IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

<>
  • 特開-勾配光干渉顕微鏡 図1
  • 特開-勾配光干渉顕微鏡 図2
  • 特開-勾配光干渉顕微鏡 図3
  • 特開-勾配光干渉顕微鏡 図4
  • 特開-勾配光干渉顕微鏡 図5
  • 特開-勾配光干渉顕微鏡 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044416
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】勾配光干渉顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20240326BHJP
   G02B 21/18 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149919
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】仁坂 健一
(72)【発明者】
【氏名】大西 葵
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AA03
2H052AA04
2H052AC05
2H052AC10
2H052AC31
2H052AD34
2H052AF14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】勾配光干渉顕微法において、撮像時間を短縮する技術を提供する。
【解決手段】この勾配光干渉顕微鏡1は、光源20からサンプル配置位置40へ光を入射させる入射経路30と、サンプル配置位置40から出射される透過光または反射光を撮像素子60へ入射させる出射経路50とを含む。入射経路30は順に、入射光を直交する第1偏光波および第2偏光波に分離する第1偏光複像プリズム32と、コンデンサレンズ33とを有する。出射経路50は順に、対物レンズ51と、第2偏光複像プリズム52と、第2偏光複像プリズム52からの出射された合成光を複数経路に分岐する分岐機構56と、複数の分岐光のそれぞれの第2偏光波に互いに異なる位相遅延を生じさせる位相遅延機構58と、偏光板72とを有する。光波を分岐させ、それぞれに位相遅延を行うことで、複数の位相遅延量について同時に撮像することができ、撮像時間を短縮できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光波を用いて位相イメージングを行う勾配光干渉顕微鏡であって、
光源からサンプル配置位置へ光を入射させる入射経路と、
前記サンプル配置位置から出射される透過光または反射光を撮像素子へ入射させる出射経路と、
を含み、
前記入射経路は、順に、
入射光を直交する第1偏光波および第2偏光波に分離する第1偏光複像プリズムと、
前記第1偏光複像プリズムと前記サンプル配置位置との間に配置されるコンデンサレンズと、
を有し、
前記出射経路は、順に、
前記サンプル配置位置から出射される前記透過光また前記反射光が入射される対物レンズと、
前記第1偏光波および前記第2偏光波を合成する第2偏光複像プリズムと、
前記第2偏光複像プリズムからの出射された合成光を、3経路以上の複数経路に分岐する分岐機構と、
複数の分岐光のそれぞれの前記第2偏光波に、互いに異なる位相遅延を生じさせる位相遅延機構と、
複数の分岐光のそれぞれの前記第1偏光波および前記第2偏光波の偏光方向を揃える偏光板と、
を有する、勾配光干渉顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の勾配光干渉顕微鏡であって、
前記分岐機構は回折格子である、勾配光干渉顕微鏡。
【請求項3】
請求項2に記載の勾配光干渉顕微鏡であって、
前記分岐機構は位相格子である、勾配光干渉顕微鏡。
【請求項4】
請求項3に記載の勾配光干渉顕微鏡であって、
前記位相格子は、前記撮像素子の撮像面において2次元的に2行2列にフーリエスペクトル分布が現れるように設けられる、勾配光干渉顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の勾配光干渉顕微鏡であって、
前記位相遅延機構は、2次元的に2行2列に配置された4つの波長板であり、
4つの前記波長板は、位相遅延量が互いに異なる、勾配光干渉顕微鏡。
