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  • 特開-楽器奏者用の下唇保護シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043970
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】楽器奏者用の下唇保護シート
(51)【国際特許分類】
   G10G 7/00 20060101AFI20240326BHJP
   G10D 7/066 20200101ALI20240326BHJP
   G10D 7/08 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G10G7/00
G10D7/066
G10D7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149235
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】391003484
【氏名又は名称】阿蘇製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】上米良 勉
【テーマコード(参考)】
5D182
【Fターム(参考)】
5D182CC10
(57)【要約】
【課題】加工作業の負担が少なく、簡単に使用でき、演奏時のズレも少ない下唇保護シートを提供する。
【解決手段】木管楽器20の演奏者のための下唇保護シートは、人間の体温に相当する温度で軟化するとともに当該温度を感知している間は軟化状態を維持する素材で構成されたシート片10を有する。シート片10は、演奏者の下顎中切歯30のうち当該演奏者の下唇31と当接する部分を覆うサイズに成型されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木管楽器の演奏者のための下唇保護シートであって、
人間の体温に相当する温度で軟化するとともに当該温度を感知している間は軟化状態を維持する素材で構成されたシート片を有し、
前記シート片は、前記演奏者の下顎中切歯のうち当該演奏者の下唇と当接する部分を覆うサイズに成型されていることを特徴とする、下唇保護シート。
【請求項2】
前記シート片は、発泡樹脂で構成されることを特徴とする、
請求項1に記載の下唇保護シート。
【請求項3】
前記シート片は、オレフィン系発泡樹脂で構成されることを特徴とする、
請求項2に記載の下唇保護シート。
【請求項4】
前記シート片は、接着部材を用いることなく前記下顎中切歯に密着することを特徴とする、請求項3に記載の下唇保護シート。
【請求項5】
前記シート片は、接着部材を用いることなく複数枚積層ないし積層後の離脱が可能な密着性があることを特徴とする、請求項3に記載の下唇保護シート。
【請求項6】
複数枚の前記シート片が押圧による擬似接着により積層されることを特徴とする、
請求項5に記載の下唇保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラリネット、サクソフォーン等の木管楽器の演奏者が歯に装着して下唇を保護するための下唇保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
リード使用の木管楽器の演奏者は、下の歯に下唇を少しかぶせ、マウスピースをくわえて演奏する。その際、演奏者の下唇が、楽器のマウスピース部分と下の歯の先端との間で圧迫されて痛みが生じやすい。またこの状態での練習及び演奏をおこなうことで、演奏者によっては、下唇が下の歯と楽器で挟み込まれることで傷が生じ、この傷がもとで口内炎を発症するおそれもある。
【0003】
このようなことから、演奏者の中には、演奏時に、下唇を保護するためのシートを装着する者が多い。下唇の保護シートには、通常、クリーニングペーパーやあぶらとり紙等が使用される。演奏者は、クリーニングペーパーやあぶらとり紙等を下の歯のサイズに合わせて小さく折って装着する。しかし、クリーニングペーパーやあぶらとり紙等を用いる場合、歯へのフィット性や耐久性に問題があるほか、演奏中にズレやすいなど課題も多い。またこれらは本来、楽器演奏用の製品ではないため、衛生上の問題もあるほか、演奏上の信頼性に欠ける。
【0004】
