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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043920
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】制振壁及び木質組立柱
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240326BHJP
   E04C 3/36 20060101ALI20240326BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20240326BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04C3/36
E04H9/14 G
F16F15/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149162
(22)【出願日】2022-09-20
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】梶川 久光
(72)【発明者】
【氏名】小川 春彦
【テーマコード(参考)】
2E139
2E163
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC23
2E139BA16
2E139BC01
2E139BD02
2E139BD22
2E163FA02
2E163FC01
2E163FC21
2E163FC31
2E163FC38
3J048AA01
3J048BA17
3J048BD08
3J048DA03
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】木造建物における柱梁架構のエネルギー吸収性能の向上を図る。
【解決手段】制振壁は、互いに間隔を空けて隣り合う上下方向に長尺な木製のフレーム材20と、隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定された第一中間部材21a及び第二中間部材21bと、を備えており、第一中間部材21aと第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置されており、第一中間部材21a及び第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段を有する制振装置である。また、四角筒状に形成された木質組立柱2における四側面のうち少なくとも第一側面2aが、制振壁によって構成され、制振壁における隣り合うフレーム材20は、木質組立柱2の隅部に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔を空けて隣り合う上下方向に長尺な木製のフレーム材と、
隣り合う前記フレーム材間に架け渡されるとともに固定された第一中間部材及び第二中間部材と、を備えており、
前記第一中間部材と前記第二中間部材は、前記隣り合うフレーム材間において上下に並んで配置されており、
前記第一中間部材及び前記第二中間部材は、前記隣り合うフレーム材に生じた振動を減衰させる振動減衰手段を有する制振装置であることを特徴とする制振壁。
【請求項2】
請求項1に記載の制振壁において、
前記隣り合うフレーム材の長さ方向中央部間に架け渡されて前記隣り合うフレーム材同士を連結する中間連結部材を更に備え、
前記中間連結部材の長さ方向一端部は前記隣り合うフレーム材の一方に固定され、長さ方向他端部は前記隣り合うフレーム材の他方に固定されていることを特徴とする制振壁。
【請求項3】
請求項1に記載の制振壁において、
当該制振壁の厚さ方向において前記第一中間部材及び前記第二中間部材と隣接し、前記隣り合うフレーム材間に架け渡されるとともに固定された厚さ調整用木質パネルを更に備えることを特徴とする制振壁。
【請求項4】
四角筒状に形成された木質組立柱であって、
当該木質組立柱の四側面は、第一側面と、平面視において前記第一側面と直交する第二側面及び第三側面と、平面視において前記第一側面と平行し、かつ前記第二側面及び前記第三側面と直交する第四側面と、からなり、
前記四側面のうち少なくとも前記第一側面が、請求項1から3のいずれか一項に記載の制振壁によって構成され、
前記制振壁における前記隣り合うフレーム材は、前記木質組立柱の隅部に配置されていることを特徴とする木質組立柱。
【請求項5】
請求項4に記載の木質組立柱において、
前記四側面における前記第二側面、前記第三側面、前記第四側面のうち少なくとも一つの側面が、制振装置を備えない非制振壁によって構成されており、
前記非制振壁は、
互いに間隔を空けて隣り合う上下方向に長尺な木製のフレーム材と、
隣り合う前記フレーム材間に架け渡されるとともに固定された第三中間部材と、を備えており、
前記非制振壁が、前記制振壁によって構成された前記第一側面と直交する前記第二側面又は前記第三側面を構成している場合に、前記制振壁と前記非制振壁とが交差する前記隅部に位置する前記フレーム材は、前記制振壁と前記非制振壁とで共有しており、
前記第三中間部材は、建築用木質パネルであることを特徴とする木質組立柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振壁及び木質組立柱に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば中層・高層の木造建物や延べ面積の広い木造建物のような、比較的規模の大きな木造建物を構築する技術が知られている。例えば特許文献1においては、四角筒状に形成された木質組立柱と木質組立梁を箱形の接合金物によって強固に接合することで、比較的規模の大きい木造建物を構成し得る柱梁架構を構築している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-021287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの推進による脱炭素社会の実現や、SDGs(Sustainable Development Goals)の目標達成が求められており、建築業界においても中層・高層の建物を、二酸化炭素排出量の少ない木造とする取り組みが進められている。そのため、規模の大きい木造建物を建築するにあたっては、例えば地震時や台風時の水平荷重に対して更に十分に抵抗し得るように、木造建物を構成する柱梁架構のエネルギー吸収性能を高める技術の導入が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、木造建物における柱梁架構のエネルギー吸収性能の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、制振壁であって、例えば図11等に示すように、互いに間隔を空けて隣り合う上下方向に長尺な木製のフレーム材20と、
