(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000444
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル粉体の製造方法及びポリフェニレンエーテル粉体
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20231225BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20231225BHJP
B01J 2/04 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CEZ
B01J2/00 B
B01J2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099214
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 繁
【テーマコード(参考)】
4F070
4G004
【Fターム(参考)】
4F070AA52
4F070AB09
4F070AB22
4F070AB23
4F070AB24
4F070AC32
4F070AE28
4F070DA27
4F070DC02
4F070DC07
4F070DC09
4G004BA00
4G004EA06
4G004EA08
(57)【要約】
【課題】貧溶媒を用いた析出方法を用いることなく、簡便に溶媒回収が可能なPPE粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第一溶液を乾燥することにより、ポリフェニレンエーテル第一粉体を得る、第一工程と、前記第一工程で得られた前記ポリフェニレンエーテル第一粉体、及び、ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第二溶液を、撹拌混合型乾燥機に供給し、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体の表面上に付着した前記ポリフェニレンエーテル第二溶液から溶媒を乾燥除去することにより、ポリフェニレンエーテル第二粉体を得る、第二工程と、を具えることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第一溶液を乾燥することにより、ポリフェニレンエーテル第一粉体を得る、第一工程と、
前記第一工程で得られた前記ポリフェニレンエーテル第一粉体、及び、ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第二溶液を、撹拌混合型乾燥機に供給し、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体の表面上に付着した前記ポリフェニレンエーテル第二溶液から溶媒を乾燥除去することにより、ポリフェニレンエーテル第二粉体を得る、第二工程と、
を具えることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程において、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体の粒子同士が凝集造粒することを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程において、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体を得るための乾燥方法がスプレードライヤーによる噴霧乾燥であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項4】
前記スプレードライヤーのスプレーノズルが、1流体式ノズル、2流体式ノズル及びディスクノズルから選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項3に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテル第一溶液の液粘性が、0.30~3000cpであることを特徴とする、請求項3に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項6】
前記スプレードライヤーの乾燥温度が、30~199℃であることを特徴とする、請求項3に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項7】
前記第二工程において、前記ポリフェニレンエーテル第二溶液を、スプレー状に供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリフェニレンエーテル第二溶液の液粘性が、0.30~3000cpであることを特徴とする、請求項7に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項9】
前記第二工程において、前記攪拌混合型乾燥機内の圧力を、減圧又は真空にすることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項10】
前記撹拌混合型乾燥機の乾燥温度が、30~199℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項11】
前記ポリフェニレンエーテル第二粉体を乾燥させる、第三工程をさらに具えることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項12】
前記第三工程における乾燥温度が、100~199℃であることを特徴とする、請求項11に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
【請求項13】
質量基準のメジアン径が1000~8000μmであり、
20μm未満の粒子含有率が10質量%以下であり、
長径をDL、短径をDSとしたときの、DL/DSで表される粒子真球度が1.0~1.5である粒子を、80質量%以上含み、
質量基準の積算篩下10%の粒径(D10)と質量基準の積算篩下60%の粒径(D60)との比(D60/D10)で表される、粒径の均一度が1.0~8.0であることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル粉体の製造方法、および、ポリフェニレンエーテル粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル(以下、単にPPEという場合がある)は、優れた高周波特性、難燃性、耐熱性を有するため、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野で材料として幅広く用いられている。それらの特性を活かしつつ、さらに低分子量化して汎用溶剤等への溶解性を高めたPPEについて、電子材料用途や、他樹脂との組み合わせで優れた特性を得るための複合材料や添加剤としての用途等が検討されている。
