(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044204
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】抗SARS-CoV-2抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240326BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20240326BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240326BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240326BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240326BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240326BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240326BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240326BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240326BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20240326BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/10 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/14
A61K39/395 S
G01N33/569 L
C12P21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149604
(22)【出願日】2022-09-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、生命科学・創薬研究支援基盤事業、「コムギ無細胞系とAirIDを基盤とした複合体生産・探索・解析技術の支援と高度化」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(71)【出願人】
【識別番号】500409219
【氏名又は名称】学校法人関西医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】谷 英樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】橋口 隆生
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA29
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に結合する新規で有効な抗体の提供。
【解決手段】以下の組み合わせの相補性決定領域(CDR)を有し,かつ,SARS-CoV-2スパイクタンパク質に結合する抗体又はその抗原結合性断片を提供する:特定のアミノ酸配列からなるCDRH1,2,3,CDRL1,2,及び3。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれかの組み合わせの相補性決定領域(CDR)を有し,かつ,SARS-CoV-2スパイクタンパク質又はRBDに結合する抗体又はその抗原結合性断片:
(1)GFRFSISA(配列番号2)のアミノ酸配列からなるCDRH1,
IVVGSGDT(配列番号3)のアミノ酸配列からなるCDRH2,及び
AAPYCGGDCSDGFDI(配列番号4)のアミノ酸配列からなるCDRH3,並びに,
QSVSSSY(配列番号5)のアミノ酸配列からなるCDRL1,
GAS(配列番号6)のアミノ酸配列からなるCDRL2,及び
QQYGNSPWT(配列番号7)のアミノ酸配列からなるCDRL3;
(2)GFTFSISA(配列番号30)のアミノ酸配列からなるCDRH1,
IVVGSGDT(配列番号31)のアミノ酸配列からなるCDRH2,及び
AAPYCGGDCSDGFDI(配列番号32)のアミノ酸配列からなるCDRH3,並びに,
QSVSSSY(配列番号33)のアミノ酸配列からなるCDRL1,
GAS(配列番号34)のアミノ酸配列からなるCDRL2,及び
QQYGNSPWT(配列番号35)のアミノ酸配列からなるCDRL3。
【請求項2】
以下から選択されるいずれかの組み合わせの可変領域を有する抗体又はその抗原結合性断片:
(1)配列番号16に記載されたアミノ酸配列を有するVH,及び,配列番号17に記載されたアミノ酸配列を有するVL;
(2)配列番号38に記載されたアミノ酸配列を有するVH,及び,配列番号39に記載されたアミノ酸配列を有するVL。
【請求項3】
以下から選択されるいずれかの組み合わせの重鎖及び軽鎖を有する,請求項2に記載の抗体又はその抗原結合性断片:
(1)配列番号22に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖,及び,配列番号23に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖;
(2)配列番号40に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖,及び,配列番号41に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖。
【請求項4】
請求項1に記載の抗体の重鎖及び/若しくは軽鎖,又はそれらの抗原結合性断片のアミノ酸配列をコードする核酸分子。
【請求項5】
以下の群から選択されるいずれか1つのポリヌクレオチドを含有する,請求項4に記載の核酸分子:
(1)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を有するVHをコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号15に記載のヌクレオチド配列を有するVLをコードするポリヌクレオチド;
(2)配列番号36に記載のヌクレオチド配列を有するVHをコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号37に記載のヌクレオチド配列を有するVLをコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
以下の群から選択されるいずれか1つのポリヌクレオチドを含有する,請求項4に記載の核酸分子:
(1)配列番号26に記載のヌクレオチド配列を有する重鎖をコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号27に記載のヌクレオチド配列を有する軽鎖をコードするポリヌクレオチド;
(2)配列番号42に記載のヌクレオチド配列を有する重鎖をコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号43に記載のヌクレオチド配列を有する軽鎖をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の核酸分子を有するベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを有する宿主細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の宿主細胞を培養することを含む,請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片の製造方法。
【請求項10】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はRBDとACE2との結合を阻害するための,請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する組成物。
【請求項11】
SARS-CoV-2の細胞への侵入を阻害するための,請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する組成物。
【請求項12】
SARS-CoV-2と結合させるための,請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する,医薬組成物。
【請求項14】
SARS-CoV-2の感染に基づく疾患の治療用又は予防用である,請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する,診断用組成物。
【請求項16】
SARS-CoV-2感染症の診断用である,請求項15に記載の診断用組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する,SARS-CoV-2検出用組成物。
【請求項18】
前記SARS-CoV-2が,RBDにおける,G339D,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505Hの変異を有するSARS-CoV-2である,請求項10~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する,SARS-CoV-2検出用キット。
【請求項20】
イムノクロマト又はELISAである,請求項19に記載の検出用キット。
【請求項21】
サンプル中のSARS-CoV-2の検出方法であって:
前記サンプルと請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片とを接触させること,
前記抗体又はその抗原結合性断片と結合した,前記サンプル中のSARS-CoV-2を検出すること,及び,
SARS-CoV-2が検出されたサンプルについてSARS-CoV-2が存在すると判定することを含む方法。
【請求項22】
被験者のSARS-CoV-2への感染を判定する方法であって,
被験者由来のサンプルと請求項1に記載の抗体又はその抗原結合性断片とを接触させること,及び,
前記抗体又はその抗原結合性断片と結合したSARS-CoV-2が検出された,前記サンプルが由来する被験者を,SARS-CoV-2に感染していると判定することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新型コロナウイルスSARS-CoV-2,特にオミクロン株のスパイクタンパク質に結合する抗体及びその抗原結合性断片に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2は,2019年末に中国の武漢で初めて報告され,その後中国全土,さらには世界中に広く拡大したコロナウイルスの一種である。COVID-19と呼ばれるSARS-CoV-2感染症は,患者のほとんどおいて軽度から中等度の症状である一方で,一部の患者においては重症化して死亡に至るという特徴を有する。現在までに,ワクチンが開発及び承認され,各国で接種が始まっているが,ワクチン接種後の感染事例も報告されており(非特許文献1),ワクチンが完全にウイルス感染を抑制するわけではないと考えられている。
