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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043992
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】OFDRシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/36 20060101AFI20240326BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01S17/36
G01M11/00 U
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149276
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100163876
【弁理士】
【氏名又は名称】上藤 哲嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100187045
【弁理士】
【氏名又は名称】梅澤 奈菜
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 崇記
【テーマコード(参考)】
2G086
5J084
【Fターム(参考)】
2G086DD05
5J084AA05
5J084AD02
5J084BA22
5J084BB14
5J084BB21
5J084BB31
5J084CA19
5J084CA48
5J084CA49
5J084CA52
5J084DA08
5J084DA09
5J084EA13
(57)【要約】
【課題】本開示は、反射ピークに含まれる波長掃引光の位相変位成分を抑圧することを目的とする。
【解決手段】本開示は、OFDRを用いて測定された測定干渉信号における、予め定められた距離Lでの波長掃引光の位相変位量δPを測定し、測定した位相変位量δPを用いて、距離Lでの位相変位量δPLzを算出し、距離Lでの位相変位量を用いて、距離Lでの連続位相θLzを算出し、距離Lでの連続位相θLzを等しい位相で分割するサンプリング位置niでの測定干渉信号Sの値を算出し、算出した測定干渉信号Sの値を高速フーリエ変換することで、距離LでのOFDRスペクトラムを算出する、装置である。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)を用いて測定された測定干渉信号における、予め定められた距離Lでの波長掃引光の位相変位量δPを測定し、
測定した位相変位量δPを用いて、距離Lでの位相変位量δPLzを算出し、
距離Lでの位相変位量を用いて、距離Lでの連続位相θLzを算出し、
距離Lでの連続位相θLzを等しい位相で分割するサンプリング位置niでの測定干渉信号Sの値を算出し、
算出した測定干渉信号Sの値を高速フーリエ変換することで、距離LでのOFDRスペクトラムを算出する、
装置。
【請求項2】
波長掃引光を出射する波長掃引光源と、
波長掃引光を用いて、一定の遅延長Lに対応する基準干渉信号を生成する基準干渉計と、
波長掃引光を測定対象物に照射し、前記測定対象物で反射又は散乱された信号光を参照光と合波することで、前記測定干渉信号を測定する測定干渉計と、
前記基準干渉信号で定められるタイミングで、前記測定干渉信号をサンプリングするAD変換器と、
前記AD変換器からの前記測定干渉信号が入力され、距離LでのOFDRスペクトラムを算出するデータ処理部と、
を備える請求項1に記載の装置。
【請求項3】
予め定められた遅延長Lを有する位相検出干渉計を備え、
前記位相検出干渉計で得られた位相干渉信号を用いて、前記位相変位量δPを測定する、
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)を用いて測定された測定干渉信号における、予め定められた距離Lでの波長掃引光の位相変位量δPを測定し、
測定した位相変位量δPを用いて、距離Lでの位相変位量δPLzを算出し、
距離Lでの位相変位量を用いて、距離Lでの連続位相θLzを算出し、
距離Lでの連続位相θLzを等しい位相で分割するサンプリング位置niでの測定干渉信号Sの値を算出し、
