(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044120
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】子宮内膜炎の改善のための組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/715 20060101AFI20240326BHJP
A23L 11/50 20210101ALI20240326BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240326BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240326BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20240326BHJP
C12P 19/04 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A61K31/715
A23L11/50 209Z
A23L33/10
A61P15/00
A61K36/48
C12P19/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149469
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】519297539
【氏名又は名称】ニチモウバイオティックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】天海 智博
(72)【発明者】
【氏名】北谷 明大
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼嶋 暢昭
(72)【発明者】
【氏名】黄木 浩次
【テーマコード(参考)】
4B018
4B020
4B064
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD33
4B018MD47
4B018MD49
4B018MD58
4B018MD80
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4B020LB24
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4B020LK18
4B020LP18
4B064AF11
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4C086AA01
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4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA81
4C088AB59
4C088AC04
4C088CA25
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA81
(57)【要約】
【課題】抗生物質等の薬物ではなく、天然物により近い材料に由来する物質を用いた子宮内膜炎の改善手段を提供する。
【解決手段】穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を配合して、子宮内膜炎の改善のための組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を含む、子宮内膜炎の改善のための組成物。
【請求項2】
前記穀類が脱脂大豆である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
乳酸菌、穀類の乳酸菌発酵成分および穀類の麹菌発酵物に由来する食物繊維からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記穀類の麹菌発酵物が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)による穀類の発酵物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記子宮内膜炎の改善が子宮内膜におけるCD138陽性細胞の減少である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記子宮内膜炎が慢性子宮内膜炎である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が食品組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が医薬組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類と、薬学的に許容可能な担体または食品衛生的に許容可能な担体とを混合する工程を含む、子宮内膜炎の改善のための組成物の製造方法。
【請求項10】
前記穀類が脱脂大豆である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
乳酸菌、穀類の乳酸菌発酵成分および穀類の麹菌発酵物に由来する食物繊維からなる群から選択される少なくとも1種をさらに配合する工程を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記穀類の麹菌発酵物が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)による穀類の発酵物である、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮内膜炎の改善のための組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜炎は、子宮の内側にある子宮内膜と呼ばれる粘膜において持続的な炎症を伴う疾患であり、細菌やウイルスの感染がその主な原因であると考えられている。子宮内膜炎は、その炎症に起因して、反復着床不全や習慣流産等を引き起こす場合があることが知られており、炎症そのものによる苦痛に加えて、妊娠の過程において正常な妊娠の妨げとなる場合がある。一方で、子宮内膜炎が治療されるにより、正常な妊娠が継続する確率が向上することも知られている(例えば、非特許文献1~3)。したがって、子宮内膜炎そのもの、およびそれに起因する妊娠の異常を解消する観点から、子宮内膜炎の効果的な予防・治療手段が望まれている。
