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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044106
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】判定装置および判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/00 20190101AFI20240326BHJP
【FI】
G01M13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149451
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山里 将史
(72)【発明者】
【氏名】増田 新
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AA02
2G024BA13
2G024BA27
2G024CA18
2G024DA21
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA14
(57)【要約】
【課題】簡便な方法により、対象物の異常を判定できる。
【解決手段】判定装置(10)は、対象物(20)に設けられた圧電素子(4)と、前記圧電素子に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、前記圧電素子のアドミタンスを算出する算出部(131)と、前記交流電圧の複数の周波数に応じた複数の前記アドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき、前記対象物の状態を判定する判定部(132)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に設けられた圧電素子と、
前記圧電素子に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、前記圧電素子のアドミタンスを算出する算出部と、
前記交流電圧の複数の周波数に応じた複数の前記アドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき、前記対象物の状態を判定する判定部と、を備える判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、所定の周波数の変化分に対する複素平面上でのアドミタンスの変化分に基づき、前記対象物の状態を判定する、請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、複素平面上での前記アドミタンスの前記変化分が所定の第1閾値以上である前記アドミタンスの対の個数が所定の第2閾値以下である場合に、前記対象物が異常であると判定する、請求項2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記アドミタンスの複素平面上での軌跡の、各アドミタンスにおける曲率半径の大きさに基づき、対象物の状態を判定する、請求項1に記載の判定装置。
【請求項5】
前記対象物は、締結部材によって締結された部品であり、
前記判定部は、前記対象物の状態として、前記締結部材の締結力が不足しているか否かを判定する、請求項1から4のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項6】
対象物に圧電素子を設けるステップと、
前記圧電素子に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、前記圧電素子のアドミタンスを算出する算出ステップと、
前記交流電圧の複数の周波数に応じた複数の前記アドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき、前記対象物の状態を判定する判定ステップと、を含む判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の状態(締結部材の締結力が不足しているか否か)を判定する判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の部品を固定する締結部材(例えばボルトおよびナット)の締結力不足を判定する技術が知られている。