(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004443
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ビーム選択制御方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240109BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240109BHJP
【FI】
H04B7/06 960
H04W16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023766
(22)【出願日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2022103692
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/次世代の5次元モバイルインフラ技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】秋元 浩平
(72)【発明者】
【氏名】川村 築
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA02
5K067EE02
5K067EE10
5K067KK02
(57)【要約】
【課題】無線通信における電波の放射範囲を特定方向に向けるビームフォーミングにおいて、電波抑制効果が高くなるようにビームを選択する。
【解決手段】基地局10から放射する通信用の電波のビームフォーミングの際に、基地局10がサポートするエリア12のうち所定の範囲をホワイトスペース16として形成するために電波のビームを選択する制御方法であって、複数の選択可能な電波のビームのうち、基地局10から放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機14の数が所定数以上であり、且つ所定の範囲が最も広い場合の、基地局10から放射する電波のビームを最適ビームとして選択する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局から放射する通信用の電波のビームフォーミングの際に、前記基地局がサポートするエリアのうち所定の範囲をホワイトスペースとして形成するために電波のビームを選択する制御方法であって、
複数の選択可能な電波のビームのうち、前記基地局から放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数が所定数以上であり、且つ前記所定の範囲が最も広い場合の、前記基地局から放射する電波のビームを最適ビームとして選択することを特徴とするビーム選択制御方法。
【請求項2】
前記基地局は、複数のアンテナ素子を有し、水平方向及び垂直方向にそれぞれ複数配列されている電波のビームを選択的に放射可能なフェーズドアレイアンテナを備えており、
前記複数の電波のビームのうち、放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数が所定数以上であり、且つ前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴とする請求項1記載のビーム選択制御方法。
【請求項3】
前記複数の電波のビームのうちいずれかの電波のビームを組み合わせる際に、電波のビーム数が少ない組み合わせから順に、放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数を測定し、
放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときは、前記閾値に到達したときの電波のビーム数以下の組み合わせから前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴とする請求項2記載のビーム選択制御方法。
【請求項4】
前記複数の電波のビームのうち、垂直方向に沿った一列の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、列数を一列ずつ増加させつつ実行し、
通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの列数を基準の列数として設定し、
前記複数の電波のビームのうち、前記設定した基準の列数の範囲内で、水平方向に沿った一行の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、行数を一行ずつ増加させつつ実行し、
通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの行数を基準の行数として設定し、
前記設定した基準の列数と前記設定した基準の行数の積に該当するビームの最大個数をN個とし、前記設定した基準の列数と前記設定した基準の行数の範囲内で1個からN個までの電波のビーム全ての組み合わせにおいて電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を実行し、
1個からN個までの電波のビーム全ての組み合わせに対して予め設定した閾値に到達した組み合わせにおいて、前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴とする請求項2記載のビーム選択制御方法。
【請求項5】
前記複数の電波のビームのうち、垂直方向に沿った一列の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、列数を一列ずつ増加させつつ実行し、
通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの列数を基準の列数として設定し、
前記複数の電波のビームのうち、前記設定した基準の列数の範囲内で、水平方向に沿った一行の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、行数を一行ずつ増加させつつ実行し、
通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの行数を基準の行数として設定し、
前記設定した基準の列数と前記設定した基準の行数の範囲に存在する複数の電波のビームのうち、いずれか1個の電波のビームを減らした状態で電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定し、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値以下のときに減らした電波のビームを重要ビームとして設定する工程を、前記複数の電波のビーム全てに対して実行し、
