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特開2024-43940半導体記憶装置および半導体記憶装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043940
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】半導体記憶装置および半導体記憶装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10B 43/27 20230101AFI20240326BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01L27/11582
H01L29/78 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149191
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 沙緒梨
(72)【発明者】
【氏名】塩田 倫也
(72)【発明者】
【氏名】山中 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 良太
【テーマコード(参考)】
5F083
5F101
【Fターム(参考)】
5F083EP18
5F083EP22
5F083EP32
5F083EP76
5F083ER21
5F083GA06
5F083GA10
5F083JA04
5F083JA05
5F083JA19
5F083JA37
5F083JA39
5F083JA40
5F083MA06
5F083MA16
5F101BA46
5F101BB02
5F101BD16
5F101BD22
5F101BD30
5F101BD34
5F101BE07
5F101BH13
(57)【要約】
【課題】メモリセルの消去特性の向上とリーク電流の抑制とを両立させること。
【解決手段】実施形態の半導体記憶装置は、複数の導電層と複数の絶縁層とが1層ずつ交互に積層された積層体と、前記積層体を前記積層体の積層方向に延び、前記複数の導電層との交差部にそれぞれメモリセルが形成されるピラーと、を備え、前記ピラーは、前記積層方向に延びる半導体層と、前記半導体層の側壁を覆う酸窒化シリコン層と、前記酸窒化シリコン層の側壁を覆う窒化シリコン層と、前記窒化シリコン層の側壁を覆う酸化シリコン層と、を有し、前記酸窒化シリコン層は、平均値で1×1020atm/cc以下の水素濃度を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導電層と複数の絶縁層とが1層ずつ交互に積層された積層体と、
前記積層体を前記積層体の積層方向に延び、前記複数の導電層との交差部にそれぞれメモリセルが形成されるピラーと、を備え、
前記ピラーは、
前記積層方向に延びる半導体層と、
前記半導体層の側壁を覆う酸窒化シリコン層と、
前記酸窒化シリコン層の側壁を覆う窒化シリコン層と、
前記窒化シリコン層の側壁を覆う酸化シリコン層と、を有し、
前記酸窒化シリコン層は、
平均値で1×1020atm/cc以下の水素濃度を有する、
半導体記憶装置。
【請求項2】
前記酸窒化シリコン層に含有される窒素濃度は、0atm%以上30atm%以下の範囲内にある、
請求項1に記載の半導体記憶装置。
【請求項3】
複数の第1の絶縁層と複数の第2の絶縁層とが1層ずつ交互に積層された第1の積層体を形成し、
前記第1の積層体を前記第1の積層体の積層方向に延びる孔を形成し、
前記孔の側壁に酸化シリコン層を形成し、
前記孔の側壁に、前記酸化シリコン層を覆う窒化シリコン層を形成し、
前記孔の側壁に、前記窒化シリコン層を覆う酸窒化シリコン層を形成し、
前記孔の側壁に、前記酸窒化シリコン層を覆う半導体層を形成し、
前記酸窒化シリコン層の形成は、
前記孔の側壁に、前記窒化シリコン層を覆う第1の酸窒化シリコン層を形成し、
前記第1の酸窒化シリコン層を熱酸化して第2の酸窒化シリコン層を形成し、
前記第2の酸窒化シリコン層を、還元性雰囲気下で、前記熱酸化における温度より高い温度で熱処理して前記酸窒化シリコン層を形成する、ことを含む、
半導体記憶装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2の酸窒化シリコン層の熱処理は、水素または重水素の雰囲気下で実施する、
請求項3に記載の半導体記憶装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の酸窒化シリコン層の熱酸化は、酸化剤として水または重水を用いて実施する、
請求項3に記載の半導体記憶装置の製造方法。
【請求項6】
前記熱酸化の温度は500℃以上1000℃以下であり、
前記熱処理の温度は1000℃以上である、
請求項3に記載の半導体記憶装置の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体記憶装置および半導体記憶装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元不揮発性メモリでは、例えば複数の導電層が積層された積層体中にピラーを貫通させ、複数の導電層とピラーとの交差部にメモリセルが形成される。メモリセルにおいては、トンネル絶縁層の価電子帯障壁を小さくすることでデータの消去特性が向上する。一方で、これにより低中電界でのリーク電流が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/064048号
【特許文献2】特開2014-011434号公報
【特許文献3】特開2007-142450号公報
【特許文献4】特開2006-054475号公報
