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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044422
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】カラーフィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G02B5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149928
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】小野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】水野 文菜
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148CA00
2H148CA04
2H148CA05
2H148CA09
2H148CA14
(57)【要約】
【課題】一様に彩度の高いカラーフィルム及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】実施形態に係るカラーフィルム1は、透明性樹脂材料からなる積層フィルム5と、積層フィルム5中に分散配置された均一な大きさの複数の金属微粒子7と、を備え、金属微粒子7の大きさをdとした場合に、複数の金属微粒子7間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d/2≦gave≦10d
を満たす、カラーフィルムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性樹脂材料からなる膜状部材と、
前記膜状部材中に分散配置された均一な大きさの複数の金属微粒子と、を備え、
前記金属微粒子の大きさをdとした場合に、複数の金属微粒子間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d/2≦gave≦10d
を満たす、
カラーフィルム。
【請求項2】
前記複数の金属微粒子間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d≦gave≦2d
を満たす、
請求項1に記載のカラーフィルム。
【請求項3】
前記透明性樹脂材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である、
請求項1又は2に記載のカラーフィルム。
【請求項4】
前記金属微粒子の大きさが5nm以上200nm以下である、
請求項1又は2に記載のカラーフィルム。
【請求項5】
容器中に、複数の金属微粒子を含むコロイド水溶液とトルエンとの二層の液相を用意し、
前記コロイド水溶液中にアルコールを注入して、前記コロイド水溶液中の前記複数の金属微粒子を前記二層の液相の界面に移動させ、
前記容器から前記トルエンを吸入して除去することにより、前記複数の金属微粒子を前記コロイド水溶液上に集積させ、
集積させた前記複数の金属微粒子を基板上に配置した後に、前記基板上に前記複数の金属微粒子を覆うように透明性樹脂材料を配置してから前記透明性樹脂材料を硬化させる、
カラーフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記透明性樹脂材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である、
請求項5に記載のカラーフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記コロイド水溶液中に含まれる複数の金属微粒子は、界面活性剤を用いて表面修飾されている、
請求項5又は6に記載のカラーフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記金属微粒子の大きさが5nm以上200nm以下である、
請求項5又は6に記載のカラーフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記透明性樹脂材料を硬化させる際には、摂氏25度~300度の環境下で放置することにより硬化させる、
請求項5又は6に記載のカラーフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子媒体中に金属微粒子が分散して存在する顔料が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。この顔料は、水中及び有機溶剤中において安定に存在するため彩度が高いという性質を有する。また、センシング材料用途の光学材料として、下記特許文献2には、被覆材料で被覆される金属微粒子間に光透過性エラストマーが充填された光学材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-104254号公報
