(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043879
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化基板用ドリル
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B23B51/00 L
B23B51/00 V
B23B51/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149104
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 壮馬
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037AA09
3C037BB00
3C037DD01
3C037FF08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】厚いガラス繊維強化基板への貫通孔形成が可能な曲げ剛性を有する小径ドリルを提供すること。
【解決手段】先端側の刃先部と基端側のネック部とを有するドリル本体を備え、刃先部の先端は、切刃と、当該ドリルの切込み回転方向でその切刃の後方側に位置する先端逃げ面とを有する。刃先部の径はネック部の径よりも大きく、刃先部とネック部との間に段差がある。ドリル本体は、連続する1条のみの切屑排出溝と、0.022~0.024のウェブテーパWTを持つドリル芯とを有する。切屑排出溝は、刃先部の先端から段差を超えてネック部まで延在する横断面L字状の主溝と、主溝よりも小さい溝幅および溝深さで主溝に添って刃先部の先端から段差を超えてネック部まで延在し、ネック部で主溝に合流して終る横断面U字状の副溝とを持つ。ウェブテーパWT=(W2-W1)/L、W1:ドリル芯先端部径、W2:ドリル芯基部径、L:ドリル芯長さとされる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのガラス繊維強化基板用ドリルであって、
先端側の刃先部と基端側のネック部とを有するドリル本体を備え、
前記刃先部の先端は、切刃と、当該ドリルの切込み回転方向でその切刃の後方側に位置する先端逃げ面とを有し、
前記刃先部の径は前記ネック部の径よりも大きく、
前記刃先部と前記ネック部との間には段差があり、
前記ドリル本体は、連続する1条のみの切屑排出溝と、0.022~0.024のウェブテーパWTを持つドリル芯とを有し、
前記切屑排出溝は、
前記刃先部の先端から前記段差を超えて前記ネック部まで延在する横断面L字状の主溝と、
前記主溝よりも小さい溝幅および溝深さで前記主溝に添って前記刃先部の先端から前記段差を超えて前記ネック部まで延在し、前記ネック部で前記主溝に合流して終る横断面U字状の副溝と、を持ち、
前記ウェブテーパWTは、WT=(W2-W1)/L、W1:ドリル芯先端部径、W2:ドリル芯基部径、L:ドリル芯長さで定義されることを特徴とするガラス繊維強化基板用ドリル。
【請求項2】
前記副溝は、前記ドリル本体の先端からそのドリル本体の全長の30%~50%の間で前記主溝に合流して終る、請求項1記載のガラス繊維強化基板用ドリル。
【請求項3】
前記主溝の幅は0.02mm~0.25mm、前記副溝の幅は0.02mm~0.12mmである、請求項1記載のガラス繊維強化基板用ドリル。
【請求項4】
前記主溝を画成する、前記切刃に繋がる一方の側壁部と、前記先端逃げ面に繋がる他方の側壁部との間の挟む角は、所定横断面において80°~100°である、請求項1記載のガラス繊維強化基板用ドリル。
【請求項5】
所定横断面において、前記一方の側壁部の断面幅が、前記他方の側壁部の断面幅よりも狭い、請求項1から4までの何れか1項記載のガラス繊維強化基板用ドリル。
【請求項6】
所定横断面において、前記他方の側壁部の断面幅が、前記一方の側壁部の断面幅に対し1.2倍~1.4倍である、請求項5記載のガラス繊維強化基板用ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーバー等に用いられる高密度プリント配線基板のコア基板等を構成するガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のサーバー用プリント配線基板の高密度化に伴い、その高密度プリント配線基板のコア基板に設けるスルーホールの間隔ピッチの狭ピッチ化が求められている。狭ピッチ化達成のためには、スルーホールを形成する貫通孔の孔径を小径化する必要がある。
【0003】
コア基板は反り対策のため、厚みが薄くできず、しかも絶縁樹脂中に含有するガラス繊維で強化されていることが多いので、貫通孔形成用のドリル径を小さくすると、ドリルがコア基板を貫通できずに曲がってしまう。それゆえ、ドリル径が小さくても、コア基板を構成する厚いガラス繊維強化基板を貫通できるドリルが必要とされている。
【0004】
ガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するための従来のドリルとしては、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このドリルは、先端側の刃先部と、刃先部よりも小径の基端側のネック部とを持つドリル本体を備え、ドリル本体は、連続する1条のみの切屑排出溝と、0.022~0.024のウェブテーパWTを持つドリル芯とを備えている。
【0005】
切屑排出溝は、主溝と、主溝に添って延在し、主溝の途中に合流して終る副溝とを有し、ウェブテーパWTは、WT=(W2-W1)/L、W2:ドリル芯基部径、W1:ドリル芯先端部径、L:ドリル芯長さで定義される。
【0006】
