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特開2024-43895触媒インク、触媒インク製造方法、膜電極接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043895
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】触媒インク、触媒インク製造方法、膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240326BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240326BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240326BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240326BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/88 K
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149128
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】榎本 悠人
(72)【発明者】
【氏名】厨子 卓哉
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE03
5H018EE05
5H018HH05
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】触媒インクを電解質膜に塗工し、乾燥させた際に、形成した触媒層の割れおよび剥離を抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】触媒インクは、溶媒と、触媒と、アイオノマーと、沸点が前記アイオノマーの軟化点以上である高沸点溶剤と、を含む。これにより、触媒層の割れおよび剥離を抑制することができる。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒と、
触媒と、
アイオノマーと、
沸点が前記アイオノマーの軟化点以上である高沸点溶剤と、
を含む、触媒インク。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒インクであって、
前記触媒は、
カーボン粒子と、
前記カーボン粒子に担持された触媒金属と、
を含む、触媒インク。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の触媒インクであって、
前記高沸点溶剤を4重量%以上含む、触媒インク。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の触媒インクであって、
前記高沸点溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、多価アルコール類、グリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上である、触媒インク。
【請求項5】
a)溶媒と、触媒と、アイオノマーと、沸点が前記アイオノマーの軟化点以上である高沸点溶剤とを混合することにより、混合液を調製する工程
を含む、触媒インク製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の触媒インク製造方法であって、
前記触媒は、
カーボン粒子と、
前記カーボン粒子に担持された触媒金属と、
を含む、触媒インク製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の触媒インク製造方法であって、
前記工程a)では、前記混合液に対する前記高沸点溶剤の含有量が4重量%以上となるように前記混合液を調製する、触媒インク製造方法。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の触媒インク製造方法であって、
前記高沸点溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、多価アルコール類、グリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上である、触媒インク製造方法。
【請求項9】
A)請求項1または請求項2に記載の触媒インクを電解質膜に対して塗工する工程と、
B)前記電解質膜に対して塗工された前記触媒インクを、前記アイオノマーの軟化点以上かつ前記高沸点溶剤の沸点未満の温度で加熱乾燥する工程と、
を含む、膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒インク、触媒インク製造方法、および膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた電池である。固体高分子形燃料電池の使用時には、アノード側の触媒層に水素ガスが供給され、カソード側の触媒層に酸素ガスが供給される。イオン交換膜としてプロトン交換膜を用いる場合、アノード側の触媒層と、カソード側の触媒層とにおいて、次の電気化学反応が生じることにより、発電が行われる。
(アノード側) H → 2H + 2e
(カソード側) 1/2O + 2H + 2e → H
