(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044346
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240326BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149823
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 容平
(72)【発明者】
【氏名】林 勇樹
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA14
3J062BA25
3J062BA26
3J062CD04
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】三次元的に形成した循環溝の循環軌道を螺旋軌道に接線方向が実質的に連続するように繋げることができるボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじ1は、螺旋溝2aを有するねじ軸2と、螺旋溝を有するナット3と、ねじ軸2の螺旋溝2aとナット3の螺旋溝との間に配置される複数のボール4と、を備える。ナット3には、ナット3の螺旋溝の一端と他端に接続され、ボール4を循環させる循環溝が設けられる。循環溝の循環軌道8を、ねじ軸2の溝断面においてボール4を循環させる軌道を示す溝断面軌道曲線、及び溝断面軌道曲線の軌道長さωをH軸とし、螺旋軌道長さF
v(ω)をV軸とした仮想平面においてボール4を循環させる軌道を示す長手軌道曲線に基づいて形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋溝を有するねじ軸と、
螺旋溝を有するナットと、
前記ねじ軸の螺旋溝と前記ナットの螺旋溝との間に配置される複数のボールと、を備え、
前記ナットには、前記ナットの前記螺旋溝の一端と他端に接続され、前記ボールを循環させる循環溝が設けられるボールねじにおいて、
前記ねじ軸の溝断面において前記ボールを循環させる軌道を示す溝断面軌道曲線、及び前記溝断面軌道曲線の軌道長さωをH軸とし、螺旋軌道長さFv(ω)をV軸とした仮想平面において前記ボールを循環させる軌道を示す長手軌道曲線に基づいて、前記循環溝の循環軌道を形成し、
前記長手軌道曲線のターン始点からの螺旋軌道長さFv(ω)を前記循環溝の循環軌道のターン始点からの螺旋軌道長さFv(ω)に設定し、
前記溝断面軌道曲線の主法線方向座標Fn(ω)を前記循環溝の循環軌道の前記螺旋軌道長さFv(ω)に対する主法線方向座標Fn(ω)に設定し、
前記溝断面軌道曲線の従法線方向座標Fb(ω)を前記循環溝の循環軌道の前記螺旋軌道長さFv(ω)に対する従法線方向座標Fb(ω)に設定するボールねじ。
【請求項2】
前記仮想平面において前記長手軌道曲線のターン始点及び/又はターン終点での接線方向と前記仮想平面のV軸方向とが実質的に一致することを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記仮想平面において前記長手軌道曲線のH軸方向のターン軌道幅が前記溝断面軌道曲線の全長(α)と一致し、
前記長手軌道曲線のV軸方向のターン軌道幅が前記螺旋軌道長さFv(ω)の全長(β)と一致することを特徴とする請求項1又は2に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、回転運動を直線運動に変換し、逆に直線運動を回転運動に変換するのに用いられる。ボールねじは、螺旋溝を有するねじ軸と、螺旋溝を有するナットと、ねじ軸の螺旋溝とナットの螺旋溝との間に配置される複数のボールと、を備える。ボールを循環させるために、ナットには、ナット螺旋溝の一端と他端に接続される戻し路が設けられる。
【0003】
戻し路には、リターンパイプ式やデフレクタ式等がある。デフレクタ式のボールねじでは、ナットには、デフレクタ(コマとも呼ばれる)が取り付けられ、戻し路としてデフレクタにボールを循環させる循環溝が形成される(特許文献1参照)。
【0004】
図14に示すように、従来のデフレクタ式のボールねじにおいては、循環溝を移動するボールの循環軌道36(
