(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044353
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】3次元造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/264 20170101AFI20240326BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20240326BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240326BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240326BHJP
B22F 12/44 20210101ALI20240326BHJP
【FI】
B29C64/264
B29C64/153
B33Y30/00
B22F10/28
B22F12/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149838
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】水野 博文
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 大輔
【テーマコード(参考)】
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL43
4F213WL76
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】回折型の光変調器を利用する3次元造形装置において、加工領域上での光強度の低下を抑制しつつ長いワーキングディスタンスを得る。
【解決手段】3次元造形装置1は、レーザ光源21と、複数の変調要素を有する回折型の光変調器23と、照明光学系22と、光変調器23の中間像を形成する第1投影光学系241と、中間像の投影像を加工領域である造形材料91の投影面95上に形成する第2投影光学系242と、層形成機構12とを備える。第2投影光学系242は、投影像を投影面95上にて走査する。層形成機構12は、投影像が走査された投影面95上に、新たな材料層92を形成することにより、新たな投影面95を形成する。第1投影光学系241の投影倍率は、第2投影光学系242の投影倍率よりも小さい。これにより、加工領域上での光強度の低下を抑制しつつ長いワーキングディスタンスを得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元造形装置であって、
光源と、
複数の変調要素を有する回折型の光変調器と、
前記光源からの光を前記光変調器に導く照明光学系と、
前記光変調器の中間像を所定の中間位置に形成する第1投影光学系と、
前記中間像の投影像を造形材料の投影面上に形成する第2投影光学系と、
前記造形材料の層を形成する層形成機構と、
を備え、
前記第2投影光学系が、前記投影像を前記投影面上にて走査する走査機構を含み、
前記層形成機構は、前記投影像が走査された前記投影面上に、前記造形材料の新たな層を形成することにより、新たな投影面を形成し、
前記第1投影光学系の投影倍率が、前記第2投影光学系の投影倍率よりも小さいことを特徴とする3次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記第1投影光学系の投影倍率が縮小倍率であり、
前記第2投影光学系の投影倍率が拡大倍率であることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記光変調器が、回折格子光バルブまたは平面光バルブであることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項4】
請求項1に記載の3次元造形装置であって、
前記第1投影光学系の投影倍率が、前記第1投影光学系および前記第2投影光学系による全体投影倍率の1/4以上1/2以下であることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の3次元造形装置であって、
前記光変調器が、回折格子光バルブまたは平面光バルブであり、
前記全体投影倍率が、1以上2以下であることを特徴とする3次元造形装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の3次元造形装置であって、
