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特開2024-44209積層触媒、電極、膜電極複合体、電気化学セル、スタック、電解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044209
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】積層触媒、電極、膜電極複合体、電気化学セル、スタック、電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/053 20210101AFI20240326BHJP
   C25B 11/055 20210101ALI20240326BHJP
   C25B 11/069 20210101ALI20240326BHJP
【FI】
C25B11/053
C25B11/055
C25B11/069
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149609
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
(72)【発明者】
【氏名】菅野 義経
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】細野 靖晴
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA32
4K011BA07
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】実施形態は、耐久性に優れた積層触媒を提供する。
【解決手段】 実施形態の積層触媒は、酸化物層と、酸化物層上に第1触媒層と、第1触媒層上に第2触媒層と、を有し、酸化物層は、非貴金属を主体とする酸化物層であり、第1触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、第2触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、第1触媒層は、第2触媒層よりも緻密である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物層と、
前記酸化物層上に第1触媒層と、
前記第1触媒層上に第2触媒層と、を有し、
前記酸化物層は、非貴金属を主体とする酸化物層であり、
前記第1触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、
前記第2触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、
前記第1触媒層は、第2触媒層よりも緻密である積層触媒。
【請求項2】
前記酸化物層は、遷移金属を含む酸化物を含む請求項1に記載の積層触媒。
【請求項3】
前記酸化物層の気孔率は、0[%]以上5[%]以下である
請求項1に記載の積層触媒。
【請求項4】
前記酸化物層は、Niを含む酸化物を含み、
前記酸化物層に含まれる金属に対するNiの比率は、80[%]以上100[%]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項5】
前記酸化物層の厚さは、0.1[nm]以上1.5[nm]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項6】
前記第1触媒層の気孔率は、0[%]以上5[%]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項7】
前記第1触媒層の厚さは、0.5[nm]以上15[nm]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項8】
前記第1触媒層に含まれる金属のうち、IrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項9】
前記第2触媒層の気孔率は、10[%]以上90[%]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項10】
前記第2触媒層の厚さは、100[nm]以上2000[nm]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項11】
前記第2触媒層に含まれる金属のうち、IrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下である請求項1に記載の積層触媒。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の積層触媒と、
基材を用いた電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電極を用いた膜電極複合体
【請求項14】
請求項13に記載の膜電極接合体を用いた電気化学セル。
【請求項15】
請求項14に記載の電気化学セルを用いたスタック。
【請求項16】
請求項14に記載の電気化学セルを用いた電解発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、積層触媒、電極、膜電極複合体、電気化学セル、スタック、電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学セルは盛んに研究されている。電気化学セルのうち、例えば、固体高分子型水電解セル(PEMEC:Polymer Electrolyte MembraneElectrolysis Cell)は、大規模エネルギー貯蔵システムの水素生成としての利用が期待されている。十分な耐久性と電解特性を確保するため、PEMECの陰極には白金(Pt)ナノ粒子触媒が、陽極にはイリジウム(Ir)ナノ粒子触媒のような貴金属触媒が、一般に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-128806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、耐久性に優れた触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の積層電極は、酸化物層と、酸化物層上に第1触媒層と、第1触媒層上に第2触媒層と、を有し、酸化物層は、非貴金属を主体とする酸化物層であり、第1触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、第2触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、第1触媒層は、第2触媒層よりも緻密である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係る電極の模式断面図。