【請求項6】
請求項1に記載の勾配光干渉顕微鏡であって、
前記位相遅延機構は、前記分岐光のそれぞれに対応する複数の波長板である、勾配光干渉顕微鏡。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の勾配光干渉顕微鏡であって、
前記分岐機構は、前記合成光を4経路以上に分岐し、
前記位相遅延機構は、4つの分岐光のそれぞれの前記第2偏光波に、0、π/2、π、3π/2の位相遅延を生じさせる、勾配光干渉顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勾配光干渉顕微法に基づいて定量位相イメージングを行うための撮像装置および撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞などの無色透明な物体をイメージングする技術として、従来、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡が開発され、使用されている。これらの顕微鏡で得られる位相分布は定性的な位相分布であり、細胞に関する定量的な情報は得られない。
【0003】
例えば、微分干渉顕微鏡では、サンプルを照射する光を、ウォラストンプリズムやノマルスキプリズム等の微分干渉プリズムによって、偏光方向の直交するP偏光とS偏光とに分離するとともに、P偏光とS偏光との照射位置をずらす。このP偏光とS偏光とのずれ量をシア量と称する。そして、各偏光波のサンプルからの透過光または反射光を再度プリズムによって合波させ、干渉させる。このときの干渉強度は、シア量に対する位相差によて変化する。これにより、無色透明な細胞や凹凸のある物体について、形状の変化量(微分)を可視化することができる。しかしながら、この方法では、形状や位相の変化量を可視化できるものの、定量的な情報を取得できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nguyen, T.H., Kandel, M.E., Rubessa, M. et al. Gradient light interference microscopy for 3D imaging ofunlabeled specimens. Nat Commun 8, 210 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、計測対象の位相情報を定量的に取得する定量位相イメージングを行うために、微分干渉顕微鏡に液晶変調素子を追加することにより定量位相を取得する、GLIM(Gradient Light Interference Microscopy)と呼ばれる勾配光干渉顕微法が提案されている。勾配光干渉顕微法については、例えば、非特許文献1に記載されている。
【0006】
非特許文献1に記載の勾配光干渉顕微法では、液晶変調素子を用いて、P偏光とS偏光との一方に4通りの異なる位相遅延量を付加し、それぞれの合波における干渉強度分布から、偏光間の位相差を取得している。そして、偏光間の位相差をシア量で除算することによって、局所的な位相微分を算出する。位相の微分値が画像の各位置において算出されるため、これを積分することによって、計測対象の位相分布を取得することができる。
【0007】
ただし、非特許文献1に記載の勾配光干渉顕微法では、4通りの位相遅延量について撮像を行うためには、4回撮像を行わなければならない。すなわち、従来の微分干渉顕微鏡に比べて、撮像時間が4倍となるため、動的なサンプルへの適用が制限される。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、勾配光干渉顕微法において、撮像時間を短縮する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、偏光波を用いて位相イメージングを行う勾配光干渉顕微鏡であって、光源からサンプル配置位置へ光を入射させる入射経路と、前記サンプル配置位置から出射される透過光または反射光を撮像素子へ入射させる出射経路と、を含み、前記入射経路は、順に、入射光を直交する第1偏光波および第2偏光波に分離する第1偏光複像プリズムと、前記第1偏光複像プリズムと前記サンプル配置位置との間に配置されるコンデンサレンズと、を有し、前記出射経路は、順に、前記サンプル配置位置から出射される前記透過光また前記反射光が入射される対物レンズと、前記第1偏光波および前記第2偏光波を合成する第2偏光複像プリズムと、前記第2偏光複像プリズムからの出射された合成光を、3経路以上の複数経路に分岐する分岐機構と、複数の分岐光のそれぞれの前記第2偏光波に、互いに異なる位相遅延を生じさせる位相遅延機構と、複数の分岐光のそれぞれの前記第1偏光波および前記第2偏光波の偏光方向を揃える偏光板と、を有する。