【0003】
PPEの工業的生産での重合工程は、沈殿析出重合と溶液重合がある。重合工程終了時、沈殿析出重合ではスラリー液であり、溶液重合では溶液である。溶液重合の場合は、後工程でPPEの貧溶媒等と混合し、スラリー液とする方法を採ることが多い。
また、PPEは末端封鎖や変性等(本発明では、PPEの末端封鎖も含めて、PPEの変性とする)を行うこともあり、このような工程ではPPEが溶剤に溶解した、溶液状態で変性剤等と混合し、必要に応じて更に変性触媒成分を混合し、反応を行うことが効率的である。得られたPPE溶液は、溶液重合同様にPPEの貧溶媒等と混合し、スラリー液とする方法を採ることが多い。
PPEスラリー液は、洗浄等の後処理後に固液分離を行い、湿潤PPEを得る。湿潤PPEはPPEの良溶媒と貧溶媒を含有する。湿潤PPEは乾燥工程で湿潤成分を除去するが、良溶媒の含有率が高い状態での乾燥ではPPEの付着性が高く、乾燥装置へのスケーリング等の問題が発生することがあった。さらに、乾燥効率を上げるため乾燥温度を高温に上げていくと、乾燥装置内で融着現象が発生し、強固なスケーリングやスケーリング物脱離による融着物の製品混入等のトラブルの原因となる。
【0004】
また、固液分離時に分離された濾液などは、PPEの良溶媒/貧溶媒に加え、貧溶媒で析出できなかった低分子量PPEオリゴマー成分、重合等の残留触媒成分や末端処理剤を含有する。工業的には溶媒成分をリサイクル使用することにより生産コストを低減するが、複雑な回収工程が必要になる。回収工程では、吸収、濃縮、蒸留、膜分離などの工程を組合せて、良溶媒と貧溶媒を分離回収するが、良溶媒/貧溶媒共に蒸留が必須であるため、多大なエネルギーが必要であり、回収コスト削減への要望が高い。
そのため、PPEの製造において、PPE溶液から貧溶媒の使用なしで、PPEを固形分として単離する方法について様々な検討がなされてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリフェニレンエーテルを圧縮工程後に粉砕し、145メッシュ(目開き105μm)の篩を通過する割合がその全体量の20重量%以下、10メッシュ(目開き1680μm)の篩を通過しない割合がその全体量の10重量%以下であるポリフェニレンエーテルの製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、真球度(DL/DS)が1.0~1.2であり、平均粒径が1~100μmであるポリフェニレンエーテル粉体が開示されている。
さらに、特許文献3には、ポリフェニレンエーテルの良溶媒5.0質量%以上230質量%以下と、水0.5重量%以上100質量%以下を含む原料を加熱して造粒する方法が開示されている。
また、特許文献4では、脱揮押出機により重合で得られたポリフェニレンエーテルの溶液を直接乾燥する方法が提案されている。
さらに、特許文献5では、特許文献5で押出機から排出されたポリフェニレンエーテル溶融体をコンベア上で空冷することにより、安定排出させる方法が開示されている。
さらにまた、特許文献6では、スプレードライヤー内で容積メジアン径が100~250μmの均一な液滴とし、これを乾燥することにより、均一な球形粒子を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-72763号公報
【特許文献2】特開2010-47662号公報
【特許文献3】特許第5371269号公報
【特許文献4】特許第4350904号公報
【特許文献5】特許第5331098号公報
【特許文献6】特開平5-57102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、PPE製造工程において、PPE溶液からPPE固体を単離する手法は種々検討されてきたが、PPE溶液から貧溶媒を使用することなく、簡便に、品質の高いPPEを固形分として単離できる方法として十分なものは未だなく、さらなる改善が望まれている。
特許文献1に記載された方法では、真球度や粒径均一度を調整する方法の記載はなく、圧縮工程後に粉砕していることから、粒子は顆粒状となるため、真球状粒子に比べて粉体供給設備での流動性が劣るものであった。
また、特許文献2に開示されたPPE粉体は、平均粒径が1~100μmと比較的小さく、微粉による取扱性不良を生じる可能性があった。
さらに、特許文献3に開示された方法によっても、粒子径を所望のサイズに制御するには不十分であった。
また、特許文献4に開示された方法においても、脱揮押出機を使用すると排出時には溶融状態のポリフェニレンエーテルで排出することになるため、ポリフェニレンエーテルに過剰な熱履歴が加わることとなり、物性の低下が懸念されることに加え、溶融樹脂をストランド状に引き取りカットする際に切粉と呼ばれる微粉が混在してしまうという問題があった。特に重量平均分子量が10000以下の低分子量のポリフェニレンエーテルでは、ストランドが脆く安定してカットできないばかりでなく、カッターによるストランドの粉砕により、より微粉化する傾向にある。
さらに、特許文献5に開示された方法によっても、微粉化を防止することは困難であった。
さらにまた、特許文献6に開示された方法においても、溶剤を含んだ状態で100~250μmの粒子であることから、乾燥後は溶剤揮発分の粒径微小化が発生する可能性があり、平均粒子径を大きくすることも困難であった。すなわち、従来の方法では、真球度や粒径均一性を保ちながら、平均粒径を1000μm以上にすることは困難であった。
【0008】
そのため、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、貧溶媒を用いた析出方法を用いず、簡便に溶媒回収が可能なPPE粉体の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、平均粒子径が大きく、粒子形状、粒子径が均一で粉体としての取扱性に優れ、後処理に適した粒子径のPPE粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく検討を行った結果、粒PPE溶液の一部を先に乾燥し、残りのPPE溶液と撹拌混合しながらさらに乾燥することにより、PPEの貧溶媒を使用することなく、PPE粉体を製造でき、得られたPPE粉体は、粒径が均一で、且つ、粒子形状が真球状であり、粉体取扱性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第一溶液を乾燥することにより、ポリフェニレンエーテル第一粉体を得る、第一工程と、
