(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044239
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】中空樹脂粒子および中空樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 232/08 20060101AFI20240326BHJP
C08F 230/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08F232/08
C08F230/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149652
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】松野 晋弥
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB16R
4J100AL08Q
4J100AR21P
4J100BA15Q
4J100BA65Q
4J100CA04
4J100CA29
4J100EA09
4J100EA12
4J100FA03
4J100FA21
4J100FA28
4J100FA30
4J100GC07
4J100GC25
4J100GC35
4J100JA44
(57)【要約】
【課題】シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、低誘電率化、低誘電正接化が達成でき、優れた耐熱性を発現できる、中空樹脂粒子を提供する。また、そのような中空樹脂粒子を簡易に製造する方法を提供する。さらに、そのような中空樹脂粒子の用途を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、該シェル部が、多環芳香族系炭化水素構造単位を有するポリマー(P)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、
該シェル部が、多環芳香族系炭化水素構造単位を有するポリマー(P)を含む、
中空樹脂粒子。
【請求項2】
前記多環芳香族系炭化水素構造単位が、式(1)により表される構造単位である、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【化1】
【請求項3】
前記ポリマー(P)が、重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素であるモノマー(A)と該モノマー(A)と反応するモノマー(M)の反応によって得られるポリマーである、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項4】
前記モノマー(A)と前記モノマー(M)の比率が、該モノマー(A)と該モノマー(M)の合計量を100重量部とした場合、重量部比(モノマー(A):モノマー(M))で、(30重量部~70重量部):(70重量部~30重量部)である、請求項3に記載の中空樹脂粒子。
【請求項5】
前記モノマー(A)がアセナフチレンである、請求項3に記載の中空樹脂粒子。
【請求項6】
前記モノマー(M)がリン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)を含む、請求項3に記載の中空樹脂粒子。
【請求項7】
体積平均粒子径が0.1μm~100μmである、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項8】
前記体積平均粒子径が0.1μm~10μmである、請求項7に記載の中空樹脂粒子。
【請求項9】
前記中空部分が1つの中空領域からなる、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項10】
前記中空部分が複数の中空領域からなる、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項11】
前記中空樹脂粒子を窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度が300℃以上である、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項12】
半導体部材用樹脂組成物に用いる、請求項1に記載の中空樹脂粒子。
【請求項13】
シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子の製造方法であって、
重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素であるモノマー(A)30重量部~70重量部と該モノマー(A)と反応するモノマー(M)70重量部~30重量部(モノマー(A)とモノマー(M)の合計量を100重量部とする)を、非反応性溶剤の存在下、水系媒体中で反応させ、
該モノマー(M)がリン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)を含む、
中空樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空樹脂粒子および中空樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器を用いた情報処理の高速化を図るため、多層プリント基板の絶縁層を低誘電率化、低誘電正接化する試みがなされている。その一環として、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空粒子を熱硬化性樹脂に混在させることで、樹脂層に空域を導入し、低誘電率化、低誘電正接化を図る検討がなされている。
【0003】
このような用途に使用される中空樹脂粒子には、例えば、該中空樹脂粒子が混在する熱硬化性樹脂を成型加工する際やはんだを使用する際に加熱されても、該中空樹脂粒子に実質的な変化が生じないような高い耐熱性が求められている。
【0004】
さらに、中空樹脂粒子を熱硬化性樹脂に混在させる場合、従来の中空樹脂粒子においては、混練時に熱硬化性樹脂が中空樹脂粒子内部へ侵入してしまい、中空樹脂粒子内部の空域が維持できないという問題がある。
【0005】
従来の中空樹脂粒子として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートやジペンタエリスリトールヘキサアクリレートをはじめとするアクリル系多官能モノマーを主成分としたモノマーを疎水性溶剤と共に懸濁重合することでアクリル系中空樹脂粒子が得られることが報告されている(特許文献1)。しかし、アクリル系樹脂は、誘電率、誘電正接の数値が高く、耐熱性が不十分である。このことから、特許文献1に記載のアクリル系中空樹脂粒子は、樹脂層の低誘電率化、低誘電正接化を図る目的、樹脂層に高い耐熱性を付与する目的に対しては不向きである。
【0006】
従来の中空樹脂粒子として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートを始めとするアクリル系多官能モノマーと、メチルメタクリレートを始めとするアクリル系単官能モノマーを主成分としたモノマーを、分散安定剤を含む極性溶剤と共に懸濁重合することで、多孔質中空ポリマー粒子が得られることが報告されている(特許文献2)。しかし、アクリル系樹脂は、誘電率、誘電正接の数値が高く、耐熱性が不十分である。このことから、特許文献1に記載のアクリル系中空樹脂粒子と同様、特許文献2に記載の多孔質中空ポリマー粒子は、樹脂層の低誘電率化、低誘電正接化を図る目的、樹脂層に高い耐熱性を付与する目的に対しては不向きである。さらに、多孔質中空ポリマー粒子はシェル表層部が薄く、熱硬化性樹脂が多孔質中空ポリマー粒子内部へ侵入しやすい。
【0007】
従来の中空樹脂粒子として、多官能モノマーと単官能モノマーを重合して得られる中空樹脂粒子を樹脂に配合することで、絶縁特性に優れ、低誘電率かつ低誘電正接の有機絶縁材とすることが報告され、具体的なモノマーとしては、スチレン、メチルメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが使用されている(特許文献3)。しかし、特許文献3に記載の中空樹脂粒子は、スチレン系モノマーと、誘電率、誘電正接の数値の高いアクリル系モノマーを併用しているため、樹脂層の低誘電率化、低誘電正接化が不十分である。また、特許文献3には、耐熱性の指針として、窒素雰囲気化、10℃/分の昇温条件でのTG-DTA測定による10%重量減少温度が示されているが、耐熱性が不十分である。
【0008】
従来の中空樹脂粒子として、シェルが架橋性モノマーの重合体及び共重合体、及び該架橋性モノマーと単官能性モノマーとの共重合体のいずれかでなり、単相構造を有する、代表的には、ジビニルベンゼンを炭素数8~18の飽和炭化水素類(より具体的には、ヘキサデカン)と共に懸濁重合することで得られるスチレン系中空樹脂粒子が報告されており、該中空樹脂粒子と熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物が、電子機器等に用いられる多層プリント基板の製造に好適であることが報告されている(特許文献4)。しかし、特許文献4に記載の中空樹脂粒子は、その製造に炭素数8~18の飽和炭化水素類(より具体的には、ヘキサデカン)を使用しているため、蒸留等による中空部分からの溶媒除去が難しく、得られるスチレン系中空樹脂粒子中に炭素数8~18の飽和炭化水素類が残存しており、中空部分を完全に空気に置換したスチレン系中空樹脂粒子が得られ難い。また、中空部分を完全に空気に置換したスチレン系中空樹脂粒子とするためには、上記のような溶媒除去のために製造コストがかかる。さらに、特許文献4に記載のスチレン系中空樹脂粒子は、耐熱性が不十分である。
