IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タムラ製作所の特許一覧

特開2024-44442圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末
<>
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図1
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図2
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図3
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図4
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図5
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図6
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図7
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図8
  • 特開-圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044442
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/14 20220101AFI20240326BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20240326BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240326BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240326BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240326BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20240326BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
B22F1/14 500
H01F1/24
B22F1/16 100
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
C22C19/03 E
C22C38/00 303S
C22C38/00 303T
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149951
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】青山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石原 千生
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA08
4K018AA26
4K018AA30
4K018AB01
4K018AC01
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB04
4K018BB06
4K018BB07
4K018BC01
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC29
4K018BC30
4K018CA02
4K018CA08
4K018DA31
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA63
5E041AA01
5E041BC01
5E041BD12
5E041NN06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軟磁性粉末の周囲に均一に無機絶縁粉末が付着する圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末を提供する。
【解決手段】圧粉磁心用粉末の製造方法は、混合容器に軟磁性粉末及び無機絶縁粉末を添加し、軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末を付着させる混合工程を含む。混合工程は、軟磁性粉末及び無機絶縁粉末が混合容器内を一方向ではなく多方向に分散して飛散するように混合し、軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末を付着させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合容器に軟磁性粉末及び無機絶縁粉末を添加し、前記軟磁性粉末の周囲に前記無機絶縁粉末を付着させる混合工程を含み、