隣り合う前記フレーム材20間に架け渡されるとともに固定された第一中間部材21a及び第二中間部材21bと、を備えており、
前記第一中間部材21aと前記第二中間部材21bは、前記隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置されており、
前記第一中間部材21a及び前記第二中間部材21bは、前記隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段(制振部材13b)を有する制振装置であることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置された第一中間部材21a及び第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段を有する制振装置であることから、制振装置である第一中間部材21a及び第二中間部材21bによって、制振壁に生じた振動を抑えることができる。これによって、制振壁を含んで構成された柱梁架構のエネルギー吸収性能の向上を図ることができるので、例えば地震時や台風時の水平荷重に対して十分に抵抗できるようになり、比較的規模の大きい木造建物を構築する上で有利となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、例えば図11等に示すように、請求項1に記載の制振壁において、
前記隣り合うフレーム材20の長さ方向中央部間に架け渡されて前記隣り合うフレーム材20同士を連結する中間連結部材24を更に備え、
前記中間連結部材24の長さ方向一端部は前記隣り合うフレーム材20の一方に固定され、長さ方向他端部は前記隣り合うフレーム材20の他方に固定されていることを特徴とする。
【0009】
少なくとも2つの制振装置の分の長さを有する隣り合うフレーム材20間において、別々の制振装置が上下に並んで配置されていることになるので、振動発生時に、上下に並んで配置された各々の制振装置の挙動にばらつきが生じ、ある程度の長さを有する隣り合うフレーム材20に対して、例えば変形力を付与するなどの影響を及ぼそうとする場合がある。
請求項2に記載の発明によれば、隣り合うフレーム材20の長さ方向中央部が中間連結部材24によって連結されるので、振動発生時における上下の制振装置のばらついた挙動の影響を受けにくくなり、制振機能を有効に働かせることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、例えば図11等に示すように、請求項1に記載の制振壁において、
当該制振壁の厚さ方向において前記第一中間部材21a及び前記第二中間部材21bと隣接し、前記隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定された厚さ調整用木質パネル21cを更に備えることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、制振壁の厚さ方向において第一中間部材21a及び第二中間部材21bと隣接し、隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定された厚さ調整用木質パネル21cを更に備えるので、厚さ調整用木質パネル21cによって隣り合うフレーム材20同士の連結強度を高めたり、制振壁の剛性を高めたり、隣り合うフレーム材20の表面と面一にしたりすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、例えば図1図11に示すように、四角筒状に形成された木質組立柱2であって、
当該木質組立柱2の四側面は、第一側面2aと、平面視において前記第一側面2aと直交する第二側面2b及び第三側面2cと、平面視において前記第一側面2aと平行し、かつ前記第二側面2b及び前記第三側面2cと直交する第四側面2dと、からなり、
前記四側面のうち少なくとも前記第一側面2aが、請求項1から3のいずれか一項に記載の制振壁によって構成され、
前記制振壁における前記隣り合うフレーム材20は、前記木質組立柱2の隅部に配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、四角筒状に形成された木質組立柱2の四側面のうち少なくとも第一側面2aが、請求項1から3のいずれか一項に記載の制振壁によって構成され、制振壁における隣り合うフレーム材20は、木質組立柱2の隅部に配置されているので、木質組立柱2に対し、制振壁による制振機能を付与することができる。
木質組立柱2は四角筒状に形成されているため、制振壁よりも、規模の大きい木造建物を構築するのに好適であり、その上で制振壁による制振機能が付与されているので、規模の大きい木造建物を構築する上で格段に有利となる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図1図11に示すように、請求項4に記載の木質組立柱2において、
前記四側面における前記第二側面2b、前記第三側面2c、前記第四側面2dのうち少なくとも一つの側面が、制振装置を備えない非制振壁によって構成されており、
前記非制振壁は、
互いに間隔を空けて隣り合う上下方向に長尺な木製のフレーム材20、
隣り合う前記フレーム材20間に架け渡されるとともに固定された第三中間部材21dと、を備えており、
前記非制振壁が、前記制振壁によって構成された前記第一側面2aと直交する前記第二側面2b又は前記第三側面2cを構成している場合に、前記制振壁と前記非制振壁とが交差する前記隅部に位置する前記フレーム材20は、前記制振壁と前記非制振壁とで共有しており、
前記第三中間部材21dは、建築用木質パネルであることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、非制振壁が、制振壁によって構成された第一側面2aと直交する第二側面2b又は第三側面2cを構成している場合に、制振壁と非制振壁とが交差する隅部に位置するフレーム材20は、制振壁と非制振壁とで共有しているので、制振壁と非制振壁を直交方向に隣接させて配置することができる。
さらに、第三中間部材21dは、建築用木質パネルであることから、隣り合うフレーム材20同士の連結強度を高めたり、木質組立柱2の剛性を高めたりすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、木造建物における柱梁架構のエネルギー吸収性能の向上を図ることができる。これにより、地震時や台風時の水平荷重に対して十分に抵抗できるようになり、比較的規模の大きい木造建物を構築する上で有利となるので、カーボンニュートラルの推進による脱炭素社会の実現や、SDGsの目標達成に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】木質組立柱と木質組立梁を含んで構成された柱梁架構を示す正面図である。