前記層形成機構が、前記第2投影光学系と前記投影像が走査された前記投影面との間を前記投影面に沿って移動する層形成部材を含むことを特徴とする3次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変調された光を用いて3次元の造形物を形成する3次元造形装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末や樹脂粉末等の造形材料の層に変調されたレーザ光を照射して造形材料を結合させ、層形成と造形材料の結合とを繰り返すことにより3次元造形を行うSLS(Selective Laser Sintering)式の3次元造形装置が使用されている。例えば、特許文献1には、回折格子光バルブ(Grating Light Valve)に平面ビームを照射し、ビームエキスパンダ、ガルバノスキャナ、Fθレンズを順に介して物体構築領域表面に変調された光を照射する3次元造形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、産業用の3次元造形装置では、生産性を向上するために、光の照射領域である加工領域の大型化が求められている。加工領域を大型化するには、加工領域に向けて光を出射するレンズと、加工領域との間の距離(いわゆる、ワーキングディスタンス)を長くする必要がある。長いワーキングディスタンスの確保は、光変調器から導かれるマルチスポットラインビームを走査させつつ拡大光学系に導く構成において、当該拡大光学系の後側焦点距離を長くすることにより容易に実現される。しかし、このような光学系では、加工領域上におけるマルチスポットラインビームの像が大きくなり、加工領域上で大きな光強度(いわゆる、フルエンス)を得ることが難しい。そのため、露光量の確保のために低速走査が必要となることで生産性が低下する虞がある。 また、加工領域上でのマルチスポットのサイズが大きいことで、造形物の形状精度が低下する虞がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、回折型の光変調器を利用する3次元造形装置において、加工領域上での光強度の低下を抑制しつつ長いワーキングディスタンスを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、3次元造形装置であって、光源と、複数の変調要素を有する回折型の光変調器と、前記光源からの光を前記光変調器に導く照明光学系と、前記光変調器の中間像を所定の中間位置に形成する第1投影光学系と、前記中間像の投影像を造形材料の投影面上に形成する第2投影光学系と、前記造形材料の層を形成する層形成機構とを備え、前記第2投影光学系が、前記投影像を前記投影面上にて走査する走査機構を含み、前記層形成機構は、前記投影像が走査された前記投影面上に、前記造形材料の新たな層を形成することにより、新たな投影面を形成し、前記第1投影光学系の投影倍率が、前記第2投影光学系の投影倍率よりも小さい。
【0007】
本発明の態様2は、態様1の3次元造形装置であって、前記第1投影光学系の投影倍率が縮小倍率であり、前記第2投影光学系の投影倍率が拡大倍率である。
【0008】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)の3次元造形装置であって、前記光変調器が、回折格子光バルブまたは平面光バルブである。
【0009】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つであってもよい。)の3次元造形装置であって、前記第1投影光学系の投影倍率が、前記第1投影光学系および前記第2投影光学系による全体投影倍率の1/4以上1/2以下である。
【0010】
本発明の態様5は、態様4の3次元造形装置であって、前記光変調器が、回折格子光バルブまたは平面光バルブであり、前記全体投影倍率が、1以上2以下である。
【0011】