【0009】
従来の中空樹脂粒子として、ビニル系モノマー単位およびリン酸エステル系モノマー単位を含む重合体からなり、体積平均粒子径が0.5~1000μmである中空樹脂粒子が報告されている(特許文献5)。しかし、特許文献5に記載の中空樹脂粒子は、特許文献3に記載の中空樹脂粒子と同様、スチレン系モノマーと、誘電率、誘電正接の数値の高いアクリル系モノマーを併用しているため、樹脂層の低誘電率化、低誘電正接化が不十分であり、耐熱性も不十分である。
【0010】
従来の中空樹脂粒子として、ウレア結合及び/又はウレタン結合を有するポリマーで形成されたシェル部と、該シェル部に囲まれた中空部とを有する中空樹脂粒子が報告されている(特許文献6)。しかし、特許文献6に記載の中空樹脂粒子は、ウレタン系樹脂組成の中空樹脂粒子であるため、誘電率、誘電正接の数値が高く、耐熱性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6513273号公報
【特許文献2】特許第4445495号公報
【特許文献3】特開2000-313818号公報
【特許文献4】特許第4171489号公報
【特許文献5】国際公開第2020/054816号パンフレット
【特許文献6】特許第6924533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、低誘電率化、低誘電正接化が達成でき、優れた耐熱性を発現できる、中空樹脂粒子を提供することにある。また、そのような中空樹脂粒子を簡易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、該シェル部が、多環芳香族系炭化水素構造単位を有するポリマー(P)を含む。
[2]上記[1]に記載の中空樹脂粒子において、上記多環芳香族系炭化水素構造単位が、式(1)により表される構造単位であってもよい。
【化1】
[3]上記[1]または[2]に記載の中空樹脂粒子において、上記ポリマー(P)が、重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素であるモノマー(A)と該モノマー(A)と反応するモノマー(M)の反応によって得られるポリマーであってもよい。
[4]上記[3]に記載の中空樹脂粒子において、上記モノマー(A)と上記モノマー(M)の比率が、該モノマー(A)と該モノマー(M)の合計量を100重量部とした場合、重量部比(モノマー(A):モノマー(M))で、(30重量部~70重量部):(70重量部~30重量部)であってもよい。
[5]上記[3]または[4]に記載の中空樹脂粒子において、上記モノマー(A)がアセナフチレンであってもよい。
[6]上記[3]から[5]までのいずれかに記載の中空樹脂粒子において、上記モノマー(M)がリン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)を含んでいてもよい。
[7]上記[1]から[6]までのいずれかに記載の中空樹脂粒子において、上記中空樹脂粒子は、体積平均粒子径が0.1μm~100μmであってもよい。
[8]上記[7]に記載の中空樹脂粒子において、上記体積平均粒子径が0.1μm~10μmであってもよい。
[9]上記[1]から[8]までのいずれかに記載の中空樹脂粒子において、上記中空部分が1つの中空領域からなるものであってもよい。
[10]上記[1]から[8]までのいずれかに記載の中空樹脂粒子において、上記中空部分が複数の中空領域からなるものであってもよい。
[11]上記[1]から[10]までのいずれかに記載の中空樹脂粒子において、上記中空樹脂粒子を窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度が300℃以上であってもよい。
[12]上記[1]から[11]までのいずれかに記載の中空樹脂粒子において、上記中空樹脂粒子は、半導体部材用樹脂組成物に用いるものであってもよい。
[13]本発明の実施形態による中空樹脂粒子の製造方法は、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子の製造方法であって、重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素であるモノマー(A)30重量部~70重量部と該モノマー(A)と反応するモノマー(M)70重量部~30重量部(モノマー(A)とモノマー(M)の合計量を100重量部とする)を、非反応性溶剤の存在下、水系媒体中で反応させ、該モノマー(M)がリン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、低誘電率化、低誘電正接化が達成でき、優れた耐熱性を発現できる、中空樹脂粒子を提供することができる。また、そのような中空樹脂粒子を簡易に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得られた粒子(1)の断面写真図である。
【
図2】実施例2で得られた粒子(2)の断面写真図である。
【
図3】実施例3で得られた粒子(3)の断面写真図である。
【
図4】実施例4で得られた粒子(4)の断面写真図である。
【
図5】実施例5で得られた粒子(5)の断面写真図である。
【
図6】実施例6で得られた粒子(6)の断面写真図である。
【
図7】実施例7で得られた粒子(7)の断面写真図である。
【
図8】実施例8で得られた粒子(8)の断面写真図である。
【
図9】実施例9で得られた粒子(9)の断面写真図である。
【
図10】比較例1で得られた粒子(C1)の断面写真図である。
【
図11】実施例8で得られた粒子(8)を用いて製造したフィルムの断面写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0017】
本明細書中で「(メタ)アクリル」との表現がある場合は、「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」との表現がある場合は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味し、「(メタ)アリル」との表現がある場合は、「アリルおよび/またはメタリル」を意味し、「(メタ)アクロレイン」との表現がある場合は、「アクロレインおよび/またはメタクロレイン」を意味する。また、本明細書中で「酸(塩)」との表現がある場合は、「酸および/またはその塩」を意味する。塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられ、具体的には、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
【0018】
≪≪1.中空樹脂粒子≫≫
≪1-1.中空樹脂粒子の構造と特性≫
本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子である。ここでいう中空とは、内部が樹脂以外の物質、例えば、気体や液体等で満たされている状態を意味し、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、気体で満たされている状態を意味する。
【0019】
中空部分は、1つの中空領域からなるものであってもよいし、複数の中空領域からなるもの(多孔質構造)であってもよい。
【0020】
本発明の実施形態による中空樹脂粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm~100μmであり、より好ましくは0.1μm~50μmであり、さらに好ましくは0.1μm~30μmであり、特に好ましくは0.1μm~20μmである。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の体積平均粒子径が上記範囲内にあれば、本発明の効果がより発現し得る。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の体積平均粒子径が上記範囲を外れて小さすぎる場合、シェル部の厚みが相対的に薄くなるため、十分な強度を有する中空樹脂粒子とならないおそれがあり、また、中空樹脂粒子を熱硬化性樹脂に混練した場合に該熱硬化性樹脂が中空樹脂粒子内部へ侵入するおそれがある。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の平均粒子径が上記範囲を外れて大きすぎる場合、懸濁重合中にモノマー成分が重合して生じるポリマーと溶剤との相分離が生じにくくなるおそれがあり、これによってシェル部の形成が困難となるおそれがある。
【0021】
本発明の実施形態による中空樹脂粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、好ましくは10%~50%であり、より好ましくは15%~45%であり、さらに好ましくは18%~45%であり、特に好ましくは20%~45%である。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の粒子径の変動係数(CV値)が上記範囲内にあれば、本発明の効果がより発現し得る。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の粒子径の変動係数(CV値)が上記範囲を外れて小さすぎる場合、中空樹脂粒子を熱硬化性樹脂に混練した際、該中空樹脂粒子が該熱硬化性樹脂内で分散し難く、例えば、樹脂組成物から樹脂層とした場合に、厚みにバラつきが生じるおそれがある。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の粒子径の変動係数(CV値)が上記範囲を外れて大きすぎる場合、粗大粒子量の増加により、例えば、樹脂組成物から樹脂層とした場合に、薄膜困難化や厚みにバラツキが生じるおそれがある。