図2】木質組立柱を示す斜視図である。
図3】木質組立柱を示す正面図である。
図4】木質組立柱を示す側面図である。
図5】木質組立柱を示す断面図である。
図6】木質組立柱と柱脚接合金物との接合部位を示す断面図である。
図7】木質組立柱と柱脚接合金物との接合部位を示す断面図である。
図8】隣り合うフレーム材同士を連結するための構造を示す断面図である。
図9】木質組立梁を示す平面図である。
図10】木質組立梁を示す断面図である。
図11】制振壁を含んで構成された柱梁架構を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。なお、以下の実施形態及び図示例における方向は、あくまでも説明の便宜上設定したものである。
【0019】
図1において符号1は、柱梁架構を示す。この柱梁架構1は、水平方向及び高さ方向に連続して設けられることで、木造建物の躯体を構成している。このような柱梁架構1は、木質組立柱2と、木質組立梁3と、上下に並ぶ木質組立柱2同士、横方向に並ぶ木質組立梁3同士、あるいは木質組立柱2と木質組立梁3とを連結する柱梁連結金物4と、を含んで構成されている。
より詳細に説明すると、木造建物の躯体は、木質組立柱2の上端部に柱梁連結金物4が接合されて、柱梁連結金物4の上端面に上階の木質組立柱2が更に接合されたり、柱梁連結金物4の側面に木質組立梁3の長さ方向側端部が更に接合されたりすることで構成されている。なお、1階の木質組立柱2は、基礎5に立設されている。
【0020】
図1に示す柱梁架構1は、一対の木質組立柱2が基礎5に立設され、これら一対の木質組立柱2における上端部のそれぞれに柱梁連結金物4が接合され、一対の木質組立柱2の上端部に接合された一対の柱梁連結金物4同士の間に木質組立梁3が架け渡されるとともに、一対の柱梁連結金物4のそれぞれに木質組立梁3の長さ方向側端部が接合された状態となっている。
このような柱梁架構1は、一対の木質組立柱2と木質組立梁3とによって囲まれた内側の空間内に何も設けられていないため、窓や出入口等の開口部を形成する場所に配置することができる。
【0021】
〔木質組立柱について〕
木質組立柱2は、内部(中心側)が空洞とされた四角筒状のものであり、図2図7に示すように、4本のフレーム材20と、中間部材21と、柱脚接合金物22と、柱頭接合金物23と、中間連結部材24と、を備えている。
四角筒状に形成された木質組立柱2の四側面は、第一側面2aと、平面視において第一側面2aと直交する第二側面2b及び第三側面2cと、平面視において第一側面2aと平行し、かつ第二側面2b及び第三側面2cと直交する第四側面と、からなる。
【0022】
(フレーム材)
4本のフレーム材20は、木質組立柱2の四隅に配置されている。これら各フレーム材20は、長さ方向(上下方向)と直交する断面視において正方形となる長尺材である。本実施形態のフレーム材20は、構造用集成材が採用されているが、無垢の角材(柱材)やLVL(Laminated Veneer Lumber)、CLT(Cross Laminated Timber)等が採用されてもよい。すなわち、このフレーム材20は、中実材である。
【0023】
各フレーム材20の下端面には、4本の連結ボルト20aが、その下端部をフレーム材20の下端面から突出させた状態となるように埋め込まれて固定されている。また、各フレーム材20の上端面には、4本の連結ボルト20aが、その上端部をフレーム材20の上端面から突出させた状態となるように埋め込まれて固定されている。
また、連結ボルト20aとフレーム材20との接合には、グルードインロッド(GIR:Glued in Rod)と呼ばれる方法が採用される。この方法は、各フレーム材20の上下端面に形成された連結ボルト20a用の差込穴と連結ボルト20aとの空隙に接着剤を充填し、その接着剤の硬化により、応力を接着剤の付着力と連結ボルト20aを介して伝達し、接合耐力を発生させる方法である。
【0024】
さらに、各フレーム材20の長さ方向両端部(上下端部)には、金属製の補強キャップ20bが被され、ビス等により固定されている。補強キャップ20bには、連結ボルト20a用の孔が形成されている。
【0025】
(中間部材)
中間部材21は、左右前後に隣り合う四隅のフレーム材20間にそれぞれ設けられている。すなわち、隣り合う一方のフレーム材20と他方のフレーム材20との間(中間)に架け渡されるとともに固定されている。中間部材21は、各フレーム材20と共に、木質組立柱2における上記の四側面を構成している。
【0026】
本実施形態の中間部材21は、第一中間部材21aと、第二中間部材21bと、厚さ調整用木質パネル21cと、第三中間部材21dと、を備えている。
なお、第一中間部材21a、第二中間部材21b、第三中間部材21dは、厚さ方向の寸法が、フレーム材20における側面の幅寸法の半分に設定されている。また、厚さ調整用木質パネル21cの厚さ方向の寸法は、各中間部材21a,21b,21cの更に半分に設定されている。
【0027】
第一中間部材21aと、第二中間部材21bと、厚さ調整用木質パネル21cは、木質組立柱2における四側面のうち第一側面2a及び第四側面2dを構成するための中間部材21であり、木質組立柱2を前方から見た場合及び後方から見た場合において左右に隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定されている。
第一中間部材21aと第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置されている。本実施形態において第一中間部材21aは下方に位置し、第二中間部材21bは、第一中間部材21aの上方に位置しているが、これに限られるものではなく、第一中間部材21aが上方に位置し、第二中間部材21bが下方に位置するものとしてもよい。
【0028】
そして、第一中間部材21a及び第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段を有する制振装置とされている。
制振装置の詳細については後述する。
なお、木質組立柱2の四側面のうち、第一中間部材21a及び第二中間部材21bが設けられた第一側面2a及び第四側面2dは、少なくとも第一中間部材21aが制振装置であるため、制振壁とされている。
【0029】
厚さ調整用木質パネル21cは、前後方向において第一中間部材21a及び第二中間部材21bと隣接し、隣り合うフレーム材20間に架け渡されているとともに固定されている。厚さ調整用木質パネル21cの固定は、接着剤による接合固定や、ビス等の固定材による固定が挙げられる。