【特許文献5】特開2021-044486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1つの実施形態は、メモリセルの消去特性の向上とリーク電流の抑制とを両立させることができる半導体記憶装置および半導体記憶装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の半導体記憶装置は、複数の導電層と複数の絶縁層とが1層ずつ交互に積層された積層体と、前記積層体を前記積層体の積層方向に延び、前記複数の導電層との交差部にそれぞれメモリセルが形成されるピラーと、を備え、前記ピラーは、前記積層方向に延びる半導体層と、前記半導体層の側壁を覆う酸窒化シリコン層と、前記酸窒化シリコン層の側壁を覆う窒化シリコン層と、前記窒化シリコン層の側壁を覆う酸化シリコン層と、を有し、前記酸窒化シリコン層は、平均値で1×1020atm/cc以下の水素濃度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態にかかる半導体記憶装置の概略構成を示す模式図。
図2】実施形態にかかる半導体記憶装置のピラーの構成の一例を示す断面図。
図3】実施形態にかかる半導体記憶装置の製造方法の手順の一部を順に例示するY方向に沿う断面図。
図4】実施形態にかかる半導体記憶装置の製造方法の手順の一部を順に例示するY方向に沿う断面図。
図5】実施形態にかかる半導体記憶装置の製造方法の手順の一部を順に例示するY方向に沿う断面図。
図6】実施形態にかかるトンネル絶縁層の形成メカニズムについて説明する模式図。
図7】実施形態にかかるトンネル絶縁層に電圧を印加した場合のメカニズムについて説明する模式図。
図8】実施例および比較例にかかるトンネル絶縁層とリーク電流との関係を示すグラフ。
図9】実施例および比較例にかかるトンネル絶縁層のリーク電流と温度との関係を示すグラフ。
図10】実施例および比較例にかかるトンネル絶縁層を模した酸窒化シリコン層における水素の含有量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0008】
(半導体記憶装置の構成例)
図1は、実施形態にかかる半導体記憶装置1の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、半導体記憶装置1は積層体LMと周辺回路PERとを備える。
【0009】
積層体LMは、ソース線SL上に、複数のワード線が絶縁層を介して積層された構造を備える。半導体記憶装置1が積層体LMを支持する支持基板10を備えていてもよい。この場合、支持基板10は半導体基板、セラミック基板、またはガラス基板等であってよく、ソース線SLは支持基板の表層に配置される。支持基板10が半導体基板である場合には、ソース線SLが、支持基板10表層の不純物が拡散された拡散層等であってもよい。
【0010】
積層体LMのX方向の両端部ではワード線が階段状に加工されており、ワード線の各段にはコンタクトCCが接続される。コンタクトCCの上端はプラグを介して上層配線等に接続される。上層配線は、更にプラグを介して端子TERnに接続される。端子TERnは例えば銅(Cu)等で構成される。
【0011】
積層体LM中には、積層体LMを積層方向に貫通してソース線SLに到達する複数のピラーPLがマトリクス状に配置されている。個々のピラーPLはメモリ層およびチャネル層を備える。ピラーPLのチャネル層は、下端においてソース線SLに接続され、上端はプラグ等を介してビット線BLに接続される。ピラーPLと積層体LMのワード線との交差部にはメモリセルMCが形成される。
【0012】
このように、半導体記憶装置1は、例えば3次元に配置されるメモリセルMCを備える3次元不揮発性メモリとして構成されている。
【0013】
積層体LM、コンタクトCC、プラグ、上層配線、及びビット線BL等は絶縁層50で覆われている。端子TERnは絶縁層50の上面に露出している。
【0014】
周辺回路PERは、半導体基板20上に形成された複数のトランジスタTRを含んで構成され、上記複数のメモリセルMCの電気的な動作を制御する。トランジスタTRは、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ等であり、半導体基板20の表層に配置される拡散層等であるアクティブ領域AAを有する。
【0015】
トランジスタTRはコンタクトCSを介して上層配線に接続される。上層配線は、更にプラグを介して端子TERtに接続される。端子TERtは、例えば銅(Cu)等で構成される。
【0016】
トランジスタTR等を含む周辺回路PER、コンタクトCS、及びプラグ等は絶縁層30で覆われている。端子TERtは絶縁層30の上面に露出している。
【0017】
半導体記憶装置1は、積層体LMを覆う絶縁層50と周辺回路PERを覆う絶縁層30とが接合された構成を有する。これにより、絶縁層50上面に露出する端子TERnと絶縁層30上面に露出する端子TERtとが接合される。
【0018】
このように、積層体LMのピラーPL及びコンタクトCC等の構成と周辺回路PERとは、端子TERn,TERtを介して電気的に導通している。周辺回路PERは、例えばメモリセルMCと接続される積層体LMのワード線に所定電圧を付与することにより、メモリセルMCの書き込み動作および読み出し動作等を制御する。
【0019】
図2は、実施形態にかかる半導体記憶装置1のピラーPLの構成の一例を示す断面図である。図2(a)は、半導体記憶装置1のピラーPLの全体構造を示すY方向に沿う断面図である。図2(b)は、ワード線WL近傍のピラーPLの拡大断面図である。
【0020】
図2(a)に示すように、半導体記憶装置1は、ピラーPL周辺の構成として、ソース線SL、積層体LM、絶縁層51~53、及びビット線BLを備える。なお、本明細書においては、例えばピラーPLを基準として、ソース側にあたるソース線SLに向かう方向を半導体記憶装置1の下方向とし、ドレイン側にあたるビット線BLに向かう方向を半導体記憶装置1の上方向とする。
【0021】