【特許文献2】特開2012-102221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の顔料をもとに作製される、例えばステンドグラスは、ガラスと金属ナノ粒子を混合し、濃度を調整して形成されるが、その多くは透明性が見受けられるため、彩度が低い。
【0005】
また、金属微粒子が含有されたカラーフィルムを製造する際には、上述した特許文献2に記載の方法を用いた場合、金属微粒子を含む溶液を基板上に塗布して、溶液中の溶媒を揮発させて金属微粒子からなる集積体を形成してから、金属微粒子の間に光透過性エラストマー前駆体を充填することが行われている。しかしながら、このような従来の光学材料においては、光透過性エラストマーによって形成されるシート内において金属ナノ粒子間距離は界面活性剤の分子長によって決まり、粒径以上の十分な粒子間距離を確保できない傾向にある。そのため、従来の光学材料によっては単一金属ナノ粒子特有の色を呈し、なおかつ彩度が高いカラーフィルムを実現することが困難な傾向にあった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、単一金属粒子固有の色を呈し、一様に彩度の高いカラーフィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一形態に係るカラーフィルムは、透明性樹脂材料からなる膜状部材と、膜状部材中に分散配置された均一な大きさの複数の金属微粒子と、を備え、金属微粒子の大きさをdとした場合に、複数の金属微粒子間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d/2≦gave≦10d
を満たす、カラーフィルムである。
【0008】
また、本発明の他の形態に係るカラーフィルムの製造方法は、容器中に、複数の金属微粒子を含むコロイド水溶液とトルエンとの二層の液相を用意し、コロイド水溶液中にアルコールを注入して、コロイド水溶液中の複数の金属微粒子を二層の液相の界面に移動させ、容器からトルエンを吸入して除去することにより、複数の金属微粒子をコロイド水溶液上に集積させ、集積させた複数の金属微粒子を基板上に配置した後に、基板上に複数の金属微粒子を覆うように透明性樹脂材料を配置してから透明性樹脂材料を硬化させる、製造方法である。
【0009】
上記一形態のカラーフィルム、あるいは、上記他の形態のカラーフィルムの製造方法によって製造されたカラーフィルムは、透明性樹脂材料からなる膜状部材中において均一な大きさの金属微粒子が所望のギャップ長で分散配置された構成を有する。このような構成のカラーフィルムにおいては、金属微粒子間のプラズモン振動の働きを弱めるように複数の金属微粒子間のギャップが設定され、金属微粒子固有の色を発色する性質が強くなる。その結果、単一金属微粒子固有の色を呈し、一様に彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0010】
ここで、上記一形態においては、複数の金属微粒子間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d≦gave≦2d
を満たす、ことが好適である。この場合は、さらに彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0011】
また、上記一実施形態及び上記他の形態においては、透明性樹脂材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であってよい。この場合、透明性樹脂材料は硬化時に、金属微粒子を一様に分散配置させることが容易となる。その結果、単一金属微粒子固有の色を呈し、一様に彩度の高いカラーフィルムを容易に実現できる。
【0012】
また、上記一実施形態及び上記他の形態においては、金属微粒子の大きさが5nm以上200nm以下であってもよい。この場合、金属微粒子がその微粒子固有の色を発色する性質がより強くなり、より彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0013】
また、上記他の形態においては、コロイド水溶液中に含まれる複数の金属微粒子は、界面活性剤を用いて表面修飾されている、ことが好適である。この場合、上記他の形態の製造方法において、コロイド水溶液中で複数の金属微粒子が密着することを避けることができ、一様に彩度の高いカラーフィルムを製造することが容易となる。
【0014】