【0010】
本願の第2発明は、第1発明の勾配光干渉顕微鏡であって、前記分岐機構は回折格子である。
【0011】
本願の第3発明は、第2発明の勾配光干渉顕微鏡であって、前記分岐機構は位相格子である。
【0012】
本願の第4発明は、第3発明の勾配光干渉顕微鏡であって、前記位相格子は、前記撮像素子の撮像面において2次元的に2行2列にフーリエスペクトル分布が現れるように設けられる。
【0013】
本願の第5発明は、第4発明の勾配光干渉顕微鏡であって、前記位相遅延機構は、2次元的に2行2列に配置された4つの波長板であり、4つの前記波長板は、位相遅延量が互いに異なる。
【0014】
本願の第6発明は、第1発明ないし第5発明のいずれか一発明の勾配光干渉顕微鏡であって、前記位相遅延機構は、前記分岐光のそれぞれに対応する複数の波長板である。
【0015】
本願の第7発明は、第1発明ないし第6発明のいずれか一発明の勾配光干渉顕微鏡であって、前記分岐機構は、前記合成光を4経路以上に分岐し、前記位相遅延機構は、4つの分岐光のそれぞれの前記第2偏光波に、0、π/2、π、3π/2の位相遅延を生じさせる。
【発明の効果】
【0016】
本願の第1発明から第7発明によれば、勾配光干渉顕微法において、分離した第1偏光波と第2偏光波とを分岐させ、それぞれに位相遅延を行うことで、複数の位相遅延量について同時に撮像することができる。したがって、従来時間のかかっていた勾配光干渉顕微法において、撮像時間を短縮することができる。
【0017】
特に、本願の第2発明および第3発明によれば、装置を大型化することなく、光波を複数に分岐することができる。
【0018】
特に、本願の第5発明または第6発明によれば、装置を大型化すること無く、複数の分岐光のそれぞれについて、2つの偏向波の一方のみに所定の位相遅延を生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態にかかる勾配光干渉顕微鏡の概略図である。
図2】第1実施形態にかかる勾配光干渉顕微鏡の位相格子の領域分布を示した図である。
図3】第1実施形態にかかる勾配光干渉顕微鏡の位相格子のフーリエスペクトル分布を示した図である。
図4】第1実施形態にかかる勾配光干渉顕微鏡の偏光板の配置を示した図である。
図5】偏光複像プリズムを用いて試料表面で反射した反射波を観察する様子を示した概略図である。
図6】第2実施形態にかかる勾配光干渉顕微鏡の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
<1.第1実施形態>
以下では、本発明の一実施形態に係る勾配光干渉顕微鏡である顕微鏡1について、図1を参照しつつ説明する。図1は、顕微鏡1の構成を示した概略図である。この顕微鏡1は、細胞などの無色透明な物体をイメージングするために、勾配光干渉顕微法を用いて、照射位置をシフトさせた2つの偏光波の一方に複数通りの位相遅延量を付加し、2つの偏光波の合波の強度分布から偏光間の位相差を取得するものである。
【0022】
図1に示すように、顕微鏡1は、光源20、入射経路30、サンプル配置部40、出射経路50、撮像素子60、および演算部80を有する。本実施形態の顕微鏡1は、サンプル配置部40に配置されたサンプルに光を照射し、その透過光を撮像素子60にて観察するものである。このため、光源20からサンプル配置部40へ向かう入射経路30と、サンプル配置部40から撮像素子60へ向かう出射経路50を一直線上に配置している。
【0023】
光源20は、サンプルに照射する光を供給する。光源20から出射される光は白色光である。
【0024】
入射経路30は、光源20からサンプル配置部40へ光を入射させる光学系である。入射経路30における光軸は一直線上に配置されている。入射経路30は、光源20からサンプル配置部40へ向かって順に、第1偏光板31と、第1プリズム32と、コンデンサレンズ33とを有する。
【0025】
