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  • 特開-リパーゼ変異体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044062
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】リパーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20240326BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240326BHJP
   C12N 9/20 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149382
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 貴大
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050EE10
4B065AA01Y
4B065AA15X
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA31
4B065CA60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】異種発現性が向上したリパーゼ変異体の提供。
【解決手段】親リパーゼのアミノ酸配列に対して、ある特定のアミノ酸配列を基準とした番号付けでの所定位置におけるアミノ酸残基が所定のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなる、リパーゼ変異体。前記親リパーゼは、Proteus属細菌やYersinia属細菌に由来するリパーゼを含む同一のクレード(Proteus/Yersiniaクレード)に属するリパーゼであってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(v)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体:
(a)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置にアスパラギン酸を有するリパーゼ変異体;
(b)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にチロシンを有するリパーゼ変異体;
(c)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にグリシンを有するリパーゼ変異体;
(d)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にシステインを有するリパーゼ変異体;
(e)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にロイシンを有するリパーゼ変異体;
(f)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置にアラニン、スレオニン、ヒスチジン又はグリシンを有するリパーゼ変異体;
(g)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置にリジンを有するリパーゼ変異体;
(h)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置にスレオニンを有するリパーゼ変異体;
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置にプロリンを有するリパーゼ変異体;
(j)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置にグリシンを有するリパーゼ変異体;
(k)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にチロシンを有するリパーゼ変異体;
(l)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にチロシンを有するリパーゼ変異体;
(m)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にグリシンを有するリパーゼ変異体;
(n)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置にグリシンを有するリパーゼ変異体;
(o)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置にグルタミンを有するリパーゼ変異体;
(p)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にチロシンを有するリパーゼ変異体;
(q)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にグリシンを有するリパーゼ変異体;
(r)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置にリジンを有するリパーゼ変異体;
(s)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にロイシンを有するリパーゼ変異体;
(t)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にシステインを有するリパーゼ変異体;
(u)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にロイシンを有するリパーゼ変異体;
(v)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にチロシンを有するリパーゼ変異体。
【請求項2】
下記(aa)~(ae)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体:
(aa)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、90位に相当する位置におけるシステイン、及び181位に相当する位置におけるロイシンから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ab)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるリジン、125位に相当する位置におけるスレオニン、126位に相当する位置におけるプロリン、及び293位に相当する位置におけるグリシンから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ac)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるチロシン、31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、及び186位に相当する位置におけるグリンから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ad)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、77位に相当する位置におけるリジン、及び181位に相当する位置におけるロイシンから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ae)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるシステイン及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体。
【請求項3】
上記(a)、(c)~(g)、(i)~(k)、(n)、(o)、(r)及び(t)~(v)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体である、請求項1に記載のリパーゼ変異体。
【請求項4】
下記(aa-1)~(ae)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体である、請求項2に記載のリパーゼ変異体:
(aa-1)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン及び32位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(aa-2)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるシステイン及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体;
(aa-3)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置におけるグリシン及び90位に相当する位置におけるシステインを有するリパーゼ変異体;
(aa-4)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、90位に相当する位置におけるシステイン、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ab-1)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置におけるスレオニン及び126位に相当する位置におけるプロリンを有するリパーゼ変異体;
(ab-2)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるリジン及び293位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ab-3)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置におけるスレオニン、126位に相当する位置におけるプロリン、及び293位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ab-4)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるリジン、125位に相当する位置におけるスレオニン、及び126位に相当する位置におけるプロリンを有するリパーゼ変異体;
(ab-5)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるリジン、126位に相当する位置におけるプロリン、及び293位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ab-6)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるリジン、125位に相当する位置におけるスレオニン、126位に相当する位置におけるプロリン、及び293位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ac-1)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるチロシン及び186位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ac-2)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるチロシン、31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、及び186位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ad-1)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン及び32位に相当する位置におけるグリシンを有するリパーゼ変異体;
(ad-2)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置におけるリジン及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体;
(ad-3)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体;
(ad-4)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるチロシン、32位に相当する位置におけるグリシン、77位に相当する位置におけるリジン、及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体;
(ae)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるシステイン及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリパーゼ変異体を含有する、酵素組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
【請求項8】
請求項7に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
【請求項9】
微生物である、請求項8に記載の形質転換細胞。
【請求項10】
大腸菌又はバチルス属細菌である、請求項9記載の形質転換細胞。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の形質転換細胞を培養する工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法。
【請求項12】
下記(i)~(xxii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法:
(i)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置のアミノ酸残基をアスパラギン酸に置換する工程;
(ii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をシステインに置換する工程;
(v)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程;
(vi)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置のアミノ酸残基をアラニン、スレオニン、ヒスチジン又はグリシンに置換する工程;
(vii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をリジンに置換する工程;
(viii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基をスレオニンに置換する工程;
(ix)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のアミノ酸残基をプロリンに置換する工程;
(x)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xi)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(xii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(xiii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xiv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xv)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置のアミノ酸残基をグルタミンに置換する工程;
(xvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(xvii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xviii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基をリジンに置換する工程;
(xix)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程;
(xx)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をシステインに置換する工程;
(xxi)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程;
(xxii)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程。
【請求項13】
下記(xxiii)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法:
(xxiii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではチロシン、32位に相当する位置ではグリシン、90位に相当する位置ではシステイン、及び181位に相当する位置ではロイシンに置換する工程;
(xxiv)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を39位に相当する位置ではリジン、125位に相当する位置ではスレオニン、126位に相当する位置ではプロリン、及び293位に相当する位置ではグリシンに置換する工程;
(xxv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を29位に相当する位置ではチロシン、31位に相当する位置ではチロシン、32位に相当する位置ではグリシン、及び186位に相当する位置ではグリシンに置換する工程;
(xxvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではチロシン、32位に相当する位置ではグリシン、77位に相当する位置ではリジン、及び181位に相当する位置ではロイシンに置換する工程;
(xxvii)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をシステインに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程。
【請求項14】
下記(i)~(xxii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼの異種発現性の向上方法:
(i)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置のアミノ酸残基をアスパラギン酸に置換する工程;
(ii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をシステインに置換する工程;
(v)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程;
(vi)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置のアミノ酸残基をアラニン、スレオニン、ヒスチジン又はグリシンに置換する工程;
(vii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をリジンに置換する工程;
(viii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基をスレオニンに置換する工程;
(ix)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のアミノ酸残基をプロリンに置換する工程;
(x)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xi)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(xii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(xiii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xiv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xv)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置のアミノ酸残基をグルタミンに置換する工程;
(xvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程;
(xvii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をグリシンに置換する工程;
(xviii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基をリジンに置換する工程;
(xix)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程;
(xx)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をシステインに置換する工程;
(xxi)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程;
(xxii)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をチロシンに置換する工程。
【請求項15】
下記(xxiii)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼの異種発現性の向上方法:
(xxiii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではチロシン、32位に相当する位置ではグリシン、90位に相当する位置ではシステイン、及び181位に相当する位置ではロイシンに置換する工程;
(xxiv)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を39位に相当する位置ではリジン、125位に相当する位置ではスレオニン、126位に相当する位置ではプロリン、及び293位に相当する位置ではグリシンに置換する工程;
(xxv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を29位に相当する位置ではチロシン、31位に相当する位置ではチロシン、32位に相当する位置ではグリシン、及び186位に相当する位置ではグリシンに置換する工程;
(xxvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではチロシン、32位に相当する位置ではグリシン、77位に相当する位置ではリジン、及び181位に相当する位置ではロイシンに置換する工程;
(xxvii)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をシステインに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をロイシンに置換する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リパーゼ変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、脂質中のエステル結合を加水分解して脂肪酸を生成することによって油を含む汚れの除去に寄与し、洗浄用途において有用である。洗浄に有用なリパーゼとして、Thermomyces lanuginosus由来のリパーゼ(以下TLL)がLIPOLASE(登録商標)の商品名で販売されている。特許文献1にはCedecea sp-16640株由来のリパーゼLipr139がTLLと比較して優れた洗浄性能を有することが開示されている。特許文献2には、1つ又は複数の参照脂肪分解酵素と比較した場合に改善された洗浄性能を有するProteus属細菌由来リパーゼ(以下PvLip)の変異体が開示されている。特許文献3にはメタゲノム由来のリパーゼLipr138がTLLと比較して優れた洗浄性能を有することが開示されている。Lipr139、PvLip及びLipr138はProteus属細菌やYersinia属細菌に由来するリパーゼを含む同一のクレード(Proteus/Yersiniaクレード)に属するリパーゼである。
【0003】
グラム陰性菌由来のリパーゼの多くは、活性型への折りたたみにリパーゼ特異的シャペロンを必要とし(非特許文献1)、異種発現による安価製造に課題を有する。特異的シャペロンの共発現によって異種発現が改善することが報告されている(非特許文献2)が、その生産性は低く、異種発現による安価製造には依然として大きな課題がある。一方、Proteus/Yersiniaクレードのバクテリアリパーゼは特異的シャペロンを必要とせず、異種発現による安価製造において優位性を持つ(非特許文献3、4)。
以上のように、Proteus/Yersiniaクレードのバクテリアリパーゼは洗浄への適性と安価製造可能性の両者において、洗浄用酵素として優れたポテンシャルを有する。
【0004】
リパーゼは、エステル加水分解反応以外にも、エステル合成反応、エステル交換反応、アシドリシスなど様々な反応を触媒する。この反応性を利用して、洗浄、光学分割、バイオ燃料製造、油脂加工、廃水処理、パルプ製造、レザー製造など様々な用途でリパーゼが利用されている。非特許文献5及び6にはLipC12(Lipr138と同配列)のエステル合成用途における優れた性能が示されており、Proteus/Yersiniaクレードのバクテリアリパーゼは洗浄に限らず多様な産業用途における有用性が期待される。
【0005】
アシルグリセロール中のエステル結合の位置特異性、脂肪酸鎖長特異性、光学分割におけるエナンチオ選択性といった基質特異性はリパーゼ種によって大きく異なる。近縁配列のリパーゼ間でもこれらの基質特異性には違いが見られ、最適な反応を行うためには反応系ごとにリパーゼのスクリーニングを行う必要がある。そのため、産業上利用できるリパーゼの配列多様性を広げることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2015-523078号公報
【特許文献2】国際公開公報第2020/046613号
【特許文献3】特表2015-525248号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hobson, Audrey H., et al. Proceedings of the National Academy of Sciences 90.12 (1993): 5682-5686.
【非特許文献2】Quyen, ThiDinh, ChiHai Vu, and GiangThi Thu Le. Microbial cell factories 11.1 (2012): 1-12.
【非特許文献3】Lee, Hong-Weon, et al. Biotechnology letters 22.19 (2000): 1543-1547.
【非特許文献4】Glogauer, Arnaldo, et al. Microbial cell factories 10.1 (2011): 1-15.
【非特許文献5】Madalozzo, Aline Dutra, et al. Journal of molecular catalysis b: enzymatic 116 (2015): 45-51.
