(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044423
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】圧粉磁心用粉末、圧粉磁心用粉末の製造方法及び絶縁被膜の混合状態の評価方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240326BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240326BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240326BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240326BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240326BHJP
C22C 19/03 20060101ALN20240326BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F41/02 D
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F3/00 B
C22C19/03 E
C22C38/00 303S
C22C38/00 303T
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149929
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
(72)【発明者】
【氏名】深澤 真之
(72)【発明者】
【氏名】有間 洋
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AA26
4K018AA30
4K018BA13
4K018BA20
4K018BC01
4K018BC12
4K018BC29
4K018BC30
4K018CA02
4K018CA08
4K018DA31
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA07
5E041AA11
5E041BB03
5E041BC05
5E041CA02
5E041HB14
5E041HB17
5E041NN05
5E041NN17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数種の絶縁材料を均一に分散し、絶縁被膜を形成させ、安定した磁気特性となる圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心用粉末の製造方法及び絶縁被膜の混合状態の評価方法を提供する。
【解決手段】圧粉磁心用粉末は、軟磁性粉末と、軟磁性粉末の周囲を被覆し、複数の絶縁材料が混合して成る絶縁被膜と、を備える。軟磁性粉末と絶縁材料の混合後において、混合容器の上面から少なくとも1箇所、混合容器の底面から少なくとも1箇所の複数個所から採取した絶縁被膜内の炭素量をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.015以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、複数の絶縁材料を混合した圧粉磁心用粉末であって、
前記軟磁性粉末の周囲を被覆し、前記複数の絶縁材料が混合して成る絶縁被膜と、
を備え、
混合後において、混合容器の上面から少なくとも1箇所、前記混合容器の底面から少なくとも1箇所の複数個所から採取した前記絶縁被膜内の炭素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.015以下であること、
を特徴とする圧粉磁心用粉末。
【請求項2】
軟磁性粉末と、複数の絶縁材料を混合し、混合粉末を作製する混合工程と、
を含み、
前記混合工程後において、混合容器の上面から少なくとも1箇所、前記混合容器の底面から少なくとも1箇所の複数個所から採取した前記絶縁被膜内の炭素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.015以下であること、
を特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程の時間は、3分以上10分以下であること、
を特徴とする請求項2に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項4】
軟磁性粉末の周囲に被覆する複数の絶縁材料が混合して成る絶縁被膜の混合状態の評価方法であって、
前記軟磁性粉末と前記複数の絶縁材料が混合した混合粉末を混合容器から複数個所において採取する採取工程と、
前記採取工程を経て採取した各混合粉末を乾燥させ、前記軟磁性粉末の周囲に絶縁被膜を形成させる乾燥工程と、
前記乾燥工程を経た後、各箇所で採取したそれぞれの絶縁被膜の炭素量を測定する炭素量測定工程と、