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が形成された構造である膜電極接合体を備える。膜電極接合体の製造方法の一つとして、電解質膜の表面に触媒インクを塗工する方法がある。触媒インクは、触媒、電解質、および溶媒を混合することにより製造される。従来の触媒インクについては、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-066510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の触媒インクは、触媒が担持されたカーボンと、アイオノマと、溶媒と、を含む。
【0006】
しかしながら、従来の触媒インクを電解質膜の表面に塗工し乾燥させると、形成した触媒層に割れおよび剥離が発生することがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、触媒インクを電解質膜に塗工し、乾燥させた際に、形成した触媒層の割れおよび剥離を抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、触媒インクであって、溶媒と、触媒と、アイオノマーと、沸点が前記アイオノマーの軟化点以上である高沸点溶剤と、を含む。
【0009】
本願の第2発明は、第1発明の触媒インクであって、前記触媒は、カーボン粒子と、前記カーボン粒子に担持された触媒金属と、を含む。
【0010】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の触媒インクであって、前記高沸点溶剤を4重量%以上含む。
【0011】
本願の第4発明は、第1発明から第3発明までのいずれか1発明の触媒インクであって、前記高沸点溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、多価アルコール類、グリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上である。
【0012】
本願の第5発明は、触媒インク製造方法であって、a)溶媒と、触媒と、アイオノマーと、沸点が前記アイオノマーの軟化点以上である高沸点溶剤とを混合することにより、混合液を調製する工程を含む。
【0013】
本願の第6発明は、第5発明の触媒インク製造方法であって、前記触媒は、カーボン粒子と、前記カーボン粒子に担持された触媒金属と、を含む。
【0014】
本願の第7発明は、第5発明または第6発明の触媒インク製造方法であって、前記工程a)では、前記混合液に対する前記高沸点溶剤の含有量が4重量%以上となるように前記混合液を調製する。
【0015】
本願の第8発明は、第5発明から第7発明までのいずれか1発明の触媒インク製造方法であって、前記高沸点溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、多価アルコール類、グリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上である。
【0016】
本願の第9発明は、膜電極接合体の製造方法であって、A)第1発明から第4発明までのいずれか1発明の触媒インクを電解質膜に対して塗工する工程と、B)前記電解質膜に対して塗工された前記触媒インクを、前記アイオノマーの軟化点以上かつ前記高沸点溶剤の沸点未満の温度で加熱乾燥する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明~第9発明によれば、触媒層の割れおよび剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】固体高分子形燃料電池のセルの模式図である。
図2】カソード触媒層の組成を、概念的に示した模式図である。
図3】有機ハイドライド製造装置の例を示した図である。
図4】触媒インクの製造手順を示したフローチャートである。
図5】膜電極接合体の製造手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
<燃料電池の構造>
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer electrolyte fuel cell)の1つのセル1の模式図である。固体高分子形燃料電池は、図1に示すセル1を、直列に複数積層した構造を有する。ただし、固体高分子形燃料電池は、単一のセル1で構成されるものであってもよい。
【0021】
図1に示すように、固体高分子形燃料電池のセル1は、電解質膜10、アノード触媒層21、アノードガス拡散層22、アノードガスケット23、アノードセパレータ24、カソード触媒層31、カソードガス拡散層32、カソードガスケット33、およびカソードセパレータ34を備える。セル1のうち、電解質膜10、アノード触媒層21、およびカソード触媒層31により構成される積層体は、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)50である。
【0022】
電解質膜10は、イオン伝導性を有する薄板状の膜(イオン交換膜)である。電解質膜10には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。具体的には、電解質膜10として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を含むプロトン交換膜が使用される。電解質膜10の膜厚は、例えば、5μm~30μmとされる。