また、上記他の形態においては、透明性樹脂材料を硬化させる際には、摂氏25度~300度の環境下で放置することにより硬化させる、ことも好適である。こうすれば、透明性樹脂材料の硬化中に透明性樹脂材料中に複数の金属微粒子を一様に分散させることができる。その結果、単一金属微粒子固有の色を呈し、一様に彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0015】
実施形態のカラーフィルムは、[1]「透明性樹脂材料からなる膜状部材と、膜状部材中に分散配置された均一な大きさの複数の金属微粒子と、を備え、金属微粒子の大きさをdとした場合に、複数の金属微粒子間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d/2≦gave≦10d
を満たす、カラーフィルム」である。
【0016】
実施形態のカラーフィルムは、[2]「複数の金属微粒子間の平均ギャップ長gaveが、下記式;
d≦gave≦2d
を満たす、上記[1]に記載のカラーフィルム」であってもよい。
【0017】
実施形態のカラーフィルムは、[3]「透明性樹脂材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である、上記[1]又は[2]に記載のカラーフィルム」であってもよい。
【0018】
実施形態のカラーフィルムは、[4]「金属微粒子の大きさが5nm以上200nm以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のカラーフィルム」であってもよい。
【0019】
実施形態のカラーフィルムの製造方法は、[5]「容器中に、複数の金属微粒子を含むコロイド水溶液とトルエンとの二層の液相を用意し、コロイド水溶液中にアルコールを注入して、コロイド水溶液中の複数の金属微粒子を二層の液相の界面に移動させ、容器からトルエンを吸入して除去することにより、複数の金属微粒子をコロイド水溶液上に集積させ、集積させた複数の金属微粒子を基板上に配置した後に、基板上に複数の金属微粒子を覆うように透明性樹脂材料を配置してから透明性樹脂材料を硬化させる、カラーフィルムの製造方法」であってもよい。
【0020】
実施形態のカラーフィルムの製造方法は、[6]「透明性樹脂材料は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である、上記[5]に記載のカラーフィルムの製造方法」であってもよい。
【0021】
実施形態のカラーフィルムの製造方法は、[7]「コロイド水溶液中に含まれる複数の金属微粒子は、界面活性剤を用いて表面修飾されている、上記[5]又は[6]に記載のカラーフィルムの製造方法」であってもよい。
【0022】
実施形態のカラーフィルムの製造方法は、[8]「金属微粒子の大きさが5nm以上200nm以下である、上記[5]~[7]のいずれかに記載のカラーフィルムの製造方法」であってもよい。
【0023】
実施形態のカラーフィルムの製造方法は、[9]「透明性樹脂材料を硬化させる際には、摂氏25度~300度の環境下で放置することにより硬化させる、上記[5]~[8]のいずれかに記載のカラーフィルムの製造方法」であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、一様に彩度の高いカラーフィルム及びその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態に係るカラーフィルムを示す側面図である。
図2図2は、カラーフィルムの製造方法の手順を示すための斜視図である。
図3図3は、カラーフィルムの製造方法の手順を示すための斜視図である。
図4図4は、カラーフィルムの製造方法の手順を示すための斜視図である。
図5図5は、実施形態の製造方法によって製造されたカラーフィルムの構成を示す側面図である。
図6図6は、実施形態の製造方法によって製造されたカラーフィルムの断面SEM画像に二値化処理を加えた画像を示す図である。
図7図7は、カラーフィルムの製造過程で用いられるコロイド水溶液自体の吸光度特性の測定結果を示すグラフである。
図8図8は、カラーフィルムの製造過程における吸光度特性の測定結果を示すグラフである。
図9図9は、カラーフィルムの製造過程で用いられるコロイド水溶液自体の吸光度特性の測定結果を示すグラフである。
図10図10は、カラーフィルムの製造過程における吸光度特性の測定結果を示すグラフである。
図11図11は、カラーフィルムの製造過程で用いられるコロイド水溶液自体の吸光度特性の測定結果を示すグラフである。
図12図12は、カラーフィルムの製造過程における吸光度特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るカラーフィルム及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0027】
[カラーフィルムの構成]
