(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044258
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】トマト種子の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01H 5/10 20180101AFI20240326BHJP
A01C 1/00 20060101ALI20240326BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20240326BHJP
C12P 1/00 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A01H5/10
A01C1/00 L
A01H6/82
C12P1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149679
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂口 あかね
【テーマコード(参考)】
2B030
2B051
4B064
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030CD28
2B051AA02
2B051AB01
2B051BA11
2B051BB20
4B064CA21
4B064CB01
4B064CC15
4B064DA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】種子が固着していないトマト種子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るトマト種子の製造方法を構成するのは、少なくとも、酵素処理である。ここで酵素処理されるのは、トマト果実のゼリー部であり、当該ゼリー部は、前記トマトの種子を含有している。当該酵素は、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマト種子の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である:
酵素処理:ここで酵素処理されるのは、トマト果実のゼリー部であり、当該ゼリー部は
、前記トマトの種子を含有しており、
当該酵素は、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼである。
【請求項2】
トマト種子の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程である:
ゼリー部露出:ここでゼリー部が露出されるのは、トマト果実であり、これによって得
られるのは、ゼリー部が露出したトマトであり、
酵素処理:ここで酵素処理されるのは、前記ゼリー部が露出したトマトであり、当該ト
マトは、当該トマトの種子を含有しており、
当該酵素は、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼである。
【請求項3】
請求項1の製造方法であって、
前記セルラーゼは、セルラーゼ活性がトマト果実のゼリー部1g(新鮮重量)に対して
、5U以上となるように処理される。
【請求項4】
請求項1の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチナーゼ活性がトマト果実のゼリー部1g(新鮮重量)に対
して、5U以上となるように処理される。
【請求項5】
請求項2の製造方法であって、
前記セルラーゼは、セルラーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対して、1U以上
となるように処理される。
【請求項6】
請求項2の製造方法であって、
前記ペクチナーゼは、ペクチナーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対して1U以
上となるように処理される。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかの製造方法であって、
前記酵素処理の時間は、24時間未満である。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れかの製造方法であって、
前記酵素は、アクレモニウム属菌由来、アスペルギルス属菌由来又はリゾプス属菌由来
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、トマト種子の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、農業に求められるものは、その収益性の向上である。農業の収益性を向上するた
