(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044100
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】摩擦材及び制動装置
(51)【国際特許分類】
F16D 66/02 20060101AFI20240326BHJP
B61H 1/00 20060101ALI20240326BHJP
F16D 65/06 20060101ALI20240326BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16D66/02 K
B61H1/00
F16D65/06 J
F16D69/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149444
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 啓佑
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA03
3J058AA06
3J058AA17
3J058BA60
3J058BA61
3J058CA03
3J058DB02
3J058DB09
3J058FA21
3J058GA92
3J058GA95
(57)【要約】
【課題】手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる摩擦材を提供する。
【解決手段】実施形態の摩擦材100は、鉄道車両が有する車輪に押し付けられて鉄道車両を制動する摩擦材100である。摩擦材100には、車輪に押し付けられて摩擦する摩擦面101と摩擦面101とは反対側の裏面102との間に2つの穴110A,110Bが形成されている。摩擦面101に露出している穴110A,110Bの位置及び数は、摩擦面101の摩耗が裏面102に向かって進むに従って変化する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が有する被摩擦部材に押し付けられて前記車両を制動する摩擦材であって、
前記摩擦材には、前記被摩擦部材に押し付けられて摩擦する摩擦面と前記摩擦面とは反対側の裏面との間に少なくとも1つの穴が形成され、
前記摩擦面に露出している前記穴の位置及び数の少なくとも一方は、前記摩擦面の摩耗が前記裏面に向かって進むに従って変化する、
摩擦材。
【請求項2】
前記穴は、前記摩擦面の法線方向に沿う方向に対して交差するよう延びている、
請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記摩擦材は、前記被摩擦部材である車輪の踏面に押し付けられる制輪子である、
請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記摩擦材は、前記車輪のフランジに面するフランジ側面と、前記フランジ側よりも前記車輪の踏面の幅方向に沿う方向において前記フランジ側面とは反対側の反フランジ側面と、を有し、
前記穴は、前記摩擦材において前記フランジ側面よりも前記反フランジ側面に近い位置に形成される、
請求項3に記載の摩擦材。
【請求項5】
前記摩擦材は、前記車輪の踏面の周方向に沿う方向の両端部及び中央部に、前記車輪に生じる水膜を除去するための水膜除去部を有し、
前記穴は、前記摩擦材において前記水膜除去部以外の位置に形成される、
請求項3に記載の摩擦材。
【請求項6】
前記水膜除去部は、前記摩擦材において前記摩擦面から前記裏面に向かって屈曲する角部を含む、
請求項5に記載の摩擦材。
【請求項7】
前記摩擦面の摩耗が前記裏面に向かって進んだ第1時点において前記摩擦面に露出する穴を第1の穴とし、前記摩擦面の摩耗が前記第1時点よりも進んだ第2時点において前記摩擦面に露出する穴を第2の穴とし、
前記第2の穴の位置は、前記車輪の踏面の幅方向に沿う方向において前記第1の穴の位置よりも前記摩擦材の端又は中央のいずれかに位置する、
請求項3に記載の摩擦材。
【請求項8】
前記摩擦材には、第1の穴と第2の穴とを含む複数の穴が形成され、
前記摩擦面の摩耗が前記裏面に向かって進んだ第1時点において前記第1の穴が露出し、
前記摩擦面の摩耗が前記第1時点よりも進んだ第2時点において前記第1の穴と前記第2の穴とが露出する、
請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項9】
前記摩擦材が新品状態では、前記摩擦面に前記穴が露出していない、
請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項10】
前記摩擦材が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に前記摩擦面に露出する前記穴の数は2個までであり、かつ、前記穴の直径は4mm以上6mm以下である、
請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項11】
前記穴は、前記裏面に向かって貫通するように形成され、
前記穴の内部における摩耗限界位置から前記裏面に向かって露出するように設けられる導体を更に備える、
請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の摩擦材と、
前記摩擦材を前記被摩擦部材に押し付けるための駆動力を発生させる駆動部と、
前記駆動部からの駆動力を前記摩擦材に伝達するための伝達部と、を備える、
制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材及び制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が有する被摩擦部材に押し付けられて車両を制動する摩擦材が知られている。例えば、特許文献1には、車輪と共に回転するディスクロータに圧接されるブレーキパッドが開示されている。ブレーキパッドの圧接面には、圧接面とは逆の面に向かって縮径する錐台形の形状を有する穴が形成されている。穴の周辺又は内壁には、摩耗量を示す色が付されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
穴が圧接面とは逆の面に向かって縮径する錐台形の形状を有するため、摩耗の進行によって穴径が小さくなる。穴を視認しても、もとの穴径が分からないと、摩耗の程度を把握することは困難である。摩耗量を示す色を視認すれば摩耗の程度は把握できるが、穴の内壁等に色を付すのは手間がかかる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる摩擦材及び制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の態様は以下の構成を有する。
(1)本発明の態様に係る摩擦材は、車両が有する被摩擦部材に押し付けられて前記車両を制動する摩擦材であって、前記摩擦材には、前記被摩擦部材に押し付けられて摩擦する摩擦面と前記摩擦面とは反対側の裏面との間に少なくとも1つの穴が形成され、前記摩擦面に露出している前記穴の位置及び数の少なくとも一方は、前記摩擦面の摩耗が前記裏面に向かって進むに従って変化する。
【0007】
この構成によれば、摩擦面に露出している穴の位置及び数の少なくとも一方が摩耗の進行によって変化するため、摩耗の程度を直感的に把握することができる。また、穴の内壁等に色を付すことも要しない。したがって、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0008】
(2)上記(1)に記載の摩擦材では、前記穴は、前記摩擦面の法線方向に沿う方向に対して交差するよう延びていてもよい。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)に記載の摩擦材では、前記摩擦材は、前記被摩擦部材である車輪の踏面に押し付けられる制輪子であってもよい。
【0010】
(4)上記(3)に記載の摩擦材では、前記摩擦材は、前記車輪のフランジに面するフランジ側面と、前記フランジ側よりも前記車輪の踏面の幅方向に沿う方向において前記フランジ側面とは反対側の反フランジ側面と、を有し、前記穴は、前記摩擦材において前記フランジ側面よりも前記反フランジ側面に近い位置に形成されていてもよい。
【0011】
(5)上記(3)又は(4)に記載の摩擦材では、前記摩擦材は、前記車輪の踏面の周方向に沿う方向の両端部及び中央部に、前記車輪に生じる水膜を除去するための水膜除去部を有し、前記穴は、前記摩擦材において前記水膜除去部以外の位置に形成されていてもよい。
【0012】
(6)上記(5)に記載の摩擦材では、前記水膜除去部は、前記摩擦材において前記摩擦面から前記裏面に向かって屈曲する角部を含んでいてもよい。
【0013】
(7)上記(3)から(6)の何れかに記載の摩擦材では、前記摩擦面の摩耗が前記裏面に向かって進んだ第1時点において前記摩擦面に露出する穴を第1の穴とし、前記摩擦面の摩耗が前記第1時点よりも進んだ第2時点において前記摩擦面に露出する穴を第2の穴とし、前記第2の穴の位置は、前記車輪の踏面の幅方向に沿う方向において前記第1の穴の位置よりも前記摩擦材の端又は中央のいずれかに位置していてもよい。
【0014】
(8)上記(1)から(7)の何れかに記載の摩擦材では、前記摩擦材には、第1の穴と第2の穴とを含む複数の穴が形成され、前記摩擦面の摩耗が前記裏面に向かって進んだ第1時点において前記第1の穴が露出し、前記摩擦面の摩耗が前記第1時点よりも進んだ第2時点において前記第1の穴と前記第2の穴とが露出してもよい。
