(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004430
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】眼用透過型光学物品セット、眼用レンズセット、眼用透過型光学物品、および、眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/00 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
G02C7/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146896
(22)【出願日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2022103390
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】武富 由佳
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BA00
2H006BA01
2H006BA02
2H006BA06
(57)【要約】
【課題】視覚コントラストを向上できる眼用透過型光学物品セットの提供。
【解決手段】2つの眼用透過型光学物品からなる眼用透過型光学物品セットであって、2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した2つの眼用透過型光学物品の色差ΔE00が、0.23超、かつ、33.8未満である、眼用透過型光学物品セット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの眼用透過型光学物品からなる眼用透過型光学物品セットであって、
2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した2つの前記眼用透過型光学物品の色差ΔE00が、0.23超、かつ、33.8未満である、眼用透過型光学物品セット。
【請求項2】
2つの眼用レンズからなる眼用レンズセットであって、
2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した2つの前記眼用レンズの色差ΔE00が0.23超、かつ、33.8未満である、眼用レンズセット。
【請求項3】
前記眼用レンズが、眼鏡レンズまたはコンタクトレンズである、請求項2に記載の眼用レンズセット。
【請求項4】
色が異なる2つの領域を有する眼用透過型光学物品であって、
2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した前記2つの領域の色差ΔE00が0.23超、かつ、33.8未満である、眼用透過型光学物品。
【請求項5】
眼鏡であって、
左目用の眼鏡レンズおよび右目用の眼鏡レンズを含み、
2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した2つの前記眼鏡レンズの色差ΔE00が0.23超、かつ、33.8未満である、眼鏡。
【請求項6】
双眼鏡であって、
左目用の光学系および右目用の光学系を含み、
2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した2つの前記光学系の色差ΔE00が0.23超、かつ、33.8未満である、双眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼用透過型光学物品セット、眼用レンズセット、眼用透過型光学物品、および、眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウレタン系熱硬化性樹脂、(メタ)アクリル系熱硬化性樹脂、ポリカーボネート樹脂又はポリアミド樹脂から形成したプラスチックレンズウエハーからなるプラスチック眼鏡レンズ又はプラスチックウェハーとこのプラスチックウェハーの少なくとも片面に形成された一層又は複数層の成分層とからなるプラスチック眼鏡レンズであって、プラスチックウェハー及び成分層のうちの少なくとも一つが以下の条件(A)を満足する有機系色素を含有することを特徴とするプラスチック眼鏡レンズが記載されている。
条件(A):有機系色素のクロロホルム又はトルエン溶液で測定された可視光吸収分光スペクトルにおいて、565nm~605nmの間に主吸収ピーク(P)を有し、主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光係数が0.5×105(ml/g・cm)以上であり、主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光度の1/4の吸光度におけるピーク幅が50nm以下であり、かつ主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光度の1/2の吸光度におけるピーク幅が30nm以下であり、かつ前記主吸収ピーク(P)のピーク頂点(Pmax)の吸光度の2/3の吸光度におけるピーク幅が20nm以下の範囲にあること。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、2つの眼用透過型光学物品からなる眼用透過型光学物品セットであって、2度視野のCIE標準光源D65を基準光としたとき、CIEDE2000に基づいて計算した2つの眼用透過型光学物品の色差ΔE00が、0.23超、かつ、33.8未満である、眼用透過型光学物品セットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】眼用透過型光学物品セットを有する眼鏡の一実施形態の斜視図である。