例えば、ボルトをハンマーで打撃したときに発生する打音の高さ(周波数)に基づきボルトの緩みを判定する打音検査が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、被締結部である2つの部品を固定するボルトおよびナットの緩みを検出する緩み検出装置が開示されている。当該緩み検出装置では、一方の部品のボルトが挿通される孔を含む表面に導電性膜を貼付し、導電性膜、ボルト、ナット、および被締結部からなる直列系の電気インピーダンスの変化に基づき、被締結部を固定するボルトおよびナットの緩みを検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-70817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、打音検査においては、ボルトが大きく緩んだ状態でなければ判定が難しい点、見えにくい場所であったり遠方であったりといったアクセスが困難な場所にあるボルトの検査には適さない点、熟練が必要である点、などの問題がある。
【0006】
また、特許文献1に開示される技術においては、締結部材に電圧を印加するため、締結部材として大きい対象物に上記緩み検出装置を適用する場合、検出に十分な電圧が確保できない可能性がある。また、導電性膜の寸法と関係する数GHzの周波数の電圧を印加する印加部および当該電圧を検出する検出部は、一般的に高価なものになる。
【0007】
本発明の一態様は、簡便な方法により、対象物の状態を判定できる判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る判定装置は、対象物に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、前記圧電素子のアドミタンスを算出する算出部と、前記交流電圧の複数の周波数に応じた複数の前記アドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき、前記対象物の状態を判定する判定部と、を備える。
【0009】
また、前記判定部は、所定の周波数の変化分に対する複素平面上でのアドミタンスの変化分に基づき、前記対象物の状態を判定してもよい。また、前記判定部は、複素平面上での前記アドミタンスの前記変化分が所定の第1閾値以上である前記アドミタンスの対の個数が所定の第2閾値以下である場合に、前記対象物が異常であると判定してもよい。
【0010】
また、前記判定部は、前記アドミタンスの複素平面上での軌跡の、各アドミタンスにおける曲率半径の大きさに基づき、対象物の状態を判定してもよい。
【0011】
また、前記対象物は、締結部材によって締結された部品であり、前記判定部は、前記対象物の異常として、前記締結部材の締結力が不足しているか否かを判定する。
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る判定方法は、対象物に圧電素子を設けるステップと、前記圧電素子に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、前記圧電素子のアドミタンスを算出する算出ステップと、前記交流電圧の複数の周波数に応じた複数の前記アドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき、前記対象物の状態を判定する判定ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、簡便な方法により、対象物の状態を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る判定システムの構成例を示す図である。
図2】上記判定システムの測定部が測定した入力電圧および出力電流の波形の一例を示す図である。
図3】上記判定システムの算出部が算出したアドミタンスの実部および虚部の波形の一例を示すグラフである。
図4】上記判定システムの算出部が算出したアドミタンスの複素平面上での軌跡の一例を示すグラフである。
図5】上記判定システムの算出部が算出したアドミタンスの複素平面上での軌跡の他の例を示すグラフである。
図6】上記判定システムの算出部が算出したアドミタンスの複素平面上での軌跡のさらに他の例を示すグラフである。
図7図4図6に示す軌跡の一部を拡大して重ね合わせたグラフである。
図8】ボルト締付けトルクと、アドミタンス変化分が所定の第1閾値以上であるアドミタンスの対の個数と、の関係を示すグラフである。
図9】上記判定システムの判定装置が対象物の状態を判定する判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔実施形態1〕