【0015】
(9)上記(1)から(8)の何れかに記載の摩擦材では、前記摩擦材が新品状態では、前記摩擦面に前記穴が露出していなくてもよい。
【0016】
(10)上記(1)から(9)の何れかに記載の摩擦材では、前記摩擦材が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に前記摩擦面に露出する前記穴の数は2個までであり、かつ、前記穴の直径は4mm以上6mm以下であってもよい。
【0017】
(11)上記(1)から(10)の何れかに記載の摩擦材では、前記穴は、前記裏面に向かって貫通するように形成され、前記穴の内部における摩耗限界位置から前記裏面に向かって露出するように設けられる導体を更に備えてもよい。
【0018】
(12)本発明の態様に係る制動装置は、上記(1)から(11)の何れかに記載の摩擦材と、前記摩擦材を前記被摩擦部材に押し付けるための駆動力を発生させる駆動部と、前記駆動部からの駆動力を前記摩擦材に伝達するための伝達部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる摩擦材及び制動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】第1実施形態の制動装置の概略を示す断面図である。
【
図6】
図5の矢視VI-VIにおける断面を含む図である。
【
図7】第1実施形態の摩擦材の穴を車輪のフランジとともに示す図である。
【
図11】
図8の矢視XI-XIにおける断面を含む図である。
【
図12】
図8の矢視XII-XIIにおける断面を含む図である。
【
図13】
図8の矢視XIII-XIIIにおける断面を含む図である。
【
図17】第5実施形態の摩擦材の検査を説明するための図である。
【
図18】第6実施形態の摩擦材の検査を説明するための図である。
【
図19】第6実施形態の摩擦材を車輪のフランジとともに説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、空気ブレーキ装置として、鉄道車両用の制動装置を挙げて説明する。なお、以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を意味するのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も含むものとする。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の鉄道車両の概略図である。
図2は、第1実施形態の制動装置の概略を示す断面図である。各図において、車両上下方向は鉄道車両の上下方向(高さ方向)、車両前後方向は鉄道車両の前後方向、車幅方向は鉄道車両の幅方向をそれぞれ意味する。
【0023】
図1に示すように、鉄道車両1は、車内空間を区画する車体10を備える。車体10は、全体として長方形箱形状である。車体10は、車両前後方向に延びている。車体10の下面には、圧縮空気の弾力性によって振動を吸収する空気ばね35が設けられている。車体10の下面には、空気ばね35を介して台車30が取り付けられている。
【0024】
台車30は、車両前後方向に離間して複数(例えば2つ)配置されている。各台車30には、車幅方向(
図1における紙面手前奥方向)に延びる車軸31が回転可能に取り付けられている。車軸31は、台車30毎に、車両前後方向に離間して複数(例えば2つ)配置されている。車軸31の両端部には、全体として円板形状の車輪32が固定されている。台車30には、車輪32の回転を制動するための制動装置50が取り付けられている。
【0025】
<制動装置>
図2に示すように、制動装置50は、鉄道車両1を制動する摩擦材100を、被摩擦部材である車輪32の踏面32a(外周面)に接触させて車輪32の回転を制動する。本実施形態の制動装置50は、トレッドブレーキ式(踏面ブレーキ式)のブレーキ装置である。例えば、鉄道車両1には、合計8つの車輪32に対応して合計8つの制動装置50が取り付けられている。
【0026】
制動装置50は、車輪32に対して車両前後方向の一方側(
図2における紙面右側)に隣接するように配置されている。制動装置50は、摩擦材100と、摩擦材100を車輪32に押し付けるための駆動力を発生させる駆動部60と、駆動部60からの駆動力を摩擦材100に伝達するための伝達部70と、を備える。
【0027】
駆動部60は、全体として車両前後方向に延びる有底円筒形状の駆動ハウジング61を備える。駆動ハウジング61は、駆動ハウジング61における車両前後方向の他方側(
図2における紙面左側)に底壁61aを備える。底壁61aには、図示しない空気源から圧縮空気を導入するための導入孔61bが形成されている。
【0028】
駆動ハウジング61の内部(内部空間)には、略円板形状のピストン62が配置されている。ピストン62の外径は、駆動ハウジング61の内径と略同一である。ピストン62は、ピストン62の中心軸線が駆動ハウジング61の中心軸線と一致するように配置されている。駆動ハウジング61の内部は、ピストン62によって、底壁61a側(
図2において紙面左側)の空間と、底壁61aとは反対側(
図2において紙面右側)の空間とに仕切られている。
【0029】
ピストン62における底壁61aとは反対側の面からは、略棒状の出力軸63が突出している。出力軸63は、ピストン62の中心軸線上を延びている。出力軸63は、駆動ハウジング61の外部(機構ハウジング71の内部)にまで延びている。
【0030】
駆動ハウジング61の内部において底壁61aとは反対側の空間には、ピストン62を底壁61a側へと弾性的に押し付けるためのばね64が配置されている。例えば、導入孔61bを介して駆動ハウジング61の内部に圧縮空気が導入されると、ばね64の押付力に抗してピストン62が底壁61aとは反対側に向かって移動する。一方、導入孔61bを介して駆動ハウジング61の内部に圧縮空気が導入されないと、ばね64の押付力によってピストン62が底壁61a側に向かって移動する。
【0031】
駆動ハウジング61における車両前後方向の一方側には、機構ハウジング71が固定さ
れている。機構ハウジング71は、全体として長方形箱状である。機構ハウジング71は、駆動ハウジング61における車両前後方向の一方側の面から下側へ向かって延びている。機構ハウジング71の内部は、駆動ハウジング61の内部と連通している。機構ハウジング71の内部には、駆動部60における出力軸63の先端部が位置している。例えば、機構ハウジング71は、駆動ハウジング61と一体的に成形されていてもよい。
【0032】
機構ハウジング71の内部において、出力軸63の先端部には、連結ピン81を介して棒状の梃子72の一端部が連結されている。梃子72は、連結ピン81を中心として、出力軸63の先端部に対して回動可能になっている。梃子72は、出力軸63の先端部から、概ね下側に向かって延びている。梃子72の長手方向の途中の部分(例えば、長手方向中央よりも下側の部分)は、支軸78を介して機構ハウジング71に支持されている。梃子72は、支軸78を中心として、機構ハウジング71に対して回動可能になっている。
【0033】
梃子72の長手方向における支軸78よりも上側の部分からは、車両前後方向の一方側に向かって接触部72Aが突出している。梃子72の他端部には、車両前後方向に固定孔72aが貫通している。固定孔72aの内径は、車両前後方向の中央部において最大になっている。固定孔72aの内径は、車両前後方向の両端部において最小になっている。車両前後方向に直交する方向からの断面視で、固定孔72aの内周面は円弧状になっている。
【0034】
機構ハウジング71の内部において、梃子72における固定孔72aには、さや棒73が連結されている。さや棒73は、円筒形状の円筒部73aと、円筒部73aの外周面から突出する球面軸受73bと、円筒部73aの外周面から突出するギア部73cと、円筒部73aにおける中心軸線方向の一方側の端部から突出する連結ギア73dと、を備える。
【0035】
円筒部73aの内周面には、螺旋状に雌ねじ(ねじ溝)が切られている。
球面軸受73bは、円筒部73aの中心軸線方向の中央よりも他方側に位置している。球面軸受73bは、円筒部73aの外周面において円筒部73aの周方向全域に亘って延びている。球面軸受73bの外面は、車両前後方向に直交する方向からの断面視で円弧状になっている。球面軸受73bの曲率は、固定孔72aの内周面の曲率と略同一になっている。
【0036】
ギア部73cは、円筒部73aの中心軸線方向の中央よりも一方側に位置している。ギア部73cは、円筒部73aの径方向外側に突出している。ギア部73cは、円筒部73aの周方向に等間隔毎に配置された歯部を備える。
【0037】
連結ギア73dは、円筒部73aにおける中心軸線方向の一方側の端面から中心軸線方向の一方側に突出している。連結ギア73dは、円筒部73aの周方向に等間隔毎に配置された歯部を備える。
【0038】
さや棒73の球面軸受73bは、ギア部73cが車両前後方向の一方側に位置するように、梃子72の固定孔72aに取り付けられている。さや棒73は、球面軸受73bの外周面が固定孔72aの内周面に摺動しつつ、梃子72に対してある程度回動可能になっている。
【0039】
さや棒73における円筒部73aの内部には、押し棒74が連結されている。押し棒74は、車両前後方向に延びるねじ部74aを備える。ねじ部74aの外周面には、螺旋状に雄ねじ(ねじ山)が設けられている。ねじ部74aの延設方向の一部は、さや棒73における円筒部73aの内部に配置されている。ねじ部74aの外周面の雄ねじの一部は、さや棒73における円筒部73aの内周面の雌ねじと噛み合っている。