前記炭素量測定工程により測定された各炭素量に基づいて、炭素量の平均値X及び標準偏差σを算出し、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出するCV値算出工程と、
を含むこと、
を特徴とする絶縁被膜の混合状態の評価方法。
【請求項5】
前記CV値算出工程で算出したCV値は、0.015以下であること、
を特徴とする請求項4に記載の絶縁被膜の混合状態の評価方法。
【請求項6】
前記採取工程では、少なくとも前記混合容器の上面側から1か所、かつ、少なくとも前記混合容器の底面側から1か所、前記混合粉末を採取していること、
を特徴とする請求項4又は5に記載の絶縁被膜の混合状態の評価方法。
【請求項7】
前記混合容器は、底面が円形の有底筒状形状であり、
前記採取工程では、前記混合容器の上面側から複数個所、かつ、前記混合容器の底面側から複数個所、前記混合粉末を採取し、
前記上面側及び前記底面側における複数個所は、周方向に等間隔であること、
を特徴とする請求項6に記載の絶縁被膜の混合状態の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心用粉末、圧粉磁心用粉末の製造方法及び絶縁被膜の混合状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車など様々な用途にリアクトルといったコイル部品が用いられている。コイル部品は、コアにコイルが装着されている。そして、このコアとしては、圧粉磁心が用いられる。
【0003】
圧粉磁心を作製するためには、軟磁性粉末を含む圧粉磁心用粉末を数ton/cm2~数十ton/cm2といった高い圧力で押し固め、まず圧粉成形体を作製する。そして、この圧粉成形体を焼鈍といわれる熱処理することで圧粉磁心が作製される。軟磁性粉末としては、FeとSiとAlから成るFeSiAl系合金などが挙げられる。
【0004】
軟磁性粉末の周囲は絶縁材料から成る絶縁被膜が形成されている。軟磁性粉末の周囲を絶縁被膜が被覆することで、軟磁性粉末間の絶縁性が保たれる。これにより、圧粉磁心に発生する渦電流が軟磁性粉末間で分断されるので磁気特性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁被膜は、複数種の絶縁材料が混合して成る場合がある。絶縁被膜が複数種の絶縁材料から成る場合、複数種の絶縁材料が偏析した状態で軟磁性粉末の周囲に付着している場合がある。即ち、絶縁材料としてシランカップリング剤とシリコーンレジンを用いた場合、シランカップリング剤とシリコーンレジンが混ざりきっておらず、粉末の表面にシランカップリング剤が多量に付着している場所があったり、また、シリコーンレジンが多量に付着している場所があったりすることがある。このように、複数種の絶縁材料が偏析した状態で軟磁性粉末の周囲に付着していると、磁気特性にばらつきが生じてしまい、製品の品質の安定性に欠けるという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、複数種の絶縁材料を均一に分散し、絶縁被膜を形成させ、安定した磁気特性となる圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心用粉末の製造方法、また、絶縁被膜の混合状態の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧粉磁心用粉末は、軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の周囲を被覆し、複数の絶縁材料が混合して成る絶縁被膜と、を備え、前記混合工程後において、混合容器の上面から少なくとも1箇所、前記混合容器の底面から少なくとも1箇所の複数個所から採取した前記絶縁被膜内の炭素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.015以下であること、を特徴とする。
【0009】
本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法は、軟磁性粉末と、複数の絶縁材料を混合し、混合粉末を作製する混合工程と、前記混合工程を経た後、混合粉末を乾燥させ、軟磁性粉末の周囲に前記複数の絶縁材料から成る絶縁被膜を形成させる乾燥工程と、を含み、前記乾燥工程後において、混合容器の上面から少なくとも1箇所、前記混合容器の底面から少なくとも1箇所の複数個所から採取した前記絶縁被膜内の炭素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.015以下であること、を特徴とする。
【0010】