図1は、判定システム100の構成例を示す図である。図1に示すように、判定システム100は、対象物20および判定装置10を備える。
【0016】
対象物20は、2つの部品と、当該2つの部品を締結する締結部材と、を備えた構造物である。図1に示す一例では、対象物20は、2枚の金属板2,3と、当該2枚の金属板2,3を締結するボルト1(締結部材)およびナット(不図示)と、を備える。2枚の金属板2,3は、それぞれ対応する箇所に4つの孔を有する。ボルト1は、当該4つの孔を介して2枚の金属板2,3を貫通する。ナットは、ボルト1の2枚の金属板2,3から貫通する部分に嵌められる。これにより、ボルト1およびナットは、2枚の金属板2,3を締結する。
【0017】
判定装置10は、対象物に機械的な異常があるか否かを判定する。図1に示す一例では、判定装置10は、対象物20の状態として、2枚の金属板2,3に対するボルト1の締結力が不足しているか否か(ボルト1が緩んでいるか否か)を判定する。以下、ボルト1の締結力をボルト締付けトルク[N・m]として表す。
【0018】
(判定装置10の構成)
判定装置10は、圧電素子4、印加部11、測定部12、制御部13、記憶部14、および警報部15を備える。以下、実施形態1に係る判定装置10について、図1および図2を用いて詳細に説明する。
【0019】
圧電素子4は、対象物20におけるボルト1の近傍に設けられる。図1に示す一例では、圧電素子4は、金属板2の表面におけるボルト1の近傍に設けられる。圧電素子4は、後述する印加部11によって電圧が印加されることにより対象物20に振動を発生させる。また、圧電素子4は、対象物20から伝わる振動に応じた出力電流を出力する。圧電素子4は、ボルト1を含む対象物20に振動を発生させ、当該振動を検知できるような位置に設けられればよい。
【0020】
印加部11は、測定用抵抗Rを介して、圧電素子4に接続された2つの電極と電気的に接続される。印加部11は、圧電素子4に交流電圧を周波数掃引して印加する。具体的には、印加部11は、交流電圧を、所定範囲内の周波数において連続的または段階的に変化させながら圧電素子4に印加する。例えば、印加部11は、所定時間T1[秒]の間に周波数をF1[Hz]からF2[Hz]まで漸次増加させて、一定の振幅を有する交流電圧を圧電素子4に印加する。なお、交流電圧の振幅、周波数範囲F1[Hz]~F2[Hz]、および所定時間T1[秒]は、対象物20および圧電素子4の特性に合わせて適宜変更されてもよい。また、交流電圧の振幅は一定である必要はない。
【0021】
測定部12は、圧電素子4に接続された2つの電極、および測定用抵抗Rの両端に接続される。測定部12は、圧電素子4を介して対象物20に振動を発生させたときの、圧電素子4に入力される入力電圧、および圧電素子4を流れる出力電流を測定する。具体的には、測定部12は、印加部11が圧電素子4に交流電圧を印加しているときの、圧電素子4に接続された2つの電極間の電圧を入力電圧として測定する。また、測定部12は、印加部11が圧電素子4に交流電圧を印加しているときの、測定用抵抗Rに流れる電流を出力電流として測定する。測定部12は、入力電圧および出力電流の測定結果にA/D変換を施し、制御部13に出力する。なお、測定用抵抗Rの抵抗値は圧電素子4のインピーダンスに比べて充分に小さいので、測定された入力電圧は、圧電素子4に印加された電圧であると見なせる。また、測定された入力電圧から測定用抵抗R両端の電圧を減算した値を圧電素子4に入力される入力電圧として、以降の計算に使用してもよい。また、掃引周波数範囲の上限が高い場合(すなわち圧電素子4のインピーダンスが低く、測定用抵抗Rの抵抗値が無視できない場合)は、測定に4端子法を使用してもよい。
【0022】
図2は、測定部12が測定した入力電圧および出力電流の波形の一例を示す図である。図2の符号2Aは、測定部12が測定した入力電圧の波形を示すグラフである。図2の符号2Aにおいて、縦軸は入力電圧の値[V]を示し、横軸は時刻[秒]を示す。図2の符号2Bおよび符号2Cはそれぞれ、印加開始直後および印加終了直前の入力電圧の波形を横軸方向に拡大したグラフである。図2の符号2Dは、測定部12が測定した出力電流の波形を示すグラフである。図2の符号2Dにおいて、縦軸は出力電流の値[A]を示し、横軸は時刻[秒]を示す。図2の符号2Eおよび符号2Fはそれぞれ、印加開始直後および印加終了直前の出力電流の波形を横軸方向に拡大したグラフである。
【0023】