算出した測定干渉信号Sの値を高速フーリエ変換することで、距離LでのOFDRスペクトラムを算出する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、OFDRシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
光反射測定方法の一つとして、光周波数領域リフレクトメトリ測定方法(OFDR:Optical Frequency Domain Reflectometry)が用いられている(例えば、特許文献1を参照。)。OFDRでは、波長掃引光源から出射される波長掃引光を2分岐し、測定対象物で反射乱された信号光と一方の参照光との干渉により生じる測定干渉信号を解析し、測定対象物による反射ピークを特定することで、測定対象物までの距離を測定する。
【0003】
測定対象物までの距離が波長掃引光源のコヒーレンス長の1/2を超えると、信号光と参照光との干渉性が低下し、その結果位相ノイズが大きくなり、ビート信号のスペクトル幅が広がる。特許文献1では、測定干渉信号とは別に基準干渉信号を生成し、この基準干渉信号を用いて波長掃引光の位相変位量を算出し、補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4917640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基準干渉信号を用いて、測定干渉信号に重畳される波長掃引光の位相変位の影響を、厳密に補正できるのは、波長掃引光源から基準干渉計を通ってAD変換器に入力されるまでの時間と、波長掃引光源から測定干渉計を通ってAD変換器に入力されるまでの時間とが同じ場合のみであり、この時間同士に差があると、波長掃引光の位相変位を補正できず、測定干渉信号のスペクトラム上に波長掃引光の位相変位成分が重畳されてしまう。そのため、測定干渉信号のスペクトラム上の測定対象物による反射ピークの幅が広がる、或いは反射ピークに側帯波が出現するなどし、測定対象物までの距離を検出する精度が低下していた。
【0006】
本開示は、反射ピークに含まれる波長掃引光の位相変位成分を抑圧することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の装置は、
波長掃引光を出射する波長掃引光源(11)と、
波長掃引光を用いて、一定の遅延長Lに対応する基準干渉信号を生成する基準干渉計(14)と、
波長掃引光を測定対象物に照射し、前記測定対象物で反射又は散乱された信号光を参照光と合波することで、前記測定干渉信号を測定する測定干渉計(13)と、
前記基準干渉信号で定められるタイミングで、前記測定干渉信号をサンプリングするAD変換器(16)と、
前記AD変換器からの前記測定干渉信号が入力され、前記測定干渉信号のOFDRスペクトラムを算出するデータ処理部(17)と、
を備える。
【0008】
本開示の装置及び方法では、データ処理部が、
OFDRを用いて測定された測定干渉信号における、予め定められた距離Lでの波長掃引光の位相変位量δPを測定し、
測定した位相変位量δPを用いて、距離Lでの位相変位量δPLzを算出し、
距離Lでの位相変位量を用いて、距離Lでの連続位相θLzを算出し、
距離Lでの連続位相θLzを等しい位相で分割するサンプリング位置niでの測定干渉信号Sの値を算出し、
算出した測定干渉信号Sの値を高速フーリエ変換することで、距離LでのOFDRスペクトラムを算出する。
【0009】
本開示の装置は、予め定められた遅延長Lを有する位相検出干渉計(15)を備え、
前記位相検出干渉計で得られた位相干渉信号を用いて、前記位相変位量δPを測定してもよい。
【0010】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、測定対象物の距離Lでの位相変位量δPLzを算出し、これを用いて距離Lでの測定干渉信号Sの値を算出する。このため、本開示は、測定対象物の距離Lでの反射ピークに含まれる波長掃引光の位相変位成分を抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】OFDRシステムの一例を示す。
図2】測定干渉信号Sの一例を示す。
図3】本開示の本実施形態に係るOFDRシステムの一例を示す。
図4】ステップS01において測定されるOFDRスペクトラムの一例を示す。
図5】本開示に係るOFDRスペクトラムの一例を示す。