【0003】
ワクチンの開発と並行して,COVID-19治療薬の開発も進められており,治療用抗体についても報告されている(特許文献1)。本発明者らはSARS-CoV-2のRBD(Receptor binding domain)とホスト側のACE2(Angiotensin-converting enzyme 2)との結合を阻害することができ,高い中和活性を有するIGHV1-58パブリック抗体であるUT28K抗体(以下,単にUT28Kとも称する)を開発し,報告している(非特許文献2)。しかし,SARS-CoV-2には複数の変異株が報告されており,中和抗体耐性の株も出現している。特にオミクロン株に対して強い効果を有する治療用抗体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2021/045836号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jocelyn Keehner, M.D.ら,The New England Journal of Medicine;March 23, 2021 DOI: 10.1056/NEJMc2101927
【非特許文献2】Ozawa, Tatsuhikoら,MAbs. 2022 Jan-Dec;14(1):2072455
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,SARS-CoV-2に対する抗体(以下,「抗SARS-CoV-2抗体」という)であって,SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に結合し,特には,感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の変異株に結合することで,それらのSARS-CoV-2とACE2との結合を阻害する抗体,又はそれらのSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻害する抗体を提供することを課題とする。特にオミクロン株に対しても強い中和活性を有する抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
高い中和活性を有するUT28KとRBDの立体構造解析(非特許文献2)により,UT28Kの重鎖CDR2(HCDR2)に位置するS55とN57が,RBDのQ493と水素結合を形成していることが明らかになっている(
図1)。オミクロン株では,Q493がRに変異することで,水素結合の喪失とHCDR2のS55,N57と立体的な障害がおこり,Q493Rと結合できなくなり,その結果,UT28Kのオミクロン株に対する中和活性が弱くなることが示唆されている(非特許文献2)。そこで,本発明者らは,HCDR2のS55及びN57を改変させることで,オミクロン株に対する活性が回復できないかと考えた。
【0008】
また,本発明者らは,HCDR2のS55及びN57以外の部位の改変についても解析を進めた結果,オミクロン変異株に対しても強い中和活性を有し,かつ感染抑制効果を有する抗体を見出すことに成功した。
【0009】
よって,本発明は,オミクロン変異株に対しても強い中和活性を有し,かつ感染抑制効果を有する抗SARS-CoV-2抗体又はその抗原結合性断片及び当該抗体を有効成分として含有する治療薬,診断薬,及びSARS-CoV-2検出用組成物等に関する。
即ち,本発明は,以下を提供する。
[1]以下のいずれかの組み合わせの相補性決定領域(CDR)を有し,かつ,SARS-CoV-2スパイクタンパク質又はRBDに結合する抗体又はその抗原結合性断片:
(1)GFRFSISA(配列番号2)のアミノ酸配列からなるCDRH1,
IVVGSGDT(配列番号3)のアミノ酸配列からなるCDRH2,及び
AAPYCGGDCSDGFDI(配列番号4)のアミノ酸配列からなるCDRH3,並びに,
QSVSSSY(配列番号5)のアミノ酸配列からなるCDRL1,
GAS(配列番号6)のアミノ酸配列からなるCDRL2,及び
QQYGNSPWT(配列番号7)のアミノ酸配列からなるCDRL3;
(2)GFTFSISA(配列番号30)のアミノ酸配列からなるCDRH1,
IVVGSGDT(配列番号31)のアミノ酸配列からなるCDRH2,及び
AAPYCGGDCSDGFDI(配列番号32)のアミノ酸配列からなるCDRH3,並びに,
QSVSSSY(配列番号33)のアミノ酸配列からなるCDRL1,
GAS(配列番号34)のアミノ酸配列からなるCDRL2,及び
QQYGNSPWT(配列番号35)のアミノ酸配列からなるCDRL3。
[2]以下から選択されるいずれかの組み合わせの可変領域を有する抗体又はその抗原結合性断片:
(1)配列番号16に記載されたアミノ酸配列を有するVH,及び,配列番号17に記載されたアミノ酸配列を有するVL;
(2)配列番号38に記載されたアミノ酸配列を有するVH,及び,配列番号39に記載されたアミノ酸配列を有するVL。
[3]以下から選択されるいずれかの組み合わせの重鎖及び軽鎖を有する,上記[2]に記載の抗体又はその抗原結合性断片:
(1)配列番号22に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖,及び,配列番号23に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖;
(2)配列番号40に記載されたアミノ酸配列を有する重鎖,及び,配列番号41に記載されたアミノ酸配列を有する軽鎖。
[4]上記[1]に記載の抗体の重鎖及び/若しくは軽鎖,又はそれらの抗原結合性断片のアミノ酸配列をコードする核酸分子。
[5]以下の群から選択されるいずれか1つのポリヌクレオチドを含有する,上記[4]に記載の核酸分子:
(1)配列番号14に記載のヌクレオチド配列を有するVHをコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号15に記載のヌクレオチド配列を有するVLをコードするポリヌクレオチド;
(2)配列番号36に記載のヌクレオチド配列を有するVHをコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号37に記載のヌクレオチド配列を有するVLをコードするポリヌクレオチド。
【0010】
[6]以下の群から選択されるいずれか1つのポリヌクレオチドを含有する,上記[4]に記載の核酸分子:
(1)配列番号26に記載のヌクレオチド配列を有する重鎖をコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号27に記載のヌクレオチド配列を有する軽鎖をコードするポリヌクレオチド;
(2)配列番号42に記載のヌクレオチド配列を有する重鎖をコードするポリヌクレオチド,及び/又は,配列番号43に記載のヌクレオチド配列を有する軽鎖をコードするポリヌクレオチド。
[7]上記[4]~[6]のいずれかに記載の核酸分子を有するベクター。
[8]上記[7]に記載のベクターを有する宿主細胞。
[9]上記[8]に記載の宿主細胞を培養することを含む,上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片の製造方法。
[10]SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はRBDとACE2との結合を阻害するための,上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する組成物。
【0011】
[11]SARS-CoV-2の細胞への侵入を阻害するための,上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する組成物。
[12]SARS-CoV-2と結合させるための,上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する組成物。
[13]上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する,医薬組成物。
[14]SARS-CoV-2の感染に基づく疾患の治療用又は予防用である,上記[13]に記載の医薬組成物。
[15]上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する,診断用組成物。
【0012】
[16]SARS-CoV-2感染症の診断用である,上記[15]に記載の診断用組成物。
[17]上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する,SARS-CoV-2検出用組成物。
[18]前記SARS-CoV-2が,RBDにおける,G339D,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505Hの変異を有するSARS-CoV-2である,上記[10]~[17]のいずれかに記載の組成物。
[19]上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片を含有する,SARS-CoV-2検出用キット。
[20]イムノクロマト又はELISAである,上記[19]に記載の検出用キット。
【0013】
[21]サンプル中のSARS-CoV-2の検出方法であって:
前記サンプルと上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片とを接触させること,
前記抗体又はその抗原結合性断片と結合した,前記サンプル中のSARS-CoV-2を検出すること,及び,
SARS-CoV-2が検出されたサンプルについてSARS-CoV-2が存在すると判定することを含む方法。
[22]被験者のSARS-CoV-2への感染を判定する方法であって,
被験者由来のサンプルと上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片とを接触させること,及び,
前記抗体又はその抗原結合性断片と結合したSARS-CoV-2が検出された,前記サンプルが由来する被験者を,SARS-CoV-2に感染していると判定することを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】UT28KとSARS-CoV-2(野生型,オミクロン株)のRBDの立体構造解析を示す図である。UT28Kの重鎖CDR2(HCDR2)に位置するS55とN57が,野生型RBDのQ493と水素結合を形成するが,オミクロン株では,Q493がRに変異することで,水素結合の喪失とHCDR2のS55,N57と立体的な障害がおこり,Q493Rと結合できなくなる。
【
