(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043877
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】セルロースゲル電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240326BHJP
C08B 11/145 20060101ALI20240326BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240326BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C08B11/145
H01M10/0565
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149101
(22)【出願日】2022-09-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [ウェブサイト]令和3年9月20日掲載 https://digital-archives.sophia.ac.jp/repository/view/repository/20219600310 [ウェブサイト]令和4年5月10日掲載 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://member.spsj.or.jp/convention/spsj2022/download_pdf.php?id=1H28 [発 表]令和4年5月25日開催、第71回高分子学会年次大会
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正博
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤(ザイラ) エリザベス ラダ デシデリア
(72)【発明者】
【氏名】林 祐太朗
【テーマコード(参考)】
4C090
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA05
4C090BA28
4C090BB62
4C090BB92
4C090BC01
4C090BD36
4C090CA36
4C090DA40
5G301CD01
5H029AJ14
5H029AM07
5H029AM16
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】新規なセルロースゲル電解質を提供する。
【解決手段】イオン液体と、カチオン化セルロースと、を含み、イオン液体のカチオン部が、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンを含み、イオン液体のアニオン部がスルホニルイミドイオンを含む、セルロースゲル電解質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体と、
カチオン化セルロースと、
を含み、
前記イオン液体のカチオン部が、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンを含み、
前記イオン液体のアニオン部がスルホニルイミドアニオンを含む、セルロースゲル電解質。
【請求項2】
前記カチオン化セルロースが下記一般式(1)で表される、請求項1に記載のセルロースゲル電解質。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1はHまたは下記式(2)で表される基であり、n1は平均値であり、150以上3000以下の数である。)
【化2】
【請求項3】
前記カチオン化セルロースの置換度が0.6以上である、請求項1または2に記載のセルロースゲル電解質。
【請求項4】
前記スルホニルイミドアニオンが下記一般式(3)で表される、請求項1または2に記載のセルロースゲル電解質。
【化3】
(上記一般式(3)中、R
2およびR
3は、独立して、-C
pF
2p+1基であるか、または、R
2およびR
3が独立して-C
qF
2q-基であってNおよび二つのSとともに環を形成している。pは0以上4以下の整数であり、qは1または2である。)
【請求項5】
前記イオン液体の前記カチオン部が、下記一般式(4)、(5)および(6)で表されるカチオンからなる群から選択される一または二以上のカチオンである、請求項1または2に記載のセルロースゲル電解質。
【化4】
(上記一般式(4)中、R
4およびR
5は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基であるか、または、R
4およびR
5が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成しており、前記環の骨格中に酸素原子を有してもよい。R
6およびR
7は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上6以下のアルキル基であるか、または、R
6およびR
7が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成している。)
【化5】
(上記一般式(5)中、R
8は分岐を有してもよい炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【化6】
(上記一般式(6)中、R
9~R
12は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項6】
セルロースおよびイオン液体を含むセルロース溶液を準備する工程と、
前記セルロース溶液にカチオン化剤を添加することにより、カチオン化セルロース溶液を得る工程と、
カチオン化セルロース溶液を得る前記工程の後、前記カチオン化セルロース溶液にスルホニルイミドアニオンを添加することにより、ゲルを形成する工程と、
を含み、