【0023】
アノード触媒層21は、固体高分子形燃料電池のアノード側の電極(負極)となる層である。アノード触媒層21は、電解質膜10のアノード側の表面に形成されている。アノード触媒層21は、多数の触媒粒子を含む。触媒粒子は、例えば、白金合金である。白金合金は、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、白金(Pt)との合金である。固体高分子形燃料電池の使用時には、アノード触媒層21に、水素ガス(H)が供給される。そして、アノード触媒層21の触媒粒子の作用により、水素が、水素イオン(H)と電子(e)とに分解される。
【0024】
アノードガス拡散層22は、アノード触媒層21へ水素ガスを均一に供給するとともに、アノード触媒層21で生成された電子をアノードセパレータ24へ流すための層である。アノードガス拡散層22は、アノード触媒層21の外側の面に積層されている。アノード触媒層21は、電解質膜10とアノードガス拡散層22との間に挟まれている。アノードガス拡散層22は、導電性を有し、かつ、多孔質の材料により形成される。アノードガス拡散層22には、例えば、カーボンペーパーが使用される。
【0025】
アノードガスケット23は、アノード触媒層21およびアノードガス拡散層22から、水素ガスが周囲に漏れることを防止するための層である。図1に示すように、アノードガスケット23は、電解質膜10のアノード側の表面に形成され、かつ、アノード触媒層21およびアノードガス拡散層22の周囲を囲む。
【0026】
アノードセパレータ24は、アノードガス拡散層22へ水素ガスを供給するとともに、アノード触媒層21からアノードガス拡散層22を介して流れる電子を、外部回路40へ出力するための層である。アノードセパレータ24は、アノードガス拡散層22およびアノードガスケット23の外側の面に形成されている。アノード触媒層21、アノードガス拡散層22、およびアノードガスケット23は、電解質膜10とアノードセパレータ24との間に挟まれている。アノードセパレータ24は、導電性を有し、かつ、気体を透過しない材料により形成される。また、アノードセパレータ24には、多数の溝241が形成されている。水素ガスは、アノードセパレータ24の当該溝241を通って、アノードガス拡散層22へ供給される。
【0027】
カソード触媒層31は、固体高分子形燃料電池のカソード側の電極(正極)となる層である。カソード触媒層31は、電解質膜10のカソード側の表面(アノード触媒層21とは反対側の表面)に形成されている。カソード触媒層31は、触媒粒子を担持した多数のカーボン粒子を含む。触媒粒子は、例えば、白金の粒子である。ただし、触媒粒子は、白金の粒子に、微量のルテニウムまたはコバルトの粒子を混合したものであってもよい。固体高分子形燃料電池の使用時には、カソード触媒層31に、酸素ガス(O)、水素イオン(H)、および電子(e)が供給される。そして、カソード触媒層31の触媒粒子の作用により、酸素ガス、水素イオン、および電子から、水(HO)が生成される。
【0028】
なお、カソード触媒層31のより詳細な組成については、後述する。
【0029】
カソードガス拡散層32は、カソード触媒層31へ酸素ガスを均一に供給するとともに、カソードセパレータ34からカソード触媒層31へ電子を流すための層である。カソードガス拡散層32は、カソード触媒層31の外側の面に積層されている。カソード触媒層31は、電解質膜10とカソードガス拡散層32との間に挟まれている。カソードガス拡散層32は、導電性を有し、かつ、多孔質の材料により形成される。カソードガス拡散層32には、例えば、カーボンペーパーが使用される。
【0030】
カソードガスケット33は、カソード触媒層31およびカソードガス拡散層32から、酸素ガスおよび水が周囲に漏れることを防止するための層である。図1に示すように、カソードガスケット33は、電解質膜10のカソード側の表面に形成され、かつ、カソード触媒層31およびカソードガス拡散層32の周囲を囲む。
【0031】
カソードセパレータ34は、カソードガス拡散層32へ酸素ガスを供給するとともに、外部回路40から供給される電子を、カソードガス拡散層32へ流すための層である。カソードセパレータ34は、カソードガス拡散層32およびカソードガスケット33の外側の表面に形成されている。カソード触媒層31、カソードガス拡散層32、およびカソードガスケット33は、電解質膜10とカソードセパレータ34との間に挟まれている。カソードセパレータ34は、導電性を有し、かつ、気体を透過しない材料により形成される。また、カソードセパレータ34には、多数の溝341が形成されている。酸素ガスは、カソードセパレータ34の当該溝341を通って、カソードガス拡散層32へ供給される。
【0032】
外部回路40は、アノードセパレータ24とカソードセパレータ34との間に、接続される。具体的には、外部回路40の負極側の端子は、アノードセパレータ24と電気的に接続される。外部回路40の正極側の端子は、カソードセパレータ34と電気的に接続される。
【0033】
