を介して負極層12にリチウムイオンが伝導して取り込まれ、放電時には、負極層12から固体電解質層13を介して正極層11にリチウムイオンが伝導して取り込まれる。このようなリチウムイオン伝導によって、充放電動作が実現される。
【0038】
1-2.保護層20
保護層20は、固体電池本体10の正極層11の端面11a及び負極層12の端面12aが露出するように、固体電池本体10を覆う(
図1B参照)。固体電池本体10の、保護層20から正極層11の端面11aが露出する面が、正極引出面1aとなり、保護層20から負極層12の端面12aが露出する面が、負極引出面1bとなる。このように、固体電池本体10の周囲が保護層20で覆われることで、外部から加えられる力や外部の環境から固体電池本体10を保護することができる。
【0039】
保護層20は、絶縁性を有していればよいが、水分やガスの透過性が低く、良好な密閉性を有するものが好ましい。中でも、固体電池本体10を構成する各層と同程度の熱膨張係数を有するものや、各層との密着性が良好なものが好ましい。保護層20を構成する材料としては、例えば固体電解質層13に用いられる固体電解質や、ガラス又はセラミックスが用いられる。
【0040】
1-3.外部電極31及び32
外部電極31は、固体電池1の正極引出面1a上に設けられ、正極引出面1aから露出する正極層11の端面11aと接続される(
図1B参照)。外部電極32は、固体電池1の負極引出面1bに設けられ、負極引出面1bから露出する負極層12の端面12aと接続される(
図1B参照)。
【0041】
外部電極31及び外部電極32には、各種導体材料を用いることができる。例えば、外部電極31及び外部電極32には、銀(Ag)等の金属粒子や炭素粒子等の導電性粒子を含有した導電性ペーストを乾燥、硬化させたもの、或いはスパッタ法やメッキ法等を用いた各種金属の堆積によって形成されたものが用いられる。
【0042】
1-4.作用
上記実施形態に係る固体電池1は、負極層12に紡錘形状のルチル型酸化チタン粒子を含む。それにより、固体電池1のレート特性を高めることができる。
【0043】
2.固体電池の製造方法
本実施形態に係る固体電池1は、1)上記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子を含む負極ペースト(負極合剤)を得る工程、2)当該負極ペーストから得られる負極合剤層、正極合剤層、及び電解質合剤層を含む積層体を形成する工程、及び3)積層体を焼成する工程を経て製造されうる。
【0044】
1)負極ペーストを準備する工程
まず、負極ペーストを準備する。負極ペーストは、負極活物質を含み、必要に応じて固体電解質や導電助剤、バインダ、分散剤、可塑剤、希釈剤等をさらに含んでもよい。例えば、負極ペーストは、負極活物質として上記紡錘形状を有するルチル型酸化チタン粒子、固体電解質として酸化物固体電解質(好ましくはLAGP)、導電助剤、バインダ、分散剤及び希釈剤(有機溶剤)を含みうる。
【0045】
さらに、正極ペースト(正極合剤)、電解質ペースト(電解質合剤)及び保護ペースト(保護材料)についても準備する。
【0046】
(正極ペースト)
正極ペーストは、正極活物質を含み、必要に応じて固体電解質や導電助剤、バインダ、分散剤、可塑剤、希釈剤等をさらに含んでもよい。例えば、正極ペーストは、LCPO等の正極活物質、LAGP等の酸化物固体電解質、カーボンナノファイバー等の導電助剤、バインダ、及び希釈剤を含みうる。
【0047】
(電解質ペースト)
電解質ペーストは、固体電解質を含み、必要に応じて固体電解質や導電助剤、バインダ、分散剤、可塑剤、希釈剤等をさらに含みうる。例えば、電解質ペーストは、LAGP等の固体電解質及び希釈剤を含みうる。
【0048】
(保護ペースト)
保護ペーストとして、電解質ペーストを用いてもよいし、ガラス成分やAl2O3等のセラミックス成分を含むペーストを用いてもよい。
【0049】
2)積層体を形成する工程
次いで、上記ペーストを用いて、正極合剤層41、負極合剤層42、電解質合剤層43、保護材料層21及び保護シート22を含む積層体44を形成する。本実施形態では、正極合剤層パーツ、負極合剤層パーツを作製し、これらを積層して、積層体44を形成する。
【0050】
(正極合剤層パーツの作製)
図3A~
図3Eは、正極合剤層パーツの作製工程の一例を示す模式図である。
図4A~
図4Cは、作製された正極合剤層パーツの一例を示す模式図である。このうち、