ソース線SLは、積層体LMの下方に設けられており、下方側から順に下部ソース線DSLb、中間ソース線BSL、及び上部ソース線DSLtが積層された積層構造を有する。これらの下部ソース線DSLb、中間ソース線BSL、及び上部ソース線DSLtは、例えば導電性のポリシリコン層等である。上述のように、支持基板10(図1参照)が例えば半導体基板等である場合、これらのソース線SLの少なくとも一部が支持基板10の一部から構成されていてもよい。
【0022】
積層体LMは、複数の導電層としての複数のワード線WLと、複数の絶縁層OLとが、1層ずつ交互に積層された構成を有する。積層体LMが、最上層のワード線WLの更に上層に1つ以上の選択ゲート線を有していてもよい。また、積層体LMが、最下層のワード線WLの更に下層に1つ以上の選択ゲート線を有していてもよい。
【0023】
複数のワード線WLは、例えばタングステン(W)層またはモリブデン(Mo)層等である。絶縁層OLは例えば酸化シリコン(SiO)層等である。より詳細には、複数のワード線WLは、上記いずれかの層と、窒化タングステン(WN)層、窒化モリブデン(MoN)層、または窒化チタン(TiN)層等の積層構造となっている。また、複数のワード線WLのそれぞれは、酸化アルミニウム(AlO)層、酸化ハフニウム(HfO)層、または酸化ジルコニウム(ZrO)層、ハフニウムシリケート(HfSiO)層、またはジルコニウムシリケート(ZrSiO)層等のいずれか、またはこれらのうち幾つかの層の積層構造となったブロック層によって取り囲まれている。
【0024】
なお、図2(a)の例では、積層体LM内に9つのワード線WLが設けられている。しかし、ワード線WLの層数は、図2(a)の例によらず任意である。
【0025】
積層体LM上には、絶縁層51~53がこの順に積層されている。これらの絶縁層51~53は、例えば酸化シリコン層等であり、上述の絶縁層50(図1参照)の一部を構成している。絶縁層53中にはピラーPLの上層配線にあたるビット線BLが設けられている。
【0026】
積層体LMには、積層体LMを各層の積層方向に延びるとともに、積層体LMのX方向に沿う方向に延びる複数の板状コンタクトLIが設けられている。複数の板状コンタクトLIは、X方向と交差するY方向に互いに離れた位置で、絶縁層52,51、積層体LM、及び上部ソース線DSLtを貫通して中間ソース線BSLに到達している。このように、積層体LMは、複数の板状コンタクトLIによってY方向に分割されている。
【0027】
板状コンタクトLIの側壁には酸化シリコン層等の絶縁層54が設けられている。絶縁層54の内側にはタングステン層等の導電層21が充填されている。板状コンタクトLIの導電層21は、図示しないプラグ等によって上層配線に接続されている。また、導電層21の下端部は中間ソース線BSLに接続されている。
【0028】
以上の構成により、板状コンタクトLIは、例えばソース線コンタクトとして機能する。ただし、板状コンタクトLIの代わりに、ソース線コンタクトとしての機能を有さない絶縁層等が積層体LMをY方向に分割していてもよい。
【0029】
Y方向に隣接する2つの板状コンタクトLIの間には、複数のピラーPLが、積層体LMの積層方向から見て例えば千鳥状に分散して設けられている。ピラーPLは、チャネル層CN、キャップ層CP、メモリ層ME、及びコア層CRを含んで構成され、絶縁層51、積層体LM、上部ソース線DSLt、及び中間ソース線BSLを貫通して下部ソース線DSLbに到達している。
【0030】
ピラーPLの中心部には、積層体LMの積層方向に延びる充填層としてのコア層CRが設けられている。コア層CRの上端部は、例えばチャネル層CNの上端部からキャップ層CP内に突出している。コア層CNは、例えば酸化シリコン層等の絶縁層である。
【0031】
半導体層としてのチャネル層CNは積層体LM中を積層体LMの積層方向に延びる。より具体的には、チャネル層CNは、コア層CRの側面および下端部を覆って、積層体LMの少なくとも最上層のワード線WLの高さ位置から積層体LM中へと延び、下部ソース線DSLbにまで到達している。
【0032】
キャップ層CPはチャネル層CN上に設けられ、上端部において絶縁層53,52中に設けられたプラグCHを介してビット線BLに接続されている。つまり、キャップ層CPは、積層体LMの最上層のワード線WLより高い位置からチャネル層CNの上端部にまで至る。
【0033】
チャネル層CN及びキャップ層CPは、ポリシリコン層またはアモルファスシリコン層等の半導体層である。チャネル層CN及びキャップ層CPが、ポリシリコンとアモルファスシリコンとが混在した層となっていてもよい。チャネル層CN及びキャップ層CPが、略単結晶のシリコン層であってよい。
【0034】
メモリ層MEはチャネル層CNの側面および底面に設けられている。より具体的には、メモリ層MEは、図2(b)に示すように、ピラーPLの外周側から、ブロック絶縁層BK、電荷蓄積層CT、及びトンネル絶縁層TNがこの順に積層された積層構造を有する。ブロック絶縁層BKは例えば酸化シリコン(SiO)層等であり、電荷蓄積層CTは例えば窒化シリコン(SiN)層等であり、トンネル絶縁層TNは例えば酸窒化シリコン(SiON)層等である。
【0035】
例えばトンネル絶縁層TNを構成する酸窒化シリコン層に含有される窒素濃度は、平均値で例えば10atm%以上であり、より好ましくは11atm%以上である。より具体的には、トンネル絶縁層TNに含有される窒素濃度は、例えば0atm%以上30atm%以下の範囲内で、チャネル層CN側から電荷蓄積層CT側へと向かって増加していく。
【0036】
また、トンネル絶縁層TNには水素が含まれうる。これは、例えばトンネル絶縁層TNの原料ガス等に含まれていた水素がトンネル絶縁層TNに残留したものである。トンネル絶縁層TNに含有される水素濃度は、例えばチャネル層CN側から電荷蓄積層CT側へと向かって低下していく。これにより、トンネル絶縁層TNの水素濃度は、例えば平均値で1×1020atm/cc以下に抑制されている。また、トンネル絶縁層TNは、より好ましくは水素濃度が1×1019atm/cc以下の部分を含む。
【0037】