固体高分子形燃料電池の使用時には、アノードセパレータ24から、アノードガス拡散層22を介してアノード触媒層21に、燃料としての水素ガスが供給される。そうすると、アノード触媒層21の触媒粒子の作用により、水素原子が、水素イオンと電子とに分解される。水素イオンは、電解質膜10を通って、カソード触媒層31へ伝搬する。電子は、アノードガス拡散層22、アノードセパレータ24、外部回路40、カソードセパレータ34、およびカソードガス拡散層32を通って、カソード触媒層31へ流れる。また、セル1のカソード側では、カソードセパレータ34から、カソードガス拡散層32を介してカソード触媒層31に、酸素ガスが供給される。そして、カソード触媒層31の触媒粒子の作用により、酸素ガス、水素イオン、および電子から、水が生成される。生成された水は、カソードガス拡散層32およびカソードセパレータ34を通って、外部へ排出される。
【0034】
<カソード触媒層の組成>
続いて、カソード触媒層31の、より詳細な組成について説明する。
【0035】
図2は、カソード触媒層31の組成を、概念的に示した模式図である。図2に示すように、カソード触媒層31は、触媒担持カーボン51およびアイオノマー52を含む。
【0036】
触媒担持カーボン51は、触媒が担持されたカーボン粒子であり、担体であるカーボン粒子511、およびカーボン粒子511に担持された触媒粒子512を含む。カーボン粒子511としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどの炭素材料を、単独で、または組み合わせて用いてもよい。触媒粒子512は、触媒金属の粒子であり、例えば、白金(Pt)の粒子である。ただし、触媒粒子512は、白金の粒子に、微量のルテニウムまたはコバルトの粒子を混合したものであってもよい。
【0037】
触媒担持カーボン51において、カーボン粒子511に対する白金の割合が低すぎると、十分な触媒作用を得ることが困難となる。また、十分な触媒作用を得るためには、カーボン粒子511の量を多くする必要が生じ、それにより、カソード触媒層31の膜厚が大きくなってしまう。一方、カーボン粒子511に対する白金の割合が高すぎると、白金の粒子間の距離が小さくなる。その場合、発電中に白金の粒子同士が融合して、発電性能が低下するという問題が生じる。
【0038】
したがって、カーボン粒子511に対する白金の割合は、カソード触媒層31の膜厚を抑え、かつ、白金の粒子間の距離を、白金の粒子同士が融合しない程度の距離に保つことができるような割合とすることが好ましい。具体的には、カーボン粒子511に対する白金の割合(重量比)を、38重量%以上かつ65重量%以下とすることが好ましい。また、カーボン粒子511に対する白金の割合(重量比)を、40重量%以上かつ55重量%以下とすることが、より好ましい。
【0039】
アイオノマー52は、触媒担持カーボン51を覆う電解質ポリマーである。アイオノマー52としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、アクイビオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーを用いることができる。
【0040】
アイオノマー52は、電解質膜10から供給される水素イオンを、カソード触媒層31内で輸送する役割を果たす。アイオノマー52は、スルホン基などのイオン交換基を有する高分子鎖構造をもつ。電解質膜10から供給される水素イオンは、カソード触媒層31内の水と結合して、オキソニウムイオン(H)となる。そして、当該オキソニウムイオンが、アイオノマー52のイオン交換基を伝って輸送される。
【0041】
オキソニウムイオンを良好に輸送するためには、アイオノマー52の高分子鎖中のイオン交換基の数を多くすることが好ましい。具体的には、イオン交換基1mol当たりのアイオノマー52の乾燥質量(アイオノマー52の単位質量あたりのイオン交換基の数の逆数)を示すEW値を、950以下とすることが好ましい。例えば、EW値を、650以上かつ950以下にするとよい。
【0042】
触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合が少なすぎると、触媒担持カーボン51をアイオノマー52で十分に被覆できなくなる。そうすると、アイオノマーによりオキソニウムイオンを良好に伝搬することが困難となる。一方、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合が多すぎると、カソード触媒層31内の空隙が少なくなる。そうすると、カソード触媒層31内における酸素ガスの拡散や、カソード触媒層31で生成された水の排出が、阻害されてしまう。
【0043】
したがって、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合は、触媒担持カーボン51をアイオノマー52で良好に覆うことができ、かつ、酸素ガスの拡散および水の排出を良好に行うことができるような割合とすることが好ましい。具体的には、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、30重量%以上かつ100重量%以下とすることが好ましい。また、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、60重量%以上かつ100重量%以下とすることが、より好ましい。また、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、75重量%以上かつ85重量%以下とすることが、さらに好ましい。
【0044】
以上では膜電極接合体50を有する固体高分子形燃料電池について説明したが、本発明の膜電極接合体は、水を電気分解することにより水素を製造する、固体高分子形水電解装置に用いられるものであってもよい。
【0045】