図2-1】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)のRBD(野生型,オミクロン株)に対する結合活性をELISAで評価した結果を示す図(結合活性の一覧表)である。〇×は,各変異の有無を示す。各数値は,吸光度450nmの測定値を示す。
【
図2-2】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)のRBD(野生型,オミクロン株)に対する結合活性をELISAで評価した結果を示すグラフである。横軸は抗体の種類を,縦軸は吸光度450nmの測定値を示す。測定はトリプリケートウェルを用い平均値±標準偏差を求めた。
【
図2-3】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)のRBD(野生型,オミクロン株)に対する濃度依存的な結合活性をELISAで評価した結果を示すグラフである。横軸は抗体の濃度(pM)を,縦軸は吸光度450nmの測定値を示す。測定はトリプリケートウェルを用い平均値±標準偏差を求めた。-●-はUT28K抗体の野生型RBDに対する結合活性を,-〇-はUT28K抗体のオミクロン株RBDに対する結合活性を,・・・▲・・・はUT28K-D抗体の野生型RBDに対する結合活性を,・・・△・・・はUT28K-D抗体のオミクロン株RBDに対する結合活性を,それぞれ示す。
【
図3】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)による,SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合阻害実験の結果を示すグラフである。SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合を,各抗SARS-CoV-2 RBD抗体が阻害するか否かを,ELISAにて検証した。横軸は抗SARS-CoV-2 RBD抗体の濃度(nM),縦軸は抗SARS-CoV-2 RBD抗体非存在下で測定された吸光度の値を100とした場合の各抗体存在下における吸光度の値の割合(%)の逆数(阻害%)を示している。測定はトリプリケートウェルを用い平均値±標準偏差を求めた。
【
図4】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)のRBD(野生型,オミクロン株)に対する結合活性をELISAで評価した結果を示す図(結合活性の一覧表)である。〇×は,各変異の有無を示す。各数値は,吸光度450nmの測定値を示す。
【
図5】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)による,SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合阻害実験の結果を示すグラフである。SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合を,各抗SARS-CoV-2 RBD抗体が阻害するか否かを,ELISAにて検証した。横軸は抗SARS-CoV-2 RBD抗体の濃度(nM),縦軸は抗SARS-CoV-2 RBD抗体非存在下で測定された吸光度の値を100とした場合の各抗体存在下における吸光度の値の割合(%)の逆数(阻害%)を示している。測定はトリプリケートウェルを用い平均値±標準偏差を求めた。
【
図6】抗SARS-CoV-2 RBD抗体(改変UT28K)のSARS-CoV-2(武漢型,オミクロン株)感染及び産生に与える影響を調べた結果を示すグラフである。縦軸はウイルス産生量(%)を示し,横軸は抗体濃度(ng/ml)を示す(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
SARS-CoV-2(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)は,中国武漢で発生した肺炎の原因ウイルス(当初の名称は2019-nCoV)として報告された(Zhou,P.ら, Nature 579,270-273(2020).及びWu,F.ら,Nature 579,265-269(2020).)コロナウイルスであり,最初に見つかった武漢型のゲノムが解析され,報告されている(NCBI Reference Sequence:NC_045512.2)。本明細書において,SARS-CoV-2スパイクタンパク質(スパイク)は,SARS-CoV-2のSタンパク質として報告されている1273アミノ酸(配列番号1)(うち1~13番目はシグナル配列)からなるタンパク質から構成され,S1(14~685番目)とS2(686~1273番目)の二つのサブユニットからなる(Lan, J.ら,Nature 581,215-220(2020);Huang,Y.ら,Acta Pharmacol Sin 41,1141-1149(2020)参照)。本明細書における「スパイク」は,好ましくは,スパイクタンパク質全長を意味し,かつ/又はスパイクタンパク質の三量体を意味してもよい。受容体結合ドメイン(RBD)は,S1サブユニットに含まれる319~541番目のアミノ酸からなる部分または同部分からなるペプチドを意味する。また,N末端ドメイン(NTD)は,14~305番目のアミノ酸からなる部分又は同部分からなるペプチドを意味する。本明細書における変異の記載において,アミノ酸の位置はこのSタンパク質におけるアミノ酸の位置を示す。
SARS-CoV-2は,脂質二重層と外膜タンパク質からなるエンベロープウイルスである。SARS-CoV-2はエンベロープに存在するスパイクタンパク質(Sタンパク質)が細胞膜上のACE2受容体に結合したあと,ヒトの細胞への侵入を開始する。Sタンパク質はヒト細胞由来のプロテアーゼによりS1とS2に切断される。その後,S1が受容体であるACE2受容体に結合し,もう一方の断片S2はヒト細胞表面のセリンプロテアーゼであるTMPRSS2(transmembrane protease, serine 2)で切断されて膜融合が進行する。
【0016】
SARS-CoV-2には,最初に見つかった武漢型の他,多くの変異型が報告されており(例えば,Islam,M.R.et al.,Sci Rep;10:14004(2020).参照),かつ,データベースも存在する(例えば,https://nextstrain.org/sars-cov-2/など)。本明細書における抗体が結合する,スパイク又はRBDは,武漢型の他,これらにおいて報告された変異型SARS-CoV-2が有するものであってもよい。「変異型SARS-CoV-2」は,SARS-CoV-2について報告されている変異であればいかなる変異を有していてもよく,例えば,SARS-CoV-2のスパイクにおける変異,特にはRBDにおける変異が挙げられる。本明細書において「変異型スパイク」とは,SARS-CoV-2のスパイクにおける変異を有するスパイクを意味し,「変異型RBD」とは,SARS-CoV-2のRBDにおける変異を有するRBDを意味する。例えば,20B/501Y.V1,VOC 202012/01又はB.1.1.7系統として知られるAlpha株(いわゆる英国型変異株)では,スパイクにおける,H69欠損,V70欠損,Y144欠損,N501Y,A570D,D614G,P681H,T716I,S982A,及びD1118Hの変異が報告されている。また,20C/501Y.V2又はB.1.351系統として知られるBeta株(いわゆる南アフリカ型変異株)では,L18F,D80A,D215G,L242欠損,A243欠損,L244欠損,R246I,K417N,E484K,N501Y,D614G,A701Vの変異が報告されている。また,20J/501Y.V3系統として知られるGamma株(いわゆるブラジル型変異株)では,スパイクにおける,L18F,K417T,E484K,N501Y,H655Yの変異が報告されている。また,20C/S.452R又はB.1.427/9系統として知られるEpsilon株(いわゆるカリフォルニア型変異株)では,スパイクにおける,L452R,D614Gの変異が報告されている。また,B.1.617.1系統として知られるKappa株及びB.1.617.2系統として知られるDelta株(いわゆるインド型変異株)では,スパイクにおける,G142D,E154K,L452R,E484Q,D614G,P681R,及びQ1071H(以上,B1.617.1系統),あるいは,T19R,G142D,157/158欠損,L452R,T478K,D614G,P681R,及びD950N(B.1.617.2系統)の変異が報告されている。更に,B.1.1.529系統として知られるOmicron株(オミクロン株)では,スパイクにおける,例えばG339D,S371L,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505Hの変異が報告されている。
【0017】
本明細書における変異型SARS-CoV-2が有する変異は,これらの変異株において報告されている全て若しくは一部の変異,又はこれらの変異株において報告された変異から選択された任意の2種類以上の組み合わせの変異であってもよい。すなわち,本明細書における変異型SARS-CoV-2は,例えば,L18F,T19R,H69欠損,V70欠損,D80A,G142D,Y144欠損,E154K,157欠損,158欠損,D215G,L242欠損,A243欠損,L244欠損,R246I,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,K417T,N440K,G446S,L452R,S477N,T478K,E484A,E484K,E484Q,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,Y505H,A570D,D614G,H655Y,P681H,P681R,A701V,T716I,D950N,S982A,Q1071H,及びD1118Hから選択される1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,6種類又はそれ以上,7種類又はそれ以上,8種類又はそれ以上,9種類又はそれ以上,10種類又はそれ以上,11種類又はそれ以上,12種類又はそれ以上,13種類又はそれ以上,14種類又はそれ以上,あるいは15種類又はそれ以上の変異を有していてもよい。
【0018】
一例において,本明細書における変異型SARS-CoV-2は,変異型RBDを有していてもよく,例えば,RBDにおける,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,K417T,N439K,N440K,G446S,L452R,A475V,S477N,T478K,E484A,E484K,E484Q,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505Hから選択される1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,6種類又はそれ以上,7種類又はそれ以上,8種類又はそれ以上,9種類又はそれ以上,10種類又はそれ以上,11種類又はそれ以上,12種類又はそれ以上,13種類又はそれ以上,14種類又はそれ以上,あるいは15種類又はそれ以上の変異を有する。変異型SARS-CoV-2が有する変異の一例としては,RBDにおける,K417N,E484K,及びN501Y変異;N439K変異;N440K変異;A475V変異;E484K変異;N501Y変異;L452R変異;L452R及びE484Q変異;K417T,E484K,及びN501Y変異;L452R及びT478K変異;及び,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505H変異である。