1又は複数の重要ビームをまとめて重要ビーム群として設定し、
重要ビーム以外の電波のビームを差分ビームとして設定し、
重要ビーム群に対して差分ビームを追加した状態で電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値を超えるまで差分ビームの追加数を0個から増やして繰り返し実行し、
予め設定した閾値に到達した重要ビーム群と差分ビームとの組み合わせにおいて、前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴とする請求項2記載のビーム選択制御方法。
【請求項6】
垂直方向に沿った一列の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、列数を一列ずつ増加させつつ実行する場合には、各列は間を空けないように連続した複数の列として実行し、
水平方向に沿った一行の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、行数を一行ずつ増加させつつ実行する場合には、各行は間を空けて非連続の複数の行も含めて実行することを特徴とする請求項4又は請求項5記載のビーム選択制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信における電波の放射範囲を特定方向に向けるビームフォーミングにおいてビームを選択する制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、複数の通信キャリアによる無線通信サービスによって、携帯電話やスマートフォン等の移動体通信機における通話やデータ通信等が行われている。
各通信キャリアは、複数の基地局を鉄塔、ビルの屋上、山中等に設置し、基地局のセル内に存在する各移動体通信機との間で電波の送受信を行っている。
【0003】
一方、スマートフォンの大幅な普及増加に伴い、通信キャリアへの参入希望も相次いでいるが、複数の通信キャリアへ割り当て可能な周波数資源は限られており、周波数資源の枯渇問題が生じている。
このような周波数資源の枯渇問題は、複数の通信キャリアが周波数を共用できるようにすればよいが、複数の通信キャリアが周波数を共用するには、空き空間領域であるホワイトスペースを有効利用することが求められる。
このため、各通信キャリアの利用者の利用状況や地理的条件に基づいてホワイトスペースをデータベース化したり、実際に電波環境を計測してホワイトスペースをマップ化する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ホワイトスペースをマップ化するに際し、複数のセンサがそれぞれ受信した電波の観測値の情報を取得し、推定した電波の発射源の位置座標およびセンサからそれぞれ取得した観測値を基に、各空間座標における観測値の第1の推定値を算出し、センサの位置ごとに観測値と第1の推定値との差を残差として算出し、算出した残差の各空間座標における補間データを算出し、各空間座標それぞれにおいて第1の推定値と補間データの値を加算して各空間座標における電波の観測値の第2の推定値を算出することによって、観測対象領域全体において電波環境を正確に推定することが開示されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1の技術では、現状での電波環境を推定することにより、ホワイトスペースをマップ化しようとしているが、ホワイトスペースを増やしたり広げたりはしていない。すなわち、いずれはホワイトスペースが減少していくことも考えられるため、従来の技術では周波数枯渇問題を完全に解決しているとは言えない。
【0006】
そこで、非特許文献1に記載されているように、基地局から放射する通信用の電波のビームフォーミング制御を実行してホワイトスペースを形成しようとする提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Liu, X. Wang, G. Boudreau, A. B. Sediq and H. Abou-zeid, "Deep Learning Based Hotspot Prediction and Beam Management for Adaptive Virtual Small Cell in 5G Networks," in IEEE Transactions on Emerging Topics in Computational Intelligence, vol. 4, no. 1, pp. 83-94, Feb. 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ビームフォーミング制御を実行してホワイトスペースを形成しようとした場合、ホワイトスペース外の方向に照射した電波が、建物等の遮蔽物体によって反射してホワイトスペース内に入り込むことが考えられる。
また、ホワイトスペース形成前にはホワイトスペース内の建物等の遮蔽物体で反射した電波がホワイトスペース外の移動体通信機で受信して通信が行われているケースもあったが、ホワイトスペースを形成することによりホワイトスペース内の遮蔽物体から反射された電波を受信していた移動体通信機の通信状況が悪化するという可能性もある。
【0010】
すなわち、ホワイトスペースを形成する場合において、建物等の遮蔽物体の存在による電波の反射や屈折を原因として、ビームフォーミング制御による電波の方向性と電波抑制効果が一致しないという課題がある。
【0011】
そこで本発明は、上記の課題を解決すべくなされ、無線通信における電波の放射範囲を特定方向に向けるビームフォーミングにおいて、電波抑制効果が高くなるようにビームを選択する制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかるビーム選択制御方法によれば、基地局から放射する通信用の電波のビームフォーミングの際に、前記基地局がサポートするエリアのうち所定の範囲をホワイトスペースとして形成するために電波のビームを選択する制御方法であって、複数の選択可能な電波のビームのうち、前記基地局から放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数が所定数以上であり、且つ前記所定の範囲が最も広い場合の、前記基地局から放射する電波のビームを最適ビームとして選択することを特徴としている。
この方法を採用することによって、ビームフォーミングによりホワイトスペースを形成する際に、通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やし、且つホワイトスペースの範囲をできるだけ広くなるような最適ビームを選択することで、ホワイトスペース形成時における電波抑制効果を高くすることができる。
【0013】