前記第一工程で得られた前記ポリフェニレンエーテル第一粉体、及び、ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第二溶液を、撹拌混合型乾燥機に供給し、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体の表面上に付着した前記ポリフェニレンエーテル第二溶液から溶媒を乾燥除去することにより、ポリフェニレンエーテル第二粉体を得る、第二工程と、
を具えることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
2.前記第二工程において、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体の粒子同士が凝集造粒することを特徴とする、前記1に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
3.前記第一工程において、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体を得るための乾燥方法がスプレードライヤーによる噴霧乾燥であることを特徴とする、前記1又は2に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
4.前記スプレードライヤーのスプレーノズルが、1流体式ノズル、2流体式ノズル及びディスクノズルから選択される少なくとも一種であることを特徴とする、前記3に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
5.前記ポリフェニレンエーテル第一溶液の液粘性が、0.30~3000cpであることを特徴とする、前記3又は4に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
6. 前記スプレードライヤーの乾燥温度が、30~199℃であることを特徴とする、前記3~5のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
7. 前記第二工程において、前記ポリフェニレンエーテル第二溶液を、スプレー状に供給することを特徴とする、前記1~6のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
8. 前記ポリフェニレンエーテル第二溶液の液粘性が、0.30~3000cpであることを特徴とする、前記7に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
9. 前記第二工程において、前記攪拌混合型乾燥機内の圧力を、減圧又は真空にすることを特徴とする、前記1~8のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
10.前記撹拌混合型乾燥機の乾燥温度が、30~199℃であることを特徴とする、前記1~9のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
11.前記ポリフェニレンエーテル第二粉体を乾燥させる、第三工程をさらに具えることを特徴とする、前記1~10のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
12. 前記第三工程における乾燥温度が、100~199℃であることを特徴とする、前記11に記載のポリフェニレンエーテル粉体の製造方法。
13. 質量基準のメジアン径が1000~8000μmであり、
20μm未満の粒子含有率が10質量%以下であり、
長径をDL、短径をDSとしたときの、DL/DSで表される粒子真球度が1.0~1.5である粒子を、80質量%以上含み、
質量基準の積算篩下10%の粒径(D10)と質量基準の積算篩下60%の粒径(D60)との比(D60/D10)で表される、粒径の均一度が1.0~8.0であることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル粉体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、貧溶媒を用いた析出方法を用いることなく、簡便に溶媒回収が可能なPPE粉体の製造方法を提供することが可能となる。
また、本発明によれば、平均粒子径が大きく、粒子形状、粒子径が均一で粉体としての取扱性に優れ、後処理に適した粒子径のPPE粉体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
〔使用するPPE〕
まず、本実施形態の製造方法で用いられるポリフェニレンエーテル(PPE)について、以下に説明する。
前記PPEは、下記化学式(1)で表される構造からなるホモ重合体及び/若しくは共重合体、又は、その変性物である。
【化1】
【0014】
上記化学式(1)中、aは1~6の整数であり、nは1以上の整数である。
上記化学式(1)中、R
11、R
12、R
13、R
14は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、又は、炭素数6~12のアリール基である。ここで、炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基、炭素数6~12のアリール基は、何れも置換基を有していてもよい。
R
11、R
12として、好ましくは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~20の飽和若しくは不飽和炭化水素基である。
R
13、R
14として、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、ビニル基、アリール基、エチニル基、プロパルギル基、下記化学式(2)で表される部分構造である。但し、R
13とR
14は、両方が同時に水素原子及び下記化学式(2)で表される部分構造ではない。
【化2】
化学式(2)中、R
21は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8の直鎖アルキル基、又は2つのR
21が結合した炭素数1~8の環状アルキル構造であり、R
22は各々独立に、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキレン基であり、bは各々独立に0又は1の整数であり、R