【0022】
本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度が、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは320℃以上であり、さらに好ましくは340℃以上であり、特に好ましくは360℃以上である。上記5%重量減少温度の上限は、現実的には、好ましくは500℃以下である。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度が上記範囲内にあれば、本発明の実施形態による中空樹脂粒子は優れた耐熱性を発現できる。本発明の実施形態による中空樹脂粒子の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度が、上記範囲を外れて小さすぎる場合、例えば、中空樹脂粒子を熱硬化性樹脂と混練した場合、硬化反応のための加熱により中空樹脂粒子に変形が生じてしまい、中空部分が失われることで、低誘電効果、低誘電正接化効果が低下してしまうおそれがある。
【0023】
≪1-2.シェル部≫
シェル部は、多環芳香族系炭化水素構造単位を有するポリマー(P)を含む。シェル部がこのような構造単位を有するポリマー(P)を含むことにより、本発明の効果がより発現し得る。
【0024】
ポリマー(P)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
シェル部中のポリマー(P)の含有割合は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは60重量%~100重量%であり、より好ましくは70重量%~100重量%であり、さらに好ましくは80重量%~100重量%であり、特に好ましくは90重量%~100重量%である。
【0026】
多環芳香族系炭化水素構造単位は、ポリマー(P)を構成する単量体単位の中の少なくとも1種であって、多環芳香族系炭化水素構造を有する単量体単位である。
【0027】
ポリマー(P)を構成する単量体単位の中の多環芳香族系炭化水素構造単位の含有割合は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは60重量%~100重量%であり、より好ましくは70重量%~100重量%であり、さらに好ましくは80重量%~100重量%であり、特に好ましくは90重量%~100重量%である。
【0028】
シェル部は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分を含んでいてもよい。
【0029】
多環芳香族系炭化水素構造単位としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な多環芳香族系炭化水素構造単位を採用し得る。本発明の効果をより発現させ得る点で、多環芳香族系炭化水素構造単位は、好ましくは、式(1)により表される構造単位である。
【化2】
【0030】
ポリマー(P)は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素であるモノマー(A)と該モノマー(A)と反応するモノマー(M)の反応によって得られるポリマーである。
【0031】
モノマー(A)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
モノマー(M)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0033】
モノマー(A)とモノマー(M)の比率は、該モノマー(A)と該モノマー(M)の合計量を100重量部とした場合、重量部比(モノマー(A):モノマー(M))で、好ましくは(30重量部~70重量部):(70重量部~30重量部)であり、より好ましくは(35重量部~65重量部):(65重量部~35重量部)であり、さらに好ましくは(40重量部~60重量部):(60重量部~40重量部)である。モノマー(A)の含有割合が、上記範囲を外れて小さすぎると、例えば、耐熱性が不十分となるおそれがある。モノマー(A)の含有割合が、上記範囲を外れて大きすぎると、例えば、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分の形成が困難となるおそれがある。
【0034】
モノマー(A)としては、重合反応によって多環芳香族系炭化水素構造単位を構築できるモノマーであれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なモノマーを採用し得る。このようなモノマー(A)としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、フェニルアセナフチレン類などのアセナフチレン化合物が挙げられる。アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、1,2-ジプロピルアセナフチレンが挙げられる。ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレンが挙げられる。フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレンが挙げられる。アセナフチレン化合物としては、上述したような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。本発明の効果をより発現し得る点で、このようなモノマー(A)としては、好ましくは、重合反応によって式(1)により表される多環芳香族系炭化水素構造単位を構築できるモノマーが挙げられ、より好ましくは、アセナフチレンである。
【0035】
モノマー(M)としては、モノマー(A)と反応するモノマーであれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なモノマーを採用し得る。このようなモノマー(M)としては、例えば、架橋性モノマー、単官能モノマーが挙げられる。
【0036】
架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステル;N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’-エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能アクリルアミド誘導体;ジアリルアミン、テトラアリロキシエタン等の多官能アリル誘導体;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジアリルフタレート等の芳香族系架橋性モノマー;が挙げられる。本発明の効果をより発現し得る点で、架橋性モノマーとしては、芳香族系架橋性モノマーが好ましく、ジビニルベンゼンがより好ましい。架橋性モノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
架橋性モノマーの使用割合は、本発明の効果をより発現し得る点で、モノマー(A)100重量部に対して、好ましくは25重量部~75重量部であり、より好ましくは30重量部~70重量部であり、さらに好ましくは35重量部~65重量部である。
【0038】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等の炭素数1~16のアルキル(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルトルエン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン等の芳香族系単官能モノマー;ジメチルマレエート、ジエチルフマレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート等のジカルボン酸エステル系モノマー;無水マレイン酸;N-ビニルカルバゾール;(メタ)アクリロニトリル;が挙げられる。本発明の効果をより発現し得る点で、単官能モノマーとしては、芳香族系単官能モノマーが好ましく、スチレン、エチルビニルベンゼンがより好ましい。単官能モノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0039】
単官能モノマーの使用割合は、本発明の効果をより発現し得る点で、モノマー(A)100重量部に対して、好ましくは0重量部~30重量部であり、より好ましくは0重量部~25重量部であり、さらに好ましくは0重量部~20重量部である。
【0040】
モノマー(M)は、リン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)を含んでいてもよい。
【0041】
リン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0042】
リン酸エステル構造は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0043】