【
図2】眼用透過型光学物品の一実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本実施形態の眼用透過型光学物品セットについて詳述する。
眼用透過型光学物品セットとしては、視覚コントラストを向上できる眼用透過型光学物品セットが望まれている。本実施形態の眼用透過型光学物品セットは、視覚コントラストを向上できる特性を有する。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0007】
<眼用透過型光学物品セット>
眼用透過型光学物品セットとしては、例えば、
図1に示す眼鏡1に利用される眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10が挙げられる。具体的には、右目用眼鏡レンズ11と、左目用眼鏡レンズ12と、を備える眼用透過型光学物品セットが挙げられる。
図1において、眼鏡1は、右目用眼鏡レンズ11および左目用眼鏡レンズ12からなる眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10と、右目用眼鏡レンズ11および左目用眼鏡レンズ12が装着される眼鏡フレーム14と、を備える。
すなわち、右目用眼鏡レンズ11および左目用眼鏡レンズ12からなる眼用透過型光学物品セット10は、本開示における眼用透過型光学物品セットであり、眼用レンズセットである。また、右目用眼鏡レンズ11および左目用眼鏡レンズ12は、本開示における、眼用透過型光学物品であり、眼用レンズであり、眼鏡レンズである。
【0008】
眼鏡フレーム14は、右目用眼鏡レンズ11および左目用眼鏡レンズ12がそれぞれ装着される一対のレンズ枠と、眼鏡フレームを使用者の耳に掛けるためのテンプルと、を有する従来公知の眼鏡フレームである。
【0009】
本開示の眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10において、右目用眼鏡レンズ11と左目用眼鏡レンズ12とのL*a*b*表示における色差が0.23超、かつ、33.8未満である。なお、本開示において、2つの眼鏡レンズの色差は、CIELABが持つ視覚上の不均等性を補正するために明度、彩度、色相の各値に対応させた係数を導入した色差ΔE00である。
【0010】
L*a*b*表示における座標は、基準となる光源によって変化する。本開示では、屋外の昼光として標準的な、2度視野のCIE標準光源D65を基準光として算出した値を用いる。
本発明者らは、眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10をなす、2つの眼鏡レンズの色差ΔE00を上記範囲とすることにより、屋外の昼光下のみならず、屋外の夕暮れ、室内のLED灯下および蛍光灯下等においても、視覚コントラスト向上の効果が得られることを見出した。
【0011】
視覚コントラスト向上の効果を得るためには、2つの眼鏡レンズの色は、色が異なると人間が認識できる色差が必要となる。この観点から、2つの眼鏡レンズ(左目用眼鏡レンズおよび右目用眼鏡レンズ)のL*a*b*表示における色差ΔE00は、0.23超であり、0.4以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。一方、色差が大きすぎる場合には両眼視野闘争を生じて不快感を生じてしまうおそれがある。従って、色差ΔE00は、33.8未満であり、20.0以下がより好ましく、15.0以下がさらに好ましい。
【0012】
L*a*b*表示における色差は、各眼鏡レンズのL*a*b*座標を、基準光としてD65光源(視野2度)を用いて、分光光度計(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製U-4100等)により測定し、得られた2つの眼鏡レンズのL*a*b*座標から色差ΔE00を算出して求めることができる。
【0013】
具体的な測定手順の一例を以下に示す。積分球を備えた分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U-4100)にて、サンプルがない状態でリファレンス光を測定し、次に、眼鏡レンズの凸面を入射光側に向けて設置して透過光を測ることで、眼鏡レンズの分光透過率を測定する。光束サイズはサンプル位置において縦幅約11mm×横幅約8mm、測定波長域は380nm~780nm、スキャンスピードは300nm/min、サンプリング間隔は0.50nm、測定回数は1、スリット幅は5nmである。
続いて、得られた分光透過率より、U-4100に備えられた色彩計算プログラムを用いて視感透過率Y値、および、D65光源(視野2度)を基準光としたときのL*値、a*値、b*値、を算出する。
最後に、色差ΔE00を、計算方法を記述した文献(Gaurav Sharma,et. al., The CIEDE2000 Color-Difference Formula: Implementation Notes, Supplementary Test Data, and Mathematical Observations, COLOR research and application, Volume 30, Number 1, February 2005)および、該文献の著者が配布している表計算シート(http://www2.ece.rochester.edu/~gsharma/ciede2000/)を用いて、先に測定した2枚の眼鏡レンズのL*値、a*値、b*値から算出する。
【0014】
