IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立アプライアンス株式会社の特許一覧

特開2024-44229リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置
<>
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図1
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図2
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図3
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図4
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図5
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図6
  • 特開-リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044229
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240326BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240326BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/42 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149637
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森島 慎
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 誠之
(72)【発明者】
【氏名】小松 大輝
(72)【発明者】
【氏名】小森 啓礼
(72)【発明者】
【氏名】吉野 知也
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA08
5G503EA08
5H030AA01
5H030AS20
5H030FF41
(57)【要約】
【課題】
リチウムイオン二次電池のサイクル劣化を低減できるリチウムイオン二次電池制御システムおよびそれを搭載した装置を提供する。
【解決手段】
リチウムイオン二次電池の充放電を制御するリチウムイオン二次電池制御システムであって、リチウムイオン二次電池の充電状態を検知する検知部と、演算処理部を備え、演算処理部は、検知部からの充電状態から電池残量なしと判断したとき、検知部からのデータを用いて電池残量なしの状態からの充電時の第1の直流抵抗を算出し、検知部からの充電状態から満充電と判断したとき、検知部からのデータを用いて満充電状態からの放電時の第2の直流抵抗を算出し、第1の直流抵抗と第2の直流抵抗の直流抵抗比を算出し、直流抵抗比を用いて劣化判断を行う。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の充放電を制御するリチウムイオン二次電池制御システムであって、
リチウムイオン二次電池の充電状態を検知する検知部と、
演算処理部を備え、
前記演算処理部は、
前記検知部からの前記充電状態から電池残量なしと判断したとき、前記検知部からのデータを用いて電池残量なしの状態からの充電時の第1の直流抵抗を算出し、
前記検知部からの前記充電状態から満充電と判断したとき、前記検知部からのデータを用いて満充電状態からの放電時の第2の直流抵抗を算出し、
前記第1の直流抵抗と前記第2の直流抵抗の直流抵抗比を算出し、前記直流抵抗比を用いて劣化判断を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池制御システムにおいて、
電池状態記憶部と、
リチウムイオン二次電池と外部負荷および充電用電源の接続をオンオフするスイッチを有し、
前記演算処理部は、
前記電池残量なしと判断したとき、前記スイッチを前記充電用電源と接続するとともに、前記第1の直流抵抗を算出し、前記電池状態記憶部に記録し、
前記満充電と判断したとき、前記スイッチを前記外部負荷と接続するとともに、前記第2の直流抵抗を算出し、前記電池状態記憶部に記録し、
前記電池状態記憶部から前記第1の直流抵抗と前記第2の直流抵抗を読み込み、前記直流抵抗比を算出し、前記直流抵抗比を用いて劣化判断を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池制御システムにおいて、