【非特許文献6】Madalozzo, Aline Dutra, et al. Biocatalysis and Agricultural Biotechnology 8 (2016): 294-300.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、タンパク質の進化を表す有根系統樹上でProteus属細菌及びYersinia属細菌に由来するリパーゼを含むProteus/Yersiniaクレードに属する多様な16種のリパーゼについて、枯草菌における異種発現性を評価したところ、Proteus/Yersiniaクレードのリパーゼは異種発現にて優位性を持つとの報告があるにもかかわらず、明確な発現が確認できたのは3種のみであり、Proteus/Yersiniaクレードのリパーゼにおいて異種発現可能な配列の多様性が実際には小さいという課題を初めて見出した。よって、本発明は、異種発現性が向上したリパーゼ変異体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、斯かる課題に鑑み鋭意検討した結果、上記16種のうちの8種のリパーゼ及びこれらに近縁の1種のリパーゼを用い、リパーゼの異種発現性を向上させる変異を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記1)~11)に係るものである。
1)下記(a)~(v)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体:
(a)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置にDを有するリパーゼ変異体;
(b)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(c)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(d)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にCを有するリパーゼ変異体;
(e)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(f)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置にA、T、H又はGを有するリパーゼ変異体;
(g)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置にKを有するリパーゼ変異体;
(h)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置にTを有するリパーゼ変異体;
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置にPを有するリパーゼ変異体;
(j)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(k)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(l)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(m)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(n)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(o)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置にQを有するリパーゼ変異体;
(p)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(q)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(r)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置にKを有するリパーゼ変異体;
(s)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(t)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にCを有するリパーゼ変異体;
(u)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(v)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体。
2)下記(aa)~(ae)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体:
(aa)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、90位に相当する位置におけるC、及び181位に相当する位置におけるLから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ab)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ac)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY、31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び186位に相当する位置におけるGから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ad)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、77位に相当する位置におけるK、及び181位に相当する位置におけるLから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ae)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるC及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体。
3)1)又は2)に記載のリパーゼ変異体を含有する、酵素組成物。
4)1)又は2)に記載のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
5)4)に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
6)5)に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
7)6)に記載の形質転換細胞を培養する工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法。
8)下記(i)~(xxii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法:
(i)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置のアミノ酸残基をDに置換する工程;
(ii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換する工程;
(v)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(vi)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置のアミノ酸残基をA、T、H又はGに置換する工程;
(vii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換する工程;
(viii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基をTに置換する工程;
(ix)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換する工程;
(x)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xi)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(xii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(xiii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xiv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xv)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置のアミノ酸残基をQに置換する工程;
(xvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(xvii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xviii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換する工程;
(xix)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xx)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換する工程;
(xxi)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxii)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程。
9)下記(xxiii)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法:
(xxiii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、90位に相当する位置ではC、及び181位に相当する位置ではLに置換する工程;
(xxiv)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を39位に相当する位置ではK、125位に相当する位置ではT、126位に相当する位置ではP、及び293位に相当する位置ではGに置換する工程;
(xxv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を29位に相当する位置ではY、31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、及び186位に相当する位置ではGに置換する工程;
(xxvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、77位に相当する位置ではK、及び181位に相当する位置ではLに置換する工程;
(xxvii)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程。
10)上記(i)~(xxii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼの異種発現性の向上方法。
11)上記(xxiii)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼの異種発現性の向上方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリパーゼ変異体は、親リパーゼと比べて異種発現性が向上している。斯かるリパーゼ変異体は、異種発現による安価製造が可能であり、洗浄用途だけでなく、光学分割、バイオ燃料製造、油脂加工、廃水処理、パルプ製造、レザー製造などの産業用途全般に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】各リパーゼのエステラーゼ活性。pHY300PLKはリパーゼをコードしていない空ベクターの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0014】
本明細書において、「リパーゼ」とは、トリアシルグリセロールリパーゼ(EC3.1.1.3)を指し、脂質中のエステル結合を加水分解して脂肪酸を生成する活性を有する酵素群を意味する。リパーゼ活性は、典型的にはエステラーゼ活性であり、オクタン酸4-ニトロフェニルの加水分解による4-ニトロフェノールの遊離に伴う吸光度の増加速度を測定することによって決定することができる。リパーゼ活性の測定の具体的手順は、後述の実施例に詳述されている。
【0015】
本明細書において、「Proteus/Yersiniaクレード」とは、タンパク質の進化を表す有根系統樹上でProteus属細菌及びYersinia属細菌に由来するリパーゼを含むクレードを指し、例えば、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30及び32のアミノ酸配列は、いずれもProteus/Yersiniaクレードに属するリパーゼのアミノ酸配列である。
【0016】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0017】
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列に関する「少なくとも80%の同一性」とは、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上、さらに好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。「少なくとも81%の同一性」とは、81%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上、さらに好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。「少なくとも83%の同一性」とは、83%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上、さらに好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。「少なくとも91%の同一性」とは、91%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。「少なくとも94%の同一性」とは、94%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。「少なくとも97%の同一性」とは、97%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。
【0018】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2及びClustal omegaは、例えば、University College Dublinが運営するClustalのウェブサイト[www.clustal.org]、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。
【0019】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとスレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0021】
本明細書において、アミノ酸の位置及び変異体の記載は、公認されているIUPACの1文字のアミノ酸略記を用いて、以下のように表記される。
所定位置のアミノ酸は、[アミノ酸、位置]で表記される。例えば位置31のフェニルアラニンは、「F31」と示される。
アミノ酸の「置換」に関しては、[元のアミノ酸、位置、置換されたアミノ酸]で表記される。例えば位置31のフェニルアラニンのチロシンへの置換は、「F31Y」と示される。
1つの位置で異なる改変を導入可能である場合、異なる改変はスラッシュ(「/」)によって分けられ、例えば、「I222A/T/H/G」は、位置222のイソロイシンのアラニン、スレオニン、ヒスチジン又はグリシンへの置換を表す。
【0022】
本明細書において、プロモーターなどの制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0023】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0024】
本明細書において、所与の変異ポリペプチドの「親」ポリペプチドとは、そのアミノ酸残基に所定の変異がなされることにより、当該変異ポリペプチドとなるポリペプチドをいう。言い換えると、「親」ポリペプチドとは、変異ポリペプチドに当該変異が加えられる前のポリペプチドである。斯かる親ポリペプチドは、天然(野生型)ポリペプチド又はその変異体であり得る。
【0025】
<1.リパーゼ変異体及びその製造方法>
本発明は、異種発現性が向上したリパーゼ変異体、及びその製造方法を提供する。