【0019】
本明細書全体にわたって,「SARS-CoV-2」の語は,そのように解することが不適合である場合を除き,武漢型(非変異)SARS-CoV-2及び上述の変異型SARS-CoV-2から選択されるいずれか,または,これらから選択される複数のSARS-CoV-2を意味してもよい。例えば,本明細書における,SARS-CoV-2は,武漢型,Alpha株,Beta株,Gamma株,Epsilon株,Kappa株,Delta株,及びOmicron株から選択される,1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,あるいは,6種類又はそれ以上であってもよく,あるいは,これらの全てを意味していてもよい。
【0020】
一態様において,本発明の抗体は,SARS-CoV-2スパイク,NTD,及びRBDの少なくとも一つと特異的に結合し,より好ましくは,SARS-CoV-2スパイク及び/又はRBDと特異的に結合し,更に好ましくは,SARS-CoV-2 RBDと特異的に結合する。SARS-CoV-2スパイクの中でRBDが細胞との結合に重要であることが報告されている(Science(2020)Vol.367,Issue6483,pp.1260-1263,及びScience(2020)Vol.369,Issue6504,pp.650-655参照)。本明細書において,RBDに結合するとは,SARS-CoV-2スパイク中のRBD部分に結合することを意味してもよいし,RBDを構成するアミノ酸配列からなるペプチドに結合することを意味してもよい。
【0021】
本発明の抗体は,スパイク(好ましくは,SARS-CoV-2 RBD)と特異的に結合する。本明細書において,抗体又はその免疫反応性断片(抗原結合性断片)が「特異的に」結合する(認識する)とは,その抗体又はその抗原結合性断片が他のタンパク質やペプチドに対する親和性よりも,特定された抗原(例えば,スパイク又はRBD)に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで,「実質的に高い親和性で結合する」とは,所望の測定装置又は方法によって,目的とする特定のタンパク質やペプチドを他のタンパク質やペプチドから区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味する。例えば,実質的に高い親和性は,ELISA又はEIAにより検出された強度(例えば,蛍光強度)として,3倍以上,4倍以上,5倍以上,6倍以上,7倍以上,8倍以上,9倍以上,10倍以上,20倍以上,30倍以上,40倍以上,50倍以上,100倍以上であることを意味していてもよい。
【0022】
ある態様において,本発明の抗体は,変異型スパイク及び/又は変異型RBD(好ましくはRBD,本段落において,以下同様)と特異的に結合する。また,好ましくは,本発明の抗体は,これらの変異型スパイク及び/又は変異型RBDと結合し,かつ,武漢型(非変異型,野生型とも称する)SARS-CoV-2のスパイク及び/又はRBDとも結合する。更に,本発明の抗体は,異なる変異パターンを有する複数種類の変異型スパイク及び/又は変異型RBDと結合してもよい。
【0023】
本明細書において,「異なる変異パターンを有する」とは,2種類以上のSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDがそれぞれ異なる変異を有することを意味する。ここで,「異なる変異」とは,変異部位及び/又は変異後のアミノ酸が異なることを意味する。2種類のSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDの少なくとも一方が複数の変異を有する場合,それらが共通する変異を有していても,それらの2種類の間で変異部位及び/又は変異後のアミノ酸が異なる変異が存在する場合には,異なる変異パターンを有すると解される。
【0024】
例えば,本抗体は,武漢型;K417N,E484K,及びN501Y変異型;N439K変異型;N440K変異型;A475V変異型;E484K変異型;N501Y変異型;L452R変異型;L452R及びE484Q変異型;K417T,E484K,及びN501Y変異型;L452R及びT478K変異型;及び,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505H変異型のSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDから選択される1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,6種類又はそれ以上,7種類又はそれ以上,あるいは全てに結合してもよい。これに加えて,本発明の抗体は,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,K417T,N439K,N440K,G446S,L452R,A475V,S477N,T478K,E484A,E484K,E484Q,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505Hから選択される1種類又はそれ以上の変異を有する,SARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDの,1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,6種類又はそれ以上,あるいは7種類又はそれ以上に結合してもよい。あるいは,本発明の抗体は,上述の武漢型,Alpha株,Beta株,Gamma株,Epsilon株,Kappa株,Delta株,及びOmicron株から選択される1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,又は全てのSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDに結合してもよい。
【0025】
本発明の抗体のこれらの変異株又は変異型RBDへの結合力は,好ましくは武漢型と同程度である。例えば,本抗体の,K417N,E484K,及びN501Y変異;N439K変異;N440K変異;A475V変異;E484K変異;N501Y変異;L452R変異;L452R及びE484Q変異;G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505H変異を有するRBD(以下,それぞれ,「RBD K417N,E484K,N501Y」,「RBD N439K」,「RBD N440K」,「RBD A475V」,「RBD E484K」,「RBD N501Y」,「RBD L452R」,「RBD L452R,E484Q」,「RBD G339D,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505H」という)への結合は,武漢型(WT)RBDへの結合に対して,好ましくは90%以上,91%以上,92%以上,93%以上,94%以上,95%以上,96%以上,97%以上,98%以上,99%以上、若しくは100%,又は100%以上であってもよい。
【0026】
本明細書において,被検抗体が,スパイク又はRBDと「結合する(認識する)」か否かは,結合を調べようとするスパイク及びRBDへの当該被検抗体の結合を以下の方法により測定することにより行うことができる。抗体とタンパク質又はペプチドとの結合の測定方法としては,例えば,EIA法,ELISA法,FACS法,共免疫沈降法,プルダウンアッセイ法,ウェスタンブロッティング法,ホモバイファンクショナルクロスリンカー若しくはヘテロバイファンクショナルクロスリンカーを利用するクロスリンク法,ラベル転移反応法,相互作用マッピング法,表面プラズモン共鳴法,FRET(Fluorescence resonance energy transfer)法,BIACORE法,AlphaScreen(登録商標)やAlphaLISA(登録商標)などのAlphaPPIアッセイ(PerkinElmer)など,多様な方法が本技術分野において周知であり,目的とする結合の検出に応じて適宜好ましい方法を採用することができる。
【0027】
本明細書において,「特異的に結合する(認識する)」とは,抗体が結合することが望ましくない物質又はその部分(例えば,人体内に存在するタンパク質等)には結合せず,SARS-CoV-2,スパイク,及び/又はRBDに結合することを意味し,好ましくは,SARS-CoV-2に由来する物質又はその部分(スパイク,RBDなど)のみに結合することを意味する。必要に応じて,「特異的に結合する(認識する)」の語は,SARS-CoV-2が有する任意の物質又はその部分(例えば,NTDなど)には結合せず,RBDのみに結合すると解してもよい。被検抗体が,スパイク又はRBDと「特異的に結合する(認識する)」か否かは,結合を調べようとするスパイク及びRBDへの当該被検抗体の結合と,その他のペプチド,タンパク質又はその他の抗原(例えば,抗体が結合することが望ましくない物質)への当該被検抗体の結合とを調べることにより判定することができる。目的とするスパイク及び/又はRBDと結合し,その他のペプチド,タンパク質,又はその他の抗原と結合しない場合,当該被検抗体は当該目的のスパイク及び/又はRBDと特異的に結合する(認識する)と判定される。
【0028】
SARS-CoV-2は,RBDとヒト細胞表面のACE2との結合を介してヒト細胞内に侵入する。よって,本発明の抗体は,好ましくは,SARS-CoV-2,又はそのスパイク若しくはRBDと,ACE2(好ましくは,ヒトACE2,本明細書全体にわたって同様)との結合を阻害する抗体である。また,本発明の抗体は,好ましくは,変異型SARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDと,ACE2との結合を阻害する抗体である。ACE2との結合を阻害する抗体は,好ましくは,武漢型SARS-CoV-2,そのスパイク若しくはRBDと,ACE2との結合も阻害する。また,本発明の抗体は,異なる変異パターンを有する複数種類のSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDと,ACE2との結合を阻害してもよい。
【0029】