このような問題を解決する技術として、特許文献1に演奏アダプターが開示されている。この演奏アダプターは、所定温度以上のお湯で加熱することにより変形し、変形後に水道水で冷却することにより硬化する熱可塑性を有する素材を使用することにより、歯の型取りを可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-89751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される演奏アダプターでは、歯の型取りの際、あるいは、型取りの後に、ズレ防止等のための加工作業が必要になる。このような加工作業は、慣れていなければ何度も繰り返し行われることになり、装着して使用するまでの工程が演奏者の負担となる。また、硬化すると粘度が無くなることから、演奏時に外れやすくなるという問題もある。そのため、加工作業の負担が少なく、簡単に使用できて、演奏時のズレも少ない下唇保護シートが望まれるが、現状、そのような下唇保護シートは見当たらない状況にある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑み、加工作業の負担が少なく、簡単に使用できて、演奏時のズレも少ない下唇保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、木管楽器の演奏者のための下唇保護シートであって、人間の体温に相当する温度で軟化するとともに当該温度を感知している間は軟化状態を維持する素材で構成されたシート片を有し、前記シート片は、前記演奏者の下顎中切歯のうち当該演奏者の下唇と当接する部分を覆うサイズに成型されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工作業を行うことなく簡単に使用でき、軟化することで下顎中切歯に密着してズレが吸収される下唇保護シートを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】演奏時の下唇保護シートの装着状態の説明図。
図2】(a)~(d)は、シート片の装着方法の説明図
図3】シート片が複数枚貼り付けられる台紙の例示図。
図4】(a)、(b)は、シート片を重ねて装着する場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をクラリネットやサクソフォーン等の木管楽器の演奏者が使用する下唇保護シートに適用した場合の実施の形態例を説明する。本実施形態の下唇保護シートは、シート片と未使用時にシート片を貼り付けておく台紙とを有する。
図1は、シート片の装着状態の説明図である。木管楽器20の演奏者は、演奏前に、下の歯である下顎中切歯30にシート片10を装着する。演奏者は、リード22を取り付けたマウスピース21を口にくわえ、歯に下唇31を少しかぶせ、木管楽器20のマウスピース21を下唇31の上にのせて演奏することになる。
【0012】
シート片10は、演奏者の下顎中切歯30と下唇31との間のクッション材として作用し、下唇31を下顎中切歯30から保護する。なお、上の歯32は、上唇33とともにマウスピース21の上部に接触する。
【0013】
シート片10は、図2の手順で装着される。シート片10は、図2(a)に示すように、面取りされた矩形である。シート片10は、装着時に、長辺のほぼ中心から二つ折りにされる。二つ折りされたシート片10は、折られた部分が下顎中切歯30の先端を覆うように装着される(図2(b)、図2(c))。下顎中切歯30の先端は、演奏者の下唇31に当接する部分である。この際、シート片10は、体温で軟化して下顎中切歯30に密着(粘着、圧着による場合を含む)することで、演奏時にズレが生じにくくなっている。
【0014】
図2(d)は、シート片10を装着したときの演奏者の下前歯部分の正面図である。シート片10により下顎中切歯30の先端が覆われるため、下顎中切歯30の先端が演奏者の下唇31に直接当接することが防止される。これにより、演奏者の下唇31は、下顎中切歯30の先端から保護され、傷の発生が防止される。
【0015】
