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  • 特開-描画システムおよび描画方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044259
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】描画システムおよび描画方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240326BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H05K3/00 H
H05K3/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149684
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】中津 智史
(72)【発明者】
【氏名】八坂 智
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 孝嗣
【テーマコード(参考)】
2H197
【Fターム(参考)】
2H197AA21
2H197CC05
2H197CD12
2H197DA07
2H197DA10
2H197HA02
2H197HA03
(57)【要約】
【課題】基板上のパターン不良のトラブルシューティングに有用な情報を、容易かつ短時間に取得する。
【解決手段】描画システム7は、基板に描画を行う描画ユニット11と、描画ユニット11を制御することにより、対象基板へのパターンの描画と、当該パターンの描画に関連する描画関連情報の対象基板上の所定位置への描画とを描画ユニット11に実行させる制御部12とを備える。これにより、基板上のパターン不良のトラブルシューティングに有用な情報を、容易かつ短時間に取得することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画システムであって、
基板に描画を行う描画ユニットと、
前記描画ユニットを制御することにより、対象基板へのパターンの描画と、前記パターンの描画に関連する描画関連情報の前記対象基板上の所定位置への描画とを前記描画ユニットに実行させる制御部と、
を備えることを特徴とする描画システム。
【請求項2】
請求項1に記載の描画システムであって、
前記描画ユニットによる各基板へのパターンの描画動作に対してログ識別子が割り当てられており、前記各基板に対する前記描画動作に関して取得されたログ情報を前記ログ識別子に関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、
前記描画関連情報が、前記対象基板に対する前記描画動作の前記ログ識別子を含むことを特徴とする描画システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の描画システムであって、
前記描画関連情報が、前記対象基板への前記パターンの描画日時、前記パターンの描画時に参照した前記対象基板の伸縮率、前記パターンの描画に用いたパターンデータ名、前記対象基板上の感光材料の情報、および、前記対象基板の種別情報の少なくとも1つを含むことを特徴とする描画システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の描画システムであって、
前記描画ユニットを含む複数の描画ユニットを備え、
前記描画関連情報が、前記対象基板への前記パターンの描画を行う前記描画ユニットの識別子を含むことを特徴とする描画システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の描画システムであって、
前記描画ユニットが、基板をそれぞれ保持する複数のステージを有し、
前記描画関連情報が、前記パターンの描画時に前記対象基板を保持するステージの識別子を含むことを特徴とする描画システム。
【請求項6】
請求項1または2に記載の描画システムであって、
前記描画関連情報の少なくとも一部が、二次元コードとして前記対象基板に描画されることを特徴とする描画システム。
【請求項7】
描画方法であって、
基板に描画を行う描画ユニットに対象基板を搬入する工程と、
前記対象基板へのパターンの描画と、前記パターンの描画に関連する描画関連情報の前記対象基板上の所定位置への描画とを前記描画ユニットに実行させる工程と、