23は、水素原子、置換されていてもよい炭素数1~8のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基のいずれかである。
R
13とR
14として、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、t-ブチル基であり、更に好ましくは水素原子、メチル基、t-ブチル基である。
【0015】
なお、上記化学式(1)で表されるPPEは、n個の繰り返し単位が同一の構造であるホモ重合体であってもよいし、n個の繰り返し単位が異なる構造の組み合わせであるヘテロ重合体であってもよい。
【0016】
上記化学式(1)中、Aは、水素原子又は任意の置換基である。置換基としては、各々独立に、炭素-炭素二重結合及び/又はエポキシ結合を含むことが好ましい。炭素-炭素二重結合を含む置換基としてはメタクリル基、ビニルベンジル基がより好ましい。
上記化学式(1)中、Zは、aが1の場合は、水素原子又は任意の炭化水素基である。また、Zは、aが2~6の場合は、a価の任意の連結基であり、2価以上の連結基として好ましくは下記化学式(3)で表されるフェノール由来構造が挙げられる。
上述した中でも、A及びZが水素原子である単鎖ホモポリマーが、一般的なPPEである。
【0017】
【化3】
上記化学式(3)中、aは、化学式(1)と同様の整数が挙げられ、化学式(1)と同じ整数であることが好ましい。
kは1~4の整数である。
Xは、a価の任意の連結基であり、特に制限はされないが、例えば、鎖式炭化水素基、環式炭化水素基等の炭化水素基;窒素、リン、ケイ素、及び酸素から選ばれる1つ又は複数の原子を含有する炭化水素基;窒素、リン、ケイ素、酸素等の原子;又はこれらを組合せた基等が挙げられる。Xとして、好ましくは炭化水素基、酸素原子、アルキルアミノ基、カルボニル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基、又はこれらを組合せた基が挙げられる。
R
31は、各々独立した任意の置換基であり、例えば、水素原子、ハロゲン、炭素数1~12の飽和又は不飽和の炭化水素基等である。ここで、炭素数1~12の飽和又は不飽和炭化水素は、置換基を有していてもよい。好ましい炭化水素基としては、アルキル基、アルキルチオ基、アルキルオキシ基から選択される1種又は複数の組み合わせである。更に好ましい炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等の炭素数1~8のアルキル基である。
【0018】
また、本実施形態のPPEの重量平均分子量Mwは、高周波特性、難燃性、耐熱性と溶剤への溶解性の観点から、500~300000であり、好ましくは1000~250000であり、より好ましくは1500~200000である。PPEの重量平均分子量Mwが500以上であると、PPE本来の特性である高周波特性、難燃性、及び耐熱性を十分に確保することができる。また、300000以下であると、本実施形態の手法で使用可能な溶液に調整することができる。
【0019】
本実施形態のPPEの数平均分子量Mnは、特に限定はないが、電子材料等で使用するため、汎用溶剤(例えば、トルエン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン等)に溶解可能であり、他樹脂との混合性を阻害しない範囲であることが好ましい。そのため、PPEの数平均分子量Mnは、200~200000であることが好ましく、より好ましくは500~150000であり、更に好ましくは700~100000である。
【0020】
また、本実施形態のPPEの分子量分布(Mw/Mn)は、1.1~5であることが好ましく、より好ましくは1.3~4.5であり、更に好ましくは1.5~4である。
【0021】
なお、前記PPEの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び分子量分布Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができ、具体的には、後述の実施例における測定方法により測定した値とする。
【0022】
本実施形態のPPEのガラス転移温度(Tg)は、80℃~300℃であり、好ましくは90℃~250℃であり、より好ましくは100℃~220℃である。
なお、PPEのガラス転移温度は、示差熱走査熱量分析計を用いて測定することができ、具体的には、後述の実施例における測定方法により測定した値とする。
【0023】
〔PPEの製造方法〕
そして、本実施形態による製造方法は、
ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第一溶液を乾燥することにより、ポリフェニレンエーテル第一粉体を得る、第一工程と、
前記第一工程で得られた前記ポリフェニレンエーテル第一粉体、及び、ポリフェニレンエーテルが少なくとも一種の溶媒に溶解したポリフェニレンエーテル第二溶液を、撹拌混合型乾燥機に供給し、前記ポリフェニレンエーテル第一粉体の表面上に付着した前記ポリフェニレンエーテル第二溶液から溶媒を乾燥除去することにより、ポリフェニレンエーテル第二粉体を得る、第二工程と、
を具える。
前記第一工程及び前記第二工程のいずれにおいても、貧溶媒を用いておらず、また、溶液を供給し、乾燥させるだけの工程であるため、比較的簡便に溶媒回収でき、PPE粉体を製造することができる。
【0024】
ここで、前記PPEを得る方法としては、沈殿析出重合法と溶液重合法が挙げられる。
両法共に、PPEの良溶媒中、又はPPEの良溶媒と貧溶媒の混合溶媒中で、銅化合物及びアミン類の存在下、化学式(3)で示す化合物及び/又はフェノール類を酸化重合する。フェノール類としては、重合後に化学式(1)中の繰返し単位を構成するフェノール類であれば特に限定されず、重合後に化学式(3)の構造を構成するフェノール類を含んでいてもよい。
沈殿析出重合法では、酸化重合中にPPEが析出してスラリー状態になる。
一方、溶液重合法では、酸化重合中にPPEは析出しない。一般的なPPEの溶液重合法でも重合後のPPE溶液に、必要であれば濃縮等の後処理を行った後、PPEの貧溶媒と混合しPPEを析出させてスラリー状態にする。
また、前記沈殿析出重合法、前記溶液重合法のいずれの方法であっても、得られたスラリー液を貧溶媒等で洗浄し、固液分離し、必要に応じPPEの貧溶媒等で更に洗浄と固液分離とを繰返し(固液分離工程)、湿潤PPEを得る。その後、得られた湿潤PPEを乾燥することにより(乾燥工程)、PPE製品パウダーを得る。