第1偏光板31は、光源20から出射された光のうち、特定方向に進行する光のみを通過(透過)させる光学素子である。
【0026】
第1プリズム32は、入射光を直交する2つの偏光波に分離する、いわゆる微分干渉プリズム(DICプリズム)である。第1プリズム32は、入射光を直交する第1偏光波および第2偏光波に分離する第1偏光複像プリズムを構成する。具体的には、第1プリズム32は、入射光を、光軸に直交する第1方向に振動方向を有する第1偏光波と、光軸および第1方向と直交する第2方向に振動方向を有する第2偏光波とを、所定の分離角度で分離させる。第1プリズム32には、例えば、ウォラストンプリズムやノマルスキプリズムが用いられる。
【0027】
第1偏光板31における偏光軸(透過軸)と、第1プリズム32の第1方向および第2方向とはそれぞれ、45°の角度で交わるように配置されている。これにより、第1偏光板31から出射された偏光波の第1方向成分と第2方向成分との光エネルギーが同等となる。すなわち、第1プリズム32から出射される第1偏光波と第2偏光波とが、ほぼ同等の強度となる。
【0028】
コンデンサレンズ33は、第1プリズム32において分離した第1偏光波および第2偏光波を、サンプル配置部40へ適切に照射させるためのレンズである。コンデンサレンズ33の焦点面P1は、第1偏向板31を透過した光が、第1プリズム32により2つの偏光に分離する面(すなわち、第1プリズムのローカライズ面)に配置される。コンデンサレンズ33によって、第1偏光波と第2偏光波とは、光軸に対して直交する方向に、所定のシア量ずれて進行する。所定のシア量ずれた第1偏光波および第2偏光波を合わせて「分離合波」と称する。
【0029】
サンプル配置部40は、生体試料であるサンプルを、サンプル配置位置P2に配置するための機構である。実際には、サンプル配置部40には、サンプルが収容されたディッシュやプレパラートを固定する固定機構が設けられている。サンプル配置部40に配置されたサンプルには、コンデンサレンズ33から出射される分離合波が照射される。
【0030】
本実施形態の顕微鏡1は、サンプルに照射された光の透過光を観察するものである。このため、光源20から入射経路30を介してサンプルに入射された分離合波に含まれる第1偏光波と第2偏光波とがそれぞれ、所定のシア量ずれた位置でサンプルを透過する。このため、サンプルの透過光は、第1偏光波と第2偏光波とがシア量ずれた分離合波となる。
【0031】
出射経路50は、サンプル配置部40からの透過光を撮像素子60へ入射させる光学系である。出射経路50は、サンプル配置部40から撮像素子60へ向かって順に、対物レンズ51、第2プリズム52、カラーフィルタ53、第1結像レンズ54、第2結像レンズ55、位相格子56、第1レンズ57、位相遅延部58、第2レンズ59、第3レンズ71、および第2偏光板72を有する。
【0032】
対物レンズ51は、サンプル配置部40においてサンプルを透過した透過光(分離した第1偏光波および第2偏光波を含む分離合波)を結像させるレンズである。
【0033】
第2プリズム52は、対物レンズ51の焦点面に配置される。第2プリズム52は、第1プリズムと同様の微分干渉プリズム(DICプリズム)である。第2プリズム52は、第1偏光波および第2偏光波を合成する第2偏光複像プリズムを構成する。第2プリズム52には、第1偏光波と第2偏光波とが所定のシア量ずれた分離合波が入射される。第2プリズム52は、分離した第1偏光波と第2偏光波とを第1プリズム32と逆方向にずらすことにより、第1偏光波と第2偏光波とのずれを無くした(シア量を0とした)、第1偏光波と第2偏光波との合成波を出射する。第2プリズム52は、対物レンズ51の焦点面P2に配置される。
【0034】
カラーフィルタ53は、第2プリズム52から出射された合成波から、所定の波長範囲の光のみを通過させる。光源20から出射される光が広い波長範囲である場合、波長の違いによって第1プリズム32および第2プリズムにおける分離角が異なるため、光路長の差が生じて像がぼやける虞がある。カラーフィルタ53によって波長範囲を狭めることにより、撮像素子60において観察する像がぼやけるのを抑制できる。
【0035】
第1結像レンズ54および第2結像レンズ55は、第2プリズム52から出射され、カラーフィルタ53を通過した合成波を結像させるためのレンズである。第1結像レンズ54および第2結像レンズ55のフーリエ面(瞳面)P4には、合成波のフーリエスペクトル分布が現れる。