図6】本開示に係るOFDRスペクトラム測定方法の一例を示す。
図7】ステップS02において生成されるOFDRスペクトラムの一例を示す。
図8】ステップS02において生成される位相干渉信号の一例を示す。
図9】ステップS03において算出されるデータ番号nごとの位相Φの一例を示す。
図10】連続位相θの一例を示す。
図11】連続位相θとその線形成分の一例を示す。
図12】距離Lでの位相変位量δPの一例を示す。
図13】位相変位成分を抑圧する補正係数Kの距離依存性の一例を示す。
図14】距離Lでの位相変位量δPLzの一例を示す。
図15】距離Lでの連続位相θLzの一例を示す。
図16】連続位相θLzをN等分割するサンプリング位置niの算出例を示す。
図17】サンプリング位置niに対応する出力値Vの一例を示す。
図18】サンプリング位置niに対応する出力値Vの算出例を示す。
図19】本開示に係るOFDRスペクトラムの一例を示す。
図20】OFDRスペクトラムの比較例を示す。
図21】OFDRスペクトラムの実施例を示す。
図22】本開示に係るOFDRスペクトラムの一例を示す。
図23】本開示に係るOFDRスペクトラムの一例を示す。
図24】本開示に係るOFDRスペクトラムの一例を示す。
図25】本開示の本実施形態に係るOFDRシステムの一例を示す。
図26】AD変換器からの出力信号の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0014】
(第1の実施形態)
図1に、OFDRシステムの一例を示す。本実施形態のOFDRシステムは、ハードウェアリニアライズ法を用いて、測定干渉信号Sをサンプリングする。例えば、OFDRシステムは、波長掃引光源11、測定干渉計13、基準干渉計14、AD変換器16、データ処理部17を備える。
【0015】
波長掃引光源11から出射される波長掃引光はカプラ12で基準干渉計14及び測定干渉計13に分岐される。基準干渉計14は、波長掃引光を用いて、一定の遅延長Lに対応する基準干渉信号を生成し、出力する。測定干渉計13は、波長掃引光を測定対象物100に照射し、測定対象物100で反射又は散乱された信号光と参照光を合波した測定干渉信号を出力する。
【0016】
AD変換器16は、基準干渉計14からの基準干渉信号をクロックに用いて、測定干渉信号Sをサンプリングする。データ処理部17は、AD変換器16からの測定干渉信号を解析する。
【0017】
本実施形態では、一定の遅延長Lに対応する基準干渉信号で測定干渉信号Sがサンプリングされる。このため、波長掃引光の光周波数と時間の関係が非線形であっても、その非線形性をキャンセルできる。
【0018】
基準干渉計14の構成は任意であるが、例えば、波長掃引光をカプラ41で分岐し、分岐光を異なるミラー42A及び42Bで反射し、これらミラー42A及び42Bでの反射光をカプラ41で合波し、受光器43で合波光を受光する。これにより基準干渉計14は、カプラ41からミラー42Aまでの光路長とカプラ41からミラー42Bまでの光路長との差である遅延長Lで決まるフリースペクトルレンジ(=C/(2LR)、Cは光速)を有する干渉計として働く。そして、波長掃引光の光周波数が上記フリースペクトルレンジの周波数を掃引される度に強弱が繰り返される基準干渉信号を、受光器43が出力する。
【0019】
測定干渉計13の構成は任意であるが、例えば、波長掃引光をカプラ31Aで測定光と参照光に分岐し、測定光をコリメータレンズ33から測定対象物100に照射し、測定対象物100で反射又は散乱された信号光をカプラ31Bで参照光と合波し、受光器34で合波光を受光する。これにより、受光器34が、測定対象物100までの距離Lに対応するOFDRスペクトラム上の位置に反射ピークを有する測定干渉信号Sを出力する。ここで距離Lとは、OFDRスペクトラムの周波数が0となる干渉原点すなわち信号光の光路長と参照光の光路長が一致する位置から、測定対象物100までの光路長を示す。
【0020】
AD変換器16は、受光器34から出力される測定干渉信号Sを、受光器43から出力される信号の立上がりや立下り等のタイミングでデジタル信号に変換する。これにより、波長掃引光が、上記遅延長Lで決まる上記フリースペクトルレンジの周波数を掃引される度に測定干渉信号Sがサンプリングされる。図2に、測定干渉信号Sの一例を示す。横軸はAD変換器16でのサンプリング番号nである。ハードウェアリニアライズ法では、nは光周波数に線形である。