【0026】
一態様において、本発明は、リパーゼ変異体の製造方法を提供する。当該本発明の方法は、親リパーゼにおいて、配列番号2を基準とした番号付けでの所定位置におけるアミノ酸残基を所定のアミノ酸残基に置換することを含む。
【0027】
本発明のリパーゼ変異体の親リパーゼの一例としては、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号2のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Serratia sp.由来のリパーゼSspLip(NCBI Accession No.WP_025122441.1)である。配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置にEを有するものが好ましい。
【0028】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置のアミノ酸残基がDに置換される。
【0029】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置のEがDに置換される。
【0030】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80、91又は94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号4のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Pseudomonas frederiksbergensis由来のリパーゼPfLip(NCBI Accession No.WP_123598507.1)である。配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にFを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にEを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にAを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にVを有するものが好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の31位及び32に相当する位置にそれぞれF及びEを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の90位及び181位に相当する位置にそれぞれA及びVを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の32位及び90位に相当する位置にそれぞれE及びAを有するものがより好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置にそれぞれF、E、A及びVを有するものがさらに好ましい。
【0031】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基がYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基がCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基がLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)の位置のアミノ酸残基が31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、90位に相当する位置ではC、及び181位に相当する位置ではLに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基がCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基がLに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位及び32位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の90位及び181位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれC及びLに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位及び90位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれG及びCに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY、G、C及びLに置換される。
【0032】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のFがYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のEがGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のAがCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のVがLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のF、32位に相当する位置のE、90位に相当する位置のA及び181位に相当する位置のVから選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)のアミノ酸残基が31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、90位に相当する位置ではC及び181位に相当する位置ではLに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のEがGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のAがCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のVがLに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位及び32位に相当する位置のF及びEがそれぞれY及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の90位及び181位に相当する位置のA及びVがそれぞれC及びLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の32位及び90位に相当する位置のE及びAがそれぞれG及びCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置のF、E、A及びVがそれぞれY、G、C及びLに置換される。
【0033】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号6のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Enterobacillus tribolii由来のリパーゼEtLip(NCBI Accession No.WP_115457195.1)である。配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置にIを有するものが好ましい。
【0034】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置のアミノ酸残基がA、T、H又はGに置換される。
【0035】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置のIがA、T、H又はGに置換される。
【0036】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号8のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Yersinia entomophaga由来のリパーゼYeLip(NCBI Accession No.WP_064517898.1)である。配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置にVを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置にVを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置にEを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置にSを有するものが好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の125位及び126位に相当する位置にそれぞれV及びEを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の39位及び293位に相当する位置にそれぞれV及びSを有するものがより好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の125位、126位及び293位に相当する位置にそれぞれV、E及びSを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位及び126位に相当する位置にそれぞれV、V及びEを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の39位、126位及び293位に相当する位置にそれぞれV、E及びSを有するものがさらに好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置にそれぞれV、V、E及びSを有するものがさらに好ましい。
【0037】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基がKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基がTに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のアミノ酸残基がPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置から選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)の位置のアミノ酸残基が39位に相当する位置ではK、125位に相当する位置ではT、126位に相当する位置ではP、及び293位に相当する位置ではGに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基がKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のアミノ酸残基がPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の125位及び126位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれT及びPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の39位及び293位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれK及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の125位、126位及び293位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれT、P及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位及び126位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれK、T及びPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の39位、126位及び293位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれK、P及びGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれK、T、P及びGに置換される。
【0038】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のVがKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のVがTに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のEがPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のSがGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のV、125位に相当する位置のV、126位に相当する位置のE及び293位に相当する位置のSから選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)のアミノ酸残基が39位に相当する位置ではK、125位に相当する位置ではT、126位に相当する位置ではP及び293位に相当する位置ではGに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のVがKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のEがPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のSがGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の125位及び126位に相当する位置のV及びEがそれぞれT及びPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の39位及び293位に相当する位置のV及びSがそれぞれK及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の125位、126位及び293位に相当する位置のV、E及びSがそれぞれT、P及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位及び126位に相当する位置のV、V及びEがそれぞれK、T及びPに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の39位、126位及び293位に相当する位置のV、E及びSがそれぞれK、P及びGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置のV、V、E及びSがそれぞれK、T、P及びGに置換される。
【0039】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号10のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Arsenophonus nasoniae由来のリパーゼAnLip(NCBI Accession No.WP_026822497.1)である。配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にCを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にFを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にAを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置にRを有するものが好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の29位及び186位に相当する位置にそれぞれC及びRを有するものがより好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置にそれぞれC、F、A及びRを有するものがさらに好ましい。