を備えることを特徴とする描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画システムおよび描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マスクを用いることなく、プリント基板等の基板上の感光材料にパターンを描画する描画装置(直接描画装置)が実用化されている。描画装置を利用する製造工程においても、他の工程と同様にトラブルが発生することがある。当該トラブルは主に2種類あり、1つは描画装置自体のエラーによる動作の停止である。もう1つは、パターンの描画が正常終了した後に発覚する基板上のパターン不良である。
【0003】
なお、特許文献1では、半導体製品の製造工程で発生した不良原因を速やかに究明する手法が提案されている。当該手法では、QFP(Quad Flat Package)の各製造工程における製造条件がQFPの識別番号と関連付けてメインサーバに格納されるとともに、識別番号に対応する二次元バーコードがQFPの表面に刻印される。これにより、QFPに不良が発生した場合、QFPの二次元バーコードを読み取って、識別番号を特定し、メインサーバに格納されたQFPの製造条件が追跡される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-66340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記2種類のトラブルのうち、描画装置自体のエラーに対しては、ディスプレイの画面に表示されるエラーメッセージを読むことで、描画装置の復旧やトラブルシューティングが可能である。しかしながら、感光材料の膜の剥がれや、描画時の歪み補正の異常、パターンの位置精度や線幅精度の不良等、基板上のパターン不良に対しては、トラブルシューティングが困難な場合が多い。理由としては、描画動作そのものは正常に終了し、現像後に不良が発覚することが多いため、描画から時間が経っており、描画時の条件が判らない、または、当該基板に紐づく描画動作のログ情報の取得に時間がかかる等が挙げられる。また、描画装置では、複数のステージが設けられる場合があり、この場合、当該基板をどのステージで描画したかという情報も必要になるため、基板上のパターン不良のトラブルシューティングがさらに困難になる。
【0006】
描画装置を利用する製造工程においても、上記特許文献1と同様に、基板に付与された識別子を読み取り、描画時の各種条件を当該識別子と関連付けてサーバに記憶させることが考えられる。しかしながら、この場合、パターンを描画する際に、基板に付与された識別子の読み取りが必要となり、処理が煩雑となる。したがって、基板上のパターン不良のトラブルシューティングに有用な情報を、容易かつ短時間に取得することが可能な新規な手法が求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板上のパターン不良のトラブルシューティングに有用な情報を、容易かつ短時間に取得することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、描画システムであって、基板に描画を行う描画ユニットと、前記描画ユニットを制御することにより、対象基板へのパターンの描画と、前記パターンの描画に関連する描画関連情報の前記対象基板上の所定位置への描画とを前記描画ユニットに実行させる制御部とを備える。
【0009】
本発明の態様2は、態様1の描画システムであって、前記描画ユニットによる各基板へのパターンの描画動作に対してログ識別子が割り当てられており、前記各基板に対する前記描画動作に関して取得されたログ情報を前記ログ識別子に関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、前記描画関連情報が、前記対象基板に対する前記描画動作の前記ログ識別子を含む。
【0010】
本発明の態様3は、態様1または2の描画システムであって、前記描画関連情報が、前記対象基板への前記パターンの描画日時、前記パターンの描画時に参照した前記対象基板の伸縮率、前記パターンの描画に用いたパターンデータ名、前記対象基板上の感光材料の情報、および、前記対象基板の種別情報の少なくとも1つを含む。
【0011】
本発明の態様4は、態様1または2(態様1ないし3のいずれか1つであってもよい。)の描画システムであって、前記描画ユニットを含む複数の描画ユニットを備え、前記描画関連情報が、前記対象基板への前記パターンの描画を行う前記描画ユニットの識別子を含む。
【0012】
本発明の態様5は、態様1または2(態様1ないし4のいずれか1つであってもよい。)の描画システムであって、前記描画ユニットが、基板をそれぞれ保持する複数のステージを有し、前記描画関連情報が、前記パターンの描画時に前記対象基板を保持するステージの識別子を含む。
【0013】
本発明の態様6は、態様1または2(態様1ないし5のいずれか1つであってもよい。)の描画システムであって、前記描画関連情報の少なくとも一部が、二次元コードとして前記対象基板に描画される。