【0021】
(第2の実施形態)
図3に、本実施形態のOFDRシステムの一例を示す。本実施形態のOFDRシステムでは、測定干渉計13がカプラ31C及びミラー35を備える。
【0022】
本実施形態では、測定光をカプラ31Cでミラー35及び測定対象物100に分岐し、ミラー35及び測定対象物100での反射光をカプラ31Bで参照光と合波し、受光器34で合波光を受光する。これにより、受光器34が、干渉原点からミラー35までの距離Lと干渉原点から測定対象物100までの距離Lに対応するOFDRスペクトラム上のそれぞれの位置に反射ピークを有する測定干渉信号Sを出力する。
【0023】
データ処理部17は、測定干渉信号Sを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)する。これにより、図4に示すような、OFDRスペクトラムが得られる。OFDRスペクトラムでは、反射点があると、その距離に対応する周波数位置に反射ピークが現れる。例えば、干渉原点から距離Lの位置に測定対象物100が配置されている場合、距離Lに対応する周波数位置に測定対象物100での反射ピークP100が現れる。
【0024】
本実施形態では、測定干渉計13がミラー35を備えるため、測定干渉信号Sには、ミラー35の距離Lに、ミラー35での反射ピークP35が現れる。本実施形態では、データ処理部17が、反射ピークP35を利用して距離Lでの位相変位量δPを測定し、その位相変位量δPを用いて、測定対象物100の位置Lでの位相変位成分を抑圧する。
【0025】
ここで、反射ピークP35は、距離が既知の任意のピークを用いることができる。例えば、図5に示すように、光ファイバの端面32の先端にコリメータレンズ33が配置され、コリメータレンズ33から測定対象物100に照射される場合、光ファイバの端面32での反射を用いてもよい。
【0026】
図6に、本開示の距離測定方法の一例を示す。本開示の距離測定方法は、OFDRを用いて測定対象物100の距離を測定する方法であって、
測定干渉信号Sを測定し(S01)、
測定干渉信号Sに含まれる反射ピークP35を用いて位相干渉信号を算出し(S02)、
位相干渉信号を用いて波長掃引光源11の位相変位量δPを算出し(S03)、
反射ピークP100の存在する距離Lでの位相変位量δPを算出し(S04)、
位相変位量δPを用いて測定干渉信号Sを補正し(S05)、
補正後の測定干渉信号Sの反射ピークP100に基づいて、測定対象物100まで距離Lを算出する(S06)。
【0027】
(ステップS01:測定干渉信号の測定)
波長掃引光源11が波長掃引光を出射し、基準干渉計14において基準干渉信号を生成し、測定干渉計13において測定干渉信号Sを生成し、AD変換器16から測定干渉信号Sをデジタル信号に変換し出力する。データ処理部17は、AD変換器16からの出力値VをFFTする。これにより、図4に示すようなOFDRスペクトラムを取得する。
【0028】
(ステップS02:位相干渉信号の算出)
図7に示すように、データ処理部17は、OFDRスペクトラム上のLを挟む任意の近側領域と遠側領域を残して、それ以外の領域の値を0としたデータ(選択OFDRスペクトラム)を作成する。そして、選択OFDRスペクトラムを逆FFTする。これにより、ミラー35が観測された位相干渉信号が得られる。例えば、図8に示すように、横軸はAD変換器16でサンプリングされたデータ番号n(整数)、縦軸は出力値Vのデータが得られる。
【0029】
(ステップS03:位相変位量の算出)
次に、データ処理部17は、ミラー35が観測された位相干渉信号を逆FFTし、得られた値T(複素数)から位相Φを計算する。これにより、図9に示すような、データ番号nごとの位相Φを求めることができる。位相Φは、次式で表される。
Φ(t)=∠T=atan2(Im(n)、Re(n)) {C関数表記}
【0030】
図10に示すように、データ処理部17は、-πからπの各データ番号nの位相Φを接続して連続位相θを算出する。
【0031】
データ番号nをx軸、連続位相θをy軸としてプロットすると、図11に示すように、線形成分a×n+bが得られる。この線形成分と各プロットとの差分(位相変位量δP)を計算する。この位相変位量δPをデータ番号nに対してプロットすると、図12に示すような、距離Lでの位相変位量δPが得られる。これにより、波長掃引光源11の位相変位量δPを算出することができる。