例えば,本抗体は,武漢型,K417N,E484K,及びN501Y変異型,N439K変異型,N440K変異型,A475V変異型,E484K変異型,N501Y変異型,L452R変異型,L452R及びE484Q変異型,K417T,E484K,及びN501Y変異型,L452R及びT478K変異型,及び,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,N440K,G446S,S477N,T478K,E484A,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505H変異型のSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDから選択される1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,6種類又はそれ以上,7種類又はそれ以上,あるいは全てとACE2との結合を阻害してもよい。これに加えて,本発明の抗体は,G339D,S371L,S373P,S375F,K417N,K417T,N439K,N440K,G446S,L452R,A475V,S477N,T478K,E484A,E484K,E484Q,Q493R,G496S,Q498R,N501Y,及びY505Hから選択される1種類又はそれ以上の変異を有する,SARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDの,1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,5種類又はそれ以上,6種類又はそれ以上,あるいは7種類又はそれ以上とACE2との結合を阻害してもよい。あるいは,本発明の抗体は,上述の武漢型,Alpha株,Beta株,Gamma株,Epsilon株,Kappa株,Delta株,及びOmicron株から選択される1種類又はそれ以上,2種類又はそれ以上,3種類又はそれ以上,4種類又はそれ以上,又は全てのSARS-CoV-2,スパイク,若しくはRBDとACE2との結合を阻害してもよい。
【0030】
被検抗体がSARS-CoV-2のACE2タンパク質への結合を阻害するか否かは,例えば,試験しようとするSARS-CoV-2スパイク又はRBDを固層化したウエルに被検抗体と標識ACE2との混合溶液,もしくは被検抗体を含まない標識ACE2溶液を添加し,一定時間静置後に洗浄し,固層化された前記SARS-CoV-2スパイク又はRBDに結合したACE2の標識を測定することにより決定することができる。抗体を含まない場合の標識の強度等と比較して,抗体を含んだ場合の標識の強度が弱い場合には,当該被検抗体は当該SARS-CoV-2のACE2への結合を阻害する(中和する)と判定することができる。例えば,in vitroにおける当該阻害実験のIC50は,20μg/ml以下,10μg/ml以下,5μg/ml以下,1μg/ml以下,0.6μg/ml以下,0.5μg/ml以下,0.35μg/ml以下,0.2μg/ml以下,0.15μg/ml以下とすることができ,あるいは,0.1~20μg/ml,0.2~10μg/ml,0.2~5μg/ml,0.2~1μg/mlとすることができる。
【0031】
好ましくは,本発明の抗体は,SARS-CoV-2の生ウイルスによる,ACE2及びTMPRSS2共発現細胞への感染を抑制する。例えば,本発明の抗体は,SARS-CoV-2の武漢株(hCoV-19/Japan/TY/WK-521/2020, GSAID ID: EPI_ISL_408667)やオミクロン株(hCoV-19/Japan/TY38-873, GSAID ID: EPI_ISL_7418017)由来の生ウイルスによる,ACE2及びTMPRSS2共発現細胞への感染を抑制する抗体である。被検抗体が,SARS-CoV-2による,ACE2及びTMPRSS2共発現細胞への感染を抑制するか否かは,被検抗体とSARS-CoV-2をチューブ内で混合し,37℃で1時間反応させた後,VeroE6/TMPRSS2細胞に添加し,37℃で2時間吸着させ,その後,吸着しなかった被検抗体とウイルスを含む混合液を完全に除き,再び被検抗体を含む培養培地を添加し,2日間培養した細胞の培養上清のウイルス感染価をプラークアッセイ法により測定することにより決定することができる。被検抗体非存在下と比較して,被検抗体存在下においてプラークが減少するか,又はプラークが存在しない場合には,当該被検抗体はSARS-CoV-2による,ACE2及びTMPRSS2共発現細胞への感染を抑制すると判定される。あるいは,被検抗体が,SARS-CoV-2による,ACE2及びTMPRSS2共発現細胞への感染を抑制するか否かは,VeroE6/TMPRSS2細胞に被検抗体を添加してSARS-CoV-2を感染させ,37℃で1時間の培養後に培養上清を除き,再び被検抗体を添加して24時間培養し,培養した細胞の培養上清のウイルス感染価をリアルタイムPCR法によりウイルスゲノムRNA量を測定することにより決定することができる。被検抗体存在下においてウイルスゲノムRNA量が減少するか,又は存在しない場合には,当該被検抗体はSARS-CoV-2による,ACE2及びTMPRSS2共発現細胞への感染を抑制すると判定される。
【0032】
通常は,抗体による阻害や抑制は完全な阻害や抑制をもたらすものではなく,よって,本明細書における,「結合を阻害する」や「感染を抑制する」の語は,100%の阻害や抑制をもたらすことを意味するものではない。すなわち,「結合を阻害する」や「感染を抑制する」とは,当該抗体が存在しない場合又はSARS-CoV-2とは結合しない抗体が存在する場合と比較して,結合が阻害されること,又は感染が抑制されることを意味するものである。
【0033】
本発明の抗体は,本発明の抗体はヒト抗体の他,該ヒト抗体の一部(例えば,定常領域,フレームワーク領域,又はその一部)を非ヒト動物の抗体由来の配列と置き換えた動物化抗体であってもよい。非ヒト動物としては,例えば,マウス,ラット,ハムスター,モルモット,ラビット,イヌ,ネコ,サル,ヒツジ,ヤギ,ラクダ,ニワトリ,アヒル等の抗体を挙げることができる。
【0034】
本発明の抗体のイムノグロブリンクラスは特に限定されるものではなく,IgG,IgM,IgA,IgE,IgD,又はIgYのいずれのイムノグロブリンクラス(アイソタイプ)であってもよく,好ましくはIgGである。また,本発明の抗体がIgGの場合,いずれのサブクラス(IgG1,IgG2,IgG3,又はIgG4)であってもよい。また,本発明の抗体は,モノスペシフィック,バイスペシフィック(二重特異性抗体),トリスペシフィック(三重特異性抗体)(例えば,WO1991/003493号),又はマルチスペシフィック(多重特異性抗体)であってもよい。また,Fc領域は抗体の機能性を向上させるための変異が導入されていてもよく,例えば,一態様において,ADE活性を低下させるためFc領域にLALA変異(L234F,L235E変異)が修飾された抗体であってもよい。さらに,一態様において,Fc領域に抗体の半減期を伸ばすことが報告されているM428L及びN434S変異や,M252Y,S254T及びT256E変異,T25Q及びM428L変異が導入された抗体であってもよい。
【0035】
抗体はその可変領域(特には,CDRs)が結合特性を付与していることが知られており,完全抗体でない抗体断片であってもその結合特性を利用可能であることが当業者に広く知られている。本明細書において,「抗原結合性断片」とは,抗体の一部分(部分断片)を含むタンパク質又はペプチドであって,抗体の抗原への作用(抗原結合性)を保持するタンパク質又はペプチドを意味する。このような抗原結合性断片としては,例えば,F(ab’)2,Fab’,Fab,Fab3,一本鎖Fv(以下,「scFv」という),(タンデム)バイスペシフィック一本鎖Fv(sc(Fv)2),一本鎖トリプルボディ,ナノボディ,ダイバレントVHH,ペンタバレントVHH,ミニボディ,(二本鎖)ダイアボディ,タンデムダイアボディ,バイスペシフィックトリボディ,バイスペシフィックバイボディ,デュアルアフィニティリターゲティング分子(DART),トリアボディ(又はトリボディ),テトラボディ(又は[sc(Fv)2]2),若しくは(scFv-SA)4)ジスルフィド結合Fv(以下,「dsFv」という),コンパクトIgG,重鎖抗体,又はそれらの重合体を挙げることができる(Nature Biotechnology, 29(1):5-6 (2011);Maneesh Jain et al., TRENDS in Biotechnology, 25(7)(2007):307-316;及び,Christoph Steinら,Antibodies(1):88-123(2012)参照)。本明細書において,抗原結合性断片は,モノスペシフィック,バイスペシフィック(二重特異性),トリスペシフィック(三重特異性),及びマルチスペシフィック(多重特異性)のいずれであってもよい。本明細書において,特にそのように解釈することが不整合である場合を除き,「抗体」の語は抗体の抗原結合性断片をも含むことを意図している。
【0036】
CDR配列の決定の仕方は,Kabatらのナンバリングシステム(Kabat,E.ら,U.S. Department of Health and Human Services,(1983)及びその後続版),Chothiaらのナンバリングシステム(Chothia及びLesk,J.Mol.Biol.,196:901-917(1987)),Honeggerらのナンバリングシステム(AHo’s)(Honegger,Aら,J.Mol.Biol.309:657-670(2001)),contact定義法(MacCallum et al.,J Mol Biol,262(5):732-745(1996))、IMGTデータベース(http://www.imgt.org/)によるナンバリングシステム,又は既知の配列データベースへのアラインメントにより決定することができる(Lars Niebaら、Protein Engineering, 10(4):435-444(1997))。
【0037】
一態様において,本発明は,以下に記載する重鎖CDR及び軽鎖CDRの組み合わせのうち,少なくともCDRH1及びCDRH2を有し,さらに好ましくは6つ全ての組み合わせを有し,かつ,SARS-CoV-2スパイク及び/又はRBD(好ましくはSARS-CoV-2 RBD)に特異的に結合する抗体である。
【0038】
【0039】
一態様において,本発明は,以下に記載する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の組み合わせを有する抗体である。表中,アミノ酸配列(AA)中の下線部はそれぞれCDR1及びCDR2及びCDR3の領域を示す。
【0040】
【0041】
【0042】
例えば,本発明の抗体は以下の重鎖(HC)アミノ酸配列の重鎖,及び軽鎖(LC)アミノ酸配列の軽鎖を有する抗体であってもよい。以下において,下線はシグナル配列を示す。よって,成熟タンパク質としての抗体は,下線部分のアミノ酸配列は有さなくてもよい。
【0043】
13_32/WT HC(配列番号22)
MDWIWRILFLVGAATGAHSQMQLVQSGPEVKKPGTSVKVSCKASGFRFSISAVQWVRQARGQRLEWIGWIVVGSGDTNYAQKFQERVTITRDMSTSTAYMELSSLRFEDTAVYYCAAPYCGGDCSDGFDIWGQGTMVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0044】