図2】分析位置を示す模式図。
図3】実施形態に係る膜電極接合体(MEA)の模式図。
図4】実施形態の電気化学セルの模式図。
図5】実施形態のスタックの模式図。
図6】実施形態の電解装置の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、以下の説明では、同一部材等には同一の符号を付し、一度説明した部材等については適宜その説明を省略する。
【0008】
明細書中の物性値は、温度が25[℃]で、圧力が1[atom]における値である。各部材の厚さは、積層方向の距離の平均値である。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態は、電極に関する。図1本発明の一実施形態に係る電極100の模式断面図を示す。電極100は、基材1と積層触媒2を含む。積層触媒2は、実施形態において、水電解の電極反応における触媒として用いられている。積層触媒2は、アンモニアの電解生成におけるアノード触媒としても用いられる。
【0010】
第1実施形態の電極100は、水電解のアノードとして用いられる。積層触媒2に燃料電池用の触媒がさらに含まれると実施形態の電極100は、燃料電池の酸素極としても用いられる。実施形態の電極100は、アンモニアを電解生成するアノードとしても利用可能である。実施形態の電極は、アンモニア合成用の電解装置のアノードとして利用可能である。以下、第1実施形態及び他の実施形態において、水電解を例に説明するが、水電解以外に例えば、超純水をアノードに供給し、アノードで水を分解してプロトンおよび酸素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、カソードに供給した窒素とプロトン、電子が結びつきアンモニアが生成するアンモニア合成用の電気分解に用いられる膜電極接合体のアノードに実施形態の電極100は利用可能である。実施形態の電極100は、アンモニアを電解して水素を生成するカソードとしても利用可能である。実施形態の電極は、水素発生装置のカソードとして利用可能である。以下、第1実施形態及び他の実施形態において、水電解を例に説明するが、水電解以外に例えば、アンモニアをカソードに供給し、カソードでアンモニアを分解してプロトンおよび窒素を生成し、電解質膜を生成したプロトンが通り、アノードでプロトンと電子が結びつき水素が生成するアンモニア分解用の電気分解に用いられる膜電極接合体のカソードに実施形態の電極100は利用可能である。
【0011】
基材1としては、多孔性で導電性が高い材料を用いることが好ましい。基材1は、ガスや液体を通過する多孔質な部材である。電極100は、例えば、水電解セルの陽極としても使用されるため、バルブメタルの多孔質基材が好ましい。バルブメタルの多孔質基材としては、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種以上の金属を含む多孔質基材又はチタン、アルミニウム、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる1種の金属の多孔質基材が好ましい。
【0012】
基材1のバルブメタルとして耐久性の高いTiが好ましい。基材1は、例えば、Tiメッシュ、Ti繊維からなるクロース、又は、Ti焼結体などが用いられる。基材1の空隙率は、物質の移動を考慮すると、20[%]以上95[%]以下であれば良く、40[%]以上90[%]以下がより好ましい。例えば、基材1が金属繊維を絡み合わせた金属不織布の場合、繊維径は1[μm]以上500[μm]以下が好ましく、反応性および給電性を考慮すると1[μm]以上100[μm]以下がより好ましい。基材1が粒子焼結体の場合、粒子径は1[μm]以上500[μm]以下が好ましく、反応性および給電性を考慮すると1[μm]以上100[μm]以下がより好ましい。
【0013】
基材1の上にコーティング層を付けても良い。導電性のある緻密なコーティング層によって電極100の耐久性を向上させる。コーティング層は特に限定されないが、金属材料、酸化物、窒化物などセラミックス材料、カーボンなどを使用できる。コーティング層において、異なる材料から構成された多層構造または傾斜構造を形成させて、耐久性を更に高めることができる。
【0014】
積層触媒2は、酸化物層2A、第1触媒層2B及び第2触媒層2Cを含む、積層触媒2は、酸化物層2Aと、第1触媒層2Bと、第2触媒層2Cとが順に積層している。基材1は、積層触媒2と接していて、直接的に接していることが好ましい。
【0015】
酸化物層2Aは、非貴金属の酸化物を主体とする。酸化物層2Aは、基材1と第1触媒層2Bの間に設けられている。酸化物層2Aを基材1と第1触媒層2Bの間に設けることで、積層触媒2の耐久性を向上させることができる。
【0016】
酸化物層2Aの気孔率は、0[%]以上5[%]以下であることが好ましく、0[%]以上3[%]以下であることがより好ましい。酸化物層2Aを含め実施形態の気孔率は、例えば図1の模式図に示す方向の断面を観察したHAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法)像やTEM(透過型電子顕微鏡)像、SEM(走査電子顕微鏡)、画像解析などから求められる。気孔率を求める際に用いる断面は、例えば、図2の分析位置を示す模式図のA1~A9の位置で、酸化物層2Aの長手方向と平行な向きの断面を観察する。長手方向の長さをL1とし、短手方向の長さをL2とし、長手方向に長さL1を4分割し、短手方向の長さL2を4分割すると得られる16領域の9つの交点を中心とする領域がA1~A9の位置である。観察する断面の範囲は、縦方向が観察対象の層の厚さの長さ分で、横方向が観察対象の層の厚さの3倍の長さ分である。9カ所の断面を観察して得られた気孔率の最大値と最小値を除いた平均値を実施形態における気孔率とする。他の層に関しても酸化物層2Aと同様の方法で気孔率を求める。
【0017】