【0040】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基がYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基がYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置から選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)の位置のアミノ酸残基が29位に相当する位置ではY、31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、及び186位に相当する位置ではGに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基がYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の29位及び186位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY及びGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY、Y、G及びGに置換される。
【0041】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のCがYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のFがYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のAがGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のRがGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のC、31位に相当する位置のF、32位に相当する位置のA及び186位に相当する位置のRから選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)のアミノ酸残基が29位に相当する位置ではY、31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG及び186位に相当する位置ではGに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のCがYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のRがGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の29位及び186位に相当する位置のC及びRがそれぞれY及びGに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置のC、F、A及びRがそれぞれY、Y、G及びGに置換される。
【0042】
本発明のリパーゼ変異体の親リパーゼの一例としては、配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号12のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Yersinia frederiksenii由来のリパーゼYfLip(NCBI Accession No.WP_145530745.1)である。配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置にGを有するものが好ましい。
【0043】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置のアミノ酸残基がQに置換される。
【0044】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置のGがQに置換される。
【0045】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80、83又は97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号14のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Pseudomonas sp.由来のリパーゼPspLip(NCBI Accession No.WP_056840927.1)である。配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にFを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にDを有するもの、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置にRを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にMを有するものが好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の31位及び32位に相当する位置にそれぞれF及びDを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の77位及び181位に相当する位置にそれぞれR及びMを有するものがより好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位及び181位に相当する位置にそれぞれF、D及びMを有するものがさらに好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置にそれぞれF、D、R及びMを有するものがさらに好ましい。
【0046】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基がYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基がGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基がKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基がLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)の位置のアミノ酸残基が31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、77位に相当する位置ではK及び181位に相当する位置ではLに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基がKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位及び32位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の77位及び181位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれK及びLに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位及び181位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY、G及びLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれY、G、K及びLに置換される。
【0047】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のFがYに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のDがGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のRがKに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のMがLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のF、32位に相当する位置のD、77位に相当する位置のR及び181位に相当する位置のMから選択される少なくとも2つ(好ましくは3つ、より好ましくは4つ)のアミノ酸残基が31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、77位に相当する位置ではK及び181位に相当する位置ではLに置換される。より好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のRがKに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位及び32位に相当する位置のF及びDがそれぞれY及びGに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の77位及び181位に相当する位置のR及びMがそれぞれK及びLに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位及び181位に相当する位置のF、D及びMがそれぞれY、G及びLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置のF、D、R及びMがそれぞれY、G、K及びLに置換される。
【0048】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80又は81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号16のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Pseudomonas sp.由来のリパーゼPspLip2(NCBI Accession No.WP_088424928.1)である。配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にAを有するもの、又は配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にVを有するものが好ましく、配列番号2のアミノ酸配列の90位及び181位に相当する位置にそれぞれA及びVを有するものがより好ましい。
【0049】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基がCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基がLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の90位及び181位に相当する位置のアミノ酸残基がそれぞれC及びLに置換される。
【0050】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、好ましくは、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のAがCに置換されるか、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のVがLに置換されるか、又は配列番号2のアミノ酸配列の90位及び181位に相当する位置のA及びVがそれぞれC及びLに置換される。
【0051】
親リパーゼの別の一例としては、配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。ここで、配列番号16のアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドは、Pseudomonas abietaniphila由来のリパーゼPaLip(NCBI Accession No.WP_062381422.1)である。配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドである親リパーゼは、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にMを有するものが好ましい。
【0052】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基がYに置換される。
【0053】
該親リパーゼから本発明のリパーゼ変異体を製造する場合、より具体的には、該親リパーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のMがYに置換される。
【0054】
本発明はまた、リパーゼ変異体を提供する。本発明のリパーゼ変異体は、親リパーゼのアミノ酸配列に対して、配列番号2を基準とした番号付けでの所定位置におけるアミノ酸残基が所定のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列からなる、リパーゼ活性を有するポリペプチドである。
【0055】
本発明のリパーゼ変異体は、具体的には、下記(a)~(v)及び(aa)~(ae)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体である。
(a)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置にDを有するリパーゼ変異体;
(b)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(c)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(d)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にCを有するリパーゼ変異体;
(e)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(f)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置にA、T、H又はGを有するリパーゼ変異体;
(g)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置にKを有するリパーゼ変異体;
(h)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置にTを有するリパーゼ変異体;
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置にPを有するリパーゼ変異体;
(j)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(k)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(l)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(m)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(n)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(o)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置にQを有するリパーゼ変異体;
(p)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(q)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(r)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置にKを有するリパーゼ変異体;
(s)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(t)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にCを有するリパーゼ変異体;
(u)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(v)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(aa)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、90位に相当する位置におけるC、及び181位に相当する位置におけるLから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ab)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ac)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY、31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び186位に相当する位置におけるGから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ad)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、77位に相当する位置におけるK、及び181位に相当する位置におけるLから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ae)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるC及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体。