図14(c)参照)は、軸水平面軌道曲線31(
図14(a)参照)及び軸断面軌道曲線32(
図14(b)参照)に基づいて形成されていた。
図14(a)に示す軸水平面軌道曲線31は、軸水平面においてボールが循環する軌道を示す曲線であり、例えば略S字状である。
図14(b)に示す軸断面軌道曲線32は、ねじ軸30の軸直角断面においてボールが循環する軌道を示す曲線であり、例えば略逆U字状である。
【0005】
そして、
図14(c)に示すように、略S字状の軸水平面軌道曲線31を上下方向にスイープ(押し出す)して曲面34を形成し、略逆U字状の軸断面軌道曲線32を軸方向にスイープして曲面35を形成し、曲面34と曲面35が交差する線を循環溝の循環軌道36としていた。なお、
図14(a)(b)の一点鎖線は、螺旋軌道33(ねじ軸の螺旋溝とナットの螺旋溝と間を移動するボールの螺旋軌道)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、
図14(d)の拡大図に示すように、従来の循環溝の循環軌道36は、螺旋軌道33と接線方向が連続するように繋がらないという課題がある。たとえ、
図14(a)に示すように、軸水平面内で軸水平面軌道曲線31を螺旋軌道33と接線方向が連続するように繋げ、かつ
図14(b)に示すように、軸直角断面内で軸断面軌道曲線32を螺旋軌道33と接線方向が連続するように繋げたとしても、
図14(c)(d)に示すように三次元的に形成した循環軌道36は、螺旋軌道33に接線方向が連続するように繋がらない。このため、ボールが滑らかに動くような循環軌道になっていないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、三次元的に形成した循環溝の循環軌道を螺旋軌道に接線方向が実質的に連続するように繋げることができるボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、螺旋溝を有するねじ軸と、螺旋溝を有するナットと、前記ねじ軸の螺旋溝と前記ナットの螺旋溝との間に配置される複数のボールと、を備え、前記ナットには、前記ナットの前記螺旋溝の一端と他端に接続され、前記ボールを循環させる循環溝が設けられるボールねじにおいて、前記ねじ軸の溝断面において前記ボールを循環させる軌道を示す溝断面軌道曲線、及び前記溝断面軌道曲線の軌道長さωをH軸とし、螺旋軌道長さFv(ω)をV軸とした仮想平面において前記ボールを循環させる軌道を示す長手軌道曲線に基づいて、前記循環溝の循環軌道を形成し、前記長手軌道曲線のターン始点からの螺旋軌道長さFv(ω)を前記循環溝の循環軌道のターン始点からの螺旋軌道長さFv(ω)に設定し、前記溝断面軌道曲線の主法線方向座標Fn(ω)を前記循環溝の循環軌道の前記螺旋軌道長さFv(ω)に対する主法線方向座標Fn(ω)に設定し、前記溝断面軌道曲線の従法線方向座標Fb(ω)を前記循環溝の循環軌道の前記螺旋軌道長さFv(ω)に対する従法線方向座標Fb(ω)に設定するボールねじである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、循環溝の三次元的な循環軌道を螺旋軌道に接線方向が実質的に連続するように繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態のボールねじの斜視図である。
【
図6】螺旋軌道長さF
v(ω)を示す図(ねじ軸の軸直角断面図)である。
【
図7】仮想平面の概念図である(
図7(a)(b)はねじ軸の斜視図を示し、
図7(c)はねじ軸の平面図を示す)。
【
図8】本実施形態のボールねじのXYZ座標系を示す図である(
図8(a)はボールねじのXY平面を示し、
図8(b)はボールねじのXZ平面を示す)。
【
図10】本実施形態のボールねじの循環軌道を示す斜視図である。
【
図13】実施例の循環軌道を示す図である(
図13(a)はボールねじのXY平面を示し、
図13(b)はボールねじのYZ平面を示し、
図13(c)はボールねじのXYZ座標を示す)。
【
図14】従来のボールねじの循環軌道を説明する図である(
図14(a)は軸水平面を示し、
図14(b)は軸直角断面を示し、