印加部11が所定時間T1の間に周波数をF1からF2まで漸次増加させて、一定の振幅を有する交流電圧を印加した場合、測定部12は、図2の符号2Aに示すような入力電圧および図2の符号2Dに示すような出力電流の波形を取得する。具体的には、図2の符号2Aに示すように、測定部12は、所定時間T1の間に周波数がF1からF2まで漸次増加する、一定の振幅E1を有する入力電圧を測定する。また、図2の符号2Dに示すように、測定部12は、所定時間T1の間に周波数がF1からF2まで漸次増加し、周波数F1からF2に対応する出力電流を測定する。図2の符号2Dに示すように、圧電素子4に印加される交流電圧の周波数と圧電素子4を流れる電流値の振幅とは概ね正の相関を有する。
【0024】
制御部13は、判定装置10の各部材を統括的に制御する。例えば、制御部13は、印加部11の、圧電素子4への電圧供給を制御する。また、制御部13は、測定部12から入力されるデータを後述する記憶部14に記憶する。図1に示す一例では、制御部13は、算出部131および判定部132を備える。
【0025】
算出部131は、圧電素子4に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、圧電素子4のアドミタンスを算出する。具体的には、算出部131は、測定部12が測定した入力電圧および出力電流の波形(経時的な波形;時間領域における波形)をフーリエ変換した、周波数領域における入力電圧および出力電流の波形を取得する。すなわち、算出部131は、周波数範囲F1~F2における周波数ごとの入力電圧および出力電流の値を算出する。フーリエ変換は、時間領域における波形を周波数領域における波形へと変換するための周波数分析(周波数変換)の一例である。以下、この変換を施した後の値および波形等を、周波数変換後の値および波形等と称する。
【0026】
算出部131は、周波数変換後の出力電流の各値を、周波数変換後の入力電圧の各値で除算することにより、アドミタンスの波形を取得する。すなわち、算出部131は、周波数変換後のアドミタンスを算出する。具体的には、算出部131は、周波数範囲F1~F2における周波数ごとのアドミタンスを算出する。以下、特に断りがない限り、「アドミタンス」は周波数変換後のアドミタンスのことを指すものとする。
【0027】
図3は、算出部131が算出したアドミタンスの実部および虚部の波形の一例を示すグラフである。図3において、縦軸はアドミタンスの実部および虚部の値[S]を示し、横軸は周波数[Hz]を示す。
【0028】
算出部131は、図3に示すようなアドミタンスの実部および虚部の波形を取得する。当該アドミタンスの実部および虚部の波形は、対象物20の共振特性に対応する。具体的には、図3に示すように、アドミタンスの実部の波形は、対象物20の共振周波数f1~f5においてそれぞれピークを有する。当該ピークの大きさは、対象物20の共振の大きさに対応する。また、図3に示すように、アドミタンスの虚部の波形は、対象物20の共振周波数f1~f5の前後においてそれぞれ(アドミタンスの虚部の近似曲線に対して)大きく増減する。当該増減の大きさは、対象物20の共振の大きさに対応する。図3に示す一例では、周波数f1においてアドミタンスの実部の波形が最大のピークを有し、周波数f1の前後においてアドミタンスの虚部の波形が最大の増減を有している。ゆえに、対象物20は、周波数範囲F1~F2において、周波数f1の振動を加えられたとき、最大の共振を生じさせる。
【0029】
図4は、算出部131が算出したアドミタンスの複素平面上での軌跡の一例を示すグラフである。図4において、縦軸はアドミタンスの虚部の値[S]を示し、横軸はアドミタンスの実部の値[S]を示す。
【0030】
算出部131は、図4に示すようなアドミタンスの複素平面上での軌跡を取得する。具体的には、算出部131は、周波数範囲F1~F2における複数の周波数に応じたアドミタンスを複素平面上の点としてプロットしたときの、当該アドミタンスの複素平面上での軌跡を取得する。
【0031】
図4に示すように、アドミタンスの複素平面上での軌跡は、環形状401~405を描きながら、虚部軸の増加方向に移動する軌跡である。環形状401~405はそれぞれ、図3における周波数f1~f5でのアドミタンスの実部の波形のピークおよびアドミタンスの虚部の波形の増減を反映したものである。当該ピークの大きさおよび当該増減の大きさは対象物20の共振の大きさに対応するものであるから、結局、環形状401~405の大きさは、対象物20の共振の大きさに対応する。図4に示す一例では、対象物20が周波数f1の振動により最大の共振を生じさせることに対応して、環形状401~405のうち環形状401が最も大きく形成されている。