図3は、下唇保護シートの台紙の例示図である。台紙11には、複数枚のシート片10が貼り付けられる。シート片10は、演奏者の下顎中切歯30のうち、演奏者の下唇31に当接する部分を覆うサイズに成型されている。本実施形態では、シート片10は、例えば、サイズが22.0[mm]×18.0[mm]の面取りされた矩形であり、厚さが0.5[mm]である。また、台紙11は、例えばサイズが88.0[mm]×48.0[mm]の矩形である。そのために台紙11には、8枚のシート片10が貼り付けられる。なお、シート片10のサイズ及び厚さは一例であり、他のサイズ及び厚さであってもよい。例えば、シート片10のサイズは、22.0±3.0[mm]×18.0±3.0[mm]、厚さは0.3~2.0[mm]程度であってもよい。また、シート片10のサイズは、台紙11に貼り付け可能な最大のサイズであってもよい。この場合、シート片10は台紙11に1枚だけ貼り付けられており、はさみ等でサイズが適宜調整されて使用される。
【0016】
シート片10は、このような台紙11に貼り付けられた状態で販売、保管される。使用時には、演奏者がシート片10を台紙11から剥がして二つ折りにし、下顎中切歯30に装着することになる。シート片10が面取りされた形状であるため、歯への装着時に周辺の歯茎にシート片10が当たって、演奏者が痛みを感じることはない。また、シート片10の厚さが0.5[mm]であるために、演奏者の装着時の違和感が低減される。
【0017】
シート片10は、人間の体温に相当する温度で軟化する。すなわち、シート片10は、演奏者が口の中に入れている間、つまり体温を感知している間は軟化状態を維持する。これにより、シート片10は、演奏中、軟化状態を維持して下顎中切歯30の先端を覆うことができる。また、シート片10は、接着部材を用いることなく、下顎中切歯30に歯の形に合わせて変形しながら密着する。シート片10が下顎中切歯30に密着することで、使用時にシート片10が歯からズレて演奏を妨害するリスクを低減する事ができる。
【0018】
つまり、シート片10は、体温付近の温度、例えば少なくとも28℃~40℃の範囲で軟化状態を維持し、且つ該温度範囲で接着部材を用いることなく変形することで歯に密着し、人体に無害である素材により構成されるシートであればよい。
このようなシート片10に使用される素材には、例えば、人体の体温付近で柔軟性を発現して変形可能な樹脂シートを用いることができる。この樹脂シートは、例えばオレフィン系発泡樹脂等の発泡樹脂である。樹脂シートのガラス転移点は、28℃以下にあることが好ましい。ガラス転移点が体温よりも低いことで、着用時にシート片10が体温により温められて歯にフィットするようになる。
【0019】
また、シート片10の素材には、例えばシリコーン材、ウレタンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ヒドリンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロブレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。
【0020】
この他にシート片10には、例えば海草の粘着成分のアルギン酸や複数の粘着成分を含むシートを用いることができる。このシートは、例えば不織布(酢酸セルロース、再生セルロース、酸化チタン、アクリルポリマー)、アルギン酸ナトリウム、高重合ポリエチレングリコール、カルメロースナトリウム等により構成される。このようなシートの粘着強さは5[kPa]以上となる。
【0021】
また、シート片10には、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を主骨格とするシリコーン材によるシートを用いることができる。シロキサン結合(-Si-O-Si-)を主骨格とするシリコーン材は、分子がヘリックス構造(コイル状)であり、有機系ゴムや有機系合成樹脂よりも弾性に富む。有機系ゴムの脆化点が-20℃~-30℃であるのに対し、シロキサン結合を主骨格とする無機質のシリコーン材の脆化点は-60℃~-70℃なので、他の種類の弾性素材が脆化する温度でも弾力を保ち、低温性に優れている。
【0022】
ゴム系のシリコーン材には、硬さ(柔らかさ)を示す硬度指標が知られている。例えば日本ゴム協会標準規格(SRIS0101)のうちタイプAデュロメータ(JIS K6253)で測定した5度以上30度未満は「低硬度」、30度以上50度未満は「中硬度」、50度以上は「高硬度」に分類される。低硬度は人肌程度の硬さであり、約40度が消しゴム、60度~70度が車のタイヤ、80度がマウスのボールの硬さに近いと言われている。硬度はシリカ系粉体充填剤の添加量で決まる。本実施形態では、5度以上30度以下のシリコーン材のシートであれば、下唇保護シートとしての柔軟性が確保される。
【0023】