本発明の絶縁被膜の混合状態の評価方法は、軟磁性粉末の周囲に被覆する複数の絶縁材料が混合して成る絶縁被膜の混合状態の評価方法であって、前記軟磁性粉末と前記複数の絶縁材料が混合した混合粉末を混合容器から複数個所において採取する採取工程と、前記採取工程を経て採取した各混合粉末を乾燥させ、前記軟磁性粉末の周囲に絶縁被膜を形成させる乾燥工程と、前記乾燥工程を経た後、各箇所で採取したそれぞれの絶縁被膜の炭素量を測定する炭素量測定工程と、前記炭素量測定工程により測定された各炭素量に基づいて、炭素量の平均値X及び標準偏差σを算出し、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出するCV値算出工程と、を含むこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数種の絶縁材料を均一に分散し、絶縁被膜を形成させ、安定した磁気特性となる圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心用粉末の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】炭素量の変動係数CV値と磁気特性の変動係数CV値の関係を示すグラフである。
【
図2】混合時間と炭素量の変動係数CV値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0014】
圧粉磁心は、OA機器、太陽光発電システム、自動車などに搭載されるコイル部品のコアに用いられる磁性体である。圧粉磁心は、圧粉磁心用粉末を押し固め、焼鈍することで成る。圧粉磁心用粉末は軟磁性粉末を含む。軟磁性粉末の周囲には、絶縁材料から成る絶縁被膜が形成されている。この絶縁被膜で被覆された軟磁性粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製し、圧粉成形体を焼鈍することで圧粉磁心は作製される。
【0015】
軟磁性粉末は鉄を主成分とする。軟磁性粉末としては、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。また、軟磁性粉末として、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末を使用してもよい。
【0016】
Fe-Si-Al合金粉末は、例えば、Feに対して、7wt%から11wt%程度のSiと、4wt%から8wt%程度のAlとを含有させている。Fe-Si-Al合金粉末には、例えば、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよい。さらに、Fe-Si-Al合金粉末にはCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0017】
Si含有鉄合金には、Co、Al、Cr又はMnが含まれていてもよい。パーマロイ(Fe-Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe-80Ni、Fe-36Ni、Fe-78Ni、Fe-47Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいてもよい。Fe-Si合金粉末は、例えば、Fe-3.5%Si合金粉末、Fe-6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であってもよい。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。
【0018】
軟磁性粉末の周囲には、絶縁被膜が形成されている。絶縁被膜は、2種類以上の絶縁材料が混合して成る。絶縁材料としては、シラン化合物、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマーを用いることができる。
【0019】
シラン化合物には、官能基の無いシラン化合物及びシランカップリング剤が含まれる。官能基の無いシラン化合物としては、例えばエトキシ系及びメトキシ系等のアルコキシシランを使用することができ、特にテトラエトキシシランが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。
【0020】
シラン化合物の添加量としては、軟磁性粉末に対して、0.05wt%以上1.0wt%以下が好ましい。シラン化合物の添加量をこの範囲にすることで、軟磁性粉末の流動性を向上させるとともに、成形された圧粉磁心の密度、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0021】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O―Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた被膜を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁被膜を形成することができる。
【0022】
シリコーンレジンの添加量は、軟磁性粉末に対して、0.6wt%以上2.5wt%であることが好ましい。添加量が0.6wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.5wt%より多いと圧粉磁心の密度低下を招く。
【0023】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁被膜を形成することができる。また、絶縁被膜の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。
【0024】