【0014】
本発明の態様7は、描画方法であって、基板に描画を行う描画ユニットに対象基板を搬入する工程と、前記対象基板へのパターンの描画と、前記パターンの描画に関連する描画関連情報の前記対象基板上の所定位置への描画とを前記描画ユニットに実行させる工程とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板上の描画関連情報を参照することにより、基板上のパターン不良のトラブルシューティングに有用な情報を、容易かつ短時間に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】描画システムの構成を示すブロック図である。
図2】描画装置を示す斜視図である。
図3】描画ユニット、制御部およびデータ生成装置を示すブロック図である。
図4】描画システムが基板に描画を行う動作の流れを示す図である。
図5】最終描画データが示す画像を対象基板に重ねて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る描画システム7の構成を示すブロック図である。描画システム7は、基板に対するパターンの描画を行うシステムである。描画システム7は、複数の描画装置1と、指示用端末70とを備える。各描画装置1は、空間変調された光を基板上の感光材料に照射し、当該光の照射領域を基板上にて走査することによりパターンの描画を行う直接描画装置である。描画システム7の設計によっては、1つの描画装置1のみが設けられてもよい。
【0018】
指示用端末70は、複数の描画装置1と有線または無線にて通信可能に接続される。指示用端末70は、CPU、メモリ等を有するコンピュータであり、所定のプログラム(CAMソフトウェアを含む。)を実行することにより描画指示部71としての動作を行う。描画指示部71の機能の一部または全部が、電気回路により実現されてもよい。描画指示部71は、処理対象の各基板9に対して、パターンの描画に使用する一の描画装置1を複数の描画装置1から選択し、当該描画装置1に対してパターンの描画に必要な情報を送信する。当該情報は、当該基板9に描画すべきパターンを示す設計データ、および、当該描画装置1が実行すべき描画処理の内容を示す描画指示情報を含む。描画指示情報の詳細については後述する。
【0019】
図2は、一の描画装置1を示す斜視図である。他の描画装置1の構造も、図2に示すものと略同様である。図2では、互いに直交する3つの方向をX方向、Y方向およびZ方向として矢印にて示している。図2に示す例では、X方向およびY方向は互いに垂直な水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0020】
描画装置1における処理対象の基板9は、例えば、平面視において略矩形状の板状部材である。基板9は、例えば、プリント基板である。基板9の(+Z)側の主面(以下、「上面91」とも呼ぶ。)では、感光材料により形成された膜(レジスト膜)が銅層上に設けられる。描画装置1では、基板9の当該膜に回路パターン等が描画される。なお、基板9の種類および形状等は様々に変更されてよい。
【0021】
描画装置1は、描画ユニット11と、制御部12と、データ生成装置13とを備える。描画ユニット11は、複数の搬送機構2a,2bと、撮像部3と、パターン描画部4と、フレーム5とを備える。フレーム5は、描画装置1の各構成が取り付けられる本体ベース部である。フレーム5は、略直方体状の基台51と、基台51を跨ぐ門形の第1ガントリー部52および第2ガントリー部53とを備える。基台51上には複数の搬送機構2a,2bが取り付けられる。第2ガントリー部53は、第1ガントリー部52の(+Y)側に近接して配置される。第1ガントリー部52は撮像部3を支持する。第2ガントリー部53はパターン描画部4を支持する。
【0022】
図2の例では、複数の搬送機構2a,2bは、第1搬送機構2aと、第2搬送機構2bとを含む。搬送機構の個数は、1または3以上であってもよい。第1搬送機構2aおよび第2搬送機構2bは、撮像部3およびパターン描画部4の下方(すなわち、(-Z)側)にて基板9を保持および移動する機構である。第2搬送機構2bは、第1搬送機構2aの(+X)側に隣接して配置される。第1搬送機構2aと第2搬送機構2bとは略同様の構造を有する。
【0023】
第1搬送機構2aは、第1ステージ21aと、第1移動機構22aとを備える。第1ステージ21aは、略水平状態の基板9を下側から保持する略平板状の基板保持部である。第1ステージ21aは、例えば、基板9の下面を吸着して保持するバキュームチャックである。第1ステージ21aは、バキュームチャック以外の構造を有していてもよい。第1ステージ21a上に載置された基板9の上面91は、Z方向(すなわち、上下方向)に対して略垂直であり、X方向およびY方向に略平行である。