上記のように、メモリ層MEは、チャネル層CNの側面を覆って下部ソース線DSLbにまで到達し、チャネル層CNの下端部をも覆っている。ただし、メモリ層MEは、ソース線SL内の中間ソース線BSLの深さ位置には設けられておらず、中間ソース線BSLはチャネル層CNと接している。これにより、チャネル層CNは、側面で中間ソース線BSLを介してソース線SLに接続されている。
【0038】
以上の構成により、ピラーPLの側面には、ワード線WLの高さ位置にそれぞれ配列される複数のメモリセルMCが形成される。上述のように、ワード線WLを介して所定の電圧が印加されること等により、メモリセルMCに対してデータの書き込み及び読み出しが行われる。
【0039】
つまり、メモリセルMCに“H”レベルデータを書き込むときは、接続されるワード線WLに書き込み電圧を印加する。このとき、チャネル層CNには接地電位が供給されてチャネルが形成され、チャネル中の電子がトンネル絶縁層TNを抜けて電荷蓄積層CTに注入され蓄積される。これにより、メモリセルMCの閾値電圧Vthが上昇して、“H”レベルデータが書き込まれた状態となる。
【0040】
メモリセルMCに“L”レベルデータを書き込むときは、チャネル層CNのチャネルをフローティング状態とすることで、電荷蓄積層CTに電子が注入されず、メモリセルMCの閾値電圧Vthが低いままの“L”レベルデータが書き込まれた状態が維持される。
【0041】
メモリセルMCからデータを読み出すときは、接続されるワード線WLに読み出し電圧を印加する。読み出し電圧は、“L”レベルデータを保持しているメモリセルMCがオンし、“H”レベルデータを保持しているメモリセルMCはオンしない電圧である。したがって、ビット線BLにセル電流が流れれば“L”レベルデータが読み出されたことを意味し、ビット線BLにセル電流が流れなければ“H”レベルデータが読み出されたことを意味する。
【0042】
メモリセルMCに書き込まれたデータを消去するときは、ソース線SLに大きな電位をかけて正孔を発生させる。この状態で、ワード線WLに0Vを与えることで、正孔が電荷蓄積層CTに注入されて、メモリセルMCの閾値電圧Vthを低下させることができる。これにより、Y方向に隣接する2つの板状コンタクトLI間の全てのメモリセルMCのデータが消去される。
【0043】
上述の周辺回路PER(図1参照)は、ワード線WLに印加する電圧を制御することで、メモリセルMCの書き込み及び読み出し等の動作を制御する。また、周辺回路PERは、ビット線BLを流れるセル電流をセンスしてメモリセルMCからのデータを読み出す。
【0044】
ここで、上述のように、トンネル絶縁層TNの窒素濃度が所定値以上となっていることで、トンネル絶縁層TNの価電子帯障壁が小さくなって、メモリセルMCのデータ消去時のストレスが低減される。つまり、メモリセルMCにおけるデータの消去特性が向上する。また、データ消去ストレスが低減すると、書き込み/消去を繰り返すことでトンネル絶縁層TNの劣化(Detriation)により電子が漏れやすくなることが抑制されて、メモリセルMCの書き換え耐性が向上する。
【0045】
一方で、上述のように、トンネル絶縁層TNの水素濃度が所定値以下となっていることで、例えば6MV/cm以下等の低中電界でのメモリセルMCの電荷保持特性が向上し、リーク電流の発生を抑制することができる。また、高温下でのリーク電流の増大が抑制されてメモリセルMCの動作特性が向上するほか、リーク電流の温度依存性が抑制されて温度上昇によるリーク電流の増加率が低減される。
【0046】
一例として、実施形態のメモリセルMCが備えるトンネル絶縁層TNによれば、トンネル絶縁層TNの窒素濃度の平均値が10atm%以上のとき、電界強度が5MV/cmでのメモリセルMCのリーク電流が、例えば3.0×10-8A/cm以下に抑制される。また、トンネル絶縁層TNの窒素濃度の平均値が11atm%以上のとき、電界強度が5MV/cmでのメモリセルMCのリーク電流が、例えば1.6×10-8A/cm以下に抑制される。
【0047】
また他の例として、実施形態のメモリセルMCが備えるトンネル絶縁層TNによれば、トンネル絶縁層TNの窒素濃度の平均値が10atm%以上のとき、電界強度が6MV/cm、かつ140℃以上の動作環境下で、メモリセルMCのリーク電流が、例えば4.0×10-8A/cm以下に抑制される。
【0048】
(半導体記憶装置の製造方法)
次に、図3図5を用いて、実施形態の半導体記憶装置1の製造方法の例について説明する。図3図5は、実施形態にかかる半導体記憶装置1の製造方法の手順の一部を順に例示するY方向に沿う断面図である。
【0049】
図3(a)に示すように、下部ソース線DSLb、中間層SCN、及び上部ソース線DSLtをこの順に形成する。中間層SCNは、例えば窒化シリコン層等の犠牲層であり、後に導電性のポリシリコン層等と置き換えられて中間ソース線BSLが形成される。
【0050】
また、上部ソース線DSLt上に、複数の第1の絶縁層としての絶縁層NLと複数の第2の絶縁層としての絶縁層OLとが1層ずつ交互に積層された積層体LMsを形成する。絶縁層NLは、例えば窒化シリコン層等の犠牲層であり、後にタングステン層またはモリブデン層等に置き換えられてワード線WLが形成される。
【0051】
また、積層体LMsの図示しないX方向両端部において、複数の絶縁層NLを階段状に加工する。また、積層体LMsを覆う絶縁層51を形成する。
【0052】
図3(b)に示すように、絶縁層51、積層体LMs、上部ソース線DSLt、及び中間層SCNを貫通して下部ソース線DSLbに到達する複数のメモリホールMHを形成する。
【0053】
図3(c)に示すように、メモリホールMHの側壁および底面に、ブロック絶縁層BK、電荷蓄積層CT(図2(b)参照)、及び第1の酸窒化シリコン層としてのトンネル絶縁層TNpがこの順に積層されたメモリ層MEpを形成する。
【0054】