前記演算処理部は、前記直流抵抗比が閾値以下の場合、充放電条件の制限を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池制御システムにおいて、
前記検知部は、電圧測定部と電流測定部であることを特徴とするリチウムイオン二次電池制御システム。
【請求項5】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池制御システムにおいて、
前記充放電条件の制限は、充電上限電圧を下げることを特徴とするリチウムイオン二次電池制御システム。
【請求項6】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池制御システムにおいて、
前記充放電条件の制限は、充放電電流を下げることを特徴とするリチウムイオン二次電池制御システム。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池の充放電制御方法であって、
リチウムイオン二次電池の電池残量なしの状態からの充電時の第1の直流抵抗と満充電状態からの放電時の第2の直流抵抗を算出し、
前記第1の直流抵抗と前記第2の直流抵抗の直流抵抗比を算出し、
前記直流抵抗比を用いて劣化判断を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池の充放電制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウムイオン二次電池の充放電制御方法において、
前記直流抵抗比が閾値以下の場合、充放電条件の制限を行うことを特徴とするリチウムイオン二次電池の充放電制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオン二次電池の充放電制御方法において、
前記充放電条件の制限は、充電上限電圧を下げる、または充放電電流を下げることを特徴とするリチウムイオン二次電池の充放電制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池制御システムを搭載した電気機器。
【請求項11】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池制御システムを搭載した充電式掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池制御システムおよびそれを搭載した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有するため、様々な電気機器から鉄道、自動車等の車両搭載用、さらには太陽光発電又は風力発電等で発電した電力を蓄え、電力系統に供給する用途等に用いられる電池として注目されている。例えば、リチウムイオン二次電池(以下、適宜「電池」と言う。)を電気機器に搭載して用いる場合、電気機器の移動性を大幅に向上させることができる。また、自動車に搭載して用いる場合、このような自動車としては、エンジンを搭載しないゼロエミッション電気自動車、エンジンと二次電池の両方を搭載したハイブリッド電気自動車、さらには系統電源から直接充電させるプラグイン・ハイブリッド電気自動車等がある。また、電力系統が遮断された非常時に電力を供給する定置式電力貯蔵システムとしての用途も期待されている。
【0003】
このような多様な用途に対し、電池には優れた耐久性が要求されている。例えば、環境温度が高くなったり充放電サイクルを繰り返したりしても、充電可能な電池容量の減少率が低く、長期にわたって電池の容量維持率(SOHQ)が高いことが要求されている。
【0004】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、高温環境下での放置や、充放電サイクルを繰り返すことで生じるサイクル劣化により電池容量の低下が起こる。この容量低下は、高電圧で放置したり、広い電圧範囲や大電流で充放電サイクルを行ったりした場合に、より顕著となる。また、この容量低下は、リチウムイオン二次電池を搭載した機器やシステムの使用環境や使用方法、充放電方法などにより変化する。
【0005】