また、本発明の膜電極接合体は、LOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)プロセスで用いられる有機ハイドライド製造装置に用いられるものであってもよい。以下、膜電極接合体50を有する有機ハイドライド製造装置について説明する。
【0046】
図3は、有機ハイドライド製造装置の例を示した図である。図3の有機ハイドライド製造装置は、電解質膜10と、電解質膜10の一方の表面に形成されたカソード触媒層31とを有する膜電極接合体50を備える。カソード触媒層31の組成は、上記の固体高分子形燃料電池の場合と同等である。
【0047】
アノード側に設けられた槽26には、硫酸が貯留される。カソード側に設けられた槽36には、被水素化物が貯留される。被水素化物としては、トルエンなどの芳香族炭化水素化合物が用いられる。
【0048】
電源41により、カソード触媒層31とアノード電極25との間に電圧を加えると、カソード触媒層31に電子が供給されることで、被水素化物の水素化反応が生じる。これにより、メチルシクロヘキサンなどの有機ハイドライドを得ることができる。
【0049】
<触媒インク>
上記の固体高分子形燃料電池、固体高分子形水電解装置、および有機ハイドライド製造装置のカソード触媒層31は、電解質膜10の表面に触媒インクを塗工することにより形成させることができる。本実施形態における触媒インクは、高沸点溶剤が添加された溶媒に、触媒担持カーボン51およびアイオノマー52が分散したインク(スラリー)である。
【0050】
溶媒としては、水、有機溶媒、または水と有機溶媒とを含む混合溶媒が用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、または2-プロパノールなどのアルコールを用いてもよい。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
溶媒としては、水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましい。この場合、水と有機溶媒との混合比率は、重量比で、水:有機溶媒=8:2~6:4であることが好ましい。
【0052】
高沸点溶剤とは、アイオノマー52の軟化点以上の沸点を有する有機溶剤である。高沸点溶剤が触媒インクに含まれることにより、触媒インクが液体成分を保持したまま、アイオノマー52の軟化点まで触媒インクを加熱することができるようになる。高沸点溶剤としては、アイオノマー52の軟化点に応じて、種々の有機溶剤を用いることができる。例えば、高沸点溶剤として、N-メチル-2-ピロリドン、炭酸プロピレン、多価アルコール類、グリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上の溶剤を用いてもよい。
【0053】
触媒インク全体に対する高沸点溶剤の割合は、4重量%以上が好ましく、6重量%以上がより好ましい。
【0054】
<触媒インクの製造手順>
以下に、本実施形態における触媒インクの製造手順について説明する。図4は、本実施形態における触媒インクの製造手順を示したフローチャートである。
【0055】
ステップS101において、溶媒と、触媒担持カーボン51と、アイオノマー52と、高沸点溶剤とを混合することにより、混合液を調製する。このとき、アイオノマー52は、溶媒中に所定量のアイオノマー52を混合したアイオノマー溶液の状態で、他の材料と混合させることが好ましい。
【0056】
また、水と有機溶媒との混合溶媒を溶媒として用いる場合、他の材料を混合する前に、触媒担持カーボン51を水に混合しておくことが好ましい。これにより、触媒担持カーボン51と有機溶媒との接触による発火を防止することができる。
【0057】
ステップS102において、所定の分散機を用いて、混合液に含まれる触媒担持カーボン51およびアイオノマー52を均一に分散させる。これにより、触媒インクが得られる。分散機としては、例えば、ジェットミル、ビーズミル、またはボールミルを用いることができる。
【0058】
<膜電極接合体の製造方法>
続いて、上記の触媒インクを用いて、膜電極接合体50を製造する方法について説明する。図5は、膜電極接合体50の製造手順を示したフローチャートである。
【0059】
ステップS201において、電解質膜10の一方の表面に、上記の手順により製造されたカソード用の触媒インクを塗工する。
【0060】
ステップS202において、塗工された触媒インクを、アイオノマー52の軟化点以上の温度まで加熱することで乾燥させる。例えば、触媒インクに対し熱風を吹き付けることにより、触媒インクを加熱乾燥してもよい。これにより、電解質膜10の一方の表面に、カソード触媒層31の塗膜が形成される。
【0061】
ステップS202について、触媒インクの溶媒として水およびエタノールの混合溶媒を用いた場合を例に挙げて説明する。電解質膜10に塗工した触媒インクを加熱すると、はじめにエタノールが蒸発する。仮に、触媒インクに高沸点溶剤が含まれていない場合、エタノールが蒸発した後に触媒インクに含まれる液体成分は水のみとなる。そのため、触媒インクの表面張力は急激に上昇する。その後、触媒インクの液体成分がすべて蒸発し、カソード触媒層31の塗膜が形成されると、水の高い表面張力に起因する力が塗膜内部に残留するため、塗膜の割れおよび剥離が生じる原因となる。
【0062】