また、眼鏡レンズの分光透過率の測定は、眼鏡レンズの光学中心で行えばよい。この点は、度なしの眼鏡レンズであってもレンズが曲面を有するため同様である。また、玉摺り前の眼鏡レンズの光学中心と幾何中心は同じ位置であるため、玉摺り前の眼鏡レンズの場合には、幾何中心で測定を行ってもよい。
また、眼鏡レンズが累進レンズである場合には、プリズムリファレンスポイント、遠用測定ポイント、および、近用測定ポイントのいずれかもしくは2箇所以上で測定を行い、各位置での2つの眼鏡レンズ(累進レンズ)の色差ΔE00が0.23超、かつ、33.8未満であればよい。
また、後述する色が異なる2つの領域を有する眼用透過型光学物品(ゴーグル)の場合には、眼用透過型光学物品の上下方向の中央において、左右方向の2点をそれぞれの領域の光学中心と定義する。この2点間の距離は眼用透過型光学物品の中央を基点として成人向けでは64mm±10mm、小人向けでは50mm±10mmとする。この2点を2つの領域それぞれの光学中心として分光透過率の測定を行えばよい。
【0015】
ここで、2つの眼鏡レンズが色差を有する場合に、眼鏡レンズの色の濃さ、すなわちレンズの視感透過率は特に制限はなく、2つの眼鏡レンズの色差ΔE00が0.23超かつ33.8未満であれば、両眼視野闘争が生じることを抑制しつつ、視覚コントラスト向上の効果を得ることができる。
【0016】
2つの眼鏡レンズの視感透過率が低すぎると、本開示の効果によって視覚コントラストが向上しても、目に入る光量が少ないため良好な視力は得づらい。上記観点から、2つの眼鏡レンズの視感透過率はそれぞれ3%以上が好ましく、18%以上であることがより好ましく、43%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。なお、後述するように、眼鏡レンズの染色に蛍光染料および蓄光染料を用いることもでき、この場合には、眼鏡レンズの視感透過率は100%を超えてもよい。なお、2つの眼鏡レンズの視感透過率の上限値は、120%以下の場合が多く110%以下の場合がより多い。
【0017】
2つの眼鏡レンズの視感透過率は同じであってもよく、異なっていてもよい。2つの眼鏡レンズの視感透過率の差が大きいと、プルフリッヒ効果により両眼立体視に影響を生ずる可能性があるため、2つの眼鏡レンズの視感透過率の差は小さい方が好ましく、70%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0018】
視感透過率は、上記に記載の方法で測定することができる。また、眼鏡レンズの分光透過率を分光光度計(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製U-4100等)により測定し、その分光透過率から、JIS T7333:2018に準じて算出することもできる。
【0019】
ここで、2つの眼鏡レンズそれぞれの色については、色差ΔE00が0.23超、かつ、33.8未満となれば特に制限はない。例えば、特許文献1に記載されているような、視覚コントラスト向上効果があるとされる紫青色の眼鏡レンズにおいて、2つの眼鏡レンズの色差ΔE00が0.23超となるように調色することで、さらに視覚コントラスト向上効果を高めることができる。
また眼鏡レンズの装用者の好みに合わせて色を選択することもできる。2つの眼鏡レンズの色は脳内で混色してその中間色となるので、2つの眼鏡レンズの色は、L*a*b*表色系において、目的の色を挟んで正反対に位置することが好ましい。
さらに、2つの眼鏡レンズの色は物理補色の関係にあることも好ましい。これにより、左右の眼から入った映像を脳内で混色した際に無彩色(グレー)になって違和感が少なくなるためである。なお、物理補色とは、相補的(互いに補い合う関係)な色のことであり、L*a*b*表色系においては原点を挟んで正反対に位置する色のことである。
具体的には、例えば、2つの眼鏡レンズの色の組み合わせとしては、赤色とシアン、緑色とマセンダ、青色と黄色等の物理補色の関係にある2色を選ぶことが好ましい。中でも、まばたき時など片目で見た時の色の影響を少なくする等の観点から、心理的な刺激の強い黄色系の色、すなわちb*の値がプラス側に大きい色は使わないことが好ましく、2つの眼鏡レンズの色の組み合わせを、赤色系の色と青色系の色と緑色系の色、およびその中間色から選択することがより好ましい。
なお、赤色系の色とはL*a*b*表色系においてa*の値がプラス側に大きい色、緑色系の色とはa*の値がマイナス側に大きい色、青色系の色とはb*の値がマイナス側に大きい色である。
【0020】
また、2つの眼鏡レンズの両方が有彩色であってもよく、一方の眼鏡レンズが有彩色(以下、着色レンズともいう)で他方の眼鏡レンズが無彩色(以下、クリアレンズともいう)であってもよい。すなわち、本開示の眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)は、少なくとも1つの着色レンズを有する。
【0021】
また、レンズの着色は、レンズ全体で均一であっても、分布があっても良い。たとえば眼鏡レンズの使用者の視線が集まりやすいレンズ中心部分の色を濃くすることで、2つの眼鏡レンズの十分な色差を維持しながら、一方で眼鏡レンズの使用者の視線が行きづらいレンズ外周部の色を薄くすることで、使用者以外から見たときの色の印象を弱めることができる。ここで、使用者の視線が集まりやすいレンズの中心部分とは、眼鏡レンズの使用者および眼鏡フレームの形状によって決まるものであり、幾何中心や光学中心から適時選択される。
具体的には、本開示において、上述した色差の測定方法は、直径75mmの円型レンズ(玉摺り加工前の眼鏡レンズ)の幾何中心に対して測定を行っている。この場合は幾何中心と光学中心は同じである。一方でレンズを玉摺り加工して眼鏡フレームに装填した後は、幾何中心と光学中心は異なるため、色差は光学中心で測定することが好ましい。
【0022】