【0036】
位相格子56は、第1結像レンズ54および第2結像レンズ55のフーリエ面(瞳面)に配置される。位相格子56は、回折格子の一種である。本実施形態の位相格子56は、屈折率の異なる(位相を変調する)領域を組み合わせた透過型の位相格子である。なお、位相格子56は、厚さの異なる領域を組み合わせて形成されてもよい。
【0037】
図2は、本実施形態の位相格子56の領域分布を示した図である。図3は、本実施形態の位相格子56の点像強度分布を示した図である。図2に示すように、この位相格子56は、位相遅延を行わない(位相遅延量が0である)領域と、位相遅延量がπである領域とが、2次元的に交互に、市松模様状に配置されている。このような位相格子56のフーリエスペクトル分布は、第2結像レンズ55の結像面(ないしは撮像素子60の撮像面)において、図3に示すような、2次元的に2行2列の分布にサンプルからの光波が畳み込まれて現れる。
【0038】
すなわち、位相格子56は、第2プリズム52から出射された合成波を3経路以上の複数経路に分岐する分岐機構である。本実施形態の位相格子56は、第2プリズム52から出射され、カラーフィルタ53を通過した合成波を、2行2列の4つの光波に分離する。ここで、位相格子56によって分離された4つの光波をそれぞれ、第1分岐波、第2分岐波、第3分岐波および第4分岐波と称する。
【0039】
第1分岐波、第2分岐波、第3分岐波および第4分岐波のそれぞれには、第1方向に振幅を有する第1偏光波と、第2方向に振幅を有する第2偏光波とが含まれている。
【0040】
第1レンズ57、位相遅延部58、第2レンズ59、第3レンズ71、および第2偏光板72は、位相格子56と撮像素子60との間に順に配置される。第1レンズ57と第2レンズ59の間において、第1分岐波、第2分岐波、第3分岐波および第4分岐波は、互いに平行に進行する。
【0041】
位相遅延部58は、複数の分岐光(第1分岐波、第2分岐波、第3分岐波および第4分岐波)のそれぞれに含まれる第2偏光波に、互いに異なる位相遅延を生じさせる位相遅延機構である。
【0042】
本実施形態の位相遅延部58は、図4に示すように、フレーム580、第1波長板581、第2波長板582、第3波長板583、および第4波長板584を有する。フレーム580は、第1波長板581、第2波長板582、第3波長板583、および第4波長板584を保持する。第1波長板581、第2波長板582、第3波長板583、および第4波長板584は、互いに間隔を空けて、2行2列に配置される。
【0043】
第1波長板581、第2波長板582、第3波長板583、および第4波長板584は、位相遅延量が互いに異なる。具体的には、第1波長板581において、第1偏光波に対する第2偏光波の位相遅延量は0[rad]である。第2波長板582において、第1偏光波に対する第2偏光波の位相遅延量はπ/2[rad]である。第3波長板583において、第1偏光波に対する第2偏光波の位相遅延量はπ[rad]である。第4波長板584において、第1偏光波に対する第2偏光波の位相遅延量は3π/2[rad]である。
【0044】
第2偏光波に互いに異なる位相遅延がなされた4つの分岐波は、第2レンズ59、第3レンズ71および第2偏光板72を介して撮像素子60へと入射する。撮像素子60は、4つの分岐波を撮像面にて受けることにより干渉像を取得し、取得した干渉像のデータを演算部80へと送信する。撮像素子60は、例えばCCDイメージセンサ、もしくはCMOSイメージセンサなどのイメージセンサである。
【0045】
第2偏光板72は、第2偏光波に互いに異なる位相遅延がなされた各分岐波について、特定方向(「第3方向」と称する)に進行する光のみを通過(透過)させる光学素子である。第2偏光板72における偏光軸(透過軸)と、第1偏光波の振幅方向である第1方向および第2偏光波の振幅方向である第2方向とはそれぞれ、45°の角度で交わるように配置されている。これにより、第2偏光板72入射前の第1偏光波の光エネルギーに対する第3方向成分の光エネルギーの割合と、第2偏光板72入射前の第2偏光波の光エネルギーに対する第3方向成分の光エネルギーの割合とが、同等となる。
【0046】
第2偏光板72を通過することにより、各分岐波について、第1偏光波と第2偏光波の振幅方向が揃い、第1偏光波と第2偏光波とが干渉するようになる。第1偏光波と第2偏光波との干渉によって得られる光波を、干渉波と称する。