この時点において、メモリ層MEpに含まれるトンネル絶縁層TNpは、上述の窒素濃度および水素濃度を有するトンネル絶縁層TNとはなっていない。より具体的には、この時点でのトンネル絶縁層TNpは、例えば原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法等により、トンネル絶縁層TNp中の窒素のターゲット濃度を例えば14atm%、ターゲット層厚を数nmなどとして、シリコンの原料ガス、酸化ガス、及び窒化ガス等を用いて形成された酸窒化シリコン層等である。
【0055】
シリコンの原料ガスとしては、例えばモノシラン(SiH)、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシラン(SiCl)、ヘキサクロロジシラン(SiCl)等のシラン系ガスを用いることができる。酸化ガスとしては、例えば酸素(O)ガス、水(HO)等を用いることができる。窒化ガスとしては、例えばアンモニア(NH)ガス等を用いることができる。このようなガスを用いることにより、トンネル絶縁層TNpには所定濃度の水素が含有されることとなる。
【0056】
メモリ層MEpは絶縁層51の上面にも形成される。
【0057】
図3(d)に示すように、数nm厚さのトンネル絶縁層TNpに対し、熱酸化のターゲット層厚、つまり、トンネル絶縁層TNp中への酸素の含侵深さを全体の層厚の50%~60%などとして、メモリ層MEpの最表面であるトンネル絶縁層TNpを熱酸化する。このとき、熱酸化の温度を例えば500℃以上1000℃以下、より好ましくは700℃以上900℃以下とする。また、熱酸化の酸化剤OGとして、例えば水(HO)または重水(DO)等を用いることができる。
【0058】
このとき、トンネル絶縁層TNpは表面側から酸化されていき、トンネル絶縁層TNp中の酸素濃度および窒素濃度には勾配が生じる。すなわち、酸素濃度は、トンネル絶縁層TNpの電荷蓄積層CT側の面から最表面に向けて増加していき、窒素濃度は、トンネル絶縁層TNpの電荷蓄積層CT側の面から最表面に向けて低下していく。
【0059】
これにより、形成直後の状態よりも全体として窒素濃度が低下した第2の酸窒化シリコン層としてのトンネル絶縁層TNpが得られる。
【0060】
図3(e)に示すように、メモリ層MEp最表面のトンネル絶縁層TNpを還元性の雰囲気下で熱処理する。このとき、熱処理の温度を、上述の熱酸化よりも高い温度であって、例えば1000℃以上、より好ましくは1000℃以上1150℃以下とする。また、還元性雰囲気として、例えば水素(H)ガスまたは重水素(D)ガス等の還元性ガスRGの雰囲気下で熱処理を行う。
【0061】
あるいは、還元性ガスRGとして、塩素(Cl)ガス、フッ素(F)ガス、またはアンモニア(NH)ガスの雰囲気下で熱処理を行ってもよい。ただし、トンネル絶縁層TNpが一部除去されて層厚が減少してしまうことを抑制するため、還元性ガスRGとしては、腐食性を有さないガスを用いることが好ましい。
【0062】
また、還元性ガスRGの流量を制御すること等により、熱処理時の圧力を例えば5Torr以上550Torr以下とすることができる。
【0063】
このように、還元性雰囲気下で、図3(d)の熱酸化よりも高い温度で熱処理を行うことで、還元性ガスRGの還元作用によりトンネル絶縁層TNp中の窒素濃度が酸素濃度に対して再び増加し、平均値で例えば10atm%以上であり、より好ましくは11atm%以上の窒素濃度を有することとなる。
【0064】
このとき、上述の熱酸化により生じた窒素濃度の勾配が維持される。すなわち、窒素濃度は、例えば0atm%以上30atm%以下の範囲内で、トンネル絶縁層TNpの電荷蓄積層CT側の面から最表面に向けて低下している。
【0065】
また、後にデータで示すように、還元性雰囲気下で熱処理を行うことで、トンネル絶縁層TNp形成時に原料ガス等から混入した水素濃度が低下することが判っている。これにより、トンネル絶縁層TNpは、例えば平均値で1×1020atm/cc以下の水素濃度を有し、より好ましくは、水素濃度が1×1020atm/cc以下の部分を層中に含むこととなる。
【0066】
図3(f)に示すように、上記の熱酸化および熱処理により、上述のトンネル絶縁層TNが得られる。
【0067】
図4(a)に示すように、メモリホールMHの側壁および底面に、メモリ層MEを介して更にチャネル層CNを形成する。チャネル層CNは、メモリ層MEを介して絶縁層51の上面にも形成される。また、メモリホールMHのチャネル層CN内側をコア層CRで充填する。コア層CRは、チャネル層CN及びメモリ層MEを介して絶縁層51の上面にも形成される。
【0068】
図4(b)に示すように、コア層CRをエッチバックして、絶縁層51の上面及びメモリホールMHの上端から除去する。また、チャネル層CN及びメモリ層MEをエッチバックして絶縁層51の上面から除去する。これにより、絶縁層51の上面が露出する。
【0069】
このとき、チャネル層CNのオーバーエッチング量を制御して、メモリホールMH内においてもチャネル層CNをエッチバックする。またこのとき、メモリ層MEのオーバーエッチング量を抑制して、メモリホールMH内のメモリ層MEまでもが除去されないように制御する。これにより、チャネル層CNの上端部がメモリホールMH内の所定深さに位置することとなり、メモリホールMH内のチャネル層CN上面からコア層CRが突出する。
【0070】
図4(c)に示すように、絶縁層51の上面を覆うキャップ層CPを形成する。キャップ層CPは、メモリホールMH内のチャネル層CN及びコア層CR上端部にも形成される。
【0071】
図4(d)に示すように、キャップ層CPをエッチバックして、絶縁層51の上面から除去する。このとき、オーバーエッチング量を抑制して、メモリホールMH内のキャップ層CPまでもが除去されないように制御する。
【0072】
これにより、上端部にキャップ層CPを有するピラーPLが形成される。ただし、この時点では、ピラーPLのチャネル層CNの側面全体はメモリ層MEに覆われている。
【0073】