また、前記基地局は、複数のアンテナ素子を有し、水平方向及び垂直方向にそれぞれ複数配列されている電波のビームを選択的に放射可能なフェーズドアレイアンテナを備えており、前記複数の電波のビームのうち、放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数が所定数以上であり、且つ前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴としてもよい。
この方法によれば、フェーズドアレイアンテナにより放射可能な電波のビームを、通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やし、且つホワイトスペースの範囲をできるだけ広くなるような最適ビームを選択してホワイトスペース形成時における電波抑制効果を高くすることができる。
【0014】
また、前記複数の電波のビームのうちいずれかの電波のビームを組み合わせる際に、電波のビーム数が少ない組み合わせから順に、放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数を測定し、放射する通信用の電波を受信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときは、前記閾値に到達したときの電波のビーム数以下の組み合わせから前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴としてもよい。
この方法によれば、最適ビームの探索において、計算量を減らして短時間で最適ビームを選択することができる。
【0015】
また、前記複数の電波のビームのうち、垂直方向に沿った一列の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、列数を一列ずつ増加させつつ実行し、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの列数を基準の列数として設定し、前記複数の電波のビームのうち、前記設定した基準の列数の範囲内で、水平方向に沿った一行の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、行数を一行ずつ増加させつつ実行し、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの行数を基準の行数として設定し、設定された基準の列数と基準の列数におけるN個の電波のビームのうち、1個からN個までの電波のビーム全ての組み合わせにおいて電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を実行し、1個からN個までの電波のビーム全ての組み合わせに対して予め設定した閾値に到達した組み合わせにおいて、前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴としてもよい。
この方法によれば、通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やし、且つホワイトスペースの範囲をできるだけ広くなるような最適ビームを選択する場合に、他の選択方法と比較して計算量が少なく且つ電波抑制効果が高いビームの選択が可能である。
【0016】
また、前記複数の電波のビームのうち、垂直方向に沿った一列の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、列数を一列ずつ増加させつつ実行し、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの列数を基準の列数として設定し、前記複数の電波のビームのうち、前記設定した基準の列数の範囲内で、水平方向に沿った一行の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、行数を一行ずつ増加させつつ実行し、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値に到達したときの行数を基準の行数として設定し、前記設定した基準の列数と前記設定した基準の行数の範囲に存在する複数の電波のビームのうち、いずれか1個の電波のビームを減らした状態で電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定し、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値以下のときに減らした電波のビームを重要ビームとして設定する工程を、前記複数の電波のビーム全てに対して実行し、1又は複数の重要ビームをまとめて重要ビーム群として設定し、重要ビーム以外の電波のビームを差分ビームとして設定し、重要ビーム群に対して差分ビームを追加した状態で電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、通信可能な移動体通信機の数が予め設定した閾値を超えるまで差分ビームの追加数を0個から増やして繰り返し実行し、予め設定した閾値に到達した重要ビーム群と差分ビームとの組み合わせにおいて、前記所定の範囲が最も広い場合の電波のビームの組み合わせを最適ビームとして選択することを特徴としてもよい。
この構成によれば、最終的に電波のビーム1個ごとの組み合わせを選択する際に、全ての組み合わせを試すのではなく、多くの移動体通信機をサポートする重要ビームを求めてからホワイトスペースの範囲をできるだけ広くなるような最適ビームを選択するので、計算時間を減らし、最適ビーム選択までの処理時間を短縮することができる。
【0017】
また、垂直方向に沿った一列の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、列数を一列ずつ増加させつつ実行する場合には、各列は間を空けないように連続した複数の列として実行し、水平方向に沿った一行の電波のビームを照射して通信可能な移動体通信機の数を測定する工程を、行数を一行ずつ増加させつつ実行する場合には、各行は間を空けて非連続の複数の行も含めて実行することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ビームフォーミングによりホワイトスペースを形成する際に、通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やし、且つホワイトスペースの範囲をできるだけ広くなるような最適ビームを選択することで、ホワイトスペース形成時に電波抑制効果を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】通信キャリアが所有する基地局と、そのサポートエリアの概略説明図である。
【
図3】
図1の状態からホワイトスペースを形成したサポートエリアの概略説明図である。
【
図4】ビームの方向性と電波抑制効果が一致しない場合の概略説明図である。
【