【0024】
第1移動機構22aは、第1ステージ21aを撮像部3およびパターン描画部4に対して略水平方向(すなわち、基板9の上面91に略平行な方向)に相対的に移動するステージ移動機構である。図2の例では、第1移動機構22aは、撮像部3およびパターン描画部4の下方にて、第1ステージ21aをY方向に直線移動する。これにより、第1ステージ21aに保持された基板9がY方向に移動する。第1移動機構22aの駆動源は、例えば、リニアサーボモータ、または、ボールネジにモータが取り付けられたものである。第1移動機構22aの構造は、様々に変更されてよい。
【0025】
第2搬送機構2bは、第2ステージ21bと、第2移動機構22bとを備える。第2ステージ21bは、第1ステージ21aと同様の構造であり、第2移動機構22bは、第1移動機構22aと同様の構造である。第2移動機構22bによる第2ステージ21bの移動方向は、第1移動機構22aによる第1ステージ21aの移動方向と略平行である。既述のように、第1移動機構22aと第2移動機構22bとはX方向に並んで配置される。
【0026】
撮像部3は、複数(図2の例では、2つ)の撮像ヘッド31と、撮像ヘッド移動機構32とを備える。複数の撮像ヘッド31は、X方向に配列されて、第1ガントリー部52の梁部に移動可能に取り付けられる。各撮像ヘッド31は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子を有し、基板9の上面91を撮像して、撮像画像を取得する。撮像ヘッド移動機構32は、当該梁部に取り付けられ、複数の撮像ヘッド31を当該梁部に沿ってX方向に移動する。撮像ヘッド移動機構32の駆動源は、例えば、リニアサーボモータ、または、ボールネジにモータが取り付けられたものである。図2の例では、2つの撮像ヘッド31のX方向における間隔は変更可能である。描画装置1では、撮像ヘッド移動機構32により、複数の撮像ヘッド31が第1搬送機構2aの上方の第1撮像位置と、第2搬送機構2bの上方の第2撮像位置とに選択的に配置される。
【0027】
パターン描画部4は、複数(図2の例では、6つ)の描画ヘッド41と、描画ヘッド移動機構42とを備える。複数の描画ヘッド41は、X方向に配列されて、第2ガントリー部53の梁部に移動可能に取り付けられる。描画ヘッド移動機構42は、当該梁部に取り付けられ、複数の描画ヘッド41を当該梁部に沿ってX方向に一体的に移動する。描画ヘッド移動機構42の駆動源は、例えば、リニアサーボモータ、または、ボールネジにモータが取り付けられたものである。描画装置1では、描画ヘッド移動機構42により、複数の描画ヘッド41が第1搬送機構2aの上方の第1描画位置と、第2搬送機構2bの上方の第2描画位置とに選択的に配置される。
【0028】
各描画ヘッド41は、図示省略の光源、光学系および空間光変調素子を備える。空間光変調素子としては、DMD(Digital Micro Mirror Device)やGLV(Grating Light Valve)(シリコン・ライト・マシーンズ(サニーベール、カリフォルニア)の登録商標)等の様々な変調素子が利用可能である。光源としては、LD(Laser Diode)等の様々な光源が利用可能である。複数の描画ヘッド41は、略同じ構造を有する。
【0029】
第1ステージ21a上の基板9に対してパターンを描画する際には、複数の描画ヘッド41が第1描画位置に配置され、当該複数の描画ヘッド41から、下方の第1ステージ21a上の基板9に向けて、空間変調された光が照射される。そして、当該光の照射と並行して、第1ステージ21aが第1移動機構22aによりY方向に移動される。これにより、複数の描画ヘッド41からの光の照射領域が基板9上にてY方向に走査され、基板9に対するパターン(例えば、回路パターン)の描画が行われる。
【0030】
図2の例では、基板9に対する描画は、いわゆるシングルパス(ワンパス)方式で行われる。具体的には、第1移動機構22aにより、第1ステージ21aが複数の描画ヘッド41に対してY方向に相対移動され、複数の描画ヘッド41からの光の照射領域が、基板9の上面91上にてY方向に1回のみ走査される。これにより、基板9に対する描画が完了する。なお、描画装置1では、第1ステージ21aのY方向への移動とX方向へのステップ移動とが繰り返されるマルチパス方式により、基板9に対する描画が行われてもよい。第2ステージ21b上の基板9に対するパターンの描画では、複数の描画ヘッド41が第2描画位置に配置され、上記と同様の動作が行われる。
【0031】
