(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043881
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】測量装置、測量装置の動作方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G01C15/00 105S
G01C15/00 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149107
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
(72)【発明者】
【氏名】森田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕晃
(57)【要約】
【課題】測量装置の整準に係る作業を効率化する。
【解決手段】水平からの傾斜角を規定の値以下に調整することが可能な整準動作が可能なトータルステーション100であって、前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値が設定する設定部を備える。測量精度が低い場合は、規定の値は大きく設定され、整準動作の時間が短縮される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平からの傾斜角を規定の値以下に調整する整準動作を行う測量装置であって、
前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値を可変して設定することが可能な設定部を備える測量装置。
【請求項2】
当該測量装置が設置された位置における当該測量装置による測量の精度の入力を受け付ける入力受付部と、
前記入力受付部が受け付けた前記測量の精度に基づき、前記規定の値を算出する算出部と
を備える請求項1に記載の測量装置。
【請求項3】
前記入力受付部が受け付ける前記測量の精度は、
測量の距離とその距離の位置における許容される測量誤差の値であり、
前記規定の値は、前記傾斜角、前記測量の距離および前記距離における前記許容される測量誤差の値の関係に基づいて算出される請求項2に記載の測量装置。
【請求項4】
前記測量の距離は、測量の対象となる測量用ターゲットの位置と当該測量装置の位置の離間距離として算出される請求項3に記載の測量装置。
【請求項5】
測量の対象となる前記測量用ターゲットの前記位置は、前記整準動作が行われる前の段階において当該測量装置により測量することで得たものである請求項4に記載の測量装置。
【請求項6】
測量装置の水平からの傾斜角を規定の値以下に調整する整準動作を行う測量装置の動作方法であって、
前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値が可変して設定される測量装置の動作方法。
【請求項7】
水平からの傾斜角を規定の値以下に調整する測量装置の整準動作の制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
コンピュータに
前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値を可変して設定する動作を行わせるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量装置の整準を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
測量装置を使用する際には、設置状態における整準が必要となる。整準は、測量装置の垂直軸をその地点(測量装置の設置場所)における鉛直軸に一致させる作業である。言い換えると、整準は、測量装置の水平を確保する調整である。自動整準については、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
過去には、調整ネジを用いた手動での整準が主に行われていたが、現在では傾斜センサが計測した傾き角に基づくモータ駆動により、自動整準を行うタイプの製品が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の自動整準では、予め定められた傾き角(例えば、秒角30秒)以下となるように自動で傾きの微調整が行われる。この作業は、最大で数十秒の時間を要する。測量の作業では、測量装置の機械点への設置⇒その機械点における測量装置を用いた測量が、複数の機械点において繰り返し行われる場合がある。この際、新たな機械点に測量装置を設置する度に整準作業が必要となる。