図5】本実施形態における最適ビーム選択方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本実施形態で用いられるフェーズドアレイアンテナの概略構成図である。
【
図7】本実施形態における最適ビーム選択のアルゴリズムの概要を説明する説明図である。
【
図8】水平方向の列のビームの組み合わせを探索する方法を示す説明図である。
【
図9】水平方向の列のビームの組み合わせを探索するアルゴリズムのフローチャートである。
【
図10】垂直方向の行のビームの組み合わせを探索する方法を示す説明図である。
【
図11】垂直方向の行のビームの組み合わせを探索するアルゴリズムのフローチャートである。
【
図12】ビーム1個ずつの組み合わせを探索する方法の第1実施形態を示す説明図である。
【
図13】ビーム1個ずつの組み合わせを探索するアルゴリズムの第1実施形態のフローチャートである。
【
図14】ビーム1個ずつの組み合わせを探索する方法の第2実施形態を示す説明図である。
【
図15】ビーム1個ずつの組み合わせを探索するアルゴリズムの第2実施形態のフローチャートである。
【
図18】第1実施形態の最適ビームの選択方法と、スポットライト選択方法において、1時間ごとの通信可能な移動体通信機の数と干渉領域(ホワイトスペース以外の領域)の面積を1か月間取得したときの平均を示す比較表である。
【
図19】第1実施形態の最適ビームの選択方法と、スポットライト選択方法において、1時間ごとの通信可能な移動体通信機の数の1日の変化を示したグラフである。
【
図20】第1実施形態の最適ビームの選択方法と、スポットライト選択方法において、通信可能及び通信不可の移動体通信機の位置をプロットした説明図である。
【
図21】第1実施形態の最適ビームの選択方法を実施した場合に、一週間前と一週間後の同じ曜日で通信可能な移動体通信機の数の割合を1時間ごとに比較したグラフである。
【
図22】第1実施形態の最適ビームの選択方法を実施した場合に、一週間前と一週間後の同じ曜日で干渉影響領域の割合を1時間ごとに比較したグラフである。
【
図23】第2実施形態の実施例におけるシミュレーション諸元の説明図である。
【
図24】ビーム1個ずつの組み合わせを探索する第1実施形態と第2実施形態の計算回数の比較表である。
【
図25】第2実施形態の最適ビームの選択方法と、スポットライト選択方法と、40ビーム選択方法において、1時間ごとの通信可能な移動体通信機の数と干渉領域(ホワイトスペース以外の領域)の面積を1か月間取得したときの平均を示す比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本実施形態におけるビームフォーミングの際のビーム選択制御方法について説明する。
図1は、任意の通信キャリアが所有する基地局と、そのサポートエリアの概略説明図である。ただし、
図1では、基地局を中心に電波が平面的に放射されているところを示している。
基地局10は、所定の周波数帯の通信用の電波を放射し、サポートエリア12内に存在する移動体通信機14(携帯電話、スマートフォンなど)に対して電波の送受信を実行する。
【0021】
ここで基地局の概略構成を
図2に基づいて説明する。
基地局10は、フェーズドアレイアンテナ20と、フェーズドアレイアンテナ20による電波の放射方向を制御できる制御部22と、ハードディスクドライブやSSD等の記憶装置24とを有している。制御部22は、CPU、ROM、RAM等から構成されており、所定のプログラムによって動作する。
フェーズドアレイアンテナ20は、複数のアンテナ素子から構成されており、指向性を有する複数の電波のビームを放射することができる。この複数のビームを制御することで、電波の放射方向の制御(ビームフォーミング)を実行できる。
また、記憶装置24には、後述するように日ごとの区分エリア毎の所定時間おきの移動体通信機14の数をデータベース化して記憶する。
なお、制御部22と記憶装置24は、1台又は複数台のコンピュータとしてもよい。
【0022】
制御部22は、本実施形態におけるビーム選択制御を実行するビーム選択制御プログラムPを読み込んで、通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やし、且つホワイトスペースの範囲をできるだけ広くなるような最適ビームを選択するように動作する。
ビーム選択制御プログラムPは、制御部22に記憶されていてもよいし、記憶装置24に記憶されていてもよい。
【0023】
図3に、
図1の状態からホワイトスペースを形成した例を示す。
図3では基地局10は、移動体通信機14が存在する方向のみに電波を放射し、電波が放射されていない領域は空き空間領域であるホワイトスペース16となる。
ホワイトスペース16は、基地局10からの所定の周波数帯の電波が無い空き空間であるため、同じ周波数帯の別の通信キャリアが使用することができる。
【0024】
図4に、ホワイトスペース形成時において、ビームの方向性と電波抑制効果が一致しない事例を示す。
ホワイトスペース16を形成した場合には、基地局10からはホワイトスペースには直接ビーム放射は行っていないが、建物等の遮蔽物体17が存在することにより、ホワイトスペース16外の領域に放射したビームが遮蔽物体17で反射してホワイトスペース16内に入り込んでしまうということが生じ得る。
【0025】
また、ホワイトスペース16内に建物等の遮蔽物体18が存在している場合、ホワイトスペース16の形成前には、ホワイトスペース16に放射したビームが遮蔽物体18で反射してホワイトスペース16外の移動体通信機14が通信可能となっていた。しかし、ホワイトスペース16を形成することにより、ホワイトスペース16内の遮蔽物体18から反射されたビームを受信していた移動体通信機14の通信状況が悪化するという事態も生じ得る。
【0026】
(最適ビーム選択の概要)
本実施形態では、通信可能な移動体通信機14の数をなるべく多くし、且つホワイトスペース16をできるだけ広く確保することにより、ビームの方向性と電波抑制効果が一致するように、
図5に示すビーム選択制御方法を採用している。
ステップS100では、制御部22は、基地局10のサポートエリア12を区分して複数の区分エリアを形成し、記憶装置24に記憶されている日ごとの区分エリア毎の所定時間おきの移動体通信機14の数に基づいて、区分エリア毎の移動体通信機14の予測数を算出する。
【0027】
次のステップS102では、制御部22は、区分エリア毎の移動体通信機14の予測数が予め設定した閾値未満の区分エリアをホワイトスペース16として形成するために、フェーズドアレイアンテナ20が放射可能な複数のビームを組み合わせてビームフォーミングを実行する。
【0028】
ステップS104では、制御部22は、ステップS102で実行されたビームフォーミングに基づいてホワイトスペースを形成した場合の各移動体通信機14の及びサポートエリア12内の各地点の電波伝搬評価を実行する。