本発明の態様6は、態様1ないし5のいずれか1つの3次元造形装置であって、前記層形成機構が、前記第2投影光学系と前記投影像が走査された前記投影面との間を前記投影面に沿って移動する層形成部材を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回折型の光変調器を利用する3次元造形装置において、加工領域上での光強度の低下を抑制しつつ長いワーキングディスタンスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図4】材料層の投影面にマルチスポットラインビームが照射される様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る3次元造形装置1の構成を示す図である。3次元造形装置1は、粉末状またはペースト状の造形材料に変調されたレーザ光を照射し、造形材料を焼結または溶融結合することにより3次元造形を行うSLS(Selective Laser Sintering)式の装置である。造形材料は、例えば、金属、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、合成樹脂等である。当該造形材料は、複数種類の材料を含んでいてもよい。
【0015】
3次元造形装置1は、光学ヘッド11と、層形成機構12とを備える。層形成機構12は、造形空間30に造形材料91の薄層である材料層92を形成する。
図1では、層形成機構12を縦断面にて示すが、断面を示す平行斜線を部分的に省略している。造形空間30には、複数の材料層92が積層するように順次形成される。光学ヘッド11は、材料層92の表面の加工領域上に変調された光を照射する。
【0016】
光学ヘッド11は、レーザ光源21と、照明光学系22と、光変調器23と、投影光学系24とを含む。
図1では光学ヘッド11の構造を簡略化して示しており、各構成要素の配置は実際の配置とは異なる。レーザ光源21は、光学ヘッド11の外部に設けられてもよく、この場合、レーザ光源21から出射される光は光学ヘッド11内に導かれる。投影光学系24は、第1投影光学系241と、第2投影光学系242とを含む。第2投影光学系242は、図示省略の1対のガルバノスキャナを有し、材料層92上における光の照射位置を水平なXおよびY方向に2次元に走査する。
【0017】
層形成機構12は、造形部31と、供給部32とを備える。造形部31は、第1シリンダ311と、第1ピストン312とを備える。第1シリンダ311は、上下方向に延びる筒状の部材である。第1シリンダ311の内部空間の平面視における形状は、例えば略矩形である。第1ピストン312は、第1シリンダ311の内部空間に収容される略平板状または略柱状の部材であり、平面視における形状は、第1シリンダ311の内部空間と略同じである。第1ピストン312は、第1シリンダ311の内部空間において、上下方向に移動可能である。造形部31では、第1シリンダ311の内側面と第1ピストン312の上面とにより囲まれる3次元空間が、3次元造形が行われる造形空間30である。
【0018】
供給部32は、第2シリンダ321と、第2ピストン322と、スキージである層形成部材323とを備える。第2シリンダ321は、上下方向に延びる筒状の部材であり、第1シリンダ311の側方に隣接して配置される。第2シリンダ321の内部空間の平面視における形状は、例えば略矩形である。第2ピストン322は、第2シリンダ321の内部空間に収容される略平板状または略柱状の部材であり、平面視における形状は、第2シリンダ321の内部空間と略同じである。第2ピストン322は、第2シリンダ321の内部空間において、上下方向に移動可能である。供給部32では、第2シリンダ321の内側面と第2ピストン322の上面とにより囲まれる3次元空間が、造形部31に供給される予定の造形材料91が貯溜される貯溜空間である。層形成部材323は、第2シリンダ321の上部開口を横断してX方向に延びる棒状(例えば、略円柱状)の部材である。層形成部材323は、第2シリンダ321の上端面に沿ってY方向に水平に移動可能である。
【0019】
供給部32では、第2ピストン322が所定距離だけ上昇し、第2シリンダ321内の造形材料91が上方へと持ち上げられる。このとき、事前に第1ピストン312により造形空間30内の造形材料91の表面が材料層92の1層分だけ下降している。層形成部材323が第2シリンダ321上から第1シリンダ311上へと移動することにより、第2シリンダ321の上端面よりも上側に突出する造形材料91が、造形部31の造形空間30内に供給される。造形空間30内に保持された造形材料91の上面は、所定の高さ(例えば、第1シリンダ311の上端面と同じ高さ)に位置する。これにより、造形空間30内に1つの材料層92が形成される。
【0020】