13_32/WT LC(配列番号23)
METPAQLLFLLLLWLPDTTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGNSPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0045】
N57E+T28R HC(配列番号24)
MDWIWRILFLVGAATGAHSQMQLVQSGPEVKKPGTSVKVSCKASGFRFSISAVQWVRQARGQRLEWIGWIVVGSGETNYAQKFQERVTITRDMSTSTAYMELSSLRFEDTAVYYCAAPYCGGDCSDGFDIWGQGTMVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0046】
N57E+T28R LC(配列番号25)
METPAQLLFLLLLWLPDTTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGNSPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0047】
2_SD/WT HC(配列番号40)
MDWIWRILFLVGAATGAHSQMQLVQSGPEVKKPGTSVKVSCKASGFTFSISAVQWVRQARGQRLEWIGWIVVGSGDTNYAQKFQERVTITRDMSTSTAYMELSSLRFEDTAVYYCAAPYCGGDCSDGFDIWGQGTMVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0048】
2_SD/WT LC(配列番号41)
METPAQLLFLLLLWLPDTTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSYLAWYQQKPGQAPRLLIYGASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQYGNSPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0049】
本明細書において,アミノ酸は一文字表記で表される。具体的には,Aはアラニン,Lはロイシン,Rはアルギニン,Kはリシン,Nはアスパラギン,Mはメチオニン,Dはアスパラギン酸,Fはフェニルアラニン,Cはシステイン,Pはプロリン,Qはグルタミン,Sはセリン,Eはグルタミン酸,Tはトレオニン,Gはグリシン,Wはトリプトファン,Hはヒスチジン,Yはチロシン,Iはイソロイシン,Vはバリンを表す。本明細書において,「XNY」(X及びYはアミノ酸一文字表記;Nは自然数)は,N位のアミノ酸Xがアミノ酸Yに置換されていることを示す。
【0050】
別の態様において,本発明は,前記抗体又はその抗原結合性断片と,SARS-CoV2スパイクタンパク質又はRBDへの結合において競合する抗体に関する。被検抗体が,前記抗体又はその抗原結合性断片と,SARS-CoV2スパイクタンパク質又はRBDへの結合において競合するか否かは,標識化された前記抗体又はその抗原結合性断片を用いて,被検抗体と共に固相化された抗原(SARS-CoV2スパイクタンパク質又はRBD,本段落において以下同様)に接触させることにより決定することができる。コントロールとして,標識化された前記抗体又はその抗原結合性断片を単独で(被検抗体非存在下で)抗原に接触させる。被検抗体を抗原に接触させた後,必要に応じて洗浄し,抗原に結合した標識化された前記抗体又はその抗原結合性断片の標識量をコントロールと,被検抗体存在下とで比較する。被検抗体の存在下で抗原に接触させた場合の標識化された前記抗体又はその抗原結合性断片の抗原への結合量が,コントロールにおける標識化された前記抗体又はその抗原結合性断片の抗原への結合量よりも少ない場合には,当該被検抗体は,当該実験において用いられた標識化された前記抗体又はその抗原結合性断片と競合すると決定することができる。
【0051】
抗原への結合試験は,適宜上述のRBD等への結合を測定する方法に準じて行うことができる。例えば,抗体と抗原との結合の測定は,例えば,EIA法,ELISA法,FACS法,共免疫沈降法,プルダウンアッセイ法,ファーウェスタンブロッティング法,ホモバイファンクショナルクロスリンカー若しくはヘテロバイファンクショナルクロスリンカーを利用するクロスリンク法,ラベル転移反応法,相互作用マッピング法,表面プラズモン共鳴法,FRET(Fluorescence resonance energy transfer)法,BIACORE法,AlphaScreen(登録商標)やAlphaLISA(登録商標)などのAlphaPPIアッセイ(PerkinElmer)など,多様な方法が本技術分野において周知であり,適宜好ましい方法を採用することができる。
【0052】
更に別の態様において,本発明は,前記抗体又はその抗原結合性断片と,同じエピトープを認識する抗体に関する。例えば,13_32/WT抗体の場合,SARS-CoV-2オミクロン株 RBDのA475,G476,S477,T478,F486,N487,Y489及びQ493と相互作用することから,13_32/WT抗体と同じエピトープを認識する抗体は,エピトープとしてこれらのアミノ酸残基を認識する抗体である。例えば,13_32/WT抗体と同じエピトープを認識する抗体は,そのVHのS55,N57,D104,C105,S106,及びD107のアミノ酸残基が,RBDのA475,G476,S477,T478,F486,N487,Y489及びQ493のアミノ酸残基と結合してもよい。
【0053】
(核酸分子)
別の態様において,本発明は,上述の本発明の抗体又はその抗原結合性断片をコードするポリヌクレオチドを有する核酸分子に関する。一態様において,本発明は,上述の表2に記載された重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の核酸配列を有する核酸分子である。また,一例において,本発明は,配列番号26又は28に記載の核酸配列を有する重鎖をコードするDNAを含む核酸分子,あるいは/並びに,それぞれ,配列番号27又は29に記載の核酸配列を有する軽鎖をコードするDNAを含む核酸分子である。
【0054】
更に,本発明は,前記核酸分子を有するベクターを包含する。このようなベクターとしては,抗体の発現に利用可能なベクターであれば特に制限されるものではなく,適切なウイルスベクター又はプラスミドベクターなどを使用する宿主に応じて選択することができる。別の態様において,本発明は,前記ベクターを含有する宿主細胞に関する。宿主細胞としては,抗体の発現に利用可能な宿主細胞であれば特に制限されるものではなく,哺乳類細胞(マウス細胞,ラット細胞,ハムスター細胞,ウサギ細胞,ヒト細胞など),酵母,微生物(大腸菌など)を挙げることができる。
【0055】
本発明の核酸は,上述において得られた抗体を産生するハイブリドーマからクローニングするか,あるいは,上述において得られた抗体又はその抗原結合性断片のアミノ酸配列を基に,適宜核酸配列を設計することにより得ることができる。本発明のベクターは,得られた核酸を適宜発現に適したベクターに組み込むことにより得ることができる。本発明のベクターは,本発明の核酸の他,発現に必要な領域(プロモーター,エンハンサー,ターミネーター等)を含んでいてもよい。また,本発明の宿主細胞は,本発明のベクターを適切な細胞株(例えば,動物細胞,昆虫細胞,植物細胞,酵母,大腸菌等の微生物)に導入することにより得ることができる。
【0056】
(抗体の製造)
本発明の抗体は,本明細書記載の配列に基づき適宜設計して作成することができる。例えば,本明細書記載の可変領域(VR)を有する抗体は,当該抗体をコードする核酸配列を適宜産生細胞に導入して抗体を産生させることができる。また,例えば,本明細書記載のCDRを有する抗体の場合,当該配列を有する重鎖及び軽鎖をコードする核酸配列を設計し,当該核酸配列を既報に基づいて調製後,CHO細胞などの産生細胞に導入した後,SARS-CoV-2スパイクに結合するクローンを選択することができる。具体的には,当該細胞を培養後,培養上清を採取し,上清中の抗体のSARS-CoV-2スパイクへの結合を測定することによりSARS-CoV-2スパイクへ結合するクローンを選択する。選択された細胞を培養して本発明の抗体を取得することができる。
【0057】
得られた抗体は,均一にまで精製することができる。抗体の分離,精製は通常のタンパク質で使用されている分離,精製方法を使用することができる。例えば,アフィニティークロマトグラフィ等のカラムクロマトグラフィ,フィルター,限外濾過,塩析,透析,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動,等電点電気泳動等を適宜選択,組み合わせることにより,抗体を分離,精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory,1988)。アフィニティークロマトグラフィに用いるカラムとしては,例えば,プロテインAカラム,プロテインGカラムを挙げることができる。更に,抗体のクラスによらず,SARS-CoV-2固相化カラム,サイズ排除クロマトグラフィ,イオン交換クロマトグラフィ,疎水相互作用クロマトグラフィ等を用いることもできる。また,クロマトグラフィをミックスモードとすることもできる。
【0058】
(医薬組成物(治療薬,予防薬)及び治療方法)
また,別の態様において,本発明は,上述の本発明の抗体又はその抗原結合性断片を有効成分として含有する医薬組成物に関する。本発明の抗体又はその抗原結合性断片は,必要により精製した後,常法に従って製剤化して,医薬組成物とすることができる。本発明の医薬組成物の対象疾患は,コロナウイルス感染症であり,例えば,コロナウイルス,特には,SARS-CoV,MERS-CoV,若しくはSARS-CoV-2が原因のウイルス性疾患,又はそれに起因する疾患である。よって,本発明の医薬組成物は,これらの疾患又は障害の予防薬,治療薬,進行抑制剤又は改善薬とすることができる。あるいは,本発明は,前記医薬組成物を製造するための,本発明の抗体又はその抗原結合性断片の使用に関する。あるいは,本発明は,本発明の抗体又はその抗原結合性断片の,コロナウイルス感染症の治療若しくは予防のための使用を含む。更に,本発明は,本発明の抗体又はその抗原結合性断片を投与することを含む,コロナウイルス感染症の治療方法若しくは予防方法に関する。コロナウイルス感染症は,好ましくは,ヒトコロナウイルス感染症である。特に好ましくは,ヒトコロナウイルスオミクロン株感染症である。
【0059】