酸化物層2Aは、遷移金属を1種以上含む酸化物を含むことが好ましい。酸化物層2AはNi、Co、Fe、Mn及びCrからなる群より選ばれる1種以上を含む酸化物を含むことが好ましい。。酸化物層2AはNiの酸化物を含み、任意にCo、Fe、Mn及びCrからなる群より選ばれる1種以上を含む酸化物を含むことが好ましい。酸化物層2Aは、Niを含む酸化物を含むことが好ましい。酸化物層2Aは、Niを含む酸化物を主体とすることが好ましい。酸化物層2Aは、Niの酸化物の粒子を含むことが好ましい。酸化物層2Aに含まれる酸化物の粒子は担体に担持されていない。Niを含む酸化物の粒子は、担体に担持されていない。Niを含む酸化物の粒子は、Ni酸化物で構成されていることが好ましい。
【0018】
酸化物層2Aは、遷移金属を1種以上含む酸化物の粒子が凝集した構造を有することが好ましい。酸化物層2Aは、遷移金属を含む酸化物の粒子が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。
【0019】
酸化物層2Aは、遷移金属を1種以上含む酸化物の粒子が凝集した構造を有することが好ましい。酸化物層2Aは、遷移金属を1種以上含む酸化物の粒子が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。
【0020】
酸化物層2Aは、Ni、Co、Fe、Mn及びCrからなる群より選ばれる1種以上を含む酸化物の粒子が凝集した構造を有することが好ましい。酸化物層2Aは、Ni、Co、Fe、Mn及びCrからなる群より選ばれる1種以上を含む酸化物の粒子が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。
【0021】
酸化物層2Aは、Niを含み、任意にCo、Fe、Mn及びCrからなる群より選ばれる1種以上を含む酸化物の粒子が凝集した構造を有することが好ましい。酸化物層2Aは、Niを含み、任意にCo、Fe、Mn及びCrからなる群より選ばれる1種以上を含む酸化物の粒子が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。
【0022】
酸化物層2Aは、Niを含む酸化物の粒子が凝集した構造を有することが好ましい。酸化物層2Aは、Niを含む酸化物の粒子が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。
【0023】
酸化物層2Aに含まれる金属に対する遷移金属の比率は80[atom%]以上100[atom%]以下が好ましく、95[atom%]以上100[atom%]以下がより好ましく、99[atom%]以上100[atom%]以下がより好ましい。
【0024】
酸化物層2Aに含まれる金属に対するNi、Co、Fe、Mn及びCrの合計比率は80[atom%]以上100[atom%]以下が好ましく、95[atom%]以上100[atom%]以下がより好ましく、99[atom%]以上100[atom%]以下がより好ましい。
【0025】
酸化物層2Aに含まれる金属に対するNiの比率は80[atom%]以上100[atom%]以下が好ましく、95[atom%]以上100[atom%]以下がより好ましく、99[atom%]以上100[atom%]以下がより好ましい。
【0026】
酸化物層2Aは、NiOを含むことが好ましい。酸化物層2Aには、Niの他にコバルト、鉄、白金、パラジウム、ロジウム、マンガン、クロム、ルテニウム及びイリジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属が含まれてもよい。酸化物層2Aに含まれる金属に対するコバルト、鉄、白金、パラジウム、ロジウム、マンガン、クロム、ルテニウム及びイリジウムからなる群より選ばれる1種以上の金属の比率は0[atom%]以上20[atom%]以下が好ましく、0[atom%]以上5[atom%]以下がより好ましく、0[atom%]以上1[atom%]以下が好ましい。
【0027】
酸化物層2Aの厚さは、0.1[nm]以上1.5[nm]以下である。酸化物層2Aの厚さが薄いと耐久性向上の効果が少ない。酸化物層2Aの厚さが厚いと酸化物層2Aが溶解するなどして酸化物層2Aと基材1間が剥離し易くなる。上記理由から、酸化物層2Aの厚さは、0.1[nm]以上1.3[nm]以下が好ましく、0.1[nm]以上1.0[nm]以下がより好ましく、0.1[nm]以上0.5[nm]以下がさらにより好ましい。また、酸化物層2Aが厚いとガスの透過性が低下する。ガスの透過性も考慮して、上記範囲の厚さを有する酸化物層2Aが好ましい。
【0028】
酸化物層2Aに含まれるNiを含む酸化物の粒子の平均外接円直径は、0.1[nm]以上1.5[nm]以下が好ましく、0.1[nm]以上1.3[nm]以下がより好ましく、0.1[nm]以上1.0[nm]以下がより好ましく、0.1[nm]以上0.5[nm]以下がさらにより好ましい。
【0029】
酸化物層2Aの基材1側を向く面は、基材1の酸化物層2Aを向く面と接していることが好ましい。酸化物層2Aの基材1側を向く面は、基材1の酸化物層2Aを向く面と直接的に接していることが好ましい。酸化物層2Aの基材1側を向く全面は、基材1の酸化物層2Aを向く全面と接していることが好ましい。酸化物層2Aの基材1側を向く全面は、基材1の酸化物層2Aを向く全面と直接的に接していることが好ましい。
【0030】
酸化物層2Aの確認方法には、HAADF-STEM像の観察とEELS(電子エネルギー損失分光法))によるライン分析を採用する。HAADF-STEM像を観察し、酸化物層2Aの位置をEELSでライン分析する。酸化物層2AがNiを主体とし、第1触媒層2BがIr又は/及びRuを主体とするのであれば、Niの組成比がIr又は/及びRuの総組成比を超えた位置を酸化物層2Aと第1触媒層2Bの界面とする。EELSでNiの化学結合状態分析を行ってNiが酸化物であることを特定する。酸化物層2Aと第1触媒層2Bに含まれる元素に応じて適宜界面の基準となる元素を選択することで、酸化物層2Aを確認することができる。また、酸化物層2AがNi酸化物以外を含む場合もEELSで酸化物層2Aの確認と組成分析を実施することができる。
【0031】
第1触媒層2Bは、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含む。第1触媒層2Bは、酸化物層2Aと第2触媒層2Cの間に設けられている。
【0032】
第1触媒層2Bの酸化物層2Aと対向する面は、酸化物層2Aと直接的に接していることが好ましい。第1触媒層2Bの第2触媒層2Cと対向する面は、第2触媒層2Cと直接的に接していることが好ましい。第1触媒層2Bの酸化物層2Aと対向する面の全面は、酸化物層2Aの第1触媒層2Bと対向する面の全面と直接的に接していることが好ましい。第1触媒層2Bの第2触媒層2Cと対向する面の全面は、第2触媒層2Cの第1触媒層2Bと対向する面の全面と直接的に接していることが好ましい。