【0025】
また、前記PPE製品パウダーを、PPEの良溶媒に溶解し、上記化学式(1)のA単位構造を含む変性剤と必要に応じて変性触媒成分を混合し、変性PPEを合成する。
PPEを溶液重合で合成する場合は、溶液重合後のPPE溶液に、上記化学式(1)のA単位構造を含む変性剤と必要に応じて変性触媒成分を混合し、変性PPEを合成することもできる。
【0026】
なお、本実施形態で、乾燥原料として使用できるPPE溶液は、以下の通りである。
1)溶液重合で合成したPPE溶液またはその希釈又は濃縮溶液
2)沈殿析出重合及び/又は溶液重合で合成したPPEを原料とした変性PPE溶液
3)沈殿析出重合及び/又は溶液重合で合成したPPEを、少なくとも一種のPPE良溶媒を含む溶媒に溶解したPPE溶液またはその希釈又は濃縮溶液
【0027】
(第一工程)
本実施形態では、PPEが少なくとも一種の溶媒に溶解したPPE第一溶液を乾燥することにより、PPE第一粉体を得る第一工程を具える。
前記PPE第一粉体は、後述する第二工程にて供給される原料となる。すなわち、PPE第一粉体は、第二工程における種粒子となる。
なお、前記PPE第一溶液は、乾燥原料のPPE溶液の一部とすることができる。
【0028】
前記第一工程において、乾燥に用いられる装置(第一乾燥装置)は液体を乾燥可能な装置であれば特に限定されないが、ディスクドライヤー、ドラムドライヤー、薄膜蒸留装置、スプレードライヤー、SCプロセッサー、KRCニーダー、脱揮押出機、クロスフィンチューブヒーターなどが例示される。これらの乾燥機をバッチ式、連続式何れの方式でも使用することができる。
乾燥して得られたPPEが、塊状、フレーク状、フィルム状、ペレット状である場合は、粉砕機を用いて粉砕しPPE第一粉体とすることもできる。
前記第一乾燥装置は、排出されるPPEの形状や粉砕性より、ディスクドライヤー、ドラムドライヤー、スプレードライヤー、SCプロセッサーであることが好ましく、より好ましくはスプレードライヤーである。
【0029】
(第二工程)
本実施形態では、前記第一工程で得られたPPE第一粉体、及び、PPEが少なくとも一種の溶媒に溶解したPPE第二溶液を、撹拌混合型乾燥機に供給し、前記PPE第一粉体の表面上に付着した前記PPE第二溶液から溶媒を乾燥除去することにより、PPE第二粉体を得る、第二工程をさらに具える。前記PPE第一粉体の表面上に付着した前記PPE第二溶液から溶媒を乾燥除去する過程で、前記PPE第一粉体同士が凝集し、球状に成長することもある。
前記PPE第二溶液は、乾燥原料のPPE溶液のうち、前記PPE第一溶液に用いた残りの乾燥原料であることができる。また、前記PPE第一溶液と異なるPPE溶液であることもできる。
【0030】
前記第二工程においては、PPE第一粉体及びPPE第二溶液の供給方法について、特に限定はない。例えば、前記撹拌混合型乾燥機への供給前に、前記PPE第一粉体と前記PPE第二溶液を混合し混合物を乾燥することも可能であり、前記撹拌混合型乾燥機内で前記PPE第一粉体を加熱し、前記PPE第二溶液を混合しながら乾燥することが可能であり、前記PPE第一粉体と前記PPE第二溶液の混合物に前記PPE第二溶液をさらに混合しながら乾燥することもできる。
【0031】
前記撹拌混合型乾燥機は、第二工程の乾燥工程が可能なものであれば特に限定されないが、液体添加ノズルが設置可能であることが好ましい。
具体的には、パドルドライヤー、スチームチューブドライヤー、CDドライヤー、ソリッドエアー、インクラインンドディスクドライヤー、流動層乾燥機、リボコーン、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、脱揮押出機などが例示される。これらの乾燥機をバッチ式、連続式何れの方式でも使用することができる。
前記撹拌混合型乾燥機は、減圧または真空乾燥が可能な装置が乾燥効率アップの観点で好ましい。また、PPE第二溶液を添加する添加ノズルはスプレーノズルであることが好ましい。
なお、撹拌混合型乾燥機で乾燥処理後に乾燥不充分や粒子強度不足の場合は、3台目の乾燥装置を設置して、さらに乾燥することも可能である。
【0032】
前記第一乾燥装置がスプレードライヤーの場合や、前記攪拌混合型乾燥機におけるPPE第二溶液を添加する添加ノズルがスプレーノズルである場合には、前記PPE第一溶液及び/又は前記PPE第二溶液を添加するスプレーノズルを、1流体式ノズル、2流体式及びディスクノズルのうちのいずれかを用いることが好ましく、1流体式ノズル及び2流体式ノズルのうちのいずれかを用いることがより好ましく、2流体式ノズルを用いることがさらに好ましい。前記PPE第一溶液及び/又は前記PPE第二溶液を、スプレーノズルより連続供給する際は、ディスクノズル<1流体ノズル<2流体ノズルの順に液滴として分散させる機能が向上する。
【0033】
また、前記スプレードライヤーに供給するPPE第一溶液及びPPE第二溶液の液粘性は、0.30~3000cpであることが好ましく、0.50~2000cpであることがより好ましく、0.75~1000cpであることがさらに好ましい。
前記液粘性が0.30cp以上であることで、スプレーノズル噴出時に過剰に細かく分散されて固化せず、撹拌混合型乾燥機に至るまでの粉体取扱性や撹拌混合型乾燥機内での混合性がより良好となる傾向にある。液粘性が3000cp以下であることで、スプレーノズルへの供給が容易となり、液滴状に分散させやすくなる傾向にある。
なお、前記PPE第一溶液及び前記PPE第二溶液の液粘性は、京都電子工業製EMS-1000S型液粘度計によって測定することができる。より詳細には、実施例に記載の方法で測定することができる。
また、前記PPEの分子量に応じて、PPE溶液濃度/温度を適切に設定することにより、液粘性を上記範囲に調整することができる。
【0034】
前記第一乾燥装置や、前記撹拌混合型乾燥機の乾燥温度は、30~199℃にすることが好ましい。
前記第一乾燥装置として、スプレードライヤー、ホッパードライヤー等の熱風型乾燥機を使用する場合は、熱風温度を30~199℃とすることが好ましく、より好ましくは50~190℃、さらに好ましくは70~185℃とする。前記第一乾燥装置として間接加熱型乾燥機を使用する場合には、熱媒温度を30~199℃とすることが好ましく、より好ましくは50~190℃、さらに好ましくは70~185であり、特に好ましくは75~178℃とする。
前記第一乾燥装置では、乾燥温度が30℃以上であることで、乾燥速度を早くすることができ、乾燥処理量に対し設備を適切なサイズとすることができるので、効率的に乾燥が可能となる傾向にある。乾燥温度が199℃以下であることで、PPEの変質を防止でき、得られるPPE粉体の品質が良好となる傾向にある。