本発明の医薬組成物は,患者に投与することができる製剤であれば経口又は非経口のいかなる製剤を採用してもよい。非経口投与のための組成物としては,例えば,注射剤,点鼻剤,吸入剤,点眼剤等を挙げることができる。好ましくは,注射剤である。本発明の医薬組成物の剤形は,例えば,液剤又は凍結乾燥製剤を挙げることができる。本発明の医薬組成物を注射剤として使用する場合,必要に応じて,プロピレングリコール,エチレンジアミン等の溶解補助剤,リン酸塩等の緩衝剤,塩化ナトリウム,グリセリン等の等張化剤,亜硫酸塩等の安定剤,フェノール等の保存剤,リドカイン等の無痛化剤等の添加物(「医薬品添加物事典」薬事日報社,「Handbook of Pharmaceutical Excipients Fifth Edition」APhA Publications社参照)を加えることができる。また,本発明の医薬組成物を注射剤として使用する場合,保存容器としては,アンプル,バイアル,プレフィルドシリンジ,ペン型注射器用カートリッジ,及び,点滴用バッグ等を挙げることができる。
【0060】
例えば,本発明の医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)は,注射剤として利用する場合,静脈注射剤,皮下注射剤,皮内注射剤,筋肉注射剤,点滴注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は,公知の方法に従って,例えば,上記抗体等を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解,懸濁又は乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては,例えば,生理食塩水,ブドウ糖,ショ糖,マンニトール,その他の補助薬を含む等張液等が用いることができ,適当な溶解補助剤,例えば,アルコール(例,エタノール),ポリアルコール(例,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール),非イオン界面活性剤〔例,ポリソルベート80,ポリソルベート20,HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等を添加することができる。油性液としては,例えば,ゴマ油,大豆油などを用いることができ,溶解補助剤として安息香酸ベンジル,ベンジルアルコール等を添加することができる。調製された注射液は,通常,適当なアンプル,バイアル,シリンジに充填される。また,本発明の抗体又はその抗原結合性断片に適当な賦形剤を添加することにより,凍結乾燥製剤を調製し,用時,注射用水,生理食塩水などで溶解して注射液とすることもできる。なお,一般的に抗体などのタンパク質の経口投与は消化器により分解されるため困難とされるが,抗体断片や修飾した抗体断片と剤形の創意工夫により,経口投与の可能性もある。経口投与の製剤としては,例えば,カプセル剤,錠剤,シロップ剤,顆粒剤等を挙げることができる。
【0061】
本発明の医薬組成物は,活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好適である。このような投薬単位の剤形としては,注射剤(アンプル,バイアル,プレフィルドシリンジ)が例示され,投薬単位剤形当たり通常5~500mg,5~100mg,10~250mgの本発明の抗体又はその抗原結合性断片を含有していても良い。
【0062】
本発明の抗体や医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)の投与は,局所的であってもよく,全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく,上述のとおり非経口的又は経口的に投与される。非経口的投与経路としては,眼内,皮下,腹腔内,血中(静脈内,若しくは動脈内)又は脊髄液への注射又は点滴等が挙げられ,好ましくは,眼内又は血中への投与である。本発明の医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)は,一時的に投与してもよいし,持続的又は断続的に投与してもよい。例えば,投与は,1分間~2週間の持続投与することもできる。また,本発明の抗体は,単独で投与されてもよいし,他の薬剤と共に併用により投与されてもよい。
【0063】
本発明の医薬組成物の投与量は,所望の治療効果又は予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く,症状,性別,年齢等により適宜決定することができる。本発明の医薬組成物の投与量は,例えば,血管新生が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の治療効果又は予防効果を指標として決定することができる。例えば,血管新生が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の患者の予防及び/又は治療のために使用する場合には,本発明の医薬組成物の有効成分の1回量として,通常0.01~20mg/kg体重程度,好ましくは0.1~10mg/kg体重程度,さらに好ましくは0.1~5mg/kg体重程度を,1月1~10回程度,好ましくは1月1~5回程度,静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与及び経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には,その症状に応じて増量又は投与回数を増加させてもよい。
【0064】
(診断用・検出用組成物)
SARS-CoV2感染症の診断及びSARS-CoV2の検出は,前記抗体又はその抗原結合性断片を用いて,ELISA,ラジオイムノアッセイ,イムノクロマト,免疫組織化学的方法により行うことができる。抗体又はその抗原結合性断片は,必要に応じて標識されていてもよい。標識との結合は当分野において一般的な方法により行うことができる。例えば,蛍光標識する場合,タンパク質又はペプチドをリン酸緩衝液で洗浄した後,DMSO,緩衝液等で調整した色素を加え,混合した後室温で10分間静置することにより標識を結合させることができる。また,市販の標識キットとして,ビオチン標識キット(Biotin Labeling Kit-NH2,Biotin Labeling Kit-SH:株式会社同仁化学研究所),アルカリフォスファターゼ標識用キット(Alkaline Phosphatase Labeling Kit-NH2,Alkaline Phosphatase Labeling Kit-SH:株式会社同仁化学研究所),ペルオキシダーゼ標識キット(Peroxidase Labeling Kit-NH2,Peroxidase Labeling Kit-NH2:株式会社同仁化学研究所),フィコビリプロテイン標識キット(Allophycocyanin Labeling Kit-NH2,Allophycocyanin Labeling Kit-SH,B-Phycoerythrin Labeling Kit-NH2,B-Phycoerythrin Labeling Kit-SH,R-Phycoerythrin Labeling Kit-NH2,R-Phycoerythrin Labeling Kit-SH:株式会社同仁化学研究所),蛍光標識キット(Fluorescein Labeling Kit-NH2,HiLyte Fluor(登録商標) 555 Labeling Kit-NH2,HiLyte Fluor(登録商標) 647 Labeling Kit-NH2:株式会社同仁化学研究所),DyLight547,DyLight647(テクノケミカル株式会社),Zenon(登録商標)Alexa Fluor(登録商標)抗体標識キット,Qdot(登録商標)抗体標識キット(インビトロゲン社),EZ-Label Protein Labeling Kit(フナコシ株式会社)等を用いて標識することもできる。
【0065】
前記診断用組成物又は検出用組成物を用いた診断及び検出は,ELISA,イムノクロマトなどの方法で行うことができる。本明細書における検出や測定は,定量的,反定量的,定性的であってもよい。診断/検出方法において使用するサンプルとしては,例えば,生検として被験者から採取した組織試料または液体を使用することができる。使用される検体は,本発明の測定の対象となるものであれば特に限定はなく,例えば,組織,血液,血漿,血清,リンパ液,尿,漿液,髄液,関節液,眼房水,涙液,唾液,口腔内/鼻腔内洗浄液またはそれらの分画物若しくは処理物を挙げることができる。また,本発明の方法において使用する患者由来の試料は,測定試験に先立ち前処理されたものであってもよいし,患者から採取した検体をそのまま使用してもよい。診断方法は,適宜診断のための情報を提供する方法,又は,SARS-CoV2感染症の状態又は進行をモニターする方法であってもよい。
【0066】
(検出用キット)
本発明のキットは,SARS-CoV2と特異的に結合する第一抗体が固定化した,固相,ハプテン,磁気ビーズ及び不溶性担体からなる群より選択される担体を含むことを特徴とする免疫化学測定のキットである。また,本発明のキットは,適宜標識されたSARS-CoV2と結合する抗体を含んでいてもよい。
【実施例0067】
以下,実験例/実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお,本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0068】
UT28KとRBDの立体構造解析(非特許文献2)により,UT28Kの重鎖CDR2(HCDR2)に位置するS55とN57が,RBDのQ493と水素結合を形成していることが明らかになっている(
図1)。
Omicron株では,Q493がRに変位することで,水素結合の喪失とHCDR2のS55,N57と立体的な障害がおこり,Q493Rと結合できなくなり,その結果,Omicron株に対しての活性が弱くなることが示唆されている(非特許文献2)。
そこで,本発明者らは,HCDR2のS55及びN57を改変させることで,Omicron株に対する活性が回復できないかと考えた。
【0069】
実験例1
S55とN57がQ493Rに対して水素結合できるようにOH基を側鎖にもつ残基,あるいは立体的な障害を起こさないよう小さくした残基に改変した。
具体的にはUT28KのS55をG(S55G;28G_1-GN)もしくは欠失(S55del;28G_2-XN),N57をR(N57R;28G_3-SR),D(N57D;28G_4-SD),G(N57G;28G_5-SG),S(N57S;4_12-SS/WT)に変異を入れたDNA断片,及びUT28KのS55をGにN57をR(28G_6-GR),S55をGにN57をD(28G_7-GD),S55をGにN57をG(28G_8-GG),S55を欠失しN57をR(28G_9-XR),S55を欠失しN57をD(28G_10-XD),S55を欠失しN57をG(28G_11-XG)に変異を入れたDNA断片を合成し(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託),そのDNA断片をヒト抗体発現ベクター(非特許文献2に準じて作製)にクローニングした。