【0033】
第1触媒層2Bは緻密な層である。第1触媒層2Bの気孔率は、0[%]以上5[%]以下であることが好ましく、0[%]以上3[%]以下であることがより好ましい。
【0034】
酸化物層2Aと第1触媒層2Bは緻密な層である。酸化物層2Aの気孔率と第1触媒層2Bの気孔率の差(|[酸化物層2Aの気孔率]-[第1触媒層2Bの気孔率]|)は、0[%]以上5[%]以下が好ましく、0[%]以上3[%]以下がより好ましい。
【0035】
第1触媒層2Bは、基材1と電解液の接触を防ぎ、基材1の劣化を防ぐ。第1触媒層2Bを設けないと、水電解運転を行うことで基材1が酸化するなどして劣化し、界面抵抗が上昇し易い。基材1が劣化して界面抵抗が上昇すると、セル電圧が上昇してしまう。酸化物層2A及び第1触媒層2Bが基材1と第2触媒層2Cの間に存在することで、電解液が基材1側に浸入することを防ぎ、電極100の耐久性を向上させる。
【0036】
酸化物層2Aが基材1と第1触媒層2Bの間に存在することで、第1触媒層2Bの安定性が向上し、基材1の劣化を防ぐことができる。また、第1触媒層2Bが緻密な層であることで、第2触媒層2Cの造孔剤を除去する際に用いる溶解液が酸化物層2Aに侵入することを防ぐことができる。従って、酸化物層2Aと第1触媒層2Bを組み合わせた場合に、電極100の耐久性が向上するが、どちらか一方では実施形態の評価基準において耐久性の向上は見込めない。
【0037】
第1触媒層2Bの厚さは、0.5[nm]以上15[nm]以下が好ましい。第1触媒層2Bの厚さが薄いと基材1の劣化を抑制する効果が低い。第1触媒層2Bの厚さが厚いと水電解運転時の積層触媒2の膨張収縮によって積層触媒2中の剥離又は基材1と酸化物層2A間の剥離が生じ易いと考えられる。積層触媒2中の剥離又は基材1と酸化物層2A間の剥離が生じると、抵抗が上昇し、水電解電圧が上昇してしまう。第1触媒層2Bの厚さは、1[nm]以上10[nm]以下がより好ましく、1[nm]以上7[nm]以下がさらにより好ましい。
【0038】
第1触媒層2Bは、Ir酸化物、Ru酸化物及びIrとRuの複合酸化物からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。Ir酸化物、Ru酸化物及びIrとRuの複合酸化物からなる群より選ばれる1種以上は、触媒粒子であることが好ましい。第1触媒層2Bは、Ir酸化物又は/及びIrとRuの複合酸化物を含み、任意にRu酸化物を含むことが好ましい。第1触媒層2Bは、Ir酸化物を含み、任意にRu酸化物又は/及びIrとRuの複合酸化物を含むことが好ましい。第1触媒層2Bに含まれる金属のうち、IrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下であることが好ましい。
【0039】
第1触媒層2Bは、Ir酸化物の粒子、Ru酸化物の粒子及びIrとRuの複合酸化物の粒子からなる群より選ばれる1種以上が凝集した構造を有する。第1触媒層2Bは、Ir酸化物の粒子、Ru酸化物の粒子及びIrとRuの複合酸化物の粒子からなる群より選ばれる1種以上が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましい。
【0040】
Ir酸化物の粒子は、担体に担持されていない。Ir酸化物の粒子は、Ir酸化物で構成されていることが好ましい。
【0041】
Ru酸化物の粒子は、担体に担持されていない。Ru酸化物の粒子は、Ru酸化物で構成されていることが好ましい。
【0042】
IrとRuの複合酸化物の粒子は、担体に担持されていない。IrとRuの複合酸化物の粒子は、IrとRuの複合酸化物で構成されていることが好ましい。
【0043】
第1触媒層2BがIr及びRu以外の金属を含む触媒粒子を含む場合、Ir及びRu以外の金属を含む触媒粒子も担体に担持されていないことが好ましい。Ir及びRu以外の金属を含む触媒粒子としては、例えば、Pt粒子である。
【0044】
第1触媒層2Bは、担体に担持されていない粒子が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましく、100[vol%]有することがさらにより好ましい。
【0045】
第1触媒層2Bに含まれる酸化物の粒子の平均外接円直径は、0.5[nm]以上15[nm]以下が好ましく、1[nm]以上10[nm]以下がより好ましく、1[nm]以上7[nm]以下がさらにより好ましい。
【0046】
第1触媒層2Bは緻密な層であるため、第2触媒層2Cの空隙層を含まないことが好ましい。
【0047】
第1触媒層2Bの確認方法には、HAADF-STEM像の観察とEELS(電子エネルギー損失分光法))によるライン分析を採用する。HAADF-STEM像を観察し第1触媒層2Bの位置をEELSでライン分析する。酸化物層2AがNiを主体とし、第1触媒層2BがIr又は/及びRuを主体とするのであれば、Ir又は/及びRuの総組成比がNiの組成比を超えた位置を酸化物層2Aと第1触媒層2Bの界面とする。EELSでIr及びRuの化学結合状態分析を行ってIr及びRuが酸化物であることを特定する。酸化物層2Aと第1触媒層2Bに含まれる元素に応じて適宜界面の基準となる元素を選択することで、第1触媒層2Bを確認することができる。第1触媒層2Bと第2触媒層2Cの境界は、空孔率の違い又は層構造の違いから判別することが好ましい。また、第1触媒層2BがNi酸化物以外を含む場合もEELSで第1触媒層2Bの確認と組成分析を実施することができる。第2触媒層2Cの確認と組成分析方法は、第1触媒層2Bの確認と組成分析方法と同様である。
【0048】
第2触媒層2Cは、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含む。第2触媒層2Cと酸化物層2Aの間に第1触媒層2Bが位置している。第2触媒層2Cの第1触媒層2B側とは反対側の面には、他の触媒層などが設けられていてもよい。
【0049】
第2触媒層2Cは粗密な層である。第1触媒層2Bは、第2触媒層2Bよりも気孔率がひくい緻密な層である。第2触媒層2Cの気孔率は、10[%]以上90[%]以下であることが好ましく、30[%]以上70[%]以下であることがより好ましい。
【0050】