リン酸エステル構造は、本発明の効果をより発現させ得る点で、好ましくは、式(2)により表される。
【化3】
【0044】
式(2)中、R1、R2は、それぞれ独立に有機基または水素原子を表す。式(2)中のR1、R2が採り得る有機基とは、炭素原子を含む基であり、無機原子を含んでいてもよい。
【0045】
式(2)中のR
1、R
2が採り得る有機基は、本発明の効果をより発現させ得る点で、より好ましくは、式(3)により表される。
【化4】
【0046】
式(3)中、R1、R2は、それぞれ独立に有機基または水素原子を表す。式(3)中のR1、R2が採り得る有機基とは、炭素原子を含む基であり、無機原子を含んでいてもよい。式(3)中、R3は炭素数1~30の直鎖または分岐アルキレン基であり、mは1~300を表す。
【0047】
式(3)中、R3は、好ましくは、炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、より好ましくは、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、さらに好ましくは、炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、特に好ましくは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、最も好ましくは、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基である。
【0048】
式(3)中、mは、好ましくは1~100であり、より好ましくは1~50であり、さらに好ましくは1~40であり、特に好ましくは1~30である。
【0049】
リン酸エステル構造は、リン酸モノエステル構造(R1、R2のいずれもが水素原子)であってもよいし、リン酸ジエステル構造(R1、R2の一方が有機基でもう一方が水素原子)であってもよいし、リン酸トリエステル構造(R1、R2のいずれもが有機基)であってもよい。本発明の効果をより発現させ得る点で、リン酸エステル構造は、好ましくは、リン酸モノエステル構造またはリン酸ジエステル構造である。
【0050】
ラジカル反応性基としては、ラジカル反応性基として一般に知られる基であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なポリマーを採用し得る。本発明の効果をより発現し得る点で、このようなラジカル反応性基としては、好ましくは、炭素-炭素不飽和二重結合を有する基が挙げられ、具体的には、例えば、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、アリル基が挙げられる。
【0051】
ラジカル反応性基は、本発明の効果をより発現し得る点で、好ましくは、式(4)で表される構造を有する。
【化5】
【0052】
式(4)中、R4はメチル基または水素原子を表す。
【0053】
本発明の効果をより発現し得る点で、このようなリン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)としては、好ましくは、式(5)で表される化合物である。
【化7】
【0054】
式(5)中、R3、R5は炭素数1~30の直鎖または分岐アルキレン基であり、R4はメチル基または水素原子を表す。式(5)中、mは1~300を表す。式(5)中、nは1~3を表す。式(5)中、aは0または1であり、bは0~300であり、cは0または1である。
【0055】
式(5)中、R3は、好ましくは、炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、より好ましくは、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、さらに好ましくは、炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、特に好ましくは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、最も好ましくは、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基である。
【0056】
式(5)中、R5は、好ましくは、炭素数1~20の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、より好ましくは、炭素数1~10の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、さらに好ましくは、炭素数1~8の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、特に好ましくは、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基であり、最も好ましくは、炭素数1~4の直鎖状または分岐鎖を有しているアルキレン基である。
【0057】
式(5)中、mは、好ましくは1~100であり、より好ましくは1~50であり、さらに好ましくは1~40であり、特に好ましくは1~30である。
【0058】
式(5)中、bは、好ましくは0~100であり、より好ましくは0~50であり、さらに好ましくは0~10であり、特に好ましくは0~5であり、最も好ましくは0または1である。
【0059】
化合物(B)としては、市販品として入手できるものを採用してもよい。このような化合物(B)としては、例えば、相溶性の観点から、商品名「KAYAMER(登録商標)PM-21」(日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0060】
モノマー(A)とモノマー(M)の合計量を100重量部としたときに、該合計量に対する化合物(B)の量は、好ましくは0.0001重量部~0.0190重量部であり、より好ましくは0.0005重量部~0.0190重量部であり、さらに好ましくは0.0010重量部~0.0170重量部であり、特に好ましくは0.0015重量部~0.0150重量部である。化合物(B)の量が上記範囲を外れて小さすぎると、平均粒子径の小径化や油滴の分散安定性が不十分になり、重合塊状物や粗大粒子の形成が多発するおそれがある。化合物(B)の含有割合が、上記範囲を外れて大きすぎると、シェル部と該シェル部により囲まれた中空部分の形成が困難となるおそれがある。
【0061】
ポリマー(P)は、好ましくは、モノマー(A)とモノマー(M)の反応によって形成し得る。
【0062】
モノマー(A)とモノマー(M)の反応は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な反応によって行うことができる。このような反応としては、好ましくは、懸濁重合反応である。
【0063】
懸濁重合反応を行う際には、代表的には、水相に油相を加えて懸濁させて重合反応を行う。水相や油相には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶剤を含んでいてもよい。このような溶剤としては、例えば、後述するような水系媒体や非反応性溶剤が挙げられる。溶剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0064】
モノマー(A)とモノマー(M)の反応を行う際には、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー(A)及びモノマー(M)のいずれにも該当しない任意の適切な添加剤(C)を用いてもよい。添加剤(C)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。ここでいう添加剤(C)には、後述するような水系媒体や非反応性溶剤などの溶剤、分散安定剤は含まない。
【0065】
添加剤(C)の含有割合は、モノマー(A)とモノマー(M)の合計量に対して、好ましくは0重量%~40重量%であり、より好ましくは0重量%~30重量%であり、さらに好ましくは0重量%~20重量%であり、特に好ましくは0重量%~10重量%である。
【0066】
添加剤(C)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー(A)およびモノマー(M)のいずれにも該当しない任意の適切な添加剤を採用し得る。このような添加剤(C)としては、例えば、非架橋性ポリマー、重合開始剤が挙げられる。
【0067】
添加剤(C)として非架橋性ポリマーを含むことにより、反応進行に伴い生成するポリマー(P)と溶剤との相分離が促され、シェル形成が促進し得る。
【0068】
非架橋性ポリマーとしては、例えば、ポリオレフィン、スチレン系ポリマー、(メタ)アクリル酸系ポリマー、スチレン-(メタ)アクリル酸系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0069】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリα-オレフィンなどが挙げられる。モノマー組成物への溶解性の観点から、原料に長鎖のα-オレフィンを使用した側鎖結晶性ポリオレフィン、メタロセン触媒で製造された低分子量ポリオレフィンやオレフィンオリゴマーの使用が好ましい。
【0070】
スチレン系ポリマーとしては、例えば、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体などが挙げられる。
【0071】