【0006】
近年、測量の自動化および高速化が進んでおり、各機械点において繰り返し行われる自動整準の作業に要する時間が無視できない。このような背景において、本発明は、測量装置の整準に係る作業の効率化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水平からの傾斜角を規定の値以下に調整する整準動作を行う測量装置であって、前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値を可変して設定することが可能な設定部を備える測量装置である。
【0008】
本発明において、当該測量装置が設置された位置における当該測量装置による測量の精度の入力を受け付ける入力受付部と、前記入力受付部が受け付けた前記測量の精度に基づき、前記規定の値を算出する算出部とを備える態様が挙げられる。本発明において、前記入力受付部が受け付ける前記測量の精度は、測量の距離とその距離の位置における許容される測量誤差の値であり、前記規定の値は、前記傾斜角、前記測量の距離および前記距離における前記許容される測量誤差の値の関係に基づいて算出される態様が挙げられる。
【0009】
本発明において、前記測量の距離は、測量の対象となる測量用ターゲットの位置と当該測量装置の位置の離間距離として算出される態様が挙げられる。本発明において、測量の対象となる前記測量用ターゲットの前記位置は、前記整準動作が行われる前の段階において当該測量装置により測量することで得たものである態様が挙げられる。
【0010】
本発明は、測量装置の水平からの傾斜角を規定の値以下に調整する整準動作を行う測量装置の動作方法であって、前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値が可変して設定される測量装置の動作方法である。
【0011】
本発明は、水平からの傾斜角を規定の値以下に調整する測量装置の整準動作の制御をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、コンピュータに前記整準動作を行った状態での測量で必要とされる測量精度に応じて前記規定の値を可変して設定する動作を行わせるプログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測量装置の整準に係る作業を効率化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】水平からの傾きと誤差の関係の原理を示す原理図である。
【
図5】処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.第1の実施形態
(原理)
図1は、整準に要求される誤差を評価する原理図である。測量装置本体が水平から上下角(この場合は仰角)で角度θ傾いているとする。また、この傾きθに起因する距離L離れた点における上下方向の測量誤差をaとする。この場合、θが十分に小さいとすると、三角関数の定義からa=L×θ(rad)の関係が成立する。
【0015】
仮に、上記の傾き以外の誤差要因がないとして、50m先での許容される上下方向の測定誤差が5cmであるとすると、許容される傾きθは、L=50m、a=0.05mであるので、θ=(a/L)より、θ=1×10―3(rad)となる。秒角に直すと、θ=約206秒となる。
【0016】
この場合、他の誤差要因がなければ、上下角の設定精度は約206秒以下であればよい。余裕を見ても100秒程度で十分である。この場合、50秒以下や30秒以下といった整準の精度はオーバースペックとなる。
【0017】
また、同じ条件であっても、距離が短くなれば、許容される傾きは、距離に反比例して大きくなる。例えば、上記の場合にL=25mであれば、θ=約412秒となる。この場合、整準の精度(許容される測量装置の傾き)は、余裕を見ても200秒程度でよい。
【0018】
このように、必要とされる整準の精度は、要求される測量精度と測量装置から測量対象までの距離によって異なる。
【0019】
ところで、自働整準に係る処理は、ある程度の時間を要する。これには、傾斜θを検出する傾斜センサの特性が関係する。傾斜センサは、液体中の気泡の位置を光学的に検出することで傾斜を計測している。液体中の気泡の動きはスピーディではなく、また気泡の位置が安定するまでに時間を要する。
【0020】