この電波伝搬評価の評価方法としては、レイトレーシング法によるシミュレーションや、数式による電波伝搬モデル式を用いる方法があるが、本実施形態においてはどちらの方法を採用してもよい。
【0029】
ステップS106では、制御部22は、ステップS104の電波伝搬評価に基づいて、通信可能な移動体通信機14の電力評価と、ホワイトスペース16の面積の評価を実行する。
通信可能な移動体通信機14の電力評価は、移動体通信機14の電波伝搬評価に基づいて移動体通信機14それぞれが通信を確立するための所要の電力を超えるかどうかを判断する。所要の電力を超える移動体通信機14については通信可能であると判断し、通信可能と判断された移動体通信機14の数を算出する。
【0030】
ホワイトスペース16の面積の評価は、サポートエリア12内における各地点の電波伝搬評価に基づいて、通信を確立するための所要の電力以下の地点についてはホワイトスペース16として利用可能な領域と判断し、この面積を算出する。
【0031】
そして、ステップS102に戻り、別のビームの組み合わせによりビームフォーミングを実行する。
制御部22は、ステップS102~S106を繰り返し実行し、通信可能な移動体通信機14の数が所定数以上であり、且つホワイトスペース16の面積が最も広い場合の、ビームの組み合わせを最適ビームとして決定する。
【0032】
(最適ビーム選択のアルゴリズム)
以下、複数のビームの組み合わせから最適ビームを選択するアルゴリズムを、フェーズドアレイアンテナを用いた例に基づいて説明する。
まず
図6に、フェーズドアレイアンテナの概略構成を示す。
なお、ここに示すフェーズドアレイアンテナ20は、一例として放射可能なビーム21が垂直方向に4個、水平方向に10個配置されている(全ビーム放射の場合40ビームの放射が可能)構成であるが、放射可能なビーム21の数は特にこのような構成に限定するものではない。
【0033】
図6のフェーズドアレイアンテナ20は、個々のビーム21が垂直方向に25°、水平方向に12°の範囲で放射可能であり、フェーズドアレイアンテナ20全体として垂直方向に100°、水平方向に120°の範囲でビーム放射が可能である。
【0034】
図7(a)~(c)に、複数のビームの組み合わせから最適ビームを選択するアルゴリズムの概略イメージを示し、これに基づいてビーム選択の概略の方法について説明する。
まずビーム選択制御を実行する前に通信可能な移動体通信機14の数の閾値を予め設定しておく。例えば、フェーズドアレイアンテナ20の全てのビーム放射時における通信可能な移動体通信機14の数の90%を閾値とするような方法で設定することができる。
【0035】
図7(a)に示すように、まず制御部22は、垂直方向のビームを全て選択したうえで水平方向のビームの列数を一列から一列ずつ増やしつつビームを放射し、その都度通信可能な移動体通信機14の数を測定する。
そして、制御部22は、通信可能な移動体通信機14の数が閾値に到達した場合に、その列数を基準の列数とする。
なお、列数を一列ずつ増加させつつ実行する場合には、各列は間を空けないように連続した複数の列として実行する。
【0036】
次に、
図7(b)に示すように、制御部22は、水平方向のビームは基準の列数の範囲内で、垂直方向のビームの行数を一行から一行ずつ増やしつつビームを照射し、その都度通信可能な移動体通信機14の数を測定する。
そして、制御部22は、通信可能な移動体通信機14の数が閾値に到達した場合に、その行数を基準の行数とする。
なお、行数を一行ずつ増加させつつ実行する場合には、各行は間を空けて非連続の複数の行も含めて実行する。
【0037】
そして、
図7(c)に示すように、制御部22は、
図7(a)で絞り込んだ基準の列数と
図7(b)で絞り込んだ基準の行数の積に該当するビームの最大個数をN個として、基準の列数と設定した基準の行数の範囲内で1個からN個までの全てのビームの組み合わせにおいてビームを放射して通信可能な移動体通信機14の数を測定する。
制御部22は、ビーム1個からN個までの全ての組み合わせに対して通信可能な移動体通信機14の数が閾値に到達した組み合わせにおいて、ホワイトスペース16の面積が最も広い場合のビームの組み合わせを最適ビームとして選択する。
【0038】
(最適ビーム選択の詳細アルゴリズム)
(水平方向の列のビームの組み合わせを探索する方法)
次に、
図8に水平方向の列のビームの組み合わせを探索する方法をさらに詳細に示す。また、
図9は、水平方向の列の組み合わせを探索する際のフローチャートを示す。なお、ここでは水平方向の最大列数をHとし、列数をhとしている。
まず、制御部22は、水平方向の列数h=1と設定する(ステップS200)。
次に、制御部22は、水平方向に連続するビームの列hを放射する(ステップS202)。h=1の場合は、1列のみ放射する。
次に、制御部22は、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS204)。
【0039】
次に、制御部22は、列数(h=1)はそのままで、別の列について同様にビームの放射を実行し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS206)。
h=1における全ての列についてビームの放射を実行し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出した後、ステップS208へ移行する。
ステップS208では、制御部22は放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数が通信可能な移動体通信機14の数の閾値Aを超えた列の組み合わせ(h=1であれば1列のみ。nが複数であれば組み合わされた列のパターン)が有るかどうかを判定する。
【0040】
ステップS208で、閾値Aを超えた列のパターンが有った場合、制御部22は、閾値Aを超えた列のパターンを全て候補として記憶し(ステップS210)、垂直方向の行のビームの組み合わせの探索工程に移行する。
また、ステップS208で、閾値Aを超えた列のパターンが無かった場合、制御部22は水平方向の列数h=h+1と設定し(ステップS212)、ステップS202に戻り、水平方向に連続するビームの列h(一列増やした列)を放射する。
【0041】
このように、水平方向のビーム列の探索は、少ない列数から開始して、閾値Aを超えた列数で終了するため、計算量を減らして短時間での探索が可能となる。
【0042】
(垂直方向の行のビームの組み合わせを探索する方法)
次に、
図10に垂直方向の行のビームの組み合わせを探索する方法をさらに詳細に示す。また、
図11は、垂直方向の行の組み合わせを探索する際のフローチャートを示す。なお、ここでは垂直方向の最大行数をVとし、列数をvとしている。
まず、制御部22は、垂直方向の行数v=1と設定する(ステップS300)。