前記混合工程は、前記軟磁性粉末及び前記無機絶縁粉末が混合容器内を一方向ではなく多方向に分散して飛散するように混合していること、
を特徴とする圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項2】
前記混合容器は、底面に半球状の可撓性を有する弾性部材を備え、
前記混合工程は、前記混合容器を揺動させるとともに前記弾性部材を回転させ、前記弾性部材の伸縮を利用して前記軟磁性粉末及び前記無機絶縁粉末が前記混合容器内を一方向ではなく多方向に分散して飛散していること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程は、前記混合容器を不規則に偏心回転させること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程では、混合時間は5分以上20分以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程では、混合時間は5分以上20分以下であること、
を特徴とする請求項3に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程後において、前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末は、混合容器の上面から複数個所で採取した前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末の酸素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.023以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項7】
前記軟磁性粉末の粒子径は、1μm以上200μm以下であり、
前記無機絶縁粉末の粒子径は、7nm以上200nm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項8】
前記軟磁性粉末の粒子径は、1μm以上200μm以下であり、
前記無機絶縁粉末の粒子径は、7nm以上200nm以下であること、
を特徴とする請求項3に記載の圧粉磁心用粉末の製造方法。
【請求項9】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の周囲に付着する無機絶縁粉末と、
を備え、
前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末は、混合容器の上面から複数個所で採取した前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末の酸素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.023以下であること、
を特徴とする圧粉磁心用粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末に無機絶縁粉末を混合して成る圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車など様々な用途にリアクトルといったコイル部品が用いられている。コイル部品は、コアにコイルが装着されている。そして、このコアとしては、圧粉磁心が用いられる。
【0003】
圧粉磁心は、圧粉磁心用粉末を数ton/cm~数十ton/cmといった高い圧力でプレス成形し、圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼鈍といわれる熱処理をすることで作製される。焼鈍は、プレス成形時に生じた歪みを除去するために行われる。
【0004】
圧粉磁心用粉末は、軟磁性粉末と無機絶縁粉末を含む。無機絶縁粉末は、軟磁性粉末の周囲に付着している。軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末を付着することにより、軟磁性粉末の間を絶縁することができ、焼鈍時の熱処理温度を上げることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-145065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末が均一に付着していない場合がある。つまり、無機絶縁粉末が凝集して1箇所に固まり集まって付着したり、逆に無機絶縁粉末が付着しておらず、軟磁性粉末の表面がむき出しになっている場合がある。
【0007】