【0056】
リパーゼ変異体(a)~(v)のうち、好ましいリパーゼ変異体は、リパーゼ変異体(a)、(c)~(g)、(i)~(k)、(n)、(o)、(r)及び(t)~(v)である。
【0057】
リパーゼ変異体(aa)は、好ましくは下記リパーゼ変異体(aa-1)~(aa-4)であり、リパーゼ変異体(ab)は、好ましくは下記リパーゼ変異体(ab-1)~(ab-6)であり、リパーゼ変異体(ac)は、好ましくは下記リパーゼ変異体(ac-1)~(ac-2)であり、リパーゼ変異体(ad)は、好ましくは下記リパーゼ変異体(ad-1)~(ad-4)である。
(aa-1)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY及び32位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(aa-2)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるC及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(aa-3)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置におけるG及び90位に相当する位置におけるCを有するリパーゼ変異体;
(aa-4)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、90位に相当する位置におけるC、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ab-1)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置におけるT及び126位に相当する位置におけるPを有するリパーゼ変異体;
(ab-2)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ab-3)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ab-4)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、及び126位に相当する位置におけるPを有するリパーゼ変異体;
(ab-5)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ab-6)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ac-1)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY及び186位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ac-2)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY、31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び186位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ad-1)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY及び32位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ad-2)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置におけるK及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ad-3)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ad-4)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、77位に相当する位置におけるK、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体。
【0058】
上述の所定位置のアミノ酸残基の置換は、リパーゼの異種発現性を向上させるための置換であり、したがって、本発明のリパーゼ変異体は、親リパーゼ、すなわち所定位置のアミノ酸残基の置換前のリパーゼと比して、異種における発現性が向上している。
【0059】
本発明のリパーゼ変異体において、アミノ酸残基の置換部位(変異位置)は、配列番号2を基準とした番号付けで示される。下記表1に、各親リパーゼについて、アミノ酸残基の置換部位を、該各親リパーゼのアミノ酸配列を基準とした番号付けと配列番号2のアミノ酸配列を基準とした番号付けとで示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるアミノ酸残基のYへの置換は、配列番号10又は34と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドを親リパーゼとする場合に共通する置換である。配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるアミノ酸残基のYへの置換は、配列番号4、10又は14と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドを親リパーゼとする場合に共通する置換である。配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置におけるアミノ酸残基のGへの置換は、配列番号4、10又は14と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドを親リパーゼとする場合に共通する置換である。配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるアミノ酸残基のCへの置換は、配列番号4又は16と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドを親リパーゼとする場合に共通する置換である。配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置におけるアミノ酸残基のLへの置換は、配列番号4、14又は16と少なくとも上記所定の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドを親リパーゼとする場合に共通する置換である。
【0062】
本発明のリパーゼ変異体は、上記所定位置における変異に加えて、その異種発現性を妨げない限り、親リパーゼに対して他の任意の位置における変異(例えば、欠失、置換、付加、挿入)を有するものであってもよい。当該変異は、天然に生じたものであっても、人工的に導入したものであってもよい。
【0063】
<2.本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド>
本発明のリパーゼ変異体は、当技術分野で公知の各種の変異導入技術を使用して製造することができる。例えば、その基準アミノ酸配列をコードする親リパーゼ遺伝子(基準リパーゼ遺伝子)内の置換対象のアミノ酸残基をコードするポリヌクレオチドを、置換後のアミノ酸残基をコードするポリヌクレオチドに変異させ、更にその変異遺伝子から変異体を発現させることにより、製造することができる。
【0064】
本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドは、一本鎖若しくは二本鎖DNA、RNA、又は人工核酸の形態であり得、あるいはcDNA、又はイントロンを含まない化学合成DNAであり得る。
【0065】
本発明において、親リパーゼのアミノ酸残基を変異させる手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、親リパーゼのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(以下、親遺伝子ともいう)において、変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させることにより、本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0066】
親遺伝子への目的の変異の導入は、基本的には、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法などの任意の手法により行うことができる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、Stratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等)を使用することもできる。
【0067】
親遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異用プライマーを用いて行うことができる。該変異用プライマーは、親遺伝子における変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。変異前及び変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。あるいは、部位特異的変異導入は、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つのプライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene,1989,77(1):p61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。
【0068】
親遺伝子を含む鋳型DNAは、上述したリパーゼを産生する微生物から、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、親リパーゼのアミノ酸配列に基づいて、対応するヌクレオチド配列を化学合成して鋳型DNAとして用いてもよい。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16及び34で示されるアミノ酸配列からなるリパーゼをコードする塩基配列を含むDNA配列をそれぞれ配列番号1、3、5、7、9、11、13、15及び33に示した。
【0069】
変異用プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids R4esearch,1989,17:7059-7071)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。該変異用プライマーを含むプライマーセットを使用し、親遺伝子を鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異を有する本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0070】
当該本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドは、一本鎖又は2本鎖のDNA、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは、化学合成されていてもよい。また当該ポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。また当該ポリヌクレオチドは、本発明の変異ポリペプチド産生用の形質転換体の種にあわせて、コドン至適化されていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
【0071】
<3.ベクター又はDNA断片>
得られた本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドはベクターに組み込むことができる。当該ポリヌクレオチドを含有するベクターの種類としては、特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクターなどの任意のベクターであってよい。また該ベクターは、限定ではないが、好ましくは、細菌内、好ましくはバチルス属細菌(例えば枯草菌又はその変異株)内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターである。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、本発明のパーゼ変異体を組換え生産する上で好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)などのシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)などのバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミドベクター、などが挙げられる。また大腸菌由来のプラスミドベクター(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescriptなど)を用いることもできる。
【0072】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、上記ベクターにおいては、本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド(すなわちリパーゼ変異体遺伝子)の上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域、又は発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させるための分泌シグナル領域などの制御配列が作動可能に連結されていてもよい。
【0073】
上記プロモーター領域、ターミネーター領域、分泌シグナル領域などの制御配列の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。例えば、ベクターに組み込むことができる制御配列の好適な例としては、Bacllus sp.KSM-S237株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター、分泌シグナル配列などが挙げられる。
【0074】
あるいは、上記本発明のベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。このような代謝関連遺伝子の例としては、アセトアミドを窒素源として利用するためのアセトアミダーゼ遺伝子が挙げられる。
【0075】
上記本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドと、制御配列及びマーカー遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,77:61-68)などの当該分野で公知の方法によって行うことができる。連結した断片のベクターへの導入手順は、当該分野で周知である。
【0076】
<4.形質転換細胞>
本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主へ導入するか、又は本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含むDNA断片を宿主のゲノムに導入することにより、本発明の形質転換細胞を得ることができる。
【0077】
宿主細胞としては、細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌が好ましく、バチルス属細菌がより好ましく、枯草菌(例えば、枯草菌Bacillus subtilis Marburg No.168(枯草菌168株)又はその変異株)がさらに好ましい。枯草菌変異株の例としては、J.Biosci.Bioeng.,2007,104(2):135-143に記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX、ならびにBiotechnol.Lett.,2011,33(9):1847-1852に記載の、プロテアーゼ8重欠損株にタンパク質のフォールディング効率を向上させたD8PA株を挙げることができる。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rizhopus)などが挙げられる。
【0078】
宿主へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換体を得ることができる。
【0079】
あるいは、本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド、制御配列及びマーカー遺伝子を連結した断片を、宿主のゲノムに直接導入することもできる。例えば、SOE-PCR法などにより、上記連結断片の両端に宿主のゲノムと相補的な配列を付加したDNA断片を構築し、これを宿主に導入して、宿主ゲノムと該DNA断片との間に相同組換えを起こさせることによって、本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドが宿主のゲノムに導入される。