図4Aは、正極合剤層パーツの模式的な斜視図であり、
図4Bは、
図4Aの4B線に沿った模式的な断面図であり、
図4Cは、
図4Aの4C線に沿った模式的な断面図である。
【0051】
まず、支持体40の一部上に、例えばスクリーン印刷法により正極ペーストを塗工した後、乾燥させて、正極合剤層41を形成する(
図3A及び3B)。次いで、支持体40の一部上に形成された正極合剤層41の周囲に、例えばスクリーン印刷法により、保護ペーストを塗工し、乾燥させて、保護材料層21(埋込層)を形成する(
図3C参照)。
【0052】
正極ペーストの塗工及びその周囲の保護ペーストの塗工は、正極合剤層41の厚さ及び活物質量の調整等のため、交互に繰り返して複数回行われてもよい。この場合、正極ペースト及び保護ペーストの乾燥は、各々の塗工後に都度行われてもよいし、複数回の正極ペースト及び保護ペーストの塗工後に一括で行われてもよい。
【0053】
次いで、正極合剤層41上、及びその周囲に形成された保護材料層21の一部上に、例えばスクリーン印刷法により、電解質ペーストを塗工し、乾燥させて、電解質合剤層43を形成する(
図3D参照)。電解質合剤層43の形成後、それによって覆われない保護材料層21の一部上に、例えばスクリーン印刷法により、保護ペーストを塗工し、乾燥させて、保護材料層21(埋込層)を形成する(
図3E参照)。それにより、正極合剤層パーツが得られる(
図4A参照)。
【0054】
電解質ペーストの塗工及びその外側の保護ペーストの塗工は、電解質合剤層43の厚さの調整等のため、交互に繰り返して複数回行われてもよい。この場合、電解質ペースト及び保護ペーストの乾燥は、各々の塗工後に都度行われてもよいし、複数回の電解質ペースト及び保護ペーストの塗工後に一括で行われてもよい。
【0055】
なお、
図4A~
図4Cに示すような正極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを、正極合剤層パーツとして用いることもできる。また、電解質合剤層43を形成する前の、
図3Cに示すようなパーツ又は当該パーツから支持体40を剥離したものを、正極合剤層パーツとして用いることもできる。
【0056】
また、支持体40上に正極合剤層41及びその周囲の保護材料層21を形成した後、電解質合剤層43及びその外側の保護材料層21の形成を行う例を示したが、この順序を逆にすることもできる。即ち、支持体40上に、電解質合剤層43及びその外側の保護材料層21の形成した後、正極合剤層41及びその周囲の保護材料層21の形成を行うようにしてもよい。
【0057】
また、各層は、支持体40上に直接、塗布してもよいが、他の離型フィルム(例えばPETフィルム)上に塗布した後、支持体40上に転写して形成してもよい。
【0058】
(負極合剤層パーツの作製)
図5A~
図5Cは、作製された負極合剤層パーツの一例を示す模式図である。このうち、
図5Aは、負極合剤層パーツの模式的な斜視図であり、
図5Bは、
図5Aの5B線に沿った模式的な断面図であり、
図5Cは、
図5Aの5C線に沿った模式的な断面図である。
【0059】
負極合剤層パーツの作製は、上記正極合剤層パーツの作製方法と同様にして行うことができる。それにより、支持体40と、負極合剤層42及びその周囲の保護材料層21と、電解質合剤層43及びその外側の保護材料層21と、がこの順に積層された負極合剤層パーツを得ることができる(
図5A~
図5C)。
【0060】
【0061】
上記作製した正極合剤層パーツと負極合剤層パーツを積層する。例えば
図5Bの支持体40付きの負極合剤層パーツ上に、
図4Bの正極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを積層し、その上に、
図5Bに示した負極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを積層し、その上に、
図3Cに示した正極合剤層パーツから支持体40を剥離したものを積層する(
図6A参照)。そして、得られた積層物から支持体40が剥離され、下側及び上側に保護シート22を積層し、これらを所定の圧力及び温度の条件で熱圧着して、積層体44を形成する(
図6B参照)。
【0062】
正極合剤層パーツと負極合剤層パーツの積層は、電解質合剤層43を介して対向する負極合剤層42と正極合剤層41とが部分的に重なり合うように行われる。また、積層数は、求められる性能(容量等)に応じて設定されうる。
