(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004409
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】簡便調理用凍り豆腐およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/45 20210101AFI20240109BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
A23L11/45 105Z
A23L5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104079
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000116943
【氏名又は名称】旭松食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 貴寛
【テーマコード(参考)】
4B020
4B035
【Fターム(参考)】
4B020LB09
4B020LC04
4B020LC06
4B020LK01
4B020LP20
4B020LS06
4B020LS08
4B035LC01
4B035LC03
4B035LC11
4B035LE11
4B035LE20
4B035LG01
4B035LG15
4B035LG33
4B035LK01
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP24
4B035LP25
4B035LP46
(57)【要約】
【課題】お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適する凍り豆腐であって、なおかつ、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている一般生菌数100,000 cfu/g以下である凍り豆腐及びその製造方法。
【解決手段】乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である凍り豆腐。前記凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下 である凍り豆腐。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である乾物の凍り豆腐。
【請求項2】
乾物の前記凍り豆腐は水分が6.6~9.0%(w/w)である請求項1記載の凍り豆腐。
【請求項3】
請求項1又は2記載の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下である凍り豆腐。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の凍り豆腐を原料に含む食品。
【請求項5】
請求項1又は3記載の凍り豆腐と味付け用の調味料が密封されている容器に収容されていて、前記容器を開封し、前記凍り豆腐にお湯をかけて柔らかくし、前記調味料で味付けをする、鍋調理不要な即食用凍り豆腐食品。
【請求項6】
凍り豆腐を製造する工程における乾燥工程を、温度75~99℃、相対湿度30~80%Rhの乾燥条件で行う凍り豆腐の製造方法。
【請求項7】
製造した前記凍り豆腐に乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である請求項6記載の凍り豆腐の製造方法。
【請求項8】
前記凍り豆腐を製造する工程における膨軟加工の工程で、炭酸カリウム0.7~2.5%(w/v)、pH7.6~9.0の加工液を用いて前記膨軟加工を行う請求項6又は7記載の凍り豆腐の製造方法。
【請求項9】
製造した乾燥物の状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下 である請求項8記載の凍り豆腐の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凍り豆腐及び、その製造方法に関する。特に、湯を注ぐ程度の簡単な調理で喫食できる、簡便調理用凍り豆腐及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凍り豆腐は、豆腐を凍結変性させた後、これを解凍、脱水して膨軟加工し、その後、脱水・乾燥させて製造されている。
【0003】
凍り豆腐製造における膨軟加工は、喫食時の凍り豆腐を軟らかくする目的で行われ、所定の膨軟加工液を用い、凍結、解凍、脱水後の豆腐を当該膨軟加工液に浸漬するあるいは散水・塗布・噴霧する等の処理を行う。
【0004】
その後、脱水・乾燥の工程を経る。凍り豆腐製造における乾燥は、一般的には70℃で湿度30%Rh程度の熱風が用いられる。
【0005】
乾燥によって、水分6.6~9.0%(w/w)程度の水分の少ない、保存性が高い乾燥物(乾物)の状態になることが特徴である。
【0006】
凍り豆腐は乾燥状態(いわゆる乾物)で流通していることから、食べることができる状態にするためには加熱調理をすることが必須であり、一般的には、調味液を用いて、数分以上の加熱をしないと硬すぎて美味しく食べられる状態にならない。
