(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043966
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149231
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】391002498
【氏名又は名称】フタバ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 茂樹
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137CA28
4E137EA01
4E137GA03
4E137GA08
4E137GA16
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】フランジ部を有するプレス成型品の製造方法において、被加工材におけるフランジ部に対応する部分には十分な余肉部を成形することが難しい場合でも、スプリングバックの量を低減することができる技術を提供する。
【解決手段】プレス成形品は、壁部と、壁部から延出するフランジ部であって他の部材と接合するための接合面を形成するフランジ部と、を有する。プレス成形品の製造方法は、被加工材における壁部とフランジ部との稜線が形成される部分に余肉部を成形することと、余肉部を潰して、余肉部が成形されていた部分に圧縮応力を付与することと、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部と、前記壁部から延出するフランジ部であって他の部材と接合するための接合面を形成する前記フランジ部と、を有するプレス成形品の製造方法であって、
被加工材における前記壁部と前記フランジ部との稜線が形成される部分に余肉部を成形することと、
前記余肉部を潰して、前記余肉部が成形されていた部分に圧縮応力を付与することと、
を備える、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線が形成される面が凹んだ形状である、プレス成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記フランジ部は、前記稜線に沿った方向に湾曲した形状であり、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線の中央部に対応する位置に少なくとも成形される、プレス成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線の一端に対応する位置から前記稜線の他端に対応する位置まで連続するように成形される、プレス成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線が形成される部分に複数成形される、プレス成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記被加工材は、高張力鋼材により構成されている、プレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形後に金型の荷重から解放されたプレス成形品には、内部応力の弾性回復現象に起因する形状の変化であるスプリングバックが生じる。金型は、スプリングバックの量を見込んで設計される。スプリングバックの量は小さいことが好ましい。
【0003】
例えば特許文献1には、フランジ部を有するプレス成型品を製造する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法では、第1工程において被加工材におけるフランジ部に対応する部分に潰しビードが成形され、第2工程において当該潰しビードが潰される。これにより、潰しビードが成形されていた部分に圧縮応力が付与されるため、プレス成形によりフランジ部に発生していた引張応力が低減し、スプリングバックの量が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法により製造されたプレス成形品には、フランジ部における潰しビードが成形されていた部分にビード痕が残る。フランジ部は他の部材との接合面を形成するところ、接合面における接合予定位置にビード痕が重なった場合には、接合不良の原因になる可能性がある。
【0006】
そこで、接合不良の発生を抑制する観点から、被加工材には、フランジ部における接合予定位置に対応する位置を避けた領域に、潰しビードを成形することが考えられる。しかしながら、このように限られた領域では、スプリングバックの量を低減するために十分な潰しビードを成形することが難しい場合があった。
【0007】
なお、このような課題は、潰しビードだけでなく、プレス成形品の製造過程において潰される他の余肉部についても、同様に生じ得る。
【0008】
本開示の一局面は、フランジ部を有するプレス成型品の製造方法において、被加工材におけるフランジ部に対応する部分には十分な余肉部を成形することが難しい場合でも、スプリングバックの量を低減することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、壁部と、壁部から延出するフランジ部であって他の部材と接合するための接合面を形成するフランジ部と、を有するプレス成形品の製造方法である。プレス成形品の製造方法は、被加工材における壁部とフランジ部との稜線が形成される部分に余肉部を成形することと、余肉部を潰して、余肉部が成形されていた部分に圧縮応力を付与することと、を備える。