次に、制御部22は、水平方向のビーム列の探索結果としての閾値Aを超えた列のパターン(1又は複数のパターンの可能性がある)からいずれか1つを選択して(ステップS302)、設定した行数vのビームを放射する(ステップS304)。v=1の場合は、水平方向には閾値Aを超えた列のパターンの範囲内で、1行のみ放射する。
次に、制御部22は、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS306)。
【0043】
次に、制御部22は、行数(v=1)はそのままで、別の行について同様にビームの放射を実行し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS308)。
v=1における全ての行についてビームの放射を実行し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出した後、ステップS310に移行する。
ステップS310では、水平方向のビーム列の組み合わせの探索結果としての閾値Aを超えた列のパターンのうち、別の列のパターンからいずれか1つを選択して、ステップS302に戻り、設定した行数vのビームを放射する(ステップS304)。
【0044】
制御部22は、水平方向のビーム列の探索結果としての閾値Aを超えた列のパターン全てに対して、ステップS302~ステップS308を繰り返し実行する。
制御部22は、水平方向のビーム列の組み合わせの探索結果としての閾値Aを超えた列のパターン全てに対して、通信可能な移動体通信機14の数を算出した後、ステップS312に移行する。
ステップS312では、制御部22は、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数が通信可能な移動体通信機14の数の閾値Aを超えた行の組み合わせ(v=1であれば1行のみ。vが複数であれば組み合わされた行のパターン)が有るかどうかを判定する。
【0045】
ステップS312で、閾値Aを超えた行のパターンが有った場合、制御部22は、閾値Aを超えた行のパターンを全て候補として記憶し(ステップS314)、ビーム1個ごとの組み合わせの探索工程に移行する。
また、ステップS312で、閾値Aを超えた行のパターンが無かった場合、制御部22は垂直方向の行数v=v+1と設定し(ステップS316)、ステップS302に戻り、垂直方向に連続するビームの行v(一行増やした行)を放射する。
【0046】
(ビーム1個ごとの組み合わせを探索する方法の第1実施形態)
次に、
図12にビーム1個ごとの組み合わせを探索する方法をさらに詳細に示す。また、
図13は、ビーム1個ごとの組み合わせを探索する際のフローチャートを示す。なお、ここではステップS314で記憶された行のパターンが有するビームの最大個数をNとし、制御部22で設定するビームの個数をnとしている。
まず、制御部22は、ビームの個数n=1と設定する(ステップS400)。
次に、制御部22は、垂直方向のビーム行の探索結果としての閾値Aを超えた行のパターン(1又は複数のパターンの可能性がある)からいずれか1つを選択して(ステップS402)、この行のパターンの中から設定した個数nのビームを放射する(ステップS404)。n=1の場合は、1個のビームのみ放射する。
次に、制御部22は、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS406)。
【0047】
次に、制御部22は、nの数(n=1)はそのままで、別のビームの放射を実行し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS408)。
n=1における全てのビームの放射を実行し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出した後、ステップS410に移行する。
ステップS410では、垂直方向のビーム行の組み合わせの探索結果としての閾値Aを超えた行のパターンのうち、別の行のパターンからいずれか1つを選択して、ステップS402に戻り、設定した個数nのビームを放射する(ステップS404)。
【0048】
制御部22は、垂直方向のビーム行の組み合わせの探索結果としての閾値Aを超えた行のパターン全てに対して、ステップS402~ステップS408を繰り返し実行する。
制御部22は、水平方向のビーム列の組み合わせの探索結果としての閾値Aを超えた行のパターン全てに対して、通信可能な移動体通信機14の数を算出した後、ステップS412に移行する。
ステップS412では、制御部22は、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数が通信可能な移動体通信機14の数の閾値Aを超えたビームの組み合わせ(n=1であれば、1個のビームのみ。nが複数であれば組み合わせたビームのパターン)が有るかどうかを判定する。
【0049】
ステップS412で、閾値Aを超えたビームのパターンが有った場合、制御部22は、閾値Aを超えたビームのパターンの中から、ホワイトスペース16の面積が最も広い(干渉領域が最も狭い)ビームのパターンを検出し、検出したビームのパターンを最終的にホワイトスペース形成時のビームのパターンとして決定する(ステップS414)。
【0050】
また、ステップS412で、閾値Aを超えたビームのパターンが無かった場合、制御部22はビームの個数n=n+1と設定し(ステップS416)、ステップS404に戻り、個別のビームを組み合わせたビームを放射する。
【0051】
(ビーム1個ごとの組み合わせを探索する方法の第2実施形態)
都市部などにおいて移動体通信機14が膨大な数となった場合には、アルゴリズムに入力する移動体通信機14の端末位置データが膨大になり、その分に比例して処理時間が増加してしまう。特に、ビーム1個ごとの組み合わせを探索するときに、上記の第1実施形態では処理時間の増加が著しい。
そこで、以下にビーム1個ごとの組み合わせを探索する方法について、第1実施形態よりも処理時間を短縮できる第2実施形態について説明する。
【0052】
図14にビーム1個ごとの組み合わせを探索する方法の第2実施形態の概略説明図を示す。また、
図15~
図16にビーム1個ごとの組み合わせを探索する方法の第2実施形態のフローチャートを示す。
なお、ここではステップS314で記憶されたパターンが有するビームの個数を6個とし、
図10に示したように、ab、ac、ad、db、dc、ddであるとする。
【0053】
制御部22は、ステップS314で記憶された行のパターンが有するビームのうち、いずれか1個のビームを減らしたうえでビームを放射する(ステップS500)。
制御部22は、いずれか1個のビームを減らして放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する(ステップS502)。
【0054】