(メタ)アクリル酸系ポリマーとしては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0072】
スチレン-(メタ)アクリル酸系ポリマーとしては、例えば、スチレン-メチル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-ブチル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン-プロピル(メタ)アクリレート共重合体などが挙げられる。
【0073】
モノマー(A)とモノマー(M)の反応を行う際には、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー(A)及びモノマー(M)のいずれにも該当しない任意の適切な分散安定剤(D)を用いてもよい。分散安定剤(D)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0074】
分散安定剤(D)は、水系媒体100重量部に対して、0.5重量部~10重量部が好ましい。分散安定剤(D)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0075】
分散安定剤(D)としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルピロリドン、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物が挙げられる。また、分散安定剤(D)としては、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等のリン酸塩;ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸亜鉛等のピロリン酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、コロイダルシリカ等の難水溶性無機化合物;も挙げられる。これらの中でも、中空樹脂粒子からの除去が比較的容易であり、中空樹脂粒子の表面に残存しにくいことから、ピロリン酸マグネシウムが好ましい。
【0076】
≪1-3.中空樹脂粒子の用途≫
本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、各種用途に採用し得る。本発明の効果をより活用し得る点で、本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、半導体部材に好適であり、代表的には、半導体部材用樹脂組成物に好適に用い得る。また、本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、上記の半導体部材用樹脂組成物への用途の他に、例えば、塗料組成物、化粧料、紙被覆組成物、断熱性組成物、光拡散性組成物、光拡散フィルム等の用途へも適用し得る。
【0077】
<半導体部材用樹脂組成物>
本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、低誘電率化、低誘電正接化が達成でき、優れた耐熱性を発現できるので、半導体部材用樹脂組成物に好適に用い得る。
【0078】
本発明の実施形態による半導体部材用樹脂組成物は、本発明の実施形態による中空樹脂粒子を含む。
【0079】
半導体部材とは、半導体を構成する部材を意味し、例えば、半導体パッケージや半導体モジュールが挙げられる。本明細書において、半導体部材用樹脂組成物とは、半導体部材に用いる樹脂組成物を意味する。
【0080】
半導体パッケージとは、ICチップを必須構成部材として、モールド樹脂、アンダーフィル材、モールドアンダーフィル材、ダイボンド材、半導体パッケージ基板用プリプレグ、半導体パッケージ基板用金属張積層板、及び半導体パッケージ用プリント回路基板のビルドアップ材料から選ばれる少なくとも1種の部材を用いて構成されるものである。
【0081】
半導体モジュールとは、半導体パッケージを必須構成部材として、プリント回路基板用プリプレグ、プリント回路基板用金属張積層板、プリント回路基板用ビルドアップ材料、ソルダーレジスト材、カバーレイフィルム、電磁波シールドフィルム、及びプリント回路基板用接着シートから選ばれる少なくとも1種の部材を用いて構成されるものである。
【0082】
<塗料組成物>
本発明の実施形態による中空樹脂粒子は、それを含む塗膜に優れた外観を付与し得るため、塗料組成物に好適に用い得る。
【0083】
本発明の実施形態による塗料組成物は、本発明の実施形態による中空樹脂粒子を含む。
【0084】
本発明の実施形態による塗料組成物は、好ましくは、バインダー樹脂およびUV硬化性樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む。バインダー樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。UV硬化性樹脂は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0085】
バインダー樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なバインダー樹脂を採用し得る。このようなバインダー樹脂としては、例えば、有機溶剤または水に可溶な樹脂、水中に分散できるエマルション型の水性樹脂が挙げられる。バインダー樹脂としては、具体的には、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0086】
UV硬化性樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なUV硬化性樹脂を採用し得る。このようなUV硬化性樹脂としては、例えば、多官能(メタ)アクリレート樹脂、多官能ウレタンアクリレート樹脂が挙げられ、多官能(メタ)アクリレート樹脂が好ましく、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂がより好ましい。1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂としては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリアクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。
【0087】
本発明の実施形態による塗料組成物が、バインダー樹脂およびUV硬化性樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む場合、その含有割合は、目的に応じて、任意の適切な含有割合を採用し得る。代表的には、バインダー樹脂(エマルション型の水性樹脂の場合は固形分換算)およびUV硬化性樹脂から選ばれる少なくとも1種と本発明の実施形態による中空樹脂粒子との合計量に対して、本発明の実施形態による中空樹脂粒子が、好ましくは5重量%~50重量%であり、より好ましくは10重量%~50重量%であり、さらに好ましくは20重量%~40重量%である。
【0088】
UV硬化性樹脂が用いられる場合には、好ましくは、光重合開始剤が併用される。光重合開始剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な光重合開始剤を採用し得る。このような光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、α-ヒドロキシアルキルフェノン類、α-アミノアルキルフェノン、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類(特開2001-139663号公報等に記載)、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、オニウム塩類、ボレート塩、活性ハロゲン化合物、α-アシルオキシムエステルが挙げられる。
【0089】
本発明の実施形態による塗料組成物は、溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。本発明の実施形態による塗料組成物が溶剤を含む場合、その含有割合は、目的に応じて、任意の適切な含有割合を採用し得る。
【0090】
溶剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な溶剤を採用し得る。このような溶剤としては、好ましくは、バインダー樹脂またはUV硬化性樹脂を溶解または分散できる溶剤である。このような溶剤としては、油系塗料であれば、例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤;が挙げられ、水系塗料であれば、例えば、水、アルコール類が挙げられる。
【0091】
本発明の実施形態による塗料組成物は、必要に応じて粘度を調整するために、希釈が施されていてもよい。希釈剤としては、目的に応じて、任意の適切な希釈剤を採用し得る。このような希釈剤としては、前述した溶剤が挙げられる。希釈剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0092】
本発明の実施形態による塗料組成物は、必要に応じて、他の成分、例えば、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒、体質顔料、着色顔料、金属顔料、マイカ粉顔料、染料が含まれていてもよい。
【0093】