まず、図1を参照して、実施形態に係るカラーフィルム1の構成を説明する。図1は、カラーフィルム1を厚さ方向に垂直な方向から見た側面図である。カラーフィルム1は、透明性を有する板状部材である基板3と、基板3上に積層された透明性樹脂材料を主成分とする膜状部材である積層フィルム5と、積層フィルム5内に分散配置された複数の金属微粒子7とを含む。
【0028】
基板3は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の透明性を有するシリコーン樹脂を主成分とする。積層フィルム5は、基板3と同様に、PDMS等の透明性を有するシリコーン樹脂を主成分とする。積層フィルム5と基板3とは、異なる材料を主成分としてもよいが、製造効率の観点、化学的特性及び物理的特性の一致の観点から、同一材料を主成分とすることが好ましい。
【0029】
金属微粒子7は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の金属微粒子であり、粒子形状として、球形状、直方体形状、多面体形状、板形状等の形状を有する。また、金属微粒子7は、中空球核状構造(いわゆる、ナノシェルの構造)の形状を有していてもよいし、表面に突起が形成された形状(いわゆる、ナノアーチンの形状)を有していてもよい。積層フィルム5内に配置される複数の金属微粒子7の大きさ(最大幅)は、5nm以上200nmの範囲で均一に設定されている。複数の金属微粒子7は、基板3と積層フィルム5の境界から積層フィルム5内部の厚さhの範囲にほぼ一様に分散して配置されている。好適には、厚さhは12nm以上3.6μm以下に設定される。また、複数の金属微粒子7は、積層フィルム5内における複数の金属微粒子7間のギャップ長(2つの金属微粒子7で挟まれる間隙の長さ)gの平均値(平均ギャップ長)gaveが、金属微粒子7の大きさをdとした場合に、下記式(1);
d/2≦gave≦10d …(1)
を満たすように配置されている。より好ましくは、複数の金属微粒子7は、平均ギャップ長gaveが、下記式(2);
d≦gave≦2d …(2)
を満たすように配置される。
【0030】
上述した複数の金属微粒子7間の平均値gaveは、次のようにして設定される。すなわち、後述する本実施形態の製造方法を用いれば、複数の金属微粒子7は、金属微粒子7の集積膜(後述する)上の積層フィルム5内部の厚さhの範囲にある3次元空間内に、六方最密充填格子状に分散配置されると仮定できる。そこで、本実施形態の製造方法を用いて、その3次元空間内の金属微粒子7の平均粒子密度Daveを設定することにより、複数の金属微粒子7間の平均値gaveを設定することができる。例えば、上記式(1)の条件を設定するためには、平均粒子密度Daveが、下記式(3);
1/2×{1/(11d)}≦Dave≦21/2×{2/(3d)}…(3)
を満たすように設定され、上記式(2)の条件を設定するためには、平均粒子密度Daveが、下記式(4);
1/2×{1/(3d)}≦Dave≦21/2×{1/(2d)}…(4)
を満たすように設定される。
【0031】
上記の金属微粒子7は、その表面が界面活性剤を用いて表面修飾されたものであってもよい。例えば、金属微粒子7は、表面活性剤として、クエン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)等を用いて、表面修飾される。表面修飾された金属微粒子7は、金属微粒子7間の吸着を防止して、硬化前の積層フィルム5内で分散安定性が高まるという特性を有する。
【0032】
[カラーフィルムの製造方法]
次に、図2図3、及び図4を参照して、実施形態に係るカラーフィルム1の製造方法を説明する。図2図3、及び図4は、カラーフィルム1の製造方法の手順を示すための斜視図である。
【0033】
図2を参照して、最初の手順として、ビーカー等の容器11内に、複数の金属微粒子7を所定の密度で含むコロイド水溶液の液相13とトルエンの液相15とが分離した2層の液相を用意する。この2層の液相は、容器11内に、例えば、20mlのコロイド水溶液を注入した後に、10mlのトルエンを注入することによって用意される。なお、液相13内の複数の金属微粒子7は、界面活性剤を用いて表面修飾されることが好ましい。
【0034】
その後、容器11内のコロイド水溶液の液相13中に、ピペット17を用いて、親水性を有するエタノール19が、エタノール19を液相13全体に対流させるように注入される。その結果、金属微粒子7の対流が発生し、二層の液相13,15の間の界面全体に複数の金属微粒子7が捕捉される。なお、金属微粒子7が表面修飾されていた場合には、エタノール19の注入により金属微粒子の表面修飾が一部除去されることにより、複数の金属微粒子7どうしが近接しやすくなり、効率的に金属微粒子7が界面に移動する。
【0035】