【0047】
これにより、撮像素子60には、2行2列の4つの領域のそれぞれに、第1分岐波の干渉波と、第2分岐波の干渉波と、第3分岐波の干渉波と、第4分岐波の干渉波とが入射される。したがって、撮像素子60は、第1分岐波の干渉波として位相遅延量0の干渉像、第2分岐波の干渉波として位相遅延量π/2[rad]の干渉像、第3分岐波の干渉波として位相遅延量π[rad]の干渉像、および、第4分岐波の干渉波として位相遅延量3π/2[rad]の干渉像を撮影することができる。
【0048】
演算部80は、撮像素子60と電気的に接続されている。演算部80は、撮像素子60の撮影した4つの干渉像に基づいて、試料90の定量位相分布を取得する。具体的には、演算部80は、撮像素子60から受信した信号を基に、4つの干渉像のデータを取得し、これら4つの干渉像に基づいて勾配光干渉顕微法による計算により、試料90の定量位相分布を取得する。演算部80における具体的な計算手法については、例えば上述の非特許文献1に記載されているため、詳細は割愛する。
【0049】
演算部80は、勾配光干渉顕微法に基づく演算を実行するためのアルゴリズムを含んだプログラム等を記憶する記憶部と、プログラムに従って演算を実行するプロセッサ(例えばCPU)とを備える。記憶部は、例えばハードディスクドライブ(HDD)、リードオンリーメモリ(ROM)あるいはランダムアクセスメモリ(RAM)等により構成される。また、演算部80は、演算部80と通信可能に設けられたディスプレイ(図示省略)に、演算結果を表示してもよい。
【0050】
ここで、この顕微鏡1の原理の基礎を、図5を参照しつつ説明する。図5は、試料表面で反射した反射波を観察する様子を示した概略図である。図5の例では、入射光が、微分干渉プリズム91によってP偏光波とS偏光波とに分離される。その後、コンデンサレンズ92によって、P偏光波およびS偏光波は、光軸に直交する方向にシア量ΔSずれた状態で試料90へ入射する。図5に示すように、試料90上のある位置A1に入射されたP偏光波に対応するS偏光波は、位置A1から所定の方向にシア量ΔSずれた位置A2に入射される。
【0051】
これにより、試料90の表面高さが一定でない場合、位置A1における反射高さと、位置A2における反射高さとが異なる。その結果、反射高さの違いに起因して、P偏光反射波とS偏光反射波とに位相差が生じる。その後、P偏光反射波とS偏光反射波とのシア量ΔSの位置を再び合わせるとともに、偏光方向を揃えて干渉させる。このとき、位相差が0、2π、および2πの整数倍である場合に干渉強度が最大となり、位相差がπ、3π、および2πの整数倍+πである場合に干渉強度が最小となる。
【0052】
この顕微鏡1では、サンプル配置部40において分離合波がサンプルを透過する際に、第1プリズム32およびコンデンサレンズ33によって第1偏光波と第2偏光波とが光軸に直交する方向にシア量ΔSずれた位置で、サンプルに入射され、サンプルを透過する。このとき、それぞれの位置におけるサンプルの状態の違いによって、第1偏光波と第2偏光波とに位相差が生じる。ここで、第1偏光波に対する第2偏光波の位相遅延量をθとする。
【0053】
その後、対物レンズ51および第2プリズム52によって、第1偏光波と第2偏光波との位置ずれが解消された合成波となる。このとき、第1偏光波と第2偏光波とには位相差が生じた状態のままである。続いて、当該合成波が位相格子56によって4つに分岐された分岐波(第1分岐波、第2分岐波、第3分岐波、および第4分岐波)の第2偏光波には、それぞれ、0,π/2,π,3π/2の位相遅延が与えられる。これによって、それぞれの分岐波における第1偏光波に対する第2偏光波の位相遅延量は、θ,θ+π/2,θ+π,θ+3π/2となる。
【0054】
そして最後に、当該分岐波のそれぞれについて、第2偏光板72によって第1偏光波と第2偏光波との偏光方向が揃えられることにより、合成波に含まれる第1偏光波と第2偏光波とが干渉する。
【0055】
このとき、第1偏光波と第2偏光波との位相差がサンプルに依存したθのみでは、定性的な評価しかできない。これに対して、複数の既知の位相差0,π/2,π,3π/2をさらに付加することにより、定量的な評価を行うことができる。
【0056】