本技術分野における先行技術文献として特許文献1がある。特許文献1は、所定の時間が経過したときの二次電池の容量劣化の大きさに関連する劣化特性値を閾値と比べて充電電圧の切り替えが必要であるか否かを判断し、充電制御回路は、劣化特性値が閾値に到達したと判断したときに充電器に第1の充電電圧値より低い第2の充電電圧値を設定する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-109840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される方法は、所定の時間経過により充放電サイクルを繰り返すことで生じるサイクル劣化に関連する劣化特性値である満充電容量が閾値に到達したことを判断したのち充電条件を変更する。そのため、電池の長寿命化尤度が小さいことが課題である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、リチウムイオン二次電池の容量維持率が所定の閾値以下となる前に充放電条件の制限を行ない、サイクル劣化を低減できるリチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その一例を挙げるならば、リチウムイオン二次電池の充放電を制御するリチウムイオン二次電池制御システムであって、リチウムイオン二次電池の充電状態を検知する検知部と、演算処理部を備え、演算処理部は、検知部からの充電状態から電池残量なしと判断したとき、検知部からのデータを用いて電池残量なしの状態からの充電時の第1の直流抵抗を算出し、検知部からの充電状態から満充電と判断したとき、検知部からのデータを用いて満充電状態からの放電時の第2の直流抵抗を算出し、第1の直流抵抗と第2の直流抵抗の直流抵抗比を算出し、直流抵抗比を用いて劣化判断を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル劣化を低減できるリチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の前提となる各サイクル試験条件での充放電サイクルに対する容量維持率の推移を示す図である。
図2図1における各サイクル試験条件を示す図である。
図3】実施例の前提となる各サイクル試験条件での充放電サイクルに対する満充電時の直流抵抗の変化を示す図である。
図4】実施例におけるサイクル試験前後における直流抵抗の電池容量依存性を示す図である。
図5】実施例における各サイクル試験条件での充放電サイクルに対する電池残量なしでの充電時の直流抵抗と満充電での放電時の直流抵抗との比の推移を示す図である。
図6】実施例におけるリチウムイオン二次電池制御システムの構成図である。
図7】実施例におけるサイクル試験の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。なお、本実施例は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【実施例0013】
まず、本実施例の前提となる従来のリチウムイオン二次電池の劣化状態の検知方法について説明する。SOH(States of Health)は、電池の劣化状態を示す値である。電池が劣化すると、一般的に、初期と比べて、内部抵抗が上昇、又は満充電時の容量(容量維持率)が低下するなど特性に変化が生じる。これら劣化で変化した特性又はこの変化した特性と初期特性との比率から、SOHを求める方法が一般的である。演算したSOHは、他の演算に反映させて劣化情報を考慮に入れた電池の状態検知を行うこともできるし、更に電池の寿命を判定する際の指標として用いることもできる。劣化状態としては容量維持率の変化や直流抵抗の変化があげられる。
【0014】
しかしながら、SOHは機器の使用時における過去から現在までの推移であり、ユーザにおける機器の使用環境履歴を追うことができるが、将来における使用環境下で劣化の加速が生じるかどうかは判断できない。
【0015】
このように、従来の電池の劣化状態の検知方法としては、あらかじめ標準使用条件の劣化特性を評価し、所定時間経過により充放電サイクルを繰り返すことで生じるサイクル劣化に関連する容量維持率が、予め設定した閾値よりも下回ったと判断した場合に、劣化が生じていると判断する方法が考えられる。なお、劣化状態の検知後は、より低い充電終止電圧を設定する等の充電条件を変更することで、その後の劣化を低減できる。
【0016】
図1は、本実施例の前提となる各サイクル試験条件での充放電サイクルに対する容量維持率の推移を示す図である。また、図1における各サイクル試験条件を図2に示す。図2に示すように、各サイクル試験条件は、環境温度、充電レート、放電レート、上限電圧、試験サイクル数を変化させて実施する。ここで、充放電レートとは、ある電池に対して通電する際の電流の大きさを示し、ある電池を満充電状態からある電流で放電した場合、1時間で電池が完全に放電される(充電率(SOC:State Of Charge)0%となる)時の電流値が1Cと定義されている。
【0017】