【0010】
このような構成によれば、被加工材におけるフランジ部に対応する部分には十分な余肉部を成形することが難しい場合でも、プレス成形品におけるスプリングバックの量を低減することができる。
【0011】
本開示の一態様では、余肉部は、被加工材における稜線が形成される面が凹んだ形状であってもよい。このような構成によれば、比較的容易に余肉部を成形することができる。
【0012】
本開示の一態様では、フランジ部は、稜線に沿った方向に湾曲した形状であってもよい。余肉部は、被加工材における稜線の中央部に対応する位置に少なくとも成形されてもよい。このような構成によれば、プレス成形品におけるスプリングバックの量を一層低減することができる。
【0013】
本開示の一態様では、余肉部は、被加工材における稜線の一端に対応する位置から稜線の他端に対応する位置まで連続するように成形されてもよい。
【0014】
本開示の一態様では、余肉部は、被加工材における稜線が形成される部分に複数成形されてもよい。
【0015】
本開示の一態様では、被加工材は、高張力鋼材により構成されていてもよい。このような構成によれば、スプリングバックの量が大きくなりやすい高張力鋼材について、成形精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】第1曲げ工程を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】第2曲げ工程を説明するための模式的な断面図である。
【
図7】第1曲げ工程が行われた後の被加工材の上面図である。
【
図9】余肉部を説明するための
図8とは異なる模式図である。
【
図10】余肉部の第1変形例を説明するための模式図である。
【
図11】余肉部の第2変形例を説明するための模式図である。
【
図12】余肉部の第3変形例を説明するための模式図である。
【
図13】余肉部の第4変形例を説明するための模式図である。
【
図14】余肉部の第5変形例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.プレス成形品の構成]
図1~
図4に示すプレス成形品1は、車両のルーフリンフォースメントである。車両のルーフリンフォースメントとは、車両のルーフ構造を構成する骨格部品である。プレス成形品1は、車室の上方において車幅方向に延びるように配置される。
図1~
図4に示される「上下」及び「左右」の方向は、プレス成形品1が車両に配置された状態における上下方向及び左右方向である。本実施形態のプレス成形品1は、車両における左右のセンターピラーの上端同士の間に架設される。本実施形態のプレス成形品1は、いわゆるルーフセンターリンフォースメントである。
【0018】
車両において、プレス成形品1の上側には、ルーフパネルが配置される。ルーフパネルは、車両の屋根を構成する外板である。ルーフパネルは、プレス成形品1に接合される。また、車両において、ルーフパネルの内側には、プレス成形品1と隣接してルーフ補強部材が配置され得る。ルーフ補強部材は、車両のルーフ構造を補強する部材である。ルーフ補強部材が配置される場合、ルーフ補強部材はプレス成形品1に接合され得る。
【0019】
プレス成形品1は、全体として長尺な形状である。
図3に示すように、プレス成形品1は、長手方向に弓なりに湾曲した形状である。
図1に示すように、プレス成形品1は、本体部2と、2つの壁部3と、2つのフランジ部4と、を備える。
【0020】
本体部2は、平面視にて長方形状の板状の部分である。本体部2は、中央の帯状の部分が、その両側の帯状の部分に対して段差状に高くなるように形成されている。
【0021】
2つの壁部3は、本体部2における短手方向の端縁から延出する板状の部分である。2つの壁部3は、本体部2における当該端縁からそれぞれ起立している。以下では、本体部2と壁部3との成す角度θ1を、第1角度θ1という。2つの壁部3それぞれについての第1角度θ1は、設計に応じて同一である場合もあれば互いに異なる場合もある。また、以下では、本体部2と壁部3との稜線L1を、第1稜線L1という。第1稜線L1はプレス成形品1の下面に位置するが、
図1では、図示の都合上、プレス成形品1の上面における対応する位置に第1稜線L1が示されている。なお、プレス成形品1の上面及び下面とは、プレス成形品1が車両に配置された状態におけるプレス成形品1の上面及び下面を指す。
【0022】
2つのフランジ部4は、2つの壁部3の先端からそれぞれ延出する板状の部分である。2つのフランジ部4は、2つの壁部3の先端からプレス成形品1の外側へそれぞれ延出している。言い換えれば、各フランジ部4は、隣接する壁部3を基準として、本体部2側と反対側へ張り出している。以下では、壁部3とフランジ部4との成す角度θ2を、第2角度θ2という。2つのフランジ部4それぞれについての第2角度θ2は、設計に応じて同一である場合もあれば互いに異なる場合もある。また、以下では、壁部3とフランジ部4との稜線L2を、第2稜線L2という。
【0023】
前述したように、プレス成形品1は、長手方向に弓なりに湾曲した形状である。このため、