本発明の実施形態による塗料組成物を使用して塗膜を形成する場合、その塗工方法としては、目的に応じて、任意の適切な塗工方法を採用し得る。このような塗工方法としては、例えば、スプレー塗装法、ロール塗装法、ハケ塗り法、コーティングリバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、スプレーコート法が挙げられる。
【0094】
本発明の実施形態による塗料組成物を使用して塗膜を形成する場合、その形成方法としては、目的に応じて、任意の適切な形成方法を採用し得る。このような形成方法としては、例えば、基材の任意の塗工面に塗工して塗工膜を作製し、この塗工膜を乾燥させた後、必要に応じて塗工膜を硬化させることによって、塗膜を形成する方法が挙げられる。基材としては、例えば、金属、木材、ガラス、プラスチック(PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂、TAC(トリアセチルセルロース)など)が挙げられる。
【0095】
≪≪2.中空樹脂粒子の製造方法≫≫
本発明の実施形態による中空樹脂粒子の製造方法は、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子の製造方法であって、重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素であるモノマー(A)30重量部~70重量部と該モノマー(A)と反応するモノマー(M)70重量部~30重量部(モノマー(A)とモノマー(M)の合計量を100重量部とする)を、非反応性溶剤の存在下、水系媒体中で反応させ、該モノマー(M)がリン酸エステル構造とラジカル反応性基を有する化合物(B)を含む。
【0096】
上記製造方法によれば、本発明の実施形態による中空樹脂粒子を簡易に製造し得る。
【0097】
モノマー(A)とモノマー(M)を、非反応性溶剤の存在下、水系媒体中で反応させることにより、シェル部と該シェル部により囲われた中空部分を有する中空樹脂粒子であって、低誘電率化、低誘電正接化が達成でき、優れた耐熱性を発現できる、中空樹脂粒子が得られ得る。
【0098】
本発明の実施形態による中空樹脂粒子の製造方法においては、好ましくは、モノマー(A)とモノマー(M)を懸濁重合反応に供する。
【0099】
懸濁重合は、代表的には、水系媒体を含む水相と、モノマー(A)とモノマー(M)と非反応性溶剤を含む油相とを用いた懸濁重合であり、好ましくは、水系媒体を含む水相にモノマー(A)とモノマー(M)と非反応性溶剤を含む油相を添加して分散させて加熱して懸濁重合を行う。
【0100】
分散は、水相中で油相を液滴状で存在させることができさえすれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な分散方法を採用し得る。このような分散方法としては、代表的には、ホモミキサーやホモジナイザーを用いた分散方法であり、例えば、ポリトロンホモジナイザー、超音波ホモジナイザーや高圧ホモジナイザーなどが挙げられる。
【0101】
重合温度は、懸濁重合に適した温度であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な重合温度を採用し得る。このような重合温度としては、好ましくは30℃~80℃である。
【0102】
重合時間は、懸濁重合に適した時間であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な重合時間を採用し得る。このような重合時間としては、好ましくは1時間~48時間である。
【0103】
重合後に好ましく行う後加熱は、完成度の高い中空樹脂粒子を得るために好適な処理である。
【0104】
重合後に好ましく行う後加熱の温度は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な温度を採用し得る。このような後加熱の温度としては、好ましくは70℃~120℃である。
【0105】
重合後に好ましく行う後加熱の時間は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な時間を採用し得る。このような後加熱の時間としては、好ましくは1時間~24時間である。
【0106】
モノマー(A)、モノマー(M)、各種成分の含有割合としては、≪≪1.中空樹脂粒子≫≫の≪1-2.シェル部≫の項目における説明をそのまま援用し得る。
【0107】
水系媒体としては、例えば、水、水と低級アルコール(メタノール、エタノール等)との混合媒体などが挙げられる。
【0108】
水系媒体の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な量を採用し得る。このような水系媒体の使用量は、代表的には、水相に油相を加えて懸濁させて行う懸濁重合反応において該反応が適切に進行する量であり、モノマー(A)とモノマー(M)と非反応性溶剤の合計量100重量部に対して、好ましくは100重量部~5000重量部であり、より好ましくは150重量部~2000重量部である。
【0109】
非反応性溶剤は、モノマー(A)とモノマー(M)とのいずれとも化学的な反応を起こさない溶剤であり、好ましくは、有機溶剤である。非反応性溶剤は、代表的には、粒子に空域を与える中空化剤として作用する。非反応性溶剤としては、例えば、ヘプタン、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、クロロホルム、四塩化炭素が挙げられる。中空樹脂粒子からの除去が容易である点で、非反応性溶剤の沸点は100℃未満であることが好ましい。
【0110】
中空化剤としての非反応性溶剤は、単一溶剤であってもよいし、混合溶剤であってもよい。
【0111】
非反応性溶剤の添加量は、モノマー(A)とモノマー(M)の合計量100重量部に対して、好ましくは20重量部~250重量部である。
【0112】
モノマー(A)とモノマー(M)の反応を行う際には、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー(A)及びモノマー(M)のいずれにも該当しない任意の適切な添加剤(C)を用いてもよい。添加剤(C)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。ここでいう添加剤(C)には、水系媒体や非反応性溶剤などの溶剤、分散安定剤は含まない。
【0113】
添加剤(C)の含有割合は、モノマー(A)とモノマー(M)の合計量に対して、好ましくは0重量%~~40重量%であり、より好ましくは0重量%~30重量%であり、さらに好ましくは0重量%~20重量%であり、特に好ましくは0重量%~10重量%である。
【0114】
添加剤(C)としては、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー(A)及びモノマー(M)のいずれにも該当しない任意の適切な添加剤を採用し得る。このような添加剤(C)としては、例えば、非架橋性ポリマー、重合開始剤が挙げられる。
【0115】
非架橋性ポリマーについては、≪≪1.中空樹脂粒子≫≫の≪1-2.シェル部≫の項目における説明をそのまま援用し得る。
【0116】
重合開始剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な重合開始剤を採用し得る。このような重合開始剤としては、例えば、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、1,1'-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;などが挙げられる。重合開始剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0117】
重合開始剤の含有割合は、モノマー(A)とモノマー(M)の合計量に対して、0.1重量%~5重量%の範囲が好ましい。
【0118】
モノマー(A)とモノマー(M)の反応を行う際には、本発明の効果を損なわない範囲で、モノマー(A)及びモノマー(M)のいずれにも該当しない任意の適切な分散安定剤(D)を用いてもよい。分散安定剤(D)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0119】
分散安定剤(D)は、水系媒体100重量部に対して、0.5重量部~10重量部が好ましい。分散安定剤(D)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0120】
分散安定剤(D)の具体例としては、≪≪1.中空樹脂粒子≫≫の≪1-2.シェル部≫の項目における説明をそのまま援用し得る。
【実施例0121】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0122】
≪体積平均粒子径、変動係数の測定≫
粒子の体積平均粒子径の測定は、以下のようにしてコールター法により行った。