めの手段として頻繁に取り上げられるのは、農作業の機械化である。農作業が機械化され
ることで省かれるのは、人の手で行っていた作業である。しかし機械化は、初期投資が必
要である。また、ランニングコストが必要になることもある。そのため、導入のハードル
が高い場合がある。
【0003】
農作業において人の手で行われているのは、様々な作業であるが、種子の製造もその1
つである。種子の製造は、収穫などの主な作業に比べ、その機械化が進んでいない。
【0004】
また、高品質な種苗は、農業の収益性を向上する手段の1つである。高品質な種苗の要
件は、様々であるが、発芽率はその要件の1つである。
【0005】
特許文献1が開示するのは、イチゴ種子を得る方法である。具体的には、イチゴ果実に
酵素を添加し、残渣を除去して、乾燥させて、イチゴ種子を得る方法である。
【0006】
特許文献2が開示するのは、柑橘類果実の搾汁粕から種子を選別する方法である。具体
的には、搾汁粕を篩分けし、酸、アルカリ、又は酵素の何れかを処理し、さらに篩分けを
行い、柑橘類の種子を得る方法である。
【0007】
非特許文献1が開示するのは、トマト種子を得る方法である。具体的には、トマト果実
のスラリーを、室温で2日間自然発酵させて、トマト種子を得る方法である。また、トマ
ト果実のスラリーを、塩酸でpH1~3に調整し、10分間処理して、トマト種子を得る
方法である。
【0008】
非特許文献2が開示するのは、トマト種子を得る方法である。具体的には、室温で48
時間自然発酵させた後、塩酸でpH1~3に調整し、10分~30分間処理して、トマト
種子を得る方法である。
【0009】
非特許文献3が開示するのは、トマト種子を得る方法である。具体的には、トマト果実
から種子を含むゼリー部を取り出し、0.8~1%の塩酸を加えて1時間攪拌し、種子を
水洗し、回収してから乾燥させ、種子を得る方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-199968号公報
【特許文献2】特開平06-100459号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Demir,I.and Samit,Y.,Gartenbauwissenschaft,Vol.66(4),pp.199-202,(2001)
【非特許文献2】Nemati,H.et.ai.,Pakistan Journal of Biological Sciences,Vol.13(17),pp.814-820,(2010)
【非特許文献3】トマト(マイクロトム)の種子の取り方(WEBページ)(https://note.com/shigeruhanano/n/na7dfa04e3471)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、種子が固着していないトマト種子の製造である。ト
マト種子は、果実の中で、ゼリー部と呼ばれる組織に覆われている。トマト種子を製造す
る過程で、ゼリー部が残存すると、種子同士の固着や、種子と種子以外の組織(果肉、果
皮等)の固着の要因となる。種子同士の固着や、種子と種子以外の組織の固着は、種子の
外観を悪化させるだけでなく、ハンドリングが悪くなる。また、種子同士の固着や、種子
と種子以外の組織の固着は、種子の発芽率を低下させ得る。加えて、ゼリー部は、種子の
発芽を抑制しており、ゼリー部が残存すると、種子の発芽率を低下させ得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者が検討していたのは、如何に、種子が固着していないトマト種子を得るかで
ある。その結果、本願発明者が見出したのは、(1)トマト果実のゼリー部を酵素処理す
ること、(2)セルラーゼとペクチナーゼを用いること、である。
【0014】
上記手段により課題が解決される理由は、推察であるが、トマト果実(ゼリー部を含む
)を構成する成分の多くが、セルラーゼとペクチナーゼによって分解されることである。
【0015】
以上を踏まえて、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0016】
本発明に係るトマト種子の製造方法を構成するのは、少なくとも、酵素処理である。こ
こで酵素処理されるのは、トマト果実のゼリー部であり、当該ゼリー部は、前記トマトの
種子を含有している。当該酵素は、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼである。
【0017】
好ましくは、前記セルラーゼは、セルラーゼ活性がトマト果実のゼリー部1g(新鮮重
量)に対して、5U以上となるように処理される。好ましくは、前記ペクチナーゼは、ペ
クチナーゼ活性がトマト果実のゼリー部1g(新鮮重量)に対して、5U以上となるよう