【0007】
凍り豆腐に湯を注ぐ程度の簡単な調理で食すると硬すぎて嗜好性に欠ける。このため調理に手間のかかることで、利用に制限がかかっていると言える。簡単な調理、例えば湯を注ぐだけで食べられる凍り豆腐の発明は、利用用途を広げられるものである。
【0008】
本願出願人は、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食可能な凍り豆腐とその製造方法を提案している(特許文献1)。
【0009】
特許文献1で本願出願人が開示しているように、乾燥状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下であると、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適するものになる。
【0010】
凍り豆腐の製造工程において、乾燥は湿熱がかかることから、喫食状態の凍り豆腐の硬さに大きく関与する。特許文献1では、品温を上げない(乾燥温度を低く、風速を強くする)乾燥方法により、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食可能な凍り豆腐を提供することを提案している。
【0011】
温度20~50℃、風速1~4m/secの乾燥条件で凍り豆腐製造工程における乾燥工程を行うことで、製造した乾燥状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下となる凍り豆腐を提供できるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2021-83323号公報
【特許文献2】特開2019-134718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本願出願人が特許文献1で提案している、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食可能な凍り豆腐については種々の活用法が考えられる。例えば、このような凍り豆腐を味付け用の調味料と共にカップ状の密封容器に収容して提供し、使用者が、容器を開封して凍り豆腐にお湯をかけて柔らかくし、調味料で味付けをして喫食する、等の鍋料理を伴わない、即食用凍り豆腐食品に供することが考えられる。
【0014】
このような即席的な提供場面、簡便な喫食場面を考えると、調理時の殺菌が一般的な調理と比較して十分でないケースも想定され、乾燥物の状態の凍り豆腐に含まれている生菌数は低い方がより望ましいことになる。
【0015】
乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている微生物の数に関する法律・基準は存在しないが、「食品衛生規範」によると「弁当・総菜」の「加熱食品」においては、一般生菌数が100,000 cfu/g以下と定められており、この基準を満たすことが望ましいと考えられる。
【0016】
上述した特許文献1で提案されている、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食可能な凍り豆腐とその製造方法では、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている一般生菌数について言及していなかった。
【0017】
そこで、本発明は、特許文献1で提案されているように、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食に適する凍り豆腐であって、なおかつ、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている微生物の数が、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たすことのできる凍り豆腐を提案することを目的にしている。
【0018】
また、このように、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食に供することから、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている一般生菌数が100,000 cfu/g以下を満たすだけでなく、特許文献1で提案されていたように、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっている凍り豆腐であることが望ましい。
【0019】
そこで、本発明は、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適し、なおかつ、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている一般生菌数が100,000 cfu/g以下である凍り豆腐とその製造方法を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した目的を達成する本発明は次のように例示することができる。
【0021】
[1]
乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である乾物の凍り豆腐。