図3は、一の描画装置1の描画ユニット11、制御部12およびデータ生成装置13を示すブロック図である。図3では、描画指示部71も図示している。制御部12およびデータ生成装置13のそれぞれは、CPU、メモリ等を有するコンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現される。制御部12およびデータ生成装置13のそれぞれの機能の一部または全部が、電気回路により実現されてもよい。また、1つのコンピュータにより、制御部12およびデータ生成装置13が実現されてもよい。
【0032】
後述する描画システム7の動作では、描画装置1の描画ユニット11に一の基板9が搬入されるとともに、当該基板9に対する設計データおよび描画指示情報が、描画指示部71から描画装置1に入力される。データ生成装置13は、ベクトル形式の設計データを変換し、ラスタ形式の描画データを生成する。制御部12は、描画データおよび描画指示情報に基づいて描画ユニット11を制御し、当該基板9に対するパターンの描画を実行させる。また、制御部12には、多数のログ情報122を記憶する記憶部121が設けられる。ログ情報122は、各基板9に対する描画動作に関して取得される情報であり、詳細については後述する。
【0033】
図4は、描画システム7が基板9に描画を行う動作の流れを示す図である。描画システム7では、処理対象の複数の基板9に対してパターンが描画される。以下、一の基板9を「対象基板9」と呼び、対象基板9に注目して、描画システム7の動作を説明する。以下の動作は、他の基板9に対しても同様である。
【0034】
まず、描画指示部71では、対象基板9に描画すべきパターンとして予め指定された一の設計データ(以下、「選択設計データ」という。)が、図示省略の設計データ記憶部から選択されて取得される。また、複数の描画装置1のうち、対象基板9に対するパターンの描画に使用する一の描画装置1(以下、「選択描画装置1」という。)が選択される。さらに、選択描画装置1の複数のステージ21a,21bのうち、対象基板9に対して使用する一のステージ(以下、「選択ステージ」という。)が選択される。ステージの選択は、搬送機構の選択でもある。描画システム7では、複数の描画装置1のそれぞれに対して識別子(例えば、装置番号)が付与されており、複数のステージ21a,21bのそれぞれにも識別子が付与されている。描画装置1およびステージ21a,21bの選択では、選択描画装置1の識別子、および、選択ステージの識別子が特定される。選択描画装置1の識別子、および、選択ステージの識別子は、例えば、文字、数字、記号等により構成される。
【0035】
描画装置1およびステージ21a,21bの選択は、オペレータの入力により行われてもよく、描画指示部71により自動的に行われてもよい。一例では、複数の描画装置1の稼働状態を監視する監視システム(図示省略)が描画システム7に設けられ、当該監視システムにより、現在実行中のパターンの描画が最も早く終了する1つの描画装置1、および、ステージ21a,21bが特定される。そして、当該描画装置1および当該ステージ21a,21bが、選択描画装置1および選択ステージとして決定される。
【0036】
選択描画装置1および選択ステージが決定されると、描画指示部71では、選択描画装置1が実行すべき描画処理の内容を示す描画指示情報が作成される。描画指示情報は、例えば、パターンが描画される基板9上の感光材料の種類、および、パターンの描画を行う予定の描画装置1固有の特性等に合わせて、当該描画装置1による当該感光材料への描画処理が好適に実行されるように設定された描画条件(以下、「描画パラメータ」とも呼ぶ。)を含む。描画パラメータは、例えば、各描画ヘッド41から出射される光の強度等を含む。また、各描画ヘッド41に互いに異なる波長の光を出射する複数の光源が設けられている場合、描画指示情報は、例えば、当該複数の光源から出射される光の強度比等を含む。
【0037】
一例では、描画指示部71において、描画装置1の装置番号(識別子)および感光材料の種類の複数の組み合わせと、当該複数の組み合わせにそれぞれ対応する複数の描画パラメータとの関係を示すテーブルが予め準備される。描画指示部71には、対象基板9上の感光材料の種類が入力されており、選択描画装置1の装置番号および対象基板9上の感光材料の種類を用いて当該テーブルを参照することにより、一の描画パラメータが取得される。対象基板9上の感光材料の種類は、選択設計データに含まれていてもよく、オペレータにより入力されてもよい。
【0038】
描画指示部71では、取得された描画パラメータが描画指示情報に含められる。描画指示情報には、描画パラメータ以外の情報が含まれてもよい。本処理例では、描画指示情報は、選択ステージの識別子、対象基板9上の感光材料の情報、および、対象基板9の種別情報を含む。感光材料の情報は、例えば感光材料の種類、および、感光波長域等を示す。感光材料の特性等が詳細に記載されたデータファイルが指示用端末70等に別途記憶され、感光材料の情報が当該データファイルのファイル名を示すものであってもよい(対象基板9の種別情報において同様)。対象基板9の種別情報は、対象基板9の種別(リジッド基板、フレキシブル基板等)を示す。対象基板9の種別情報は、サイズ、厚さ等を含んでもよい。