【0080】
斯くして得られた、本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入された形質転換体を適切な培地で培養すれば、該ベクター上のタンパク質をコードする遺伝子が発現して本発明のリパーゼ変異体が生成される。当該形質転換体の培養に使用する培地は、当該形質転換体の微生物の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。
【0081】
あるいは、本発明のリパーゼ変異体は、無細胞翻訳系を使用して本発明のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸などの試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0082】
上記培養物又は無細胞翻訳系にて生成された本発明のリパーゼ変異体は、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。培養物から回収されたタンパク質は、公知の手段でさらに精製されてもよい。
【0083】
<5.リパーゼの異種発現性の向上方法>
斯くして得られる本発明のリパーゼ変異体は、親リパーゼと比して、異種発現性が向上している。
「異種発現性の向上」とは、親リパーゼが由来する生物種と異なる生物種にて発現させた場合の発現量が親リパーゼより増加していることを意味する。ここで、異種とは、親リパーゼが由来する生物種と異なる生物種であれば特に制限されないが、タンパク質発現系に広く用いられる微生物が好ましく、大腸菌又はバチルス属細菌がより好ましく、バチルス属細菌がさらに好ましく、枯草菌がさらに好ましい。本発明のリパーゼ変異体の発現量は、当業者に公知のタンパク質の発現量の測定方法により測定してもよいし、該リパーゼ変異体のリパーゼ活性を指標として測定してもよい。本発明のリパーゼ変異体の異種発現性(異種におけるリパーゼ変異体発現量)は、親リパーゼに対して、好ましくは130%以上、より好ましくは150%以上であり得る。
【0084】
したがって、別の一態様において、本発明は、リパーゼの異種発現性の向上方法を提供する。当該本発明の方法は、親リパーゼにおいて、配列番号2を基準とした番号付けでの所定位置におけるアミノ酸残基を所定のアミノ酸残基に置換することを含む。当該方法の詳細は、上述した本発明のリパーゼ変異体の製造方法と同様である。
【0085】
<6.リパーゼ変異体の用途>
リパーゼは、エステル加水分解反に加え、エステル合成反応、エステル交換反応、アシドリシスなど様々な反応を触媒する。この反応性を利用して、洗浄、光学分割、バイオ燃料製造、油脂加工、廃水処理、パルプ製造、レザー製造など様々な産業用途でリパーゼが利用されている。本発明のリパーゼ変異体は、親リパーゼと比して、異種発現性が向上しているため、異種発現により工業的に有利に大量に製造することが可能となり、斯かる産業用途に好適に使用することができる。また本発明のリパーゼ変異体配列群は配列が多様であり様々な異なる特性を有することから、基質や用途に応じた好適なリパーゼの探索に使用することができる。よって、本発明のリパーゼ変異体は、洗浄剤、光学分割剤、エステル合成用触媒、油脂加工用触媒、廃水処理剤、パルプ処理剤、皮革処理剤などとなり得、好ましくは洗浄剤となり得る。洗浄剤としては、衣料洗浄剤、食器洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などが挙げられる。
【0086】
上記剤は、本発明のリパーゼ変異体単体であってもよく、また、これを含有する酵素組成物であってもよい。斯かる酵素組成物は、粉末等の固形組成物であっても液体組成物であってもよい。
【0087】
本発明のリパーゼ変異体を含有する酵素組成物には、リパーゼ変異体に加えて、不活性担体、pH調整剤、分散剤、緩衝剤、防腐剤等の任意の添加剤を適宜配合することができる。酵素組成物に含まれるリパーゼ変異体は、1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0088】
本発明の酵素組成物における本発明のリパーゼ変異体の含有量は、当該リパーゼ変異体が活性を示す量であれば特に制限されないが、例えば、酵素組成物1kg当たり好ましくは0.1mg以上、より好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上であり、且つ好ましくは50000mg以下、より好ましくは5000mg以下、より好ましくは500mg以下である。また0.1~50000mgであるのが好ましく、1~5000mgであるのがより好ましく、5~500mgであるのがより好ましい。
【0089】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>下記(a)~(v)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体:
(a)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置にDを有するリパーゼ変異体;
(b)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(c)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(d)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にCを有するリパーゼ変異体;
(e)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(f)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置にA、T、H又はGを有するリパーゼ変異体;
(g)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置にKを有するリパーゼ変異体;
(h)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置にTを有するリパーゼ変異体;
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置にPを有するリパーゼ変異体;
(j)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(k)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(l)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(m)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(n)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(o)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置にQを有するリパーゼ変異体;
(p)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体;
(q)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置にGを有するリパーゼ変異体;
(r)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置にKを有するリパーゼ変異体;
(s)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(t)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置にCを有するリパーゼ変異体;
(u)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置にLを有するリパーゼ変異体;
(v)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置にYを有するリパーゼ変異体。
<2>下記(aa)~(ae)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体:
(aa)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、90位に相当する位置におけるC、及び181位に相当する位置におけるLから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ab)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ac)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY、31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び186位に相当する位置におけるGから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ad)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、77位に相当する位置におけるK、及び181位に相当する位置におけるLから選ばれる少なくとも2つのアミノ酸残基を有するリパーゼ変異体;
(ae)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるC及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体。
<3>上記(a)、(c)~(g)、(i)~(k)、(n)、(o)、(r)及び(t)~(v)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体である、<1>に記載のリパーゼ変異体。
<4>下記(aa-1)~(ae)から選択されるいずれかのリパーゼ変異体である、<2>に記載のリパーゼ変異体:
(aa-1)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY及び32位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(aa-2)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるC及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(aa-3)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置におけるG及び90位に相当する位置におけるCを有するリパーゼ変異体;
(aa-4)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、90位に相当する位置におけるC、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ab-1)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置におけるT及び126位に相当する位置におけるPを有するリパーゼ変異体;
(ab-2)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ab-3)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ab-4)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、及び126位に相当する位置におけるPを有するリパーゼ変異体;
(ab-5)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ab-6)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置におけるK、125位に相当する位置におけるT、126位に相当する位置におけるP、及び293位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ac-1)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY及び186位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ac-2)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、又は配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置におけるY、31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び186位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ad-1)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY及び32位に相当する位置におけるGを有するリパーゼ変異体;
(ad-2)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置におけるK及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ad-3)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ad-4)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置におけるY、32位に相当する位置におけるG、77位に相当する位置におけるK、及び181位に相当する位置におけるLを有するリパーゼ変異体;
(ae)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置におけるシステイン及び181位に相当する位置におけるロイシンを有するリパーゼ変異体。
<5><1>~<4>のいずれか1項に記載のリパーゼ変異体を含有する、酵素組成物。
<6>洗浄剤、光学分割剤、エステル合成用触媒、油脂加工用触媒、廃水処理剤、パルプ処理剤、又は皮革処理剤であり、好ましくは洗浄剤である、<5>記載の酵素組成物。
【0090】
<7><1>~<4>のいずれか1項に記載のリパーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
<8><7>に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
<9><7>に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
<10>微生物である、<9>に記載の形質転換細胞。
<11>大腸菌又はバチルス属細菌であり、好ましくはバチルス属細菌であり、より好ましくは枯草菌である、<10>に記載の形質転換細胞。
<12><9>~<11>のいずれか1項に記載の形質転換細胞を培養する工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法。
【0091】
<13>下記(i)~(xxii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法:
(i)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも82%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の118位に相当する位置のアミノ酸残基をDに置換する工程;
(ii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも91%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(iv)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換する工程;
(v)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも94%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(vi)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の222位に相当する位置のアミノ酸残基をA、T、H又はGに置換する工程;
(vii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換する工程;
(viii)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基をTに置換する工程;