【0063】
それにより、正極合剤層41、負極合剤層42及びそれらの間に介在される電解質合剤層43と、保護材料層21及び保護シート22とを含む積層体44が形成される(
図6B参照)。
【0064】
3)積層体を焼成する工程
次いで、得られた積層体44を、必要に応じて所定の位置C1及び位置C2で切断する(
図6B参照)。そして、得られた積層体44を、所定の温度で焼成する(
図7A及び7B参照)。
【0065】
(脱脂・焼成)
積層体44を、所定の雰囲気、温度及び時間の条件の下で熱処理する。熱処理は、例えば熱処理炉45で行うことができる。具体的には、主にバインダ等の有機成分を焼失させる脱脂のための熱処理、主に固体電解質及び保護材料を焼結させる焼成のための熱処理を行う。
【0066】
脱脂のための熱処理は、例えば酸素を含む雰囲気下、300~600℃で5~30時間、好ましくは500℃で10時間保持して行うことができる。焼成のための熱処理は、例えば窒素又は酸素を含む雰囲気下、400~650℃で1~10時間、好ましくは600℃で2時間保持して行うことができる。
【0067】
焼成のための熱処理により、積層体44に含まれる電解質合剤層43内の固体電解質や、正極合剤層41内及び負極合剤層42内の固体電解質が焼結される。また、焼成のための熱処理により、積層体44に含まれる保護材料層21や保護シート22が焼結され、それらが互いに一体化される。これにより、正極層11、負極層12、固体電解質層13及び保護層20を有する積層体44の焼結物が形成される(
図7B参照)。
【0068】
積層体44の焼結物の位置C1での切断面は、正極引出面1aとなり、正極引出面1aから露出する正極層11の端面11aは、外部電極31と接続される。積層体44の焼結物の位置C2での切断面は、負極引出面1bとなり、負極引出面1bから露出する負極層12の端面12aは、外部電極32と接続される。それにより、固体電池本体10を得ることができる(
図7B参照)。
【0069】
(外部電極の形成)
得られた積層体44の焼結物の正極引出面1aに外部電極31を形成し、負極引出面1bに外部電極32を形成する。外部電極31及び外部電極32は、例えば導電性ペーストを塗工、乾燥、硬化させる方法や、スパッタ法やメッキ法等で金属を堆積させる方法により形成される。これにより、固体電池1が得られる(
図7C参照)。
【0070】
3.変形例
なお、上記実施形態では、固体電池本体10を構成する正極層11、負極層12及び固体電解質層13が、それぞれ複数ずつあるが、これに限らず、それぞれ1つずつであってもよい。また、正極層11、負極層12及び固体電解質層13の数は、上記実施形態に限らず、求められる特性に応じて適宜設定されてよい。
【0071】
また、上記実施形態では、固体電解質層13、正極層11及び負極層12の固体電解質として酸化物固体電解質、好ましくはLAGPを用いている。LAGPは、非晶質のLAGPであってもよいし、結晶質のLAGPであってもよいし、それらを組み合わせたものであってもよい。
【0072】
また、LAGPのほか、NASICON型LATP(一般式Li1+zAlzTi2-z(PO4)3,0<z≦1)の1種であるLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、ガーネット型のジルコン酸ランタンリチウム(Li7La3Zr2O12,以下「LLZ」と言う)、ペロブスカイト型のチタン酸ランタンリチウム(Li0.5La0.5TiO3,以下「LLT」と言う)、一部を窒化したγ-リン酸リチウム(γ-Li3PO4,以下「LiPON」と言う)等、他の酸化物固体電解質を用いてもよい。
【0073】
固体電解質層13、正極層11及び負極層12には、互いに同種の酸化物固体電解質が用いられてもよいし、互いに異種の酸化物固体電解質が用いられてもよい。固体電解質層13、正極層11及び負極層12にはそれぞれ、1種の酸化物固体電解質が用いられてもよいし、2種以上の酸化物固体電解質が用いられてもよい。
【0074】