【0003】
一方、子宮内膜炎とは異なる子宮関連疾患として子宮内膜症が知られており、その改善手段についても研究が行われており、改善手段の一つとして大豆に由来するアグリコン型イソフラボンを用いることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、子宮内膜炎と子宮内膜症とは、その発生部位、発生メカニズム、症状等の点で互いに異なる疾患であり、子宮内膜症ではない患者においても子宮内膜における慢性的な炎症(すなわち、慢性子宮内膜炎)が起こることが知られている(例えば、非特許文献1)。特に、子宮内膜症は子宮内腔の外(すなわち、子宮外)で発生するのに対し、子宮内膜炎は子宮内膜で発生することから、発生部位の点で明確に異なる。このように、両者は大きく異なる疾患であることから、改善手段も大きく異なる。
【0005】
子宮内膜炎の原因や発症機序は未だに十分に分かっていないため、その治療手段についても十分ではなく、その発症に対しては、従来、抗生物質を用いた治療手段が行われるにとどまっている。さらに、将来的な妊娠に備えて、または進行中の妊娠の過程において、妊娠との関連が強い子宮内膜に対して抗生物質等の薬物の使用を極力避けたいという患者の希望や、医学的見地から、そのような薬物の使用を避けるべきであるという見解があることから、子宮内膜炎の治療において、抗生物質を積極的に使用ができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research, Vol. 45, Issue 5, 2019
【非特許文献2】American Journal of Reproductive Immunology, Vol 78, Issue 5, 2017
【非特許文献3】American Journal of Reproductive Immunology, Vol 85, Issue 5, 2021
【非特許文献4】The Journal of Farm Animal in Infectious Disease, Vol. 6, No. 4, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下、妊娠に対するリスクを低減するために、抗生物質等の薬物ではなく、天然物により近い材料に由来する物質を用いた子宮内膜炎の改善手段を提供することが、継続的な課題として存在している。
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来の抗生物質等の薬物と比較して天然物により近い材料に由来する物質を用いた子宮内膜炎の改善のための組成物、および該組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究をした結果、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類が子宮内膜炎に対する改善効果を奏し、上述した課題を解決できるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
[1]穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を含む、子宮内膜炎の改善のための組成物。
[2]前記穀類が脱脂大豆である、[1]に記載の組成物。
[3]乳酸菌、穀類の乳酸菌発酵成分および穀類の麹菌発酵物に由来する食物繊維からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記麹菌の麹菌発酵物が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)による穀類の発酵物である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記子宮内膜炎の改善が子宮内膜におけるCD138陽性細胞の減少である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記子宮内膜炎が慢性子宮内膜炎である、[1]~[5]いずれかに記載の組成物。
[7]前記組成物が食品組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記組成物が医薬組成物である、[1]~[6]に記載の組成物。
[9]穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類と、薬学的に許容可能な担体または食品衛生的に許容可能な担体とを混合する工程を含む、子宮内膜炎の改善のための組成物の製造方法。
[10]前記穀類が脱脂大豆である、[9]に記載の製造方法。
[11]乳酸菌、穀類の乳酸菌発酵成分および穀類の麹菌発酵物に由来する食物繊維からなる群から選択される少なくとも1種をさらに配合する工程を含む、[9]または[10]に記載の製造方法。