に処理される。好ましくは、酵素処理の時間は、24時間未満である。好ましくは、酵素
は、アクレモニウム属菌由来、アスペルギルス属菌由来又はリゾプス属菌由来である。
【0018】
本発明に係るトマト種子の製造方法を構成するのは、少なくとも、ゼリー部露出及び酵
素処理である。ゼリー部露出でゼリー部が露出されるのは、トマト果実であり、これによ
って得られるのは、ゼリー部が露出したトマトである。酵素処理で酵素処理されるのは、
前記ゼリー部が露出したトマトであり、当該トマトは、当該トマトの種子を含有している
。当該酵素は、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼである。
【0019】
好ましくは、前記セルラーゼは、セルラーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対し
て、1U以上となるように処理される。好ましくは、前記ペクチナーゼは、ペクチナーゼ
活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対して1U以上となるように処理される。好ましく
は、酵素処理の時間は、24時間未満である。好ましくは、酵素は、アクレモニウム属菌
由来、アスペルギルス属菌由来又はリゾプス属菌由来である。
【発明の効果】
【0020】
本発明が可能にするのは、種子が固着していないトマト種子の製造である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
<本実施の形態に係る製造方法の概要>
図1が示すのは、本実施の形態に係る製造方法(以下、「本製造方法」という。)の流
れである。本製造方法を構成するのは、主に、ゼリー部露出(S11)、酵素処理(S1
2)、除去(S13)、乾燥(S14)である。
【0023】
<ゼリー部露出(S11)>
図2が示すのは、トマト果実を赤道面で切断した時の断面図である。トマト種子は、子
室の中に存在する。トマト種子は、子室の中で、ゼリー部と呼ばれる組織に覆われている
。トマト果実中のゼリー部の割合は、概ね20%前後である。ゼリー部は、種子の発芽を
抑制している。
【0024】
ゼリー部露出では、トマト果実のゼリー部が露出される。その目的は、ゼリー部の分解
である。つまり、後の酵素処理工程において、酵素とゼリー部とを反応させることである
。ゼリー部が残存すると、種子の発芽率が低下する。すなわち、ゼリー部が露出している
とは、酵素処理を行う際に、ゼリー部と酵素とが反応可能な状態をいう。
【0025】
ゼリー部を露出させる手段は、特に限定されない。例示すると、切断、細断、破砕、摩
砕、粉砕又は刺突等である。ゼリー部を露出させる手段は、種子へのダメージが小さいも
のが好ましい。その観点から、好ましくは、切断、細断、破砕である。より好ましくは、
切断である。
【0026】
<酵素処理(S12)>
酵素処理工程では、種子を含有するトマトのゼリー部、又は、種子を含有するトマト果
実が酵素処理される。その目的は、トマト種子の分離及びゼリー部の分解である。
【0027】
処理される酵素は、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼである。酵素処理する手
段は、公知の方法であればよく、特に限定されない。具体例を挙げると、酵素剤の添加で
ある。酵素剤の使用により、作業時間の低減といった、トマト種子の製造における省力化
を図ることができる。
【0028】
酵素剤の形態は、特に限定されない。具体例を挙げると、粉末状、顆粒状、液体状等で
ある。酵素剤の形態が粉末状、又は顆粒状である場合は、一度水性溶媒で溶解した後、ト
マト果実に添加することが好ましい。これにより、トマト果実と酵素が均一に分散し、酵
素処理を安定的に行うことができる。酵素剤の添加を行う場合は、セルラーゼ活性とペク
チナーゼ活性の両方を有する酵素剤を用いてもよく、セルラーゼ活性を有する酵素剤とペ
クチナーゼ活性を有する酵素剤を併用してもよい。
【0029】
酵素処理の処理温度は、使用する酵素が活性を有する温度である。好ましくは、30℃
~60℃である。
【0030】
酵素処理の処理時間は、24時間未満である。24時間以上処理を行うと、発芽率が低
下する。好ましくは、1時間以上24時間未満である。より好ましくは、1時間以上6時
間以下である。
【0031】
酵素の添加量は、ゼリー部が十分に分解され、種子の固着が起きない量であればよい。
種子の固着が起きず、かつ、種子の発芽率が高いトマト種子を製造する観点から、好まし
くは、以下のとおりである。セルラーゼは、セルラーゼ活性がゼリー部1g(新鮮重量)
に対して5U以上となるように添加される。または、セルラーゼは、セルラーゼ活性がト
マト果実1g(新鮮重量)に対して、1U以上となるように添加される。ペクチナーゼは
、ペクチナーゼ活性がゼリー部1g(新鮮重量)に対して、5U以上となるように添加さ