特により小さい傾斜角を計測する場合、チルトセンサの揺動の制限値も小さくなるので、揺動が収まるまでの時間が長くなる傾向が生じる。
【0021】
よって、要求される測量精度に応じて、許容される測量装置の傾き角の閾値(目標値)を可変して設定することで、無駄な整準動作による時間の浪費を削減できる。
【0022】
そこで、本実施形態では、測量装置から測定点までの距離と、そこにおける要求される精度の情報の入力を受け付け、それに応じて自動整準時における許容される傾き角の閾値を設定する。これにより、無駄な整準動作を抑制し、自動整準に要する時間を短縮する。
【0023】
(測量装置)
図2には、測量装置の一例であるトータルステーション100が示されている。測量装置としては、トータルステーションの他に、レーザースキャン装置やセオドライトが挙げられる。
【0024】
トータルステーション100は、三脚101により支えられている。三脚101の上には、自動整準機構110(整準台)が配置され、自動整準機構110の上に水平回転が可能な水平回転部102が配置されている。水平回転部102は、鉛直回転が可能な鉛直回転部103を備えている。鉛直回転部103には、測距光を外部に放射し、またその反射光を受光する光学部104を備えている。なお、光学部104は、測量時の視準を行う望遠鏡の光学系も兼ねている。
【0025】
説明は省略するが、鉛直回転部103には、ターゲット(例えば、反射プリズム等の測量用ターゲット)を捕捉および追尾する補足追尾用レーザー光を放射および検出する光学系も備えている。また、トータルステーション100は、測量用ターゲットの捕捉および追尾のための水平回転部102の水平回転、および鉛直回転部103の鉛直回転を行う。これは、市販のトータルステーションが備えている機能である。
【0026】
自動整準機構110によって水平回転部102の水平が確保されている。自動整準機構については、例えば特許第06490477号公報に記載されている。
【0027】
図3は、自動整準機構110の概念図である。自動整準機構110は、
図1の三脚101の上部に固定される座板2と、座板2によって下方から支持され、座板2に対する傾斜が調整可能な整準板4を有している。整準板4の上面に
図2の水平回転部102を回転可能な状態で保持する図示しないベース部が固定される。よって、整準板4を水平にすることで、水平回転部102の水平が確保される。
【0028】
整準板4は、その下部に3本の支持ピン5,6,7を有し、各支持ピンの下端が座板2の上面に接触している。支持ピン5,6,7は、軸方向(上下方向)から見て三角形の各頂点の位置に配置されている。支持ピン6,7の下端は、モータ駆動により、整準板4に対して上下に移動(伸縮)が可能であり、この移動により、座板2に対する整準板4の傾きが調整される。
【0029】
すなわち、支持ピン6は軸中心に雄ネジ部8を有し、この雄ネジ部8が整準板4に回転可能な状態で固定されたナット部9に噛み合っている。ナット部9は大歯車10と一体化され、大歯車10はモータ11により駆動される小歯車13と噛み合っている。また、支持ピン6は、図示しないガイド機構により、整準板4に対して回転できず、上下に移動が可能な状態とされている。
【0030】
モータ11を回転させると、その回転力が小歯車13を介して大歯車10に伝わり、ナット部9が回転する。ナット部9が回転することで、ネジの作用により、ナット部9に対して雄ネジ部8が軸方向で移動する。これにより、整準板4から下方に突出した支持ピン6の長さが変化する。
【0031】
支持ピン7も支持ピン6と同様な上下動機構を有し、支持ピン6と独立にモータ12により整準板4から下方に突出した支持ピン7の長さを調整できる。すなわち、モータ11を回転させることで、指示ピン6の整準板4からの突出長が調整され、モータ12を回転させることで、指示ピン7の整準板4からの突出長が調整される。これにより、整準板4の傾きの調整が行われる。
【0032】
整準板4は、中央に傾斜センサ19を備えている。傾斜センサ19は、液体中の気泡の位置を光学的に検出することで整準板4の水平からの傾きを検出する。
【0033】
例えば、前回整準時の最後の状態を初期状態とする。この状態で傾斜センサ19の計測値に基づき、水平回転部102(トータルステーション100本体)の水平からの傾きを検出し、その値が規定値以下であれば、自動整準処理を終了する。
【0034】
上記傾きが規定値以下でなければ、上記傾きの検出値が規定値以下となるように、整準板4からの支持ピン6と7の少なくとも一方の突出長の調整がモータドライブにより行われる。この調整が自働整準の処理において行われる。