無機絶縁粉末が均一に付着していないと、軟磁性粉末の流動性が悪化し、金型の隅々まで充填されず、圧粉磁心の寸法精度や重量に影響を与える。また、シリコーン樹脂等で絶縁被膜を形成させる場合、絶縁被膜の付着も不安定になり、磁気特性に影響を与える。さらに、無機絶縁粉末が付着した軟磁性粉末を熱処理する場合、軟磁性粉末が凝固になり、ハンマー等で叩いて解砕しなければならず、生産性も悪い。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、軟磁性粉末の周囲に均一に無機絶縁粉末が付着する圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧粉磁心用粉末の製造方法は、混合容器に軟磁性粉末及び無機絶縁粉末を添加し、前記軟磁性粉末の周囲に前記無機絶縁粉末を付着させる混合工程を含み、前記混合工程は、前記軟磁性粉末及び前記無機絶縁粉末が混合容器内を一方向ではなく多方向に分散して飛散するように混合していること、を特徴とする。
【0010】
また、本発明の圧粉磁心用粉末は、軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の周囲に付着する無機絶縁粉末と、を備え、前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末は、混合容器の上面から複数個所で採取した前記無機絶縁粉末が付着した前記軟磁性粉末の酸素量の平均値をXとし、標準偏差をσとした場合、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値が0.023以下であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軟磁性粉末の周囲に均一に無機絶縁粉末が付着する圧粉磁心用粉末の製造方法及び圧粉磁心用粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】混合機から圧粉磁心用粉末を採取した場所を示す模式図である。
図2】実施例1~4及び比較例1の変動係数CV値のグラフである。
図3】倍率5000におけるSEM画像であり、(a)は実施例2のSEM画像であり、(b)は比較例1のSEM画像である。
図4】倍率10000におけるSEM画像であり、(a)は実施例2のSEM画像であり、(b)は比較例1のSEM画像である。
図5】実施例1~4及び比較例1の密度のグラフである。
図6】実施例1~4及び比較例1のヒステリシス損失、渦電流損失及び鉄損のグラフである。
図7】実施例1~4及び比較例1の初透磁率μ0及び10kA/mの透磁率μ10kのグラフである。
図8】実施例1~4及び比較例1の比抵抗値のグラフである。
図9】実施例1A~4A及び比較例1Aのラトラ値のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0014】
圧粉磁心は、OA機器、太陽光発電システム、自動車などに搭載されるコイル部品のコアに用いられる磁性体である。圧粉磁心は、圧粉磁心用粉末を押し固め、焼鈍することで成る。圧粉磁心用粉末は軟磁性粉末及び無機絶縁粉末を含む。圧粉磁心用粉末は軟磁性粉末と無機絶縁粉末を混合し、軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末が均一に付着して成る。
【0015】
圧粉磁心用粉末の周囲には、絶縁材料から成る絶縁被膜が形成されている。この絶縁被膜で被覆された圧粉磁心用粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製し、圧粉成形体を焼鈍することで圧粉磁心は作製される。
【0016】
軟磁性粉末は鉄を主成分とする。軟磁性粉末としては、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。また、軟磁性粉末として、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末を使用してもよい。軟磁性粉末の粒子径(メジアン径D50)は、1μm以上200μm以下であることが望ましい。
【0017】
Fe-Si-Al合金粉末は、例えば、Feに対して、7wt%から11wt%程度のSiと、4wt%から8wt%程度のAlとを含有させている。Fe-Si-Al合金粉末には、例えば、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよい。さらに、Fe-Si-Al合金粉末にはCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0018】
Si含有鉄合金には、Co、Al、Cr又はMnが含まれていてもよい。パーマロイ(Fe-Ni合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe-80Ni、Fe-36Ni、Fe-78Ni、Fe-47Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいてもよい。Fe-Si合金粉末は、例えば、Fe-3.5%Si合金粉末、Fe-6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であってもよい。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。
【0019】