【0040】
ねじ部74aにおける車両前後方向の他方側の部分は、さや棒73の外部に突出している。ねじ部74aにおける車両前後方向の他方側の部分は、機構ハウジング71の開口71aを介して機構ハウジング71の外部にまで延びている。ねじ部74aの車両前後方向の他方側の部分からは、固定部74bが下側に向かって延びている。固定部74bの先端側の部分(下部)には、車幅方向(
図2における紙面手前奥方向)に傾動孔74dが貫通している。傾動孔74dは、車幅方向から視たときに全体として車両前後方向に長い長円形状になっている。
【0041】
ねじ部74aにおける車両前後方向の他方側の部分には、カバー79が取り付けられている。カバー79は、ねじ部74a及び機構ハウジング71の開口71aを覆っている。カバー79は、蛇腹形状である。カバー79は、車両前後方向に伸縮可能になっている。
【0042】
押し棒74におけるねじ部74aと固定部74bとの境界部分には、連結ピン82を介して摩擦材100(実施形態に係る制輪子)を支持するための制輪子頭75が連結されている。制輪子頭75は、車幅方向から視たときに車両前後方向の他方側に向かうほど上下方向の長さが大きくなる略三角形状になっている。制輪子頭75の車両前後方向の他方側の面は、車輪32の踏面32aに応じた曲面になっている。制輪子頭75は、連結ピン82を中心にして揺動可能になっている。
【0043】
制輪子頭75における車幅方向の一方側の側面からは、略円柱形状の傾動ピン84が突出している。傾動ピン84は、押し棒74における傾動孔74dの内部に位置している。制輪子頭75の揺動可能な範囲は、傾動ピン84と押し棒74における傾動孔74dとの接触関係によって制限される。
【0044】
機構ハウジング71における車両前後方向の他方側の外面からは、車両前後方向他方側に向かって突出部71Aが突出している。突出部71Aは、車両上下方向において制輪子頭75に連結された連結ピン82よりも上側に位置している。例えば、突出部71Aは、機構ハウジング71及び駆動ハウジング61と一体的に成形されていてもよい。
【0045】
突出部71Aの先端部には、連結ピン83を介して棒状のハンガ76の一端部が連結されている。ハンガ76は、連結ピン83を中心にして回動可能になっている。ハンガ76の他端部は、連結ピン82を介して制輪子頭75に連結されている。ハンガ76に連結された制輪子頭75及び摩擦材100は、連結ピン83を中心に回動する。
【0046】
制輪子頭75の車両前後方向の他方側の面には、摩擦材100が固定されている。摩擦材100は、車輪32の踏面32aに倣うような略円弧形状になっている。摩擦材100は、車輪32の踏面32aに押し当てられて摩擦力による制動力を発生する。例えば、摩擦材100の材質は、鋳鉄、合成樹脂、焼結体等である。
【0047】
機構ハウジング71の内部には、摩擦材100と車輪32の踏面32aとの隙間を調整するための隙間調整機構90が取り付けられている。隙間調整機構90は、さや棒73におけるギア部73cの径方向外側を取り囲むように配置されている。
【0048】
機構ハウジング71における車両前後方向の一方側の壁部には、全体として有底円筒形状の調整ナット77が取り付けられている。調整ナット77は、さや棒73の中心軸上に位置している。調整ナット77の一部は、機構ハウジング71の外部に露出している。調整ナット77は、機構ハウジング71に対して回転可能に支持されている。
【0049】
調整ナット77における車両前後方向の他方側の端部には、連結ばね77Aを介して連結ギア77Bが取り付けられている。連結ギア77Bは、さや棒73の中心軸上に位置している。連結ギア77Bは、制動装置50の駆動によって移動するさや棒73の位置によって、さや棒73における連結ギア73dに対する連結状態が切り替わる。
【0050】
図1に示すように、車体10の内部には、運転台25が設けられている。例えば、運転台25には、鉄道車両1の運転に関する各種情報を表示するためのディスプレイ等が取り付けられている。車体10の内部には、制御装置20が設けられている。制御装置20は、運転台25に接続されている。制御装置20は、制動装置50の駆動部60を制御する駆動制御部21と、各種情報を記憶する記憶部22と、を備える。
【0051】
例えば、記憶部22には、新たな摩擦材100を固定した時期、及び、新たな摩擦材100の摩耗限度までの摩耗代等に関する情報が記憶されている。摩擦材100の摩耗限度とは、摩擦材100によって適切な制動力を発生させるために、摩耗した摩擦材100を新たな摩擦材100に交換する目安を示す基準の位置である。例えば、記憶部22が記憶する情報は、新たな摩擦材100を固定した作業者等によって入力されてもよい。
【0052】
次に、制御装置20に制御される制動装置50の動作を説明する。
制御装置20の制御によって導入孔61bを介して駆動ハウジング61の内部に圧縮空気が導入されると、
図2に矢印Aで示すように、ピストン62及び出力軸63が車両前後方向の一方側に移動する。すると、
図2に矢印Bで示すように、支軸78を中心にして周方向一方(
図2における時計回り方向)に梃子72が回動する。このとき、
図2に矢印Cで示すように、梃子72の下端部は、出力軸63の移動方向とは反対の車両前後方向の他方側に移動する。それに伴い、梃子72に連結されているさや棒73及びさや棒73に連結されている押し棒74も車両前後方向の他方側に移動する。すると、制輪子頭75及び摩擦材100が車輪32の踏面32aに近づく側に移動する。これにより、摩擦材100が車輪32の踏面32aに接触する。
【0053】
一方、導入孔61bを介して駆動ハウジング61の内部に圧縮空気が導入されないと、
図2に示す矢印Aとは反対方向に、ピストン62及び出力軸63が車両前後方向の他方側に移動する。すると、
図2に示す矢印Bとは反対方向に、支軸78を中心にして周方向他方(
図2における反時計回り方向)に梃子72が回動する。このとき、
図2に示す矢印Cとは反対方向に、梃子72の下端部は、出力軸63の移動方向とは反対の車両前後方向の一方側に移動する。それに伴い、梃子72に連結されているさや棒73及びさや棒73に連結されている押し棒74も車両前後方向の一方側に移動する。すると、制輪子頭75及び摩擦材100が車輪32の踏面32aから離れる側に移動する。これにより、摩擦材100が車輪32の踏面32aから離間する。
【0054】
摩擦材100が車輪32の踏面32aに接触すると、車輪32の踏面32aとの摩擦によって徐々に摩擦材100が摩耗する。そのため、所定の摩耗限度まで摩耗した摩擦材100を新たな摩擦材100に交換する必要がある。一方、制動装置50を構成する部品(例えばハンガ76)は、車輪32に接触することがない。そのため、摩擦材100の交換頻度は、制動装置50を構成する部品の交換頻度に比べて多い。摩擦材100が摩耗すると、駆動部60が駆動する前における摩擦材100と車輪32の踏面32aとの隙間が大きくなる傾向がある。駆動部60が駆動する前における摩擦材100と車輪32の踏面32aとの隙間が大きいほど、制動装置50の駆動によって制輪子頭75及び摩擦材100の移動量が大きくなる。
【0055】
制動装置50の駆動によってさや棒73が車両前後方向の他方側に位置している場合、連結ギア77Bがさや棒73における連結ギア73dに対して連結しない。一方、制動装置50が駆動されずさや棒73が車両前後方向の一方側に位置している場合、調整ナット77側の連結ギア77Bがさや棒73における連結ギア73dに対して連結する。このように調整ナット77側の連結ギア77Bがさや棒73における連結ギア73dに対して連結している場合には、作業者等が調整ナット77を手動で回転させることで、押し棒74に対するさや棒73の回転角を調整できる。そして、押し棒74に対するさや棒73の回転角を調整することで、駆動部60が駆動する前における摩擦材100と車輪32の踏面32aとの隙間の大きさを調整できる。
【0056】
<摩擦材>
図3は、第1実施形態の摩擦材の斜視図である。
図4は、
図3の矢視IVから見た図である。
図5は、
図4の矢視Vから見た図である。
図6は、
図5の矢視VI-VIにおける断面を含む図である。
図7は、第1実施形態の摩擦材の穴を車輪のフランジとともに示す図である。
図3から
図7に示すように、摩擦材100は、鉄道車両1が有する車輪32(被摩擦部材の一例)に押し付けられて鉄道車両1を制動する摩擦材である。本実施形態の摩擦材100は、被摩擦部材である車輪32の踏面32aに押し付けられる制輪子である。
【0057】
摩擦材100は、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面101と、摩擦面101とは反対側の裏面102と、車輪32のフランジに面するフランジ側面103と、フランジ側よりも車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向においてフランジ側面103とは反対側の反フランジ側面104と、を有する。
【0058】
摩擦材100において車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の摩擦面101の両端部の距離H1(
図4の上下高さ)を「摩擦面高さH1」とする。例えば、摩擦面高さH1は、250mm以上330mm以下である。本実施形態の摩擦面高さH1は、290mm程度である。
【0059】
摩擦材100において車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の裏面102の両端部の距離H2(