また、上記実施形態において、埋込層となる保護材料層21と、積層体44の下側及び上側に配置される保護シート22とは、同一組成の保護ペーストで形成されてもよいし、異なる組成の保護ペーストで形成されてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、紡錘形状を有するルチル型酸化チタンを含む負極層を、酸化物固体電解質型の固体電池の負極として用いているが、これに限らず、例えば硫化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の他の無機固体電解質型の固体電池等の負極として用いてもよい。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例を参照してさらに本発明を説明する。本発明の技術的範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0077】
1.酸化チタン粒子の物性
(酸化チタン粒子の種類)
・STR-100N(堺化学工業社製、ルチル型酸化チタン、紡錘形状)
・STR-100N-Nb(堺化学工業社製、ルチル型酸化チタン、紡錘形状、Nbドープ)
・SA-120(堺化学工業社製、アナタース型酸化チタン、球状)
・STR-40N(堺化学工業社製、ルチル型酸化チタン、球状)
【0078】
(評価)
各酸化チタン粒子の粒子径、比表面積及びアスペクト比を、以下の方法で測定した。
【0079】
(1)粒子径
SEM(日本電子株式会社製JSM-IT700HR)を用いて、(3)と同様の条件で観察した。そして、得られたSEM画像から任意の3個の酸化チタン粒子を選び、それぞれの粒子径を測定し、平均値を求めた。なお、紡錘形状の粒子については、長径の平均値、短径の平均値をそれぞれ求めた。
【0080】
(2)比表面積
比表面積は、BET装置(マイクロトラック・ベル社製BelsorpII)を用いて測定した。試料を300℃の窒素雰囲気下において3時間乾燥した後、77K(-195℃)における窒素吸着等温線を測定し、BET法により比表面積を求めた。
【0081】
(3)アスペクト比
SEM(日本電子株式会社製JSM-IT700HR)を用いて、以下の条件で観察した。
(SEM観察条件)
信号:SED
入射電圧:15.0kV
WD:11.0mm
倍率:100000
観察範囲:1.280×0.960μm
照射電流番号:Std.50.0
スキャンローテーション:353.0°
真空モード:High Vacuum
そして、得られたSEM画像から酸化チタン粒子を任意に選び、その長径と最大短径を測定し、アスペクト比を求めた。この操作を、任意の3個の酸化チタン粒子について行い、それらの平均値を採用した。
【0082】
各酸化チタン粒子の物性を表1に示し、アスペクト比の測定結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0083】
2.全固体電池の作製及び評価
[実施例1]
2-1.ペーストの作製
(1)正極ペーストの調製
正極活物質としてLi2CoP2O7粉末(LCPO粉末)を11.8質量%、固体電解質として非晶質Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3粉末(非晶質LAGP粉末)を17.7質量%、導電助剤としてVGCF粉末を2.7質量%、バインダとしてポリビニルブチラールを7.9質量%、可塑剤としてG260を0.3質量%、分散剤としてED350を0.6質量%、希釈剤としてターピネオールを59.0質量%を、ボールミルで72時間混合した後、三本ロールミルで混合分散させて、粒ゲージを用いて材料凝集体が1μm以下になるまで、分散させて、正極ペーストを得た。なお、正極活物質:固体電解質:導電助剤=40:60:9(質量比)とした。
【0084】
(2)電解質ペーストの調製
固体電解質として非晶質LAGP粉末を29.0質量%、結晶質LAGP粉末を3.0質量%、バインダにポリビニルブチラールを6.5質量%、可塑剤G260を2.0質量%、分散剤ED350を0.3質量%、分散剤ED503を16.0質量%、希釈剤としてエタノールを43.2質量%をボールミルで48時間混合した後、三本ロールミルで混合分散させて、粒ゲージを用いて材料凝集体が1μm以下になるまで、分散させて、電解質ペーストを得た。なお、非晶質LAGP:結晶質LAGP=90:10(質量比)とした。
【0085】
(3)負極ペーストの調製
負極活物質としてSTR-100N(ルチル型酸化チタン、紡錘形状)粉末を8.85質量%と、固体電解質として非晶質LAGP粉末を20.65質量%、導電助剤としてVGCF粉末を2.7質量%、バインダとしてポリビニルブチラールを7.9質量%、可塑剤としてG260を0.3質量%、分散剤としてED350を0.6質量%、希釈剤としてターピネオールを59.0質量%を、ボールミルで72時間混合した後、三本ロールミルで混合分散させて、粒ゲージを用いて材料凝集体が1μm以下になるまで、分散させて、負極ペーストを得た。なお、負極活物質:固体電解質:導電助剤=30:60:9(質量比)とした。