【0022】
[2]
乾物の前記凍り豆腐は水分が6.6~9.0%(w/w)である[1]の凍り豆腐。
【0023】
[3]
[1]又は[2]の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下である凍り豆腐。
【0024】
[4]
[1]又は[3]の凍り豆腐を原料に含む食品。
【0025】
[5]
[1]又は[3]の凍り豆腐と味付け用の調味料が密封されている容器に収容されていて、前記容器を開封し、前記凍り豆腐にお湯をかけて柔らかくし、前記調味料で味付けをする、鍋調理不要な即食用凍り豆腐食品。
【0026】
[6]
凍り豆腐を製造する工程における乾燥工程を、温度75~99℃、相対湿度30~80%Rhの乾燥条件で行う凍り豆腐の製造方法。
【0027】
[7]
製造した前記凍り豆腐に乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である[6]の凍り豆腐の製造方法。
【0028】
[8]
前記凍り豆腐を製造する工程における膨軟加工の工程で、炭酸カリウム0.7~2.5%(w/v)、pH7.6~9.0の加工液を用いて前記膨軟加工を行う[6]又は[7]の凍り豆腐の製造方法。
【0029】
[9]
製造した乾燥物の状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下である[8]の凍り豆腐の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食に適する凍り豆腐であって、なおかつ、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている微生物の数が、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たすことのできる凍り豆腐とその製造方法を提供することができる。
【0031】
また、この発明によれば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適し、なおかつ、乾燥物状態の凍り豆腐に含まれている一般生菌数が100,000 cfu/g以下である凍り豆腐とその製造方法を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施の形態、実施例を以下に説明するが、本発明は、これらの実施形態、実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
【0034】
この実施形態の凍り豆腐は、乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である乾物の凍り豆腐である。
【0035】
このような乾物の凍り豆腐としては、水分が6.6~9.0%(w/w)のものを例示することができる。
【0036】
「食品衛生規範」によると「弁当・総菜」の「加熱食品」においては、一般生菌数が100,000 cfu/g以下と定められている。この実施形態の凍り豆腐はこの基準を満たすことから、例えば、乾燥物状態の本実施形態の乾物の凍り豆腐を、味付け用の調味料と共にカップ状の密封容器に収容して提供し、使用者が、容器を開封して凍り豆腐にお湯をかけて柔らかくし、調味料で味付けをして、鍋料理を行うことなしに喫食しても、微生物の殺菌について不安の無いものになる。
【0037】
このような本実施形態の凍り豆腐は、凍り豆腐を製造する工程における乾燥工程を、温度75~99℃、相対湿度30~80%Rhの乾燥条件で行う凍り豆腐の製造方法によって製造することができる。
【0038】
凍り豆腐は、豆腐を凍結変性させた後、これを解凍、脱水して膨軟加工を行った後、脱水・乾燥させて製造されており、乾燥は、従来から、一般的には70℃で湿度30%Rh程度の熱風を用いて行われている。
【0039】
本実施形態では、この乾燥工程を、温度75~99℃、相対湿度30~80%Rhの乾燥条件で行うことで、上述したように、乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である乾物の凍り豆腐を製造できることを見出したものである。
【0040】
このような本実施形態の凍り豆腐の製造方法は、従来の凍り豆腐の製造方法において行われていた乾燥工程において、上述した本実施形態特有の乾燥工程を実施する点に特徴があり、その他の工程は、従来、一般的に採用されていた凍り豆腐の製造工程を採用することができる。
【0041】
すなわち、豆腐を凍結変性させた後、これを解凍、脱水して膨軟加工を行い、その後、脱水し、乾燥工程を行う際に、温度75~99℃、相対湿度30~80%Rhの乾燥条件でこれを行うことで、乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である本実施形態の乾物の凍り豆腐を製造することができる。
【0042】
このようにして製造した本実施形態の乾物の凍り豆腐の水分としては、6.6~9.0%(w/w)を例示することができる。
【0043】