演奏時の下唇31の傷の原因には、歯並び、特に下の歯の歯並びが大きく影響する。これに対して本実施形態のシート片10は、薄い(0.5[mm]厚)ながらも高クッション性を有している。シート片10がクッション性を有するために、マウスピース21をくわえたときに下唇31に下顎中切歯30が作用する力がシート片10に分散される。さらに本実施形態では、シート片10が下顎中切歯30を覆い且つ軟化状態となることで、下の歯の歯並びを均一に揃えることができる。そのために演奏時のマウスピース21よる下唇31への圧力が分散され、演奏時に下顎中切歯30が下唇31を直接傷つけるリスクが抑制される。
【0024】
また、マウスピース21による下唇31への圧力にムラがある場合、気流の乱れを要因としたノイズや音ムラが発生しやすくなる。これに対して本実施形態のシート片10は、使用中に軟化しているために、マウスピース21よる下唇31への圧力を分散する。そのために、マウスピース21と下唇31との隙間が均一化し、気流の乱れを要因としたノイズや音ムラの発生が抑制される。そのために、安定した「まとまりのある音質」を確保しやすくなる。
【0025】
また、シート片10は、使用中に軟化しているために、歯の形状に合わせて変形し、歯へのフィット性が向上する。そのために、演奏中にシート片10が歯からズレることが防止される。演奏後(使用後)のシート片10は、下顎中切歯30から取り外されて、破棄される。つまりシート片10は、使い捨てタイプである。
【0026】
なお、楽器の種類や演奏者の奏法によっては、1枚のシート片10の装着だけでは、下唇31の傷や、ノイズ、音ムラの発生を十分に抑制できないことがある。また、1枚のシート片10では、演奏フィーリングが合わないと感じる演奏者もいる。この場合、本実施形態の下唇保護シートは、複数枚積層されたシート片10により構成されてもよい。図4は、シート片を重ねて装着する場合の説明図である。ここでは2枚のシート片10を積層して使用する場合について説明する。
【0027】
演奏者は、図3に例示する台紙11から使用枚数分のシート片10を剥がして、二つ折りにする。ここでは、演奏者は、2枚のシート片10を台紙11から剥がして重ね、長辺のほぼ中心で二つ折りにする(図4(a))。演奏者は、二つ折りしたシート片10を、折られた部分が下顎中切歯30の先端に当接するように装着する(図4(b))。これにより下顎中切歯30に接触するシート片10は、下顎中切歯30に密着して、演奏時にズレが生じにくくなっている。
【0028】
本実施形態のシート片10は、下顎中切歯30に密着するような素材で構成される。シート片10は、接着部材を用いることなく複数枚積層ないし積層後の離脱が可能な自着性を有している。この自着性により、複数枚のシート片10は、押圧による擬似接着となり、積層してもズレにくい性能を有する。そのために容易に、複数枚のシート片10を積層して下顎中切歯30に装着し、使用後に下顎中切歯30から積層したシート片10を取り外すことができる。
【0029】
シート片10が複数枚積層されることで、例えばマウスピース21を強くかむ癖がある演奏者や、歯並びが悪い演奏者であっても、下唇31の傷や、ノイズ、音ムラの発生を十分に抑制可能となる。また、細かなフィーリングを気にする演奏者にとっては、下唇保護シートの厚みの調整が可能となる。
【0030】
シート片10は、サイズが大きくなるほど歯への密着力が増加するために、演奏中のズレが防止される。しかし大きすぎると、本来、覆う必要がない歯までシート片10に覆われたり、歯茎と下唇をつなぐ小帯に当たることで、快適な演奏の妨げになる可能性がある。そのために、シート片10のサイズは、演奏者により適宜調整されてもよい。また、シート片10の形状も、演奏者により適宜成型されてもよい。このようなシート片10は、はさみ等による加工が容易な素材であることが好ましい。
【0031】
以上のように本実施形態の下唇保護シートは、使用前の形状の加工が簡単であり、所定の密着性を持つシート片10を有する。そのために本実施形態の下唇保護シートは、歯の型取りを行う従来の演奏アダプターよりも加工作業の負担が少なく、簡単に使用可能である。また、下唇の保護用として現在代用使用されているクリーニングペーパーやあぶらとり紙と比較して、シート片10は、台紙11から剥がしてすぐに使用する事ができ、また歯に密着するため、使用中のズレが少なくなることで、演奏時の不快感を低減することができる。
図1
図2
図3
図4