【0032】
判定部132は、交流電圧の複数の周波数に応じた複数のアドミタンス(算出部131の算出結果)の複素平面上での軌跡が描く環形状401~405の大きさに基づき、対象物20の状態を判定する。
【0033】
上述したように、環形状401~405の大きさは、対象物20の共振の大きさに対応する。それゆえ、判定部132は、環形状401~405の大きさを監視することによって、対象物20の共振の大きさを判定できる。締結部材で緩みが発生した場合に、締結面間の微小な擦れなどにより振動の損失が増大することにより振動の減衰が増大し、それによりアドミタンスの軌跡の環形状が縮小する。従って、環形状が縮小した場合に締結部材が異常であると判定できる。判定部132は、環形状401~405が大きい場合、対象物20の共振が大きく対象物20は正常であると判定する。一方、判定部132は、環形状401~405が小さい場合、対象物20の共振が小さく対象物20は異常であると判定する。以下、判定部132の具体的な判定方法のいくつかの例を示す。
【0034】
一例として、判定部132は、所定の周波数の変化分に対する複素平面上でのアドミタンスの変化分(以下、アドミタンス変化分と称する)に基づき、対象物20の状態を判定する。この方法では、環形状を呈する周波数(共振周波数)の特定を必要とせず、共振周波数の変化を追跡する必要がない利点がある。また、共振周波数が密に近接していて環形状が重なっていても環形状の大きさに基づく判定が可能であるといった利点がある。例えば、判定部132は、所定の周波数fのアドミタンスに対する、その次の周波数f+Δfのアドミタンスの複素平面上の変化分(アドミタンスの連続する2つのデータの複素平面上での距離)に基づき、対象物20の状態を判定してもよい。アドミタンス変化分に基づく具体的な判定方法として、例えば以下の判定方法1~3が挙げられる:
(判定方法1)判定部132は、アドミタンス変化分が所定の第1閾値Th1以上であるアドミタンスの対の個数(以下、単に個数Nと称する)を算出し、当該個数が所定の第2閾値Th2以下である場合に、対象物20が異常であると判定する;
(判定方法2)判定部132は、アドミタンス変化分のうち、所定の第1閾値Th1以上であるアドミタンス変化分の総和(以下、第1総和T1と称する)を算出し、当該総和が所定の第3閾値Th3以下である場合に、対象物20が異常であると判定する;
(判定方法3)判定部132は、各アドミタンスのアドミタンス変化分を降順に並べたときの、上位から所定の数までのアドミタンス変化分の総和(以下、第2総和T2と称する)を算出し、当該総和が所定の第4閾値Th4以下である場合に、対象物20が異常であると判定する。
【0035】
ここで、上述のように、環形状を形成するアドミタンスは、アドミタンスの実部の波形のピークおよびアドミタンスの虚部の波形の増減を反映したものである。そのため、複素平面上において環形状を形成するアドミタンスの対のアドミタンス変化分は、典型的には、その他のアドミタンスの対のアドミタンス変化分より大きい。それゆえ、所定の第1閾値Th1以上であるアドミタンス変化分を有するアドミタンスの対(または、各アドミタンスのアドミタンス変化分を降順に並べたときの、上位から所定の数までのアドミタンス変化分を有するアドミタンスの対)は、主に環形状を形成するアドミタンスの対といえる。
【0036】
また、環形状の大きさが小さくなると、環形状を形成するアドミタンスの対のアドミタンス変化分も小さくなる。そのため、上述の個数N、第1総和T1、および第2総和T2は、環形状の大きさを示す指標であるといえる。
【0037】
図7を参照して後述するように、ボルト締付けトルクが減少すると、環形状の大きさは小さくなる。したがって、判定部132は、上述の判定方法1~3のようにアドミタンス変化分を監視することにより、ボルト締付けトルクが減少している状態を判定できる。
【0038】
なお、アドミタンス変化分に基づく判定方法1~3を用いる場合、算出部131は、実際にアドミタンスを複素平面上の点としてプロットしなくてもよい。すなわち、算出部131は、当該アドミタンスの複素平面上での軌跡を取得しなくてもよい。例えば、判定部132は、アドミタンスの連続する2つの値の差をアドミタンスの変化分として算出してもよい。
【0039】
他の例として、判定部132は、アドミタンスの複素平面上での軌跡の、各アドミタンスにおける曲率半径Rの大きさに基づき、対象物20の状態を判定してもよい。各アドミタンスにおける曲率半径に基づく具体的な判定方法については、アドミタンス変化分に基づく判定方法1~3と同様である。