[12]前記穀類の麹菌発酵物が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)による穀類の発酵物である、[9]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の抗生物質等の薬物と比較して天然物により近い材料に由来する物質を用いた子宮内膜炎の改善のための組成物、および該組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の組成物の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、ImmuBalance(登録商標)、抗生物質ドキシサイクリンおよびシプロフロキサシンならびに抗菌薬メトロニダゾールの投与順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、ImmuBalance(登録商標)を投与した場合の、子宮内膜炎患者の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、抗生物質ドキシサイクリンを投与した後に、ImmuBalance(登録商標)をさらに投与した場合の、子宮内膜炎患者の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、抗生物質ドキシサイクリンを投与した後に、抗生物質シプロフロキサシンおよび抗菌薬メトロニダゾールをさらに投与し、その後ImmuBalance(登録商標)をさらに投与した場合の、子宮内膜炎患者の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[子宮内膜炎の改善のための組成物]
本発明の一つの態様によれば、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を含む、子宮内膜炎の改善のための組成物(以下、単に「本発明の組成物」とも言う。)が提供される。
【0015】
本発明の組成物により子宮内膜炎を改善することができる理由は定かではないが、以下のように推論できる。すなわち、子宮内膜炎の発症の一つの原因として、腹膜や卵管を介して子宮内に入った腸管内細菌叢が考えられ、この腸管内細菌叢が引き起こす炎症を本発明の組成物が抑制することにより、子宮内膜炎が改善するものと考えられる。
以下、本発明の組成物につて詳細に説明する。
【0016】
(穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類)
本発明の組成物は、有効成分として穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類(以下、「麹多糖類」、「本発明の麹多糖類」とも言う。)を含む。
【0017】
本発明の麹多糖類を得るための穀類としては特に制限されず、大豆等のマメ科作物の種子(豆類、菽穀類)、米、麦、とうもろこし等のイネ科作物の趣旨(禾穀類)等が挙げられる。穀類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、穀類はそのまま用いてもよく、加工されたもの(加工物)を用いてもよい。穀類の加工方法としては特に制限されず、公知慣用の加工方法を用いることができる。加工方法としては、例えば、脱脂、圧搾、乾燥、加水、蒸煮、殺菌、粉砕、篩過等が挙げられる。したがって、穀類としては、脱脂された穀類(脱脂穀類)、圧搾された穀類(穀類の粕)等の加工物を用いることもできる。
【0018】
一つの好ましい実施形態において、穀類としては、脱脂された穀類(脱脂穀類)が用いられる。脱脂穀類としては、油分を取り除いた穀類であれば特に制限されず、公知慣用の方法により調製したものであってもよく、市販品であってもよい。特に好ましい実施形態において、穀類としては、脱脂された大豆(脱脂大豆)が用いられる
【0019】
穀類は、適宜加水、蒸煮等の加工を経てから用いてもよい。一つの好ましい実施形態において、穀類は加水および蒸煮の加工を経てから用いられる。このように、穀類に加水および蒸煮の加工をすることにより、麹菌による発酵において麹菌の増殖が容易となり、本発明の麹多糖類の産生が促進されると考えられる。
【0020】
穀類に加水および蒸煮の加工をする場合、それらの条件は特に制限されないが、例えば、穀類100kgに対して10~100Lの常温の水を添加し、次いで70~140℃で30分~5時間加熱することによって穀類を蒸煮する。この穀類の加水および蒸煮の加工はバッチ式で行ってもよく、連続式で行ってもよい。
【0021】
一つの好ましい実施形態において、穀類としては、上述した各条件で加水および蒸煮の加工をした脱脂大豆が用いられる。
【0022】
一つの好ましい実施形態において、上述した加水の工程では、加水される水に醸造酢が添加される。水に添加される醸造酢の量は特に制限されないが、例えば、水100kgに対して1~10Lである。
【0023】
加水および蒸煮の加工が行われた穀類はそのまま用いてもよいが、水分量を適宜調整した後に用いることが好ましい。穀類の水分量は、麹菌により穀類の発酵が進行する限り特に制限されないが、例えば、15~60質量%等である。
【0024】
穀類を発酵させるための麹菌は、薬学的に許容可能かつ/または食品衛生的に許容可能であり、アスペルギルス(Aspergillus)属に分類される菌であれば特に制限されず、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・リューチューエンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)アスペルギルス・グラウクス(Aspergillus glaucus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)等が挙げられる。麹菌は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。麹菌としては、好ましくはアスペルギルス・オリゼが単独で用いられる。
【0025】
麹菌の形態は特に制限されず、例えば、粉末状、粒状、液状等が挙げられる。麹菌の形態は、好ましくは粉末状である。
【0026】