図3に示すように、フランジ部4は、第2稜線L2に沿った方向に弓なりに湾曲した形状である。第2稜線L2は、プレス成形品1の長手方向に湾曲している。
【0024】
図1に示すように、フランジ部4は、プレス成形品1が他の部材と接合するための接合面41を形成する。本実施形態では、フランジ部4の上面が、接合面41に該当する。本実施形態のプレス成形品1は、ルーフパネル及びルーフ補強部材と接合されることが想定されている。
【0025】
具体的には、フランジ部4の接合面41には、複数のマスチック部42が成形されている。マスチック部42は、接合面41が凹んだ形状の部分である。本実施形態のマスチック部42は、第2稜線L2に沿って延びる溝状の部分(いわゆるビード)である。マスチック部42にマスチックシーラー等の接着剤が充填された状態において、マスチック部42を覆うように他の部材が接合面41に重ね合わされることにより、当該他の部材とプレス成形品1とが接合される。つまり、マスチック部42は、他の部材との接合予定位置に該当する。本実施形態では、ルーフパネルが、マスチック部42によりプレス成形品1と接合される。
【0026】
また、他の部材が接合面41に重ね合わされ、接合面41におけるマスチック部42が成形されていない領域においてスポット溶接されることにより、当該他の部材とプレス成形品1とが接合される。つまり、接合面41におけるスポット溶接の打点が形成される位置も、他の部材との接合予定位置に該当する。本実施形態では、ルーフ補強部材が、接合面41におけるスポット溶接によりプレス成形品1と接合される。
【0027】
プレス成形品1は、引張強度の高い高張力鋼材により構成されている。例えば、プレス成形品1は、引張強度が980MPa以上の高張力鋼材により構成されてもよいし、引張強度が1180MPa以上の高張力鋼材により構成されてもよい。本実施形態のプレス成形品1は、引張強度が1430MPaの高張力鋼材により構成されている。
【0028】
[2.プレス成形品の製造方法]
次に、プレス成形品1の製造方法について説明する。プレス成形品1の製造方法には、
図5に示す第1曲げ工程と、
図6に示す第2曲げ工程と、が含まれる。
【0029】
[2-1.第1曲げ工程]
図5に示すように、第1曲げ工程では、被加工材10に対して、上型101及び下型102を用いたプレス成形が行われる。被加工材10は、プレス成形品1の材料となる板状の部材である。第1曲げ工程が行われる前の被加工材10は、平板状である。
【0030】
第1曲げ工程では、以下の予備曲げ加工、本体部成形加工、マスチック部成形加工及び余肉部成形加工が、1つの工程として行われる。言い換えれば、これらの加工が同時に行われる。
図7には、第1曲げ工程が行われた後、すなわち第1曲げ工程に含まれる全ての加工が行われた後の被加工材10が、上面視にて示されている。
【0031】
<予備曲げ加工>
予備曲げ加工では、被加工材10が、完成品のプレス成形品1における第1稜線L1及び第2稜線L2に対応する位置で折り曲げられる。この段階では、被加工材10は、前述した第1角度θ1及び第2角度θ2までは折り曲げられず、第1角度θ1及び第2角度θ2よりも大きい角度に折り曲げられる。
【0032】
<本体部成形加工>
本体部成形加工では、被加工材10における完成品の本体部2に対応する部分が、本体部2として設計されている形状に成形される。
【0033】
<マスチック部成形加工>
マスチック部成形加工では、被加工材10における完成品のフランジ部4に対応する部分に、マスチック部42が成形される。
【0034】
<余肉部成形加工>
余肉部成形加工では、被加工材10における第2稜線L2が形成される部分に、
図7に示す余肉部11が成形される。余肉部11は、プレス成形によって完成品のフランジ部4に発生する引張応力を低減するために、被加工材10に一時的に成形され、被加工材10を完成品のプレス成形品1の形状に成形する過程で潰される部分である。被加工材10には、完成品のプレス成形品1における2つの第2稜線L2のそれぞれに対応して、第2稜線L2が形成される部分が2つ存在する。本実施形態では、これら第2稜線L2が形成される2つの部分のいずれにも、余肉部11が成形される。
【0035】
図8は、
図7に示す被加工材10を正面視した状態における、完成品の第2稜線L2に対応する部分の形状を示す模式図である。
図8には、余肉部11が成形されなかった場合における被加工材10の形状が二点鎖線で示されている。
【0036】
図7及び
図8に示すように、余肉部11は、被加工材10における第2稜線L2が形成される面が凹んだ形状の部分である。より詳細には、余肉部11は、第2稜線L2に対応する方向に沿って延びる溝状の部分(いわゆるビード)である。余肉部11は、被加工材10における第2稜線L2の中央部に対応する位置に成形される。
【0037】
図9は、
図6に示す第1曲げ工程が行われた後の被加工材10の断面における、円IXで囲まれた部分の形状を示す模式図である。
図9には、完成品のプレス成形品1における余肉部11が成形されていた部分の断面形状が、二点鎖線で示されている。なお、実際には、第1曲げ工程では前述したように被加工材10が第1角度θ1及び第2角度θ2までは折り曲げられないため、第1曲げ工程が行われた後の被加工材10と完成品のプレス成形品1とは、
図9のように綺麗には重ならない。
【0038】