【0032】
(ステップS04:測定対象物の位置での位相変位量)
波長掃引光源11の位相変位量δPの強度は、図13に示すように、距離に対して線形に変化する。そこで、基準干渉計14での遅延長L及びミラー35の既知の距離Lを用いて、測定対象物100の距離Lでの補正係数Kを以下の式で計算する。
=(L-L)/(L-L
【0033】
測定干渉計13と基準干渉計14との遅延ずれΔnは次式を用いて算出できる。
Δn=2(L-L)/c/t
ここでcは光速、tは基準干渉信号及び測定干渉信号Sを測定時のAD変換器16におけるサンプリング間隔の時間平均である。
【0034】
そこで、データ処理部17は、δPをK倍し、さらにデータ番号nをΔnずらすことで、測定対象物100の距離Lでの位相変位量δPLzを算出する。
δPLz(n)=K×δP(n+Δn)
これにより、図14に示すような、距離Lでの位相変位量δPLzを算出することができる。なお、このステップで用いる距離Lは反射ピークP100の存在するおよその距離であればよく、およそ±10m以内であれば本開示の作用・効果が得られる。
【0035】
(ステップS05:測定対象物の位置での測定干渉信号の補正)
データ処理部17は、ステップS04で算出した距離Lでの位相変位量δPLz図11に示す線形成分における係数a及びb、を用いて、距離Lでの連続位相θLzを算出する。距離Lでの連続位相θLzは、位相変位量δPLz、係数a及びb、を用いて、次式で求めることができる。
θLz=a×n+b+δPLz(n)
【0036】
図15に、距離Lでの連続位相θLzの一例を示す。データ処理部17は、図16に示すように、連続位相θLzを位相で等分割した場合のni番目のデータのサンプリング位置を算出する。例えば、n5番目のデータのサンプリング位置はn=5.4である。このように、サンプリング位置は、整数ではなく実数となる。
【0037】
ここで、分割数は予め定められた数であり、例えばAD変換器16で定められているサンプリング数Nと同じである。なお、本開示では、分割数Nに代えて、連続位相θLzを予め定められた位相間隔でサンプリングしてもよい。
【0038】
データ処理部17は、図17に示すように、ni番目のデータのサンプリング位置に対応する出力値Vを、図2に示すような測定干渉計13で得られた測定干渉信号Sから抽出する。例えば、図18に示すように、サンプリング位置がn=5.4である場合、データ処理部17は、データ番号n=5の測定干渉信号S(5)とデータ番号n=6の測定干渉信号S(6)を内挿し、データ番号n=5.4での測定干渉信号Sの出力値Vをn5番目の測定干渉信号Sのデータの値として算出する。これにより、等しい位相でサンプリングした場合の測定干渉信号Sの値で構成される、補正後の測定干渉信号SPNSを算出することができる。
【0039】
そして、データ処理部17は、算出された補正後の測定干渉信号SPNSをFFTする。この処理により、図19に示すように、位相変位成分の抑圧された距離LでのOFDRスペクトラムを得ることができる。
【0040】
図20に、距離LでのOFDRスペクトラムの一例を示す。図20(b)は距離L近傍を拡大したものである。測定対象物100による反射ピークの近傍に側帯波が出現し、測定対象物100による反射ピークの幅が広がっている。図21に、本実施形態を用いて得られた距離LでのOFDRスペクトラムの一例を示す。図21(b)は距離L近傍を拡大したものである。本実施形態では、図20に示すOFDRスペクトラムに比べて距離Lの反射ピークの側帯波を抑圧でき、幅広となったピーク形状を狭窄化できている。
【0041】
(ステップS06:測定対象物の位置の算出)
データ処理部17は、ステップS05で得られたOFDRスペクトラムを用いて、距離Lでのピーク位置を算出する。本実施形態では図21に示すように、距離Lでの位相変位成分を抑圧することができるため、距離Lでのピーク位置を高精度に特定することができる。したがって、本実施形態は、測定対象物までの距離精度を大幅に向上できる。
【0042】
なお、本実施形態では、L<Lの例を示したが、本開示はこれに限定されない。例えば、L<Lであっても、図12に示すような位相変位量δPを算出し、これを用いて距離Lでの位相変位量δPLzを算出することができる。