図4(e)に示すように、絶縁層51上に絶縁層52を形成する。また、絶縁層52,51、積層体LMs、及び上部ソース線DSLtを貫通して、中間層SCNに到達するスリットSTを形成する。スリットSTは、積層体LMs内をX方向に沿う方向にも延びている。また、スリットSTのY方向に向かい合う側壁に絶縁層54sを形成する。
【0074】
図4(f)に示すように、スリットSTの上部から熱リン酸等の除去液を注入して、スリットSTの底面に露出する中間層SCNを除去する。これにより、上部ソース線DSLtと下部ソース線DSLbとの間には空隙GPsが形成され、ピラーPL最外周のメモリ層MEの側面が空隙GPs内に露出する。
【0075】
このとき、スリットST側壁の絶縁層54sにより、除去液が積層体LMs内へと流れ込むことが抑制されて、積層体LMs内の絶縁層NLは除去されない。
【0076】
図5(a)に示すように、スリットSTの上部から順次、酸化シリコン層、窒化シリコン層、及び酸窒化シリコン層等を除去する除去液を注入して、空隙GPs内に露出したメモリ層MEの外周側から、ブロック絶縁層BK、電荷蓄積層CT、及びトンネル絶縁層TNを順に除去していく。これにより、チャネル層CNの側面が空隙GPs内に露出する。
【0077】
図5(b)に示すように、スリットSTの上部から、ポリシリコン等の原料となる原料ガスを注入し、空隙GPs内をポリシリコン層等で充填して中間ソース線BSLを形成する。
【0078】
これにより、下部ソース線DSLb、中間ソース線BSL、及び上部ソース線DSLtを含むソース線SLが形成される。また、ピラーPLのチャネル層CNが側面でソース線SLに接続された状態となる。
【0079】
なお、図4(f)~図5(b)に示したように、中間層SCNを除去して中間ソース線BSLを形成する処理をソース線SLのリプレース処理とも呼ぶ。
【0080】
図5(c)に示すように、スリットST側壁の絶縁層54sを除去する。
【0081】
図5(d)に示すように、スリットSTの上部から熱リン酸等の除去液を注入して、スリットSTの側面に露出する積層体LMs内の絶縁層NLを除去する。これにより、複数の絶縁層OL間に空隙GPwを有する積層体LMgが形成される。
【0082】
図5(e)に示すように、スリットSTの上部から、導電体等の原料となる原料ガスを注入し、空隙GPw内を導電層で充填して複数のワード線WLを形成する。これにより、複数のワード線WL及び複数の絶縁層OLが交互に積層された積層体LMが形成される。
【0083】
なお、図5(d)~図5(e)に示したように、絶縁層NLを除去してワード線WLを形成する処理をワード線WLのリプレース処理とも呼ぶ。
【0084】
図5(f)に示すように、スリットSTの側壁に絶縁層54を形成し、絶縁層54の内側を導電層21で充填して板状コンタクトLIを形成する。ただし、スリットST内を全体的に絶縁層で充填して、ソース線コンタクトとして機能しない板状の部材を形成してもよい。この場合、スリットSTは、専らソース線SL及びワード線WLのリプレース処理に用いるために形成されることとなる。
【0085】
その後、絶縁層52上に絶縁層53を形成し、絶縁層53,52を貫通してピラーPLのキャップ層CPに接続されるプラグCH、及びプラグCHに接続されるビット線BL等を形成する。
【0086】
また、表面にトランジスタTRを含む周辺回路PERが形成された半導体基板20を準備し(図1参照)、積層体LMの上方に貼り合わせる。このように、周辺回路PERを別作りとし、半導体記憶装置1の製造工程の終盤でメモリ構造と統合することで、周辺回路PERが、上述の還元性雰囲気下での熱処理による熱の影響を受けてしまうことが抑制される。
【0087】
以上により、実施形態の半導体記憶装置1が製造される。
【0088】
(概括)
3次元不揮発性メモリ等の半導体記憶装置においては、チャネル層、トンネル絶縁層、電荷蓄積層、及びブロック絶縁層を有するピラーに、高さ方向に並ぶ複数のメモリセルを形成させる。このとき、トンネル絶縁層として酸窒化シリコン層等を用い、層中の窒素濃度を高めることで、価電子帯障壁を小さくして、メモリセルにおけるデータの消去特性、及び書き換え耐性を向上させることができる。
【0089】
しかしながら、トンネル絶縁層中の窒素濃度を高めると、メモリセルの低中電界でのリーク電流が増大し、データ保持特性が悪化してしまう。このように、上記構成を有するメモリセルにおいて、書き換え耐性と電荷保持特性とを両立させることは困難である。
【0090】
本発明者らは、トンネル絶縁層をALD法等により成膜した後、水蒸気等を含有する雰囲気下で酸化処理を行い、その後、水素等を主成分とする還元性雰囲気下で熱処理を行うことで、含有される窒素濃度が高い状態で、低中電界下でのリーク電流を抑制することができることを見出した。
【0091】
本発明者らが、上記のように得られたトンネル絶縁層について各種評価を行ったところ、上記のトンネル絶縁層においては、熱酸化後に比べて窒素濃度が高まっているとともに、水素濃度が低下していることが判った。このことから、本発明者らは、実施形態のトンネル絶縁層TNを用いることで、書き換え耐性と電荷保持特性とが両立されるメカニズムについて以下のように考察した。
【0092】
図6は、実施形態にかかるトンネル絶縁層TNの形成メカニズムについて説明する模式図である。
【0093】
図6(a)に示すように、電荷蓄積層CTの側壁に、ALD法等によりトンネル絶縁層TNpが形成されている。トンネル絶縁層TNpの紙面左側の面はメモリホールMH内に露出している。トンネル絶縁層TNp中には、所定の比率で酸素欠損Voが存在するほか、トンネル絶縁層TNp中に残存する水素が、一部のシリコンの結合手に結合した状態となっている。
【0094】
図6(b)に示すように、例えば水蒸気を含有する雰囲気中で熱酸化を行うと、トンネル絶縁層TNpが所定の比率で酸化され、トンネル絶縁層TNp中の一部の酸素欠損Voが修復される。
【0095】
図6(c)に示すように、例えば水素ガスを含有する雰囲気中で熱処理を行うと、層中の水素が減少し、トンネル絶縁層TNが形成される。
【0096】
図7は、実施形態にかかるトンネル絶縁層TNに電圧を印加した場合のメカニズムについて説明する模式図である。