また、前記撹拌混合型乾燥機では、乾燥温度が30℃以上であることで、乾燥速度を早くすることができ、乾燥処理量に対し設備を適切なサイズとすることができるので、効率的に乾燥が可能となる傾向にある。乾燥温度が199℃以下であることで、PPEの変質防止に加え、PPEが撹拌混合型乾燥機の壁面に付着しスケールとなり、脱離したスケールが製品に異物として混入することを防止できる傾向にある。
【0035】
前記第一乾燥装置による乾燥は、常圧でも乾燥可能であるが、乾燥温度が含有溶剤の沸点を超える場合は、その温度での溶媒の蒸気圧程度に加圧して使用することができる。前記第一乾燥装置内の圧力を溶媒の蒸気圧程度に加圧しておくと、PPE第一溶液が突沸して、固形化する際に破裂や微小化することを抑止できる。
また、前記撹拌混合型乾燥機による乾燥も、常圧でも乾燥可能であるが、装置内を減圧~真空にすることにより乾燥速度を上げることができ、乾燥装置のサイズを小型化することが可能となる。
【0036】
(第三工程)
本実施形態において、第二工程で得られたPPE第二粉体を更に乾燥する第三工程を含むこともできる。第三工程を含むことで、溶媒含有量の少ないPPE粉体を効率的に得られる傾向にある。
第三工程における乾燥温度は、100~199℃とすることが好ましく、より好ましくは105~190℃、更に好ましくは110~185℃とする。乾燥温度が100℃以上であることで、乾燥速度を早くすることができ、乾燥処理量に対し設備を適切なサイズとすることができるので、効率的に乾燥が可能となる傾向にある。乾燥温度が199℃以下であることで、PPEの変質防止に加え、PPEが撹拌混合型乾燥機の壁面に付着しスケールとなり、脱離したスケールが製品に異物として混入することを防止できる傾向にある。
【0037】
本実施形態の製造方法は、重合後又は末端変性/封鎖後のPPE溶液を貧溶媒で析出することなく、直接乾燥することにより、溶媒回収時に良溶媒と貧溶媒を分離する必要がなく、簡便な溶媒回収が可能となる結果、コストを低減することができる。
加えて、本実施形態の製造方法によれば、真球状で、粒径が均一な粒子が得られ、更に所望の粒子径に制御することができる。
【0038】
〔PPE粉体〕
本実施形態の製造方法を用いることで、例えば、質量基準のメジアン径が1000~8000μmであり、20μm未満の粒子含有率が10質量%以下であり、長径をDL、短径をDSとして、DL/DSで表される粒子真球度が1.0~1.5である粒子を80質量%以上含み、D60/D10で表される粒径の均一度が1.0~8.0である、ポリフェニレンエーテル粉体が得られる。
得られたPPE粉体は、粉体としての取扱性に優れ、粉塵爆発の危険性が少なく、後処理に適している点で好ましい。
PPE粉体の平均粒子径等の粒子特性は、筒井理化学器械株式会社製ミクロ電磁振動ふるい器 M-100型によって測定することができる。より詳細には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【実施例0039】
以下、具体的な実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<乾燥装置、攪拌混合型乾燥機>
後述する製造例、実施例で用いた乾燥装置及び攪拌混合型乾燥機は、以下のとおりである。
・乾燥装置
内径120mmΦ、長さ1000mmのガラス管を、上端にセパラブルカバーを取り付け可能に、下端は円錐状密閉構造の容器状に加工した。また、ガラス管下方側面に供給したガスを排出できる30mmΦのガラスノズルを取り付けた。ガラス管を垂直に立てて固定し、上部に以下のセパラブルカバーを取り付けた。
なお、上部セパラブルカバーは、中央と側面にノズルを設置した。中央ノズルには、2流体式スプレーノズルを取付けた。スプレーノズルとしては、スプレーイングシステムジャパン(株)製SU1Aを用いた。2流体に、窒素とPPE第一溶液供給配管を接続し、
側面ノズルにはガスデストリビュータを取付けた。さらに、加熱窒素配管を接続した。
【0041】
・撹拌混合型乾燥機
撹拌混合型乾燥機として、(株)アーステクニカ製 「ハイスピードミキサー 形式FS25型(全容積25L)」を用いた。ジャケットは、スチームで加熱できる構造とし、蓋に2流体スプレーノズルがあり、蓋ノズルには減圧ラインを接続した。スプレーの散布範囲が壁面他の装置内部に接液しない構造になっている。
また、2流体式ノズルには、窒素とPPE溶液を供給する配管を接続した。
【0042】
(製造例1)
反応器底部に酸素含有ガス導入のためのスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた40リットルのジャケット付き反応器に、6.7gの塩化第二銅2水和物、24.5gの35%塩酸、255.83gのN,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、1.89kgのn-ブタノール及び17.01kgのメタノール、4.8kgの2,6-ジメチルフェノールを入れた。使用した溶剤の組成重量比はn-ブタノール:メタノール=10:90であった。次いで激しく攪拌しながら反応器へ4.8L/分の速度で酸素をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は45℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。
酸素を導入し始めてから120分後、酸素含有ガスの通気をやめ、この重合混合物に34.7gのエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を溶かした50%水溶液を添加し、次いで43.2gのハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のPPEが白色となるまで、45℃で1時間反応させた。反応終了後、濾過して、メタノール洗浄液(b)と、洗浄されるPPE(a)との質量比(b)/(a)が4となる量の洗浄液(b)で3回洗浄し、タナベウィルテック株式会社製バスケットセントルにて固液を遠心分離し、湿潤PPEを得た。濾液が完全に出てこなくなるまで遠心分離を継続した。得られた湿潤PPEを真空乾燥し、乾燥PPE(PPE1とする)を得た。
PPE1の還元粘度ηsp/cは0.080、Mwは2897、Mw/Mnは1.9、ガラス転移温度Tgは149℃であった。
【0043】
その後、製造例1で得たPPE1について、旭化成プラスチックシンガポール製「S201A」を用いて、
PPE第一溶液として、トルエン14KgにPPE1:6Kgを溶解した。