無機絶縁粉末は、軟磁性粉末の周囲に付着する。軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末を付着させることにより、軟磁性粉末の間を絶縁することができる。無機絶縁粉末は、軟磁性粉末の周囲に均一に付着している。ここでいう均一とは、無機絶縁粉末が、軟磁性粉末の周囲に満遍なく、同量程度付着している状態をいう。換言すれば、無機絶縁粉末が凝集して固まり集まっていなかったり、無機絶縁粉末が付着しておらず軟磁性粉末の表面が露出していない状態をいう。均一に付着しているか否かは、電子顕微鏡において5000倍又は10000倍で観察することや後述する変動係数CV値が0.023以下であるか否かで確認できる。
【0020】
無機絶縁粉末が軟磁性粉末の周囲に均一に付着することで、圧粉磁心用粉末の流動性が向上し、密度が上がり、ヒステリシス損失の低減を図ることができる。また、無機絶縁粉末によって軟磁性粉末間の距離が確保され、絶縁被膜を構成するシリコーン樹脂やシランカップリング剤等の絶縁材料によるバインダー効果がよりよく得られ、強度が極めて高くなる。
【0021】
無機絶縁粉末が凝集して不均一に軟磁性粉末の周囲に付着している場合、凝集箇所に絶縁材料が付着しない又は付着量が少なくなる虞がある。絶縁材料の付着量が少ないと、当該箇所の軟磁性粉末間の結着力が弱くなり、コアの欠けやひび割れが発生しやすくなる。
【0022】
一方、本実施形態のように、無機絶縁粉末が均一に軟磁性粉末の周囲に付着している場合、絶縁材料が軟磁性粉末の周囲(厳密にいうと、軟磁性粉末の周囲に付着している無機絶縁粉末の周囲)に絶縁材料が付着しない又は付着量が少ない箇所が生じることを抑制できる。そのため、軟磁性粉末間の結着力が高まり、強度が上がる。これにより、コアの欠けやひび割れを防止できる。
【0023】
無機絶縁粉末は、アルミナ粉末、マグネシア粉末、シリカ粉末、チタニア粉末及びジルコニア粉末等を用いることができる。無機絶縁粉末の粒子径は、軟磁性粉末よりも小さい。無機絶縁粉末の粒子径(メジアン径D50)は、7nm以上200nm以下であることが望ましい。
【0024】
軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末が付着した粉末(以下、「混合粉末」ともいう)の変動係数CV値は0.023以下である。変動係数CV値は、混合容器から混合粉末を複数個所から採取し、採取した各箇所の酸素量を測定する。各測定結果から酸素量の平均値X、標準偏差σを算出する。そして、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出する。
【0025】
採取する箇所は、これに限定するものではないは、混合容器の上面の5箇所から採取する。5箇所とは、例えば、図1に示すように、円形の混合機の中心部分(図1の(1))と、周方向に沿って等間隔に4箇所中心(図1の(2)~(5)、時計でいうと12時、3時、6時、9時の位置)である。このように、1箇所からではなく、分散した複数個所の混合粉末の酸素量を測定することで、正確な変動係数CV値を算出できる。
【0026】
なお、混合機が矩形の場合は、中央と各頂点の合計5箇所でもよい。また、混合容器の上面のみではなく、混合容器の底面や上面と底面の間の中央部分から採取してもよいし、上面、底面及び中央部分それぞれから複数個所採取してもよい。
【0027】
圧粉磁心用粉末の周囲には絶縁被膜が形成されている。絶縁被膜は、絶縁材料から成る。絶縁材料としては、シラン化合物、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマーを用いることができる。また、絶縁被膜として用いる絶縁材料は、1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。2種類以上用いる場合には、各種類の絶縁被膜層を積層させてもよいし、2種類以上の絶縁材料が混合した単層であってもよい。即ち、例えば、シラン化合物とシリコーンレジンを用いる場合、圧粉磁心用粉末の周囲にシラン化合物から成る絶縁被膜層を成形させ、この絶縁被膜層の周囲にシリコーンレジンから成る絶縁被膜層を形成させてもよいし、シラン化合物とシリコーンレジンが混合した単層の絶縁被膜層を形成させてもよい。
【0028】
シラン化合物には、官能基の無いシラン化合物及びシランカップリング剤が含まれる。官能基の無いシラン化合物としては、例えばエトキシ系及びメトキシ系等のアルコキシシランを使用することができ、特にテトラエトキシシランが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。
【0029】
シラン化合物の添加量としては、軟磁性粉末に対して、0.05wt%以上、1.0wt%以下が好ましい。シラン化合物の添加量をこの範囲にすることで、軟磁性粉末の流動性を向上させるとともに、成形された圧粉磁心の密度、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0030】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O―Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた被膜を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁被膜を形成することができる。