【0040】
記憶部14は、制御部13で用いられる各種データを記憶する。記憶部14は、例えば、対象物20の状態を判定するための閾値を記憶する。警報部15は、判定部132の判定結果に基づき、対象物20の異常を報知する。警報部15は、スピーカであってよい。この場合、警報部15は、判定部132の判定結果に基づき、所定のアラート音を出力してよい。
【0041】
(実施例)
ボルト締付けトルク5N・m、6N・m、7N・m、8N・m、9N・m、9.5N・m、10N・m、および10.8N・mに対する圧電素子4のアドミタンスを取得する実験を行った。具体的には、所定時間10秒の間に周波数を10kHzから150kHzまで漸次増加させて、一定の振幅を有する交流電圧を圧電素子4に印加した。そして、入力電圧および出力電流の測定結果から、周波数範囲10kHz~150kHzにおける1Hzごとのアドミタンスを算出した。
【0042】
図4図6は、本実験の実験結果のいくつかの例として、ボルト締付けトルク5N・m、8N・m、および10.8N・mに対するアドミタンスの複素平面上での軌跡を示している。図4は、ボルト締付けトルクが10.8N・mである場合の、アドミタンスの複素平面上での軌跡を示すグラフである。図5は、ボルト締付けトルクが8N・mである場合の、アドミタンスの複素平面上での軌跡を示すグラフである。図6は、ボルト締付けトルクが5N・mである場合の、アドミタンスの複素平面上での軌跡を示すグラフである。
【0043】
図4に示すように、ボルト締付けトルクが10.8N・mである場合、アドミタンスの複素平面上での軌跡は、対象物20の共振周波数f1~f5に対応する環形状401~405を形成した。同様に、図5に示すように、ボルト締付けトルクが8N・mである場合、アドミタンスの複素平面上での軌跡は、対象物20の共振周波数f1~f5に対応する環形状501~505を形成した。同様に、図6に示すように、ボルト締付けトルクが5N・mである場合、アドミタンスの複素平面上での軌跡は、対象物20の共振周波数f1~f5に対応する環形状601~605を形成した。
【0044】
図7は、図4図6に示す軌跡の一部(共振周波数f1に対応する環形状401,501,601)を拡大して重ね合わせたグラフである。図7に示すように、ボルト締付けトルク8N・mに対する環形状501は、ボルト締付けトルク10N・mに対する環形状401より小さくなっていることが分かる。同様に、ボルト締付けトルク5N・m対する環形状601は、ボルト締付けトルク8N・m対する環形状501より小さくなっていることが分かる。図4図6を参照すれば分かるように、他の共振周波数f2~f5に対応する環形状についても共振周波数f1に対応する環形状と同様である。したがって、ボルト締付けトルクが小さくなるほど、アドミタンスの複素平面上での軌跡が形成する環形状の大きさは小さくなることが分かる。
【0045】
図8は、ボルト締付けトルクと、アドミタンス変化分が所定の第1閾値Th1以上であるアドミタンスの対の個数(個数N)と、の関係を示すグラフである。図8では、ボルト締付けトルク5N・m、6N・m、7N・m、8N・m、9N・m、9.5N・m、10N・m、および10.8N・mに対する個数Nをプロットしている。また、グラフ801は、個数Nの各プロットの近似直線である。なお、図8では、環形状の大きさを示す指標の一例として個数Nを示している。
【0046】
図8に示すように、個数Nは、ボルト締付けトルクに対して正の相関を有している。つまり、ボルト締付けトルクの減少が個数Nに反映されており、ボルト締付けトルクの減少を判定するための指標として、個数Nを用いることが有効であることが分かる。したがって、判定装置10は、圧電素子4のアドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき、対象物20の状態を判定できる。例えば、ボルト締付けトルクが7N・m以下となった場合に、対象物20が異常であると判定装置10に判定させたい場合、環形状の大きさを示す指標である個数Nの第2閾値Th2を55個と設定すればよい。
【0047】
(判定装置10の処理)
図9は、判定装置10が対象物20の状態を判定する判定処理の一例を示すフローチャートである。図9を参照して、判定装置10が圧電素子4のアドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさに基づき対象物20の状態を判定する動作例について、以下に説明する。
【0048】