前記イオン液体のカチオン部が、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンであり、
前記イオン液体のアニオン部が水酸化物イオンである、セルロースゲル電解質の製造方法。
【請求項7】
カチオン化セルロース溶液を得る前記工程において、下記一般式(1)で表されるカチオン化セルロースを形成する、請求項6に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【化7】
(上記一般式(1)中、R
1はHまたは下記式(2)で表される基であり、n1は平均値であり、150以上3000以下の数である。)
【化8】
【請求項8】
カチオン化セルロース溶液を得る前記工程において、置換度が0.6以上のカチオン化セルロースを形成する、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【請求項9】
前記カチオン化剤が、下記一般式(7)で表される化合物および下記一般式(8)で表される化合物からなる群から選択される一または二以上の化合物を含む、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【化9】
(上記一般式(7)および(8)中、R
13~R
15は、独立して、炭素数1以上3以下のアルキル基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、Zはハロゲン原子である。)
【請求項10】
前記スルホニルイミドアニオンが下記一般式(3)で表される、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【化10】
(上記一般式(3)中、R
2およびR
3は、独立して、-C
pF
2p+1基であるか、または、R
2およびR
3が独立して-C
qF
2q-基であってNおよび二つのSとともに環を形成している。pは0以上4以下の整数であり、qは1または2である。)
【請求項11】
前記イオン液体の前記カチオン部が、下記一般式(4)、(5)および(6)で表されるカチオンからなる群から選択される一または二以上のカチオンである、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【化11】
(上記一般式(4)中、R
4およびR
5は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基であるか、または、R
4およびR
5が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成しており、前記環の骨格中に酸素原子を有してもよい。R
6およびR
7は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上6以下のアルキル基であるか、または、R
6およびR
7が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成している。)
【化12】
(上記一般式(5)中、R
8は分岐を有してもよい炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【化13】
(上記一般式(6)中、R
9~R
12は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
【請求項12】
セルロース溶液を準備する前記工程が、5℃以上40℃以下にて10分以内に前記イオン液体および前記セルロースを混合する工程である、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【請求項13】
カチオン化セルロース溶液を得る前記工程を、5℃以上40℃以下にて20分以内に行う、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【請求項14】
ゲルを形成する前記工程を、5℃以上40℃以下にて5分以内に行う、請求項6または7に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースゲル電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースゲルに関する技術として、特許文献1(特開2012-142116号公報)に記載のものがある。同文献には、アルカリ金属イオン二次電池用ゲル電解質であって、ゲル電解質が、アルカリ金属塩を溶媒に溶解してなる電解液を熱可塑性セルロース系樹脂で保持してなるゲル電解質であるアルカリ金属イオン二次電池用ゲル電解質について記載されており(請求項1)、セルロース系樹脂が、カチオン性セルロース又はその誘導体であってよいこと(請求項2)、イオン性液体のアニオンがフッ素系、シアネート系、チオシアネート系であってよいことが記載されている(段落0034)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術においては、ゲル電解質の製造容易性およびカチオン化セルロースの置換度の向上の点で改善の余地があった。
そこで、本発明は、新規なセルロースゲル電解質を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下のセルロースゲル電解質およびその製造方法が提供される。
[1] イオン液体と、
カチオン化セルロースと、
を含み、
前記イオン液体のカチオン部が、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンを含み、
前記イオン液体のアニオン部がスルホニルイミドアニオンを含む、セルロースゲル電解質。
[2] 前記カチオン化セルロースが下記一般式(1)で表される、[1]に記載のセルロースゲル電解質。
(上記一般式(1)中、R
1はHまたは下記式(2)で表される基であり、n1は平均値であり、150以上3000以下の数である。)
[3] 前記カチオン化セルロースの置換度が0.6以上である、[1]または[2]に記載のセルロースゲル電解質。