本実施形態において、厚さ調整用木質パネル21cは2枚重ねで、第一中間部材21a及び第二中間部材21bの裏側(木質組立柱2の中心側)に配置されているが、第一中間部材21a及び第二中間部材21bの表側に2枚重ねで配置されてもよいし、2枚の厚さ調整用木質パネル21cの間に、第一中間部材21a及び第二中間部材21bが挟み込まれた状態に配置されてもよい。
厚さ調整用木質パネル21cが表側に配置される場合、厚さ調整用木質パネル21cの表面と、隣り合うフレーム材20の表面は面一となる。
【0030】
このような厚さ調整用木質パネル21cは、いわゆる建築用木質パネルによって構成されている。
建築用木質パネルは、縦横の框材Fが矩形状に組み立てられるとともに、矩形枠の内部に補助桟材Cが縦横に組み付けられて枠体が構成され、この枠体の両面もしくは片面に、面材Bが貼設されたものであり、内部中空な構造となっている。本実施形態において面材Bは両面に貼設されている。また、内部中空部には、通常、グラスウールやロックウール等の断熱材(図示省略)が装填される。
ただし、厚さ調整用木質パネル21cを構成する木質パネルは、上記の建築用木質パネルに限られるものではなく、合板釘打ちパネルやその他の木質パネルであってもよい。すなわち、制振壁の厚さを調整できる木質のパネル体であればよいものとする。
【0031】
第三中間部材21dは、木質組立柱2における四側面のうち第二側面2b及び第三側面2cを構成するための中間部材21であり、木質組立柱2を側面視した場合において前後に隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定されている。
第三中間部材21dは、上下寸法の異なるものが、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置されている。本実施形態においては、上下寸法の長い第三中間部材21dが下方に位置し、上下寸法の短い第三中間部材21dが上方に位置している。
【0032】
このような第三中間部材21dは、厚さ調整用木質パネル21cと同様に、建築用木質パネルによって構成されている。すなわち、框材F及び補助桟材Cからなる枠体の両面に面材Bが貼設されたものである。
第三中間部材21dは、上記のように、上下寸法の異なるものが用いられるため、框材F、補助桟材C、面材Bの長さ寸法は、上下寸法の異なる第三中間部材21d同士で異なる。さらに、第三中間部材21dは、厚さ調整用木質パネル21cの2倍の厚さに設定されているため、框材Fや補助桟材Cにおける、第三中間部材21dの厚さ方向に沿う寸法は、厚さ調整用木質パネル21cの框材Fや補助桟材Cの2倍の寸法に設定されている。
【0033】
また、第三中間部材21dは、隣り合うフレーム材20間において2枚重ねで配置されており、表側に位置する第三中間部材21dの表面と、隣り合うフレーム材20の表面は面一となっている。
なお、木質組立柱2の四側面のうち、第三中間部材21dが設けられた第二側面2b及び第三側面2cは、制振装置が設けられていないため、非制振壁とされている。
【0034】
(柱脚接合金物)
柱脚接合金物22は、木質組立柱2のうち、フレーム材20及び中間部材21からなる木質部分の下端部に設けられるものであり、前後左右に離間して配置された4つの接合用箱形金物22aと、これら接合用箱形金物22a同士を連結する4つの連結部22bとによって四角形枠状に形成されている。
【0035】
接合用箱形金物22aは、四角筒状に形成された筒部材220と、この筒部材220の上下端面を塞ぐようにして当該筒部材220の上下端にそれぞれ溶接等によって固定された矩形状の板部材221とによって構成されている。筒部材220の1つの側面には矩形状の開口部222が形成されている。
【0036】
また、下の板部材221の略中央部には貫通孔221aが1つ形成されている。この貫通孔221aには、基礎5から突出するアンカーボルト(図示省略)が通されたり、柱梁連結金物4への接合時に用いられる接合用ボルトが通されたりする。
なお、基礎5から突出するアンカーボルトが貫通孔221aに通された場合は、開口部222から筒部材220内部にナットや座金が入れられ、ナット締め付けにより柱脚接合金物22を基礎5に固定することができる。
柱梁連結金物4への接合時に用いられる接合用ボルトも開口部222から筒部材220内部に入れられ、接合用ボルトは、柱梁連結金物4に向かってねじ込まれる。
【0037】
さらに、上の板部材221の四隅部にはそれぞれ貫通孔221bが形成されている。これら四隅の貫通孔221bには、上記のフレーム材20から突出する連結ボルト20aが通される。
四隅の貫通孔221bに通された連結ボルト20aには、開口部222から筒部材220内部に入れられたナット(座金)の締め付けにより、フレーム材20を柱脚接合金物22に固定することができる。
【0038】
このような接合用箱形金物22aは、それぞれの開口部222を外側(前側、後側)に向けた状態で前後左右に離間して配置され、隣り合う接合用箱形金物22aが連結部22bによって連結されている。
【0039】
連結部22bは、ウェブWbと上下のフランジFgからなる2つの溝形鋼を、ウェブWb同士を接合した状態に連結させたものであり、上のフランジFgは、下のフランジFgよりも奥行方向(木質組立柱2の表面側から中心側に沿う方向)の寸法が長く設定されている。上のフランジFgは、中間部材21の下面に接する。そして、厚さ調整用木質パネル21cの下端面(框材F)、第三中間部材21dの下端面(框材F)に向かってビス留めされる。
なお、ウェブWbには、軽量化のための貫通孔が複数形成されている。
【0040】
以上のように構成された柱脚接合金物22の表面(接合用箱形金物22aの外側面、連結部22bにおける上フランジFgの外側端部)と、各フレーム材20の表面は略面一となっている。
また、柱脚接合金物22における接合用箱形金物22aは、各フレーム材20の下端部に設けられた補強キャップ20bと接触する。
【0041】
(柱頭接合金物)
柱頭接合金物23は、上記の柱脚接合金物22を上下反転させた状態に形成されたものであり、柱脚接合金物22と同様に、接合用箱形金物23aと、連結部23bと、を備えている。
接合用箱形金物23aは、筒部材230と、上下の板部材231と、によって構成されており、筒部材230には開口部232が形成されている。
さらに、上の板部材231の略中央部には、柱梁連結金物4の下端面にねじ込まれる接合用ボルトが通される貫通孔231aが1つ形成され、下の板部材231の四隅部には、フレーム材20の上端面から突出する連結ボルト20aがそれぞれ通される貫通孔(図示省略)が形成されている。
連結部23bは、下のフランジFgが、上のフランジFgよりも奥行方向(木質組立柱2の表面側から中心側に沿う方向)の寸法が長く設定されている。また、ウェブWbには、軽量化のための貫通孔が複数形成されている。