【0039】
描画指示情報が作成されると、選択設計データおよび描画指示情報が選択描画装置1に送信される(ステップS11)。描画システム7では、外部の搬送装置またはオペレータにより、選択描画装置1の描画ユニット11に対象基板9が搬入され、選択ステージ上に載置される(ステップS12)。
【0040】
ここで、対象基板9の上面91には、複数のアライメントマークが設けられている(描画システム7における処理対象の他の基板9において同様)。図2の描画ユニット11では、選択ステージ上の対象基板9の各アライメントマークの撮像画像が、撮像部3により取得される。制御部12では、例えば、パターンマッチングにより、撮像画像中におけるアライメントマークの位置が求められる。これにより、選択ステージ上の対象基板9の位置が特定される。また、変形が生じていない理想的な基板9における複数のアライメントマークの位置が基準位置として既知であり、撮像画像から求められる複数のアライメントマークの位置と基準位置とが比較される。これにより、X方向およびY方向のそれぞれにおける対象基板9の伸縮率(アライメント倍率)が求められる。
【0041】
一方、選択描画装置1のデータ生成装置13では、RIP処理が行われ、ベクトル形式の選択設計データからラスタ形式の描画データが生成される。制御部12では、当該描画データが、選択ステージ上の対象基板9の位置、および、対象基板9の伸縮率に合わせて補正される(すなわち、アライメント処理が行われる。)。実際には、基板9は複雑な形状に歪むことがあり、対象基板9の伸縮率は、X方向およびY方向における全体の伸縮率には限定されない。例えば、基板9が台形に変形している場合に、当該台形の上底および下底にそれぞれ対応する部位の伸縮率が求められてもよい。また、基板9に複数の個片領域が設定される場合に、個片領域毎に伸縮率が求められてもよい。いずれの場合も、求められる伸縮率に合わせて描画データが補正される。
【0042】
制御部12では、さらに、補正済みの描画データが示す全体画像において、一部の領域に描画関連情報の画像を付加することにより、新たな描画データ(実際のパターンの描画に使用されるデータであり、以下、「最終描画データ」という。)が取得される(ステップS13)。
【0043】
図5は、最終描画データが示す画像を対象基板9に重ねて示す図である。最終描画データが示す画像は、パターン領域81と、描画関連情報領域82とを有する。パターン領域81は、回路パターン等、選択設計データが示すパターンを含む領域である。描画関連情報領域82は、選択設計データが示すパターンを含まない領域であり、描画関連情報の画像を示す。描画関連情報領域82は、パターン領域81内において回路パターンに影響を与えない領域に設けられてもよい。
【0044】
描画関連情報領域82は、例えば、ログ識別部821と、装置識別部822と、ステージ識別部823と、二次元コード部824とを有する。ログ識別部821は、ログ識別子を示す。ログ識別子は、対象基板9に対する描画動作を識別するために、当該描画動作に対して個別に(すなわち、他の基板9の描画動作と区別して)割り当てられるものであり、描画システム7において決定される。ログ識別子は、例えば、文字、数字、記号等により構成される。ログ識別子の一例は、ログ番号である。装置識別部822は、既述の選択描画装置1の識別子を示す。ステージ識別部823は、既述の選択ステージの識別子を示す。図5の例では、装置識別部822は、選択描画装置1の番号「3」を示し、ステージ識別部823は、選択ステージが左側「L」のステージであることを示す。
【0045】
二次元コード部824は、二次元コードを示す。二次元コードは、例えば、QRコード(登録商標)等である。二次元コードが示す情報は、例えば、対象基板9へのパターンの描画日時、パターンの描画時に参照した対象基板9の伸縮率、パターンの描画に用いたパターンデータ名、対象基板9上の感光材料の情報、および、対象基板9の種別情報を含む。対象基板9へのパターンの描画日時は、パターンの描画に係る、いずれかの処理が行われた日時であってよく、例えば、最終描画データの生成日時であってもよい。パターンの描画時に参照した対象基板9の伸縮率は、対象基板9のアライメントマークを撮像することにより取得された伸縮率である。パターンの描画に用いたパターンデータ名は、選択設計データが示すパターンに付与された名称、または、選択設計データのファイル名等である。既述のように、対象基板9上の感光材料の情報、および、対象基板9の種別情報は、描画指示部71から送信される描画指示情報に含まれる。二次元コードを使用することにより、多くの複雑な情報を小さい領域に収めることが可能となる。