図4の上下高さ)を「裏面高さH2」とする。裏面高さH2は、摩擦面高さH1よりも長い。例えば、裏面高さH2は、300mm以上400mm以下である。本実施形態の裏面高さH2は、350mm程度である。
【0060】
摩擦材100において車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向の長さW(
図5の左右長さ)を「摩擦材幅W」とする。例えば、摩擦材幅Wは、60mm以上100mm以下である。本実施形態の摩擦材幅Wは、80mm程度である。
【0061】
摩擦材100には、摩擦面101と裏面102との間に2つの穴110A,110B(少なくとも1つの穴の一例)が形成されている。摩擦面101に露出している穴110A,110Bの位置及び数は、摩擦面101の摩耗が裏面102に向かって進むに従って変化する。穴110A,110Bは、摩擦面101の法線方向に沿う方向に対して交差するよう延びている。本実施形態の穴110A,110Bは、摩擦面101の法線方向に沿う方向に対して交差する直線形状を有する。
【0062】
穴110A,110Bは、摩擦材100においてフランジ側面103よりも反フランジ側面104に近い位置に形成されている。穴110A,110Bは、摩擦材100において反フランジ側面104からフランジ側面103に向かう途中まで形成されている。
【0063】
摩擦材100は、車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の両端部及び中央部に、車輪32に生じる水膜を除去するための水膜除去部120,130を有する。穴110A,110Bは、摩擦材100において水膜除去部120,130以外の位置に形成されている。水膜除去部120,130は、摩擦材100において摩擦面101から裏面102に向かって屈曲する角部121,131を含む。
【0064】
摩擦材100において車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の端側にある水膜除去部120を「端側水膜除去部120」とする。端側水膜除去部120は、摩擦材100において摩擦面101の端側から裏面102に向かって屈曲する端側角部121(角部の一例)と、端側角部121から裏面102に向かって摩擦面101の法線方向に対して踏面32aの周方向に沿う方向の外側に傾斜して延びる端側傾斜面122と、端側傾斜面122において端側角部121とは反対側の端部から裏面102の端側(踏面32aの周方向に沿う方向の外端)に向かって延びる外端面123と、を含む。端側水膜除去部120は、フランジ側面103及び反フランジ側面104において端側角部121、端側傾斜面122及び外端面123に隣接する端側隣接部124を含む。
【0065】
摩擦材100において車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の中央部にある水膜除去部130を「中央側水膜除去部130」とする。中央側水膜除去部130は、摩擦材100において摩擦面101の中央側から裏面102に向かって屈曲する中央側角部131(角部の一例)と、中央側角部131から裏面102に向かって摩擦面101の法線方向に対して踏面32aの周方向に沿う方向の内側に傾斜して延びる中央側傾斜面132と、中央側傾斜面132において中央側角部131とは反対側の端部(中央側傾斜面132の湾曲部分において裏面102側の端部)から裏面102の中央側に向かって摩擦面101の法線方向に対して平行に延びる中央側端面133と、を含む。中央側水膜除去部130は、フランジ側面103及び反フランジ側面104において中央側角部131、中央側傾斜面132及び中央側端面133に隣接する中央側隣接部134を含む。
【0066】
本実施形態に係る摩擦材100には、第1の穴110Aと第2の穴110Bとを含む2つの穴110A,110B(複数の穴の一例)が形成されている。穴110A,110Bは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図4の側面視で)、円形状を有する。例えば、穴110A,110Bの直径Dhは4mm以上6mm以下である。本実施形態の穴110A,110Bの直径Dhは、5mm程度である。
【0067】
第1の穴110Aは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図4の側面視で)、摩擦材100において中央側水膜除去部130よりも一方側(
図4の下端側)の端側水膜除去部120の近くに形成されている。第1の穴110Aは、
図4の側面視で、反フランジ側面104に露出している。第1の穴110Aは、
図4の側面視で、反フランジ側面104の露出位置から摩擦面101の一端側(
図4の下端側)に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。
【0068】
第1の穴110Aは、摩擦面101(
図5では裏面102)の法線方向に沿う方向から見て(
図5の正面視で)、反フランジ側面104の露出位置からフランジ側面103に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第1の穴110Aは、
図5の正面視で、反フランジ側面104の露出位置から踏面32aの幅方向に沿う方向の中心位置Lc(以下「幅方向中心位置Lc」ともいう。)を超える位置まで形成されている。第1の穴110Aは、
図5の正面視で、反フランジ側面104の露出位置からフランジ側面103の一端側(
図5の下端側)に向かって傾斜するよう延びている。
【0069】
第1の穴110Aは、踏面32aの周方向に沿う方向から見て(
図6の断面視で)、反フランジ側面104の露出位置からフランジ側面103に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第1の穴110Aは、
図6の断面視で、反フランジ側面104の露出位置から幅方向中心位置Lcを超える位置まで形成されている。第1の穴110Aは、
図6の断面視で、反フランジ側面104の露出位置から摩擦面101のフランジ側面103側(
図6の左端側)に向かって傾斜するよう延びている。
【0070】
第2の穴110Bは、踏面32aの周方向に沿う方向において第1の穴110Aとは反対側に形成されている。第2の穴110Bは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図4の側面視で)、摩擦材100において中央側水膜除去部130よりも他方側(
図4の上端側)の端側水膜除去部120の近くに形成されている。第2の穴110Bは、
図4の側面視で、反フランジ側面104に露出している。第2の穴110Bは、
図4の側面視で、反フランジ側面104の露出位置から摩擦面101の他端側(
図4の上端側)に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。
【0071】
第2の穴110Bは、摩擦面101(
図5では裏面102)の法線方向に沿う方向から見て(
図5の正面視で)、反フランジ側面104の露出位置からフランジ側面103に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第2の穴110Bは、
図5の正面視で、反フランジ側面104の露出位置から幅方向中心位置Lcの手前の位置まで形成されている。第2の穴110Bは、
図5の正面視で、反フランジ側面104の露出位置からフランジ側面103の他端側(
図5の上端側)に向かって傾斜するよう延びている。
【0072】
第2の穴110Bは、踏面32aの周方向に沿う方向から見て(
図6の断面視で)、反フランジ側面104の露出位置からフランジ側面103に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第2の穴110Bは、
図6の断面視で、反フランジ側面104の露出位置から幅方向中心位置Lcの手前の位置まで形成されている。第2の穴110Bは、
図6の断面視で、反フランジ側面104の露出位置から摩擦面101のフランジ側面103側(
図6の左端側)に向かって傾斜するよう延びている。第2の穴110Bは、
図6の断面視で、第1の穴110Aよりも裏面102に近い位置に形成されている。
なお、
図6の断面視では、踏面32aの周方向に沿う方向から見た各穴110A,110Bの相対的な位置関係を説明するために、各穴110A,110Bを同一平面上に投影して示している。
【0073】
摩擦面101の摩耗が裏面102に向かって進んだ第1時点P1において第1の穴110Aが露出している。第1時点P1は、摩擦材100が新品状態から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。摩擦面101の摩耗が第1時点P1よりも進んだ第2時点P2において第1の穴110Aと第2の穴110Bとが露出している。第2時点P2は、摩擦材100が第1時点P1から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。摩擦材100が新品状態(
図6の時点P0)では、摩擦面101に穴110A,110Bが露出していない。
【0074】
摩擦材100が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に摩擦面101に露出する穴110A,110Bの数は2個までである。本実施形態では、第1時点P1において摩擦面101に第1の穴110A(1個の穴110A)が露出する。本実施形態では、第2時点P2において摩擦面101に第1の穴110A及び第2の穴110B(2個の穴110A,110B)が露出する。