【0086】
2-2.固体電池の作製
(1)正極合剤層パーツの作製
PETフィルム上に、スクリーン印刷法で上記電解質ペーストをパターン印刷し、90℃で5分間乾燥させた。その上に、上記正極ペーストをスクリーン印刷法でパターン印刷し、90℃で5分間乾燥させた。次いで、パターン印刷した正極ペーストの周囲に、スクリーン印刷法で上記電解質ペースト(埋込みペースト)を印刷した後、90℃で5分間乾燥させた。これらの操作を、所定の厚みになるまで繰り返した。それにより、PETフィルム/電解質合剤層/正極合剤層及びその周囲の電解質合剤層の積層構造を有する正極合剤層パーツを作製した。
【0087】
(2)負極合剤層パーツの作製
上記正極ペーストに代えて、上記負極ペーストを用いた以外は正極合剤層パーツと同様にして負極合剤層パーツを作製した。それにより、PETフィルム/電解質合剤層/負極合剤層及びその周囲の電解質合剤層の積層構造を有する負極合剤層パーツを作製した。
【0088】
(3)上側カバー及び下側カバーの作製
PETフィルム上に、上記電解質ペーストをベタ状に印刷(全面印刷)した後、乾燥させた。それにより、PETフィルム/電解質合剤層の積層構造を有する上側カバー及び下側カバーをそれぞれ作製した。
【0089】
(4)積層体の作製
1)上記作製した下面カバーの電解質合剤層上に、上記作製した正極合剤層パーツを、その正極合剤層が下側カバーの電解質合剤層と接するように積層し、熱圧着させて、正極合剤層/電解質合剤層を転写した。
2)次いで、転写した電解質合剤層上に、負極合剤層パーツを、その負極合剤層が当該電解質合剤層と接するように積層し、熱圧着させて、負極合剤層/電解質合剤層を転写した。
3)上記1)の正極合剤層パーツと2)の負極合剤層パーツの転写を、所定の積層数(10層)となるまで繰り返した。
熱圧着条件は、いずれも20MPa、70℃とした。それにより、
図1B及び1Cに示されるような積層構造を有する積層体を得た。
【0090】
(5)脱脂及び焼成
この積層体を4.5mm×3.2mmの平面寸法になるように切断した後、2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、大気雰囲気下、500℃で1時間加熱して、バインダ成分の脱脂を行った。その後、窒素雰囲気下、600℃で2時間加熱した。それにより、積層体を焼成した。焼成後の正極層の厚みは20μm、電解質層の厚みは5μm、負極層の厚みは、15μmであった。
【0091】
(6)外部電極の形成
得られた焼成後の積層体の引き出し部を覆うようにして外部電極を形成した。外部電極は、銀を含む主材を塗布した後、その表面にNiメッキおよびSnメッキを施して形成した。それにより、
図1に示されるような固体電池を作製した。
【0092】
[実施例2]
負極活物質としてSTR-100N-Nb(ルチル型酸化チタン、紡錘形状、Nbドープ)粉末を用いた以外は実施例1と同様にして負極ペーストを作製し、それを用いて固体電池を作製した。
【0093】
[比較例1]
負極活物質としてSA-120(アナタース型酸化チタン、球状)粉末を用いた以外は実施例1と同様にして負極ペーストを作製し、それを用いて固体電池を作製した。
【0094】
[比較例2]
負極活物質としてSTR-40N(ルチル型酸化チタン、球状)粉末を用いた以外は実施例1と同様にして負極ペーストを作製し、それを用いて固体電池を作製した。
【0095】
2-3.評価
(1)初期充放電特性
作製した固体電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
(充電条件)
充電は、CC充電モード(Constant Current)で行った。CC充電モードの電流レートは20μA(0.2C)、3.6V終止とした(但し、STR-100N-Nbは4V終止とした)。
(放電条件)
放電は、CC放電モードで行った。電流レートは20μA(0.2C)、0V終止とした。充放電試験は、20℃で実施した。
【0096】
(2)レート特性
作製した固体電池について、以下の条件で負荷試験を行った。
(充電条件)