【0097】
図7(a)に示すように、図6(b)のように形成されたトンネル絶縁層TNの露出面にチャネル層CN等を形成し、さらにリプレース処理により、トンネル絶縁層TNから電荷蓄積層CT及びブロック絶縁層BKを隔てて、ワード線WLを形成したものとする。図中、電荷蓄積層CT及びブロック絶縁層BKは省略する。
【0098】
ワード線WLからメモリセルの動作電圧が印加されると、ホットキャリア(図中のマル付きH)がトンネル絶縁層TNに注入される。
【0099】
図7(b)に示すように、トンネル絶縁層TNに残留している一部の水素がホットキャリアからエネルギーを得て、例えばシリコンの結合手との結合が切断され、水素分子が生成される。また、ホットキャリアからエネルギーを得た水素と、トンネル絶縁層TN中の酸化シリコン(SiO)に含まれる酸素とが結合して水分子(HO)が生成されるとともに、シリコンと酸素との結合が切断されることにより酸素欠損Voが新たに生成される。
【0100】
上述のように、熱酸化後の還元性雰囲気中での熱処理によって、実施形態のトンネル絶縁層TNにおいては水素濃度が低減されている。これにより、電圧印加時のホットキャリアによる新たな酸素欠損Voの生成量を抑えることができると考えられる。
【0101】
実施形態の半導体記憶装置1によれば、トンネル絶縁層TNは、平均値で1×1020atm/cc以下の水素濃度を有しており、より好ましくは、水素濃度が1×1019atm/cc以下の部分を含む。これにより、トンネル絶縁層TNの窒素濃度を高めた場合であっても、低中電界下でのメモリセルMCのリーク電流を抑制することができる。よって、メモリセルMCの消去特性の向上とリーク電流の抑制とを両立させることができる。
【0102】
実施形態の半導体記憶装置1によれば、トンネル絶縁層TNに含有される窒素濃度は、平均値で10atm%以上であり、より好ましくは11atm%以上である。このとき、トンネル絶縁層TNに含有される窒素濃度は、例えば0atm%以上30atm%以下の範囲内で、チャネル層CN側から電荷蓄積層CT側へと向かって増加していく。これにより、高濃度の窒素存在下で、メモリセルMCの書き換え耐性と電荷保持特性とを両立させることができる。
【0103】
実施形態の半導体記憶装置1の製造方法によれば、トンネル絶縁層TNpを熱酸化し、還元性雰囲気下で、熱酸化における温度より高い温度で熱処理してトンネル絶縁層TNを形成する。これにより、メモリセルMCの消去特性の向上とリーク電流の抑制とを両立させることができる。
【0104】
実施形態の半導体記憶装置1の製造方法によれば、熱酸化の温度は500℃以上1000℃以下であり、より好ましくは、700℃以上900℃以下である、また、熱処理の温度は1000℃以上であり、より好ましくは1000℃以上1150℃以下である。これにより、トンネル絶縁層TNp中に含まれる窒素濃度を増加させるとともに水素濃度を低減して、実施形態のトンネル絶縁層TNを形成することができる。
【0105】
実施形態の半導体記憶装置1の製造方法によれば、トランジスタTRを含む周辺回路PERが形成された半導体基板20上に積層体LMを貼り合わせる。このように、還元性雰囲気下でのトンネル絶縁層TNpの熱処理後、周辺回路PERを貼り合わせるので、周辺回路PERが熱による影響を受けてしまうのを抑制することができる。
【実施例0106】
以下に、図8図10を用いて、実施例のトンネル絶縁層の各種評価結果について説明する。
【0107】
図8は、実施例および比較例にかかるトンネル絶縁層とリーク電流との関係を示すグラフである。図8のグラフの横軸は、実施例および比較例のトンネル絶縁層に含有される平均の窒素濃度(atm%)である。グラフの縦軸は、電界強度5MV/cmでのリーク電流(A/cm)である。
【0108】
実施例のトンネル絶縁層は、上述の実施形態で説明したように、ALD法による成膜後、水蒸気雰囲気中での熱酸化、及び還元性雰囲気中での熱処理を行って形成されている。つまり、熱酸化の酸化剤には水を用いた。熱酸化後のトンネル絶縁層の窒素濃度は9atm%程度である。
【0109】
また、熱処理としては、水素ガスの雰囲気中で、それぞれ1050℃と1070℃とで行った。このとき、熱処理時間を徐々に延ばしていき、リーク電流との関係を調べた。なお、幾つかのプロットにおいてマーカ中に記載した数字は熱処理の処理時間を示している。すなわち、マーカ中の数字「15」は熱処理時間が15秒であることを示し、「720」は熱処理時間が720秒(12分)であることを示す。
【0110】
図8に示すように、実施例のトンネル絶縁層において、熱処理時間を延ばしていくと、得られるトンネル絶縁層中の窒素濃度は高くなっていく。また、例えば熱処理温度1050℃で720秒処理した場合と、熱処理温度1070℃で240秒処理した場合とで略同様の窒素濃度となっていることから、熱処理温度を高めていくほど、より短時間でトンネル絶縁層中の窒素濃度を高めることができる。
【0111】
また、実施例のトンネル絶縁層の窒素濃度が熱処理によって高まっていくにつれて、リーク電流は減少していく。例えば熱処理によって窒素濃度が10atm%程度となったトンネル絶縁層においては、リーク電流が3.0×10-8A/cm程度に減少し、さらには、窒素濃度が11atm%程度となったトンネル絶縁層では、リーク電流が1.6×10-8A/cm程度に減少している。
【0112】
一方、比較例のトンネル絶縁層は、上記の実施例と同様の条件下で熱酸化のみを行い、還元性雰囲気中での熱処理を行わずに形成した。このとき、熱酸化の時間を変更するなどして、トンネル絶縁層の窒素濃度を変化させ、リーク電流との関係を調べた。
【0113】
比較例のトンネル絶縁層においては、層中の窒素濃度が高まるほどリーク電流が増大している。例えば窒素濃度が7atm%程度のトンネル絶縁層において、リーク電流は2.4×10-8A/cm程度である。それが、窒素濃度が9atm%程度のトンネル絶縁層においては、リーク電流は3.4×10-8A/cm程度に増加し、さらには、窒素濃度が11atm%程度となったトンネル絶縁層では、リーク電流4.8×10-8A/cm程度にまで増加している。