【0031】
シリコーンレジンの添加量は、軟磁性粉末に対して、0.6wt%以上2.5wt%であることが好ましい。添加量が0.6wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.5wt%より多いと圧粉磁心の密度低下を招く。
【0032】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁被膜を形成することができる。また、絶縁被膜の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。
【0033】
シリコーンオリゴマーの添加量は、軟磁性粉末に対して0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましい。添加量が0.1wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.0wt%より多いと、圧粉磁心の密度低下を招く。
【0034】
圧粉磁心用粉末の周囲に絶縁被膜を形成させる際に、絶縁材料に加えて純水を添加してもよい。純水を添加することで、絶縁材料の反応が促進される。
【0035】
絶縁被膜が形成された圧粉磁心用粉末を金型に充填し、所定の圧力で加圧成形することで、圧粉成形体と成る。そして、この圧粉成形体を焼鈍することで、圧粉磁心と成る。
【0036】
次に、圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心の製造方法について説明する。圧粉磁心用粉末の製造方法は、混合工程を含む。圧粉磁心の製造方法は、粉末熱処理工程、絶縁被膜形成工程、潤滑剤添加工程、加圧成形工程及び焼鈍工程を含む。
【0037】
混合工程は、軟磁性粉末と無機絶縁粉末を混合容器に添加し、混合する工程である。混合工程は、軟磁性粉末及び無機絶縁粉末が全方位に飛散するように混合する。即ち、軟磁性粉末及び無機絶縁粉末は、混合容器内を一定の方向のみではなく多方向に分散して動き回る。例えば、混合容器の底面に半球状の可撓を有する弾性部材(例えば、ゴムボールなど)を設け、混合容器を揺動させるとともに弾性部材を回転させ、弾性部材の伸縮を利用して全方位的に軟磁性粉末や無機絶縁粉末を飛散させてもよい。また、混合容器を不規則に偏心回転させることで、全方位的に軟磁性粉末や無機絶縁粉末を飛散させてもよい。混合工程を経ることで、無機絶縁粉末が均一に軟磁性粉末の周囲に付着する。
【0038】
混合時間は、2分以上20分以下であることが好ましく、5分以上20分以下であることがさらに好ましい。この範囲にすることで、軟磁性粉末の周囲に無機絶縁粉末が均一に付着し、変動係数CV値が0.023以下になる。一般的には、長時間混合する方がより均一に付着するように思われるが、長時間混合すると、均一に付着した無機絶縁粉末の周囲に更に無機絶縁粉末の凝集箇所が生じてしまい、不均一に付着する虞がある。
【0039】
また、本発明は、軟磁性粉末の粒子径は1μm以上200μm以下であり、無機絶縁粉末の粒子径が7nm以上200nm以下である方が、より効果が得られる。特に、軟磁性粉末の粒子径が、1μm以上5μm以下の小さい粉末であり、無機絶縁粉末の粒子径が7nm以上200nm以下である方が、より顕著に効果が現れる。
【0040】
例えば、5μm超え200μm以下の軟磁性粉末と7nm以上200nm以下の無機絶縁粉末を混合する場合、従来のV型混合機のように多方向に分散できないと、粒径差が大きく無機絶縁粉末のみが凝集してしまう。一方、本実施形態のように、全方位的に、即ち、一方向ではなく多方向に分散させることで無機絶縁粉末の凝集を防止できる。
【0041】
また、1μm以上5μm以下の粒子径の小さい軟磁性粉末と7nm以上200nm以下の無機絶縁粉末を混合する場合、ナノサイズの無機絶縁粉末はファンデルワールス力によって軟磁性粉末同士・無機絶縁粉末同士が個々に一次凝集、二次凝集をしてしまう。しかし、本実施形態のように、全方位的に、即ち、一方向ではなく多方向に分散させることで一次凝集、二次凝集を抑制することができる。
【0042】
混合工程を経た後、粉末熱処理工程を経る。粉末熱処理工程は、圧粉磁心用粉末を熱処理する工程である。即ち、無機絶縁粉末が周囲に付着した軟磁性粉末を熱処理する工程である。粉末熱処理工程では、非酸化雰囲気で1~6時間加熱する。非酸化雰囲気には、雰囲気中の0.01%等の低酸素雰囲気、不活性ガス雰囲気又は還元ガス雰囲気が含まれる。不活性ガスとしては、Arなどの貴ガスやNが挙げられる。また、還元ガスとしては、Hが挙げられる。熱処理温度としては、400℃以上1200℃以下である。
【0043】