[4] 前記スルホニルイミドアニオンが下記一般式(3)で表される、[1]乃至[3]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質。
(上記一般式(3)中、R
2およびR
3は、独立して、-C
pF
2p+1基であるか、または、R
2およびR
3が独立して-C
qF
2q-基であってNおよび二つのSとともに環を形成している。pは0以上4以下の整数であり、qは1または2である。)
[5] 前記イオン液体の前記カチオン部が、下記一般式(4)、(5)および(6)で表されるカチオンからなる群から選択される一または二以上のカチオンである、[1]乃至[4]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質。
(上記一般式(4)中、R
4およびR
5は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基であるか、または、R
4およびR
5が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成しており、前記環の骨格中に酸素原子を有してもよい。R
6およびR
7は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上6以下のアルキル基であるか、または、R
6およびR
7が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成している。)
(上記一般式(5)中、R
8は分岐を有してもよい炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
(上記一般式(6)中、R
9~R
12は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
[6] セルロースおよびイオン液体を含むセルロース溶液を準備する工程と、
前記セルロース溶液にカチオン化剤を添加することにより、カチオン化セルロース溶液を得る工程と、
カチオン化セルロース溶液を得る前記工程の後、前記カチオン化セルロース溶液にスルホニルイミドアニオンを添加することにより、ゲルを形成する工程と、
を含み、
前記イオン液体のカチオン部が、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンであり、
前記イオン液体のアニオン部が水酸化物イオンである、セルロースゲル電解質の製造方法。
[7] カチオン化セルロース溶液を得る前記工程において、下記一般式(1)で表されるカチオン化セルロースを形成する、[6]に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
(上記一般式(1)中、R
1はHまたは下記式(2)で表される基であり、n1は平均値であり、150以上3000以下の数である。)
[8] カチオン化セルロース溶液を得る前記工程において、置換度が0.6以上のカチオン化セルロースを形成する、[6]または[7]に記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
[9] 前記カチオン化剤が、下記一般式(7)で表される化合物および下記一般式(8)で表される化合物からなる群から選択される一または二以上の化合物を含む、[6]乃至[8]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
(上記一般式(7)および(8)中、R
13~R
15は、独立して、炭素数1以上3以下のアルキル基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、Zはハロゲン原子である。)
[10] 前記スルホニルイミドアニオンが下記一般式(3)で表される、[6]乃至[9]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
(上記一般式(3)中、R
2およびR
3は、独立して、-C
pF
2p+1基であるか、または、R
2およびR
3が独立して-C
qF
2q-基であってNおよび二つのSとともに環を形成している。pは0以上4以下の整数であり、qは1または2である。)
[11] 前記イオン液体の前記カチオン部が、下記一般式(4)、(5)および(6)で表されるカチオンからなる群から選択される一または二以上のカチオンである、[6]乃至[10]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
(上記一般式(4)中、R
4およびR
5は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基であるか、または、R
4およびR
5が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成しており、前記環の骨格中に酸素原子を有してもよい。R
6およびR
7は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上6以下のアルキル基であるか、または、R
6およびR
7が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成している。)
(上記一般式(5)中、R
8は分岐を有してもよい炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
(上記一般式(6)中、R
9~R
12は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
[12] セルロース溶液を準備する前記工程が、5℃以上40℃以下にて10分以内に前記イオン液体および前記セルロースを混合する工程である、[6]乃至[11]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