3次元造形装置1では、造形空間30内の造形材料91に対して、後述の光変調器23の中間像の投影像であるマルチスポットラインビーム8の走査が行われる。これにより、造形空間30内の造形材料91の表面、すなわち、最新の材料層92の表面である投影面95の所定の領域において造形材料が結合する。その結果、3次元造形物の1つの層に相当する部位が形成される。投影面95である加工領域上でのマルチスポットラインビーム8の走査が終了すると、第1ピストン312が材料層92の1層分の距離だけ下降する。その後、第2投影光学系242と投影面95との間を層形成部材323が投影面95に沿って移動することにより、供給部32から造形空間30への造形材料91の供給が行われ、マルチスポットラインビーム8が走査された投影面95上に新たな材料層92が形成される。すなわち、新たな投影面95が形成される。そして、次のマルチスポットラインビーム8の走査が行われる。3次元造形装置1では、造形空間30における材料層92の形成と、材料層92上におけるマルチスポットラインビーム8の走査とが繰り返されることにより、造形空間30内に3次元造形物93が形成される。
【0021】
3次元造形装置1では、作製される予定の3次元造形物の設計データ(例えば、CADデータ)等に基づいて、光学ヘッド11および層形成機構12が、図示省略の制御部により制御される。当該制御部は、例えば、プロセッサと、メモリと、入出力部と、バスとを備える通常のコンピュータである。なお、制御部の構成は様々に変更されてよい。
【0022】
次に、光学ヘッド11の詳細について説明する。レーザ光源21は、照明光学系22へとレーザ光81を出射する。レーザ光源21は、例えば、ファイバレーザ光源である。レーザ光81の波長は、例えば1.070μmである。なお、レーザ光源21の種類、および、レーザ光81の波長は、様々に変更されてよい。
【0023】
照明光学系22は、レーザ光81の光束断面を、一の方向(以下、「長軸方向」と呼ぶ。)に長い略矩形状の整形ビーム82に整形して光変調器23へと導く。換言すれば、整形ビーム82の断面形状は、長軸方向に長く、光軸および長軸方向に垂直な短軸方向に短い略矩形である。整形ビーム82の断面形状とは、光軸に対して垂直な面における整形ビーム82の形状である。長軸方向および短軸方向は、光軸の方向、すなわち、整形ビーム82の進行方向に垂直な方向である。以下の説明において、光束(変調されたものを含む。)を「光」または「ビーム」と表現するが、「光」または「ビーム」の「断面」とは、光軸に垂直な面における光束の断面を意味する。整形ビーム82の断面形状は、長軸方向に延びる直線状と捉えることもできる。整形ビーム82の光変調器23上における形状は、例えば、長軸方向の長さが約27mm、短軸方向の長さが約1mmの略矩形である。
【0024】
光変調器23は、照明光学系22からの整形ビーム82を1次元の空間変調された変調光83に変換する。光変調器23としては、例えば、高速に変調を行うことができ、kWクラスのレーザ光に耐えることができるPLV(Planar Light Valve)が用いられる。PLVは2次元の空間光変調器であるが、光学ヘッド11では、これを1次元の空間変調器として利用する。
【0025】
図2は、PLVである光変調器23の構造を簡素化して示す図である。光変調器23は、図示省略の基板上にマトリクス状に配置された(すなわち、2次元配列された)複数の略矩形状のピクセル231を備える。光変調器23では、当該複数のピクセル231の表面が変調面234となる。
図2に示す例では、図中の縦方向にM個かつ横方向にN個のピクセル231が配置される。
図2中の横方向は、整形ビーム82(
図1参照)の長軸方向に対応し、
図2中の縦方向は、整形ビーム82の短軸方向に対応する。
【0026】
各ピクセル231は、固定部材232と、可動部材233とを備えた変調機構である。固定部材232は、上記基板に固定された平面状の略矩形の部材であり、中央に略円形の開口が設けられる。可動部材233は、固定部材232の当該開口に設けられる略円形の部材である。固定部材232の上面(すなわち、
図2中の紙面に垂直な方向における手前側の面)には、固定反射面が設けられる。可動部材233の上面には、可動反射面が設けられる。可動部材233は、
図2中の紙面に垂直な方向に移動可能である。
【0027】
各ピクセル231では、
図2中の紙面に垂直な方向における固定部材232と可動部材233との相対位置が変更されることにより、ピクセル231からの反射光が、0次(回折)光(すなわち、正反射光)と非0次回折光との間で切り替えられる。換言すれば、ピクセル231では、可動部材233が固定部材232に対して相対移動することにより、回折格子を利用した光変調が行われる。光変調器23から出射された0次光は、投影光学系24(
図1参照)により造形空間30へと導かれる。また、光変調器23から出射された非0次回折光(主として、1次回折光)は、適宜遮光されて造形空間30には到達しない。