【0035】
また、自動整準機構110は、手動での整準も可能である。手動での整準は、図示省略した微動ダイヤルを手で動かし、支持ピン6と7の少なくとも一方の突出長を調整することで行われる。
【0036】
(ブロック図)
図4は、トータルステーション100のブロック図である。トータルステーション100は、傾斜センサ19、自働整準制御部121、整準用モータ駆動部122、発光部123、受光部124、測距部125、方向計測部126、測位部127、データ記憶部128、入力受付部129、整準精度算出部130、整準精度設定部131、制御処理部132を備える。
【0037】
自働整準制御部121、測距部125、方向計測部126、測位部127、データ記憶部128、入力受付部129、整準精度算出部130、整準精度設定部131、制御処理部132の各機能部は、コンピュータにより実現されている。これら機能部の一または複数を専用の電子回路により構成することもできる。
【0038】
傾斜センサ19は、
図3に関連して説明した気泡を用いて傾斜を検出するセンサユニットである。他の原理により傾斜を計測するタイプの傾斜センサを利用することも可能である。自働整準制御部121は、傾斜センサ19が検出する水平回転部102(トータルステーション100本体)の水平からの傾き角が規定の値以下となるように、
図3のモータ11と12の動作を制御する制御信号を生成する。なお、後述のように、上記の自動整準時における規定値は、ユーザが必要とする測量精度と測量装置から測量対象までの距離に応じて設定される。整準用モータ駆動部122は、自働整準制御部121が生成した制御信号に基づき、モータ11と12の駆動を行う。
【0039】
発光部123は、発光素子、周辺回路および光学系を含み、測距用の測距光(レーザーパルス光)を発光する。受光部124は、受光素子、周辺回路および光学系を含み、対象から反射された測距光を受光し、受光信号を出力する。
【0040】
測距部125は、測距光を反射した反射点までの距離を算出する。この例では、発光部123から出力された測距光は2分岐され、一方が光学部104から外部に照射され、他方がトータルステーション100の内部に配置された基準光路に導かれる。受光部124には、対象から反射されて戻ってきた測距光と基準光路を伝搬した測距光とが入射する。
【0041】
基準光路は短いので、最初に基準光路を伝搬した測距光が検出され、その後に対象から反射されてきた測距光が検出される。この2つの測距光の検出信号の位相差からトータルステーション100の光学原点から反射点までの距離が算出される。測距光の飛翔時間を計測することで、距離を算出する形態も可能である。
【0042】
方向計測部126は、測距光の照射方向を計測する。水平回転部102の水平回転角と、鉛直回転部103の鉛直回転角は、エンコーダにより精密に測定されている。発光タイミングを基準として、測距光の照射方向が計測される。この方向がトータルステーション100から見た測距光の反射点(測定点)の方向として取得される。
【0043】
測位部127は、測定点の3次元位置を算出する。ここでは、トータルステーション100の光学原点を原点として、そこからの距離と方向のデータとして測定点の3次元位置が算出される。ここで、トータルステーション100の絶対座標系における外部標定要素(位置と姿勢)が既知あれば、得られる測定点の絶対座標系における座標が得られる。
【0044】
データ記憶部128は、トータルステーション100の動作に必要なデータやプログラム、動作の過程や結果で得られたデータを記憶する。入力受付部129は、ユーザからの各種の入力を受け付ける。入力は、トータルステーション100が備える
図2に図示しないタッチパネル、専用の制御端末、スマートフォンを利用した入力端末等を用いて行われる。
【0045】
入力受付部129が受け付ける入力情報には、トータルステーション100の設定や操作に係る情報、ユーザが希望する(要求する)測量精度に関する情報が含まれる。この測量精度に関する情報については後に詳述する。整準精度算出部130は、上述したユーザが希望する(要求する)測量精度に関する情報に基づき、自動整準時における基準となる規定値(許容される水平からの傾き角)を算出する。以下、この算出の詳細について説明する。
【0046】