図9に示すように、被加工材10における第2稜線L2に対応する方向と垂直な断面における、余肉部11の表面に沿った長さd1は、完成品のプレス成形品1の第2稜線L2と垂直な断面における、余肉部11が成形されていた部分の表面に沿った長さd2よりも長い。このため、後述するように余肉部11が潰された場合には、余肉部11が成形されていた部分に圧縮応力が付与される。
【0039】
[2-2.第2曲げ工程]
図6に示すように、第2曲げ工程では、第1曲げ工程が行われた後の被加工材10に対して、上型201及び下型202を用いたプレス成形が行われる。第2曲げ工程では、以下の本曲げ加工及び潰し成形加工が、1つの工程として行われる。言い換えれば、これらの加工が同時に行われる。第1曲げ工程が行われた後の被加工材10に対して、第2曲げ工程が行われる、すなわち第2曲げ工程に含まれる全ての加工が行われることにより、被加工材10からプレス成形品1が得られる。
【0040】
<本曲げ加工>
本曲げ加工では、被加工材10が、第1曲げ工程における予備曲げ加工で折り曲げられた箇所で、更に深い角度まで折り曲げられる。被加工材10は、完成品のプレス成形品1における角度が設計値である第1角度θ1及び第2角度θ2となるような角度に折り曲げられる。
【0041】
<潰し成形加工>
潰し成形加工では、被加工材10に成形されている余肉部11が潰される。余肉部11が潰されることとは、第1曲げ工程において余肉部11が成形されなかった場合における被加工材10の形状に近付けるように成形されることを意味する。
【0042】
被加工材10には、余肉部11が潰されることにより、余肉部11が成形されていた部分に圧縮応力が付与される。その結果、完成品のプレス成形品1において、プレス成形によりフランジ部4に発生していた引張応力が低減される。
【0043】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0044】
(3a)プレス成形品1の製造方法では、被加工材10における第2稜線L2が形成される部分に余肉部11が成形され、その後に潰される。
【0045】
このような構成によれば、余肉部11が潰されることにより、余肉部11が成形されていた部分に圧縮応力が付与されるため、完成品のプレス成形品1において、フランジ部4に発生していた引張応力を低減することができる。したがって、被加工材10における完成品のフランジ部4に対応する部分には十分な余肉部を成形することが難しい場合でも、完成品のプレス成形品1において、スプリングバックの量を低減することができる。
【0046】
(3b)余肉部11は、被加工材10における第2稜線L2が形成される面が凹んだ形状である。このような構成によれば、比較的容易に余肉部11を成形することができる。
【0047】
(3c)余肉部11は、被加工材10における第2稜線L2の中央部に対応する位置に成形される。
【0048】
完成品のプレス成形品1において、フランジ部4は、第2稜線L2に沿った方向に弓なりに湾曲した形状である。このため、プレス成形により発生した引張応力は、フランジ部4における第2稜線L2に沿った方向の中央の領域に集中しやすいと考えられる。上記のような構成によれば、完成品のフランジ部4における引張応力が集中しやすい領域と隣接する位置において、余肉部11が成形されて潰されるため、フランジ部4に発生していた引張応力をより効果的に低減することができる。すなわち、完成品のプレス成形品1において、スプリングバックの量を一層低減することができる。
【0049】
(3d)上記実施形態では、被加工材10における第2稜線L2が形成される2つの部分の双方に、余肉部11が成形されて潰される。
【0050】
このような構成によれば、完成品における2つのフランジ部4のいずれについても、プレス成形により発生していた引張応力を低減することができる。したがって、被加工材10における第2稜線L2が形成される2つの部分の一方のみに余肉部11が成形されて潰される場合と比較して、完成品のプレス成形品1全体としてのスプリングバックの量を一層低減することができる。
【0051】
(3e)本実施形態では、被加工材10が高張力鋼材により構成されている。このため、被加工材が引張強度の低い鋼材により構成される場合と比較して、完成品のプレス成形品1においてスプリングバックの量が大きくなりやすい。
【0052】
このような場合でも、プレス成形品1の製造過程において、被加工材10における第2稜線L2が形成される部分に余肉部11を成形して潰すことにより、プレス成形品1の成形精度を向上させることができる。
【0053】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0054】
(4a)上記実施形態では、余肉部11は、第2稜線L2に対応する方向に沿って延びる溝状の部分である。このような場合、
図10及び
図11に示すように、第2稜線L2に対応する方向に沿った余肉部11a,11bの長さは、特に限定されない。例えば、
図11に示すように、余肉部11bが、被加工材10における第2稜線L2の一端に対応する位置から第2稜線L2の他端に対応する位置まで連続するように成形されてもよい。なお、
図11では、図示の都合上、余肉部11bが第2稜線L2の両端に対応する位置までは延びていないが、実際の余肉部11bは、当該両端に対応する位置まで延びている。
【0055】
(4b)上記実施形態では、余肉部11は、被加工材10における第2稜線L2の中央部に対応する位置に成形される。しかし、余肉部は、必ずしも、被加工材10における第2稜線L2の中央部に対応する位置に成形されなくてもよい。例えば、