次に制御部22は、ビームを1個減らして放射した場合のビームのパターンのうち、通信可能な移動体通信機14の数が閾値A以下となったビームのパターンにおける、減らしたビームを重要ビームとして設定する(ステップS506)。
つまり、通信可能な移動体通信機14の数が閾値A以下となったということは、減らしたビームが多くの移動体通信機14をサポートする重要なビームであると考えられるためである。
【0055】
次に制御部22は、パターン内のビームのうち全てのビームを減らす対象として、ビームを放射し、放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出し、通信可能な移動体通信機14の数が閾値A以下のときには、減らしたビームを重要ビームとして設定するステップを繰り返し実行する(ステップS508)。
【0056】
上述してきたステップを
図14に基づいて具体的に説明すると、制御部22は、6個のビームab、ac、ad、db、dc、ddのうち、abを除いたac、ad、db、dc、ddの5個のビームの放射を実行して放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出し、次に6個のビームab、ac、ad、db、dc、ddのうち、acを除いたab、ad、db、dc、ddの5個のビームの放射を実行して放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出し、次に6個のビームab、ac、ad、db、dc、ddのうち、adを除いたab、ac、db、dc、ddの5個のビームの放射を実行して放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出し、次に6個のビームab、ac、ad、db、dc、ddのうち、dbを除いたab、ac、ad、dc、ddの5個のビームの放射を実行して放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出し、次に6個のビームab、ac、ad、db、dc、ddのうち、dcを除いたab、ac、ad、db、ddの5個のビームの放射を実行して放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出し、次に6個のビームab、ac、ad、db、dc、ddのうち、ddを除いたab、ac、ad、db、dcの5個のビームの放射を実行して放射したビームによって通信可能な移動体通信機14の数を算出する。
【0057】
そして、abを除いたac、ad、db、dc、ddの5個のビームの場合に通信可能な移動体通信機14の数が閾値A以下のため、abが重要ビームとなる。
また、adを除いたab、ac、db、dc、ddの5個のビームの場合に通信可能な移動体通信機14の数が閾値A以下のため、adが重要ビームとなる。
さらに、dbを除いたab、ac、ad、dc、ddの5個のビームの場合に通信可能な移動体通信機14の数が閾値A以下のため、dbが重要ビームとなる。
【0058】
次に、制御部22は、1又は複数の重要ビームをまとめて重要ビーム群とし、重要ビームに該当しないビームを差分ビームとして設定する(ステップS510)。
図14に示す例では、重要ビーム群がab、ad、dbの各ビームから構成され、重要ビーム以外のac、dc、ddの3個のビームが差分ビームとなる。
【0059】
制御部22は、重要ビーム群に対して、差分ビームをn個(n=0、1、2・・)追加してビームを放射する(ステップS512)。
制御部22は、通信可能な移動体通信機14の数を算出し(ステップS514)、通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えたか否かを判定する(ステップS516)。
【0060】
制御部22は、重要ビーム群に対して差分ビームをn個追加したときに通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えなかった場合には、差分ビームの個数を1個増やして(ステップS517)ビームの放射をすることを、通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えるまで、繰り返し実行する。
【0061】
図14に示す例では、制御部22は、重要ビーム群ab、ad、dbに対し、まず差分ビーム0個を追加して(すなわち差分ビームを追加しない)、ビームを放射して通信可能な移動体通信機14の数を算出し、通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えたか否かを判定する。制御部22は、差分ビーム0個を追加して通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えなかった場合は、次に重要ビーム群ab、ad、dbに対し、差分ビーム1個(ac、dc、ddを1個ずつ)を追加して通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えたか否かを判定する。
制御部22は、重要ビーム群に対して、差分ビームの追加数を0個、1個、2個と順に追加してビームを放射していくが、差分ビームの追加数が1個の場合には、差分ビームac、dc、ddそれぞれ1個ずつ追加したときの通信可能な移動体通信機14の数を算出する。
【0062】
制御部22は、通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えた、重要ビーム群に差分ビームを加えたビームのパターンが存在した場合、これ以上差分ビームの数を追加する工程は行わず、閾値Aを超えたビームのパターンのうちホワイトスペースの面積が最も広い(すなわち、干渉領域が最も狭い)ビームのパターンを、最終的にホワイトスペース形成時の最適ビームのパターンとして決定する(ステップS518)。
【0063】
なお、制御部22は、差分ビームが0個のときに通信可能な移動体通信機14の数が閾値Aを超えた場合には、重要ビーム群が最終的にホワイトスペース形成時の最適ビームのパターンとして決定する。
また、差分ビーム1個を追加したときに、複数の差分ビームが閾値Aを超えた場合(例えば、ac、dc、ddいずれも閾値Aを超えた場合)には、通信可能な移動体通信機14の数が最も多い重要ビーム群と差分ビームの組み合わせをホワイトスペース形成時の最適ビームのパターンとして決定する。
【0064】
(実施例1)
第1実施形態による方法でビームを選択してホワイトスペース16を形成した場合と、他の方法(スポットライト選択)によりビームを選択してホワイトスペースを形成した場合とでその効果を比較した。
なお、スポットライト選択とは、
図17に示すように、隣接する4個のビームをひとまとまりとして、このひとまとまりのビームを、水平方向及び垂直方向に移動させて全ての組み合わせから通信可能な移動体通信機14の数が最も多いパターンを選択したものである。