上述した本実施形態の、乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下 である乾物の凍り豆腐は、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下 であることが望ましい。
【0044】
本明細書における、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを用いた破断荷重の測定は、特許文献1で本願出願人が報告しているように、例えば、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを装着したクリープメーター(山電社製のCREEP METER RE2-33005B)を用いて行うことができる。
【0045】
市販されている一般的な凍り豆腐は、乾燥物の状態で73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを装着したクリープメーター(山電社製のCREEP METER RE2-33005B)を用いて測定した破断荷重が25Nを越えていることが一般的で、このような凍り豆腐は、お湯を注ぐだけの簡単な調理では硬すぎて嗜好性に欠け、喫食することは困難である。
【0046】
例えば、特許文献1で本願出願人が報告しているように、市販されている一般的な凍り豆腐(旭松食品株式会社製 商品名「新あさひ豆腐 うす切り」3方サイズ30×20×1mm直方体)を、乾燥物の状態で73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを装着したクリープメーター(山電社製のCREEP METER RE2-33005B)を用いて測定した破断荷重は32.4Nで、このような凍り豆腐は、お湯を注ぐだけの簡単な調理では硬すぎて嗜好性に欠け、喫食することは困難であった。
【0047】
一方、特許文献1で本願出願人が報告しているように、乾燥状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下であると、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適するものになる。
【0048】
そこで、上述した本実施形態の乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下 である乾物の凍り豆腐が、この条件を満たしているようにすることで、例えば、乾燥物状態の本実施形態の乾物の凍り豆腐を、味付け用の調味料と共にカップ状の密封容器に収容して提供し、使用者が、容器を開封して凍り豆腐にお湯をかけて柔らかくし、調味料で味付けをして、鍋料理を行うことなしに喫食しても、微生物の殺菌について不安の無いものになるだけでなく、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適する調理済の凍り豆腐とすることができる。
【0049】
上述した73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下である本実施形態の凍り豆腐は、凍り豆腐を製造する工程における膨軟加工の工程で、炭酸カリウム0.7~2.5%(w/v)、pH7.6~9.0の加工液を用いて前記膨軟加工を行うことで製造することができる。
【0050】
本願出願人は、先の特許出願(特許文献2)で、従来の凍り豆腐に比較してカリウム含量が飛躍的に改善されている凍り豆腐及び、その製造方法を提案している。この中で、従来の凍り豆腐製造工程における膨軟加工に、炭酸カリウムを用いた膨軟加工を行うこととし、その際に、pHをコントロールすることで、製造した凍り豆腐の硬さをコントロールできることを開示していた。
【0051】
本願発明者は、上述したように、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適するものになる本実施形態の凍り豆腐を製造するにあたり、先の特許出願(特許文献2)での開示内容に基づいて研究を進めた。そして、凍り豆腐を製造する工程における膨軟加工の工程で、炭酸カリウム0.7~2.5%(w/v)、pH7.6~9.0の加工液を用いて膨軟加工を行うことで、上述したように、乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下であって、73~77℃の温水に9~11秒浸漬した後、幅1mm、長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下である凍り豆腐を製造できることを見出したものである。
【0052】
なお、凍り豆腐の製造工程における膨軟加工で使用される加工液として、炭酸カリウム0.7~2.5%(w/v)、pH7.6~9.0の加工液を用いる点以外は、凍り豆腐の製造工程における従来の膨軟加工工程と同様であるので、上述した本実施形態の凍り豆腐の製造方法における膨軟加工工程で、炭酸カリウム0.7~2.5%(w/v)、pH7.6~9.0の加工液を用いて、当該加工液に凍結変性・解凍・脱水後の豆腐を浸漬する、あるいは、凍結変性・解凍・脱水後の豆腐に当該加工液を散水、塗布、噴霧する等のこの実施形態に特有の膨軟加工工程を行うことになる。
【0053】
以上に説明したこの実施形態の乾物の凍り豆腐を原料に用いて種々の食品を提供することができる。