第2触媒層2Cは、積層触媒2中の触媒作用に関して主たる層である。例えば、水電解特性の観点から、第2触媒層2Cの厚さは、酸化物層2Aの厚さと第1触媒層2Bの厚さの和の10倍以上200倍以下であることが好ましい。
【0051】
水電解としての特性を考慮すると、第2触媒層2Cの厚さは、100[nm]以上であることが好ましい。同観点から、第2触媒層2Cの面積あたりのIrとRuは、0.02[mg/cm]以上1.0[mg/cm]以下であることが好ましい。より好ましくは0.05[mg/cm]以上0.5[mg/cm]以下である。この質量の和は、ICP-MSで測定することができる。このようなIrやRuの質量は、燃料電池として、または水電解装置として使用することで多少減少するが、特性が低下するほどではない。また、水の供給や酸素の排出がスムーズに行われることを考慮すると、第2触媒層2Cの厚さは、200[nm]以上2000[nm]以下であることが好ましい。
【0052】
第2触媒層2Cは、Ir酸化物、Ru酸化物及びIrとRuの複合酸化物からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。Ir酸化物、Ru酸化物及びIrとRuの複合酸化物からなる群より選ばれる1種以上は、触媒粒子であることが好ましい。第2触媒層2Cは、Ir酸化物又は/及びIrとRuの複合酸化物を含み、任意にRu酸化物を含むことが好ましい。第2触媒層2Cは、Ir酸化物を含み、任意にRu酸化物又は/及びIrとRuの複合酸化物を含むことが好ましい。第2触媒層2Cに含まれる金属のうち、IrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下であることが好ましい。
【0053】
第2触媒層2Cは、シート触媒層と空隙層が交互に並んだ積層型構造又は/及び触媒粒子が凝集した多孔質構造を有する。第2触媒層2Cは、緻密層と粗密層が交互に並んだ積層型構造又は触媒粒子が凝集した多孔質構造を有する。
【0054】
第2触媒層2Cが積層構造を有する場合、平均厚さが4[nm]以上50[nm]以下の緻密層と平均厚さが4[nm]以上100[nm]以下の粗密層が交互に複数積層されていることが好ましい。粗密層の平均厚さは、緻密層の平均厚さよりも厚いことが好ましい。粗密層の平均厚さは、緻密層の平均厚さの2倍以上10倍以下が好ましい。緻密層と粗密層が交互に複数積層されている構造は、例えば、積層構造が6層である場合、緻密層、粗密層、緻密層、粗密層、緻密層、粗密層の順に積層した構造である。緻密層、粗密層の順に積層した積層構造を有する第2触媒層2Cは、貴金属の使用量が少なくても高い水電解特性と高い触媒劣化耐性を有する。
【0055】
緻密層及び粗密層は触媒粒子を含む。粗密層は、例えば、触媒粒子で構成された柱状体又は/及びシート状体を含み、柱状体又は/及びシート状体が粗密層を挟む緻密層を連結している。緻密層及び粗密層は、空隙を含む。第2触媒層2Cの第1触媒層2B側の表面と第2触媒層2Cの第1触媒層2B側とは反対側の表面間を気体又は/及び液体が通過可能なように緻密層及び粗密層の空隙が繋がっている。
【0056】
緻密層の気孔率は、5[%]以上45[%]以下が好ましく、10[%]以上30[%]以下がより好ましい。
【0057】
粗密層の気孔率は、50[%]以上95[%]以下が好ましく、60[%]以上90[%]以下がより好ましい。
【0058】
第1触媒層2Bの厚さに対する緻密層の厚さの比R1([緻密層の厚さの平均値]/[第1触媒層2Bの厚さの平均値])は、1以上30以下が好ましく、1.9以上19以下がより好ましい。R1がこの範囲内であると、触媒層2Cは十分な反応表面積を確保できるため、触媒層2B上での反応が減ることで、反応によるダメージが少なくなり、長期的な耐久性を確保できる。
【0059】
第1触媒層2Bの厚さに対する粗密層の厚さの比R2([粗密層の厚さの平均値]/[第1触媒層2Bの厚さの平均値])は、0.3以上10以下が好ましく、0.4以上4以下がより好ましい。R1がこの範囲内であると、触媒層2B表面への反応物の侵入を抑制できつつ、触媒層2C全体に反応物がスムーズに供給できる。
【0060】
粗密層の厚さに対する緻密層の厚さの比R3([緻密層の厚さの平均値]/[粗密層の厚さの平均値])は、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましい。R3がこの範囲内であると、触媒層2Cが薄くなり水やガスの拡散距離が短くなったり、電気抵抗が小さくなったりするメリットがある。。
【0061】
第2触媒層2Cが多孔質構造を有する場合、多孔質構造は触媒の粒子と空隙を含む。第2触媒層2Cの第1触媒層2B側の表面と第2触媒層2Cの第1触媒層2B側とは反対側の表面間を気体又は/及び液体が通過可能な空隙を第2触媒層2Cは含む。
【0062】
第2触媒層2Cが多孔質構造を有する場合、第2触媒層2Cは、Ir酸化物の粒子、Ru酸化物の粒子及びIrとRuの複合酸化物の粒子からなる群より選ばれる1種以上が凝集した構造を有することが好ましい。第2触媒層2Cは、Ir酸化物の粒子、Ru酸化物の粒子及びIrとRuの複合酸化物の粒子からなる群より選ばれる1種以上が凝集した構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましい。70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましい。
【0063】
Ir酸化物の粒子は、担体に担持されていない。Ir酸化物の粒子は、Ir酸化物で構成されていることが好ましい。
【0064】
Ru酸化物の粒子は、担体に担持されていない。Ru酸化物の粒子は、Ru酸化物で構成されていることが好ましい。
【0065】
IrとRuの複合酸化物の粒子は、担体に担持されていない。IrとRuの複合酸化物の粒子は、IrとRuの複合酸化物で構成されていることが好ましい。
【0066】
第2触媒層2CがIr及びRu以外の金属を含む触媒粒子を含む場合、Ir及びRu以外の金属を含む触媒粒子も担体に担持されていないことが好ましい。Ir及びRu以外の金属を含む触媒粒子としては、例えば、Pt粒子である。
【0067】
第2触媒層2Cが多孔質構造を有する場合、第1触媒層2Bは、担体に担持されていない粒子が凝集した多孔質構造を70[vol%]以上100[vol%]以下有することが好ましく、90[vol%]以上100[vol%]以下有することがさらに好ましく、100[vol%]有することがさらにより好ましい。
【0068】