図1において、サイクル試験条件Cy#5およびCy#9では、充放電サイクルを繰り返すことで生じるサイクル劣化が進行すると、電池の劣化、すなわち容量維持率の低下が加速する様子が観測される。この劣化は電池の充放電環境により大きく影響を受ける。電池の充放電環境は、これを搭載した機器のユーザの使用形態に大きく左右される。
【0018】
一方、図3に、本実施例の前提となる各サイクル試験条件での充放電サイクルに対する満充電時の直流抵抗の変化を示す。各サイクル試験条件は図2に示すとおりである。図3において、電池のサイクル数の増加、すなわち劣化増加により直流抵抗が増大する様子が分かるが、図1のような劣化が加速する様子は見られない。
【0019】
図4は、本実施例におけるサイクル試験前後における直流抵抗の電池容量依存性を示す図である。図4は、サイクル試験条件Cy#9について記載したものであって、白丸はサイクル試験前の結果であり、黒丸は600サイクル後で容量維持率が60%まで低下した場合の結果である。図4に示すように、サイクル試験により全体的に直流抵抗は大きくなり、また、電池容量は低下している。ここで図4のグラフの形状に着目する。図4において、充電率0%(SOC0%)である右側の形状は、サイクル試験前後でほぼ同一で平行移動しているのに対し、充電率100%(SOC100%)である左側の形状は大きく変化していることが分かる。
【0020】
そこで、本実施例では、充電率0%での直流抵抗と充電率100%での直流抵抗との比を求め、この直流抵抗比を劣化診断判定する際の指標とし、例えばこの直流抵抗比を用いて劣化判断を行う。また、この直流抵抗比を、充放電条件を変更する際のトリガとして用いる。以下、その詳細について説明する。
【0021】
図5は、本実施例における各サイクル試験条件での充放電サイクルに対する電池残量なし(電池残量0)(SOC0%)での充電時の直流抵抗と満充電(SOC100%)での放電時の直流抵抗との比の推移を示す図である。各サイクル試験条件は図2に示すとおりである。
【0022】
図5において、図1で容量維持率がサイクル途中から加速して劣化したサイクル試験条件Cy#5とCy#9については、100サイクル時点で直流抵抗比が大きく低下している。これに対し、図1において容量維持率の推移が中程度の劣化であったサイクル試験条件Cy#1とCy#2については直流抵抗比が徐々に低下した。一方、図1において容量維持率の変化が少ないサイクル試験条件Cy#3については直流抵抗比がほぼ一定であることが分かる。
【0023】
ここで図1図5を比較してみる。図1に示した従来法のSOHである容量維持率の推移において、過去の容量維持率の推移から変曲点を有するような加速劣化が起きない使用環境条件であれば推定寿命を求めることができ、設定した閾値に到達したときに、電池劣化を抑制する制御を行えば電池寿命のある程度の延命が期待できる。しかしながら、この方法では、急速に加速が進行するサイクル試験条件Cy#5やCy#9のような使用条件では、閾値に到達した時点でかなりの劣化が進行した状態となってしまい、延命効果が期待できない。一方、図5に示した充電率0%と充電率100%での直流抵抗比を用いることで、劣化が急速に進行するサイクル条件を早い段階で検知することが可能となる。例えば、図1においては、300サイクル以降で劣化の兆候が見られるのに対し、図5においては、100サイクル前後ですでに劣化の兆候を検出できる。
【0024】
次に、本実施例におけるリチウムイオン二次電池の充放電を制御するリチウムイオン二次電池制御システムについて説明する。
【0025】
図6は、本実施例におけるリチウムイオン二次電池制御システムの構成図である。図6において、リチウムイオン二次電池制御システム101は、各種演算を行なう演算処理部107と、アナログインターフェースである充放電制御回路105、電流測定部110、電圧測定部111及びスイッチ112を有している。なお、演算処理部107は、ハードウェアイメージとしては、一般的なCPU(プロセッサ)と記憶装置やメモリなどのメモリ資源とからなる信号処理装置である。すなわち、演算処理部107は、記憶装置に記憶されているプログラムがメモリにロードされ、ロードされたプログラムがCPUによって実行されることにより各種機能を実現するソフトウェア処理を行う。演算処理部107は、機能として、図6に示すように、劣化診断部102と、電池状態記憶部103と、直流抵抗計算部104を備えている。また、リチウムイオン二次電池106には、スイッチ112を介して外部負荷108が接続され、スイッチ112を介して電池106を充電するための充電用電源109が接続される。
【0026】