【0054】
例えば、以上に説明したこの実施形態の乾物の凍り豆腐は、鍋調理不要な種々の即食用凍り豆腐食品に供することができる。以上に説明したこの実施形態の乾物の凍り豆腐と、味付け用の調味料が密封されている容器に収容されていて、前記容器を開封し、前記凍り豆腐にお湯をかけて柔らかくし、前記調味料で味付けをする、鍋調理不要な即食用凍り豆腐食品である。
【0055】
次に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
【実施例0056】
従来の一般的な凍り豆腐の製造工程における膨軟加工で使用される加工液として、炭酸カリウム0.7%(w/v)、pH7.6の加工液を用いた以外は、従来の一般的な凍り豆腐の製造工程における従来の膨軟加工工程と同様の膨軟加工工程を実施し、また、従来の一般的な凍り豆腐の製造工程における加工工程での乾燥条件を、
図1の試験1-1~試験1-9の各欄に記載した条件で行った以外、従来の一般的な凍り豆腐の製造工程と同様の工程を採用して
図1に試験結果を示した試験1-1~試験1-9の9種の凍り豆腐を製造した。
【0057】
製造した9種の凍り豆腐の乾燥物状態の水分率はそれぞれ
図1記載の通りであった。
【0058】
短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食する際の硬さを検討する目的で、製造した9種の乾燥物状態の凍り豆腐をそれぞれ3方サイズ約30×20×1mm直方体の凍り豆腐とし、95℃・140mLの湯を注いで軽くかき混ぜた後の凍り豆腐の「食感」を確かめた。
【0059】
「食感」は、旭松食品(株)製の市販されている「カップ生みそずい 合わせとうふ」に付随している味噌と、上述したように3方サイズ約30×20×1mm直方体とした試験1-1~試験1-9の乾燥物状態の凍り豆腐とを容器に入れ、95℃・140mLの湯を注いで軽くかき混ぜた後に凍り豆腐の食感、すなわち、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食する際の食感を確かめたものである。
【0060】
市販されている一般的な凍り豆腐を通常の調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっている物を「〇良好」な評価とし、通常の調理品よりも硬いものの商品価値があると判断した物は「△やや硬い」という評価とした。硬すぎて商品価値が無いと判断された物は「×硬い」の評価とした。
【0061】
このようにして行った、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食する際の食感の評価は
図1記載の通りであった。
【0062】
また、「その他不良」として、製造した試験1-1~試験1-9の9種の乾燥物状態の凍り豆腐のそれぞれについて、特筆すべき不良が確認されなかった場合に「○なし」、確認事項があったものの商品価値があると判断した物は「△」、商品価値が無いと判断された物は「×」の評価として検討したところ、それぞれ
図1記載の評価であった。
【0063】
喫食時の硬さに関する客観的な評価として、乾燥物状態の、製造した試験1-1~試験1-9の9種の凍り豆腐のそれぞれを、73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを装着したクリープメーター(山電社製のCREEP METER RE2-33005B)を用いて破断荷重を測定した。測定結果は
図1図示の通りであった。
【0064】
乾燥状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下であると、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適するものになることは、特許文献1で本願出願人が報告しているものであるが、試験1-1~試験1-9においても食感が「○良好」と判断されている凍り豆腐の破断荷重は25N以下で、「×硬い」と評価されたものの破断荷重はいずれも25Nを越えていた。
【0065】
「食品衛生検査指針」の記述に基づき、乾燥物状態の、製造した試験1-1~試験1-9の9種の凍り豆腐それぞれの一般生菌数を測定したところ、
図1の「一般生菌数」欄に記載した通りの結果であった。
【0066】
試験1―1は、従来の一般的な凍り豆腐の製造工程における乾燥工程で採用されている一般的な乾燥条件で乾燥を行ったものである。この条件では、簡便調理するには硬すぎた。また一般生菌数は、110,000 cfu/gであった。
【0067】
試験1-2は特許文献1でも提案されている、乾燥温度を低くした乾燥方法によって製造したものである。硬さは簡便調理用として望ましい硬さになっていると認められた。一方、一般生菌数は100,000 cfu/gを超えており、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たすものではなかった。
【0068】
図1に試験結果を示した試験1-1~試験1-6の通り、乾燥温度と一般生菌数との関係については、乾燥温度が高くなるにつれて一般生菌数が減少し、99℃で乾燥した際には2,600 cfu/gと十分に用件を満たす一般生菌数であった(試験1-5)。乾燥温度が高くなるにつれて一般生菌数が減少すると予想していた通りの結果になった。