図14(c)はねじ軸の斜視図を示し、
図14(d)は
図14(c)の一部の拡大図を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態のボールねじを詳細に説明する。ただし、本発明のボールねじは種々の形態で具体化することができ、明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(ボールねじ)
【0013】
図1は、本発明の一実施形態のボールねじ1の斜視図を示す。
図2は、ボールねじ1の正面図、
図3は、ボールねじ1の側面図を示す。
【0014】
図1に示すように、ボールねじ1は、螺旋溝2aを有するねじ軸2と、螺旋溝3a(
図2参照)を有するナット3と、ねじ軸2の螺旋溝2aとナット3の螺旋溝3aとの間に配置される複数のボール4と、を備える。ねじ軸2の螺旋溝2aは、ねじ軸2の外周面に形成される。ねじ軸2の螺旋溝2aは、ゴシックアーチ形状である。ナット3には、ねじ軸2が挿入される挿入穴が形成される。ナット3の螺旋溝3a(
図2参照)は、ナット3の内周面に形成される。ナット3の螺旋溝3a(
図2参照)は、ゴシックアーチ形状である。ナット3は、フランジ3cを有する。
【0015】
ボールねじ1は、例えば2つの循環路5を有する。各循環路5は、ねじ軸2の螺旋溝2aとナット3の螺旋溝3aとの間の負荷路Aと、負荷路Aの一端と他端に接続される戻し路Bとで構成される。ナット3の内周面には、戻し路Bとして、螺旋溝3aの一端と他端に接続される循環溝3b(
図2参照)が形成される。戻し路Bは、ナット3の循環溝3b(
図2参照)とねじ軸2の外周面の循環溝3bと対向する部分で構成される。
【0016】
ねじ軸2及びナット3の一方を他方に対して相対回転させると、ボール4が負荷路Aを転がり、ターン始点(1)(
図2参照)からナット3の循環溝3bに入る。循環溝3bでは、ボール4はねじ軸2のねじ山2b(
図3参照)を乗り越え、隣の螺旋溝2aに移動し、ターン終点(2)(
図2参照)から再び負荷路Aに入る。これに伴い、ねじ軸2及びナット3の他方が一方に対して軸方向に移動する。
【0017】
図1に示すように、負荷路Aを移動するボール4の中心の軌道は、螺旋軌道7である。循環溝3bを移動するボール4の中心の軌道は、循環軌道8である。
【0018】
なお、この実施形態のボールねじ1では、循環溝3bが螺旋溝3aに連続するようにナット3に直接的に形成されているが、循環溝3bはナット3に取り付けられたデフレクタ(コマとも呼ばれる)に形成されてもよい。また、ナット3の内径部に循環溝3bの加工工具用の逃げ3d(
図2参照)が形成されているが、循環溝3bが加工できれば、逃げ3dは形成しなくてもよい。
【0019】
循環溝3bの循環軌道8は、
図4に示す溝断面軌道曲線11と
図5に示す長手軌道曲線12に基づいて形成される。
(溝断面軌道曲線)
【0020】
図4に示すように、溝断面軌道曲線11は、ねじ軸2の溝断面においてボール4を循環させる軌道(実態軌道)を示す曲線である。具体的には、ボール4をねじ軸2のねじ山2bを乗り越えさせて隣接する螺旋溝2aに移動させる軌道を示す曲線である。(1)は溝断面軌道曲線11のターン始点であり、(2)は溝断面軌道曲線11のターン終点である。溝断面軌道曲線11は、略逆U字状である。
【0021】
溝断面軌道曲線11の座標は、軌道長さ(曲線長)ωを変数としたとき、(Fb(ω),Fn(ω))で表される。Fn(ω)は主法線方向(N軸方向)座標であり、Fb(ω)は従法線方向(B軸方向)座標である。溝断面軌道曲線11の全長(ターン始点(1)からターン終点(2)までの溝断面軌道曲線11の長さ)はαである。
【0022】
溝断面軌道曲線11が描かれるねじ軸2の溝断面(BN平面)は、ねじ軸2の螺旋溝2aに直角な断面(溝直角断面)であり、ねじ軸2の軸線に沿った断面(
図1のYZ平面)に対してリード角だけ傾く。ただし、溝断面(BN平面)におけるねじ軸2の螺旋溝2aの形状と
図1のYZ平面におけるねじ軸2の螺旋溝2aの形状の差は僅かなので、ねじ軸2の溝断面として
図1のYZ平面を使用してもよい。なお、
図1では、ボールねじ1の軸方向をY軸、高さ方向をZ軸、水平方向をX軸としている。
【0023】