ここでは上下方向(鉛直方向)における誤差を対象に考える。まず、整準許容誤差をΔl、許容誤差をΔx、機械誤差Δkとする。整準許容誤差Δlは、測量装置が設置された位置(機械点)における整準に起因する誤差の許容値である。許容誤差Δxは、測量対象における許容される誤差である。例えば、50m先における反射プリズムの位置の計測を行う場合のその位置における許容される測量誤差が1cmである場合、Δx=1cmとなる。機械誤差Δkは、測距誤差+測角誤差+分度盤誤差+量子誤差(計算誤差)である。
【0047】
ここで、Δx=Δl+Δkとなる。すなわち、最終的な許容誤差Δxは、整準で生じる許容誤差Δlと測量装置で生じる機械誤差Δkの和となる。機械誤差Δkは測量装置のスペック(性能)で決まるので、ΔxはΔlで決まる。
【0048】
上記の式から、整準許容誤差Δl=Δx-Δkとなる。Δkは使用する測量装置のスペックにより決まる。Δxは、ユーザが希望する(必要とする)精度により決まる。
【0049】
例えば、現行のトータルステーションでは、50m先における機械誤差Δk=5mmを実現できる(勿論、コストや機種による)。この規格を採用すると、50m先において、Δx=5cmである場合、50m先で考えて、Δl=Δx-Δk=5-0.5=4.5cmとなる。すなわちこの場合、整準の誤差に起因する50m先での許容される測量の誤差は、4.5cmとなる。ここで、余裕を見て、整準許容誤差Δlを計算される値の半分程度とした場合、Δl=2.25cmとなる。
【0050】
この場合、測量装置の水平からの許容される傾きをθとすると、
図1の円弧と見開き角の関係式から、50×100(cm)×θ=2.25(cm)となるので、θ=0.45×10
―3(rad)となる。秒角に変換すると、(180/π)×3600を乗じて、θ=約93秒となる。
【0051】
つまりこの場合、自動整準における許容できる測量装置の水平からの傾きの上限は、93秒であり、規定値は93秒となる。つまり、自動整準は、傾き角≦93秒を目標に行えばよい。上記の規定値=93秒を算出する処理が整準精度算出部130において行われる。
【0052】
仮に、同じ精度(Δx=5cm)で測量距離の最大値が25mであれば、自動整準における許容できる傾きの上限は、
図1の原理から上記の93秒の約2倍となる。
【0053】
この例では、ユーザが、入力受付部129に最大測距距離とその地点における許容誤差Δxを入力する。例えば、最大測距距離=50m、距離50mでの要求する精度としてΔx=5cmを入力したとする。また、使用する測量装置(トータルステーション100)のスペックが、上記と同じ50mにおける機械誤差Δk=5mmであるとする。
【0054】
この場合、上記の計算により、自動整準で許容される水平からの傾きの最大値(規定値)が93秒と算出される。上記の計算から明らかなように、同じ距離でもΔxを大きく設定すれば、Δlも大きくなり、許容される傾きの値は大きくなる。また、上述のように測距距離の最大値を短く設定すれば、同じΔxであっても許容される傾きの値は大きくなる。また、測距距離の最大値が大きければ、同じΔxであっても許容される傾きの値は小さくなり、より高い精度で測量装置を水平に調整する必要がある。
【0055】
自動整準で許容される傾き角の値を大きくできることで、自動整準の処理に要する時間を短縮できる。例えば、Δxがある程度大きくてもよい場合、それに応じて整準時に許容される水平からの傾き角を大きくできるので、当該傾き角を必要以上に小さくした場合に比較して、自動整準に要する時間を短縮できる。また、測距距離が短い場合、同じΔxであれば許容される傾き角を大きくできるので、やはり自動整準に要する時間を短縮できる。
【0056】
整準精度設定部131は、整準精度算出部130で算出された規定値を、整準動作時に許容される水平からの傾き角の値として設定する。トータルステーション100の水平からの傾き角がこの規定値以下となるように自動整準が行われる。また、ユーザが当該傾き角を手動で直接入力する形態も可能である。この場合、ユーザにより入力された傾き角の設定が行われる。
【0057】
制御処理部132は、トータルステーション100の動作を制御する制御コンピュータである。
図4のブロック図に示す機能部の一部をこの制御コンピュータにより実現する形態も可能である。
【0058】
(処理の一例)
図5は、自動整準に係る処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図5に示す処理を実行するためのプログラムは、データ記憶部128や適当な記録媒体に記録され、制御処理部132を構成するコンピュータのCPUにより実行される。
【0059】