この従来のガラス繊維強化基板用ドリルによれば、切屑排出溝を1条のみとするとともに、切屑排出溝の主溝に添う副溝を主溝の途中に合流させることで、剛性が高められている。また、ドリル芯のウェブテーパWTを従来よりも小さい0.022~0.024として切屑排出溝の深さ割合を大きくすることで、貫通孔の内壁面を荒らす切屑が孔から排出され易くなり、内壁面上に形成されるスルーホール導体の接続の信頼性が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらこの従来のガラス繊維強化基板用ドリルでも、コア基板を構成する厚み700μm以上のガラス繊維強化基板に孔径が150μm以下の貫通孔を形成する場合には曲げ剛性が不足し、孔明け中に曲がってしまって、そのガラス繊維強化基板を貫通することができないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、ガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのドリルであって、ドリル径が小さくても高い曲げ剛性を有し、厚みが厚いガラス繊維強化基板への貫通孔形成が可能となって小径貫通孔が狭ピッチで形成できるドリルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラス繊維強化基板用ドリルは、ガラス繊維強化基板に貫通孔を形成するためのドリルであって、
先端側の刃先部と基端側のネック部とを有するドリル本体を備え、
前記刃先部の先端は、切刃と、当該ドリルの切込み回転方向でその切刃の後方側に位置する先端逃げ面とを有し、
前記刃先部の径は前記ネック部の径よりも大きく、
前記刃先部と前記ネック部との間には段差があり、
前記ドリル本体は、連続する1条のみの切屑排出溝と、0.022~0.024のウェブテーパWTを持つドリル芯とを有し、
前記切屑排出溝は、
前記刃先部の先端から前記段差を超えて前記ネック部まで延在する横断面L字状の主溝と、
前記主溝よりも小さい溝幅および溝深さで前記主溝に添って前記刃先部の先端から前記段差を超えて前記ネック部まで延在し、前記ネック部で前記主溝に合流して終る横断面U字状の副溝と、を持ち、
前記ウェブテーパWTは、WT=(W2-W1)/L、W1:ドリル芯先端部径、W2:ドリル芯基部径、L:ドリル芯長さで定義されることを特徴としている。
【0011】
なお、本発明のガラス繊維強化基板用ドリルにおいては、前記副溝は、前記ドリル本体の先端からそのドリル本体の全長の30%~50%までの間で前記主溝に合流して終ると好ましい。また、前記主溝の幅は0.02mm~0.25mm、前記副溝の幅は0.02mm~0.12mmであると好ましい。
【0012】
さらに、本発明のガラス繊維強化基板用ドリルにおいては、前記主溝を画成する、前記切刃に繋がる一方の側壁部と、前記先端逃げ面に繋がる他方の側壁部との間の挟む角は、所定横断面において80°~100°であると好ましい。また、所定横断面において、前記一方の側壁部の断面幅が、前記他方の側壁部の断面幅よりも狭いと好ましい。そして、所定横断面において、前記他方の側壁部の断面幅が、前記一方の側壁部の断面幅に対し1.2倍~1.4倍であると好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のガラス繊維強化基板用ドリルの一実施形態を示す側面図である。
【
図2】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の先端部分を拡大して示す側面図である。
【
図3】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の先端部分を拡大して示す端面図である。
【
図4】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の主溝の横断面形状を従来のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の主溝の横断面形状と比較して示す略線図である。
【
図5】上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体のウェブテーパを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラス繊維強化基板用ドリルの一実施形態が図面に基づいて説明される。
図1は、本発明のガラス繊維強化基板用ドリルの一実施形態を示す側面図であり、
図2および
図3は、上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の先端部分を拡大して示す側面図および端面図である。また、
図4は、
図1のA-A線に沿う、上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の主溝の横断面形状を従来のガラス繊維強化基板用ドリルのドリル本体の主溝の横断面形状と比較して示す略線図であり、
図5は、上記実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルのウェブテーパを示す説明図である。
【0015】
図中符号1で示されるこの実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルは、工作機械のチャック等に把持されるシャンク2と、そのシャンク2とともにドリル中心軸O上に配置されてシャンク2に基端(図では上端)を一体的に結合されるドリル本体3とを備えている。ドリル本体3は、先端側の刃先部3aと、その刃先部3aよりも小径の、基端側のネック部3bとを有するアンダーカットタイプとされている。刃先部3aの外径は例えば0.17mm、ネック部3bの外径は例えば0.15mmとされており、刃先部3aとネック部3bとの間には段差3cが形成されている。
【0016】