そして、このような柱頭接合金物23の表面(接合用箱形金物23aの外側面、連結部23bにおける下フランジFgの外側端部)と、各フレーム材20の表面は略面一となっている。
また、柱頭接合金物23における接合用箱形金物23aは、各フレーム材20の下端部に設けられた補強キャップ20bと接触する。
【0042】
(制振装置)
本実施形態においては、第一中間部材21a及び第二中間部材21bが、上記のように制振装置によって構成されている。第一中間部材21aである制振装置と、第二中間部材21bである制振装置は、同一構成とされている。
【0043】
制振装置は、矩形枠状の矩形フレーム10と、この矩形フレーム10に対向して設けられた一対の支持部11と、この一対の支持部11間に配置され、かつ当該一対の支持部11によって支持された上下に長尺な振り子部材12と、矩形フレーム10の上下端部に設けられた制振ボックス13と、を備えている。
【0044】
矩形フレーム10は、左右一対の縦フレーム10aと、上下一対の横フレーム10bとを矩形枠状に組み立てて形成されたものであり、縦フレーム10aの端部と横フレーム10bの端部はピン結合されている。したがって、矩形フレーム10は左右方向に力が作用すると平行四辺形を形成するようにして変形可能となっている。なお、縦フレーム10a及び横フレーム10bは鉄やアルミニウム等の金属で形成されている。
【0045】
縦フレーム10aは、矩形フレーム10の外周面を構成する帯板状の外周板部と、この外周板部の内面に直角に形成されて矩形フレーム10の中央側に延出する帯板状の内側板部と、この内側板部の延出方向側端部に一体形成されて更に矩形フレーム10の中央側に延出する延出板部と、から構成されている。延出板部も、帯板状の板材であり、上下方向中央部が中央側への延出寸法が最も長く設定されている。
このような縦フレーム10aは、内側板部が、外周板部の内面における幅方向(前後方向)中央部に沿って直角に形成されているため、断面視においてT字状に形成された状態となっている。
縦フレーム10aのうち外周板部は、フレーム材20の側面に接し、長さ方向に間隔を空けた複数の箇所がフレーム材20に対してビス固定されている。
【0046】
横フレーム10bは、矩形フレーム10の外周面を構成する帯板状の外周板部と、この外周板部における両端部の内面にそれぞれ直角に形成されて、縦フレーム10aの内側板部の端部にピン結合される一対の内側板部と、を備えている。そして、一対の内側板部間には制振ボックス13が一体に取り付けられている。
横フレーム10bのうち外周板部は、柱脚接合金物22又は柱頭接合金物23に接し、長さ方向に間隔を空けた複数の箇所が柱脚接合金物22又は柱頭接合金物23に対してビス固定されてもよいし、溶接等により接合されてもよい。
【0047】
左右一対の縦フレーム10aにおける内側板部及び延出板部のそれぞれには、支持部11が一体に固定されている。
支持部11は、正面視において略台形状に形成された板材によって構成されており、矩形フレーム10の中央側に向かうにつれて先細りするように状態となっている。一対の支持部11は間隔を空けて配置されており、これら一対の支持部11間には上下に長尺な振り子部材12の中央部が架け渡されて支持されている。
【0048】
振り子部材12は、板状でかつ、縦長の多角形状に形成されており、長手方向を上下に向けて配置されている。振り子部材12の長さ方向中央部の左半分は、左側の支持部11に対して回転可能に取り付けられており、右半分は、右側の支持部11に対して回転可能に取り付けられている。なお、振り子部材12は鉄やアルミニウム等の金属によって形成されている。
このような振り子部材12は、一対の支持部11によって長手方向中央部が支持されており、地震等の振動によって矩形フレーム10が変形して一対の支持部11が変位した場合に、当該一対の支持部11間の略中央部を中心として振れるように構成されている。
【0049】
一対の支持部11における矩形フレーム10の中央側に位置する各々の端部と、振り子部材12は、回転軸(例えばボルト)によって回転可能に連結されている。
これによって、振り子部材12は、一対の支持部11によって回転軸を介して支持されている。振り子部材12は、地震等の振動によって一対の支持部11が変位した場合に、一対の支持部11間の略中央部、換言すれば、双方の回転軸間の中央部を中心として振れるように構成されている。
【0050】
制振ボックス13は、上下面が開口した箱状のボックス13aと、このボックス13a内に取り付けられた一対の制振部材13bと、これら制振部材13b間に挿入されかつ当該一対の制振部材13bに固着されたプレート13cとを備えている。制振部材13bとしては、例えば高減衰ゴムによって形成された粘弾性体を使用しており、振動減衰手段として機能する。
ボックス13aの対向する内面にはそれぞれ粘弾性体である制振部材13bが接着剤等によって固着されている。これら制振部材13b間には、プレート13cが挿入されており、プレート13cの表面は一対の制振部材13bに固着されている。プレート13cの一端部は、ボックス13aよりも矩形フレーム10の中央側に突出しており、この突出している一端部は、振り子部材12の長さ方向端部に連結されている。したがって、振り子部材12が、一対の支持部11間の略中央部を中心として振れた場合には、制振部材13bに対して運動エネルギーが伝わるようになっている。
なお、制振ボックス13のボックス13a、プレート13c等は鉄やアルミニウム等の金属で形成されている。
【0051】
以上のような制振装置によって構成された第一中間部材21a及び第二中間部材21bは、上記のように、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置されている。
例えば木質組立柱2が左右に変位し、隣り合うフレーム材20及び柱脚接合金物22、柱頭接合金物23が平行四辺形を成すように変形すると、上下に並んだ制振装置における各々の矩形フレーム10も平行四辺形を成すように変形する。このとき、下側に配置された第一中間部材21aである制振装置の上端部と、上側に配置された第二中間部材21bである制振装置の下端部は、左右方向において正反対の方向に変位しようとすることになる。そのため、隣り合うフレーム材20の中央付近には、下側の制振装置が左右方向の一方に変位しようとする力と、上側の制振装置が左右方向の他方に変位しようとする力が加わり、隣り合うフレーム材20同士は左右方向外側に向かって離間しようとすることになる。このような事態の発生を防ぐため、木質組立柱2は、隣り合うフレーム材20間に架け渡された中間連結部材24を備えている。
【0052】