まず、ユーザによりトータルステーション100が測量現場の機械点に設置される。ユーザは、トータルステーション100を設置したら、トータルステーションに対して、各種の設定を行うが、この際に必要とする測量精度についての情報を入力する。この例では、その設置位置における最大測距距離と、その距離における求める精度(例えば、5cm以下等)を入力する。最大測距距離は、凡その値でよい。この入力は、入力受付部129で受け付けられる。特にユーザが希望する精度がない場合、その旨を入力する。
【0060】
また、トータルステーション100の設置後に、前処理として、傾斜センサ19のチルトオフセットの取得を行う。ここでは、傾斜センサ19が水平回転部102の内部に配置されているとする。傾斜センサ19の計測値にはチルトオフセットと呼ばれるオフセット値が含まれている。チルトオフセットは、温度、衝撃、振動等の影響を受け、また時間が経過すると変動する。このため、トータルステーションの設置後の測量作業開始の前にチルトオフセットを求め、このチルトオフセットを用いて自動整準時における傾斜センサ19の計測値の補正を行う。
【0061】
以下にチルトオフセットを取得する方法の一例を説明する。まず、水平回転部102を特定の方向(以下、正方向)に向け、傾斜センサ19のX傾斜角X1およびY傾斜角Y1を取得する。次に、水平回転部102を正方向から180°回転(反転)させ、反方向とし、その状態において傾斜センサ19のX傾斜角X2およびY傾斜角Y2を取得する。
【0062】
次に、Xオフセット=(X1+X2)/2、Yオフセット=(Y1+Y2)/2を算出する。XオフセットとYオフセットが、チルトオフセットとなる。
【0063】
チルトオフセットを取得したら、以下の自動整準に係る処理が開始される。まずユーザ(トータルステーション100を操作する作業者)による測量精度に係る情報の入力があったか否か、の判定が行われる(ステップS101)。測量精度の入力がない場合は、整準時に目安(閾値)とするトータルステーション100の傾き角の規定値を予め定めた値に設定する(ステップS103)。この予め定めた規格値は、30秒や60秒といった固定値が採用される。
【0064】
ステップS101において、ユーザによる測量精度の入力があった場合、その入力された測量精度の値を取得する(ステップS102)。次に、取得した測量精度の値に基づいて、整準動作時に許容されるトータルステーション100の傾き角の規定値を算出する(ステップS104)。この処理は、整準精度算出部130において行われる。
【0065】
規定値を算出したら、当該規定値を自動整準時における水平からの許容できる傾きの値として設定する(ステップS105)。この処理は、整準精度設定部131で行われる。
【0066】
次に、傾斜センサ19を用いたトータルステーション100本体(水平回転部102)の水平からの傾斜を検出する(ステップS106)。ここでは、傾斜センサ19により水平回転部102の傾斜を計測し、この計測値を予め求めておいた補正値(チルトオフセット)で補正することで、上記トータルステーション100本体の水平からの傾き角を検出する。次に、検出した傾斜角がステップS103またはS105で設定した規定値以下であるか否か、の判定が行われる(ステップS107)。
【0067】
ここで、ステップS106において検出した傾斜角が規定値以下であれば、処理を終了し、そうでなければ、自動整準処理が行われる(ステップS108)。自動整準処理は、自動整準制御部121により、
図3に関連して説明した手順で行われる。
【0068】
(優位性)
自動整準時の許容できる傾き角を、求める測量の精度に基づき決めることで、無駄な整準動作を削減でき、自動整準に要する時間を削減できる。具体的には、測量精度が低くてよい場合は、自動整準時の許容できる水平からの傾き角を大きく設定でき、自動整準に要する時間を短縮できる。このことは、機械点の数が多い場合に特に有効となる。
【0069】
2.第2の実施形態
自動整準動作における目標とする傾き角である規定値が予め複数用意されており、その中から規定値が選択される形態も可能である。例えば、「誤差小・整準時間大」、「誤差中・整準時間中」、「誤差大・整準時間小」の3つにモード、および各モードに対応した傾斜角の規定値を予め用意しておく。
【0070】
測量を行うに当たって、ユーザは上記3つのモードの中の一つを選択する。この選択に基づいて、自動整準時に許容される水平からの傾き角の規定値が整準精度設定部131において設定され、この規定値を用いた自動整準が行われる。
【0071】
3.第3の実施形態