【0069】
ただし、乾燥温度が100℃を超えると焦げが発生し、商品価値を無くした(試験1-6)。従って、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たす乾燥温度の条件としては75~99℃が望ましいと考えられた。
【0070】
次に、一般生菌数に与える乾燥時の湿度について検討した。試験1-7、試験1-8は、それぞれ試験1-3、試験1-4と比較して湿度を30→40%Rhに変更したものである。一般生菌数は、試験1-7、試験1-8の方が試験1-3、試験1-4より減少していた。乾燥時の湿度が上昇することによって乾燥時品温が上昇し、一般生菌数が減少したものと思われた。
【0071】
さらに、試験1-9で見られるように、乾燥条件を85℃、相対湿度80%Rhとすることで、一般生菌数を検出限界以下(300 cfu/g 以下)まで減じることができた。
【0072】
これらのことから、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たす相対湿度の条件として30~80%Rhを見出した。
【0073】
以上の結果より、乾燥物の状態で含まれる一般生菌数が100,000cfu/g以下である凍り豆腐を得る乾燥条件として、乾燥温度75~99℃、相対湿度の条件として30~80%Rhを見出した。
乾燥状態の凍り豆腐を、73~77℃の温水に9~11秒浸漬後、幅1mm・長さ3cmのくさび型プランジャを用いて測定した破断荷重が25N以下であると、短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で、市販されている、一般的な凍り豆腐を通常に調理(鍋の中で調味料と共に10分程度加熱)した場合と同等な軟らかさになっていて、喫食に適するものになることは、特許文献1で本願出願人が報告しているものであるが、試験2-1~試験2-14においても、食感が「×硬い」と評価されたものの破断荷重は25Nを越えていた。また、破断荷重は25N以下では、25N以下で「△やや硬い」、20N以下で食感は「○良好」という判断であった。
試験2-1は、試験1-1と同じく、炭酸カリウム0.7%(w/v)、pH7.6の加工液を用いた以外は、従来の一般的な凍り豆腐の製造工程における従来の膨軟加工工程と同様の膨軟加工工程を実施し、また、従来の一般的な凍り豆腐の製造工程における加工工程での乾燥条件(温度70℃、湿度30%Rh)で凍り豆腐を製造したものである。試験1-1で確認できたのと同じく、この条件では、簡便調理するには硬すぎ、また、一般生菌数は、110,000 cfu/gであった。
試験2-2は、試験1-2と同じく、特許文献1でも提案されている、乾燥温度を低くした乾燥方法によって製造したものである。硬さは簡便調理用として望ましい硬さになっていると認められた。一方、一般生菌数は100,000 cfu/gを超えており、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たすものではなかった。
試験2-3のように、試験2-1と同じ乾燥条件で、膨軟加工液の炭酸カリウム濃度を高くすると軟らかく食感が良好な豆腐が得られた。しかし、一般生菌数は100,000 cfu/gを超えており、「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下を満たすものではなかった。
そこで、試験2-3と同じ膨軟加工を施し、さらに乾燥温度を上げる操作をしたところ硬さが許容範囲で、従来よりも大きく一般生菌数を低下させた豆腐を得ることができた(試験2-4)。
さらに、実施例1で検討したように、乾燥条件を85℃、相対湿度80%Rhとすることで、一般生菌数を検出限界以下(300 cfu/g 以下)まで減じることができた(試験2-8、試験2-9)。この際の硬さは、大きく硬くなる方向に変化したが、膨軟加工液の炭酸カリウム濃度を2.5% (w/v)まで上げることで(試験2-10)、許容範囲の硬さの豆腐が得られた。
以上の検討から、製造された凍り豆腐に乾燥物の状態で含まれる一般生菌数を「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下に抑え、その上で、製造された凍り豆腐を短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食する際に良好な食感を呈するものとすることのできる膨軟加工液の炭酸カリウム濃度の範囲は0.7~2.5%(w/v)が好ましいことを見出した。
さらに、膨軟加工液のpHを上昇させることは炭膨軟加工液における酸カリウム濃度を上げることと同様に豆腐を軟らかくする効果があった(試験2-12~試験2-14)。
従って、製造された凍り豆腐に乾燥物の状態で含まれる一般生菌数を「食品衛生規範」で「弁当・総菜」の「加熱食品」に対して示されている一般生菌数100,000 cfu/g以下に抑え、その上で、製造された凍り豆腐を短時間の簡単な調理、例えば、お湯を注ぐだけの簡単な調理で喫食する際に良好な食感を呈するものとすることのできる膨軟加工液のpHの範囲としてpH7.6~9.0が好ましいことを見出した。