【0065】
図18に、
図6に示したフェーズドアレイアンテナを用いてビーム選択を実行し、1時間ごとの通信可能な移動体通信機の数と干渉領域(ホワイトスペース以外の領域)の面積を1か月間取得したときの平均を示す。
なお、この図において40ビーム累積と記載されているのは、40個の全ビームを放射した場合である。
図18によると、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合には、通信可能な移動体通信機の数の総数の90%以上を確保し、且つスポットライト選択によって最適ビームを選択した場合よりも、通信可能な移動体通信機14の平均数が5%多くなっており、干渉領域の平均面積が1%少なくなっていることが判明した。
【0066】
図19に、
図6に示したフェーズドアレイアンテナを用いてビーム選択を実行し、1時間ごとの通信可能な移動体通信機の数の1日の変化を示している。
図19によると、特に1:00~5:00、18:00において、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合の方が、スポットライト選択によって最適ビームを選択した場合よりも、通信可能な移動体通信機14の数が多くなっていることがわかる。
【0067】
図20に、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合の移動体通信機の位置と、スポットライト選択によって最適ビームを選択した場合の移動体通信機の位置を示す。色が濃い点が通信できない移動体通信機であり、色が薄い点が通信可能な移動体通信機である。
この図では、スポットライト選択では丸で囲んだエリアについて通信できない移動体通信機が複数存在することに対し、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合は丸で囲んだエリアについては通信可能になっている。
このことから、第1実施形態によって最適ビームを選択した方が、スポットライト選択よりも特定のエリアを十分にカバーできるということが分かる。
【0068】
図21に、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合の一週間前と一週間後の同じ曜日で通信可能な移動体通信機の数の割合を1時間ごとに比較したグラフを示す。
このグラフによれば、一週間後の通信可能な移動体通信機の数は、一週間前の通信可能な移動体通信機の数と比較してその平均割合が0.895であり、一週間経過しても通信可能な移動体通信機の数に大きな変化が認められず、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合において、通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やすという目的を安定して達成できることが分かる。
【0069】
なお、
図21において、11日(金)の3:00頃に、通信可能な移動体通信機の数の割合が他の時刻よりも低く、0.8未満0.7以上になっている。この時刻は該当エリアが台風による被害が生じた時刻に一致している。このように災害等が生じた場合でも少なくとも0.7以上の割合となっているため通信可能な移動体通信機の数をできるだけ増やすという目的は十分達成できていると考えられる。
【0070】
図22に、第1実施形態によって最適ビームを選択した場合の一週間前と一週間後の同じ曜日で干渉領域の割合を1時間ごとに比較したグラフを示す。
このグラフによれば、一週間後の干渉領域は、一週間前の干渉領域と比較してその平均割合が0.858である。また、曜日による変化や時刻による変化も少ないことから、ホワイトスペースの形成を安定して達成できることが分かる。
【0071】
(実施例2)
第2実施形態による方法でビームを選択してホワイトスペース16を形成した実施例2について説明する。
図23に、実施例2のシミュレーション諸元を示す。ここでは新宿駅を中心に移動体通信機のRSSIを測定しており、素子数4×8のアレーアンテナと無指向性アンテナを送信機として新宿駅北西側の高さ52mの位置に設置している。周波数帯は4.5GHz、送信電力は40dBm、反射回数は3、透過回数は0、屈折回数は1、観測点間隔は25×25mである。
【0072】
図24に、所定の一日において、ホワイトスペース形成時の最適ビームを第1実施形態によって決定した場合の計算回数と、第2実施形態によって決定した場合の計算回数との比較を示す。
なお、第1実施形態によって決定した最適ビームと第2実施形態によって決定した最適ビームは同じパターンであった。
図24によれば、特に第1実施形態での計算回数が多い1時、15時、22時において第2実施形態によって計算回数を大幅に減少させることができた。また一日全体の計算結果が第1実施形態では96610回に対し、第2実施形態では719回と計算回数を1/100以下にすることができ、処理時間の短縮化が可能となった。
【0073】
図25に、
図23に示した諸元に基づいてビーム選択を実行し、1時間ごとの通信可能な移動体通信機の数と干渉領域(ホワイトスペース以外の領域)の面積を1か月間取得したときの平均を示す。
なお、
図25において40ビーム累積と記載されているのは、40個の全ビームを放射した場合である。また、スポットライト選択は、
図17に示したように、隣接する4個のビームをひとまとまりとして、このひとまとまりのビームを、水平方向及び垂直方向に移動させて全ての組み合わせから通信可能な移動体通信機14の数が最も多いパターンを選択したものである。
【0074】
図25においてアルゴリズム9割と記載されているのは、第2実施形態において閾値Aを全体の移動体通信機の数の9割と設定した場合である。またアルゴリズム8割と記載されているのは、第2実施形態において閾値Aを全体の移動体通信機の数の8割と設定した場合である。
【0075】
図25の結果より、第2実施形態において閾値Aを全体の移動体通信機の数の9割と設定して最適ビームを選択した場合には、端末比として通信可能な移動体通信機の数の総数の90%以上を確保することができ、第2実施形態において閾値Aを全体の移動体通信機の数の8割と設定して最適ビームを選択した場合には、端末比として通信可能な移動体通信機の数の総数の80%以上を確保することができた。
このように第2実施形態による最適ビームの選択によると、スポットライト選択の場合よりも通信可能な移動体通信機の数を多く確保することができた。
また、第2実施形態による最適ビームの選択によると、40個の全ビームを放射した場合と比較して干渉領域の平均面積を軽減できることが判明した。
【符号の説明】
【0076】
10 基地局
12 サポートエリア
14 移動体通信機
16 ホワイトスペース
17 遮蔽物体
18 遮蔽物体
20 フェーズドアレイアンテナ
21 ビーム
22 制御部
24 記憶装置