【0075】
第1の穴110Aの位置(穴中心位置)は、第1時点P1において摩擦面101に露出した後、摩擦面101の摩耗が裏面102に進むに従って反フランジ側面104側に位置するように変化する。第2の穴110Bの位置(穴中心位置)は、第2時点P2において摩擦面101に露出した後、摩擦面101の摩耗が裏面102に進むに従って反フランジ側面104側に位置するように変化する。
【0076】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る摩擦材100は、鉄道車両1が有する車輪32に押し付けられて鉄道車両1を制動する摩擦材100である。摩擦材100には、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面101と摩擦面101とは反対側の裏面102との間に2つの穴110A,110Bが形成されている。摩擦面101に露出している穴110A,110Bの位置及び数は、摩擦面101の摩耗が裏面102に向かって進むに従って変化する。
【0077】
この構成によれば、摩擦面101に露出している穴110A,110Bの位置及び数が摩耗の進行によって変化するため、摩耗の程度を直感的に把握することができる。また、穴110A,110Bの内壁等に色を付すことも要しない。したがって、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0078】
本実施形態に係る穴110A,110Bは、摩擦面101の法線方向に沿う方向に対して交差するよう延びている。穴110A,110Bは、摩擦面101の法線方向に沿う方向に対して交差する直線形状を有する。
この構成によれば、穴110A,110Bが曲線形状を有する場合と比較して、ドリル等で穴110A,110Bを容易に形成することができる。
【0079】
本実施形態に係る摩擦材100は、被摩擦部材である車輪32の踏面32aに押し付けられる制輪子である。
制輪子は、被摩擦部材であるディスクを一対の摩擦材で挟む構成と比較して、厚み(摩擦面101と裏面102との間の距離)が厚い。そのため、本構成(摩擦面101に露出している穴110A,110Bの位置及び数が摩耗の進行によって変化する構成)の穴110A,110Bを摩擦材100に容易に形成することができる。
【0080】
本実施形態に係る摩擦材100は、車輪32のフランジに面するフランジ側面103と、フランジ側よりも車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向においてフランジ側面103とは反対側の反フランジ側面104と、を有する。穴110A,110Bは、摩擦材100においてフランジ側面103よりも反フランジ側面104に近い位置に形成されている。
例えば、穴110A,110Bが摩擦材100において反フランジ側面104よりフランジ側面103に近い位置にある場合は、フランジが邪魔となり穴110A,110Bを視認することが困難となる可能性が高い。これに対し本構成によれば、フランジが邪魔とならず、穴110A,110Bを反フランジ側面104から容易に視認することができる。したがって、摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0081】
本実施形態に係る摩擦材100は、車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の両端部及び中央部に、車輪32に生じる水膜を除去するための水膜除去部120,130を有する。水膜除去部120,130は、摩擦材100において摩擦面101から裏面102に向かって屈曲する角部121,131を含む。穴110A,110Bは、摩擦材100において水膜除去部120,130以外の位置に形成されている。
例えば、穴110A,110Bが摩擦材100において水膜除去部120,130にある場合は、車輪32に生じる水膜を除去する機能が損なわれ、ウエット性能(濡れた路面に対するグリップ性能)が低下する可能性が高い。これに対し本構成によれば、車輪32に生じる水膜を除去する機能が損なわれることはない。したがって、ウエット性能の低下を防止することができる。
【0082】
本実施形態に係る摩擦材100には、第1の穴110Aと第2の穴110Bとを含む2つの穴110A,110Bが形成されている。摩擦面101の摩耗が裏面102に向かって進んだ第1時点P1において第1の穴110Aが露出している。摩擦面101の摩耗が第1時点P1よりも進んだ第2時点P2において第1の穴110Aと第2の穴110Bとが露出している。
この構成によれば、穴110A,110Bの数が摩耗の進行によって増えることを視認することにより、摩耗の程度を段階的に把握することができる。
【0083】
本実施形態に係る摩擦材100では、摩擦材100が新品状態では、摩擦面101に穴110A,110Bが露出していない。
この構成によれば、摩擦面101を視認することにより穴110A,110Bが露出していない場合は、摩擦材100が新品であることを把握することができる。
【0084】
本実施形態に係る摩擦材100では、摩擦材100が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に摩擦面101に露出する穴110A,110Bの数は2個までであり、かつ、穴110A,110Bの直径Dhは4mm以上6mm以下である。
例えば、摩擦材100が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に摩擦面101に露出する穴110A,110Bの数が3個以上であり、かつ、穴110A,110Bの直径Dhが6mm超過であると、摩擦面101の面積が過度に減少して面圧が上がる場合がある。この場合、摩擦面101の温度が上昇して摩擦材100の摩擦係数が変わる事象が発生する可能性が高い。これに対し本構成によれば、摩擦材100の摩擦係数が変わる事象が発生する可能性を低減できる。
【0085】
本実施形態に係る制動装置50は、上記の摩擦材100と、摩擦材100を車輪32に押し付けるための駆動力を発生させる駆動部60と、駆動部60からの駆動力を摩擦材100に伝達するための伝達部70と、を備える。
この構成によれば、手間をかけることなく、摩擦材100の摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0086】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の摩擦材の一側面図である。
図9は、
図8の矢視IXから見た図である。
図10は、
図9の矢視Xから見た図である。
図11は、
図8の矢視XI-XIにおける断面を含む図である。
図12は、
図8の矢視XII-XIIにおける断面を含む図である。
図13は、
図8の矢視XIII-XIIIにおける断面を含む図である。
上述した第1実施形態では、摩擦材には摩擦面と裏面との間に2つの穴が形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図8から
図13に示すように、摩擦材200には摩擦面201と裏面202との間に1つの穴210が形成されていてもよい。第2実施形態において、上述した第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0087】
摩擦材200は、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面201と、摩擦面201とは反対側の裏面202と、車輪32のフランジに面するフランジ側面203と、フランジ側よりも車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向においてフランジ側面203とは反対側の反フランジ側面204と、を有する。
【0088】
摩擦材200には、摩擦面201と裏面202との間に1つの穴210(少なくとも1つの穴の一例)が形成されている。摩擦面201に露出している穴210の位置(穴中心位置)は、摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進むに従って変化する。穴210は、摩擦面201の法線方向に沿う方向に対して交差するよう延びている。本実施形態の穴210は、摩擦面201の法線方向に沿う方向に対して交差する直線形状を有する。
【0089】
穴210は、摩擦材200においてフランジ側面203よりも反フランジ側面204に近い位置に形成されている。穴210は、摩擦材200において反フランジ側面204寄りの部分からフランジ側面203に向かう途中まで形成されている。
【0090】
摩擦材200は、車輪32の踏面32aの周方向に沿う方向の両端部及び中央部に、車輪32に生じる水膜を除去するための水膜除去部220,230(端側水膜除去部220及び中央側水膜除去部230)を有する。
【0091】
端側水膜除去部220は、摩擦材200において摩擦面201の端側から裏面202に向かって屈曲する端側角部221(角部の一例)と、端側角部221から裏面202に向かって延びる外端面222と、を含む。
【0092】
中央側水膜除去部230は、摩擦材200において摩擦面201の中央側から裏面202に向かって屈曲する中央側角部231(角部の一例)と、中央側角部231から裏面202に向かって湾曲する中央側湾曲面232と、を含む。
【0093】