リチウムイオン二次電池制御システム101は、外部負荷108として、電気機器や、鉄道、自動車等の車両搭載用、さらには太陽光発電又は風力発電等で発電した電力を蓄える電力貯蔵システムに搭載することができる。例えば、電気機器においては、電池にとって過酷環境を有する充電式掃除機等に有効である。すなわち、充電式掃除機においては、ハイパワーによる高レート放電、および満充電から電池残量なしまで使用される広い電圧範囲での充放電サイクルを要求されるためである。
【0027】
次に、本実施例における充電率0%と充電率100%での直流抵抗比を用いたリチウムイオン二次電池の充放電制御処理について説明する。
【0028】
図6において、まず、演算処理部107は、充放電制御回路105にスイッチ112を充電用電源109と接続するように信号を出力することで、電池106に電流が流れ充電を開始する。また、電池106の充電状態は、電圧測定部111と電流測定部110からなる充電状態の検知部で測定したデータを充放電制御回路105がディジタル値に変換して演算処理部107に送る。これにより、演算処理部107は、電池106の充電状態をモニタしながら定電流定電圧充電を行なう。そして、演算処理部107は、充放電制御回路105からの電池106の充電状態のデータが所定の条件を満足した時、満充電と判断し、充放電制御回路105にスイッチ112を開放するように信号を出力する。そして、演算処理部107は、充放電制御回路105にスイッチ112を外部負荷と接続する信号を出力するとともに、直流抵抗計算部104において、電圧測定部111と電流測定部110のデータから直流抵抗を計算し、電池が満充電状態から放電時の直流抵抗を求め電池状態記憶部103に記録する。
【0029】
また、演算処理部107は、外部負荷108により電池残量が低下することで充放電制御回路105から受信した電圧測定部111での計測値が設定下限電圧であると検知した時、電池残量なしと判断し、充放電制御回路105にスイッチ112を開放する信号を送る。演算処理部107は、充電用電源109の起動信号が入力されたとき、充放電制御回路105にスイッチ112を充電用電源と接続する信号を出力するとともに、直流抵抗計算部104において、電圧測定部111と電流測定部110のデータから直流抵抗を計算し、電池残量なしの状態からの充電時の直流抵抗を求め電池状態記憶部103に記録する。
【0030】
演算処理部107は、劣化診断部102において、電池状態記憶部103から電池残量なしの直流抵抗と満充電の直流抵抗を読み込み、それらの直流抵抗比を計算し、直流抵抗比が閾値以下になったとき、充放電条件の制限処理へと移行させる。充放電条件の制限処理としては、例えば充電上限電圧を下げる、または充放電電流を下げる処理を行う。
【0031】
ここで、電池の直流抵抗の測定方法は、電池に対し一定電流(I)を負荷し、負荷前後の電圧差からオームの法則により求める。具体的には負荷前の電圧と、例えば10秒負荷後の電圧の差分をΔVとしたとき、直流抵抗RはR=ΔV/Iと表現でき、これより計算して求める。そのため、電池残量なしの直流抵抗とは、厳密には、電池残量なし時の直流抵抗ではなく、電池残量なし(SOC0%)の状態からの充電時の直流抵抗である。同様に、満充電の直流抵抗とは、厳密には満充電時の直流抵抗ではなく、満充電(SOC100%)状態からの放電時の直流抵抗である。
【0032】
なお、上記した満充電状態からの直流抵抗および電池残量なしの状態からの直流抵抗は、厳密に満充電状態からまたは電池残量なしの状態からでなくてもよい。例えば、図4に示したように、サイクル試験前後で左右の形状の有意差が保てる範囲で、満充電状態からまたは電池残量なしの状態から所定時間経過した満充電状態近傍または電池残量なしの状態近傍からの直流抵抗を求めてもよい。
【0033】
図7は、本実施例におけるサイクル試験の実験結果を示す図である。図7において、実験1は、図1のサイクル試験条件Cy#5に対応し、電池を図6に示すリチウムイオン二次電池制御システムに搭載し充放電を行い、下記に示す方法により電池特性を評価した。
【0034】
電池を25℃で0.5CA相当の電流で4.20Vまで充電し、その後4.20Vで電流が0.04CA相当になるまで定電圧充電を行った。30分休止後に1CA相当の定電流で3.0Vまで定電流放電を行った。この時の放電容量を初期容量とした。また、初期の電池残量なしと満充電との直流抵抗比は3.2であった。
【0035】
次に、25℃で2.0CA相当の電流で4.20Vまで充電し、その後4.20Vで電流が0.04CA相当になるまで定電圧充電を行った。30分休止後に4CA相当の定電流で3.0Vまで定電流放電を行い60分休止した。
【0036】