粒子の体積平均粒子径は、コールターMultisizer(登録商標)3(ベックマン・コールター株式会社製測定装置)により測定した。測定は、ベックマン・コールター株式会社発行のMultisizer(登録商標)3ユーザーズマニュアルに従って校正されたアパチャーを用いて実施した。なお、測定に用いるアパチャーは、測定する粒子の想定の体積平均粒子径が1μm以上10μm以下の場合は50μmのサイズを有するアパチャーを選択し、測定する粒子の想定の体積平均粒子径が10μmより大きく30μm以下の場合は100μmのサイズを有するアパチャーを選択し、粒子の想定の体積平均粒子径が30μmより大きく90μm以下の場合は280μmのサイズを有するアパチャーを選択し、粒子の想定の体積平均粒子径が90μmより大きく150μm以下の場合は400μmのサイズを有するアパチャーを選択する等、測定する粒子の大きさによって、適宜選択した。測定後の体積平均粒子径が想定の体積平均粒子径と異なった場合は、適正なサイズを有するアパチャーに変更して、再度測定を行った。Current(アパチャー電流)およびGain(ゲイン)は、選択したアパチャーのサイズによって、適宜設定した。例えば、50μmのサイズを有するアパチャーを選択した場合、Current(アパチャー電流)は-800、Gain(ゲイン)は4と設定し、100μmのサイズを有するアパチャーを選択した場合、Current(アパチャー電流)は-1600、Gain(ゲイン)は2と設定し、280μm及び400μmのサイズを有するアパチャーを選択した場合、Current(アパチャー電流)は-3200、Gain(ゲイン)は1と設定した。
測定用試料としては、粒子0.1gを0.1重量%ノニオン性界面活性剤水溶液10ml中にタッチミキサー(ヤマト科学株式会社製、「TOUCHMIXER MT-31」)および超音波洗浄器(株式会社ヴェルヴォクリーア製、「ULTRASONIC CLEANER VS-150」)を用いて分散させ、分散液としたものを使用した。測定中は、ビーカー内を気泡が入らない程度に緩く攪拌しておき、粒子を10万個測定した時点で測定を終了した。なお、粒子の体積平均粒子径は、10万個の粒子の体積基準の粒度分布における算術平均とした。
粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、以下の数式によって算出した。
粒子の粒子径の変動係数(%)=(粒子の体積基準の粒度分布の標準偏差÷粒子の体積平均粒子径)×100(%)
【0123】
≪断面観察≫
乾燥した粒子を光硬化性樹脂「D-800」(日本電子株式会社製)と混合し、紫外光を照射することで硬化物を得た。その後、硬化物をニッパーで裁断し、断面部分を、カッターを用いて平滑に加工し、日本電子株式会社製、「オートファインコータJFC-1300」スパッタ装置を用いて試料をコーティングした。次いで、試料の断面を株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「SU1510」走査電子顕微鏡の二次電子検出器を用いて、撮影した。
【0124】
≪窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度の測定≫
5%重量減少温度は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「TG/DTA6200、AST-2」示差熱熱重量同時測定装置を用いて測定した。サンプリング方法及び温度条件に関しては以下のように行った。
白金製測定容器の底に、すきまのないように試料を10.5±0.5mg充てんして、測定用のサンプルとした。窒素ガス流量230mL/分のもと、アルミナを基準物質として、5%重量減少温度を測定した。TG/DTA曲線は、昇温速度10℃/分で30℃から500℃までサンプルを昇温させて得た。この得られた曲線から装置付属の解析ソフトを用いて、5%重量減少時の温度を算出し、5%重量減少温度とした。
【0125】
〔実施例1〕
重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素単量体(商品名「アセナフチレン」、JFEケミカル株式会社製)3.30g、ジビニルベンゼン(DVB)810(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、81%含有品、19%はエチルビニルベンゼン(EVB))3.30g、シクロヘキサン3.30g、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、富士フィルム和光純薬株式会社製)0.13g、リン酸基を有するラジカル重合性モノマーとしての「KAYAMER(登録商標)PM-21」(日本化薬株式会社製)0.03gを混合し、油相を作製した。
水相としてのピロリン酸マグネシウム2重量%水分散液32gに油相を加え、ポリトロンホモジナイザー「PT10-35」(株式会社セントラル科学貿易製)を用いて、7000rpmにて3分間分散させて、懸濁液を作製した。得られた懸濁液を70℃で24時間加熱撹拌することによって、重合反応を完了させた。得られたスラリーに塩酸を加え、ピロリン酸マグネシウムを分解させた後、ろ過による脱水で固形分を分離し、水洗を繰り返すことで精製を行った後、加熱乾燥することで、粒子(1)を得た。
得られた粒子(1)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(1)の断面写真図を
図1に示す。得られた粒子(1)は、シェルにより囲われた中空が多孔質構造からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(1)の体積平均粒子径は10.3μm、変動係数は39.2%であった。
得られた粒子(1)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は342.8℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0126】
〔実施例2〕
シクロヘキサン3.30gに代えてヘプタン3.30gを用い、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.13gに代えて2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVM、商品名「V-65」、富士フィルム和光純薬株式会社製)0.13gを用いた以外は、実施例1と同様に行い、粒子(2)を得た。
得られた粒子(2)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(2)の断面写真図を
図2に示す。得られた粒子(2)は、シェルにより囲われた中空が多孔質構造からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(2)の体積平均粒子径は16.7μm、変動係数は46.9%であった。
得られた粒子(2)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は383.9℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0127】
〔実施例3〕
重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素単量体(商品名「アセナフチレン」、JFEケミカル株式会社製)の使用量を2.64gに変更し、ジビニルベンゼン(DVB)810(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、81%含有品、19%はエチルビニルベンゼン(EVB))の使用量を3.96gに変更した以外は、実施例2と同様に行い、粒子(3)を得た。
得られた粒子(3)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(3)の断面写真図を
図3に示す。得られた粒子(3)は、シェルにより囲われた中空が多孔質構造からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(3)の体積平均粒子径は10.9μm、変動係数は42.3%であった。
得られた粒子(3)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は382.3℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0128】
〔実施例4〕
重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素単量体(商品名「アセナフチレン」、JFEケミカル株式会社製)の使用量を3.96gに変更し、ジビニルベンゼン(DVB)810(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、81%含有品、19%はエチルビニルベンゼン(EVB))の使用量を2.64gに変更した以外は、実施例2と同様に行い、粒子(4)を得た。
得られた粒子(4)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(4)の断面写真図を
図4に示す。得られた粒子(4)は、シェルにより囲われた中空が一つの中空領域からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(4)の体積平均粒子径は10.9μm、変動係数は36.7%であった。
得られた粒子(4)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は381.3℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0129】
〔実施例5〕
重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素単量体(商品名「アセナフチレン」、JFEケミカル株式会社製)の使用量を2.50gに変更し、ジビニルベンゼン(DVB)810(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、81%含有品、19%はエチルビニルベンゼン(EVB))の使用量を2.50gに変更し、ヘプタンの使用量を5.00gに変更し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.10gに変更した以外は、実施例2と同様に行い、粒子(5)を得た。