絶縁被膜形成工程は、圧粉磁心用粉末の周囲に絶縁被膜を形成させる工程である。絶縁被膜工程では、圧粉磁心用粉末に絶縁材料を添加、混合する。絶縁材料を混合した後、加熱乾燥させることで、圧粉磁心用粉末の周囲に絶縁被膜が形成される。加熱乾燥条件としては、これに限定されるものではないが、25℃以上350℃以下の温度で2時間程度乾燥させる。
【0044】
潤滑剤添加工程は、絶縁被膜が形成された圧粉磁心用粉末に潤滑剤を添加する工程である。潤滑剤としては、これに限定するものではないが、例えば、ステアリン酸及びその金属塩並びにエチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤の添加量は、圧粉磁心用粉末に対して、0.2wt%~0.8wt%程度であることが好ましい。この範囲にすることで、圧粉磁心用粉末間の滑りをより向上させることができる。
【0045】
加圧成形工程は、潤滑剤が添加された圧粉磁心用粉末を加圧成形することにより、圧粉成形体を作製する工程である。まず、圧粉磁心用粉末を金型に充填し、その後、5~20ton/cmで加圧する。このようにして圧粉成形体が作製される。
【0046】
焼鈍工程は、加圧成形工程を経て作製された圧粉成形体を焼鈍し、軟磁性粉末内の歪を除去する工程である。焼鈍工程では、窒素ガス中、水素ガス中、窒素と水素の混合ガス、0.01%程度の低酸素雰囲気等の非酸化性雰囲気中にて、600℃以上且つ軟磁性粉末の周囲に形成された絶縁被膜が破壊される温度(例えば、900℃とする)よりも低い温度で、圧粉成形体の熱処理を行う。この焼鈍工程を経ることで圧粉磁心が作製される。
【0047】
(実施例)
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例1~4及び比較例1の圧粉磁心用粉末及び圧粉磁心を作製した。
【0048】
まず、実施例1の圧粉磁心用粉末を作製した。軟磁性粉末としては平均粒子径が43μmの純鉄粉末を用い、無機絶縁粉末としては平均粒子径が13nmのAl粉末(アルミナ粉末)を用いた。Al粉末は、純鉄粉末に対して、1.0wt%用いた。
【0049】
純鉄粉末及びAl粉末を搖動性混合機(株式会社チヨダマシナリー、OM30SA)に添加して、混合した。本揺動性混合機は、純鉄粉末及びAl粉末が混合容器内を全方位的に飛散しながら混合される。混合時間は5分である。このようにして、実施例1の圧粉磁心用粉末を作製した。
【0050】
実施例2~4の圧粉磁心用粉末は、実施例1とは混合時間が異なるのみで、その他材料や作製手順、作製条件は実施例1と同一である。混合時間は、実施例2が10分、実施例3が15分、実施例4が20分である。
【0051】
比較例1は、実施例1と同様、軟磁性粉末としては平均粒子径が43μmの純鉄粉末を用い、無機絶縁粉末としては平均粒子径が13nmのAl粉末を用いた。Al粉末は、純鉄粉末に対して、1.0wt%用いた。そして、純鉄粉末及びAl粉末をV型混合機(株式会社徳寿工作所、V-60)に添加して、混合した。V型混合機なので、純鉄粉末及びAl粉末は、混合機内を一定の方向のみ移動して混合される。換言すれば、比較例1は、純鉄粉末及びAl粉末が全方位的に飛散していない。混合時間は5分である。このようにして、比較例1の圧粉磁心用粉末を作製した。
【0052】
作製した実施例1~4及び比較例1の各圧粉磁心用粉末を混合機から採取し、酸素量を測定した。実施例1~4及び比較例1それぞれにおいて、混合機の上面5箇所から圧粉磁心用粉末を採取した。図1に示すように、円形の混合機の中心部分(図1の(1))と、周方向に沿って等間隔に4箇所(図1の(2)~(5)から採取した。採取した量は、各箇所において、50gである。なお、比較例1は、V型混合機を用いているので、一度円形の容器に移し替え、図1に示す(1)~(5)の箇所から採取した。
【0053】
酸素量は、酸素窒素分析装置(LECO社製、TC500)を用いて測定した。測定は、採取した圧粉磁心用粉末のうち0.1gを炭素るつぼに投入し、2000℃で加熱し、発生したCO又はCOガスに対して赤外線吸収法によって酸素量を算出した。5箇所で採取した圧粉磁心用粉末それぞれに対して、酸素量を測定し、その平均値X及び標準偏差σを算出した。さらに、標準偏差σを平均値Xで除した変動係数CV値を算出した。実施例1~4及び比較例1において、それぞれ5箇所の酸素量を測定し、平均値X、標準偏差σ及び変動係数CVを算出した。
【0054】
算出した結果を表1に示す。また、図2に実施例1~4及び比較例1の変動係数CV値のグラフを示す。
【表1】
【0055】
表1及び図2に示すように、純鉄粉末及びAl粉末を全方位的に飛散させた実施例1~4の変動係数CV値は、0.023以下になっており、比較例1のCV0.0278よりも0.005程度小さくなっている。
【0056】
さらに、採取した圧粉磁心粉末のうち実施例2と比較例1において、純鉄粉末に対するAl粉末の付着具合を確認するため、電界放出型走査型電子顕微鏡(日本電子社製 JSM-7001F)によって観察した。カーボンテープに所定量の粉末を分散した状態で付着させ、真空雰囲気下にて、10kVにて二次電子像を観察し、撮影した。