穴210は、踏面32aの周方向に沿う方向から見て(
図10の平面視で)、円形状を有する。例えば、穴210の直径Dhは4mm以上6mm以下である。本実施形態の穴210の直径Dhは、5mm程度である。
【0094】
穴210は、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図8の側面視で)、摩擦材200において中央側水膜除去部230よりも一方側(
図8の上端側)の端側水膜除去部220の近くに形成されている。穴210は、外端面222(
図8の上端面)に露出している。穴は、
図8の側面視で、外端面222の露出位置から裏面202の中央側(
図8の上下中央側)に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。
【0095】
穴210は、摩擦面201の法線方向に沿う方向から見て(
図9の正面視で)、外端面222の露出位置からフランジ側面203に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。穴210は、
図9の正面視で、外端面222の露出位置から幅方向中心位置Lcを超える位置まで形成されている。穴210は、
図9の正面視で、外端面222の露出位置からフランジ側面203の中央側(
図9の上下中央側)に向かって傾斜するよう延びている。
【0096】
穴210は、踏面32aの周方向に沿う方向から見て(
図10の平面視で)、外端面222の露出位置からフランジ側面203に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。穴210は、
図10の平面視で、外端面222の露出位置から幅方向中心位置Lcを超える位置まで形成されている。穴210は、
図10の平面視で、外端面222の露出位置から裏面202のフランジ側面203側(
図10の右端側)に向かって傾斜するよう延びている。
【0097】
本実施形態に係る摩擦材200では、摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進んだ第1時点(例えば
図11に示す時点)において摩擦面201に露出する穴210を第1の穴とする。第1時点は、摩擦材200が新品状態から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。
摩擦面201の摩耗が第1時点よりも進んだ第2時点(例えば
図12に示す時点)において摩擦面201に露出する穴210を第2の穴とする。第2時点は、摩擦材200が第1時点から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。
摩擦面201の摩耗が第2時点よりも進んだ第3時点(例えば
図13に示す時点)において摩擦面201に露出する穴210を第3の穴とする。第3時点は、摩擦材200が限界まで摩耗したときの時点に相当する。
摩擦材200が新品状態(例えば
図9に示す時点)では、摩擦面201に穴210が露出していない。
【0098】
摩擦材200が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に摩擦面201に露出する穴210の数は1個である。本実施形態では、第1時点において摩擦面201に第1の穴(1個の穴)が露出する。本実施形態では、第2時点において摩擦面201に第2の穴(1個の穴)が露出する。本実施形態では、第3時点において摩擦面201に第3の穴(1個の穴)が露出する。
【0099】
穴210の位置は、第1時点において摩擦面201に露出した後、摩擦面201の摩耗が裏面202に進むに従ってフランジ側面203側に位置するように変化する。第1の穴の位置は、車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向において摩擦材の一端側(反フランジ側面204側)に位置している。第2の穴の位置は、車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向において第1の穴の位置よりも摩擦材200の中央(幅方向中心位置Lc側)に位置している。第3の穴の位置は、車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向において第2の穴の位置よりも摩擦材200の中央に位置している。第3の穴の位置は、幅方向中心位置Lcに位置している。
【0100】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る摩擦材200には、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面201と摩擦面201とは反対側の裏面202との間に1つの穴210が形成されている。摩擦面201に露出している穴210の位置は、摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進むに従って変化する。
【0101】
この構成によれば、摩擦面201に露出している穴210の位置が摩耗の進行によって変化するため、摩耗の程度を直感的に把握することができる。また、穴210の内壁等に色を付すことも要しない。したがって、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0102】
本実施形態に係る摩擦材200では、摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進んだ第1時点において摩擦面201に露出する穴210を第1の穴とする。摩擦面201の摩耗が第1時点よりも進んだ第2時点において摩擦面201に露出する穴210を第2の穴とする。第2の穴の位置は、車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向において第1の穴の位置よりも摩擦材200の中央に位置している。
例えば、第2の穴の位置が車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向において摩擦材200の端と中央との間(例えば第1の穴と同じ位置)にある場合は、第2の穴の位置により摩耗の程度を直感的に把握することが困難となる可能性が高い。これに対し本構成によれば、車輪32の踏面32aの幅方向に沿う方向において摩擦材200の中央を視認すればよいため、摩耗の程度を直感的に容易に把握することができる。
【0103】
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態の摩擦材の一側面図である。
上述した第2実施形態では、摩擦材には摩擦面と裏面との間に1つの穴が形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図14に示すように、摩擦材には摩擦面と裏面との間に3つの穴が形成されていてもよい。第3実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0104】
本実施形態に係る摩擦材300には、第1の穴310Aと第2の穴310Bと第3の穴310Cを含む3つの穴310A,310B,310C(複数の穴の一例)が形成されている。
【0105】
第1の穴310Aは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図14の側面視で)、摩擦材300において中央側水膜除去部230よりも一方側(
図14の上端側)の端側水膜除去部220の近くに形成されている。第1の穴310Aは、裏面202に露出している。第1の穴310Aは、
図14の側面視で、裏面202の露出位置から摩擦面201に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。
【0106】
第2の穴310Bは、踏面32aの周方向に沿う方向において第1の穴310Aと同じ側に形成されている。第2の穴310Bは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図14の側面視で)、摩擦材300において一方側(
図14の上端側)の端側水膜除去部220よりも中央側水膜除去部230の近くに形成されている。第2の穴310Bは、裏面202に露出している。第2の穴310Bは、
図14の側面視で、裏面202の露出位置から摩擦面201に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第2の穴310Bは、
図14の側面視で、第1の穴310Aと平行に延びている。
【0107】
第3の穴310Cは、踏面32aの周方向に沿う方向において第1の穴310Aとは反対側に形成されている。第3の穴310Cは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図14の側面視で)、摩擦材300において中央側水膜除去部230よりも他方側(
図14の下端側)の端側水膜除去部220の近くに形成されている。第3の穴310Cは、裏面202に露出している。第3の穴310Cは、
図14の側面視で、裏面202の露出位置から摩擦面201に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第3の穴310Cは、
図14の側面視で、第1の穴310Aと平行に延びている。
【0108】
摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進んだ第1時点P1において第1の穴310Aが露出している。第1時点P1は、摩擦材300が新品状態から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。