また、2つの眼鏡レンズは、所定の度数が付与された視力矯正用の眼鏡レンズであってもよく、度数を有さない眼鏡レンズであってもよく、保護メガネ用のレンズであってもよい。また、1枚のレンズの中で度数が変化する累進レンズであってもよい。あるいは、拡大眼鏡(眼鏡型ルーペ)用のレンズであってもよい。
また、2つの眼鏡レンズは、紫外線および/または可視光の一部を低減するサングラス用の眼鏡レンズであってもよい。
あるいは、眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)は、眼鏡に装着可能な、眼鏡とは別の眼用レンズセットであってもよい。眼鏡とは別のレンズセットは、クリップオンとも呼ばれる。
【0023】
以下、眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)が有する眼鏡レンズについて詳述する。
【0024】
眼鏡レンズとなるレンズ基材は、プラスチックでもよく、ガラスでもよい。プラスチック基材を着色するには、プラスチック基材の硬化時に着色剤を混合してもよく、また硬化後のプラスチック基材の少なくとも一方の表面を、所定の染色液を用いて染色してもよい。染色液を用いて染色したプラスチック基材は、基材の厚みによらず色が均一であることから好ましい。また無着色プラスチックレンズ(クリアレンズ)の上に着色剤を含んだ膜を設けたり、干渉膜を設けて特定波長のみ透過したりすることで、レンズ全体として着色することもできる。
ガラス基材においても同様に、ガラス自体に着色剤を混合したり、無着色ガラスレンズ(クリアレンズ)の上に着色剤を含んだ膜を設けたり、干渉膜を設けて特定波長のみ透過したりすることで、機能膜を含む眼鏡レンズ自体として着色することができる。
【0025】
レンズ基材であるプラスチック基材に含まれる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、チオウレタン樹脂、メタクリル樹脂、アリル樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、および、イオウ含有共重合体が挙げられる。
また、本実施形態では、プラスチック基材の波長546.1nmの屈折率は、例えば、1.50~1.74の範囲が好ましい。
【0026】
本開示において、プラスチック基材の染色に用いる染色液は、染料、界面活性剤、および、溶媒(例えば、水)を含むことが好ましい。また、1つの染色液は、1種類の染料、即ち、1色の染料を含む染色液であってもよいし、2種類以上の染料、即ち、2色以上の染料を含む混合染色液であってもよい。
即ち、プラスチック基材の染色においては、それぞれ異なる色を持つ複数の染色液を用いてもよいし、2色以上の染料を調合した混合染色液を用いてもよい。
なお、混合染色液は、異なる色の複数の染色液を混合して調製してもよいし、予め複数の染料を調合し、調合された染料を用いて調製してもよい。
【0027】
染料は、本開示の視感透過率の限定範囲および2つの眼鏡レンズの色差の限定範囲内に収まるものであれば、いかなる染料であってもよい。
染料としては、例えば、分散染料、反応染料、直接染料、複合染料、酸性染料、金属錯塩染料、建染染料、硫化染料、蛍光染料、蓄光染料、樹脂着色用染料、および、その他機能性染料等が挙げられる。
また、染料としては、例えば、イエロー(Y)染料、レッド(R)染料、ブルー(B)染料、ブラウン染料、バイオレット染料、オレンジ染料、および、ブラック染料が挙げられる。
光源による眼鏡レンズの色の変化を少なくする観点から、染料は1種類のみ用いるよりも、2種類以上を併用することが好ましい。
【0028】
イエロー染料としては、例えば、カヤロンポリエステルイエロー(Kayaron Polyester Yellow) AL、Kayalon Microester Yellow AQ-LE、Kayalon Microester Yellow C-LS、Kayaron Microester Yellow 5L-E、Kayaron Polyester Yellow 5R-SE(N)200、Kayaron Polyester Yellow BRL-S 200(日本化薬(株)製)、Kiwalon polyester Yellow ESP eco、Kiwalon polyester Yellow KN-SE 200(紀和化学工業(株)製)、FSP-Yellow P-E(双葉産業(株)製)、および、Dianix Yellow(ダイスタージャパン(株)製)が挙げられる。
【0029】
レッド染料としては、例えば、カヤロンポリエステルレッド(Kayalon Microester Red)AUL-S、Kayalon Microester Red 5L-E、Kayalon Microester Red C-LS conc、Kayalon Microester Red DX-LS、Kayalon polyester Red AN-SE、Kayalon Polyester Red B-LE、Kayaron Polyester Rubine GL-SE 200(日本化薬(株)製)、Kiwalon polyester Red ESP、Kiwalon polyester Red KN-SE(紀和化学工業(株)製)、FSP-Red BL(双葉産業(株)製)、および、Dianix Red(ダイスタージャパン(株)製)が挙げられる。
【0030】