麹菌を用いて穀類を発酵させる方法としては、例えば、麹菌を上述した穀類100kgに対して0.01~3kgとなるように添加し、20~60℃で1~10日静置することにより行われる。本発明者らは、麹菌を用いて穀類を発酵させることにより、発酵に起因する麹多糖類が産生されて穀類の発酵物中に蓄積されることを確認している。
【0027】
一つの好ましい実施形態において、麹菌を用いて穀類を発酵させる際に、麹菌に加えて乳酸菌が穀類に添加される。なお、本明細書において、乳酸菌について「添加」とは、麹菌を用いた発酵の前後または発酵中の穀類に対して「人為的に」乳酸菌を添加することだけではなく、穀類に対して環境中に存在する乳酸菌が「自然的(非人為的)」に入り込む(混入する)ことを包含する概念である。乳酸菌を用いて穀類を発酵させることにより、発酵物を酸性にして雑菌の繁殖を抑制することができる。
【0028】
穀類に添加される乳酸菌としては、薬学的に許容可能かつ/または食品衛生的に許容可能なものであれば特に制限されず、例えば、ラクトバシラス(Lactobasillus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属またはビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に分類される細菌が挙げられる。乳酸菌は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳酸菌としては、好ましくはエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、ペディオコッカス・パルブルス(Pediococcus parvulus)が用いられ、より好ましくはエンテロコッカス・フェシウムとペディオコッカス・パルブルスとが組み合わせて用いられる。
【0029】
乳酸菌の形態は特に制限されず、例えば、粉末状、粒状、液状等が挙げられる。麹菌の形態は、好ましくは粉末状である。
【0030】
乳酸菌を用いて穀類を発酵させる方法としては、例えば、乳酸菌を上述した穀類100kgに対して0.01~3kgとなるように添加し、上述した麹菌と共に20~60℃で1~10日静置することにより行われる。
【0031】
上述した穀類の発酵物中には、麹菌による発酵に起因する麹多糖類が蓄積しているため、穀類の発酵物をそのまま本発明の組成物またはその成分として用いてもよく、適宜加工して用いてもよい。加工としては、例えば、乾燥、粉砕、殺菌、篩過、加水分解等が挙げられる。一つの好ましい実施形態において、穀類の発酵物は、粉砕、殺菌および篩過される。
【0032】
また、穀類の発酵物中に蓄積した麹多糖類を分離して、分離された麹多糖類を本発明の組成物またはその成分として用いてもよい。穀類の発酵物から麹多糖類を分離する方法としては、例えば、熱水で抽出する方法が挙げられる。
【0033】
上述したような穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を含む組成物の市販品としては、例えば、脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類を含む組成物である、ニチモウバイオティックス株式会社製のImmuBalance(登録商標)が挙げられる。
【0034】
一つの好ましい実施形態において、本発明の組成物は、乳酸菌、穀類の乳酸菌発酵物に由来する成分、穀類の麹菌発酵物に由来する食物繊維等の成分をさらに含んでいてもよい。本発明の組成物は、これらの成分の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。また、これらの成分は、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を含む本発明の組成物に別途配合されたものであってもよく、上述したような本発明の組成物の調製過程において生成したものであってもよい。
【0035】
(その他の成分)
本発明の組成物は、上述した各種成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、薬学的に許容可能かつ/または食品衛生的に許容可能なものであれば特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。その他の成分としては、例えば、経口摂取および/または経管摂取に適した添加物、水等の溶媒、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム等)、香料、担体、食品添加物等が挙げられる。
【0036】
本発明の組成物は、子宮内膜におけるCD138陽性細胞を減少させるために用いることができる。本明細書において、子宮内膜におけるCD138陽性細胞について「減少」とは、本発明の組成物が摂取または投与された対象と、本発明の組成物が摂取または投与されていない対象とを比較した場合において、前者の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数が後者の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数よりも統計学的に有意に(すなわち、誤差の範囲を超えて)減少するか、または本発明の組成物が摂取または投与された場合に、CD138陽性細胞の数が増大傾向にある対象におけるCD138陽性細胞の数の増大が抑制されて統計学的に有意に低く維持される、もしくはCD138陽性細胞の数の統計学的に有意な増大が抑制されることを意味する。なお、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数についての統計的な解析は、自治医科大学により開発された統計解析ソフトEZR(Easy R)用いて行うことができる。
【0037】