(ix)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換する工程;
(x)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の293位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xi)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(xii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(xiii)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xiv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の186位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xv)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の206位に相当する位置のアミノ酸残基をQに置換する工程;
(xvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程;
(xvii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xviii)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも97%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換する工程;
(xix)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xx)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換する工程;
(xxi)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも81%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxii)配列番号34のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換する工程。
<14>下記(xxiii)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼ変異体の製造方法:
(xxiii)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、90位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、90位に相当する位置ではC、及び181位に相当する位置ではLに置換する工程;
(xxiv)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位、125位、126位及び293位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を39位に相当する位置ではK、125位に相当する位置ではT、126位に相当する位置ではP、及び293位に相当する位置ではGに置換する工程;
(xxv)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位、31位、32位及び186位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を29位に相当する位置ではY、31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、及び186位に相当する位置ではGに置換する工程;
(xxvi)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位、32位、77位及び181位に相当する位置から選択される少なくとも2つの位置のアミノ酸残基を31位に相当する位置ではY、32位に相当する位置ではG、77位に相当する位置ではK、及び181位に相当する位置ではLに置換する工程;
(xxvii)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程。
<15>上記(i)~(xxii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼの異種発現性の向上方法。
<16>上記(xxiii)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程を含む、リパーゼの異種発現性の向上方法。
<17>工程が上記(i)、(iii)~(vii)、(ix)~(xi)、(xiv)、(xv)、(xviii)及び(xx)~(xxii)から選択されるいずれかの工程である、<13>又は<15>に記載の方法。
<18>工程が下記(xxiii-1)~(xxvii)から選択されるいずれかの工程である、<14>又は<16>に記載の方法:
(xxiii-1)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、かつ32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxiii-2)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxiii-3)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換し、かつ90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換する工程;
(xxiii-4)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換し、90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxiv-1)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基をTに置換し、かつ126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換する工程;
(xxiv-2)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換し、かつ293位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxiv-3)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の125位に相当する位置のアミノ酸残基をTに置換し、126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換し、かつ293位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxiv-4)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換し、125位に相当する位置のアミノ酸残基をTに置換し、かつ126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換する工程;
(xxiv-5)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換し、126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換し、かつ293位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxiv-6)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の39位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換し、125位に相当する位置のアミノ酸残基をTに置換し、126位に相当する位置のアミノ酸残基をPに置換し、かつ293位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxv-1)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、かつ186位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxv-2)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の29位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換し、かつ186位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxvi-1)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、かつ32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換する工程;
(xxvi-2)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の77位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxvi-3)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxvi-4)配列番号14のアミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の31位に相当する位置のアミノ酸残基をYに置換し、32位に相当する位置のアミノ酸残基をGに置換し、77位に相当する位置のアミノ酸残基をKに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程;
(xxvii)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、リパーゼ活性を有するポリペプチドにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の90位に相当する位置のアミノ酸残基をCに置換し、かつ181位に相当する位置のアミノ酸残基をLに置換する工程。
<19>リパーゼ変異体が、親リパーゼに比べて異種発現性が向上している、<13>~<18>のいずれか1項に記載の方法。
【実施例0092】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
(1)リパーゼ発現プラスミドの構築
リパーゼ発現プラスミドは、WO2021/153129に記載の枯草菌spoVG遺伝子由来プロモーターを含む配列番号26のVHHの発現用プラスミドを鋳型として構築した。上記プラスミドのVHH遺伝子を含むORF全長に、In-Fusion反応によって各リパーゼ遺伝子を載せ替えることで構築した。人工遺伝子合成したリパーゼ遺伝子SspLip、PfLip、EtLip、YeLip、AnLip、YfLip、PspLip、PspLip2、SaLip、BbLip、EspLip、AspLip、YeLip2、YmLip、EspLip2、MiLip、PaLip(それぞれ配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31及び33のポリヌクレオチド、それぞれ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32及び34のアミノ酸配列をコードする)から、それぞれプラスミドpHY-SspLip、pHY-PfLip、pHY-EtLip、pHY-YeLip、pHY-AnLip、pHY-YfLip、pHY-PspLip、pHY-PspLip2、pHY-SaLip、pHY-BbLip、pHY-EspLip、pHY-AspLip、pHY-YeLip2、pHY-YmLip、pHY-EspLip2、pHY-MiLip、pHY-PaLipを構築した。各リパーゼへの変異導入は、相補的プライマー対を用いたPCRによる部位特異的導入法(Nucleic Acids Research,2004,32(14):e115参照)によって行った。各リパーゼに導入した変異と変異導入位置(各親酵素を基準とした位置と配列番号2を基準とした位置)を表2に示す。尚、以下の実施例においては、各リパーゼの変異導入位置はそれぞれの親酵素を基準とした位置で示す。
【0094】
【表2】
【0095】
(2)野生型リパーゼの発現性評価
Proteus/Yersiniaクレードに属する多様な16配列(SspLip、PfLip、EtLip、YeLip、AnLip、YfLip、PspLip、PspLip2、SaLip、BbLip、EspLip、AspLip、YeLip2、YmLip、EspLip2、MiLip(それぞれ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30及び32))を公共データベースから選定し、異種発現性を評価した。(1)で得た野生型リパーゼ発現プラスミドまたは空ベクターpHY300PLK(TaKaRa)を枯草菌Dpr9株(Microbial cell factories 20.1(2021):1-13.参照)にプロトプラスト法によって導入し、2×L-マルトース培地(2%トリプトン、1%酵母エキス、1%NaCl、7.5%マルトース、7.5ppm硫酸マンガン五水和物、0.04%塩化カルシウム二水和物、10ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%)で、30℃、3日間培養した後、培養上清を遠心分離により回収した。培養上清を100mM DTTを含む2×Laemmli Sample buffer(Bio-Rad)と等容量で混合し、100℃で3分間インキュベートした。各サンプルをAny kDTM Mini-PROTEAN(登録商標) TGX Stain-FreeTM Protein Gel(Bio-Rad)にアプライした後、200Vの定電圧で電気泳動を行った。Chemi Doc MP Imaging system(Bio-Rad)を用いて泳動後のゲルを撮影した。
空ベクターと比較して、リパーゼの分子量近傍に明確なバンドが確認できたものを”〇”、わずかにバンドが確認できたものを”△”、バンドが確認できなかったものを”-”で表3に示す。検証した16配列のうち、明確なリパーゼのバンドが確認できたのは3配列のみであったことから、Proteus/Yersiniaクレードのリパーゼにおいて、異種大量発現可能な配列の多様性が小さいという課題があることを見出した。
【0096】
【表3】
【0097】
(3)リパーゼ変異体の発現性評価
(2)と同様の手法でリパーゼ変異体の異種発現を行った。リパーゼPSアマノSD(富士フイルム和光純薬)を20mM Tris-HCl(pH7.0)に溶解し、DCプロテインアッセイ(Bio-Rad)でBSAを標準として濃度を測定した。濃度既知のリパーゼPSアマノSDと共に培養上清を(2)と同様の手法でSDS-PAGEに供した。リパーゼPSアマノSDを標準として、バンド強度から培養上清中のリパーゼ濃度を定量した(表4)。Proteus/Yersiniaクレードの様々なリパーゼについて、部位特異的改変により異種発現性が大幅に改善した。
【0098】
【表4】
【0099】
(4)配列同一性の計算
異種発現性が大幅に向上した変異体(SspLip E118D、PfLip F30Y E31G A89C V180L、EtLip I222G、YeLip V38K V124T E125P S292G、AnLip C24Y F26Y A27G R181G、YfLip G206Q、PspLip F30Y D31G R76K M179L、PspLip2 A89C V180L)間の配列同一性を、Genetyxを用いて計算した(表5)。これらの変異体は、Proteus/Yersiniaクレードのリパーゼにおいて、異種大量発現可能な配列の多様性を大幅に拡張した。
【0100】
【表5】
【0101】
(5)PaLip変異体の発現性評価
Proteus/Yersiniaクレードのリパーゼと近縁のリパーゼであるPaLip(配列番号34)について、(2)と同様の手法で異種発現を行った。20mM Tris-HCl(pH7.0)で100倍に希釈した培養上清2μLと基質溶液100μLを96穴アッセイプレートの各ウェルで混合し、30℃で405nmの吸光度変化(OD/min)を測定した。20mM Tris-HCl(pH7.0)中の2mM オクタン酸4-ニトロフェニルを基質溶液として用いた。野生型PaLipでは培養上清中にエステラーゼ活性が検出されず活性型リパーゼは異種発現されていないと考えられたが、PaLip M28Y変異体では培養上清中にリパーゼに由来するエステラーゼ活性が検出された(図1)。
図1
【配列表】
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