【0046】
以上のように、補正済みの描画データに付加される描画関連情報(すなわち、最終描画データに含まれる描画関連情報)は、パターンの描画に関連する様々な情報である。描画関連情報は、典型的には、対象基板9に対して描画装置1により取得または生成される情報、並びに、対象基板9に関して外部(本処理例では、描画指示部71)から描画装置1に入力される情報を含む。ログ識別子、選択描画装置1の識別子、および、選択ステージの識別子の一部または全部が、二次元コードに含まれてもよい。また、上記の二次元コードが示す情報の一部または全部が文字列にて描画関連情報領域82に含まれてもよい。描画関連情報は、対象基板9へのパターンの描画に関連する上記以外の情報(例えば、描画パラメータ等)を含んでもよい。本処理例では、描画関連情報に含めるべき項目、および、描画関連情報領域82の位置が、各描画装置1の制御部12に予め設定されるが、描画指示部71において当該項目および位置が設定され、描画指示情報に含められて描画装置1に送信されてもよい。
【0047】
最終描画データが取得されると、最終描画データおよび描画指示情報に基づいて、制御部12により描画ユニット11が制御され、対象基板9へのパターンの描画と、対象基板9上の所定位置への描画関連情報の描画とが実行される(ステップS14)。対象基板9への描画では、選択描画装置1、および、対象基板9上の感光材料に適した描画パラメータが適用されるため、好適な描画が実現される。
【0048】
既述のように、選択描画装置1では、対象基板9に対する描画動作に対してログ識別子が割り当てられており、当該描画動作に関して取得されたログ情報122が、ログ識別子に関連付けた(紐付けた)状態で制御部12の記憶部121に記憶される(ステップS15)。ログ情報122は、ログデータであり、描画ユニット11の各構成(搬送機構2a,2b、撮像部3およびパターン描画部4等)の動作、データ生成装置13の処理、および、制御部12の処理等の履歴情報およびエラー情報を含む。例えば、ログ情報122は、実際に使用した描画パラメータの値等を含む。本処理例では、ログのイベントと共にログ識別子が記録されることにより、ログ情報122がログ識別子に直接的に関連付けられる。ログ情報122は、ログ識別子と関連付けることが可能であるならば、ログ識別子とは異なる識別子を含んでいてもよい。換言すると、ログ情報122は、ログ識別子に間接的に関連付けられていてもよい。なお、図4では、ステップS14とステップS15とを直列に接続しているが、実際には、ステップS14とステップS15とが並行して行われる。
【0049】
選択描画装置1では、対象基板9に対する描画に並行して、ログ情報122が次々と取得され、記憶部121に記憶される。最終描画データが示す画像の全体が対象基板9に描画されると、対象基板9への描画動作が完了する。対象基板9は、描画ユニット11から搬出され、外部の現像装置において感光材料の現像が行われる。
【0050】
実際の描画装置1では、第1ステージ21aおよび第2ステージ21bのうち一方のステージ上に保持された基板9に対して描画が行われている間に、他方のステージ上に基板9が搬入されて既述のアライメント処理が行われる。そして、上記一方のステージ上に保持された基板9に対する描画が終了すると、上記他方のステージ上に保持された基板9に対する描画が開始される。また、当該他方のステージ上の基板9に対して描画が行われている間に、一方のステージ上から描画済みの基板9が搬出され、新たな基板9が当該一方のステージ上に搬入されてアライメント処理が行われる。
【0051】
ここで、基板9に対して描画関連情報の描画が行われない比較例の描画システムを想定する。比較例の描画システムによりパターンが描画された基板9において、感光材料の膜の剥がれや、描画時の歪み補正の異常、パターンの位置精度や線幅精度の不良等(すなわち、基板9上のパターン不良)が現像後に発覚した場合、トラブルシューティングのため、当該基板9に対するパターンの描画に関連する情報が必要となる。当該情報を取得するには、当該基板9の正確な描画日時や、当該基板9に対して描画を行った描画装置1の番号等が必要であるが、描画日時や描画装置1の番号等が正確に管理されていないことがあり、この場合、基板9上のパターン不良のトラブルシューティングが困難となる。
【0052】
これに対し、上記描画システム7では、制御部12が描画ユニット11を制御することにより、対象基板9へのパターンの描画と、当該パターンの描画に関連する描画関連情報の対象基板9上の所定位置への描画とを描画ユニット11に実行させる。これにより、対象基板9上のパターン不良が発覚した場合でも、対象基板9上の描画関連情報を確認することにより、トラブルシューティングに有用な情報を、容易かつ短時間に取得することができる。その結果、対象基板9上のパターン不良のトラブルシューティングを迅速に行うことができ、同様のパターン不良が繰り返されることによる材料の無駄等を削減することができる。