一般に、CD138陽性細胞は子宮内膜炎のマーカーとして知られていることから、本発明の組成物は、子宮内膜炎の改善のための組成物としても用いることができる。子宮内膜炎としては、慢性子宮内膜炎および急性子宮内膜炎のいずれであってもよいが、本発明の組成物は、特に慢性子宮内膜炎の改善のための組成物として用いられる。
【0038】
本明細書において「子宮内膜炎の改善」とは、子宮内膜炎の治療および予防を包含する概念である。また、「子宮内膜炎の治療」とは、子宮内膜炎の進展または悪化を医療行為により止める、緩和するまたは遅延させることだけではなく、子宮内膜炎の進展または悪化を非医療行為により止める、緩和するまたは遅延させることも包含する。また、「子宮内膜炎の予防」とは、子宮内膜炎について想定される悪化に対して事前に備え、その発生または再発を非医療行為または医療行為により未然に防ぐことを包含する。
【0039】
本発明の組成物は、子宮内膜炎を改善することができることから、子宮内膜炎の改善および/または子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の減少のための医薬組成物として提供することができる。医薬組成物は、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を配合する以外は、医薬組成物の製造において通常用いられる手順に従って製造することができる。医薬組成物とは、本発明の組成物を、常法に従って、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。製剤化には、製剤化のために許容可能な添加剤を併用してもよい。製剤化のために許容可能な添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤等が挙げられる。医薬組成物が経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等の固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液等の液状製剤の形態をとることができる。また、医薬組成物が非経口製剤の場合には、注射剤や座剤等の形態をとることができる。なお、摂取対象への摂取(投与)の簡易性の点からは、医薬組成物では、経口製剤であることが好ましい。
【0040】
本発明の組成物は、子宮内膜炎の改善および/または子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の減少のための食品組成物として提供することができる。食品組成物は、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類を含有し得る飲食品であればどのような形態のものであってもよく、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、ペースト、半固体成形物、固体成形物等、経口または経管摂取可能な形態であればよい。
【0041】
食品組成物は、子宮内膜炎のリスクの低下、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の減少促進、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の増大抑制、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の維持等の用途が表示された飲食品とすることができる。
【0042】
本明細書において、用途について「表示」とは、表示された用途を需要者に対して知らしめるための全ての行為を意味し、表示された用途を想起・類推させ得るような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物及び媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。
【0043】
「表示」としては、行政等によって許可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましい。例えば、健康食品、機能性食品、機能性表示食品、経腸栄養食品、特別用途食品、病者用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができ、その他厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができる。さらに詳細には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)、およびこれに類する表示等を例示することができる。
【0044】
本発明の組成物の投与量(摂取量)は、本発明の効果である子宮内膜炎の改善および/または子宮内膜におけるCD138陽性細胞数の減少の効果が奏される限り特に限定されず、非投与者(摂取者)の年齢、健康状態、体重等に応じて適宜調整することができる。典型的には、麹多糖類の投与量(摂取量)として、一日当たり10~300mgである。
【0045】
本発明の組成物は、その効果をよりよく発揮させるために、長期間にわたって継続的に投与(摂取)することが好ましく、具体的には、1週間以上継続的に投与(摂取)することがより好ましい。投与(摂取)期間は、例えば、1~12週間等とすることができる。本明細書において「継続的」とは、本発明の組成物を毎日決められた量摂取し続けることを意味する。
【0046】
本発明の別の態様によれば、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の有効量を対象に投与(摂取)させることを含む、該対象における子宮内膜炎を改善する方法が提供される。この態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類としては、好ましくは脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類が用いられる。