得られた粒子(5)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、表面に凹凸がある球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(5)の断面写真図を
図5に示す。得られた粒子(5)は、シェルにより囲われた中空が一つの中空領域からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(5)の体積平均粒子径は12.8μm、変動係数は34.0%であった。
得られた粒子(5)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は389.4℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0130】
〔実施例6〕
懸濁液を作製する際に、ポリトロンホモジナイザー「PT10-35」に代えて、超音波ホモジナイザー(BRANSON社、SONIFIER450、条件:DutyCycle=50%、OutputControl=5、処理時間3分)を用いた以外は、実施例2と同様に行い、粒子(6)を得た。
得られた粒子(6)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(6)の断面写真図を
図6に示す。得られた粒子(6)は、シェルにより囲われた中空が多孔質構造からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(6)の体積平均粒子径は3.4μm、変動係数は44.8%であった。
得られた粒子(6)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は385.4℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0131】
〔実施例7〕
重合反応性基を有する多環芳香族系炭化水素単量体(商品名「アセナフチレン」、JFEケミカル株式会社製)の使用量を2.00gに変更し、ジビニルベンゼン(DVB)810(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、81%含有品、19%はエチルビニルベンゼン(EVB))の使用量を3.00gに変更し、ヘプタンの使用量を5.00gに変更し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)の使用量を0.10gに変更した以外は、実施例6と同様に行い、粒子(7)を得た。
得られた粒子(7)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(7)の断面写真図を
図7に示す。得られた粒子(7)は、シェルにより囲われた中空が一つの中空領域からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(7)の体積平均粒子径は4.3μm、変動係数は30.7%であった。
得られた粒子(7)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は380.2℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0132】
〔実施例8〕
ヘプタン5.00gに代えて、シクロヘキサン2.50g、酢酸エチル2.50gを用いた以外は、実施例7と同様に行い、粒子(8)を得た。
得られた粒子(8)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(8)の断面写真図を
図8に示す。得られた粒子(8)は、シェルにより囲われた中空が多孔質構造からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(8)の体積平均粒子径は3.3μm、変動係数は38.0%であった。
得られた粒子(8)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は384.5℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0133】
〔実施例9〕
ヘプタン5.00gに代えて、シクロヘキサン3.75g、酢酸エチル1.25gを用いた以外は、実施例7と同様に行い、粒子(9)を得た。
得られた粒子(9)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(9)の断面写真図を
図9に示す。得られた粒子(9)は、シェルにより囲われた中空が一つの中空領域からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(9)の体積平均粒子径は3.8μm、変動係数は42.1%であった。
得られた粒子(9)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は378.7℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0134】
〔比較例1〕
メタクリル酸メチル2.0g、エチレングリコールジメタクリレート2.0g、シクロヘキサン4.0g、酢酸エチル40g、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名「V-65」、富士フィルム和光純薬株式会社製)0.067g、リン酸基を有するラジカル重合性モノマーとしての「KAYAMER(登録商標)PM-21」(日本化薬株式会社製)0.024gを混合し、油相を作製した。
水相としてのピロリン酸マグネシウム2重量%水分散液32gに油相を加え、ポリトロンホモジナイザー「PT10-35」(株式会社セントラル科学貿易製)を用いて、7000rpmにて5分間分散させて、懸濁液を作製した。得られた懸濁液を55℃で24時間加熱撹拌することによって、重合反応を完了させた。得られたスラリーに塩酸を加え、ピロリン酸マグネシウムを分解させた後、ろ過による脱水で固形分を分離し、水洗を繰り返すことで精製を行った後、加熱乾燥することで粒子(C1)を得た。
得られた粒子(C1)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像したところ、粒子表面には孔が無く、平滑な球状粒子であることが認められた。
得られた粒子(C1)の断面写真図を
図10に示す。得られた粒子(10)は、シェルにより囲われた中空が多孔質構造からなる中空樹脂粒子であることが確認できた。
得られた粒子(C1)の体積平均粒子径は7.6μm、変動係数は26.8%であった。
得られた粒子(C1)の、窒素雰囲気下において10℃/分で昇温した際の5%重量減少温度は240.0℃であった。
配合量および各種測定結果などを表1に示す。
【0135】
【0136】
≪性能評価:比誘電率・誘電正接評価≫
実施例、比較例にて得られた粒子0.425gと、酢酸エチル8.3gと、溶剤可溶型ポリイミドKPI-MX300F(河村産業株式会社製)1.7gを、遊星撹拌脱泡機(KURABO株式会社製、「マゼルスターKK-250」)を用いて脱泡撹拌し、評価用混合物を作製した。
評価用混合物を厚み5mmのガラス板にウエット厚250μmに設定したアプリケーターを用いて塗工した後、60℃で30分、90℃にて10分、150℃にて30分、200℃にて30分加熱することで酢酸エチルを除去した後、室温下まで冷却することで、各粒子を含むフィルムサンプルを得た。得られたフィルムの比誘電率・誘電正接評価を空洞共振法(測定周波数:5.8GHz)にて実施した。測定結果は粒子を含まないフィルムの測定値を100%にした相対割合(%)とした。結果を表2に示す。
【0137】
【0138】
表2の結果から、本発明によって提供される中空樹脂粒子は、基材の比誘電率・誘電正接を下げる効果を有することが確認でき、半導体材料の低誘電率化、低誘電正接化を図る目的に対して有効であることがわかる。
【0139】
≪フィルムの断面観察≫
比誘電率および誘電正接評価で使用した各粒子を含むフィルムの断面サンプルを、断面作製装置「IB-19500CP」(日本電子株式会社製)によるクロスセクションポリッシャ法にて作製し、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3400N」走査電子顕微鏡を用いて断面写真図を撮像し、断面観察した。
断面写真図において、白色部分はポリイミドを意味し、白色部分内に観察できる球状物質は中空樹脂粒子を意味している。また、中空樹脂粒子内部の黒色箇所は空気層を示している。
図11は、実施例8で得られた粒子(8)を用いて製造したフィルムの断面写真図である。
図11のように、中空樹脂粒子内部が黒色で観察された場合は、ポリイミドフィルム内において、中空樹脂粒子の空隙維持ができていること、すなわち、樹脂(ポリイミド)が中空樹脂粒子内部に侵入していないことを意味している。
本発明の実施形態による中空樹脂粒子、本発明の実施形態による製造方法により得られる中空樹脂粒子は、半導体材料などに利用可能である。本発明の実施形態による中空樹脂粒子、本発明の実施形態による製造方法により得られる中空樹脂粒子は、例えば、半導体部材用樹脂組成物の用途に適用し得る。