溝断面軌道曲線11は、中央点(3)に関して対称である。溝断面軌道曲線11のターン始点(1)側を実線で示し、ターン終点(2)側を破線で示す。循環溝3bの循環軌道8(
図10参照)は、中央点(3)に関して対称であるので、ターン始点(1)側の溝断面軌道曲線11を描けば、循環溝3bの循環軌道8を形成することができる。溝断面軌道曲線11は、例えば単一の円弧、曲率が異なる複数の円弧、楕円、クロソイド曲線、スプライン曲線等、又はこれらと直線を接続した曲線であり、接線方向が連続する曲線である。
(長手軌道曲線)
【0024】
図5に示すように、長手軌道曲線12は、溝断面軌道曲線11の軌道長さωをH軸とし、螺旋軌道長さF
v(ω)をV軸とした仮想平面(VH平面)においてボール4を循環させる軌道を示す曲線である。具体的には、ターン始点(1)からターン終点(2)までボール4をねじ軸2の螺旋溝2aから隣接する螺旋溝2aまで移動させる軌道を示す曲線である。長手軌道曲線12は、略S字状である。
【0025】
仮想平面(VH平面)は、ボールねじ1の軸水平面に類似しているが、ボールねじ1の軸水平面とは異なる。仮想平面のH軸の変数ωは、ボールねじ1のY軸方向の長さではなく、溝断面軌道曲線11のターン始点(1)からの軌道長さωである。
【0026】
仮想平面のV軸のF
v(ω)は、ボールねじ1のX軸方向の長さではなく、
図6に示すように、ターン始点(1)からの螺旋軌道7の長さF
v(ω)である。
図6のねじ軸2の軸直角断面図において、螺旋軌道7は、BCD(Ball Center Diameter)上の円である。
図6のβは、螺旋軌道長さF
v(ω)の全長(ターン始点(1)からターン終点(2)までの螺旋軌道7の長さ(図中2点鎖線で示す))である。θは循環範囲、dはねじ軸2の軸径である。螺旋軌道長さF
v(ω)は、
図6に示すBCD上の円弧長さよりもリード角の分だけ長い。ただし、螺旋軌道長さF
v(ω)とBCD上の円弧長さの差は僅かなので、螺旋軌道長さF
v(ω)として
図6に示すBCD上の円弧の長さを使用してもよい。
【0027】
図5に示すように、長手軌道曲線12の座標は、ωの関数、すなわち(F
v(ω),ω)で表される。ωは断面軌道曲線の軌道長さであり、F
v(ω)は螺旋軌道長さである。長手軌道曲線12のH軸方向のターン軌道幅α(長手軌道曲線12のターン始点(1)からターン終点(2)までのH軸方向の長さ)は、溝断面軌道曲線11の全長α(
図4参照)と一致する。長手軌道曲線12のV軸方向のターン軌道幅β(長手軌道曲線12のターン始点(1)からターン終点(2)までのV軸方向の長さ)は、螺旋軌道長さF
v(ω)の全長β(
図6参照)と一致する。
【0028】
長手軌道曲線12は、中央点(3)に関して対称である。長手軌道曲線12のターン始点(1)側を実線で示し、ターン終点(2)側を破線で示す。循環溝3bの循環軌道8(
図10参照)は、中央点(3)に関して対称であるので、ターン始点(1)側の長手軌道曲線12を描けば、循環溝3bの循環軌道8を形成することができる。長手軌道曲線12は、例えば単一の円弧、曲率が異なる複数の円弧、楕円、クロソイド曲線、スプライン曲線等、又はこれらと直線を接続した曲線であり、接線方向が連続する曲線である。
【0029】
長手軌道曲線12は、ターン始点(1)において接線方向が仮想平面のV軸方向と実質的に一致する。また、長手軌道曲線12は、ターン終点(2)において接線方向が仮想平面のV軸方向に一致する。長手軌道曲線12のターン始点(1)とターン終点(2)の両方の接線方向が仮想平面のV軸方向と実質的に一致するのが望ましいが、どちらか一方のみが一致してもよい。
(仮想平面)
【0030】
以下に仮想平面の概念を説明する。
図7(a)はねじ軸2上に描かれた曲面21を模式的に示す。曲面21の短辺21aは断面軌道曲線11を表し、曲面21の長辺21bは螺旋軌道長さF
v(ω)を表す。曲面21の短辺21aの長さは断面軌道曲線11の全長αに一致し、曲面21の長辺21bの長さは螺旋軌道長さF
v(ω)の全長βに一致する。
図7(b)に示すように、仮想平面22は、曲面21を平面に展開したものである。仮想平面22の短辺22aの長さは、軸断面軌道曲線11の全長αに一致し、仮想平面22の長辺22bの長さは、螺旋軌道長さF