図12及び
図13に示すように、余肉部11c,11dが、被加工材10における第2稜線L2の中央部に対応する位置には成形されず、第2稜線L2の中央部を挟んだ両側に対応する位置の少なくとも一方に成形されてもよい。
【0056】
(4c)上記実施形態では、被加工材10における第2稜線L2が形成される2つの部分に、それぞれ1つの余肉部11が成形される。しかし、1つの第2稜線L2に対応して成形される余肉部の数は、特に限定されない。例えば、
図13及び
図14に示すように、1つの第2稜線L2に対応して、複数の余肉部11d,11eが成形されてもよい。
【0057】
(4d)また例えば、上記実施形態のように被加工材10に複数の第2稜線L2が形成される場合に、必ずしも、被加工材10における第2稜線L2が形成される複数の部分の全てについて、余肉部11が成形されなくてもよい。
【0058】
(4e)上記実施形態では、余肉部11は、被加工材10における第2稜線L2が形成される面が凹んだ形状である。しかし、余肉部の形状は、特に限定されない。例えば、余肉部は、被加工材10における第2稜線L2が形成される面が膨らんだ形状であってもよい。このような場合でも、被加工材10における第2稜線L2に対応する方向と垂直な断面における、余肉部の表面に沿った長さが、完成品のプレス成形品1の第2稜線L2と垂直な断面における、余肉部が成形されていた部分の表面に沿った長さよりも長くなるように成形することにより、余肉部を潰すことによって余肉部が成形されていた部分に圧縮応力を付与することができる。
【0059】
(4f)上記実施形態では、被加工材10における第2稜線L2が形成される部分に余肉部11が成形される。このような場合に、被加工材10における完成品のフランジ部4に対応する部分に、更に余肉部が成形されてもよい。
【0060】
(4g)上記実施形態では、プレス成形品1は、全体として長尺な形状であって、長手方向に弓なりに湾曲した形状である。しかし、プレス成形品の形状は、特に限定されない。壁部と当該壁部から延出するフランジ部とを有する、他の形状のプレス成形品についても、製造過程において、被加工材における壁部とフランジ部との稜線が形成される部分に余肉部を成形してその後に潰すことによって、完成品におけるスプリングバックの量を低減することができる。
【0061】
(4h)上記実施形態では、第1曲げ工程において、予備曲げ加工、本体部成形加工、マスチック部成形加工及び余肉部成形加工が同時に行われるが、これらの加工は必ずしも同時に行われなくてもよい。また、例えばこれらの加工が同時ではなく順々に行われる場合、その順序は特に限定されない。
【0062】
同様に、上記実施形態では、第2曲げ工程において、本曲げ加工及び潰し成形加工が同時に行われるが、これらの加工は必ずしも同時に行われなくてもよい。また、例えばこれらの加工が同時ではなく順々に行われる場合、その順序は特に限定されない。
【0063】
(4i)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0064】
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
壁部と、前記壁部から延出するフランジ部であって他の部材と接合するための接合面を形成する前記フランジ部と、を有するプレス成形品の製造方法であって、
被加工材における前記壁部と前記フランジ部との稜線が形成される部分に余肉部を成形することと、
前記余肉部を潰して、前記余肉部が成形されていた部分に圧縮応力を付与することと、
を備える、プレス成形品の製造方法。
【0065】
[項目2]
項目1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線が形成される面が凹んだ形状である、プレス成形品の製造方法。
【0066】
[項目3]
項目1又は項目2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記フランジ部は、前記稜線に沿った方向に湾曲した形状であり、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線の中央部に対応する位置に少なくとも成形される、プレス成形品の製造方法。
【0067】
[項目4]
項目1から項目3までのいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線の一端に対応する位置から前記稜線の他端に対応する位置まで連続するように成形される、プレス成形品の製造方法。
【0068】
[項目5]
項目1から項目3までのいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記余肉部は、前記被加工材における前記稜線が形成される部分に複数成形される、プレス成形品の製造方法。
【0069】
[項目6]
項目1から項目5までのいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記被加工材は、高張力鋼材により構成されている、プレス成形品の製造方法。
【符号の説明】
【0070】
1…プレス成形品、10…被加工材、11…余肉部、2…本体部、3…壁部、4…フランジ部、41…接合面、42…マスチック部、L1…第1稜線、L2…第2稜線。