図9に示すように、まず、印加部11は、圧電素子4に交流電圧を周波数掃引して印加する(S1)。具体的には、印加部11は、所定時間T1の間に周波数をF1からF2まで漸次増加させて、一定の振幅を有する交流電圧を圧電素子4に印加する。これにより、圧電素子4は、振動の周波数をF1からF2まで漸次増加させて、当該振動を対象物20に加える。
【0049】
次に、測定部12は、圧電素子4を介して対象物20に振動を発生させたときの、圧電素子4において発生する入力電圧、および圧電素子4を流れる出力電流を測定する(S2)。測定部12は、入力電圧および出力電流の測定結果にA/D変換を施し、制御部13に出力する。制御部13は、入力電圧および出力電流の測定結果を経時的に記憶部14に記憶する。
【0050】
次に、算出部131は、記憶部14から入力電圧および出力電流の測定結果を取得する。算出部131は、当該入力電圧および出力電流の波形のそれぞれに対して、フーリエ変換を実行する(算出ステップS3)。次に、算出部131は、フーリエ変換後の出力電流の波形を構成する各値を、フーリエ変換後の入力電圧の波形を構成する各値で除算することにより、アドミタンスを算出する(算出ステップS4)。
【0051】
次に、判定部132は、算出部131が算出したアドミタンスの各値から、所定の周波数の変化分に対する複素平面上でのアドミタンスの変化分(アドミタンス変化分)を算出する(判定ステップS5)。次に、判定部132は、アドミタンス変化分が第1閾値Th1以上であるアドミタンスの対の個数Nを算出する(判定ステップS6)。そして、判定部132は、個数Nが第2閾値Th2以下であるか否かを判定する(判定ステップS7)。具体的には、個数Nが第2閾値Th2以下である場合(S7におけるYes)、判定部132は、対象物20が異常であると判定する。その後、対象物20が異常である旨を警報部15が報知し(S8)、判定装置10の動作は終了する。一方、個数Nが第2閾値Th2以下でない場合(S7におけるNo)、判定部132は、対象物20が正常であると判定する。その後、判定装置10の動作は終了する。
【0052】
(実施形態1の効果)
以上のように、判定装置10は、対象物20に設けられた圧電素子4に交流電圧を周波数掃引して印加したときの、圧電素子4のアドミタンスの複素平面上での軌跡が描く環形状の大きさを監視することで、対象物20の状態を判定できる。したがって、判定装置10は、対象物20自体に電圧を印加することなく、対象物20の状態を判定できる。また、圧電素子4を対象物20に設けるといった簡便な方法により、対象物20の状態を判定できる。これは、従来の打音検査の問題点であった、アクセスが困難な場所にあるボルトの検査には適さない点、熟練が必要である点、などの問題点を解決し得る。
【0053】
また、対象物20の共振周波数は、周辺環境(例えば温度)によって変化し得る。しかしながら、上述の環形状は共振周波数がシフトしても環形状を保つため、環形状の大きさは、周辺環境による影響を受けにくい。そのため、判定装置10は、環形状の大きさを監視することで、周辺環境の影響を低減して、対象物20の状態を判定できる。
【0054】
〔変形例〕
実施形態1では、判定装置10が判定する対象物20の状態として、ボルト1の締結力が不足しているか否かを判定する一例を示した。しかしながら対象物20の状態としてはこれに限定されない。例えば、判定装置10は、リベット接合、ロウ付け、溶接などの他の締結部の締結力が不足している状態を対象物20の状態として判定してもよい。また、判定装置10は、対象物のクラックの発生を対象物20の状態として判定してもよい。
【0055】
〔ソフトウェアによる実現例〕
判定装置10(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部13に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0056】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0057】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0058】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0059】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
4 圧電素子
10 判定装置
11 印加部
12 測定部
13 制御部
131 算出部
132 判定部
20 対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9