v(ω)の全長βに一致する。
図7(c)に示すように、ねじ軸2の平面視において、仮想平面はリード角だけ傾く。
【0031】
図7(c)に示す仮想平面22が
図5に示す仮想平面(VH平面)に相当する。
図7(c)の12が仮想平面22に描かれた長手軌道曲線である。上述のように、長手軌道曲線12のターン始点(1)の接線方向は、仮想平面22のV軸方向と実質的に一致する(
図7(c)の楕円で囲んだ部分参照)。
(ボールねじのXYZ座標への変換)
【0032】
螺旋軌道7に対する接線方向、主法線方向、従法線方向を指す3つの単位ベクトルの組T,N,Bからなるフレネ・セレフレームを用いて、溝断面軌道曲線11の主法線方向座標Fn(ω)、溝断面軌道曲線11の従法線方向座標Fb(ω)、長手軌道曲線12の螺旋軌道長さFv(ω)をボールねじ1のXYZ座標に変換する。
【0033】
まず、
図5に示す長手軌道曲線12の螺旋軌道長さF
v(ω)を、
図8(b)のボールねじ1のXZ平面に示すように、循環軌道8のターン始点(1)からの螺旋軌道長さF
v(ω)に設定し、ターン始点(1)からの螺旋軌道長さがF
v(ω)となる螺旋軌道7上の点P1を求める。ここでは、螺旋に沿ってターン始点(1)からの螺旋軌道長さがF
v(ω)となる点P1を求める。
【0034】
そして、
図4に示す溝断面軌道曲線11の主法線方向座標F
n(ω)を、
図8(b)のボールねじ1のXZ平面に示すように、循環軌道8の螺旋軌道長さF
v(ω)に対する主法線方向座標F
n(ω)に設定し、螺旋軌道7上の点P1から主法線方向(N方向)にF
n(ω)だけ移動した点P2を求める。
【0035】
そして、
図4に示す溝断面軌道曲線11の従法線方向座標F
b(ω)を、
図8(a)のボールねじ1のXY平面に示すように、螺旋軌道長さF
v(ω)に対する従法線方向座標F
b(ω)に設定し、螺旋軌道7上の点P1から従法線方向(B方向)にF
b(ω)だけ移動した点P3を求める。
【0036】
循環軌道8は、
図8(b)に示すボールねじ1のXZ平面において、点P2上に位置し、
図8(a)に示すボールねじ1のXY平面において、点P3上に位置するので、点P2,点P3から循環軌道8を求めることができる。
【0037】
溝断面軌道曲線11、長手軌道曲線12は点の集合体であるので、ωをω1、ω2、ω3…と変化させて、(F
v(ω1),F
n(ω1),F
b(ω1))、(F
v(ω2),F
n(ω2),F
b(ω2))、(F
v(ω3),F
n(ω3),F
b(ω3))…を求め、これらをボールねじ1のXYZ座標上に変換してそれぞれの点P1,点P2,点P3を求め、点P2を繋げ、点P3を繋げれば、
図10に示す三次元的な循環軌道8を形成することができる。
【0038】
上記のようにF
v(ω)、F
n(ω)、F
b(ω)をボールねじ1のXYZ座標に変換することは、
図9に示すように、仮想平面22を巻いて最初の曲面21に戻すことを意味する。仮想平面22を巻くことで、仮想平面22上に描かれた長手軌道曲線12(図中破線で示す)が立体的になり、三次元的な循環軌道8を形成することができる。
【0039】
図7(c)に示すように、仮想平面22において長手軌道曲線12のターン始点(1)の接線方向は、仮想平面22のV軸方向と実質的に一致する。このため、
図9に示すように、仮想平面22を巻いた曲面21においても、長手軌道曲線12のターン始点(1)の接線方向が曲面21のV軸方向と実質的に一致することを保証でき、
図10に示す三次元的な循環軌道8がターン始点(1)において螺旋軌道7と接線方向が実質的に連続することを保証できる。
【0040】
図10に示す循環軌道8を形成したならば、循環軌道8に沿ってボール4を配置し、循環軌道8に沿ってボール4が移動するように循環溝3bを形成すればよい。具体的には、循環溝3bの長さ方向の中間部(ねじ軸2のねじ山2b上)では、無負荷状態でボール4が移動し、ボール4の周囲には僅かな遊びが存在する。このため、循環溝3bの長さ方向の中間部では、ボール4の遊びの中心が循環軌道8になるように循環溝3bを形成すればよい。一方、循環溝3bの長さ方向の両端部の掬上げ部では、ボール4はナット3の循環溝3bとねじ軸2の螺旋溝2aとに挟み込まれて掬い上げられる。掬い上げ部では、ナット3の循環溝3bとねじ軸2の螺旋溝2aとに挟み込まれるボール4の軌道が循環軌道8になるように循環溝3bを形成すればよい。