【0057】
撮影結果を図3及び図4に示す。図3は、倍率5000におけるSEM画像であり、(a)は実施例2のSEM画像であり、(b)は比較例1のSEM画像である。図4は、倍率10000におけるSEM画像であり、(a)は実施例2のSEM画像であり、(b)は比較例1のSEM画像である。各SEM画像において、白い部分がAl粉末を示している。
【0058】
図3(a)及び図4(a)に示すように、実施例2には、白い部分が1箇所に固まっておらず、Al粉末が純鉄粉末の周囲に均一に分散していることがわかる。一方、比較例1は、図3(b)及び図4(b)に黒丸に示すように、白い塊が点在しており、Al粉末が凝集していることがわかる。そのため、純鉄粉末とAl粉末を混合する際には、全方位的に飛散するように混合させると、変動係数CV値が0.023以下になり、Al粉末が均一に付着することが確認された。
【0059】
また、表1や図2に示すように、実施例2、3辺りで変動係数CV値の下限のピークを向かえ、混合時間が20分の実施例4の変動係数CV値が上昇している。このことから、混合時間は長時間を行うのではなく、5分以上20分以下にすると良いことが確認された。
【0060】
そして、実施例1~4及び比較例1の圧粉磁心用粉末を用いて圧粉磁心をそれぞれ作製した。実施例1~4及び比較例1の各圧粉磁心の作製方法は同一であり、以下のとおりである。
【0061】
純鉄粉末とAl粉末を混合した後、この圧粉磁心用粉末に対して、粉末熱処理を行った。粉末熱処理は、水素及び窒素の混合ガスを注入した非酸化雰囲気において、1000℃で行った。熱処理時間は、2時間である。
【0062】
粉末熱処理を行った後、シリコーンレジン及びシランカップリング剤を添加して、圧粉磁心用粉末の周囲に絶縁被膜を形成させた。シリコーンレジンは、純鉄粉末に対して、1.8wt%、シランカップリング剤は、純鉄粉末に対して、0.5wt%添加して、1分間混合した。その後、純水を純鉄粉末に対して0.5wt%添加し、さらに1分間混合した。そして、180℃に保持されている乾燥機に2時間晒し、加熱乾燥させ、絶縁被膜を形成させた。
【0063】
絶縁被膜を形成させた後、常温になった圧粉磁心用粉末を解砕目的のため、目開き850μmの篩にかけた。その後、潤滑剤を添加し、1分間混合した。潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛を用いた。潤滑剤は、純鉄粉末に対して、0.5wt%添加した。
【0064】
潤滑剤を混合した後、潤滑剤を添加した圧粉磁心用粉末を金型に充填し、プレス成形を行い、外径20.97mm、内径12.48mm、高さ4.8mmのトロイダル状の圧粉成形体を作製した。プレス成形の圧力は、9.5ton/cmで行った。
【0065】
プレス成形した後、実施例1~4及び比較例1の圧粉成形体の密度を測定した。密度(kg/m)は、見かけ密度である。圧粉磁心の外径、内径、及び高さを測り、これらの値から圧粉成形体の体積(m)を、π×(外径-内径)×高さに基づき算出した。そして、圧粉磁心の重量を測定し、測定した重量を算出した体積で除して密度を算出した。
【0066】
算出した結果を表2に示す。また、図5に実施例1~4及び比較例1の密度のグラフを示す。
【表2】
【0067】
表2及び図5に示すように、実施例1~4の密度は、比較例1と比べて、同等以上となっている。具体的には、実施例3のみは比較例1と同じ密度であったが、実施例1、2及び4は、比較例1よりも密度が向上していることが確認された。
【0068】
さらに、実施例1~4及び比較例1の各圧粉成形体を焼鈍し、プレス成形により生じた歪みを除去した。焼鈍は、水素及び窒素の混合ガスを注入した非酸化雰囲気において、620℃で行った。熱処理時間は、2時間である。このようにして、実施例1~4及び比較例1の各圧粉磁心を作製した。
【0069】
実施例1~4及び比較例の圧粉磁心について、鉄損、透磁率、比抵抗値、ラトラ値を測定した。
【0070】
鉄損の測定に際し、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として30ターン巻回し、また2次巻線として30ターン巻回した。そして、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて、周波数が20kHz及び最大磁束密度Bmが200mTの測定条件にて鉄損Pcv(kW/m)の測定を行った。鉄損Pcvの測定結果からヒステリシス損失Phv(kW/m)と渦電流損失Pev(kW/m)とを算出した。ヒステリシス損失Phv(kW/m)と渦電流損失Pev(kW/m)は、鉄損Pcvの周波数曲線を次の式(1)~(3)で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数(Kh)、渦電流損失係数(Ke)を算出することで行った。
【0071】
Pcv =Kh×f+Ke×f・・(1)
Phv =Kh×f・・(2)