直流抵抗比の判定は、初期および20サイクル毎とし、充放電制限制御へと移行する直流抵抗比の閾値を2.5と設定した。具体的には100サイクル後に直流抵抗比が閾値を下回り、充放電制限制御として、充電時上限電圧を4.10Vに制限して101サイクル以降1000サイクルまで試験を実施した。容量維持率については、100サイクル毎に25℃で0.5CA相当の電流で4.20Vまで充電し、その後4.20Vで電流が0.04CA相当になるまで定電圧充電を行った。30分休止後に1CA相当の定電流で3.0Vまで定電流放電を行い、放電容量を測定し、初期容量に対する容量維持率を求めた。その結果、容量維持率は80%となった。
【0037】
次に、図7において、実験2は、図1のサイクル試験条件Cy#9に対応し、サイクル試験の条件を40℃で1.0CA相当の電流で4.20Vまで充電し、その後4.20Vで電流が0.04CA相当になるまで定電圧充電を行った。30分休止後に6CA相当の定電流で3.0Vまで定電流放電を行い60分休止した。
【0038】
直流抵抗比の判定は、実験1と同様に初期および20サイクル毎とし、充放電制限制御へと移行する直流抵抗比の閾値を2.5と設定した。具体的には40サイクル後に直流抵抗比が閾値を下回り、充放電制限制御として、充電時上限電圧を4.10Vに制限して41サイクル以降1000サイクルまで試験を実施した。容量維持率は、実験1と同様に評価し、その結果、容量維持率は76%となった。
【0039】
次に、図7において、実験3は、図1のサイクル試験条件Cy#5に対応し、サイクル試験の条件を実験1と同様に、25℃で2.0CA相当の電流で4.20Vまで充電し、その後4.20Vで電流が0.04CA相当になるまで定電圧充電を行った。30分休止後に4CA相当の定電流で3.0Vまで定電流放電を行い60分休止した。これを1000サイクル実施した。直流抵抗比の判定および充放電制限制御は実施していない。その結果、容量維持率は59%となった。
【0040】
次に、図7において、実験4は、図1のサイクル試験条件Cy#9に対応し、サイクル試験の条件を実験2と同様に、40℃で1.0CA相当の電流で4.20Vまで充電し、その後4.20Vで電流が0.04CA相当になるまで定電圧充電を行った。30分休止後に6CA相当の定電流で3.0Vまで定電流放電を行い60分休止した。これを1000サイクル実施しようとしたが、600サイクルで容量維持率が60%となったため試験を停止した。直流抵抗比の判定および充放電制限制御は実施していない。
【0041】
このように図7から、直流抵抗比の判定およびこれに基づく充放電制限制御を実施した実験1および実験2は、急激な容量維持率の変化を示すことなく、1000サイクル試験を終了するとともに、1000サイクル後でも高い容量維持率を有していることが分かった。これに対し、直流抵抗比による判定および充放電制限制御を実施していない実験3および実験4では、図1に示すサイクル試験条件Cy#5およびCy#9のように容量維持率において300~400サイクル辺りより急速に低下し劣化速度が増大していることが分かる。このように、直流抵抗比による判定は従来の容量維持率による判定よりも高感度であり、早期にリチウムイオン二次電池の劣化を判断することができる。
【0042】
以上のように、本実施例によれば、リチウムイオン二次電池の電池残量なしと満充電とを検知する検知部を備え、電池残量なしの状態からの充電時にSOC0%の直流抵抗と、満充電状態からの放電時にSOC100%の直流抵抗とを測定し、これらの比を用いることで劣化診断を行い、これが一定値以下になったとき充放電条件の制限を行う。このように、電池の充放電条件を制御することで、リチウムイオン二次電池のサイクル劣化を低減でき、長寿命化を図れるリチウムイオン二次電池制御システム、充放電制御方法、およびそれを搭載した装置を提供できる。
【0043】
以上、本発明による実施例を示したが、本発明は、リチウムイオン二次電池のサイクル劣化を低減できるリチウムイオン二次電池制御システムおよびそれを搭載した装置を提供でき、必要な資源の削減をはかることができる。そのため、炭素排出量を減らし、地球温暖化を防止することができ、SDGs(Sustainable Development Goals)を実現するための特に項目7のエネルギーに貢献する。
【0044】
また、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
101:リチウムイオン二次電池制御システム、102:劣化診断部、103:電池状態記憶部、104:直流抵抗計算部、105:充放電制御回路、106:リチウムイオン二次電池(電池)、107:演算処理部、108:外部負荷、109:充電用電源、110:電流測定部、111:電圧測定部、112:スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7