また、PPE第二溶液として、トルエン18KgにS201A:2Kgを溶解した。
【0044】
(製造例2)
第一乾燥装置上部セパラブルカバーのガスノズルより140℃に加熱した窒素:500L/minを供給した。続いてスプレーノズルより窒素:11.5L/min供給後、PPE第一溶液:8.0g/minで供給した。なお、スプレーノズルに供給した窒素とPPE第一溶液は特に温度調整はしておらず、共に30℃であった。供給したPPE第一溶液の液粘性は、1.45cpであった。11時間連続して運転したところ約1.1Kg(約3.1L)のPPE粒子1を得た。
平均粒子径は25μmであった。
【0045】
(製造例3)
スプレーノズルにPPE第二溶液を供給したこと以外は製造例2と同様に製造し、PPE粒子2を得た。
PPE第二溶液は特に温度調整しておらず、30℃で供給し、液粘性は0.272cpであった。平均粒子径は26μmであった。
【0046】
その後、製造例2又は3で得られたPPEを用いて、以下の実施例及び比較例を実施した。
【0047】
[実施例1]
第二乾燥装置に、300gのPPE粒子1を仕込み、第二乾燥装置内に窒素を微流量で供給し、気相部を窒素置換した。ジャケット温度を105℃に設定し、アジテータを320rpm、チョッパーを2000rpmにて5分間撹拌した。第二乾燥装置内圧が-60KPaになるまで減圧し、スプレーノズルよりPPE第一溶液を10g/min、窒素を11.3L/minで供給した。PPE第一溶液は特に温度調整しておらず、30℃で供給し、液粘性は1.45cpであった。5分間継続後、PPE第一溶液の供給を停止し、第二乾燥装置を開放して得られたPPE粒子1-1は、造粒されており、平均粒子径を測定したところ102μmであった。得られたPPE粒子1-1の各測定値を表3に示す。
【0048】
[実施例2]
第二乾燥装置に実施例1で得られたPPE粒子1-1を300g仕込み、10分間継続したこと以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPE粒子1-2は造粒されており、平均粒子径を測定したところ497μmであった。得られたPPE粒子1-2の各測定値を表3に示す。
【0049】
[実施例3]
第二乾燥装置に実施例2で得られたPPE粒子1-2を300g仕込み、12分間継続したこと以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPE粒子1-3は造粒されており、平均粒子径を測定したところ1012μmであった。得られたPPE粒子1-3の各測定値を表3に示す。
【0050】
[実施例4]
第二乾燥装置に実施例3で得られたPPE粒子1-3を300g仕込み、22分間継続したこと以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPE粒子1-4は造粒されており、平均粒子径を測定したところ2009μmであった。得られたPPE粒子1-4の各測定値を表3に示す。
【0051】
[実施例5]
第二乾燥装置に実施例4で得られたPPE粒子1-4を300g仕込み、20分間継続したこと以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPE粒子1-5は造粒されており、平均粒子径を測定したところ2988μmであった。得られたPPE粒子1-5の各測定値を表3に示す。
【0052】
[実施例6]
第二乾燥装置に製造例3で得られたPPE粒子2を300g仕込み、スプレーノズルにPPE第二溶液を供給し、12分間継続したこと以外は実施例1と同様に実施した。PPE第二溶液は特に温度調整しておらず、30℃で供給し、液粘性は0.272cpであった。得られたPPE粒子2-1は造粒されており、平均粒子径を測定したところ105μmであった。得られたPPE粒子2-1の各測定値を表3に示す。
【0053】
[実施例7]
第二乾燥装置に実施例6で得られたPPE粒子2-1を300g仕込み、30分間継続したこと以外は実施例6と同様に実施した。得られたPPE粒子2-2は造粒されており、平均粒子径を測定したところ505μmであった。得られたPPE粒子2-2の各測定値を表3に示す。
【0054】
[実施例8]
第二乾燥装置に実施例7で得られたPPE粒子2-2を300g仕込み、35分間継続したこと以外は実施例6と同様に実施した。得られたPPE粒子2-3は造粒されており、平均粒子径を測定したところ1050μmであった。得られたPPE粒子2-3の各測定値を表3に示す。
【0055】
[実施例9]
第二乾燥装置に実施例8で得られたPPE粒子2-3を300g仕込み、65分間継続したこと以外は実施例6と同様に実施した。得られたPPE粒子2-4は造粒されており、平均粒子径を測定したところ1992μmであった。得られたPPE粒子2-4の各測定値を表3に示す。
【0056】
[実施例10]
第二乾燥装置に実施例9で得られたPPE粒子2-4を300g仕込み、60分間継続したこと以外は実施例6と同様に実施した。得られたPPE粒子2-5は造粒されており、平均粒子径を測定したところ2963μmであった。得られたPPE粒子2-5の各測定値を表3に示す。
【0057】
[比較例1]
PPE第二溶液10Kgを加熱しながら、トルエン:7.0Kgを揮発除去し、PPE濃度が33wt%程度に濃縮されたPPE第三溶液:3.0Kgを作成した。
容量が3Lで、温水ジャケット付き析出槽に、パドル型撹拌翼を取り付けた。析出槽側面には、無撹拌状態で1.5L以上の液体を仕込むとオーバーフローする排出ノズルを設置した。また、析出槽蓋部にPPE溶液供給ライン、メタノール供給ライン、窒素供給ライン、ベントガス排出ラインを接続した。次に析出槽内にトルエン0.75L、メタノール0.75Lを仕込み、微流量の窒素を供給しながら気相部を窒素置換した。温水ジャケットには55℃の温水を通水した。パドル翼を撹拌数600rpmで回転させたところ、過剰分である0.25L程度の析出槽内液がオーバーフローノズルより排出され、析出槽内の液温は50℃で安定した。
撹拌を継続しながら、PPE第三溶液:430g/min、メタノール:210g/minを同時に析出槽に供給開始した。2分間程度で槽内の固形分濃度が安定したが、粒子径が安定するまで更に4分間継続後、オーバーフローして排出されたスラリー液:800gをサンプリングした。スラリー液をガラスフィルターで濾過したところ、湿潤PPE:337g、濾液:463gに固液分離した。湿潤PPE:337gをメタノール:500gでリスラリーして濾過する操作を2回繰返すことにより洗浄した。140℃に設定した真空乾燥機にて、湿潤PPEを真空下、3時間乾燥した。得られたPPE粒子3は、見た目にも微粒子と2000μm程度の大粒子が混在していた。平均粒子径を測定したところ、155μmであった。その他の測定値も含め、表1に示す。