刃先部3aは、通常のドリルにおけると同様に、切刃5を有するとともに、
図3では時計方向である当該ドリルの切込み回転方向でその切刃の後方側に位置する先端逃げ面6を有している。先端逃げ面6は、図示例では単一面状であるが、軸線に対し周方向に並んだ多段面状でもよい。
【0017】
ドリル本体3は、連続する1条のみの、所定のねじれ角の切屑排出溝4を備えており、切屑排出溝4は、主溝4aと副溝4bとを有し、主溝4aは、刃先部3aの先端から段差3cを超えてネック部3bまで延在している。副溝4bは、その横断面において、主溝4aよりも小さい溝幅および溝深さを有して、主溝4aに添って刃先部3aの先端から段差3cを超えてネック部3bまで延在し、ネック部3bで主溝4aに合流して終る。主溝4aの幅は例えば0.02mm~0.25mmとされ、副溝4bの幅はそれと組合わされる主溝4aの幅よりも小さい限りで例えば0.02mm~0.12mmとされている。
【0018】
従来のガラス繊維強化基板用ドリルにおける主溝4aは、
図4に点線で示されるようにその横断面形状が、ドリル中心軸Oを含む平面に対して左右対称の低い壁部4eを持つ浅い概略U字状をなしている。この溝形状では、左右に位置する壁部4eが低いため上下方向に肉薄になって曲げ剛性が低くなると考えられる。また、基板へのドリルの切込みに際して右側の壁部4eで押された切屑が、基板の孔の内周面に押し付けられてその内周面を荒らすとともに、孔から抜け出しにくくなると考えられる。
【0019】
これに対し、この実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルにおける主溝4aは、
図4に実線で示されるようにその横断面形状が、切刃5に繋がる一方の側壁部4cと、先端逃げ面6に繋がる他方の側壁部4dとを持つ概略L字状をなしている。この溝形状では、主溝4aの両側に位置する2つの側壁部4c、4dが、各々概略直線状をなすとともに、従来のドリルよりも互いに近接しているため、従来のドリルよりも上下方向に肉厚になって曲げ剛性が高くなると考えられる。また、基板へのドリルの切り込みに際して一方の側壁部4cでドリル回転方向に押された切屑が、他方の側壁部4dで案内されて基板の孔から後方に抜け出し易くなると考えられる。
【0020】
上記主溝4aの横断面において、切刃5に繋がる一方の側壁部4cと、先端逃げ面6に繋がる他方の側壁部4dとの挟む角θは、
図4に示されるように80°~100°とされる。挟む角θが80°より小さいと主溝4aが狭くなり、100°より大きいと他方の側壁部4dの切屑案内機能が小さくなり、何れも切屑の排出性が低下する。
【0021】
上記主溝4aの例えば
図4に示されるような副溝4bを含まない所定横断面において、切刃5に繋がる一方の側壁部4cの断面幅が、先端逃げ面6に繋がる他方の側壁部4dの断面幅よりも狭くされている。これにより、他方の側壁部4dの切屑案内機能が良好になり、切屑の排出性が向上する。
【0022】
上記主溝4aの例えば
図4に示されるような副溝4bを含まない所定横断面において、先端逃げ面6に繋がる他方の側壁部4dの断面幅は、切刃5に繋がる一方の側壁部4cの断面幅に対し、1.2倍~1.4倍とされている。これにより、他方の側壁部4dの切屑案内機能が良好になり、切屑の排出性が向上する。
【0023】
ドリル本体3の、切屑排出溝4が形成されたドリル中心軸Oの延在方向範囲の、切屑排出溝4以外の部分は、長さLのドリル芯を形成している。ドリル芯は、0.022~0.024のウェブテーパWTを持つ。
【0024】
ウェブテーパWTは、WT=(W2-W1)/Lの計算式で定義される。ここに、W1:ドリル芯先端部径、W2:ドリル芯基部径、L:ドリル芯長さである。ドリル芯先端部径W1は、刃先部3aの外径-切屑排出溝4の先端部深さであり、ドリル芯基部径W2は、マージン部3bの外径-切屑排出溝4の基端部深さである。
【0025】
連続する1条のみの切屑排出溝を備える従来のガラス繊維強化基板用ドリルでは、例えばW1=0.020mm、W2=0.106mm、L=3.3mmで、ウェブテーパWTは0.026であり、これによる切屑排出溝の体積率は40.5%であったのに対し、この実施形態のガラス繊維強化基板用ドリル1では、例えばW1=0.020mm、W2=0.093~0.099mm、L=3.3mmで、ウェブテーパWTは0.022~0.024であり、これによる切屑排出溝の体積率は42%であった。
【0026】
この実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルによれば、切屑排出溝4を1条のみとするとともに切屑排出溝4の副溝4bを主溝4aの途中に合流させ、しかも主溝4aの横断面形状をL字状とすることで、従来のガラス繊維強化基板用ドリルよりも曲げ剛性が高められている。それゆえ、高強度で厚みの厚いガラス繊維強化基板への孔明け加工の際に、ドリルが曲がることなく、小径の貫通孔を狭ピッチで形成することができる。
【0027】
また、この実施形態のガラス繊維強化基板用ドリルによれば、ドリル芯のウェブテーパWTを0.022~0.024として切屑排出溝4の深さ割合を大きくすることと相まって、主溝4aの横断面形状をL字状として切屑を側壁部で案内することで、従来のガラス繊維強化基板用ドリルよりも切屑が孔から抜け出し易くなっている。それゆえ、高強度のガラス繊維強化基板への貫通孔の孔明け加工の際に、切屑で貫通孔の内壁面が荒らされるのを回避して、その内壁面上に形成されるスルーホール導体の接続の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 ガラス繊維強化基板用ドリル
2 シャンク
3 ドリル本体
3a 刃先部
3b ネック部
3c 段差
4 切屑排出溝
4a 主溝
4b 副溝
4c 一方の側壁部
4d 他方の側壁部
4e 壁部
5 切刃
6 先端逃げ面
O ドリル中心軸
θ 挟む角