得られたプラスミドとUT28K改変体の軽鎖のプラスミドをExpi293F(登録商標)細胞(Thermo Fisher Scientific)細胞に導入し,該当の抗体を産生させた。数日後培養上清を回収し,WT由来のRBDとOmicron株(B.1.1.529(BA.1))由来のRBDに対する結合活性をELISAにて評価した。
結果を
図2-1に示す。
図2-1は,作製した改変UT28Kと,ELISAによる結合活性の一覧表を示している。
図中の28G_4-SDと2_4-SD/WTは同一である。28G_7-GDと3_7-GD/WTはそれぞれ同一である。また28K supと1_WT/WTも同一で,UT28Kのことである。
【0070】
別途に,UT28K,及びUT28KのN57をR(N57R;28G_3-SR),G(N57G;28G_5-SG),S(N57S;4_12-SS/WT),E(N57E)に変異を入れたDNA断片を合成し上記と同様にしてヒト抗体発現ベクターにクローニングした。
1μg/ml SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含むPBSを,Maxisorp 96 well plate(Nunc)に4℃で一夜保温することで,SARS-CoV-2スパイクタンパク質をウエルの底面に固層化した。抗原溶液を除去した後,3%牛血清アルブミン(BSA)と0.1% Tween-20を含むPBSで1時間ブロッキングした。次に,0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,300ng/mlの作製した抗体を1時間インキュベートした。その後0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,200 ng/mlペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG-Fc F(ab)’
2フラグメント(sigma)で1時間インキュベートした。最後に0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,TMB基質(SeraCare Life Sciences)を用いて発色させ,プレートリーダーFLUOstar OMEGA (BMG LABTECH)を用いて吸光度450nmの測定を行った。
結果を
図2-2に示す。
図2-2は,作製した改変UT28Kと,ELISAによる結合活性の一覧表を示している。
図中のcontrol Abはコントロール抗体で西ナイルウイルスのエンベロープタンパク質を認識するモノクローナル抗体である(Ozawa T, et al., Antiviral Res. 2018;154:58-65.)。
【0071】
1μg/ml SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含むPBSを,Maxisorp 96 well plate(Nunc)に4℃で一夜保温することで,SARS-CoV-2スパイクタンパク質をウエルの底面に固層化した。抗原溶液を除去した後,3%牛血清アルブミン(BSA)と0.1% Tween-20を含むPBSで1時間ブロッキングした。次に,0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,16,80,400,2000pM/mlの作製した抗体(UT28K-D;28G_4-SD)を1時間インキュベートした。その後0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,200ng/mlペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG-Fc F(ab)’
2フラグメント(sigma)で1時間インキュベートした。最後に0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,TMB基質(SeraCare Life Sciences)を用いて発色させ,プレートリーダーFLUOstar OMEGA (BMG LABTECH)を用いて吸光度450nmの測定を行った。
結果を
図2-3に示す。
図2-1,
図2-2及び
図2-3の結果より,N57Dである28G_4-SD及びS55G,N57Dである28G_7-GDは,オミクロン株由来RBDに対して,結合が回復したことが示された。それ以外は回復していなかった。
一方,それらもWT由来RBDに対する結合と比較すると,完全に回復してはいない。これらの結果より,28G_4-SD及び28G_7-GDを候補として,次の実験を進めた。
【0072】
実験例2
28G_4-SD及び28G_7-GDのDNA断片をヒト抗体発現ベクター(非特許文献2に準じて作製)にクローニングし,得られたプラスミドと各改変体の軽鎖のプラスミドとをExpi293F(登録商標)細胞(Thermo Fisher Scientific)細胞に同時形質導入し,培養した細胞の上清を7日後に集め,次いでリコンビナントモノクローナル抗体を,プロテインGカラム(GE Healthcare)を用いて精製した。精製した抗体を用いて,RBDタンパク質(WTタイプ,Omicron型)とACE2タンパク質の結合阻害実験を,以前の方法(非特許文献2)に従ってELISAにて解析した。
具体的には1μg/ml SARS-CoV-2スパイクタンパク質を含むPBSを,Maxisorp 96 well plate(Nunc)に4℃で一夜保温することで,SARS-CoV-2スパイクタンパク質をウエルの底面に固層化した。抗原溶液を除去した後,3%牛血清アルブミン(BSA)と0.1% Tween-20を含むPBSで1時間ブロッキングした。次に,0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,33~0.14nMの抗体に50ng/mlのビオチン化ACE2を加えた混合液を1時間インキュベートした。その後0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,200 ng/mlペルオキシダーゼ標識抗ストレプトアビジン(Abcam)で1時間インキュベートした。最後に0.1% Tween-20を含むPBSで洗浄し,TMB基質(SeraCare Life Sciences)を用いて発色させ,プレートリーダーFLUOstar OMEGA (BMG LABTECH)を用いて吸光度450nmの測定を行った。測定はトリプリケートウェルを用い平均値±標準偏差を求めた。2回以上実験を行ったが同様の結果が得られた。
結果を
図3に示す。この図でスラッシュ(“/”)の後の28KはUT28K,28K SDは28G_4-SD,28K GDは28G_7-GDのことである。またスラッシュ(“/”)の前は,用いたRBDがWTならWT由来,omicronならオミクロン株由来のことである。UT28K,28K SD,28K GDはいずれもWT由来RDBとACE2の結合を阻害することが示されたが,28K GDの阻害活性は,UT28K,28K SDと比べて弱いことが示された。
オミクロン株由来RBDとACE2の阻害活性は,UT28Kは認められなかったのに対し,28K SD,28K GDは認められた。一方,WT由来RBDに対する阻害結合と比較すると,完全に回復してはいない。これらの結果より,28K SDを候補として,次の実験を進めた。
【0073】
実験例3
28K SDから更に結合力を高めるために,28K SDとオミクロンRBDの間に生じている隙間に着目した。最近,Yamashitaらにより,結合表面積値を上昇させる,言い換えれば隙間を埋めることで,抗体の親和性を向上できることが示されている(Structure 2019, 27, 519 DOI: 10.1016/j.str.2018.11.002)。その隙間を埋めるため,幾つかの部位に変異を導入した。
具体的には,
図4に示したT28R(13_32/WT),I31N(3_41/WT),A33G(4_42/WT),M74K(12_31/WT),G103W(5_43/WT)を作製した。並行して,これらの変異を組み合わせた抗体も作製した。
先と同様に,DNA断片を合成し(ユーロフィン),そのDNA断片をヒト抗体発現ベクターにクローニングした。得られたプラスミドとUT28Kの軽鎖のプラスミドをExpi293F(登録商標)細胞(Thermo Fisher Scientific)に導入し,該当の抗体を産生させた。数日後培養上清を回収し,WT由来のRBDとオミクロン株由来のRBDに対する結合活性をELISAにて評価した(
図4)。
図4の中で,5_23/WT,7_26/WT,10_29/WT,11_30/WT,13_32/WT,5_43/WT,6_44/WTは,28K SD(この図では2_SD_WTと表記)と比較して,オミクロン株に対する結合活性が上昇していることが示された。
【0074】
実験例4
そこで,これら抗体と,別に作製した24を候補として,次の実験を進めた。
先と同様に,RBDタンパク質とACE2タンパク質の結合阻害実験を行った(
図5)。
図5の中で,スラッシュ(“/”)の前の32は13_32/WT,43は5_43/WT,44は6_44/WT,WTはUT28K,SDは28K SDのことである。またスラッシュ(“/”)の後は,用いたRBDがWTならWT由来,omicronならオミクロン株由来のことである。
これら改変UT28Kはいずれもオミクロン株由来RBDとACE2の結合を阻害したが,中でも32と44の阻害活性が高かった。そこで32と44を次の実験に用いた。
【0075】
実験例5
32,44,UT28K,SDを用いて,以前の方法(非特許文献2)に従ってin vitroにおける生ウイルスの中和実験を行った。具体的には以下の手順で行った。
Wuhanは武漢株(hCoV-19/Japan/TY/WK-521/2020, GSAID ID: EPI_ISL_408667),Omicronはオミクロン株(hCoV-19/Japan/TY38-873, GSAID ID: EPI_ISL_7418017)由来の生ウイルスを示している。
終濃度0.0625,0.125,0.25,0.5,1.0μg/mlになるように,それぞれ32,44,UT28K,SDの精製抗体と感染価(Infectious Unit;IU)で100IUのウイルスをマイクロチューブ内で混合し,37℃で1時間反応させた。その後,24wellプレートに播種したVeroE6/TMPRSS2細胞に添加し,37℃で2時間吸着させた。その後,吸着しなかった抗体とウイルスを含む混合液を完全に除き,再び各濃度の抗体を含む培養培地を添加し,2日間培養を続けた。2日間培養した細胞の培養上清を回収し,各抗体濃度添加時のウイルス感染価をプラークアッセイ法により測定した。
【0076】
それぞれ3wellのウイルスプラーク数を数え,平均値を計算し,抗体非存在下におけるウイルス産生量を100として,抗体存在下におけるウイルス産生量の割合を
図6に示す。
オミクロン株に対する中和活性は,32>SD≒44>>WTであった。
32のオミクロン株に対する中和活性は,WTの武漢株に対する中和活性と同程度であることが示された。
これらの結果より,32はオミクロン株に対して中和活性は,UT28Kの武漢株に対する活性と同程度有していることが示された。