ブルー染料としては、例えば、カヤロンポリエステルブルーAUL-S染料(日本化薬(株)製)、Dianix Blue AC-E(ダイスタージャパン(株)製)、Kiwalon Polyester Blue ESP、Kiwalon Polyester Blue KN-SE(紀和化学(株)製)、Kayalon Microester Blue AQ-LE、Kayaron Microester Blue 5L-E、Kayalon Microester Blue C-LS conc、Kayalon Microester Blue DX-LS conc、Kayalon Polyester Blue AN-SE、Kayaron Polyester Blue AUL-S(N)(日本化薬(株)製)、および、FSP-Blue AUL-S(双葉産業(株)製)が挙げられる。
【0031】
界面活性剤としては、上記染料を水等の溶媒に均一に分散できれば、特に制限されない。
界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等)、および、非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0032】
溶媒としては、例えば、水、および、有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、および、スルホキシド系溶媒が挙げられる。
【0033】
染色液には、必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、つや消し剤、安定剤、紫外線吸収剤、および、酸化防止剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0034】
染色液中に含まれる染料の含有量は、染色液全質量に対して、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい。
また、染色液中に含まれる界面活性剤の含有量は、染色液全質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましい。
【0035】
プラスチック基材の少なくとも一方の表面を染色し、着色レンズを得る方法としては、例えば、下記3通りの方法が挙げられる。
(1)染色液をプラスチック基材の表面にコーティングして加熱し、プラスチック基材表面を染色する方法(コート法)
(2)加温した染色液中にプラスチック基材を浸漬して、プラスチック基材表面を染色する方法(ディップ法)
(3)昇華性色素を転写媒体にコーティングし、プラスチック基材をその転写媒体近傍に配置して加熱し、プラスチック基材表面を染色する方法(昇華染色法)
これら3種の方法のうち、染色液の使用量が少なく、生産コストを抑えられる点では、上記(1)のコート法が好ましい。一方で、均一に塗布するのが容易である点では、上記(2)のディップ法が好ましく、パターニングが容易である点では上記(3)の昇華染色法が好ましいので、用途に合わせて選択すればよい。これらの方法は単独でもよく、併用してもよい。
【0036】
上述したコート法におけるプラスチック基材への染色液の塗布方法としては、刷毛塗り、ディップ、スピンコート、ロール塗り、スプレー塗装、流し塗り、および、インクジェット型塗布等の通常の塗布方法が挙げられる。
塗布に関しては、プラスチック基材片面にコートしてもよいし、染色濃度をさらに上げるために両面にコートしてもよい。
プラスチック基材への染色液のコート厚は、適宜調整可能であり、例えば、0.01~10μmの範囲とすることができる。
【0037】
コート法による染色において、プラスチック基材に染色(着色加工)を行う場合には、染色液をプラスチック基材表面にコートした後に加熱処理を行うことにより、染色液中の染料をプラスチック基材表面に浸透および拡散させることが好ましい。
染色液をコートしたプラスチック基材の加熱条件としては、加熱温度は70~180℃が好ましく、加熱時間は10~180分間が好ましい。加熱方法としては、エアオーブン加熱以外に、遠赤外線照射加熱、および、UV照射加熱が挙げられる。
コート法による染色において、プラスチック基材になだらかな濃度勾配をもった染色(着色加工)を行う場合には、染色液をレンズにコートした後、コーティング液面(染色液面)を加熱領域が徐々に変化するようにしながら加熱することにより、プラスチック基材内部に濃度勾配に対応した量の染料を浸透させることができる。
【0038】
染色液をプラスチック基材にコートし、染色液をコートしたプラスチック基材を加熱処理した後、プラスチック基材を洗浄してもよい。
プラスチック基材の洗浄方法としては、プラスチック基材表面のコート層(塗布された染色液)を除去することができれば特に制限されないが、有機溶剤による拭き取り、または、アルカリ洗浄剤による洗浄が好ましい。
【0039】
上述したディップ法によりプラスチック基材を染色する場合は、染色液中にプラスチック基材を浸漬して、プラスチック基材表面から染色液中の染料を浸透および拡散させることができる。
ディップ法による染色においては、80~95℃に加熱した染色液にプラスチック基材を浸漬することが好ましい。
浸漬終了後、プラスチック基材を洗浄してもよい。プラスチック基材の洗浄方法としては、溶媒によるふき取りが挙げられる。
【0040】
眼鏡レンズは、機能膜を含んでいてもよい。機能膜は、上述したプラスチック基材等のレンズ基材上に配置される膜であり、機能膜としては、偏光膜、フォトクロミック膜、プライマー膜、ハードコート膜、反射防止膜等の干渉膜、および、撥水撥油膜が挙げられる。
なお、上記のように眼鏡レンズがレンズ基材上に配置される機能膜を有する場合、機能膜を含む眼鏡レンズ全体が上述した視感透過率および色差の関係を満たす。
【0041】
プライマー膜は、膜の両側に配置される部材同士の密着性を向上させるために用いられる層である。
プライマー膜を構成する材料は特に制限されず、公知の材料を使用でき、例えば、主に樹脂が使用される。使用される樹脂の種類は特に制限されず、例えば、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、および、ポリオレフィン樹脂が挙げられ、ポリウレタン樹脂が好ましい。