シリコーンオリゴマーの添加量は、軟磁性粉末に対して0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましい。添加量が0.1wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.0wt%より多いと、圧粉磁心の密度低下を招く。
【0025】
後述する絶縁被膜の混合状態の評価方法に基づいて算出した絶縁被膜に含有する炭素量の変動係数CV値は、0.015以下である。0.015以下にすることで、複数の絶縁材料が均一に混ざり合い、偏析を抑制することができる。その結果、磁気特性が安定し、良品の生産性が向上する。なお、炭素量とは、絶縁被膜に含有する炭素のみの重さのことを指す。
【0026】
絶縁被膜が形成された軟磁性粉末から成る圧粉磁心用粉末を金型に充填し、所定の圧力で加圧成形することで、圧粉成形体と成る。そして、この圧粉成形体を焼鈍することで、圧粉磁心となる。
【0027】
(製造方法)
次に、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心の製造方法について詳細に説明する。
【0028】
圧粉磁心用粉末の製造方法は、絶縁被膜形成工程を含む。圧粉磁心の製造方法は、絶縁被膜形成工程を経た後、潤滑剤添加工程、加圧成形工程及び焼鈍工程を含む。
【0029】
絶縁被膜形成工程は、混合工程と乾燥工程を含む。混合工程は、軟磁性粉末に絶縁材料を添加、混合して混合粉末を作製する工程である。混合工程では、混合容器の中に軟磁性粉末、2種類以上の絶縁材料を添加して混合する。本実施形態では、絶縁材料として、シランカップリング剤とシリコーンレジンを用いている。混合容器としては、例えば、円形の底面から延びる攪拌用の羽が周方向に等間隔に3つ設けられ、かつ、側面に解砕用の羽が設けられてものを用いることができる。混合容器による混合時間は、例えば、3分以上10分以下である。回転速度は、攪拌用の羽が200min-1以上400min-1以下、解砕用の羽が800min-1以上1600min-1以下にすることが好ましい。
【0030】
一般的には、混合時間が長ければより均一に混ざり合い、炭素量の変動係数CV値も小さくなるものと思われるが、本実施例では、異なる結果になった。これは、混合時間が長いとシランカップリング剤とシリコーンレジンが反応してしまい、絶縁被膜としての機能が悪化するものと推察する。
【0031】
また、絶縁被膜を構成する絶縁材料の粘度は、10mPa/s以上200mPa/s以下にすることが好ましい。粘度は、複数種の絶縁材料を混合してこの範囲にしてもよいし、複数種の絶縁材料の混合のみではこの範囲にならないようであれば、溶媒を希釈するなどして調整してもよい。絶縁材料の粘度をこの範囲にすることで、変動係数CV値が0,015以下となり、複数種の絶縁材料が均一に混ざり合った状態で軟磁性粉末の周囲に付着し、絶縁被膜として形成される。
【0032】
乾燥工程は、混合工程を経て作製された混合物を加熱乾燥し、軟磁性粉末の周囲に絶縁被膜を形成させる工程である。乾燥工程における乾燥温度は、120℃以上200℃以下である。乾燥時間は、2時間程度である。乾燥工程を経た後における絶縁被膜の炭素量の変動係数CV値は、0.015以下である。
【0033】
絶縁被膜形成工程を経た後、潤滑剤添加工程を経る。潤滑剤添加工程は、絶縁被膜が形成された軟磁性粉末に潤滑剤を添加する工程である。潤滑剤としては、これに限定されないが、例えば、ステアリン酸及びその金属塩並びにエチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤の添加量は、圧粉磁心用粉末に対して、0.2wt%~0.8wt%程度であることが好ましい。この範囲にすることで、圧粉磁心用粉末間の滑りをより向上させることができる。
【0034】
潤滑剤添加工程を経た後、加圧形成工程を経る。加圧成形工程は、絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより、圧粉成形体を作製する工程である。まず、軟磁性粉末を金型に充填し、その後、10~20ton/cm2で加圧する。このようにして圧粉成形体が作製される。
【0035】
加圧成形工程の後、焼鈍工程を経る。焼鈍工程は、加圧成形工程を経て作製された圧粉成形体を焼鈍し、軟磁性粉末内の歪を除去する工程である。焼鈍工程では、窒素ガス中、水素ガス中、窒素と水素の混合ガス、0.01%程度の低酸素雰囲気等の非酸化性雰囲気中にて、600℃以上且つ軟磁性粉末の周囲に形成された絶縁被膜が破壊される温度(例えば、900℃とする)よりも低い温度で、圧粉成形体の熱処理を行う。この焼鈍工程を経ることで圧粉磁心が作製される。
【0036】
なお、絶縁被膜形成工程を経る前に粉末熱処理工程を経てもよい。粉末熱処理工程は、軟磁性粉末を熱処理する工程である。粉末熱処理工程では、非酸化雰囲気で1~6時間加熱する。非酸化雰囲気には、雰囲気中の0.01%等の低酸素雰囲気又は不活性ガス雰囲気が含まれる。不活性ガスとしては、H2やN2が挙げられる。熱処理温度としては、400℃以上800℃以下である。
【0037】
(評価方法)