【0047】
本発明のさらに別の態様によれば、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の有効量を対象に投与(摂取)させることを含む、該対象の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数を減少させる方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の有効量を対象に投与(摂取)させることを含む、該対象の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の増大を抑制する方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の有効量を対象に投与(摂取)させることを含む、該対象の子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数を維持する方法が提供される。これらの態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類としては、好ましくは脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類が用いられる。
【0048】
また、これらの態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の投与(摂取)量および投与(摂取)期間等は、本発明の組成物について記載した投与(摂取)量および投与(摂取)期間と同様とすることができる。
【0049】
本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜炎の改善のための、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。この態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類としては、好ましくは脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類が用いられる。
【0050】
本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の減少のための、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の増大の抑制のための、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。また本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の維持のための、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。これらの態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類としては、好ましくは脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類が用いられる。
【0051】
本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜炎改善用組成物の製造における、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。この態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類としては、好ましくは脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類が用いられる。
【0052】
本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の減少用組成物の製造における、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の増大の抑制用組成物の製造における、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、子宮内膜におけるCD138陽性細胞の数の維持用組成物の製造における、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類の使用が提供される。これらの態様において、穀類の麹菌発酵物に由来する多糖類としては、好ましくは脱脂大豆の麹菌発酵物に由来する多糖類が用いられる。
【実施例0053】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1:麹多糖類を含む組成物の子宮内膜炎改善効果
(1)麹多糖類を含む組成物の準備
麹多糖類を含む組成物として、ニチモウバイオティックス株式会社製のImmuBalance(登録商標)を準備した。
【0055】
(2)子宮内膜炎患者
下記の表1に示す背景を有する子宮内膜炎患者20名(n=20)において、麹多糖類を含む組成物の子宮内膜炎改善効果の評価を行った。表1中の各項目について、括弧内の数値は当該項目の最低値および最高値を示し、括弧外の数値は当該項目の平均値を示す。
【表1】
【0056】
(3)麹多糖類を含む組成物の子宮内膜炎改善効果の確認
図2に示すフローチャートに従って、ImmuBalance(登録商標)、子宮内膜炎に対する治療効果が知られている抗生物質ドキシサイクリンおよびシプロフロキサシンならびに抗菌薬メトロニダゾールを投与した。
【0057】