より詳細に説明すると、中間連結部材24は、隣り合うフレーム材20の長さ方向中央部間に架け渡されて隣り合うフレーム材20同士を連結している。本実施形態における中間連結部材24は、棒鋼であり、表面には凹凸が形成されてもよいし、螺子山が形成されていてもよい。そして、中間連結部材24は、第一中間部材21aと第二中間部材21bとの間に配置されており、長さ方向一端部は隣り合うフレーム材20の一方に固定され、長さ方向他端部は隣り合うフレーム材20の他方に固定されている。
なお、第一中間部材21aと第二中間部材21bとの間には、中間連結部材24を通すことが可能な分の隙間が形成されている。
【0053】
中間連結部材24における長さ方向一端部及び他端部と隣り合うフレーム材20との接合には、図8(a)に示すように、グルードインロッドの方法が採用されている。すなわち、隣り合うフレーム材20の内側面に形成された差込穴20cと中間連結部材24との空隙に接着剤を充填する方法である。
接着剤は、隣り合うフレーム材20の前面に形成された充填用孔20dから差込穴20cに向かって充填される。接着剤が硬化すると、隣り合うフレーム材20同士は中間連結部材24によって連結されることとなる。
隣り合うフレーム材20は、中間連結部材24によって連結されると、木質組立柱2が左右に変位したときに左右方向外側に向かって離間しにくくなる。
【0054】
なお、中間連結部材24は、図8(b)に示すように、フレーム材20を貫通した状態で設けられてもよい。その場合、中間連結部材24として、螺子山が形成されたボルトを採用し、接着剤と共にナット24a及び座金24cを併用して隣り合うフレーム材20に固定されるものとしてもよい。
【0055】
本実施形態においては、第二中間部材21bも、第一中間部材21aと同様に、上記のような制振装置によって構成されるものとしたが、制振装置によって構成されなくてもよい。その場合、第二中間部材21bは、第三中間部材21dと同様の建築用木質パネルによって構成される。建築用木質パネルによって構成される場合の第二中間部材21bの上下左右の寸法は、制振装置によって構成される場合の寸法と略等しく設定されており、隣り合うフレーム材20間において、制振装置によって構成された第一中間部材21aと上下に並んで配置できるようになっている。
すなわち、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置された第一中間部材21a及び第二中間部材21bのうち少なくとも第一中間部材21aが、隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段を有する制振装置である、としてもよい。このようにすると、第二中間部材21bが制振装置であるか否かにかかわらず、少なくとも制振装置である第一中間部材21aによって、制振壁に生じた振動を抑えることができる。これによって、制振壁を含んで構成された柱梁架構のエネルギー吸収性能の向上を図ることができるので、例えば地震時や台風時の水平荷重に対して十分に抵抗できるようになり、比較的規模の大きい木造建物を構築する上で有利となる。
また、第一中間部材21aのみが制振装置である場合に、第二中間部材21bは、建築用木質パネルであることから、隣り合うフレーム材20同士の連結強度を高めたり、制振壁の剛性を高めたりすることができる。
【0056】
なお、第二中間部材21bが建築用木質パネルによって構成される場合、第二中間部材21bは複数でもよい。そして、当該複数の第二中間部材21bが上下に間隔を空けて配置され、これら複数の第二中間部材21bの間に、制振装置である第一中間部材21aが配置されてもよい。換言すれば、第一中間部材21aの上側と下側のそれぞれに第二中間部材21bが配置されるものとしてもよい。また、その場合、中間連結部材24は、真ん中の第一中間部材21aと上下それぞれの第二中間部材21bとの間に設けられるものとする。
さらに、第二中間部材21bが複数である場合、一つ一つの第二中間部材21bの上下方向の寸法は、第一中間部材21aと上下に並べて配置したときに隣り合うフレーム材20の長さ寸法に収まる寸法に設定されている。
【0057】
本実施形態においては、第一側面2a及び第四側面2dが制振壁とされている。すなわち、木質組立柱2における第一側面2a側及び第四側面2d側には、制振装置である第一中間部材21aが少なくとも設けられている。しかしながら、制振装置である第一中間部材21aの配置はこれに限られるものではない。つまり、木質組立柱2における四側面のうち少なくとも第一側面2aが制振壁によって構成されていればよい。したがって、第二側面2b、第三側面2c、第四側面2dは、制振壁でもよいし、非制振壁でもよい。
そのため、四角筒状に形成された木質組立柱2においては、第一側面2aのみが制振壁とされるパターンと、第一側面2a及び第四側面2dが制振壁とされる平行配置のパターンと、第一側面2aと第二側面2b又は/及び第三側面2cが制振壁とされる直交配置又はコ字型配置のパターンと、第一側面2a及び第四側面2dと第二側面2b又は第三側面2cが制振壁とされるコ字型配置のパターンと、第一側面2aから第四側面2dの全てが制振壁とされるロ字型配置パターンと、が適用可能となっている。
また、制振壁と非制振壁はいずれも、隣り合うフレーム材20間に中間部材21が配置された構成であるため、これらを直交配置する場合は、木質組立柱2の隅部においてフレーム材20を共有している。
【0058】
さらに、図1に示す例においては、左右双方の木質組立柱2に適用される制振壁の配置パターンが同一とされているが、これに限られるものではなく、建物全体の構造を考慮して制振壁の配置パターンを適宜変更してもよい。一の木質組立柱2に適用される制振壁の配置パターンと、他の木質組立柱2に適用される制振壁の配置パターンが異なっていてもよい。
また、制振装置である第一中間部材21aは、木造建物の躯体を構成する全ての木質組立柱2に組み込まれている必要はなく、構造上必要な箇所の木質組立柱2に適宜組み込まれるものとする。
【0059】
〔木質組立梁について〕
木質組立梁3は、木質組立柱2と同様に、内部(中心側)が空洞とされた四角筒状のものであって、図1図9図10に示すように、4本のフレーム材30と、中間部材31と、梁端部接合金物32と、を備えている。
四角筒状に形成された木質組立梁3の四側面は、下面である第一側面3aと、前面である第二側面3bと、後面である第三側面3cと、上面である第四側面3dと、からなる。
【0060】
(フレーム材)
4本のフレーム材30は、木質組立梁3の四隅に配置されている。これら各フレーム材30は、長さ方向(上下方向)と直交する断面視において正方形となる長尺材である。本実施形態のフレーム材30は、構造用集成材が採用されているが、無垢の角材(柱材)やLVL、CLT等が採用されてもよい。すなわち、このフレーム材30は、中実材である。
各フレーム材30の長さ方向両端面には、4本の連結ボルト30aが、その突端部をフレーム材30の両端面から突出させた状態となるように埋め込まれて固定されている。