一方、本実施形態では、触媒インクに高沸点溶剤が含まれている。そのため、エタノールが蒸発した後も、触媒インクには水に加えて高沸点溶剤が残存する。これにより、エタノールの蒸発による表面張力の急激な上昇を低減することができる。また、高沸点溶剤は水よりも後に蒸発するため、触媒インクの表面張力が低い状態で、触媒層の塗膜が形成される。したがって、カソード触媒層31の塗膜に残留する残留応力を小さくすることができ、塗膜の割れおよび剥離を抑制することができる。
【0063】
さらに、高沸点溶剤の沸点はアイオノマー52の軟化点よりも高いため、触媒インクは、液体の状態を保ったままアイオノマー52の軟化点まで加熱される。これにより、カソード触媒層31の塗膜は、アイオノマー52が軟化した状態で形成する。したがって、カソード触媒層31内部の残留応力を、さらに小さくすることができる。また、カソード触媒層31と電解質膜10との密着性を、向上させることができる。
【0064】
また、高沸点溶剤の沸点は、電解質膜10に含まれる高分子樹脂の軟化点より高くてもよい。そして、ステップS202において、触媒インクを、電解質膜10に含まれる高分子樹脂の軟化点以上の温度まで加熱してもよい。これにより、電解質膜10が軟化した状態で、カソード触媒層31の塗膜を形成させることができる。したがって、電解質膜10とカソード触媒層31との密着性を、より向上させることができる。
【0065】
ステップS203において、電解質膜10の他方の表面に、アノード用の触媒インクを塗工する。
【0066】
ステップS204において、電解質膜10の他方の表面に塗工された触媒インクを乾燥させる。これにより、電解質膜10の他方の表面に、アノード触媒層21が形成される。その結果、電解質膜10、アノード触媒層21、およびカソード触媒層31を備える膜電極接合体50が得られる。
【0067】
なお、カソード触媒層31を形成するステップS201およびステップS202と、アノード触媒層21を形成するステップS203およびステップS204とは、順序が逆であってもよい。
【0068】
<実施例>
以下、本発明の一実施形態について、実施例により説明する。なお、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[触媒層の作製]
(実施例1~7)
白金を担持した触媒担持カーボンに、水を加え、第1混合液を得た。次に、第1混合液にエタノールを加え、第2混合液を得た。次に、第2混合液に、アイオノマーを水とエタノールとの混合液に分散させたアイオノマー溶液を加え、第3混合液を得た。次に、第3混合液に、高沸点溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)(実施例1~3)または炭酸プロピレン(実施例4~7)を加え、第4混合液を得た。各実施例におけるアイオノマーの軟化点、高沸点溶剤の沸点、および第4混合液に含まれる各成分の重量比は、表1に示す通りである。最後に、ビーズミル分散機(アイメックス社製)を用いて第4混合液を15分間分散させることで、触媒インクを得た。
【0070】
【表1】
【0071】
次に、ダイ塗工方式により、上記の触媒インクを電解質膜の表面に塗工した。その後、125℃の熱風を10分間吹き付けることにより触媒インクを乾燥させ、触媒層を作製した。
【0072】
(比較例1)
比較例1では、高沸点溶剤を含まない触媒インクを調製した。なお、比較例1では、第4混合液に含まれる各成分の重量比を表1に示す通りとした以外は、各実施例と同様の手順により、触媒インクの調製および触媒層の作製を行った。
【0073】
[触媒層の評価]
実施例および比較例で作製した触媒層に対して、以下の評価を行った。
【0074】
(割れ評価)
触媒層を作製した直後に目視観察し、触媒層の割れの有無を評価した。触媒層の割れは、以下の3段階で評価した。
A:割れが生じていない
B:わずかに割れが生じている
C:全体に割れが生じている
【0075】
(剥離評価)
超音波試験機(エヌエスディ社製)を用いて、触媒層に対し超音波振動を5分間付加した。その後、触媒層を目視観察し、触媒層の剥離の有無を評価した。触媒層の剥離は、以下の3段階で評価した。
A:剥離が確認されない
B:わずかに剥離している
C:全体が剥離し、電解質膜が露出している
【0076】
[結果]
実施例および比較例の評価結果は、表1に示す通りである。
【0077】
(割れ評価)
比較例1の触媒層は、表面全体に割れが生じていた。実施例1の触媒層は、比較例1と比較して割れが大きく抑制されたが、表面の一部にわずかな割れが生じていた。実施例2~7の触媒層では、割れは確認されなかった。この結果から、触媒インクに高沸点溶剤を含めることにより、触媒層の割れを抑制できることがわかった。
【0078】
(剥離評価)
比較例1では、触媒層の全体が剥離していた。実施例1の触媒層は、比較例1と比較して剥離が大きく抑制されたが、一部分においてわずかに剥離が確認された。実施例2~7では、触媒層の剥離は確認されなかった。この結果から、触媒インクに高沸点溶剤を含めることにより、触媒層の剥離を抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0079】
1 :セル
10 :電解質膜
21 :アノード触媒層
22 :アノードガス拡散層
23 :アノードガスケット
24 :アノードセパレータ
25 :アノード電極
31 :カソード触媒層
32 :カソードガス拡散層
33 :カソードガスケット
34 :カソードセパレータ
40 :外部回路
41 :電源
50 :膜電極接合体
51 :触媒担持カーボン
52 :アイオノマー
241 :アノードセパレータの溝
341 :カソードセパレータの溝
511 :カーボン粒子
512 :触媒粒子
図1
図2
図3
図4
図5