れる。または、ペクチナーゼは、ペクチナーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対し
て、1U以上となるように添加される。より好ましくは、以下のとおりである。セルラー
ゼは、セルラーゼ活性がゼリー部1g(新鮮重量)に対して10U以上となるように添加
される。または、セルラーゼは、セルラーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対して
、2U以上となるように添加される。ペクチナーゼは、ペクチナーゼ活性がゼリー部1g
(新鮮重量)に対して、10U以上となるように添加される。または、ペクチナーゼは、
ペクチナーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対して、2U以上となるように添加さ
れる。
【0032】
酵素の添加量の上限は、種子の製造原価の上昇が許容できる量であり、特に限定されな
い。好ましくは、以下のとおりである。セルラーゼは、セルラーゼ活性がゼリー部1g(
新鮮重量)に対して250U以下となるように添加される。または、セルラーゼは、セル
ラーゼ活性がトマト果実1g(新鮮重量)に対して、50U以下となるように添加される
。ペクチナーゼは、ペクチナーゼ活性がゼリー部1g(新鮮重量)に対して、250U以
下となるように添加される。または、ペクチナーゼは、ペクチナーゼ活性がトマト果実1
g(新鮮重量)に対して、50U以下となるように添加される。
【0033】
酵素の由来は、ゼリー部が分解されればよく、特に限定されない。具体例を挙げると、
微生物由来、植物由来、動物由来等である。好ましくは、微生物由来である。具体例を挙
げると、アクレモニウム属菌由来、アスペルギルス属菌由来、リゾプス属菌由来、トリコ
デルマ属菌由来、バチルス属菌由来等である。より好ましくは、アクレモニウム属菌由来
、アスペルギルス属菌由来又はリゾプス属菌由来である。
【0034】
<除去(S13)>
除去工程では、酵素処理されたゼリー部、またはトマト果実から、少なくとも、種子以
外の物、例えば、果皮、果肉部分等(以下、「残渣」ともいう。)が除去される。その目
的は、種子外観の向上である。種子以外の物の除去が不十分だと、種子外観が悪化する。
【0035】
種子以外の物を除去する手段は、公知の方法であればよく、特に限定されない。例示す
ると、水への接液や水の噴霧等である。
【0036】
<乾燥(S14)>
乾燥工程では、トマト種子が乾燥される。その目的は、発芽率の維持である。種子は、
乾燥させることで、長期間に渡り発芽率を維持させることができる。乾燥工程では、種子
の発芽率が低下しない範囲で、種子に含まれる水分の一部又は全部が除かれる。
【0037】
乾燥する手段は、公知の方法であればよく、特に限定されない。例示すると、乾燥器、
恒温恒湿器、デシケーター、乾燥材、シリカゲル等である。
【0038】
乾燥後のトマト種子の水分含量は、発芽すればよく、特に限定されない。好ましくは、
乾燥後のトマト種子の水分含量は、8%以下である。
【0039】
<種子の外観>
本製造方法により得られるトマト種子は、固着していない。種子が固着していないとは
、具体的に以下のとおりである。乾燥後の種子において、種子同士で固着している割合が
、50%以下である。好ましくは、40%以下である。より好ましくは、30%以下であ
る。さらに好ましくは、20%以下である。最も好ましくは、10%以下である。乾燥後
の種子において、種子と種子以外の組織(果肉、果皮等)が固着している割合が、50%
以下である。好ましくは、40%以下である。より好ましくは、30%以下である。さら
に好ましくは、20%以下である。最も好ましくは、10%以下である。
【0040】
<種子の発芽率>
本製造方法により得られるトマト種子は、発芽率が高い。種子の発芽率が高いとは、種
子の発芽率が80%を超えていることをいう。発芽率の測定方法は、後述する。
【実施例0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定さ
れるものではない。
【0042】
[ゼリー部露出の有無による影響]
ゼリー部露出の有無が、果実と種子の分離に与える影響を確認した。
【0043】
<試験方法>
出願人が開発した生鮮用トマト品種PK461を酵素処理した。使用した酵素剤は、M
eijiアクレモニウムセルラーゼ(Meiji Seika ファルマ社製)である。
当該酵素剤を水道水で溶解させた後、トマト果実(新鮮重量)に対して酵素剤が0.2%
となるように添加し、50℃で5時間反応させた。酵素処理に先立ち、区分1-1は、ゼ
リー部が露出するように果実を4つ切りに切断した。区分1-2は、果実の表面に切り込
みを入れた(ゼリー部は露出していない)。なお、PK461の果実におけるゼリー部の