プライマー膜の形成方法は特に制限されず、公知の方法を採用でき、例えば、所定の樹脂を含むプライマー膜形成用組成物を眼鏡レンズ上に塗布して、必要に応じて硬化処理を施して、プライマー膜を形成する方法が挙げられる。
【0042】
ハードコート膜は、眼鏡レンズに耐傷性を付与する層である。
ハードコート膜としては、JIS K5600において定められた試験法による鉛筆硬度で、「H」以上の硬度を示すものが好ましい。
【0043】
ハードコート膜としては、公知のハードコート膜を用いることができ、例えば、有機系ハードコート膜、無機系ハードコート膜、および、有機-無機ハイブリッドハードコート膜が挙げられ、例えば、眼鏡レンズの分野においては、有機-無機ハイブリッドハードコート膜が一般的に使用されている。
ハードコート膜の形成方法は特に制限されず、ハードコート膜形成用組成物を眼鏡レンズ上に塗布して塗膜を形成し、塗膜に対して光照射処理等の硬化処理を実施する方法が挙げられる。
【0044】
反射防止膜の構造は特に制限されず、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
反射防止膜としては、無機反射防止膜が好ましい。無機反射防止膜とは、無機化合物で構成される反射防止膜である。
多層構造の場合、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造が好ましい。なお、高屈折率層を構成する材料としては、例えば、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ、タンタル、または、ランタンの酸化物が挙げられる。また、低屈折率層を構成する材料としては、例えば、シリカの酸化物が挙げられる。
反射防止膜の製造方法は特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、および、化学気相蒸着(CVD)法等の乾式法が挙げられる。
【0045】
ここで、上述した例では、眼用レンズセットが有する眼用レンズが、右目用眼鏡レンズおよび左目用眼鏡レンズである構成としたが、これに制限されず、眼用レンズは、コンタクトレンズであってもよい。すなわち、眼用レンズセットが、右目用コンタクトレンズと、左目用コンタクトレンズとを有し、右目用コンタクトレンズと左目用コンタクトレンズとのL*a*b*表示における色差が0.23超、かつ、33.8未満である構成であってもよい。
右目用コンタクトレンズおよび左目用コンタクトレンズの色差が上記範囲を満たすことによって、視覚コントラスト向上の効果が得られる。また、2つのコンタクトレンズは、所定の度数が付与された視力矯正用のコンタクトレンズであってもよく、度数を有さないコンタクトレンズであってもよい。
【0046】
<双眼鏡>
本開示の眼用透過型光学物品セットは、両眼視で視認するための光学物品に用いられてもよい。上記光学物品としては、例えば、双眼鏡が挙げられる。双眼鏡は、双眼望遠鏡であってもよく、双眼顕微鏡であってもよい。
上記双眼望遠鏡としては、例えば、
図3に示す断面図の構成を備える双眼望遠鏡60が挙げられる。具体的には、右目用遮光筒61Rと、左目用遮光筒61Lとを備える双眼望遠鏡60が挙げられる。右目用遮光筒61Rは、使用者側から順に、右目用接眼レンズ群62Rと、右目用ダハプリズム64Rと、右目用補助プリズム66Rと、右目用対物レンズ群68Rとを備える。左目用遮光筒61Lは、使用者側から順に、左目用接眼レンズ群62Lと、左目用ダハプリズム64Lと、左目用補助プリズム66Lと、左目用対物レンズ群68Lとを備える。
【0047】
双眼望遠鏡60において、右目用接眼レンズ群62Rと、右目用ダハプリズム64Rと、右目用補助プリズム66Rと、右目用対物レンズ群68Rとが右目用の光学系に該当し、左目用接眼レンズ群62Lと、左目用ダハプリズム64Lと、左目用補助プリズム66Lと、左目用対物レンズ群68Lとが左目用の光学系に該当する。すなわち、双眼望遠鏡60は、左目用の光学系および右目用の光学系を含む。ここで、上記左目用の光学系と上記右目用の光学系とのL*a*b*表示における色差が0.23超、かつ、33.8未満である。これにより、双眼望遠鏡60において、視覚コントラスト向上の効果が得られる。
【0048】
なお、双眼望遠鏡60において、右目用の光学系全体と、左目用の光学系全体との色差が0.23超、かつ、33.8未満であれば、各光学系を構成するレンズおよびプリズムのいずれに着色されていてもよい。例えば、右目用接眼レンズと左目用接眼レンズとが上記色差を満たすものであってもよく、右目用対物レンズと左目用対物レンズとが上記色差を満たすものであってもよく、右目用ダハプリズムと左目用ダハプリズムが上記色差を満たすものであってもよく、あるいは、右目用補助プリズムと左目用補助プリズムとが上記色差を満たすものであってもよい。すなわち、上述した眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)を双眼望遠鏡の光学系を構成するレンズとして用いてもよい。
あるいは、右目用の光学系全体と、左目用の光学系全体との色差が0.23超、かつ、33.8未満であれば、各光学系を構成するレンズおよびプリズムの2つ以上に着色されていてもよく、全てのレンズおよびプリズムに着色されていてもよい。
【0049】
上記双眼鏡に用いられる接眼レンズまたは対物レンズを、着色する方法は、特に制限されず、眼鏡レンズと同様の方法を用いることができる。接眼レンズおよび対物レンズの基材としては、眼鏡レンズと同様の基材を用いることができる。