【0041】
ただし、円滑にボール4を掬い上げるために循環軌道8を補正する場合もあるし、ナット3の循環溝3b、ねじ軸2の螺旋溝2aに加工誤差がある場合もある。循環軌道8と螺旋軌道7の接線方向が「実質的」に連続するとは、このような場合も含むことを意味する。また、仮想平面において長手軌道曲線12のターン始点及び/又はターン終点の接線方向と仮想平面のV軸方向とが「実質的」に一致するも、このような場合も含むことを意味する。
(効果)
【0042】
以上に本実施形態のボールねじ1の構成を説明した。本実施形態のボールねじによれば、以下の効果を奏する。
【0043】
溝断面軌道曲線11と長手軌道曲線12に基づいて、循環溝3bの循環軌道8を形成するので、循環溝3bの三次元的な循環軌道8を螺旋軌道7に接線方向が実質的に連続するように繋げることができる。
【0044】
仮想平面において長手軌道曲線12のターン始点及び/又はターン終点の接線方向と仮想平面のV軸方向とが実質的に一致するので、三次元的な循環軌道8のターン始点及び/又はターン終点において、循環軌道8と螺旋軌道7の接線方向が実質的に連続することを保証することができる。
【0045】
仮想平面において長手軌道曲線12のH軸方向のターン軌道幅が溝断面軌道曲線11の全長αと一致し、長手軌道曲線12のV軸方向のターン軌道幅が螺旋軌道長さFv(ω)の全長βと一致するので、循環溝3bの循環軌道8をその全長にわたって滑らかに形成することができる。
【実施例0046】
(溝断面軌道曲線)
図11に示すように、ねじ軸2の溝断面(BN平面)において、半径R1の単一の円弧と直線で溝断面軌道曲線11を描いた。(1)はターン始点、(3)は溝断面軌道曲線11が対称となる中間点、(5)は曲率変化点、αは溝断面軌道曲線11の全長(mm)、R1は溝断面軌道半径(mm)、θ1はターン開始角(rad)、ωは変数(0→α)である。
【0047】
溝断面軌道曲線11の座標(F
B(ω),F
N(ω))は、以下のように表される。
【0048】
(長手軌道曲線)
図12に示すように、仮想平面(VH平面)において、半径R3の単一の円弧と直線で長手軌道曲線12を描いた。ターン始点(1)において、長手軌道曲線12の接線方向とV軸方向が一致するようにした。(1)はターン始点、(2)はF
V(ω)の終了点、(3)は長手軌道が対称となる中間点、(6)は曲率変化点、βは螺旋軌道の長さの全長(mm)、R3は長手軌道半径(mm)、θ2は長手軌道円弧位置(rad)、θ3は長手軌道円弧範囲(rad)、θ4は長手軌道傾斜角(rad)、L1は長手軌道直線距離(mm)である。
【0049】
変数ωのときの長手軌道曲線12の螺旋軌道長さF
V(ω)は、以下のように表される。
【0050】
(循環溝の循環軌道)
F
V(ω)、F
N(ω)、F
B(ω)をボールねじ1のXYZ座標に変換した。すなわち、ωをω1、ω2、ω3…と変化させて、(F
V(ω1)、F
N(ω1)、F
B(ω3)、(F
V(ω2)、F
N(ω2)、F
B(ω2)、(F
V(ω3)、F
N(ω3)、F
B(ω3)…を求め、これらをボールねじ1のXYZ座標上に変換してそれぞれの点P1,点P2,点P3を求め、点P2を繋げ、点P3を繋げ、
図13(c)に示す三次元的な循環軌道8を形成した。
【0051】
図13(a)(b)(c)において、(1)はターン始点、(2)はF
V(ω)の終了点、(3)は循環軌道8が対称となる中間点、(4)はターン始点(1)を始点とし、長さF
V(ω)となる螺旋軌道7上の点である。R2は軸断面螺旋軌道半径(mm)である。TNBは、それぞれ点(4)を基準とした接線方向(T)、法線方向(N)、従法線方向(B)である。
【0052】
得られた循環軌道8はターン始点(1)において螺旋軌道7に接線方向が連続するように繋がったし、循環軌道8自体も滑らかであった。
1…ボールねじ、2…ねじ軸、2a…ねじ軸の螺旋溝、3…ナット、3a…ナットの螺旋溝、3b…循環溝、4…ボール、7…螺旋軌道、8…循環軌道、11…溝断面軌道曲線、12…長手軌道曲線、22…仮想平面、(1)…ターン始点、(2)ターン終点