充電は、CC充電モードで行った。CC充電モードの電流レートは20μA(0.2C)、3.6V終止とした(STR-100N-Nbは4V終止)とした。
(放電条件)
放電は、CC放電モードで行い、0V終止とした。
電流レートは、20μA(0.2C)→40μA(0.4C)→80μA(0.8C)→160μA(1.6C)→320μA(3.2C)→20μA(0.2C)のように変化させた。負荷試験は、20℃で実施した。
【0097】
実施例1~2及び比較例1~2の初期充放電特性の結果を表3に、レート特性の結果を表4に示す。
また、実施例1、実施例2及び比較例1のレート特性の放電カーブを、それぞれ
図8A、8B及び8Cに示し、これらのレート特性をまとめたグラフを
図9に示す。
【表3】
【表4】
【0098】
表3に示される通り、実施例1及び2の固体電池は、比較例1及び2の固体電池と比べて概ね遜色ない初期特性を示すことがわかる。また、実施例2では、実施例1と比べて初期特性の改善がみられる。具体的には、Nbドープした酸化チタンを用いた実施例2のほうが、Nbドープしていない酸化チタンを用いた実施例1よりも初期放電容量及び電圧がより高く、良好な特性を示すことがわかる。
【0099】
表4に示される通り、実施例1及び2の全固体電池は、比較例1及び2の全固体電池よりも良好なレート特性を示すことがわかる(
図8A~
図8C、及び
図9参照)。
特に、Nbドープしていないルチル型酸化チタンを用いた実施例1のほうが、Nbドープしたルチル型酸化チタンを用いた実施例2よりもレート特性がより高いことがわかる。
【0100】
3.非晶質LAGPとの焼成による副反応の検討(参考試験)
3-1.負極ペレットの作製
(負極ペレット1-1、焼成なし)
負極活物質としてSA-120(アナタース型酸化チタン、球状)粉末を25質量%と、アセチレンブラック(AB)60質量%と、PTFE 15質量%とを混合して、負極合剤とした。これを、金型で圧縮成形して、直径8mm、厚み500μmの円形状の負極ペレットとした。
【0101】
(負極ペレット1-2、焼成あり)
負極活物質としてSA-120(アナタース型酸化チタン、球状)粉末を20質量%と、非晶質LAGPを80質量%とを混合した。この粉末を、窒素雰囲気下で600℃で2時間加熱して焼成し、負極合剤とした。これを、金型で圧縮成形して、直径8mm、厚み500μmの円形状の負極ペレットとした。
【0102】
(負極ペレット2-1、焼成なし)
負極活物質としてSTR-100N(ルチル型酸化チタン、紡錘形状)粉末を用いた以外は負極ペレット1-1と同様にして負極ペレットを作製した。
【0103】
(負極ペレット2-2、焼成あり)
負極活物質としてSTR-100N(ルチル型酸化チタン、紡錘形状)粉末を用いた以外は負極ペレット1-2と同様にして負極ペレットを作製した。
【0104】
3-2.評価セルの作製
上記作製した負極ペレットを用いて、以下の条件で評価セルを作製した。
(作製条件)
・作用極:負極ペレット(直径8mm、厚み500μm)
・対極:Li金属(直径15mm、厚み750μm、銅箔に貼り付け使用)
・セパレータ:ポリプロピレン(PP)
・電解液:EC/EMC(3/7体積比)/1M LiPF6
【0105】
3-3.評価
作製した評価セルについて、以下の条件で充放電試験を行った。
(充放電条件)
負極ペレット1-1及び1-2:
CC充電モード3.0V終止(0.1C)、CC放電モード1.0V終止(0.1C)、温度25℃
負極ペレット2-1及び2-2:
CC充電モード3.0V終止(0.1C)、CC放電モード1.25V終止(0.1C)、温度25℃
【0106】
【0107】
図10A及び
図10Bに示されるように、アナタース型酸化チタンを用いた負極ペレットでは、非晶質LAGPとの焼結後には、焼結しなかった場合にはみられなかった2.5V領域での反応がみられた(負極ペレット1-1と1-2の比較)。これは、酸化チタンが、焼成時に非晶質LAGPと反応して、LATPを生成したことによる挙動とみられる。
【0108】
これに対し、
図11A及び
図11Bに示されるように、紡錘形状を有するルチル型酸化チタンを用いた負極ペレットでは、非晶質LAGPと焼成した後でも、2.5V領域での反応はみられなかった(負極ペレット2-1と2-2の比較)。
【0109】
これらの結果から、紡錘形状を有するルチル型酸化チタンは、アナタース型酸化チタンと比べて、焼成時に非晶質LAGPとの間で副反応が少なく、良好な充放電挙動を維持できることがわかる。