また、連結ボルト30aとフレーム材30との接合には、グルードインロッドの方法が採用される。
さらに、各フレーム材30の長さ方向両端部(上下端部)には、金属製の補強キャップ30bが被され、ビス等により固定されている。補強キャップ30bには、連結ボルト30a用の孔が形成されている。
【0061】
(中間部材)
中間部材31は、上下前後に隣り合う四隅のフレーム材30間にそれぞれ設けられている。すなわち、隣り合う一方のフレーム材30と他方のフレーム材30との間(中間)に架け渡されるとともに固定されている。中間部材31は、各フレーム材20と共に、木質組立柱2における上記の四側面を構成している。
本実施形態の中間部材31は、木質組立柱2における第三中間部材21dと同様に、建築用木質パネルによって構成されている。
本実施形態においては、左右方向の長さの等しいものが、隣り合うフレーム材30間において左右に並んで配置されている。
また、中間部材31は、隣り合うフレーム材30間において2枚重ねで配置され、表側に位置する中間部材31の表面と、隣り合うフレーム材30の表面は面一となっている。
【0062】
(梁端部接合金物)
梁端部接合金物32は、木質組立梁3のうち、フレーム材30及び中間部材31からなる木質部分の長さ方向両端部に設けられるものであり、前後上下に離間して配置された4つの接合用箱形金物32aと、これら接合用箱形金物32a同士を連結する4つの連結部32bとによって四角形枠状に形成されている。その詳細構成は、上記の柱脚接合金物22と略同様であるため説明を省略する。
梁端部接合金物32の表面(接合用箱形金物32aの外側面、連結部32bにおける上フランジFgの外側端部)と、各フレーム材30の表面は略面一となっている。
また、梁端部接合金物32における接合用箱形金物32aは、各フレーム材30の長さ方向両端部に設けられた補強キャップ30bと接触する。
【0063】
〔柱梁連結金物について〕
柱梁連結金物4は、仕口とも称呼され、図1に示すように、木質組立柱2と木質組立梁3の延長上の交差部に配置される略直方体状の金物であり、木質組立柱2と同様に、内部は空洞となっている。つまり、柱梁連結金物4は四角筒状に形成されている。
【0064】
柱梁連結金物4は、その8つの角部にそれぞれ直方体状の受ブロック40を有し、上下に離間する受ブロック40が四角筒状の縦部材41によって連結されており、前後左右にそれぞれ離間する受ブロック40が四角筒状の横部材42によってそれぞれ連結されている。また、隣り合う縦部材41間には略矩形状の板材43が設けられており、この板材43の縦縁部は縦部材41に接合され、横縁部は横部材42に接合されている。
【0065】
上側の4つの受ブロック40における上面部と、外側を向く2つの側面部のそれぞれにはネジ穴40aが形成され、下側の4つの受ブロック40における下面部と、外側を向く2つの側面部のそれぞれにもネジ穴40aが形成されている。
そして、8つの角部にそれぞれに設けられた受ブロック40は、柱梁連結金物4の下面に設けられる木質組立柱2の柱頭接合金物23、上面に設けられる木質組立柱2の柱脚接合金物22、側面に設けられる木質組立梁3の梁端部接合金物32が接する。そして、各接合金物側から上記の接合用ボルトがねじ込まれて固定される。
【0066】
(制振装置の動作)
木質組立柱2を備えた柱梁架構1(柱梁架構1を備えた木造建物の躯体)に、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、木質組立梁3及び柱梁連結金物4は水平方向に変位する。これに伴って、木質組立柱2は斜めに傾くように変位し、柱梁架構1は、基礎5も含めると略平行四辺形状に変形することとなる。
このとき、木質組立柱2における各フレーム材20も、全て同一方向に斜めに傾いた状態となる。すなわち、隣り合うフレーム材20及び柱脚接合金物22、柱頭接合金物23が平行四辺形を成すように変形することとなる。これに伴って、制振装置の矩形フレーム10におけるピン結合された縦フレーム10a及び横フレーム10bが平行四辺形を成すように変形する。
そして、矩形フレーム10がこのように略平行四辺形状に変形すると、一対の支持部11が斜め上下に互いに離間するようにして変位する。一対の支持部11が変位することによって、振り子部材12が一対の支持部11間の略中央部を中心として振り子のように振れ、この振り子部材12の端部は振れが増幅され、これによって、一対の支持部11の変位が増幅される。
上記のように、振り子部材12の端部と制振ボックス13のプレート13cとが連結されており、このプレート13cは粘弾性体である一対の制振部材13b間に挿入され、かつ、当該一対の制振部材13bに固着されているので、制振部材13bの変形を増幅できる。したがって、柱梁架構1(木造建物の躯体)の小さな変形から制振機能を有効に働かせることができる。
また、制振部材13bを構成する粘弾性体の変形速度も躯体の変形速度より増幅することができるため、エネルギー吸収性能が変形速度に比例する粘弾性材料から形成された粘弾性体を用いることによって、より効率的にエネルギーを吸収でき、大きな減衰力を発揮できる。
【0067】
〔制振壁について〕
第一中間部材21aと第二中間部材21bが、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置される構成は、木質組立柱2に組み込まれるだけでなく、一つの壁に組み込まれることで当該壁を制振壁として機能させることができる。
なお、本実施形態においては制振壁と称呼するが、軸組構法における柱と同様に、躯体の構造材の一つとして機能するものでもあるし、隣り合うフレーム材20と間隔を空けて配置された他の柱材と共に建物の壁を構成するものとしてもよい。
また、この制振壁は、基礎5や上階の床(梁6)等の他の構造体上に立設され、アンカーボルトや連結ボルト等の各種ボルトによって当該他の構造体に連結固定される。
【0068】
制振壁は、図11に示すように、互いに間隔を空けて隣り合う上下方向に長尺な木製のフレーム材20と、隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定された第一中間部材21a及び第二中間部材21bと、を備えている。
そして、第一中間部材21aと第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置されている。
【0069】
第一中間部材21a及び第二中間部材21bのうち少なくとも第一中間部材21aは、隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段(制振部材13b)を有する制振装置とされている。なお、制振壁に採用される制振装置の構成は、上記の木質組立柱2に採用された制振装置の構成と同一である。