摩擦面201の摩耗が第1時点P1よりも進んだ第2時点P2において第1の穴310Aと第2の穴310Bとが露出している。第2時点P2は、摩擦材300が第1時点P1から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。
摩擦面201の摩耗が第2時点P2よりも進んだ第3時点P3において第1の穴310Aと第2の穴310Bと第3の穴310Cとが露出している。第3時点P3は、摩擦材300が限界まで摩耗したときの時点に相当する。
摩擦材300が新品状態では、摩擦面201に穴310A,310B,310Cが露出していない。
【0109】
本実施形態では、第1時点P1において摩擦面201に第1の穴310A(1個の穴)が露出する。本実施形態では、第2時点P2において摩擦面201に第1の穴310A及び第2の穴310B(2個の穴)が露出する。本実施形態では、第3時点P3において摩擦面201に第1の穴310A、第2の穴310B及び第3の穴310C(3個の穴)が露出する。
【0110】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る摩擦材300には、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面201と摩擦面201とは反対側の裏面202との間に3つの穴310A,310B,310Cが形成されている。摩擦面201に露出している穴310A,310B,310Cの数は、摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進むに従って増加する。
【0111】
この構成によれば、摩擦面201に露出している穴310A,310B,310Cの数が摩耗の進行によって増加するため、摩耗の程度を直感的に把握することができる。また、穴の内壁等に色を付すことも要しない。したがって、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0112】
本実施形態に係る摩擦材300には、第1の穴310Aと第2の穴310Bと第3の穴310Cを含む3つの穴310A,310B,310Cが形成されている。摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進んだ第1時点P1において第1の穴310Aが露出している。摩擦面201の摩耗が第1時点P1よりも進んだ第2時点P2において第1の穴310Aと第2の穴310Bとが露出している。摩擦面201の摩耗が第2時点P2よりも進んだ第3時点P3において第1の穴310Aと第2の穴310Bと第3の穴310Cとが露出している。
この構成によれば、穴310A,310B,310Cの数が摩耗の進行によって増えることを視認することにより、摩耗の程度を段階的に把握することができる。
【0113】
<第4実施形態>
図15は、第4実施形態の摩擦材の一側面図である。
上述した第2実施形態では、摩擦材には摩擦面と裏面との間に1つの穴が形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図15に示すように、摩擦材には摩擦面と裏面との間に2つの穴が形成されていてもよい。第4実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0114】
本実施形態に係る摩擦材400には、第1の穴410Aと第2の穴410Bとを含む2つの穴410A,410B(複数の穴の一例)が形成されている。
【0115】
第1の穴410Aは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図15の側面視で)、摩擦材400において中央側水膜除去部230よりも一方側(
図15の上端側)の端側水膜除去部220の近くに形成されている。第1の穴410Aは、摩擦面201に露出している。第1の穴410Aは、
図15の側面視で、摩擦面201の露出位置から裏面202に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。
【0116】
第2の穴410Bは、踏面32aの周方向に沿う方向において第1の穴410Aと同じ側に形成されている。第2の穴410Bは、踏面32aの幅方向に沿う方向から見て(
図15の側面視で)、摩擦材400において一方側(
図15の上端側)の端側水膜除去部220よりも中央側水膜除去部230の近くに形成されている。第2の穴410Bは、摩擦面201に露出している。第2の穴410Bは、
図15の側面視で、摩擦面201の露出位置から裏面202に向かう途中まで延びる直線形状に形成されている。第2の穴410Bは、
図15の側面視で、第1の穴410Aと平行に延びている。
【0117】
摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進んだ第1時点P1において第1の穴410Aと第2の穴410Bとが露出している。第1時点P1は、摩擦材400が新品状態から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。
摩擦面201の摩耗が第1時点P1よりも進んだ第2時点P2において第2の穴410Bが露出している。第2時点P2は、摩擦材400が第1時点P1から限界まで摩耗するまでの途中の時点に相当する。第2時点P1においては、摩擦面201に第1の穴410Aが露出していない。
例えば、摩擦材400が新品状態では、摩擦面201に穴410A,410Bが露出していてもよい。
【0118】
摩擦材400が新品状態から限界まで摩耗するまでの間に摩擦面201に露出する穴410A,410Bの数は2個までである。本実施形態では、第1時点P1において摩擦面201に第1の穴410A及び第2の穴410B(2個の穴)が露出する。本実施形態では、第2時点P2において摩擦面201に第2の穴410B(1個の穴)が露出する。
【0119】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る摩擦材400には、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面201と摩擦面201とは反対側の裏面202との間に2つの穴410A,410Bが形成されている。摩擦面201に露出している穴410A,410Bの数は、摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進むに従って減少する。
【0120】
この構成によれば、摩擦面201に露出している穴410A,410Bの数が摩耗の進行によって減少するため、摩耗の程度を直感的に把握することができる。また、穴の内壁等に色を付すことも要しない。したがって、手間をかけることなく、摩耗の程度を容易に把握することができる。
【0121】
本実施形態に係る摩擦材400には、第1の穴410Aと第2の穴410Bとを含む2つの穴410A,410Bが形成されている。摩擦面201の摩耗が裏面202に向かって進んだ第1時点P1において第1の穴410Aと第2の穴410Bとが露出している。摩擦面201の摩耗が第1時点P1よりも進んだ第2時点P2において第2の穴410Bが露出している。
この構成によれば、穴410A,410Bの数が摩耗の進行によって減ることを視認することにより、摩耗の程度を段階的に把握することができる。
【0122】
<第5実施形態>
図16は、第5実施形態の摩擦材の模式図である。
図17は、第5実施形態の摩擦材の検査を説明するための図である。
上述した実施形態では、摩擦材に形成された穴の内部が空洞である例(穴の内部に何も設けられていない例)を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図16及び
図17に示すように、摩擦材に形成された穴には導体が設けられていてもよい。第5実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0123】
摩擦材500は、車輪32に押し付けられて摩擦する摩擦面501と、摩擦面501とは反対側の裏面502と、車輪32のフランジに面するフランジ側面503と、フランジ側よりも車輪の踏面32aの幅方向に沿う方向においてフランジ側面503とは反対側の反フランジ側面504と、を有する。
【0124】
摩擦材500には、摩擦面501と裏面502との間に1つの穴510(少なくとも1つの穴の一例)が形成されている。摩擦面501に露出している穴510の位置は、摩擦面501の摩耗が裏面502に向かって進むに従って変化する。穴510は、摩擦面501の法線方向に沿う方向に対して交差するよう延びている。本実施形態の穴510は、摩擦面501の法線方向に沿う方向に対して交差する直線形状を有する。
【0125】
穴510は、摩擦材500においてフランジ側面503よりも反フランジ側面504に近い位置に形成されている。穴510は、摩擦材500において反フランジ側面504からフランジ側面503に向かう途中まで形成されている。
【0126】
本実施形態に係る穴510は、裏面502に向かって貫通するように形成されている。摩擦材500は、穴510の内部における摩耗限界位置Pmから裏面502に向かって露出するように設けられる導体540を備える。摩耗限界位置Pmは、摩擦材500が限界まで摩耗したときの位置を意味する。
【0127】