【0028】
光変調器23では、
図2中の縦方向に1列に並ぶM個のピクセル231(以下、「ピクセル列230」とも呼ぶ。)からの反射光の回折状態は同じである。すなわち、一のピクセル231からの反射光が0次光である場合、当該一のピクセル231が含まれるピクセル列230の他の全てのピクセル231(すなわち、M-1個のピクセル231)からの反射光も0次光である。また、一のピクセル231からの反射光が非0次回折光である場合、当該一のピクセル231が含まれるピクセル列230の他の全てのピクセル231からの反射光も非0次回折光である。すなわち、光変調器23では、整形ビーム82の短軸方向において変調は行わず、長軸方向において変調を行う。このように、光変調器23では、1つのピクセル列230のM個のピクセル231(すなわち、M個の変調機構)が、1つの単位空間に対応する1つの変調要素として機能する。光変調器23は、整形ビーム82の長軸方向に1列に並ぶN個の変調要素を備える1次元の空間光変調器として機能する。好ましい例では、Nは、1000以上である。
【0029】
次に、投影光学系24について説明する。既に説明したように、投影光学系24は、第1投影光学系241と第2投影光学系242とを含む。第1投影光学系241は光変調器23の中間像を所定の中間位置に形成する。第2投影光学系242はこの中間像を走査しつつ材料層92上、すなわち、投影面95上に投影する。
図3は投影光学系24を簡略化して示す図である。
図3において、縦方向が光変調器23の変調素子が並ぶ方向(以下、「長軸方向」ともいう。)に対応する。実際には、投影光学系24において光軸は折れ曲がるが、
図3では光軸が直線になるように展開して示している。
【0030】
第1投影光学系241は、光変調器23側から順に、第1レンズ群41と第2レンズ群42とを有する。第1レンズ群41は少なくとも1つのレンズである。第2レンズ群42も少なくとも1つのレンズである。第2投影光学系242は、第1投影光学系241側から順に、第3レンズ群43と、走査機構44と、第4レンズ群45とを有する。第3レンズ群43は少なくとも1つのレンズである。走査機構44は、本実施の形態では、変調光をX方向に走査するガルバノスキャナと、Y方向に走査するガルバノスキャナとを組み合わせたものである。
図3では、走査機構44を2つの長方形にて簡略化して示している。第4レンズ群45は少なくとも1つのレンズである。
【0031】
第1投影光学系241は縮小倍率である。すなわち、第1投影光学系241により、縮小された光変調器23の中間像84が形成される。第1レンズ群41および第2レンズ群42を球面レンズのみで構成して、中間像84は長軸方向および短軸方向に同じ倍率で縮小された像でもよい。しかし、1次元の変調光を生成する場合、長軸方向の変調が造形物の形状を決定するため、第1投影光学系241にシリンドリカルレンズ等を含めて中間像84を長軸方向よりも短軸方向に大きく縮小してもよい。1次元の変調光の場合、第1投影光学系241における倍率とは、光変調器23の変調要素が並ぶ方向に対応する方向における倍率を指すものとする。
【0032】
一方、第2投影光学系242は拡大倍率である。第3レンズ群43は、好ましくは1枚のレンズ、または、収差を抑制した貼り合わせレンズである。第4レンズ群45も、好ましくは1枚のレンズ、または、収差を抑制した貼り合わせレンズである。第2投影光学系242は、好ましくは球面レンズのみにより構成され、いわゆるfθレンズである。第2投影光学系242は、像側テレセントリックであっても像側非テレセントリックであってもよい。さらに、第2投影光学系242は非fθレンズであってもよい。第2投影光学系242により、中間像84の投影像85が材料層92の表面である投影面95(すなわち、粉末面)上に拡大されて形成される。第2投影光学系242により、中間像84がマルチスポットラインビーム(
図1の符号8参照)となって加工領域である投影面95上に照射される。また、走査機構44により、投影像85が投影面95上にて走査される。
図3では、マルチスポットラインビームが走査される様子を走査機構44から光路を分岐させることにより簡略化して示している。
【0033】
図4は、材料層92の投影面95においてマルチスポットラインビームが照射される様子を説明するための図である。
図4においてY方向が長軸方向に対応する。すなわち、マルチスポットラインビームのON(光照射)およびOFF(光非照射)のスポットがY方向に並ぶ。