また、上記双眼鏡に用いられる補助プリズムまたはダハプリズムを着色する方法は特に制限されず、眼鏡レンズと同様の方法を用いることができる。補助プリズムおよびダハプリズムの基材は、例えば公知の光学ガラスを用いることができる。
【0050】
双眼望遠鏡60は、
図3に示す構成以外に、公知の構成を含んでいてもよい。公知の構成としては、中間レンズ、および、光学フィルター等が挙げられる。上記構成も、光学系の構成要素に該当し得る。
また、
図3に示す双眼望遠鏡60は、右目用ダハプリズム64R、右目用補助プリズム66R、左目用ダハプリズム64L、および、左目用補助プリズム66Lを用いる構成であったが、本開示の双眼鏡は、上記プリズムの代わりに、1組の右目用ポロプリズムおよび1組の左目用ポロプリズムを用いる構成であってもよい。
【0051】
また、
図3には双眼望遠鏡60の態様を示したが、本開示の双眼鏡は、双眼顕微鏡であってもよい。本開示の双眼顕微鏡においても、前述の双眼望遠鏡と同様に、対物レンズから接眼レンズに至る光学系のうち、右眼用の光学系と左眼用の光学系の任意の構成要素に、所定の色差を与える機能を付与することができる。なお、双眼顕微鏡としては、実体顕微鏡、工業・生物系顕微鏡など各種の構成の双眼顕微鏡が存在するが、いずれの場合にも本開示を適用できる。
【0052】
本開示の双眼鏡においても、両眼視における視覚コントラストが向上する。
【0053】
<眼用透過型光学物品>
眼用透過型光学物品の一例としては、例えば、
図2に示すゴーグル50に利用される眼用透過型光学物品52が挙げられる。
図2において、ゴーグル50は、眼用透過型光学物品52と、眼用透過型光学物品52が装着されるフレーム56と、ゴーグル50を使用者の頭部に装着するためのバンド58と、を有する。
フレーム56およびバンド58は、従来公知のゴーグルに用いられるフレームおよびバンドと同様である。
【0054】
眼用透過型光学物品52は、色が異なる2つの領域、右目用領域53および左目用領域54を有する。
図2に示す例では、使用者から見て、眼用透過型光学物品52の中央よりも右側の領域が右目用領域53であり、中央よりも左側の領域が左目用領域54である。
右目用領域53と左目用領域54とのL
*a
*b
*表示における色差が0.23超、かつ、33.8未満である。
右目用領域53および左目用領域54の色差が上記範囲を満たすことによって、視覚コントラスト向上の効果が得られる。
右目用領域53および左目用領域54の視感透過率および色差の好適範囲は、上述した眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10の右目用眼鏡レンズ11および左目用眼鏡レンズ12の色差の好適範囲と同じである。
【0055】
なお、
図2に示す例では、眼用透過型光学物品52は、右目用領域53および左目用領域54からなる構成としたが、これに制限はされず、眼用透過型光学物品52の、使用者の右目の視野に対応する領域を含む少なくとも一部の領域が右目用領域53で、使用者の左眼の視野に対応する領域を含む少なくとも一部の領域が左目用領域54であってもよい。すなわち、眼用透過型光学物品52は、右目用領域53および左目用領域54以外の領域を有していてもよい。
【0056】
眼用透過型光学物品52は、プラスチック基材の右目用領域53となる領域および左目用領域54となる領域の少なくとも一方を、着色したものである。すなわち、眼用透過型光学物品52は、右目用領域53および左目用領域54の両方が有彩色であってもよく、一方が有彩色で、他方が無彩色であってもよい。
【0057】
眼用透過型光学物品52のプラスチック基材の材料としては、上述した眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10で説明したレンズ基材と同様の材料を用いることができる。
また、眼用透過型光学物品52のプラスチック基材の着色方法としては、上述した眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)と同様の着色方法が挙げられる。また、染色により着色する場合の染色に用いる染色液としては、上述した眼用透過型光学物品セット(眼用レンズセット)10で説明した染色液と同様の液を用いることができる。
【0058】
プラスチック基材の表面を染色し、右目用領域53および左目用領域54を有する眼用透過型光学物品52を得る方法としては、例えば、一方の領域となる部位をマスキングして上述した染色方法と同様のコート方法、ディップ法および昇華染色法等で他方の領域となる部位を所望の色に染色し、次に、染色した他方の領域をマスキングし、一方の領域となる部位を同様の方法で別の所望の色に染色すればよい。
【実施例0059】
以下、本開示の眼用透過型光学物品セットに関して、実施例および比較例により更に詳しく説明するが、本実施形態はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0060】
(染色液の調製)
まず、染料、界面活性剤、および、純水を用いて、染色液を調製した。
純水(1000質量部)を容器に取り、イエロー染料としてFSP YELLOW FL染料(双葉産業株式会社製)(2.0質量部)およびニッカサンソルト♯7000(商品名、日華化学社製)(1.0質量部)を加えたものを染色液1とした。また、純水(1000質量部)を容器に取り、ブルー染料としてFSP BLUE AULS染料(双葉産業株式会社製)(2.0質量部)およびニッカサンソルト♯7000(1.0質量部)を加えたものを染色液2とした。また、純水(1000質量部)を容器に取り、レッド染料としてFSP RED BL染料(双葉産業株式会社製)(2.0質量部)およびニッカサンソルト♯7000(1.0質量部)を加えたものを染色液3とした。
【0061】
(プラスチックレンズの染色および着色レンズ1の作製)