非特許文献1に記載の勾配光干渉顕微法では、4通りの位相遅延量について撮像を行うためには、4回撮像を行わなければならない。すなわち、従来の微分干渉顕微鏡に比べて、撮像時間が4倍となるため、動的なサンプルに適用することができない。
【0057】
これに対し、この顕微鏡1では、サンプル照射後の合成波を4つの光波に分岐し、それぞれに対して互いに異なる位相遅延量を付加している。すなわち、1回の撮像で、4通りの位相遅延量について撮像を行うことができる。その結果、定性的な評価しか行えない従来の微分干渉顕微鏡に比べて、撮像時間が長くなることなく、定量的な評価を行うことができる。
【0058】
<2.第2実施形態>
以下では、本発明の第2実施形態に係る勾配光干渉顕微鏡である顕微鏡1Aについて、図6を参照しつつ説明する。図6は、顕微鏡1Aの構成を示した概略図である。この顕微鏡1Aは、第1実施形態の顕微鏡1と同様に、細胞などの無色透明な物体をイメージングするために、勾配光干渉顕微法を用いて、照射位置をシフトさせた2つの偏光波の一方に複数通りの位相遅延量を付加し、2つの偏光波の合波の強度分布から偏光間の位相差を取得するものである。
【0059】
図6に示すように、顕微鏡1Aは、光源20、入射経路30A、サンプル配置部40、出射経路50、撮像素子60、および演算部80を有する。本実施形態の顕微鏡1Aは、サンプル配置部40に配置されたサンプルに光を照射し、その反射光を撮像素子60にて観察するものである。このため、光源20からサンプル配置部40へ向かう入射経路30Aと、サンプル配置部40から撮像素子60へ向かう出射経路50とがそれぞれ、互いに直交する直線上に配置している。
【0060】
本実施形態の顕微鏡1Aは、第1実施形態の顕微鏡1と比較して、入射経路30Aがハーフミラー34を有する点と、それに伴い、入射経路30Aと出射経路50とが異なる直線上に配置される点が相違する。その他の構成は、第1実施形態の顕微鏡1と同等である。図6中に付された符号について、図1中の符号と同じ要素については、同等である。
【0061】
本実施形態の顕微鏡1Aにおいて、ハーフミラー34は、コンデンサレンズ33と、サンプル配置部40との間に配置される。ハーフミラー34は、コンデンサレンズ33からサンプル配置部40へ向かう光を透過するとともに、サンプル配置部40からコンデンサレンズ33へ向かう光を垂直方向に反射する。
【0062】
これにより、顕微鏡1Aにおいて、光源20から出射し、第1偏光板31、第1プリズム32およびコンデンサレンズ33を介した光は、ハーフミラー34を透過し、サンプル配置部40に配置されたサンプルに入射される。そして、サンプルにおいて反射された反射光は、ハーフミラー34において垂直方向に反射される。
【0063】
そして、当該反射光は、出射経路50の対物レンズ51に入射される。出射経路50から撮像素子60に至る構成は、第1実施形態に係る顕微鏡1と同様である。
【0064】
このように、本実施形態の顕微鏡1Aでは、サンプルの反射光について勾配光干渉顕微法を用いて観察することができる。
【0065】
<3.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0066】
上記の実施形態では、第2プリズムから出射された合成光を分岐させる分岐機構が位相格子であるが、本発明はこれに限られない。分岐機構は、振幅格子などの、位相格子以外の回折格子であってもよい。また、分岐機構は、ハーフミラー等のその他の光学素子を用いて光波を分岐させるものであってもよい。
【0067】
また、上記の実施形態では、複数の分岐光のそれぞれについて一方の偏光波の位相を遅延させる位相遅延機構が、複数の波長板であったが、本発明はこれに限られない。例えば、複数の分岐光のそれぞれについて、空間光位相変調器を用いて、一方の偏光波の位相遅延がなされてもよい。
【0068】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,1A 顕微鏡
20 光源
30,30A 入射経路
31 第1偏光板
32 第1プリズム
33 コンデンサレンズ
40 サンプル配置部
50 出射経路
51 対物レンズ
52 第2プリズム
53 カラーフィルタ
54 第1結像レンズ
55 第2結像レンズ
56 位相格子
58 位相遅延部(波長板)
60 撮像素子
72 第2偏光板
581 第1波長板
582 第2波長板
583 第3波長板
584 第4波長板
図1
図2
図3
図4
図5
図6