図4中の符号950はマルチスポットラインビームのスポット列の長さを示し、走査機構44によりマルチスポットラインビームがX方向に移動することにより、1つの領域951に変調光による描画が行われる。以下、領域951を「スワス」と呼ぶ。
【0034】
1つのスワス951に対する描画が完了すると、走査機構44により、+Y方向に隣接するスワス951への描画が行われる。隣接するスワス951への描画が順次行われることにより、材料層92の投影面95への描画、すなわち、変調された光の照射による投影面95の露光が完了する。
【0035】
図5は、比較例に係る投影光学系724を示す図であり、
図3に対応する。投影光学系724の基本構造は
図3と同様であるが、第1投影光学系7241は等倍率(または拡大倍率)であり、第2投影光学系7242は等倍率(または縮小倍率)である。
図3において投影光学系24全体の倍率が等倍である場合、
図5の第4レンズ群745の焦点距離は
図3の第4レンズ群45の焦点距離よりも短くなる。その結果、第4レンズ群745から投影面95までの距離、すなわち、ワーキングディスタンスが短くなる。これにより、材料層92上にてマルチスポットラインビームを走査することができる範囲が狭くなり、作製可能な造形物を大型化することができない。
【0036】
例えば、光変調器23の変調エリアが、長軸方向に27mm、短軸方向に1mmであり、比較例の第2投影光学系7242および本実施の形態の第2投影光学系242の双方が、物像間距離が1000mmの両側テレセントリック光学系であるものとする。ここで、比較例の第1投影光学系7241の倍率が1.25、第2投影光学系7242の倍率が0.8であり、本実施の形態の第1投影光学系241の倍率が0.25、第2投影光学系242の倍率が4であり、比較例においても本実施の形態においても投影面95でのビームサイズが27mm×1mmであるものとすると、比較例の第4レンズ群745の焦点距離は222mmとなり、本実施の形態の第4レンズ群45の焦点距離は400mmとなる。第4レンズ群の焦点距離はワーキングディスタンスに近いため、本実施の形態では比較例と比べて十分に長いワーキングディスタンスが確保できる。
【0037】
図5の比較例において、第4レンズ群745の焦点距離を長くしてワーキングディスタンスを確保することも考えられるが、この場合、第2投影光学系7242の倍率が大きくなり、加工領域上での光の照射強度(いわゆる、フルエンス)が低下する。その結果、露光量の確保のため走査速度を低下させる必要が生じて生産性が低下することが考えられる。また、スポットサイズの増大により造形分解能が低下する等の問題が生じることも考えられる。第3レンズ群743および第4レンズ群745の双方の焦点距離を長くするという対策も考えられるが、この場合、第2投影光学系7242の光路長が長くなり、光学ヘッドの大型化につながるという問題が生じる。
【0038】
上記課題に対し、
図3の投影光学系24では、第1投影光学系241を縮小倍率とし、第2投影光学系242を拡大倍率とすることにより、上記の光の照射強度の低下、生産性の低下、造形分解能の低下、光学系の長大化等の問題を回避しつつ、長いワーキングディスタンスを容易に確保することができる。あるいは、第1投影光学系241を縮小倍率とすることで、長いワーキングディスタンスを確保するために第2投影光学系242が拡大倍率としつつ、投影光学系24の全体投影倍率が過度に大きくなることを避けることができる。
【0039】
上記説明では、投影光学系24の全体の投影倍率が1である場合を例として説明したが、もちろん、投影光学系24の投影倍率は1には限定されない。光変調器23の変調要素は微細であるため、好ましくは、投影光学系24の投影倍率は1以上に設計される。好ましくは、投影光学系24の投影倍率は2以下である。特に、光変調器23が、回折格子光バルブ(Grating Light Valve:GLV(登録商標))または平面光バルブ((Planar Light Valve:PLV)の場合、投影光学系24の全体投影倍率(すなわち、第1投影光学系241および第2投影光学系242による投影倍率)は、1未満にする必要はなく、2を超えると造形物の望ましい形状精度が得られないため、全体投影倍率は、1以上2以下であることが好ましい。また、造形材料91がナイロン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)の場合においても、全体投影倍率が1以上2以下であることが好ましい。
【0040】