まず、上述した20名の子宮内膜炎患者のうち、抗生物質や抗菌薬に対するアレルギーを有する者、抗生物質や抗菌薬ではなくイムノバランスの投与を強く希望した者を7名について、ImmuBalance(登録商標)の子宮内膜炎改善効果を確認した。具体的には、各患者について、ImmuBalance(登録商標)を投与する前の黄体期に子宮内膜組織を採取し、採取された各子宮内膜組織において抗CD138抗体(抗Syndecan-1抗体)を用いてCD138陽性細胞を免疫染色した。次いで、各子宮内膜組織を実体顕微鏡で400倍に拡大して観察し、CD138陽性細胞の数を10視野で計測した。
【0058】
7名の子宮内膜炎患者に、ImmuBalance(登録商標)を1日1回、1回当たり1500mgの投与量で、14日間投与した。投与終了後の各患者の子宮内膜組織を採取し、上述したのと同様の方法で子宮内膜組織におけるCD138陽性細胞の数を10視野で計測した。
【0059】
ImmuBalance(登録商標)の投与前後の7名の子宮内膜炎患者の子宮内膜組織(10視野)におけるCD138陽性細胞の数を、自治医科大学により開発された統計解析ソフトEZR(Easy R)を用いて解析した。結果を
図3に示す。
【0060】
図3に示す結果から、ImmuBalance(登録商標)の投与前と比較して投与後では子宮内膜炎患者の子宮内膜組織におけるCD138陽性細胞の数が有意に減少すること示された。また、一般的に、400倍に拡大した子宮内膜組織の10視野のCD138陽性細胞の総数が5個以上である場合に、子宮内膜炎に罹患していると診断されることから、ImmuBalance(登録商標)の投与により子宮内膜炎が治癒したことが示された。
【0061】
次いで、残りの13名の子宮内膜炎患者について、黄体期に子宮内膜組織を採取し、採取された各子宮内膜組織について細菌培養検査を行い、細菌が同定されなかったことを確認した。また、各子宮内膜組織について、上述したのと同様の方法により、CD138陽性細胞の数を10視野で計測した。各子宮内膜炎患者に、第1プロトコルとしてドキシサイクリン(ファイザー社製のビブラマイシン(登録商標))を、1日200mgの投与量で14日間投与した。第1プロトコル終了後7日間以上経過した後、各子宮内膜炎患者の黄体期に再度子宮内膜組織を採取した。採取された各子宮内膜組織について、上述したのと同様の方法により、CD138陽性細胞の数を10視野で計測した。結果を
図4に示す。
【0062】
次いで、上述した13名の子宮内膜炎患者のうち、上述したドキシサイクリンの投与後にCD138陽性細胞が5個/10視野以上観察された10名の子宮内膜炎患者において、第2プロトコルとしてImmuBalance(登録商標)を1日1回、1回当たり1500mgの投与量で、14日間投与した。
【0063】
ImmuBalance(登録商標)の投与後、各子宮内膜炎患者の黄体期に再度子宮内膜組織を採取した採取された各子宮内膜組織について、上述したのと同様の方法により、CD138陽性細胞の数を10視野で計測した。結果を
図4に示す。
【0064】
ImmuBalance(登録商標)の投与前後の10名の子宮内膜炎患者の子宮内膜組織(10視野)におけるCD138陽性細胞の数を、上述したのと同様の方法で解析した。結果を
図4に示す。
【0065】
図4に示す結果から、ドキシサイクリンの投与により子宮内膜組織におけるCD138陽性細胞の数が十分に減少しなかった子宮内膜炎患者においても、ImmuBalance(登録商標)を投与した場合には、その投与前と比較して投与後では子宮内膜炎患者の子宮内膜組織におけるCD138陽性細胞の数が有意に減少すること示された。また、また、ImmuBalance(登録商標)の投与後に、400倍に拡大した子宮内膜組織の10視野のCD138陽性細胞の総数が5個未満となったことから、ImmuBalance(登録商標)の投与により子宮内膜炎が治癒したことが示された。
【0066】
次いで、上述した13名の子宮内膜炎患者のうち、上述したドキシサイクリンの投与後にCD138陽性細胞が5個/10視野未満観察された3名の子宮内膜炎患者において、第2のプロトコルとして抗生物質シプロフロキサシンおよび抗菌薬メトロニダゾールをそれぞれ200mg/日および250mg/日の投与量で、14日間投与した。第2プロトコル終了後、各子宮内膜炎患者の黄体期に再度子宮内膜組織を採取した。採取された各子宮内膜組織について、上述したのと同様の方法により、CD138陽性細胞の数を10視野で計測した。結果を
図5に示す。
【0067】
シプロフロキサシンおよびメトロニダゾールの投与後の3名の子宮内膜炎患者の子宮内膜組織(10視野)におけるCD138陽性細胞の数を、上述したのと同様の方法で解析した。結果を
図5に示す。
【0068】
上述した3名の子宮内膜炎患者では、シプロフロキサシンおよびメトロニダゾールの投与により子宮内膜炎が治癒しなかったことから、さらにImmuBalance(登録商標)を1日1回、1回当たり1500mgの投与量で、14日間投与した。
【0069】
ImmuBalance(登録商標)の投与後、各子宮内膜炎患者の黄体期に再度子宮内膜組織を採取した採取された各子宮内膜組織について、上述したのと同様の方法により、CD138陽性細胞の数を10視野で計測した。結果を
図5に示す。
【0070】
図5に示す結果から、シプロフロキサシンおよびメトロニダゾールの投与により子宮内膜組織におけるCD138陽性細胞の数が十分に減少しなかった子宮内膜炎患者においても、ImmuBalance(登録商標)を投与した場合には、その投与前と比較して投与後では子宮内膜炎患者の子宮内膜組織におけるCD138陽性細胞の数が有意に減少すること示された。また、また、ImmuBalance(登録商標)の投与後に、400倍に拡大した子宮内膜組織の10視野のCD138陽性細胞の総数が5個未満となったことから、ImmuBalance(登録商標)の投与により子宮内膜炎が治癒したことが示された。
本発明によれば、従来の抗生物質等の薬物と比較して天然物により近い材料に由来する物質を用いた子宮内膜炎の改善のための組成物、および該組成物の製造方法を提供することができる。