上記電極100の製造方法について以下に説明する。電極100の製造方法は、基材1上に酸化物層2Aをスパッタで形成する工程と、酸化物層2A上に第1触媒層2Bをスパッタで形成する工程と、第1触媒層2B上に第2触媒層2Cをスパッタで形成する工程と、を含む。
【0069】
基材1上に酸化物層2Aをスパッタで形成する工程では、例えばNiターゲットとして用いをスパッタによって、基材1上に酸化物層2Aを形成する。本工程において、酸素ガス及びアルゴンガスを含む雰囲気でRFスパッタすることが好ましい。本工程において、ターゲットに含まれる貴金属の比率(複数ターゲットを用いた場合の貴金属の比率は、スパッタ出力を考慮してターゲット比率を算定)は、0[wt%]以上0.1[wt%]以下が好ましい。
【0070】
酸化物2A上に第1触媒層2Bをスパッタで形成する工程では、触媒材料として例えばIr及び/又はRuなどの貴金属の比率の高いターゲットとして用いてスパッタによって、酸化物層2A上に第1触媒層2Bを形成する。本工程において、酸素ガス及びアルゴンガスを含む雰囲気でDCスパッタすることが好ましい。本工程において、ターゲットに含まれる貴金属の比率は、50[wt%]以上100[wt%]以下が好ましい。ターゲットに含まれる非貴金属(例えば、Ni又は/及びCo)の比率(複数ターゲットを用いた場合の非貴金属の比率は、スパッタ出力を考慮してターゲット比率を算定)は、0[wt%]以上0.1[wt%]以下が好ましい。非貴金属の比率が高いと積層触媒2の第1触媒層2Bの空孔率が高くなり易い。
【0071】
第1触媒層2B上に第2触媒層2Cをスパッタで形成する工程では、造孔材料と触媒材料としてとして例えばIr及び/又はRuなどの貴金属の比率の高いターゲットとして用いてスパッタによって、造孔材料の酸化物と触媒材料の酸化物の混合層を第1触媒層2B上に形成する。本工程において、酸素ガス及びアルゴンガスを含む雰囲気でスパッタすることが好ましい。そして、混合層が形成された部材を硫酸などの酸で処理して造孔材料の酸化物を溶解させて第2触媒層2Cを得る。造孔材料としては、例えば、Ni及び/又はCoが好ましくNiが好ましい。
【0072】
第1触媒層2Bが硫酸などの酸が酸化物層2Aに侵入することを防ぎ、酸化物層2Aの溶解を防いでいる。
【0073】
第2触媒層2Cが積層構造を有する場合、造孔材料のスパッタと触媒材料のスパッタを交互に繰り返して造孔材料の酸化物と触媒材料の酸化物の積層体を形成し、酸で溶解させることで、電極が得られる。造孔材料のスパッタの際に触媒材料も同時にスパッタしてもよい。触媒材料のスパッタの際に、例えば、IrとRuの比率を変えることで、IrとRuの組成が変化している第2触媒層2Cを得ることができる。
【0074】
第2触媒層2Cが多孔質構造を有する場合、造孔材料と触媒材料を同時にスパッタして、酸で溶解させることで、電極が得られる。
【0075】
酸化物層2A及び第1触媒層2Bを含む積層触媒2を形成する際に、第2触媒層2Cと同様にスパッタを採用することができる。スパッタで3つの異なる層を効率良く形成できる。そして、この製造方法で作成された電極100を用いた水電解装置は、耐久性を向上させることができる。
【0076】
(第2実施形態)
第2実施形態は、膜電極接合体(Membrane Electrode assembly; MEA)に関する。図3にMEA200の断面模式図を示す。
【0077】
MEA200は、第1電極21と、第2電極22と、第1電極21と第2電極22の間に設けられた電解質膜23とを含む。MEA200は水電解に利用できる。第1電極21は基材21Aと触媒層21Bを含む。第2電極22は、基材22Aと触媒層22Bを含む。
【0078】
第1電極21と第2電極22のいずれか一方に第1実施形態の電極100を用いることがこのましい。電極100はMEA200のアノード電極として用いることが好ましい。カソード電極としては、Ptを触媒として含む触媒層22Bが基材22A上に形成された電極が好ましい。
【0079】
第1電極21は、電解質膜23の一方の面と隣接し、電解質膜23と隣接する触媒層24と、触媒層と隣接する基材とを含む。
【0080】
第2電極22は、電解質膜23の他方の面と隣接し、電解質膜23と隣接する触媒層と、触媒層と隣接する基材とを含む。
【0081】
電解質膜23は、プロトン伝導性がよく電気的に絶縁された膜である。プロトン伝導性を有する電解質膜としては、例えばスルホン酸基を有するフッ素樹脂(例えば、ナフィオン(商標 デュポン社製)、フレミオン(商標 旭化成社製)、、セレミオン(商標 旭化成社製)、アクイビオン(aquivion)(商標 Solvay Specialty Polymers社)、およびアシプレックス(商標 旭硝子社製)などや、タングステン酸やリンタングステン酸などの無機物を使用することができる。電解質膜23はPtを含むことが好ましい。
【0082】
電解質膜23の厚さは、MEA200の特性を考慮して適宜決定することができる。強度、耐溶解性およびMEAの出力特性の観点から、電解質膜23の厚さは、好ましくは10μm以上200μm以下である。実施形態の厚さは、積層方向における平均厚さを表す。実施形態における積層方向とは、第2電極22から第1電極21に向かう方向を表す。
【0083】
(第3実施形態)
第3実施形態は、電気化学セルセルに関する。図4に第3実施形態の電気化学セルル300の断面図を示す。
【0084】
図4に示すように実施形態3の電気化学セル300は、第1電極(カソード)22と、第2電極(アノード)21と、電解質膜23と、カソード給電体31と、セパレーター32と、アノード給電体33と、セパレーター34と、ガスケット(シール)35と、ガスケット(シール)36と、を有する。例えば、アノード21に実施形態の電極100を用いる。カソード給電体31及びアノード給電体33は、ガスや水を通すものであれば良い。また、カソード給電体31及びアノード給電体33は、セパレーター32、34と一体化してもよい。具体的には、セパレーターに水やガスが流れる流路を持つものや、多孔質体をもつものなどであり、これに限定されるわけではない。実施形態の電極100を用いた電気化学セル300は、実施形態の電極100を用いており、耐久性に優れる。
【0085】
図4の電気化学セル300は、図示しない電極がカソード給電体31とアノード給電体33と接続し、カソード22とアノード21で反応が生じる。アノード21には、水が供給され、アノード電極21で、水が、プロトン、酸素と電子に分解される。電極の支持体と給電体が多孔質体であり、この多孔質体が流路板として機能する。生成した水と未反応の水は、排出され、プロトンと電子はカソード反応に利用される。カソード反応は、プロトンと電子が反応し、水素を生成する。生成した、水素及び酸素のいずれか一方又は両方は、例えば、燃料電池用燃料として利用される。セパレーター32、34で膜電極接合体200は保持され、ガスケット(シール)8、9で気密性を保たれている。