次に、軟磁性粉末の周囲に絶縁被膜が均一に被覆しているかを評価する絶縁被膜の混合状態の評価方法について詳細に説明する。ここでいう均一とは、複数種の絶縁材料から成る絶縁被膜内において、絶縁材料が偏りなく混ざっていることを指す。本評価方法は、絶縁被膜が形成された軟磁性粉末における炭素量に基づいて評価する。本評価方法は、採取工程、乾燥工程、炭素量算出工程及びCV値算出工程を含む。
【0038】
採取工程は、軟磁性粉末に複数種の絶縁材料を混合容器で混合し、絶縁材料が付着した軟磁性粉末を採取する工程である。採取工程では、混合容器内の複数の箇所から絶縁材料が付着した軟磁性粉末を採取する。各箇所から採取する分量は、これに限定するものではないが、例えば、0.5gである。
【0039】
採取する箇所としては、少なくとも混合容器の上面側の表面から1か所、底面側から1か所採取する。混合容器の中心部分(上面と底面の間)は絶縁材料が均一に分散しやすいので、上面側及び底面側から採取することで、均一性をより正確に評価できる。
【0040】
特に、上面及び底面からそれぞれ複数個所、等間隔に採取することが好ましい。例えば、上面及び底面からそれぞれ3か所採取する場合には、120度間隔で採取することが好ましい。即ち、混合容器の上面から周方向に等間隔に3か所、当該3か所の延長線上にある前記混合容器の底面から3か所の合計6か所から採取することが好ましい。このように、等間隔の場所から採取することで、粉末全体において絶縁材料が均一に分散しているかを正確に評価できる。
【0041】
また、採取数は多い方がより好ましく、上面及び底面それぞれにおいて、4箇所以上から採取してよい。そのため、粉末を採取する場所は、混合容器の上面及び底面に限定されない。例えば、上面と底面の間の中間地点から採取してもよい。中間地点から採取する場合も、等間隔に複数個所から採取することが好ましい。
【0042】
さらに、上面、底面及び中間地点からそれぞれ複数個所採取する場合であっても、各場所で同数採取しなくてもよい。つまり、上面から3か所、底面から3か所、中間地点からは2カ所であってもよい。
【0043】
乾燥工程は、採取した絶縁材料が付着した軟磁性粉末を乾燥する工程である。乾燥工程を経ることで、複数種の絶縁材料から成る絶縁被膜が軟磁性粉末の周囲に形成される。乾燥工程は、大気中で行う。乾燥工程における乾燥温度は、例えば150℃である。また、乾燥時間は2時間程度である。
【0044】
炭素量測定工程は、各箇所から採取した軟磁性粉末の周囲に形成された絶縁被膜の炭素量を測定する工程である。炭素量の測定は、炭素分析装置など既存の装置や測定方法を用いることができる。
【0045】
CV値算出工程は、炭素量測定工程において測定された各炭素量から変動係数CV値を算出する工程である。CV値算出工程では、測定した複数の炭素量から、平均値X及び標準偏差σを算出する。そして、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出する。この変動係数CV値が0.015以下である場合には、絶縁被膜を構成する複数種の絶縁材料の偏析が抑制され、均一に混ざり合っていると判断することができる。
【0046】
(実施例)
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1~4及び比較例1~2の圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心を作製した。
【0047】
実施例1は、軟磁性粉末として、FeSiAl合金粉末を用いた。FeSiAl合金粉末を窒素雰囲気中において、650℃の温度で2時間熱処理を施した。絶縁被膜を構成する絶縁材料としては、シランカップリング剤とシリコーンレジンを用いた。本実施例では、熱処理を施したFeSiAl合金粉末を10kg、シランカップリング剤を50g、シリコーンレジンを120g添加・混合した。即ち、シランカップリング剤は、FeSiAl合金粉末に対し、0.5wt%、シリコーンレジンは、FeSiAl合金粉末に対し、1.2wt%添加した。
【0048】
FeSiAl合金粉末とシランカップリング剤及びシリコーンレジンの混合には、高速造粒撹拌機(奈良機械製作所、NMG-10L)を用いた。主軸(攪拌用の羽)の回転速度を300min-1、造粒軸(解砕用の羽)の回転速度1200min-1で回転させた。混合時間は、3分である。
【0049】
3分混合した後、まず、混合容器の上面側の表面において120度間隔に3か所から絶縁材料が付着したFeSiAl合金粉末を採取した。さらに、混合粉末を掘削し、上面側表面の3か所の延長線上にある底面側の3か所からも絶縁材料が付着したFeSiAl合金粉末を採取した。即ち、合計6か所から絶縁材料が付着したFeSiAl合金粉末を採取した。FeSiAl合金は、それぞれの箇所から60gずつ採取した。採取したそれぞれのFeSiAl合金粉末を大気中において、150℃の温度で2時間乾燥させ、FeSiAl合金粉末の周囲に絶縁被膜を形成させた。このようにして、各箇所で採取した、即ち、6種の圧粉磁心用粉末を作製した。
【0050】