【0114】
以上のことから、比較例のトンネル絶縁層のように、熱酸化のみを行ってトンネル絶縁層を形成した場合、層中の窒素濃度が高まるにつれてリーク電流が増大してしまうことが判った。一方で、実施例のトンネル絶縁層のように、熱酸化によりトンネル絶縁層中の窒素濃度を低下させた後、還元性雰囲気中での熱処理によって再び窒素濃度を高めた場合には、リーク電流を減少させることが可能であることが判った。
【0115】
このように、比較例のトンネル絶縁層と同程度まで窒素濃度を高めた実施例のトンネル絶縁層において、充分にリーク電流を低減させることができた。
【0116】
図9は、実施例および比較例にかかるトンネル絶縁層のリーク電流と温度との関係を示すグラフである。図9のグラフの横軸は温度の逆数1/T(1/K)であり、グラフの縦軸は電界強度6MV/cmでのリーク電流(A/cm)である。
【0117】
実施例のトンネル絶縁層は、ALD法による成膜後、水蒸気雰囲気中での熱酸化、及び還元性雰囲気中での熱処理を行って形成されている。つまり、熱酸化の酸化剤には水を用いた。また、熱処理は、水素ガスの雰囲気中にて1070℃で行った。熱処理後のトンネル絶縁層の窒素濃度は10.7atm%である。
【0118】
なお、プロットにおけるマーカ中に記載した数字は熱処理の処理時間を示している。すなわち、マーカ中に「720」とあるのは熱処理時間が720秒(12分)であることを示す。
【0119】
図9に示すように、実施例のトンネル絶縁層においては、温度条件が-45℃~140℃程度の範囲内で、リーク電流を4.0×10-8A/cm以下に抑制することが可能である。
【0120】
一方、比較例のトンネル絶縁層は、上記の実施例と同様の条件下で熱酸化のみを行い、還元性雰囲気中での熱処理を行わずに形成した。このとき、熱酸化の時間を変更するなどして、トンネル絶縁層の窒素濃度を変化させ、窒素濃度が7.2atm%、9.6atm%、及び11.3atm%の比較例のトンネル絶縁層を得た。
【0121】
比較例のトンネル絶縁層においては、窒素濃度が11.3atm%で140℃近辺でのリーク電流が2.8×10-7A/cm程度であり、窒素濃度が9.6atm%で140℃近辺でのリーク電流が1.0×10-7A/cm程度であった。また、140℃近辺で4.0×10-8A/cm以下と、実施例と同程度にまでリーク電流が減少するのは、窒素濃度を7.2atm%にまで落とした場合のみであった。
【0122】
加えて、比較例のトンネル絶縁層においては、窒素濃度が高まるにつれてリーク電流の温度依存性が増し、温度の逆数に対するリーク電流の傾きが急になっていくという傾向が見られた。
【0123】
以上のことから、比較例のトンネル絶縁層のように、熱酸化のみを行ってトンネル絶縁層を形成した場合、窒素濃度が高まるほど、リーク電流の温度依存性が増し、また、高温環境下でのリーク電流が増大することが判った。
【0124】
一方で、実施例のトンネル絶縁層のように、熱酸化によりトンネル絶縁層中の窒素濃度を低下させた後、還元性雰囲気中での熱処理によって再び窒素濃度を高めた場合には、リーク電流の温度依存性が低く、温度の逆数に対するリーク電流の傾きが緩やかなトンネル絶縁層が得られることが判った。また、高温環境下であってもリーク電流の増大を抑制することが可能であることが判った。
【0125】
このように、比較例のトンネル絶縁層と同程度まで窒素濃度を高めた実施例のトンネル絶縁層において、高温下での信頼性も向上させることが可能であることが判った。
【0126】
図10は、実施例および比較例にかかるトンネル絶縁層を模した酸窒化シリコン層における水素の含有量を示すグラフである。図10のグラフの横軸は、酸窒化シリコン層の最表面からの深さ(nm)であり、グラフの縦軸は、酸窒化シリコン層中の水素濃度(atm/cc)である。
【0127】
図10に示すように、実施例および比較例の酸窒化シリコン層は、それぞれ5.5nm厚さでシリコン基板上に形成されている。
【0128】
実施例の酸窒化シリコン層は、ALD法による成膜後、水蒸気雰囲気中での熱酸化、及び還元性雰囲気中での熱処理を行って形成されている。つまり、熱酸化の酸化剤には水を用いた。また、熱処理は、水素ガスの雰囲気中にて1070℃で12分間、行った。
【0129】
実施例の酸窒化シリコン層において、最表面で5×1021atm/cc以上であった水素濃度は、表面からの深さが0.5nm付近では5×1020atm/cc程度に一気に落ち込み、その後も減少を続け、シリコン基板との界面付近では2.5×1019atm/cc程度にまで低下している。
【0130】
比較例のトンネル絶縁層は、上記の実施例と同様の条件下で熱酸化のみを行い、還元性雰囲気中での熱処理を行わずに形成した。比較例のトンネル絶縁層においても、最表面から0.5nm深さ付近までの水素濃度は、実施例と略同等のプロファイルを示している。しかし、0.5nm以降3nm深さ付近までは、水素濃度は略一定に留まり、3nm深さ以上で再び減少に転じ、シリコン基板との界面付近では1.0×1020atm/cc程度となっている。
【0131】
以上のことから、実施例の酸窒化シリコン層のように、還元性雰囲気中での熱処理を行うことで、酸窒化シリコン層中の水素濃度が減少することが判った。このような水素濃度のプロファイルが、上述の実施形態のトンネル絶縁層TNの種々の特性に寄与しているものと考えられる。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0133】
1…半導体記憶装置、20…半導体基板、BK…ブロック絶縁層、BL…ビット線、CN…チャネル層、CR…コア層、CT…電荷蓄積層、LM…積層体、ME…メモリ層、OL…絶縁層、PER…周辺回路、PL…ピラー、SL…ソース線、TN,TNp…トンネル絶縁層、WL…ワード線。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10