割合は、一般的なトマト果実と同様である。
【0044】
<結果>
図3が示すのは、区分1-1及び区分1-2における酵素処理後のトマト果実の外観で
ある。区分1-1では果実と種子が分離している。しかしながら、区分1-2では、果実
と種子は分離していない。ここで、果実と種子が分離しているとは、酵素処理後の種子に
おいて、種子が他の組織から離れている状態をいう。もともと種子は、果実の内部で、他
の組織と結着した状態である。種子を製造するためには、種子を他の組織から離れた状態
しなければならない。すなわち、果実と種子を分離させる必要がある。
【0045】
図3の結果からわかるのは、ゼリー部を露出させることで、果実と種子は分離する。つ
まり、ゼリー部を露出させなければ、果実と種子が分離せず、種子を製造することができ
ない。
【0046】
[試験1:酵素の選定]
使用する酵素の違いが、果実と種子の分離に与える影響を確認した。
【0047】
<試験方法>
出願人が開発した生鮮用トマト品種PK461の果実を4つ切りに切断し、50℃で5
時間、酵素処理を行った。使用した酵素剤は、Meijiアクレモニウムセルラーゼ、ス
ミチームMC(新日本化学工業社製、「スミチーム」は登録商標)、セルラーゼXL-5
31(ナガセケムテックス社製)、スクラーゼA(三菱ケミカル社製、「スクラーゼ」は
登録商標)である。区分2-1から区分2-4では、それぞれの酵素剤を水道水で溶解さ
せた後、トマト果実(新鮮重量)に対して酵素剤が0.2%となるように添加した。区分
2-5では、2種類の酵素剤を水道水で溶解させた後、トマト果実(新鮮重量)に対して
各酵素剤が0.2%となるように添加した。区分2-1から区分2-5に添加した酵素剤
は、表1に記載のとおりである。
【0048】
Meijiアクレモニウムセルラーゼは、主にセルラーゼ活性を有しており、サイド活
性としてペクチナーゼ活性も有している。Meijiアクレモニウムセルラーゼのセルラ
ーゼ活性は、アビセラーゼ活性として1,000U/g以上である。スミチームMCは、
ペクチナーゼ活性を有している。スミチームMCのペクチナーゼ活性は、PGU法で1,
000U/gである。セルラーゼXL-531は、セルラーゼ活性を有している。セルラ
ーゼXL-531のセルラーゼ活性は、1,100CUN/gである。なお、1CUNと
は、0.625%のCMC-Na(pH5.5)4mlに酵素液1mlを加え、40℃で
30分間作用させた時、1分間に1μmoleのグルコースに相当する還元力を生成する
活性をいう。スクラーゼAは、主にペクチナーゼ活性とキシラナーゼ活性を有している。
スクラーゼAのペクチナーゼ活性は、12,000U/g以上であり、キシラナーゼ活性
は、400U/g以上である。
【0049】
<結果>
表1が示すのは、区分2-1から区分2-5における、使用した酵素剤及び種子の分離
の結果である。種子の分離の結果は、以下のように判断した。果実と種子が分離したもの
を「〇」とした。果実と種子が分離しなかったものを「×」とした。
【0050】
【0051】
表1の結果からわかるのは、少なくとも、セルラーゼ及びペクチナーゼで処理すること
で、果実と種子を分離できること、すなわち種子を製造できることである。
【0052】
[試験2:酵素処理の条件検討]
酵素の添加量、及び酵素処理時間の違いが、種子外観、及び発芽率に与える影響を確認
した。
【0053】
<試験方法>
出願人が開発した生鮮用トマト品種PK461の果実を4つ切りに切断し、50℃で酵
素処理を行った。酵素処理の後、水にさらし、浮遊している残渣を除去した。残渣を除去
した種子を水洗し、乾燥機で乾燥させた。使用した酵素剤は、Meijiアクレモニウム
セルラーゼである。区分3-1から区分3-16における、トマト果実(新鮮重量)に対
する酵素剤の添加量、及び酵素処理時間は、表2に記載のとおりである。
【0054】
<種子の発芽率の測定方法>
市販のシャーレ(アズワン社製)に濾紙(ADVANTEC社成 84mm)を敷き、
4mlの蒸留水で濾紙を湿らせた。濾紙の上にトマト種子を25粒播種した。シャーレを
ビニール袋で覆い、28℃に設定したインキュベーター(アズワン社製 EI-300V
)で7日間保管した。播種した種子のうち、7日後に幼根が確認できたものの割合を算出
し、発芽率とした。
【0055】
<結果>
表2が示すのは、各区分3-1から、3-16における、種子外観の結果、及び発芽率
の結果である。種子外観の結果は、目視によって以下のように判断した。乾燥後に種子が
固着していないものを「〇」とした。乾燥後に種子が固着しているものを「×」とした。
種子外観が「〇」だった区分について、種子の発芽率を調査した。発芽率の結果は、以下
のように判断した。80%を超えるものを「〇」とした。80%以下のものを「×」とし
た。
【0056】
【0057】
図4が示すのは、区分3-2及び区分3-14における乾燥後の種子外観である。区分