[13] カチオン化セルロース溶液を得る前記工程を、5℃以上40℃以下にて20分以内に行う、[6]乃至[12]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
[14] ゲルを形成する前記工程を、5℃以上40℃以下にて5分以内に行う、[6]乃至[13]いずれか一つに記載のセルロースゲル電解質の製造方法。
【0006】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明によれば、上述した本発明におけるセルロースゲル電解質の製造方法に用いられるカチオン化セルロース溶液であって、前記イオン液体および前記カチオン化セルロースを含む、カチオン化セルロース溶液を得ることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規なセルロースゲル電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例で得られたカチオン性セルロースの
1H NMRチャート(部分拡大図)を示す図である。
【
図2】実施例におけるカチオン化剤の添加量とカチオン化セルロースの置換度との関係を示す図である。
【
図3】実施例で得られたセルロースゲル電解質のイオン導電率のアレニウスプロットを示す図である。
【
図4】イオン液体へのセルロースの溶解性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を具体例に基づいて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、以上、以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。
【0010】
(セルロースゲル電解質)
本実施形態において、セルロースゲル電解質は、イオン液体と、カチオン化セルロースと、を含む。イオン液体のカチオン部は、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンを含む。また、イオン液体のアニオン部はスルホニルイミドアニオンを含む。
セルロースゲル電解質は、たとえば、カチオン部として上記カチオンを含むイオン液体(第一のイオン液体)と、カチオン化セルロースと、スルホニルイミドアニオンとを配合してなる。
【0011】
本実施形態におけるセルロースゲル電解質は上述の成分を組み合わせて含むため、製造容易性に優れている。具体的には、製造工程をたとえば大気中でおこなうことができるため、不活性ガス雰囲気下とする等の雰囲気制御を要しない。また、製造工程をたとえば室温(25℃)でおこなうことができるため、60℃程度以上の高温への加熱を要しない。また、製造における各工程をたとえば数分~数十分程度とすることもできるため、短時間でセルロースゲル電解質を得ることができる。
また、本実施形態におけるセルロースゲル電解質においては、カチオン化セルロースの置換度(DS)を好適に高めることができるため、ゲル電解質としての適用範囲の自由度に優れている。
【0012】
セルロースゲル電解質は、具体的にはゲル状物質により構成されている。ゲル状物質は、具体的には、カチオン化セルロースを含んで構成される三次元網目構造を有し、液体が適用されたときにゲル状となる物質である。したがって、セルロースゲル電解質は、溶媒中に膨潤している状態であってもよいし、溶媒に膨潤していない状態、たとえば乾燥物であり所望のタイミングで溶媒が適用されてゲル状となる状態であってもよい。
以下、セルロースゲル電解質の構成をさらに具体的に説明する。
【0013】
(イオン液体)
イオン液体は、特定のカチオンを含むカチオン部と、特定のアニオンを含むアニオン部を有する。
【0014】
(カチオン部)
カチオン部は、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンを含み、好ましくは、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンである。
セルロースの溶解性向上の観点から、カチオン部は、好ましくは一般式(4)、(5)および(6)で表されるカチオンからなる群から選択される一または二以上のカチオンであり、より好ましくは一般式(4)で表されるカチオンである。
【0015】
【0016】
(上記一般式(4)中、R4およびR5は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基であるか、または、R4およびR5が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成しており、環の骨格中に酸素原子を有してもよい。R6およびR7は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上6以下のアルキル基であるか、または、R6およびR7が独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成している。)
【0017】
【0018】
(上記一般式(5)中、R8は分岐を有してもよい炭素数1以上3以下のアルキル基である。)
【0019】
【0020】
(上記一般式(6)中、R9~R12は、独立して、分岐を有してもよい炭素数1以上4以下のアルキル基である。)
【0021】
一般式(4)に示したカチオンは、ピロリジニウムおよび4級アンモニウムの具体例を含む。
一般式(4)中、R4およびR5は、カチオン化セルロースの置換度向上の観点から、好ましくは独立して炭素数1以上3以下のアルキレン基であってNとともに環を形成しており、より好ましくはいずれも炭素数2のアルキレン基であってNとともに環を形成している。
一般式(4)に示したカチオンとして、たとえば下記一般式または式で表されるものが挙げられる。
【0022】
【0023】
(上記一般式中、n2は1以上4以下の整数である。)
【0024】
一般式(5)に示したカチオンは、ピロリジニウムの具体例である。一般式(5)中、R8は、カチオン化セルロースの置換度向上の観点から、好ましくは炭素数1以上3以下の直鎖アルキル基である。