例えば、導体540は、鉄等の金属で形成された棒状の部材(例えば鉄棒)である。導体540の一部は、反フランジ側面504から外部に突出している。導体540の突出部は、反フランジ側面504から露出している。摩擦材500が新品状態(
図16に示す状態)では、摩擦面501に導体540が露出していない。
【0128】
例えば、摩擦材500は、樹脂、鉄粉及びゴム等を主成分とする合成制輪子である。摩擦材500には、複雑な構造の検出センサは設けられていない。
【0129】
例えば、導体540の導通を検査する場合は、導通チェッカー550を用いる。例えば、導通チェッカー550は、電球等の発光素子551と、発光素子551に接続された2本の配線552,553と、を含む。例えば、検査時には、一方の配線552の端部を導体540に接続する。例えば、一方の配線552の端部を導体540に接続する際は、金属製のクリップ等で導体540の突出部を挟んでもよい。
【0130】
例えば、一方の配線552の端部を導体540に接続した状態で、他方の配線553の端部を車輪32に接触させる。例えば、摩擦材500が摩耗限界位置Pmに達していると、導体540が導通する。すると、発光素子551が発光する。これにより、摩擦材500の交換タイミングを把握することができる。
【0131】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態に係る穴510は、裏面502に向かって貫通するように形成されている。摩擦材500は、穴510の内部における摩耗限界位置Pmから裏面502に向かって露出するように設けられる導体540を備える。
例えば、摩擦面501を視認するためにはブレーキを緩める必要がある。ブレーキを緩めても車輪32の踏面32aと摩擦材500の摩擦面501との隙間量が10mmから20mm程度しかない場合は、摩擦面501を視認しにくい可能性が高い。これに対し本構成によれば、導体540の導通を検査することにより、摩擦材500の交換タイミングを把握することができる。したがって、摩擦面501を視認することによる簡易的な摩耗の程度の把握と、導体540が車輪32と導通したかを点検することによる摩擦材500の交換タイミングとの把握と、の両方を使い分けることができる。
【0132】
本実施形態に係る摩擦材500は、合成制輪子である。摩擦材500には、検出センサは設けられていない。
この構成によれば、摩擦材500に導体540が残っても通常の廃却と同じ方法で廃却することができる。加えて、検出センサを外して廃却する必要がないため、廃却時に手間がかからない。
【0133】
<第6実施形態>
図18は、第6実施形態の摩擦材の検査を説明するための図である。
図19は、第6実施形態の摩擦材を車輪のフランジとともに説明するための図である。図中において、符号660は線路を示す。
上述した第5実施形態では、導体の一部が反フランジ側面から外部に突出している例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図18及び
図19に示すように、導体の一部が反フランジ側面の面内に位置していてもよい。第6実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0134】
本実施形態では、摩擦材600における導体640の一部は、反フランジ側面504に露出している。導体640が露出する部分は、反フランジ側面504上に位置している。
【0135】
例えば、検査時には、一方の配線552の端部を導体640に接続し、他方の配線553の端部を車輪32に接触させる。例えば、摩擦材600が摩耗限界位置Pmに達していると、導体640が導通する。すると、発光素子551が発光する。これにより、摩擦材600の交換タイミングを把握することができる。
【0136】
図19の例では、検査時において、車幅方向における一方の車輪32側(
図19の左側)では発光素子551が発光しているため、摩擦材600の交換タイミングを把握することができる。車幅方向における他方の車輪32側(
図19の右側)では発光素子551が発光していないため、摩擦材600は交換不要であることを把握することができる。
【0137】
なお、摩擦材は、1つの穴の内部における摩耗限界位置から裏面に向かって露出するように設けられる1本の導体を備えることに限らない。例えば、摩擦材は、2つの穴の内部における摩耗限界位置から裏面に向かって露出するように設けられる2本の導体を備えてもよい。例えば、検査時には、一方の配線の端部を一方の導体に接続し、他方の配線の端部を他方の導体に接触させる。例えば、摩擦材が摩耗限界位置に達していると、2本の導体が導通する。すると、発光素子が発光する。これにより、摩擦材の交換タイミングを把握することができる。
【0138】
また、人が導通チェッカーを操作することに限らない。例えば、機械が導通チェッカーを自動的に操作してもよい。例えば、導体の導通を検査する態様は、設計仕様に応じて変形することができる。
【0139】
<変形例>
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0140】
上述した実施形態では、穴は、摩擦面の法線方向に沿う方向に対して交差する直線形状を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、穴は、曲線形状を有していてもよい。例えば、穴の形状は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0141】
上述した実施形態では、摩擦材は、車輪のフランジに面するフランジ側面と、フランジ側よりも車輪の踏面の幅方向に沿う方向においてフランジ側面とは反対側の反フランジ側面と、を有し、穴は、摩擦材においてフランジ側面よりも反フランジ側面に近い位置に形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、穴は、摩擦材において反フランジ側面よりフランジ側面に近い位置に形成されていてもよい。例えば、穴の形成位置は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0142】
上述した実施形態では、摩擦材は、車輪の踏面の周方向に沿う方向の両端部及び中央部に、車輪に生じる水膜を除去するための水膜除去部を有し、穴は、摩擦材において水膜除去部以外の位置に形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、穴は、摩擦材において水膜除去部に形成されていてもよい。例えば、穴の形成位置は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0143】
上述した実施形態では、穴の平面視形状が円形状であり、穴の直径が4mm以上6mm以下である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、穴の直径は、4mm未満又は6mm超過であってもよい。例えば、穴の平面視形状は円形状に限らず、矩形であってもよい。例えば、穴の態様(平面視形状及び寸法等)は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0144】
上述した実施形態では、摩擦材は、被摩擦部材である車輪の踏面に押し付けられる制輪子である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、制動装置は、被摩擦部材である車輪の踏面を片側押し付けするTBU(Tread Brake Unit)を構成する態様(踏面ブレーキ式)に限らない。例えば、被摩擦部材であるディスクを一対の摩擦材で挟むDBU(Disc Brake Unit)を構成する態様(ディスクブレーキ式)であってもよい。例えば、ブレーキ式の態様は、要求仕様に応じて変更することができる。
【0145】
上述した実施形態では、鉄道車両用の制動装置とともに、鉄道車両が有する被摩擦部材に押し付けられて鉄道車両を制動する摩擦材の例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、本発明は、鉄道車両以外の車両に適用してもよい。例えば、本発明は、自転車、自動二輪車、四輪自動車、建設車両、産業車両などに適用してもよい。
【0146】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは可能である。また、上述した各変形例を組み合わせても構わない。
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0147】
1…鉄道車両(車両)、32…車輪(被摩擦部材)、32a…踏面、50…制動装置、60…駆動部、70…伝達部、100…摩擦材、101…摩擦面、102…裏面、103…フランジ側面、104…反フランジ側面、110A…第1の穴、110B…第2の穴、120…端側水膜除去部(水膜除去部)、121…端側角部(角部)、130…中央側水膜除去部(水膜除去部)、131…中央側角部(角部)、200…摩擦材、201…摩擦面、202…裏面、203…フランジ側面、204…反フランジ側面、210…穴、220…端側水膜除去部(水膜除去部)、221…端側角部(角部)、230…中央側水膜除去部(水膜除去部)、231…中央側角部(角部)、300…摩擦材、310A…第1の穴、310B…第2の穴、400…摩擦材、410A…第1の穴、410B…第2の穴、500…摩擦材、501…摩擦面、502…裏面、503…フランジ側面、504…反フランジ側面、510…穴、540…導体、600…摩擦材、640…導体、Dh…穴の直径、P1…第1時点、P2…第2時点、Pm…摩耗限界位置