Pev =Ke×f・・(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損失係数
Ke :渦電流損失係数
f :周波数
Phv :ヒステリシス損失
Pev :渦電流損失
【0072】
測定結果を表3に示す。また、図6に実施例1~4及び比較例1のヒステリシス損失、渦電流損失及び鉄損のグラフを示す。なお、図6の棒グラフにおいて、黒く塗りつぶしているものがヒステリシス損失である。
【表3】
【0073】
表3及び図6に示すように、Al粉末が均一に付着している実施例1~4の渦電流損失は、比較例1よりも100(kW/m)程度低減している。また、ヒステリシス損失ついても、実施例1~4の方が比較例1よりも150~200(kW/m)程度低減している。このように、実施例1~4は、渦電流損失及びヒステリシス損失がともに100(kW/m)と大きく低減し、その結果、鉄損が200(kW/m)以上も大きく低減している。即ち、Al粉末を均一に付着させることによる効果が顕著に現れた。
【0074】
透磁率は、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を2本並列にして30ターン巻回した。そして、LCRメータ(Hewlett packard社製、4284A)を使用して、20kHz、1.0Vにおける磁界の強さのインダクタンスから0A/mの初透磁率μ0及び10kA/mの透磁率μ10kを測定した。
【0075】
測定結果を表4に示す。また、図7に実施例1~4及び比較例1の初透磁率μ0及び10kA/mの透磁率μ10kのグラフを示す。なお、図7の棒グラフにおいて、黒く塗りつぶしているものが初透磁率μ0である。
【表4】
【0076】
表4及び図7に示すように、Al粉末が均一に付着している実施例1~4は、比較例1よりも初透磁率μ0及び10kA/mの透磁率μ10kともに向上している。特に、実施例1~4は、純鉄粉末間の距離がAl粉末によって均一に確保され、微小なギャップが形成されているので、重畳時の10kA/mの透磁率μ10kが何れも32.5以上と比較例1よりも大きく向上している。
【0077】
比抵抗値は、比抵抗計(Loresta-GX MCP-T700、日東精工アナリテック社製)を使用し、4探針方式でトロイダルコアの円形表面を円周上に等間隔で4箇所測定し、4箇所の測定結果の平均値を算出した。
【0078】
算出結果を表5に示す。また、図8に実施例1~4及び比較例1の比抵抗値のグラフを示す。
【表5】
【0079】
表5及び図8に示すように、実施例1~4は、比較例1よりも大幅に比抵抗値が高くなっている。上述したとおり、実施例1~4の渦電流損失は、比較例1よりも100(kW/m)程度低減しており、Al粉末が均一に付着した結果、比抵抗値が向上し、渦電流損失が低減していると推察できる。
【0080】
次に、実施例1A~4A及び比較例1Aの各圧粉成形体を作製した。実施例1A~4A及び比較例1Aとして用いた材料、作製工程及び作製条件は、潤滑剤を添加する工程まで実施例1~4及び比較例1とそれぞれ同一である。例えば、実施例1Aについては、潤滑剤を添加する工程までは実施例1と同一材料、同一工程、同一条件で行った。
【0081】
実施例1A~4A及び比較例1Aの各試料は、潤滑剤を混合した後、金型に充填し、プレス成形を行い、外径11.3mm、高さ10mmの円柱形状の圧粉成形体を作製した。プレス成形の圧力は、9.0ton/cmで行った。このようにして、実施例1A~4A及び比較例1Aの各圧粉成形体を作製した。
【0082】
そして、ラトラ値を測定した。ラトラ値の測定には、ラトラ装置(INTESUKO社製)を使用した。ラトラ値は、日本粉末冶金工業会(JPMA)規格の金属圧粉体のラトラ値測定方法(JPMA P11 1992)に基づいて行った。即ち、目開き1180μmのステンレス鋼製金網が張られた円筒形の籠の中にコアを投入し、回転速度87rpmで1000回転させ、その後、圧粉成形体の重量を測定し、回転前に測定していた重量から引いて質量減少率を求めることでラトラ値を算出した。
【0083】
算出結果を表6に示す。また、図9に実施例1A~4A及び比較例1Aのラトラ値のグラフを示す。
【表6】
【0084】
表6及び図9に示すように、実施例1A~4Aのラトラ値は、比較例1Aの1/5程度であり、極めて強度が上がっていることが確認された。そのため、Al粉末を均一に純鉄粉末に付着させることで、強度が向上する圧粉磁心を作製でき、車載等の耐振動要求の高いリアクトル等のコイル部品に用いることができる。
【0085】
以上のとおり、実施例1~4は、各測定項目において、比較例1よりも少なくとも同等以上の結果になっている。特に、ラトラ値に関しては、比較例1Aの1/5程度と大幅に減少し、強度が向上している。純鉄粉末及びAl粉末を全方位的に分散、飛散させ、Al粉末を均一に純鉄粉末の周囲に付着していることで、粉末の流動性は向上し、金型の隅々まで粉末が行き渡り、強度が向上したものと思われる。
【0086】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9