一般式(5)に示したカチオンとして、たとえば下記式で表されるものが挙げられる。
【0025】
【0026】
一般式(6)に示したカチオンは、4級ホスホニウムの具体例である。一般式(6)中、R9~R12は、カチオン化セルロースの置換度向上の観点から、好ましくは炭素数1以上4以下の直鎖アルキル基である。一般式(6)に示したカチオンとして、たとえば下記式で表されるものが挙げられる。
【0027】
【0028】
本実施形態において、上記カチオンは、たとえば、セルロースゲル電解質の製造工程において、第一のイオン液体のカチオン部としてセルロースゲル電解質中に配合することができる。このとき、第一のイオン液体は、好ましくは、カチオン部として上記カチオンを含むとともに、アニオン部として水酸化物イオン(OH-)を含む。
また、本実施形態において、第一のイオン液体は、セルロースの溶解性向上の観点、および、カチオン化セルロースの置換度向上の観点から、好ましくは下記式に示される[P1n3][OH](n3=1~6)および[PP][OH]からなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくは[P1n3][OH]であり、さらに好ましくは[P14][OH]である。
【0029】
【0030】
セルロースゲル電解質中の第一のイオン液体の濃度は、セルロースの溶解性向上の観点から、セルロースゲル電解質全体に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは43質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、また、たとえば80質量%以上、または85質量%以上、または90質量%以上であることも好ましい。
また、ゲル強度向上の観点から、セルロースゲル電解質中の第一のイオン液体の濃度は、セルロースゲル電解質全体に対して、好ましくは99質量%未満であり、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下であり、また、たとえば40質量%未満、またはたとえば30質量%以下であってもよい。
【0031】
(アニオン部)
アニオン部は、スルホニルイミドアニオンを含み、好ましくはスルホニルイミドアニオンにより構成される。また、アニオン部が、スルホニルイミドアニオンと水酸化物イオンとを含んでもよい。
【0032】
(スルホニルイミドアニオン)
スルホニルイミドアニオンは、具体的には、下記一般式(3)で表されるアニオンである。
【0033】
【0034】
(上記一般式(3)中、R2およびR3は、独立して、-CpF2p+1基であるか、または、R2およびR3が独立して-CqF2q-基であってNおよび二つのSとともに環を形成している。pは0以上4以下の整数であり、qは1または2である。)
【0035】
一般式(3)中、R2およびR3は、好ましくは独立して-CpF2p+1基であり、pは好ましくは0以上2以下であり、より好ましくは0または1、さらに好ましくは0である。
また、一般式(3)中、ゲル電解質のコスト低減および入手容易性向上の観点から、R2およびR3が同じ基であることが好ましい。
【0036】
一般式(3)に示したスルホニルイミドアニオンとして、たとえば、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSIアニオン)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSIアニオン)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン(BETIアニオン)、ビス(ヘプタフルオロプロピルスルホニル)イミドアニオン、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオン(NFSIアニオン)等の鎖状スルホニルイミドアニオン;および、
N,N-ヘキサフルオロ-1,3-ジスルホニルイミドアニオン(CFSIアニオン)等の環状スルホニルイミドアニオンが挙げられる。
【0037】
スルホニルイミドアニオンは、たとえば、セルロースゲル電解質の製造工程において、疎水性イオン液体のアニオン部としてセルロースゲル電解質中に配合することができる。このとき、疎水性イオン液体のカチオン部として、Li、Na、K等のアルカリ金属のカチオンが挙げられ、好ましくはLiである。
【0038】
セルロースゲル電解質中のスルホニルイミドアニオンの濃度は、たとえば、スルホニルイミドアニオンをカチオン部とする疎水性イオン液体(以下、適宜「第二のイオン液体」とも呼ぶ。)の配合量を調整することにより制御することができる。
セルロースゲル電解質中の第二のイオン液体の濃度は、セルロースゲル電解質全体に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは43質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、また、たとえば80質量%以上、または85質量%以上、または90質量%以上であることも好ましい。
また、ゲル強度向上の観点から、セルロースゲル電解質中の第二のイオン液体の濃度は、セルロースゲル電解質全体に対して、好ましくは99質量%未満であり、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下であり、また、たとえば40質量%未満、またはたとえば30質量%以下であってもよい。
【0039】
セルロースゲル電解質中の第一のイオン液体と第二のイオン液体との質量比(第一のイオン液体/第二のイオン液体)は、たとえば、1.2/1~1/1.2であり、好ましくは1.1/1~1/1.1であり、より好ましくは1/1である。また、上記質量比は、さらに好ましくは、第一のイオン液体/第二のイオン液体=0/1である。
【0040】
(カチオン化セルロース)