【0053】
好ましい描画システム7では、描画ユニット11による各基板9へのパターンの描画動作に対してログ識別子が割り当てられ、当該基板9に対する描画動作に関して取得されたログ情報122がログ識別子に関連付けて記憶部121に記憶される。また、対象基板9上に描画される描画関連情報が、対象基板9に対する描画動作のログ識別子を含む。したがって、対象基板9上のログ識別子を用いてログ情報122を照合することにより、描画装置1におけるトレーサビリティを向上することができる。その結果、対象基板9上のパターン不良に関する高度なトラブルシューティングを行うことができる。
【0054】
好ましくは、対象基板9上に描画される描画関連情報が、対象基板9へのパターンの描画日時、パターンの描画時に参照した対象基板9の伸縮率、パターンの描画に用いたパターンデータ名、対象基板9上の感光材料の情報、および、対象基板9の種別情報の少なくとも1つを含む。これらの情報は、原則としてログ情報122に含まれるが、当該情報を対象基板9上に描画することにより、対象基板9を確認するのみで(すなわち、実際のログ情報122を確認することなく)、トラブルシューティングに有用な情報を迅速に取得することができる。
【0055】
描画システム7が、複数の描画ユニット11を備える場合には、上記描画関連情報が、対象基板9へのパターンの描画を行う描画ユニット11の識別子(描画装置1の識別子と同じである。)を含むことが好ましい。これにより、対象基板9へのパターンの描画を行った描画ユニット11を容易に特定することができ、対象基板9上のパターン不良のトラブルシューティングを迅速に行うことができる。
【0056】
描画ユニット11が、基板9をそれぞれ保持する複数のステージ21a,21bを有する場合には、上記描画関連情報が、パターンの描画時に対象基板9を保持するステージの識別子を含むことが好ましい。これにより、パターンの描画時に対象基板9を保持したステージを容易に特定することができ、対象基板9上のパターン不良のトラブルシューティングを適切に行うことができる。
【0057】
好ましくは、描画関連情報の少なくとも一部が、二次元コードとして対象基板9に描画される。これにより、描画関連情報が描画される領域を小さくしつつ、対象基板9に多くの情報を記録することができる。なお、二次元コードの読み取りでは、公知の二次元コードリーダを使用して、二次元コードが示す情報を迅速に取得することが可能である。
【0058】
一方、既述のステージの識別子や、描画ユニット11の識別子等の単純な情報については、二次元コードを用いることなく、文字、数字、記号等として描画することが好ましい。例えば、図2の描画装置1において、左側に配置されるステージ21aを対象基板9に対して使用する場合には、識別子「L」が対象基板9に描画され、右側に配置されるステージ21bを対象基板9に対して使用する場合には、識別子「R」が対象基板9に描画される。これにより、オペレータが目視または顕微鏡等を利用することにより、パターンの描画時に対象基板9を保持したステージを迅速に特定することが可能となる。
【0059】
上記描画システム7および描画方法では様々な変形が可能である。
【0060】
描画システム7の設計によっては、描画関連情報がログ識別子を含まなくてもよい。この場合でも、描画ユニット11の識別子等の他の描画関連情報が基板9に描画されることにより、基板9上のパターン不良のトラブルシューティングに、ある程度有用な情報を取得することが可能である。
【0061】
ログ情報122を記憶する記憶部121は、指示用端末70等、制御部12以外に設けられてもよい。
【0062】
基板9において、最終製品にて切断および廃棄される部位に、描画関連情報が描画されてもよい。基板9上の描画関連情報は、少なくとも製造途中において利用可能であればよい。
【0063】
描画装置1は、電子線等を利用して描画を行う直接描画装置であってもよい。また、描画装置1において、1つのステージのみが設けられてもよい。
【0064】
基板9は、プリント基板以外に、半導体基板やガラス基板等であってもよく、フレキシブル基板等のフィルム状の基板であってもよい。
【0065】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0066】
7 描画システム
9 基板
11 描画ユニット
12 制御部
21a,21b ステージ
82 描画関連情報領域
121 記憶部
122 ログ情報
S11~S15 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5