そして、このような投影光学系24において、第1投影光学系241の投影倍率を第2投影光学系242の投影倍率よりも小さくすることにより、上記の通り、長いワーキングディスタンスを確保することが実現される。中間像84と第2投影光学系242との間の距離を大きくすることも不要となる。特に、第1投影光学系241の投影倍率を、第1投影光学系241および第2投影光学系242による全体投影倍率の1/2以下とすることにより、第1投影光学系241の投影倍率を等倍以上とする場合に比べて顕著に長いワーキングディスタンスを確保することができる。また、第1投影光学系241の投影倍率が全体投影倍率の1/2よりも大幅に小さいことは造形において影響は小さいが、集光された光が光学素子に与えるダメージを考慮すると、第1投影光学系241の投影倍率は全体投影倍率の1/4以上であることが好ましい。すなわち、第1投影光学系241の投影倍率は、好ましくは全体投影倍率の1/4以上1/2以下である。
【0041】
既述の通り、光変調器23が1次元の空間変調器の場合、投影倍率は、変調要素が並ぶ長軸方向における投影倍率を指す。上記説明では、第1投影光学系241は、光変調器23の中間像84を所定の中間位置に形成するが、光変調器23が1次元の空間変調器の場合、「中間像」とは長軸方向における像を意味する。すなわち、第1投影光学系241において長軸方向に関して光変調器23と中間像84とは共役な位置関係である。もちろん、第1投影光学系241が長軸方向および短軸方向に同じの投影倍率を有する場合、第1投影光学系241の投影倍率はこれらの投影倍率である。なお、第1投影光学系241は1つのレンズのみとすることも可能である。第1投影光学系241は、1つのレンズ群でもよく、3以上のレンズ群でもよい。
【0042】
第2投影光学系242は、中間像84の投影像85を造形材料91の投影面95上に形成する。また、第2投影光学系242は、走査機構44により、投影像85を投影面95上にて走査する。第2投影光学系242は、投影像85の走査のために設けられることから、好ましくは、長軸方向および短軸方向において投影倍率は同じである。もちろん、第2投影光学系242の投影倍率は、長軸方向における投影倍率を指すものとして定められてもよい。走査機構44では、ガルバノスキャナに代えて、ポリゴンレーザスキャナ等の他の構造を有する走査機構が設けられてもよい。走査機構44による走査は、長軸方向に対して交差する方向に行われるであれば、必ずしも2次元的に走査される必要はない。すなわち、1つの材料層92に対するマルチスポットラインビームの走査は、1方向に1回のみでもよい。第2投影光学系242により、中間像84の投影像85が投影面95上に形成されるが、厳密な意味で中間像84が形成される中間位置と投影面95とは光学的に共役である必要はない。3次元造形が可能な範囲内で、投影面95は中間位置と共役な位置から僅かにずれてもよい。
【0043】
複数の変調要素を有する回折型の光変調器23としては、耐パワー性能が高いPLVが好ましい。光変調器23としては、1次元の空間変調器には限定されない。2次元の空間光変調器、例えば、DMD(Digital Micromirror Device)であってもよい。光変調器23としては、投影像中の複数の位置における光の照射および非照射を制御することができるのであれば様々な原理に基づく変調器が採用可能である。
【0044】
光学ヘッド11の光源は、レーザ光源21には限定されない。他の公知の様々な光源が採用されてよい。照明光学系22も光変調器23の複数の変調要素の領域に光を収束させて導くことができるのであれば様々な光学系が採用されてよい。
【0045】
層形成機構12の層形成部材323は、スキージには限定されない。ローラや造形材料91を散布する部材が層形成部材として採用されてもよい。層形成部材323が第2投影光学系242と投影像85が走査された投影面95との間を当該投影面95に沿って移動する場合、長いワーキングディスタンスを得ることができる上記構造の光学ヘッド11の採用が特に好ましい。層形成機構12は、層形成部材323を有しない機構であってもよい。投影像85が走査された投影面95上に、造形材料91の新たな材料層92を形成することにより、新たな投影面95を形成することができるのであれば、層形成機構12として様々な他の機構が採用されてよい。
【0046】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0047】
1 3次元造形装置
12 層形成機構
21 光源
22 照明光学系
23 光変調器
44 走査機構
84 中間像
85 投影像
91 造形材料
92 材料層
95 投影面
230 ピクセル列(変調要素)
241 第1投影光学系
242 第2投影光学系
323 層形成部材