本実施形態においては、第二中間部材21bも、第一中間部材21aと同様の制振装置であるが、これに限られるものではなく、建築用木質パネルによって構成されてもよい。
【0070】
制振壁は、当該制振壁の厚さ方向において第一中間部材21a及び第二中間部材21bと隣接し、隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定された厚さ調整用木質パネル21cを更に備える。
【0071】
フレーム材20は、長さ方向(上下方向)両端部に接合用箱形金物25が設けられている。この接合用箱形金物25は、上記の接合用箱形金物22a,23aと同様に、筒部材25aと、上下の板部材25bと、によって構成されており、筒部材25aの1つの側面には矩形状の開口部25cが形成されている。
【0072】
また、上下の板部材25bには、アンカーボルトや連結ボルト等の各種ボルトが通される貫通孔が一つ又は複数形成されている。貫通孔に通された各種ボルトには、開口部25cから筒部材25a内に入れられたナットや座金が設けられ、ナット締め付けにより、接合用箱形金物25を、各フレーム材20や基礎5、梁6等に固定することができる。
【0073】
さらに、隣り合うフレーム材20の長さ方向中央部間には中間連結部材24が架け渡されて、隣り合うフレーム材20同士が連結されている。中間連結部材24は、第一中間部材21aと第二中間部材21bとの間に配置されており、長さ方向一端部は隣り合うフレーム材20の一方に固定され、長さ方向他端部は隣り合うフレーム材20の他方に固定されている。
【0074】
制振壁の上端部に載せられる上部構造は、本実施形態においては梁6(桁)とされているが、これに限られるものではなく、例えば床用の建築用木質パネルであってもよいし、屋根を構成する小屋梁でもよい。
また、上下階の制振壁は、梁6等の上部構造を貫通する連結ボルトによって連結されてもよい。すなわち、連結ボルトが、下階の制振壁における接合用箱形金物25から、上部構造を介して、上階の制振壁における接合用箱形金物25まで通されて、上下階の制振壁を連結している状態としてもよい。
【0075】
以上のように構成された制振壁を備えた柱梁架構に、地震等の横揺れ振動によって変形が生じると、梁6等の上部構造は水平方向に変位する。これに伴って、制振壁は斜めに傾くように変位し、柱梁架構は、基礎5(下階の梁6)も含めると略平行四辺形状に変形することとなる。
このとき、制振壁における各フレーム材20も、全て同一方向に斜めに傾いた状態となり、これに伴って、制振装置の矩形フレーム10におけるピン結合された縦フレーム10a及び横フレーム10bが平行四辺形を成すように変形する。
そして、矩形フレーム10がこのように略平行四辺形状に変形すると、一対の支持部11が斜め上下に互いに離間するようにして変位する。一対の支持部11がこのように変位することによって、振り子部材12が一対の支持部11間の略中央部を中心として振り子のように振れ、この振り子部材12の端部は振れが増幅され、これによって、一対の支持部11の変位が増幅される。
振り子部材12の端部と制振ボックス13のプレート13cは連結されており、このプレート13cは粘弾性体である一対の制振部材13b間に挿入され、かつ、当該一対の制振部材13bに固着されているので、制振部材13bの変形を増幅できる。したがって、柱梁架構(木造建物の躯体)の小さな変形から制振機能を有効に働かせることができる。
また、制振部材13bを構成する粘弾性体の変形速度も躯体の変形速度より増幅することができるため、エネルギー吸収性能が変形速度に比例する粘弾性材料から形成された粘弾性体を用いることによって、より効率的にエネルギーを吸収でき、大きな減衰力を発揮できる。
【0076】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
すなわち、隣り合うフレーム材20間において上下に並んで配置された第一中間部材21a及び第二中間部材21bは、隣り合うフレーム材20に生じた振動を減衰させる振動減衰手段を有する制振装置であることから、制振装置である第一中間部材21a及び第二中間部材21bによって、制振壁に生じた振動を抑えることができる。これによって、制振壁を含んで構成された柱梁架構のエネルギー吸収性能の向上を図ることができるので、例えば地震時や台風時の水平荷重に対して十分に抵抗できるようになり、比較的規模の大きい木造建物を構築する上で有利となる。そして、カーボンニュートラルの推進による脱炭素社会の実現や、SDGsの目標達成に貢献できる。
【0077】
また、隣り合うフレーム材20の長さ方向中央部が中間連結部材24によって連結されるので、振動発生時における上下の制振装置のばらついた挙動の影響を受けにくくなり、制振機能を有効に働かせることができる。
【0078】
また、制振壁の厚さ方向において第一中間部材21a及び第二中間部材21bと隣接し、隣り合うフレーム材20間に架け渡されるとともに固定された厚さ調整用木質パネル21cを更に備えるので、厚さ調整用木質パネル21cによって隣り合うフレーム材20同士の連結強度を高めたり、制振壁の剛性を高めたり、隣り合うフレーム材20の表面と面一にしたりすることができる。
【0079】
また、四角筒状に形成された木質組立柱2の四側面のうち少なくとも第一側面2aが、制振壁によって構成され、制振壁における隣り合うフレーム材20は、木質組立柱2の隅部に配置されているので、木質組立柱2に対し、制振壁による制振機能を付与することができる。
木質組立柱2は四角筒状に形成されているため、制振壁よりも、規模の大きい木造建物を構築するのに好適であり、その上で制振壁による制振機能が付与されているので、規模の大きい木造建物を構築する上で格段に有利となる。
【0080】
また、非制振壁が、制振壁によって構成された第一側面2aと直交する第二側面2b又は第三側面2cを構成している場合に、制振壁と非制振壁とが交差する隅部に位置するフレーム材20は、制振壁と非制振壁とで共有しているので、制振壁と非制振壁を直交方向に隣接させて配置することができる。
さらに、第三中間部材21dは、建築用木質パネルであることから、隣り合うフレーム材20同士の連結強度を高めたり、木質組立柱2の剛性を高めたりすることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 柱梁架構
2 木質組立柱
2a 第一側面
2b 第二側面
2c 第三側面
2d 第四側面
3 木質組立梁
4 柱梁連結金物
5 基礎
10 矩形フレーム
11 支持部
12 振り子部材
13 制振ボックス
20 フレーム材
21 中間部材
21a 第一中間部材
21b 第二中間部材
21c 厚さ調整用木質パネル
21d 第三中間部材
22 柱脚接合金物
23 柱頭接合金物
24 中間連結部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11