図3を参照して、その後の手順として、ピペット21を用いて、液相15中からトルエンが徐々に吸入されて除去される。トルエンの除去は、トルエンの液相15が容器11の側面から容器11の中心にかけて徐々になくなるように、液相13の表面の中心に金属微粒子7を含む円形の単層集積膜23が形成されるまで、行われる。単層集積膜23は、複数の金属微粒子7が液相13の表面のトルエン層25の下に1層で密集して配置された状態の膜となる。次の手順として、容器11内の単層集積膜23が、基板3を用いて転写されることにより、基板3の表面の中央に載置される。このとき、単層集積膜23における金属微粒子7の配置を乱さないように基板3上に単層集積膜23が載置される。
【0036】
図4を参照して、その後の手順として、単層集積膜23が載置された基板3が、単層集積膜23が載置された面を上にして静置される。その状態で、ピペット27を用いて、硬化前のPDMSの原料29が基板3上に単層集積膜23を覆うように滴下される。この原料は、例えば、PDMSの主剤と硬化剤とが重量比で、5:1~40:1の範囲で混合されたものである。次の手順として、原料29が滴下された基板3が所定の環境温度下で所定時間放置されて原料29が硬化される。例えば、環境温度としては摂氏25度から摂氏300度の範囲に設定され、好ましくは摂氏70度から摂氏120度の範囲に設定される。放置時間は環境温度におおよそ逆比例した時間であり、摂氏70度から摂氏120度の範囲では15分から2時間の範囲に設定される。これにより、基板3上に積層フィルム5が形成される。それに加えて、上述したように、硬化された積層フィルム5内には、複数の金属微粒子7が、基板3上の単層集積膜23に相当する位置から積層フィルム5内部の厚さhの範囲にほぼ一様に分散して配置される。
【0037】
ここで、上記の製造方法の手順においては、積層フィルム5内の複数の金属微粒子7の平均ギャップ長gaveが上記式(1)を満たすようにするために、金属微粒子7の平均粒子密度Daveが下記式(3)を満たすような製造条件が設定される。好ましくは、上記の製造方法の手順においては、積層フィルム5内の複数の金属微粒子7の平均ギャップ長gaveが上記式(2)を満たすようにするために、金属微粒子7の平均粒子密度Daveが下記式(4)を満たすような製造条件が設定される。すなわち、すなわち、直径50nmの金属微粒子の平均ギャップ長gaveが25nm≦gave≦500nm、より好ましくは50nm≦gave≦100nmに配置されるために、平均粒子密度Daveは8.5particles/μm≦Dave≦3350particles/μm、より好ましくは420particles/μm≦Dave≦1414particles/μmとなるように製造される。これらの平均粒子密度Daveは、例えば、上記の製造方法の手順において、円形の単層集積膜23の大きさを制御することにより設定される。
【0038】
図5は、本実施形態の製造方法によって製造されたカラーフィルム1の構成を概念的に示す側面図であり、図6は、本実施形態の製造方法によって製造されたカラーフィルム1の断面SEM画像に二値化処理を加えた画像を示す図である。金属微粒子7を含む単層集積膜23が形成された基板3上には、PDMSの原料で覆った後にその原料を硬化処理することにより、積層フィルム5が形成される。この積層フィルム5内には、基板3と積層フィルム5の境界から積層フィルム5内部の厚さhの範囲に、金属微粒子7がほぼ一様に分散して配置される。図6に示すSEM画像においては基板3上のh=約1μmの範囲内に金属微粒子7がほぼ一様に配置された様子が観察されている。
【0039】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態のカラーフィルム1、あるいは本実施形態のカラーフィルムの製造方法によって製造されたカラーフィルム1は、透明性樹脂材料からなる積層フィルム5中において均一な大きさの金属微粒子7が所望のギャップ長で分散配置された構成を有する。このような構成のカラーフィルム1においては、金属微粒子7間のプラズモン振動の働きを弱めるように複数の金属微粒子7間のギャップが設定され、金属微粒子7の材料、サイズ、及び形状に対応した固有の色を発色する性質が強くなる。その結果、一様に彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0040】
ここで、本実施形態のカラーフィルム1においては、上記式(1)を満たすように設定されており、さらに好ましくは上記式(2)を満たすように設定されている。このような構成により、さらに彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0041】
また、本実施形態においては、透明性樹脂材料としてPDMSが選択されている。この場合、透明性樹脂材料は硬化時に、金属微粒子7を一様に分散配置させることが容易となる。その結果、一様な彩度のカラーフィルムを容易に実現できる。