土木工事現場におけるトータルステーションを用いた測量の作業の1つとして測設がある。これは、図面上で特定された点を地上で特定し、そこに杭を打ったり、印を付けたりする作業である。この測設の技術については、例えば、特開2020-169855号公報に記載されている。
【0072】
測設の作業では、測設点の図面上の座標位置は既知であり、当該図面で用いる座標系上での外部標定要素が既知の位置に設置したトータルステーションにより、測設点の特定が行われる。具体的には、作業者が手にした反射プリズムの位置をトータルステーションにより測定し、当該作業者を測設点に誘導し、測設が行われる。
【0073】
測設では、トータルステーションの正確な位置が既知であるので、測設点までの最も遠い距離が取得できる。
【0074】
例えば、測設点が絶対座標系上で特定されているとする。絶対座標系は、GNSSや地図で用いられる座標系である。この場合、使用するトータルステーション100の位置は、絶対座標系上で予め特定されている。
【0075】
そこで、トータルステーションの位置と対象となる測設点の位置を比較し、両位置の離間距離を計算し、測量距離の最大値を取得する。この処理は、整準精度算出部130で行われる。なお、許容される誤差Δxは、ユーザがトータルステーション100に予め入力しておく。
【0076】
また、以下のようなユーザインターフェースも可能である。例えば、電子マップ上にトータルステーションの位置と複数の測設予定の点が表示される。ユーザは、トータステーションと測設予定の点との離間距離を考慮して、測設を行う点を選択する。また、測設に許容される測定誤差を入力する。測設を行う点が選択されたら、トータルステーションと選択された測設を行う点との最大離間距離を取得し、自動整準で許容される傾き角の規定値を算出する。
【0077】
4.第4の実施形態
レーザースキャン装置を用いて点群データを取得する方法として、位置が既知な複数の位置に測量用ターゲットとなる反射プリズムを配置し、任意の位置に設置したレーザースキャン装置による全周あるいは特定の範囲(そこには、前記複数の反射プリズムが含まれる)のレーザースキャンを行う方法がある。
【0078】
この方法では、反射プリズムからの反射が特に強いことを利用して、反射プリズムからの反射光を識別し、取得した点群データの中から、反射プリズムの輝点を特定し、その位置を特定する。利用する座標系(例えば、絶対座標系)における反射プリズムの位置は既知であるので、後方交会法により、レーザースキャン装置の当該座標系における外部標定要素(位置と姿勢)を算出できる。レーザースキャン装置の当該座標系における位置と姿勢が求まることで、当該座標系における上記点群データの座標が得られる。この技術は、例えば、特願2022-112959号や特願2022―112957号に記載されている。
【0079】
この方法では、反射プリズムの位置が既知であるので、GNSSによりレーザースキャン装置の位置が測位できれば、レーザースキャン装置と反射プリズムの離間距離を算出できる。この離間距離の情報を利用して、レーザースキャン装置の設置時に行う自動整準で必要な許容される傾き角の値(規定値)を取得する。この場合、レーザースキャン装置の設置時におけるユーザによる距離の情報の入力の手間を省くことができる。
【0080】
なお、GNSSによるレーザースキャン装置の位置の測定は、誤差があってもよい。これは、自動整準で必要な許容される傾き角の値(規定値)を取得するのに必要な距離情報は、数m程度の誤差が許容されるからである。よって、スマートフォン搭載のGNSS位置測定装置等を用いた測位でよい。
【0081】
5.第5の実施形態
第4の実施形態において、レーザースキャン装置の設置後の自動整準の前の段階で、レーザースキャンを行って反射プリズムの測位を行い、自動整準で必要な許容される傾き角の値(規定値)を取得するのに必要な距離情報(レーザースキャン装置と反射プリズムの離間距離)を得る。
【0082】
この場合、整準を行っていないので、最初に行われる反射プリズムの測位の精度は低い。しかしながら、自動整準で必要な許容される傾き角の値(規定値)を取得するのに必要な距離情報は、数m程度の誤差が許容されるので、問題はない。
【符号の説明】
【0083】
100…トータルステーション、101…三脚、102…水平回転部、103…鉛直回転部、104…光学部、110…整準機構、2…座板、4…整準板、5…支持ピン、6…支持ピン、7…支持ピン、8…雄ネジ部、9…ナット部、10…大歯車、11…モータ、12…モータ、13…小歯車、19…傾斜センサ。