本実施形態において、カチオン化セルロースは、具体的には、セルロース中の水酸基の少なくとも一部がカチオン基に置換された構造を有する。カチオン化セルロースは、好ましくは下記一般式(1)で表される。
【0041】
【0042】
(上記一般式(1)中、R1はHまたは下記式(2)で表される基であり、n1は平均値であり、150以上3000以下の数である。)
【0043】
【0044】
上記一般式(1)中、n1は、ゲル強度向上の観点から、好ましくは150以上であり、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上である。
また、ゲル中でのカチオン化セルロースのDS値のばらつきを低減する観点から、n1は、好ましくは3000以下であり、より好ましくは900以下、さらにより好ましくは800以下である。
【0045】
カチオン化セルロースにおけるカチオン基の置換度(DS)は、イオン導電率向上の観点から、たとえば0.3以上であり、好ましくは0.6以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.5以上である。
また、上記DSは、具体的には3以下であり、たとえば2.5以下であってよく、また、たとえば2.2以下であってもよい。
【0046】
また、カチオン化セルロースは、セルロースゲル電解質中で、スルホニルイミドアニオンを介して架橋構造を形成していてもよい。
【0047】
セルロースゲル電解質中のカチオン化セルロースの濃度は、イオン導電率向上の観点から、セルロースゲル電解質全体に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
また、ゲル強度向上の観点から、セルロースゲル電解質中のカチオン化セルロースの濃度は、セルロースゲル電解質全体に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
【0048】
また、セルロースゲル電解質は上述の成分以外の成分をさらに含んでもよい。
たとえば、セルロースゲル電解質は、たとえば水をさらに含む。
セルロースゲル電解質中の水の量は、たとえば、セルロースゲル電解質に含まれる水以外の成分を除いた残部とすることができる。
また、セルロースゲル電解質中の水の量は、セルロースゲル電解質全体に対して、たとえば0~50質量%程度であってもよい。
【0049】
次に、セルロースゲル電解質の製造方法を説明する。
セルロースゲル電解質の製造方法は、たとえば以下の各工程を含むものとすることができる。
(工程10)セルロースおよび第一のイオン液体を含むセルロース溶液を準備する工程
(工程20)セルロース溶液にカチオン化剤を添加することにより、カチオン化セルロース溶液を得る工程
(工程30)上記工程20の後、カチオン化セルロース溶液にスルホニルイミドアニオンを添加することにより、ゲルを形成する工程
そして、第一のイオン液体のカチオン部が、具体的には、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンであり、第一のイオン液体のアニオン部が、具体的には、水酸化物イオンである。
以下、各工程を説明する。
【0050】
工程10においては、セルロース溶液を準備する。工程10は、たとえば、セルロースと第一のイオン液体を含む溶媒とを混合してセルロース溶液を得ることにより行うことができる。
このときの温度は、セルロースの溶解性と温和な条件とのバランスを好ましいものとする観点から、たとえば0℃以上であり、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、また、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。また、混合時間は、たとえば1分以上、好ましくは5分以上であり、また、好ましくは15分以下であり、より好ましくは10分以下である。
さらに具体的には、工程10は、5℃以上40℃以下にて10分以内に第一のイオン液体およびセルロースを混合する工程であることも好ましい。
本実施形態においては、溶媒として前述の第一のイオン液体を含むものを用いるため、たとえば~20質量%程度の高濃度のセルロース溶液をたとえば室温等の非加熱下、短時間で得ることができる。
【0051】
セルロースの具体例として、綿リンター、木材パルプなどから得られる植物セルロース;微生物の産生するバクテリアセルロース;ホヤセルロースなどの動物セルロース;再生セルロース;およびこれらを精製して得られる精製セルロースからなる群から選択される一種または二種以上が挙げられる。セルロースゲル電解質の物性のばらつきを低減する観点から、セルロースは、好ましくは精製セルロースであり、より好ましくは結晶セルロースである。また、セルロースは、ヒドロキシ基の置換処理がなされたセルロース誘導体ではないことが好ましい。
【0052】
セルロースの重合度は、ゲル強度向上の観点から、好ましくは150以上であり、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上である。
また、取扱容易性を高める観点から、セルロースの重合度は、好ましくは3000以下であり、より好ましくは900以下、さらにより好ましくは800以下である。
【0053】
また、セルロースの性状は、取扱容易性に優れる観点から、好ましくは粉体である。このとき、セルロースの粒子径が10~100μm程度であってもよい。
【0054】
セルロース溶液中のセルロースの濃度は、セルロースゲル電解質の強度向上の観点から、セルロース溶液全体に対して好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。
また、セルロース溶液へのセルロースの溶解性を向上する観点から、セルロース溶液中のセルロースの濃度は、セルロース溶液全体に対して、たとえば30質量%以下であってよく、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0055】