3-2では、種子は固着している。他方、区分3-14では、種子は固着していない。
【0058】
表2及び
図4の結果からわかるのは、酵素剤の添加量をトマト果実(新鮮重量)に対し
て0.1%以上とし、酵素処理時間を24時間未満とすることで、種子の固着が起こらず
、かつ、種子の発芽率が80%を超えるトマト種子が得られることである。
【0059】
[試験3:酵素の添加量の上限の把握]
酵素の添加量の増加が、種子外観、及び発芽率に与える影響を確認した。
【0060】
<試験方法>
出願人が開発した生鮮用トマト品種PK461の果実を4つ切りに切断し、50℃で6
時間酵素処理を行った。酵素処理の後、水にさらし、浮遊している残渣を除去した。残渣
を除去した種子を水洗し、乾燥機で乾燥させた。使用した酵素剤は、スミチームM及びセ
ルラーゼXL-531である。区分4-1から区分4-3における、トマト果実(新鮮重
量)に対する酵素剤の添加量、及び酵素剤の種類は、表3に記載のとおりである。種子外
観の結果は、前述と同様に判断した。発芽率の結果は、前述と同様に判断した。種子の発
芽率は、前述と同様の方法で測定した。
【0061】
<結果>
表3が示すのは、区分4-1から区分4-3における、種子外観の結果、及び発芽率の
結果である。
【0062】
【0063】
表3の結果からわかるのは、酵素剤の添加量がトマト果実(新鮮重量)に対して5%で
あっても、種子の固着が起こらず、かつ、種子の発芽率が80%を超えるトマト種子が得
られることである。
【0064】
[試験4:品種の影響の把握]
トマト品種の違いが、種子外観、及び発芽率に与える影響を確認した。
【0065】
<試験方法>
市販のトマト品種(麗月 サカタのタネ社製)の果実を4つ切りに切断し、50℃で6
時間酵素処理を行った。酵素処理の後、水にさらし、浮遊している残渣を除去した。残渣
を除去した種子を水洗し、乾燥機で乾燥させた。使用した酵素剤は、Meijiアクレモ
ニウムセルラーゼである。区分5-1及び区分5-2における、トマト果実(新鮮重量)
に対する酵素剤の添加量は、表4に記載のとおりである。種子外観の結果は、前述と同様
に判断した。発芽率の結果は、前述と同様に判断した。種子の発芽率は、前述と同様の方
法で測定した。
【0066】
<結果>
表4が示すのは、区分5-1及び区分5-2における、種子外観の結果、及び、発芽率
の結果である。
【0067】
【0068】
表4の結果からわかるのは、一般的なトマト品種であっても、本製造方法で製造した種
子は、種子の固着が起こらず、かつ、種子の発芽率が80%を超えることある。
【0069】
[試験5:従来法との比較]
従来の発酵法、及び塩酸法との比較における、発芽率、及び作業時間の違いを確認した
。
【0070】
<試験方法>
出願人が開発した生鮮用トマト品種PK461から、酵素法、発酵法及び塩酸法でトマ
ト種子を得た。酵素法の詳細は、以下のとおりである。トマト果実を4つ切りに切断した
。Meijiアクレモニウムセルラーゼを、トマト果実(新鮮重量)に対して0.5%と
なるように添加し、50℃で3時間反応させた。酵素処理の後、水にさらし、浮遊してい
る残渣を除去した。残渣を除去した種子を水洗し、乾燥機で乾燥させた。発酵法の詳細は
、以下のとおりである。トマト果実を破砕し、室温で24時間自然発酵させた。発酵処理
の後、流水にあてながら果肉及び果皮と種子とを分離した。分離した種子のみを水洗した
。水洗した種子を乾燥機で乾燥させた。塩酸法の詳細は、以下のとおりである。トマト果
実から種子を含むゼリー部のみを回収した。回収したゼリー部と同じ重量の1%塩酸を加
え、室温で30分間反応させた。反応後の液から種子を回収し、水洗した。水洗した種子
を乾燥機で乾燥させた。
【0071】
区分6-1から区分6-3における、種子を得る手段は、表5に記載したとおりである
。発芽率は、前述と同様の方法で測定した。発芽率は、3回の反復を行い、その平均値を
算出した。ここで、本実施例において、作業時間とは、労務費が発生する時間を指す。つ
まり、人の手で行う必要がある作業にかかった時間である。具体的には、以下のとおりで
ある。酵素法では、酵素処理前にトマト果実を切断する作業、及び、酵素処理後に浮遊し
ている残渣を除去する作業にかかった時間を計測した。発酵法では、発酵前にトマト果実
を破砕する作業、並びに、発酵後に果肉及び果皮と種子とを分離する作業にかかった時間
を計測した。塩酸法では、種子を含むゼリー部を回収する作業にかかった時間を計測した
。
【0072】
<結果>
表5が示すのは、区分6-1から区分6-3における、発芽率の結果、及び種子100
0粒を得るのに必要な作業時間の結果である。
【0073】
【0074】
表5の結果からわかるのは、酵素法で種子を得ることで、種子が固着しておらず、かつ
、種子の発芽率が高いトマト種子が得られるだけでなく、作業時間の低減も可能となるこ
とである。