作製した絶縁被膜が形成されたFeSiAl合金粉末のうち、0.5gを使用して絶縁被膜における炭素量を測定した。炭素量は、6か所から採取したFeSiAl合金粉末それぞれ測定した。炭素量の測定は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所、EMIA-Pro)を用いた。そして、6か所から測定された炭素量の平均値X、標準偏差σを算出し、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出した。これらの算出結果は、下記表1に示す。
【0051】
さらに、採取した60gのうち50gを用いて圧粉磁心を作製した。絶縁被膜が形成されたFeSiAl合金粉末に対して、潤滑剤(Acrawax(登録商標))を0.5wt%添加、混合した。潤滑剤を混合した後、潤滑剤を添加したFeSiAl合金粉末を金型に充填し、プレス成形を行い、外径16.5mm、内径11.0mm、高さ5.0mmの圧粉成形体を得た。プレス成形の圧力は、12ton/cm2で行った。作製された圧粉成形体を700℃の窒素雰囲気中において、2時間焼鈍した。これにより、圧粉磁心が作製された。この工程を6か所で採取したFeSiAl合金粉末それぞれ行い、6種の圧粉磁心を得た。
【0052】
実施例2~4及び比較例1~2の圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心は、実施例1とFeSiAl合金粉末と絶縁材料であるシランカップリング剤及びシリコーンレジンの混合時間が異なるのみで、その他材料や作製手順及び作製条件は実施例1と同一である。混合時間は、実施例2が6分、実施例3が8分、実施例4が10分、比較例1が1分、比較例2が12分である。実施例2~4及び比較例1~2の圧粉磁心用粉末についても、実施例1と同様、炭素量を測定し、炭素量の平均値X、標準偏差σを算出し、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出した。
【0053】
また、実施例1~4及び比較例1~2としてそれぞれ作製された6種の圧粉磁心について、密度、透磁率、鉄損を測定した。
【0054】
密度(g/cm3)は、見かけ密度である。圧粉磁心の外径、内径、及び高さを測り、これらの値から圧粉成形体の体積(cm3)を、π×(外径2-内径2)×高さに基づき算出した。そして、圧粉磁心の重量を測定し、測定した重量を算出した体積で除して密度を算出した。
【0055】
各透磁率の測定に際し、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として40ターン巻回した。そして、LCRメータ(Hewlett packard社製、4284A)を使用することで、100kHz、1.0Vにおける磁界の強さのインダクタンスから0A/mの初透磁率及び10kA/mの透磁率を測定した。
【0056】
また、鉄損の測定に際し、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として20ターン巻回し、また2次巻線として20ターン巻回した。そして、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社、SY-8219)を用いて、周波数が100kHz及び最大磁束密度Bmが100mTの測定条件にて鉄損Pcv(kW/m3)の測定を行った。
【0057】
以上の測定結果を表1及び表2に示す。表1に炭素量、密度の測定結果を、表2に透磁率と鉄損の測定結果を示している。また、密度のCV値、鉄損のCV値及び各透磁率のCV値を足したものを磁気特性のCV値として表3に示す。さらに、炭素量の変動係数CV値と磁気特性の変動係数CV値の関係を示すグラフを
図1に示し、混合時間と炭素量の変動係数CV値の関係を示すグラフを
図2示す。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
表1に示すように、炭素量の変動係数CV値が0.015以下の実施例1~4は、密度、鉄損、各透磁率のCV値が0.010以下となっている。一方、炭素量の変動係数CV値が0.018の比較例1は、鉄損のCV値が0.017と大きくなり、炭素量の変動係数CV値が0.021の比較例2は、初透磁率が0.033と大きくなっている。そのため、表2及び
図1に示すように、炭素量のCV値0.015以下の実施例1~4の密度、鉄損、各透磁率のCV値を足した磁気特性のCV値は、炭素量のCV値0.015を超えた比較例1~2の1/2程度になっている。これは、炭素量の変動係数CV値が0.015以下にすることで、複数種の絶縁材料から成る絶縁被膜において、偏析なく均一に絶縁材料が分散されているため、ばらつきが抑制でき、安定した磁気特性になるものと推察する。そのため、炭素量の変動係数CV値を0.015以下にすると磁気特性が安定することが確認された。
【0062】
また、表1及び
図2を見ると、混合時間が12分と1番長い比較例2の炭素量の変動係数CV値が最も大きく、
図1を見ると、磁気特性のばらつきも大きくなっている。そのため、混合時間は長時間行うのではなく、3分以上10分以下にすることで、炭素量のCV値を0.015以下にすることができ、磁気特性のばらつきを抑制できることが確認された。
【0063】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。