溶媒は、好ましくは、ピロリジニウム、4級アンモニウムおよび4級ホスホニウムからなる群から選択される一または二以上のカチオンと水酸化物イオンとを含んで構成されるイオン液体すなわち第一のイオン液体を含み、より好ましくは第一のイオン液体および水を含む。溶媒が第一のイオン液体を含むことにより、セルロースの高濃度溶液を非加熱条件下で短時間に得ることができる。
【0056】
溶媒中の第一のイオン液体の含有量は、セルロース溶液へのセルロースの溶解性を向上する観点から、溶媒全体に対して好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
同様の観点から、溶媒中の第一のイオン液体の含有量は、溶媒全体に対してたとえば100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0057】
溶媒が水を含むとき、セルロース溶液中の水の量は、たとえば、セルロース溶液中の水以外の成分を除いた残部とすることができる。
また、溶媒中の水の量は、セルロース溶液へのセルロースの溶解性を向上する観点から、溶媒全体に対して好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。
同様の観点から、溶媒中の水の量は、溶媒全体に対して好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0058】
次に、工程20では、セルロース溶液にカチオン化剤を添加することにより、カチオン化セルロース溶液を得る。
工程20は、たとえば一般式(1)に示したカチオン化セルロースを形成する工程であってもよい。また、工程20は、好ましくは置換度が0.6以上のカチオン化セルロースを形成する工程である。
【0059】
カチオン化剤は、たとえば工程20で得ようとするカチオン化セルロースのカチオン部の構成に応じて選択することができる。
カチオン剤の具体例として、3級アミンを含む化合物およびホスホニウムカチオンを有する化合物が挙げられる。このうち、3級アミンを含む化合物の具体例として、下記一般式(7)および(8)のいずれかで表される化合物、イミダゾール、ピロリジンおよびピリジンが挙げられる。
カチオン化剤の入手容易性に優れる観点、および、カチオン化セルロースの製造安定性に優れる観点から、カチオン化剤は、好ましくは3級アミンを含む化合物であり、より好ましくは下記一般式(7)で表される化合物および下記一般式(8)で表される化合物からなる群から選択される一または二以上の化合物である。カチオン化セルロースをより安定的に得る観点から、カチオン化剤は好ましくは下記一般式(7)で表される化合物である。
【0060】
【0061】
(上記一般式(7)および(8)中、R13~R15は、独立して、炭素数1以上3以下のアルキル基であり、Xは水素原子またはハロゲン原子であり、Zはハロゲン原子である。)
【0062】
一般式(7)および(8)中、R13~R15の炭素数は、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。Zの具体例として、F、Cl、BrおよびIが挙げられ、好ましくはClである。
一般式(8)中、Xは好ましくは水素原子である。
【0063】
一般式(7)および(8)に示した化合物として、たとえば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド:EPTMAC)、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト等が挙げられ、好ましくはグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドである。
【0064】
カチオン化剤の添加量は、工程10で得られたセルロース溶液に含まれるセルロースの-OH基に対して、たとえば1モル当量以上であり、好ましくは3モル当量以上であり、また、たとえば30モル当量以下であり、好ましくは24モル当量以下、より好ましくは15モル当量以下である。
【0065】
工程20の温度は、カチオン化反応の迅速な進行と温和な条件とのバランスを好ましいものとする観点から、たとえば0℃以上であり、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、また、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。また、反応時間は、たとえば1分以上、好ましくは5分以上であり、また、好ましくは20分以下であり、より好ましくは15分以下、さらに好ましくは10分以下である。
さらに具体的には、工程20を、5℃以上40℃以下にて20分以内に行うことも好ましい。
【0066】
次いで、工程30では、工程20で得られたカチオン化セルロース溶液にスルホニルイミドアニオンを添加することにより、ゲルを形成する。
工程30におけるスルホニルイミドアニオンの添加は、たとえば、アニオン部としてスルホニルイミドアニオンを含む前述の疎水性イオン液体、すなわち、第二のイオン液体を添加することによりおこなうことができる。
【0067】
また、工程30において、第二のイオン液体(疎水性イオン液体)を含む溶液を添加してもよい。このとき、第二のイオン液体を含む溶液は、第二のイオン液体と、他の溶媒とを含み、他の溶媒は、たとえば、工程10におけるセルロース溶液の溶媒として用いられるイオン液体であり、好ましくは工程10で用いられる第一のイオン液体と同じものである。
【0068】
工程30の温度は、ゲル化の迅速な進行と温和な条件とのバランスを好ましいものとする観点から、たとえば0℃以上であり、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、また、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下である。また、反応時間は、たとえば10秒以上であり、好ましくは30秒以上であり、また、好ましくは10分以下であり、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは2分以下である。