【0043】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では測定対象物100の距離Lが1つである例を示したが、測定対象物100の距離Lが2以上であってもよい。例えば、図22(a)に示すように、距離Lz1及びLz2にピークが存在する場合、図6に示すステップS04からS06を、距離Lz1及びLz2ごとに行う。これにより、図22(b)及び図22(c)に示すように、ステップS03で算出した位相変位量δPに相当する位相変位成分を、距離Lz1及びLz2ごとに抑圧することができる。
【0044】
(第4の実施形態)
図12に示すような位相変位量δPは、約±10mの範囲でほぼ一定である。そこで、距離Lz1及びLz2の間の距離が20m以内の場合、ステップS04において、データ処理部17は、図23に示すように、距離Lz1及びLz2の中間点に距離Lを設定してもよい。これにより、ステップS04からS06の処理を1回行うだけで、複数の距離に位置する反射ピークの位相変位成分を抑圧することができる。
【0045】
(第5の実施形態)
上述の実施形態では測定対象100での反射ピークが1又は複数である例を示したが、測定対象100は光ファイバであってもよい。この場合、光ファイバでの反射ピークが光ファイバの長手方向に分布する。
【0046】
図12に示すような位相変位量δPは、約±10mの範囲で広がる。そこで、データ処理部17は、図24に示すように、距離Lの10m先に距離Lz1を設定し、距離Lz1から20m毎に距離Lzjを設定する。これにより、各距離Lzjを中心とする±10mの範囲での位相変位成分を抑圧することができ、これによって光ファイバの長手方向での位相変動成分を抑圧することができる。
【0047】
(第6の実施形態)
図25に、本実施形態のOFDRシステムの一例を示す。本実施形態のOFDRシステムでは、測定干渉計13に備わるカプラ31C及びミラー35に代えて、位相検出干渉計15を備える。これにより、本実施形態では、測定干渉信号Sと、位相干渉信号を、ハードウェアリニアライズ法で同時サンプリングする。
【0048】
位相検出干渉計15の構成は任意であるが、例えば、波長掃引光をカプラ51で分岐し、分岐光を異なるミラー52A及び52Bで反射し、カプラ51で合波し、受光器53で合波光を受光する。これにより、受光器53が、カプラ51からミラー52Aまでの距離とカプラ51からミラー52Bまでの距離との遅延長Lに対応する位相干渉信号を出力する。
【0049】
本実施形態では、基準干渉信号をAD変換器16のクロックに入力し、位相干渉信号をAD変換器16の第1測定チャンネルに入力し、測定干渉信号をAD変換器16の第2測定チャンネルに入力する。
【0050】
図26に、AD変換器16からの出力信号の一例を示す。図26(a)は測定干渉信号Sを示し、図26(b)は位相干渉信号を示す。図26(b)に示す位相干渉信号は、第2の実施形態においてミラー35を用いて算出した位相干渉信号(図8)に相当する。
【0051】
本実施形態では、図8に示す位相干渉信号がAD変換器16から出力されるため、第2の実施形態におけるステップS02を省略することができる。また、LとLが近接していても位相変位量を測定することができる。
【0052】
なお、ステップS03におけるデータ番号nごとの位相Φの算出において、データ処理部17は、ヒルベルト変換を用いて位相干渉信号の位相Φを算出してもよい。
【0053】
本発明のデータ処理部17はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。本開示のプログラムは、本開示に係るデータ処理部17に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係るデータ処理部17が実行する方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【符号の説明】
【0054】
11:波長掃引光源
12:カプラ
13:測定干渉計
14:基準干渉計
15:位相検出干渉計
16:AD変換器
17:データ処理部
31A、31B:カプラ
32:光ファイバの端面
33:コリメータレンズ
34:受光器
35:ミラー
41:カプラ
42A、42B:ミラー
43:受光器
51:カプラ
52A、52B:ミラー
53:受光器
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