【0042】
また、本実施形態では、金属微粒子7の大きさdが5nm以上200nm以下の範囲で設定されている。この場合、金属微粒子7がその微粒子固有の色を発色する性質がより強くなり、より彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、コロイド水溶液中に含まれる複数の金属微粒子7は、界面活性剤を用いて表面修飾されていることが好適である。この場合、カラーフィルム1の製造時において、コロイド水溶液中で複数の金属微粒子7が密着することを避けることができ、一様に彩度の高いカラーフィルムを製造することが容易となる。
【0044】
また、本実施形態の製造方法においては、透明性樹脂材料を硬化させる際には、摂氏25度~300度の環境下で放置することにより硬化させている。こうすれば、透明性樹脂材料の硬化中に透明性樹脂材料中に複数の金属微粒子7を一様に分散させることができる。その結果、一様に彩度の高いカラーフィルムを実現することができる。
【0045】
[特性評価]
本実施形態に係るカラーフィルムの製造方法によって製造されたカラーフィルムの特性の評価結果を以下に示す。
【0046】
まず、金属微粒子7を直径50nmの球状の金微粒子とし、積層フィルム5内の厚さ1μmの範囲の金属微粒子7の平均粒子密度Daveを600particles/μmと設定した場合の特性を測定した結果を示す。図7は、製造過程で用いられるコロイド水溶液自体の吸光度特性の測定結果を示すグラフであり、図8は、カラーフィルムの製造過程における吸光度特性の測定結果を示すグラフである。吸光度特性の測定は、対象物に白色光を透過させてその結果生じる透過光における吸光度を測定することによって行われた。図8において、点線で示す特性は、基板3上に単層集積膜23を載置させた状態で測定したものであり、実線で示す特性は、製造されたカラーフィルムを対象に測定したものである。この評価結果に示すように、コロイド水溶液においては緑色の波長帯域である530nmにおいて吸収スペクトルのピークが見られ、基板3上に単層集積膜23が載置された状態ではそのピークよりも長波長側にも吸収スペクトルの山が見られている。一方、製造されたカラーフィルム1においては、金微粒子が一様に分散して配置されるために、コロイド水溶液と同様な吸収スペクトルのピークが見られ、コロイド水溶液の状態よりも明瞭なマゼンダ色の発色特性を有することが示された。
【0047】
次に、金属微粒子7を直径100nmの球状の金微粒子とし、積層フィルム5内の厚さ1μmの範囲の金属微粒子7の平均粒子密度Daveを上記式(4)を満たすように設定した場合の特性を測定した結果を示す。図9は、図7と同様に、製造過程で用いられるコロイド水溶液自体の吸光度特性の測定結果を示すグラフであり、図10は、図8と同様に、カラーフィルムの製造過程における吸光度特性の測定結果を示すグラフである。この評価結果に示すように、コロイド水溶液においては緑色から赤色にかけての波長帯域である571nmにおいて吸収スペクトルのピークが見られ、基板3上に単層集積膜23が載置された状態ではそのピークよりも長波長側にも吸収スペクトルの山が見られている。一方、製造されたカラーフィルム1においては、金微粒子が一様に分散して配置されるために、コロイド水溶液と同様な吸収スペクトルのピークが見られ、コロイド水溶液の状態よりも明瞭な青色の発色特性を有することが示された。
【0048】
次に、金属微粒子7を直径100nmの球状の金ナノアーチンとし、積層フィルム5内の厚さ1μmの範囲の金属微粒子7の平均粒子密度Daveを上記式(4)を満たすように設定した場合の特性を測定した結果を示す。図11は、図7と同様に、製造過程で用いられるコロイド水溶液自体の吸光度特性の測定結果を示すグラフであり、図12は、図8と同様に、カラーフィルムの製造過程における吸光度特性の測定結果を示すグラフである。この評価結果に示すように、コロイド水溶液においては赤色の波長帯域である664nmにおいて吸収スペクトルのピークが見られ、基板3上に単層集積膜23が載置された状態ではそのピークよりも長波長側においても吸収スペクトルの上昇が見られている。一方、製造されたカラーフィルム1においては、金ナノアーチンが一様に分散して配置されるために、コロイド水溶液と同様な吸収スペクトルのピークが見られ、コロイド水溶液の状態よりも明瞭なシアン色の発色特性を有することが示された。
【0049】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上記実施形態の構成は様々変更されうる。
【符号の説明】
【0050】
1…カラーフィルム、3…基板、5…積層フィルム(膜状部材)、7…金属微粒子、11…容器、13,15…液相、19…エタノール(アルコール)、23…単層集積膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12