さらに具体的には、工程30を、5℃以上40℃以下にて5分以内に行うことも好ましい。
【0069】
また、本実施形態の製造方法は、工程30の後、セルロースゲル電解質中の不溶物を分離する工程、および、上記工程で得られた不溶物と膨潤溶媒とを混合して再膨潤ゲルを得る工程をさらに含んでもよい。これにより、膨潤溶媒の置換が可能となる。膨潤溶媒として、たとえば水が挙げられる。
また、本実施形態の製造方法は、上記不溶物を乾燥して乾燥物を得る工程をさらに含んでもよい。
【0070】
以上の手順により、セルロースゲル電解質が得られる。本実施形態においては、温和な条件かつ短時間でセルロースゲル電解質を得ることができる。また、本実施形態における製造方法は、カチオン化セルロースのDSの設計の自由度に優れるものである。
【0071】
本実施形態において得られるセルロースゲル電解質は、たとえば、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等の次世代型蓄電デバイスに用いることができる。また、本実施形態において、セルロースゲル電解質は電気自動車用またはモバイル製品用であってもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0073】
(実施例1)セルロースゲル電解質の製造
本例では、以下のScheme 1に示す手順でセルロースゲル電解質のワンポット合成を行った。
【0074】
【0075】
(1.N-Butyl-N-methylpyrrolidinium hydroxide 水溶液 ([P14][OH] aq.) の合成)
N-Butyl-N-methylpyrrolidinium chloride(Sigma-Aldrich社製) 50gを精製水300mLに溶解させ、0.5 当量の酸化銀(富士フィルム和光純薬社製)を加えた。遮光下、室温で1 時間攪拌し、茶褐色沈殿を濾別した。得られた薄黄色の水溶液を活性炭で脱色し、[P14][OH] aq.を得た。[P14][OH]の同定については1H NMR、FABMS測定により行った。
【0076】
(2.Cationic cellulose ([CC][Cl])の合成)
セルロース(Avicel(登録商標)cellulose PH-101、Sigma-Aldrich社製)を[P14][OH] aq.に溶解し、無水グルコースユニット(AGU)に対して3当量のglycidyl trimethylammonium chloride (EPTMAC) (Sigma-Aldrich社製)を加えた。室温(25℃)で10分間攪拌し、溶液中に[CC][Cl]を形成した。
【0077】
同定のため、得られた[CC][Cl]を手順で分離した。すなわち、反応溶液をエタノールに加え、再沈殿を行った。溶液のpH が7 になるまで、沈殿物をエタノールで洗浄した。生成した白色沈殿を濾別し、70℃ で16 時間減圧乾燥を行い、薄黄色の固体[CC][Cl]を得た。同定のため、
1H NMR(Bruker AVANCE III HD NanoBay 400 MHz NMR spectrometer、25℃)、FT-IR (ATR法、NICOLET6700、Thermo Scientific社製)測定を行った。固体[CC][Cl]の
1H NMRチャートの部分拡大図を
図1に示す。また、元素分析(Perkin Elmer 2400-II elemental analyzer)によりDS 値を算出し、側鎖に導入されたカチオン性基を定量した。
【0078】
(3.セルロースゲル電解質の形成)
[P14][OH] aq.中で[CC][Cl]を作製したあと、その水溶液に所定量のLi塩(LiTFSI:関東化学社製)を添加し、水に可溶な成分と不溶な成分に分離させ、白色のセルロースゲル電解質をワンポットで得た。その後、水に不溶な成分を精製水で繰り返し洗浄した。生成した白色沈殿を、70℃ で16 時間減圧乾燥を行い、白色のゲル電解質の乾燥物を得た。
以上の手順において、[P14][OH]およびLiTFSIの添加量は、セルロースゲル電解質中の[P14][OH]:LiTFSIの濃度比が1:1.2になる量とした。
【0079】
(実施例2~9)
実施例1において、手順2.[CC][Cl]の合成におけるEPTMACの添加量を6~24当量の範囲で変えて、DSの異なる[CC][Cl]を得た。
各例で得られた[CC][Cl]を用いる場合にも、実施例1に準じてセルロースゲル電解質を得ることができる。
【0080】
実施例1~9で得られた[CC][Cl]のDSを
図2(a)および(b)に示す。
図2(a)および(b)中、横軸はセルロースの-OH基に対するEPTMACのモル当量であり、縦軸は[CC][Cl]のDSを示す。
【0081】
(イオン導電率の測定)
実施例1に準じて得られたセルロースゲル電解質のイオン導電率を、白金電極を用いたインピーダンス測定により測定した。得られたイオン導電率のアレニウスプロットを
図3に示す。
図3中の濃度mass%およびeqは、それぞれ、セルロースの質量パーセント濃度およびセルロースの-OH基に対するEPTMACのモル当量を示す。
【0082】
(実験例1)
本例では、各種イオン液体へのセルロースの溶解性を評価した。
セルロースとして、Avicel(登録商標)cellulose PH-101、Sigma-Aldrich社製を用いた。溶媒として、前述の[P1n3][OH](n3=1~6)および[PP][OH]の水溶液を用いた。各溶媒は、実施例1における[P14][OH] aq.に準じて調製した。
各溶媒について、セルロースの最大溶解度(質量%)を求めた。すなわち、溶媒に所定量(0.5g程度)のセルロースを添加し、溶液を撹拌後、濁度計(サーモサイエンティフィック社製、EUTECH TN-100)で濁度を測定した。濁度が30 nephelometric turbidity units (NTU) を超えるまで、所定量のセルロースを繰り返し添加し、最大溶解度を求めた。結果を
図4に示す。
図4に示したように、各溶媒にセルロースが溶解することが確認された。