【0086】
(第4実施形態)
第4実施形態は、スタックに関する。図5は、実施形態4のスタックを示す図である。図5に示す実施形態4のスタック400は、膜電極接合体200又は電気化学セル300を複数個、直列に接続したものである。電気化学セルの両端に締め付け板41、42が取り付けられている。
【0087】
1枚のMEA200又は電気化学セル300による電圧は低いため、MEA200又は水電解セル300を複数個、直列に接続したスタック400を構成すると、高い電圧を得ることができる。一枚のMEA200からなる電気化学セル300での水素生成量は少ないため、電気化学セル300を複数、直列に接続したスタック400を構成すると、大量の水素を得ることができる。
【0088】
(第5実施形態)
第5実施形態は、電解装置に関する。図6に、第5実施形態の電解装置の概念図を示す。水電解装置500には、電気化学セル300又はスタック400が用いられる。図6に示すように電解用単セルを直列に積層したものを電気化学スタック400として用いる。スタック400には、電源51取り付けられ、アノード・カソード間に電圧が印可される。スタック400のアノード側には、発生したガスと未反応の水を分離する気液分離装置52、混合タンク53がつながっており、混合タンク53には、水を供給するイオン交換水製造装置54からポンプ56で送液し、気液分離装置52から逆止弁57を通して、混合タンク53混合してアノードへ循環させる。アノードで生成した酸素は、気液分離装置52を経て、酸素ガスが得られる。一方、カソード側には、気液分離装置58に連続して水素精製装置59を接続して、高純度水素を得る。水素精製装置59と接続した弁60を有する経路を経て不純物が排出される。運転温度を安定に制御するためスタックおよび混合タンクの加熱や、熱分解時の電流密度等の制御することができる。
【0089】
以下、実施例および比較例を説明する。
【0090】
(実施例A)
基材1として5[cm]×5[cm]、厚さ0.02[cm]のTi不織布基材を用いる。まず、基材1上に酸化物層2Aとして酸化Niを成膜する。ターゲットにNiを用い、酸素を含むアルゴン中でRFスパッタによって基材1の上に酸化Ni膜を0.5[nm]成膜する。酸化Ni膜の成膜に続けて10%酸素を含むアルゴン中でIrをターゲットに用いてDCスパッタを行って第1触媒層2Bを成膜する。実施例A-1~実施例A-4と比較例A-1~比較例A-5の第1触媒層2Bの成膜条件を表1、2に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
次に、第1触媒層2B上に第2触媒層2Cを形成する。第2触媒層2Cは、非貴金属であるNi酸化物層と貴金属酸化物層(Ir酸化物又はIrとRuの酸化物層)を交互に形成する。まず、第1触媒層2B上にNi酸化物層を形成し、その上に貴金属酸化物層を交互に形成している。実施例A-1~実施例A-4と比較例A-1~比較例A-5の形成条件を表3に示す。実施例A-1~実施例A-4と比較例A-1~比較例A-5のシート層の形成条件を表4に示す。触媒層は、酸素含有雰囲気で非貴金属と貴金属をスパッタして形成する。非貴金属のスパッタと貴金属のスパッタは同時に行っている。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
その後、1Mの硝酸および純水で洗浄することでNi酸化物の一部が溶出して、第2触媒層2Cは緻密層と粗密層が交互に積層した構造が形成されて基材1上に積層触媒2が設けられたアノードの電極が得られる。
【0097】
表5に第1触媒層2Bの厚さに対する緻密層の厚さの比R1([緻密層の厚さの平均値]/[第1触媒層2Bの厚さの平均値])と、第1触媒層2Bの厚さに対する粗密層の厚さの比R2([粗密層の厚さの平均値]/[第1触媒層2Bの厚さの平均値])と、粗密層の厚さに対する緻密層の厚さの比R3([緻密層の厚さの平均値]/[粗密層の厚さの平均値])を示す。
【0098】
【表5】
【0099】
基材として、厚みが25μmの炭素層を有するカーボンペーパーToray060(東レ社製)を用意した。この基材上に、Pt触媒のローディング密度0.1mg/cmになるように、スパッタリング法により空隙層を含む積層構造を持つ触媒層を形成し、多孔質触媒層を有する電極を得た。この電極は実施例および比較例の標準カソードとして使用した。
【0100】
<MEA200の作製>
カソードと各アノードから5cm×5cmの正方形の切片を切り取った。標準カソード、電解質膜(ナフィオン115(デュポン社製))とアノードをそれぞれ合わせて、熱圧着して接合することにより各種PEEC用MEA200を得た。
【0101】
<単セルの作製>
得られたMEA200を流路が設けられている二枚のセパレータの間にセッティングし、PEEC単セル(電気化学セル)を作製した。
【0102】
次に、実施例A及び比較例Aのアノードを評価した。得られた単セルに対して、一日コンディショニングを行った。その後、80[℃]に維持し、アノードに超純水を0.05[L/min]供給した。電源を用いてアノード・カソード間に2[A/cm]の電流密度で電流を印加して、48時間運転後のセル電圧(VC)を測定した。セル電圧(VC)を表6に示す。
【0103】
以下の耐久性プロトコルに従って、耐久性を評価した。アノードに超純水を流量0.05[L/min]で供給しながら、単セルを80[℃]に維持した。この状態で、セル電圧1.2[V]に3秒間保持した後、2.0[V]に3秒間保持して、1サイクルとする。このサイクルを、合計300000サイクル繰り返した。その後、80[℃]に維持し、アノードに超純水を0.05[L/min]供給した。電源を用いてアノード・カソード間に2[A/cm]の電流密度で電流を印加させて、24時間運転後のセル電圧(V1)を測定した。耐久性評価前のセル電圧(VC)と比較して電圧上昇率(100×(V1)/VC―100)を求めた。上昇率を表6に示した。
【0104】
【表6】
【0105】
比較例A-1の第1触媒層2Bが無い場合、硝酸洗浄でニッケル酸化物層2Aが抜けてしまうため、チタン基材と触媒層の接触が悪く、初期性能および耐久性が劣ることがわかる。また、第1触媒層2Bが厚い場合、初期性能は問題ないが、耐久性が悪い。これは第1触媒層2Bおよび酸化物層2Aが密であり厚いため、電解時の膨張収縮で基材から徐々に剥離していると推察される。以上の結果から適切な第1触媒層2Bの厚みが存在することを示唆している。