なお、濾液は初回の濾過で463g、洗浄2回でそれぞれ483gと479gが発生した。工業的生産を想定すると、3種濾液の混合液をトルエンとメタノールに分離して、再利用することが必須である。トルエンとメタノールは共沸混合物であり、分離には多大なコストが必要になる。
【0058】
[比較例2]
特許第4350909号公報に記載された実施例と同様の方法にて、PPE第一溶液を以下の通り処理した。
PPE第一溶液を約40barの圧力で240℃以上の温度に予熱し、フラッシュ容器中で低圧にフラッシュして約65%のPPE固形分1を得た。バックフィード能力を備え、低揮発分含量とするための脱揮用ベントポートが複数ある同方向回転式二軸押出機を用い、以下の押出条件にて、PPE固形分1を供給し、最終生成物を得る。
【表1】
押出機より排出されたPPE樹脂は、特許第4350909号公報に倣い、以下条件に設定した水中ペレタイザで処理を試みた。
【表2】
温水を使用したが、排出PPEは脆く、ペレット状にはならず、顆粒状の欠片が得られた。更にカッティング時に多量の切粉が発生し、製品顆粒に混入するのみではなく、カッター刃他に静電気付着し、掻き集めてサンプルを確保した。
顆粒状欠片を8メッシュ(目開き2380μm)で篩分けると、微粉状の切粉が総重量の11.1質量%含まれていた。篩上に残った顆粒状欠片の平均粒子径は2654μmであり、尖った割れ面を持つ、流動性が低い粒子であった。得られたPPE粒子の各測定値を表3に示す。
【0059】
[比較例3]
特許第3369181号公報の実施例1と同様の方法にてPPE第一溶液を以下のように処理した。
PPE第一溶液は、前記特許の実施例1に合わせるため、PPE濃度が10質量%になるようトルエンを追加して希釈し、PPE第三溶液とした。このPPE第三溶液を25℃で超音波式微粒化装置(US1、7/0.017、16.60型 Lechler社)中で噴霧した。乾燥室として、直径20cm及び長さ2mの乾燥塔を使用した。乾燥用ガスとして使用した窒素は、塔の頭頂部で205℃の温度を有していた。塔の出口で温度が150℃になるように調整し、乾燥用ガスの処理量は20Kg/hであり、かつPPE第三溶液の処理量は300g/hであった。得られたPPE粒子は細かく、平均粒子径を測定したところ、22μmであった。得られたPPE粒子の各測定値を表3に示す。
【0060】
各実施例及び各比較例において得られたPPE粒子について、以下の物性を測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
測定装置として、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーSystem21を用い、標準ポリスチレンとエチルベンゼンにより検量線を作成し、この検量線を利用して、得られたPPEの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)の測定を行った。
標準ポリスチレンとしては、分子量が、3650000、2170000、1090000、681000、204000、52000、30200、13800、3360、1300、550のものを用いた。
カラムは、昭和電工(株)製K-805Lを2本直列につないだものを使用した。溶剤は、クロロホルムを使用し、溶剤の流量は1.0mL/分、カラムの温度は40℃として測定した。測定用試料としては、PPEの1g/Lクロロホルム溶液を作製して用いた。検出部のUVの波長は、標準ポリスチレンの場合は254nm、PPEの場合は283nmとした。
【0061】
(2)ガラス転移温度の測定
PPEのガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC Perkin-Elmer社製 Pyris-1)を用いて測定した。窒素雰囲気中、毎分40℃の昇温速度で室温から280℃まで加熱後、50℃まで毎分40℃で降温し、その後、毎分40℃の昇温速度でガラス転移温度(℃)を測定した。
【0062】
(3)粒子径の測定
得られたポリフェニレンエーテル粒子を、下記に示す試験用篩と篩振動機を使用して、乾式で篩い分けを行い、各分取部の質量を測定した。測定した各分取部の質量から、質量基準の粒径分布の累積曲線を作成した。
試験用篩:金属製網篩、直径75mm×深さ20mmの丸型枠
使用した試験用篩のメッシュ数:2、2.5、3、3.5、4、5、6、8、12、20、30、40、60、100、300、635
篩振動機:筒井理化学器械株式会社製ミクロ電磁振動ふるい器 M-100型
振動数:6000回/分
振動時間:10分
作成した質量基準の粒径分布の累積曲線から、中央累積値にあたる粒子の径(メジアン径)を平均粒径とした。
該質量基準の粒径分布の累積曲線より、積算篩下10%の粒径(D10)と積算篩下60%の粒径(D60)とを求め、粒径の均一度=D60/D10として計算した。
また、635メッシュ篩下粒子の含有率を20μm未満粒子の含有率とした。
【0063】
(4)粒子真球度が1.0~1.5である粒子の含有量の測定
PPE粉体粒子をオリンパス製光学顕微鏡にて観察した画像写真を、ニレコ社製画像解析装置に取り込み、粒子の長径(DL)と短径(DS)を測定した。真球度=DL/DSとした。
任意に選定した100個の粒子中、真球度が1.0~1.5である粒子の個数の割合を計算し、含有率とした。
【0064】
(5)液粘性の測定
スプレーノズルに供給するPPE第一溶液及びPPE第二溶液の液粘性は、京都電子工業製EMS-1000S型液粘度計によって測定した。液粘性に応じて球状プローブのサイズ(2.0mmまたは4.7mm)を選定し、サンプル容器に球状プローブを入れた後、PPE第一溶液又はPPE第二溶液を仕込んだ。なお、球状プローブサイズ:2.0mmは液粘性0.1~390000cp、4.7mmは液粘性10~1600000cpの測定が可能であるが、液粘性が10cp未満の場合は球状プローブとサンプル容器間の摩擦抵抗が少ない2mm球状プローブを選択し、10cp以上の場合は4.7mm球状プローブを選択した。PPE第一溶液又はPPE第二溶液が室温で固体の場合は、細かく粉砕し固体状態で仕込み、測定時に昇温して液体化することで測定した。スプレーノズル供給時の温度に設定し、回転速度を1000rpm以下に設定し、球状プローブを回転させて、温度や回転数が安定後に測定を行った。
【0065】
【0066】
表1の結果から、各実施例によって得られたPPE粒子は、粒径が均一で、且つ、粒子形状が真球状であり、液粘性及びガラス移転温度についても良好なものであることがわかる。