次に、準備した3つの染色液1、2および3をそれぞれ90℃に加温し、屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコン・エシロール社製、ニコンライト3AS、サイズ75φ、中心厚2mm)をそれぞれの染色液1、2および3に浸漬し、薄い赤紫色のレンズを作製した。
次に、得られた着色レンズの表面に、厚さ約1μmのウレタン系プライマー膜(耐衝撃性向上コート膜)、厚さ約2μmのシリコーン系耐擦傷性向上ハードコート膜、真空蒸着法により厚さ約0.3μmの無機酸化物により形成される多層膜反射防止コート膜、および、フッ素系撥水撥油膜をこの順に配置して、目的の着色レンズ1を得た。
【0062】
(プラスチックレンズの染色および着色レンズ2~5の作製)
上記の2つの染色液2および3に屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコンライト3AS)を浸漬し、浸漬時間を変えたこと以外は着色レンズ1と同様にして、薄い青紫色のレンズを作製した。得られた着色レンズの表面に、着色レンズ1と同様に、ウレタン系プライマー膜、シリコーン系耐擦傷性向上ハードコート膜、多層膜反射防止コート膜、および撥水撥油膜をこの順に配置して、目的の着色レンズ2~5を得た。
【0063】
(プラスチックレンズの染色および着色レンズ6~19の作製)
着色レンズ1と同じ3つの染色液1、2および3のいずれか1種類以上の染色液に屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコンライト3AS)を浸漬し、浸漬時間を変えたこと以外は着色レンズ1と同様にして、様々な色調のレンズを作製した。得られた着色レンズの表面に、着色レンズ1と同様に、ウレタン系プライマー膜、シリコーン系耐擦傷性向上ハードコート膜、多層膜反射防止コート膜、および撥水撥油膜をこの順に配置して、目的の着色レンズ6~19を得た。
【0064】
(無着色レンズ1~2の作製)
屈折率1.60のプラスチックレンズ(ニコンライト3AS)の表面に、着色レンズ1と同様に、ウレタン系プライマー膜、シリコーン系耐擦傷性向上ハードコート膜、多層膜反射防止コート膜、および撥水撥油膜をこの順に配置して、目的の無着色レンズ1~2を得た。
【0065】
(レンズの評価)
作製した各レンズのL*a*b*座標を、日立ハイテクノロジーズ社製U-4100分光光度計を用いて上述した方法で測定した。このとき基準光にはD65光源(視野2度)を用いた。
【0066】
視感透過率Y、L*a*b*座標、および白色LED灯下で観察したときのレンズの色調を表1に示す。無着色レンズはプラスチック素材自体の色、またレンズに添加されている紫外線吸収剤およびブルーイング剤、さらに多層膜反射防止コート膜の透過光特性により、淡灰色と認識された。
【0067】
【0068】
[実施例1~10、比較例1~3]
下記表2に示す組み合わせで右目用レンズおよび左目用レンズを組み合わせて、実施例および比較例の眼用レンズセットとした。各レンズセットの色差ΔE00および、視感透過率の差の絶対値ΔYを併せて示す。
【0069】
【0070】
[評価]
視力測定用の液晶ディスプレイ(エシロール・インスツルメンツ社製CS Pola 600)の白色背景上に黒色のランドルト環を表示した。液晶ディスプレイの輝度はトプコンハウス社製の分光輝度計SR-3ARで測定し202cd/m2であった。室内は天井に設置した白色LED灯で下向きに照らしており、照度は液晶ディスプレイ設置場所で上向きに測定したときに300ルクスであった。
被験者は必要に応じて眼鏡レンズもしくはコンタクトレンズで視力矯正し、液晶ディスプレイから2.5メートル離れた位置から観察したとき、輝度コントラストの設定値が100%のランドルト環が明瞭に見えるようにした。なお、輝度コントラストの実測値は99%であった。
次に、ランドルト環の輝度コントラストを10%に設定し、ランドルト環の切れ目の方向がかろうじて判別できるサイズまでランドルト環を小さくした。なお、輝度コントラストの実測値は13%であった。各眼用レンズセットを被験者に装着したとき、視覚コントラストが向上して、ランドルト環の切れ目がより明瞭に見えるか確認した。
【0071】
各眼用レンズセットを被験者に装着したときに、視覚コントラストが向上して、ランドルト環がより明瞭に見えるか評価した。評価は、眼鏡レンズの形状およびフレームの影響を取り除くため、比較例1に示した無着色レンズペアを装着したときを基準として、2枚の眼鏡レンズの色差により比較例1より明瞭に見えるか判定した。
また、装着時に2枚の眼鏡レンズの色差(両眼視野闘争)および視感透過率の差等が気にならず装着可能であるか否かを判定した。
このような評価を被験者5人に対して行い、効果を感じた被験者の人数で評価した。結果を表3に示す。
【0072】
【0073】
ΔE00が0.13である比較例1と比べて、ΔE00が0.40である実施例1では5人中4人が視覚コントラスト向上効果を感じた。また装着時に2枚の眼鏡レンズの色差や視感透過率の差は気にならず、5人中5人が装着可能と判断した。実施例2~10において、ΔE00が大きくなるほど視覚コントラスト向上効果は強く感じられ、5人中5人が視覚コントラスト向上効果を感じた。
実施例4~8においては、右目のレンズ色を固定し、左目のレンズ色をさまざまに変えた。被験者の好みにより、好ましい色の組み合わせは異なったが、視覚コントラスト向上効果はどの色の組み合わせでも得られた。
ΔE00が0.23である比較例2では、比較例1と比べて視覚コントラスト向上効果は確認されなかった。また比較例3では視覚コントラスト向上効果は確認された一方で、2枚の眼鏡レンズの色差ΔE00が33.78と大きいため両眼視野闘争による不快感を生じ、5人中5人が装着不可と判断した。