【0106】
(実施例B)
実施例B-1は、酸化物層2Aの厚さを変えたこと以外は実施例A-2と同じ条件でアノードを作製した。表7に実施例B-1~実施例B-3と比較例B-1~比較例B-3の酸化物層2Aの成膜条件を示している。
【0107】
【表7】
【0108】
実施例Bのアノードを用いて実施例Aと同様に電気化学セルに組み込んだ。実施例B及び比較例Bのアノードを実施例Aと同じ方法で評価した。比較例Bでは酸化物層2Aが厚い場合、耐久性が劣ることがわかる。加速試験において厚すぎる酸化物層2Aが溶け出し、第1触媒層2Bや第2触媒層2Cの剥離を引き起こしていると考えられる。
以上の結果からより適した酸化物層2Aの厚さが存在することを示唆している。
評価結果を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
(実施例C)
実施例Cおよび比較例Cは、実施例Aおよび比較例Aに対して、スパッタ時に基材1の温度を400[℃]に加熱した点が異なる。実施例C-1~実施例C-3と比較例C-1~比較例C-5の成膜条件を表9~表12に示す。
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
【表11】
【0114】
【表12】
【0115】
表13に第1触媒層2Bの厚さに対する緻密層の厚さの比R1([緻密層の厚さの平均値]/[第1触媒層2Bの厚さの平均値])と、第1触媒層2Bの厚さに対する粗密層の厚さの比R2([粗密層の厚さの平均値]/[第1触媒層2Bの厚さの平均値])と、粗密層の厚さに対する緻密層の厚さの比R3([緻密層の厚さの平均値]/[粗密層の厚さの平均値])を示す。
【0116】
【表13】
【0117】
実施例CのMEAおよび電気化学セルを実施例Aと同様の方法で作製し、セル電圧および電圧上昇率を求めた。結果を表14に示す。基板に熱処理を施すことで、初期電圧はあまり変わらないが耐久性が向上することがわかる。
【0118】
【表14】
【0119】
明細書中、元素の一部は元素記号のみで表している。
【0120】
以下、明細書の技術案を付記する。
[技術案1]
酸化物層と、
前記酸化物層上に第1触媒層と、
前記第1触媒層上に第2触媒層と、を有し、
前記酸化物層は、非貴金属を主体とする酸化物層であり、
前記第1触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、
前記第2触媒層は、Ir及びRuを主成分とする貴金属の酸化物を含み、
前記第1触媒層は、第2触媒層よりも緻密である積層触媒。
[技術案2]
前記酸化物層は、遷移金属を含む酸化物を含む技術案1に記載の積層触媒。
[技術案3]
前記酸化物層の気孔率は、0[%]以上5[%]以下である技術案1又は2に記載の積層触媒。
[技術案4]
前記酸化物層は、Niを含む酸化物を含み、
前記酸化物層に含まれる金属に対するNiの比率は、80[%]以上100[%]以下である技術案1ないし3のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案5]
前記酸化物層の厚さは、0.1[nm]以上1.5[nm]以下である技術案1ないし4のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案6]
前記第1触媒層の気孔率は、0[%]以上5[%]以下である技術案1ないし5のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案7]
前記第1触媒層の厚さは、0.5[nm]以上15[nm]以下である技術案1ないし6のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案8]
前記第1触媒層に含まれる金属のうち、IrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下である技術案1ないし7のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案9]
前記第2触媒層の気孔率は、10[%]以上90[%]以下である技術案1ないし8のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案10]
前記第2触媒層の厚さは、100[nm]以上2000[nm]以下である技術案1ないし9のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案11]
前記第2触媒層に含まれる金属のうち、IrとRuの濃度の和が90[wt%]以上100[wt%]以下である技術案1ないし10のいずれか1案に記載の積層触媒。
[技術案12]
技術案1ないし11のいずれか1案に記載の積層触媒と、
基材を用いた電極。
[技術案13]
技術案12に記載の電極を用いた膜電極複合体
[技術案14]
技術案13に記載の膜電極接合体を用いた電気化学セル。
[技術案15]
技術案14に記載の電気化学セルを用いたスタック。
[技術案16]
技術案14に記載の電気化学セル又は技術案15に記載のスタックを用いた電解装置。
【0121】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。水電解セルとして、PEMECを挙げたが、これ以外の電解セルでも、同様に本発明を適用できる。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0122】
1 :基材
2 :積層触媒
2A :酸化物層
2B :第1触媒層
2C :第2触媒層
21 :第1電極
21A :基材
21B :触媒層
22 :第2電極
22A :基材
22B :触媒層
23 :電解質膜
24 :触媒層
31 :カソード給電体
32 :セパレーター
33 :アノード給電体
34 :セパレーター
41 :締め付け板
42 :締め付け板
51 :電源
52 :気液分離装置
53 :混合タンク
54 :イオン交換水製造装置
56 :ポンプ
57 :逆止弁
58 :気液分離装置
59 :水素精製装置
60 :弁
100 :電極
200 :膜電極接合体
300 :水電解セル
400 :スタック
500 :電解装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6