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特開2024-44446印刷物の製造方法および活性エネルギー線硬化型インキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044446
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】印刷物の製造方法および活性エネルギー線硬化型インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20240326BHJP
【FI】
C09D11/101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149961
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】定国 広宣
(72)【発明者】
【氏名】辻 祐一
(72)【発明者】
【氏名】井上 武治郎
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD21
4J039BA04
4J039BA20
4J039BC52
4J039BC75
4J039BE01
4J039EA21
4J039EA48
4J039FA02
4J039GA02
4J039GA09
(57)【要約】
【課題】表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有するフィルムを用いてもインキとの密着性に優れる印刷物の製造方法と、それに好適に用いられる活性エネルギー線硬化型インキを提供すること。
【解決手段】フィルムにインキを印刷する工程、および、前記インキに活性エネルギー線を照射する工程を、この順に有する印刷物の製造方法であって、前記フィルムが、表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有し、前記インキが、(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレートおよび(d)シラノール基を有する微粒子を含有する、活性エネルギー線硬化型インキである、印刷物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムにインキを印刷する工程、および、前記インキに活性エネルギー線を照射する工程を、この順に有する印刷物の製造方法であって、前記フィルムが、表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有し、前記インキが、(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレートおよび(d)シラノール基を有する微粒子を含有する、活性エネルギー線硬化型インキである、印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記フィルムにインキを印刷する工程の前に、前記ビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を、コロナ放電処理する工程を有する、請求項1記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記(d)シラノール基を有する微粒子として、BET比表面積が50~400m/gであるヒュームドシリカ微粒子を含有する、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記(d)シラノール基を有する微粒子を、前記インキ中に0.5~5質量%含有する、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項5】
前記(b)樹脂として、酸価が30~250mgKOH/gであるアクリル樹脂を含有する、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項6】
前記(a)顔料としてカーボンブラックを含有し、さらにフタロシアニン顔料および/またはフタロシアニン顔料誘導体を含有する、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項7】
前記インキが、さらに(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体を含有する、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項8】
前記インキに活性エネルギー線を照射する工程の後に、さらに40~150℃で熱処理する工程を有する、請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記活性エネルギー線が電子線である請求項1または2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項10】
(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレート、(d)シラノール基を有する微粒子ならびに(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体を含有する、活性エネルギー線硬化型インキであって、前記(a)顔料としてカーボンブラックを含有し、さらにフタロシアニン顔料および/またはフタロシアニン顔料誘導体を含有する、活性エネルギー線硬化型インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法および活性エネルギー線硬化型インキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やカーボンニュートラルへの対応の観点から、活性エネルギー線の照射により瞬間硬化する、活性エネルギー線硬化型インキの活用が、オフセット印刷、フレキソ印刷等において進められている。食品や生活用品などの包装に用いられる軟包装は、ロールトゥロールで印刷されることが一般的であるため、インキの速乾性が重要であり、活性エネルギー線硬化型インキの適用が期待される。これまでに、フィルムなどの基材との密着性が良好な印刷物として、基材と、少なくとも活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である版を使用した印刷層とを備えた印刷物であって、前記活性エネルギー線硬化性インキ(1)が、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリルアミド、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、及びカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つのモノマーAと、活性エネルギー線に不活性な樹脂とを含有することを特徴とする印刷物(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、食品包装フィルムなどにおいてボイル殺菌やレトルト殺菌のために煮沸処理をした後にもインキとフィルムとの密着性が良好である印刷物の製造方法として、インキをフィルムに印刷する工程、前記インキが印刷された面に活性エネルギー線を照射する工程、を含む印刷物の製造方法であって、前記フィルムは、ポリアミドフィルム層と、少なくとも一方の面の最表層としてポリカーボネートポリオールがポリオール成分として用いられたポリウレタンを含む層とを含むフィルムである、印刷物の製造方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。
【0003】
一方、飲食物、医薬品、日用品などの包装材料には、内容物の劣化を抑制するために、ガスバリア性が求められる。そこで、高温熱水処理後にも優れた酸素バリア性および水蒸気バリア性を有する積層体として、基材フィルムの少なくとも一方の側に、無機化合物層と保護層とを基材フィルム側からこの順に有する積層体であって、該保護層がビニルアルコール系樹脂とポリシロキサンを含む有機無機混合物層である積層体(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-104180号公報
【特許文献2】国際公開第2021/044838号
【特許文献3】国際公開第2019/044525号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に開示される積層体は、保護層の緻密な構造により高いガスバリア性を有する。しかしながら、かかる緻密な構造を有する保護層上に、特許文献1~2に記載されるような密着性に優れる活性エネルギー線硬化型インキを印刷しても、十分に密着させることが困難であった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有するフィルムを用いてもインキとの密着性に優れる印刷物の製造方法と、それに好適に用いられる活性エネルギー線硬化型インキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主として以下の構成を有する。
(1)フィルムにインキを印刷する工程、および、前記インキに活性エネルギー線を照射する工程を、この順に有する印刷物の製造方法であって、前記フィルムが、表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有し、前記インキが、(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレートおよび(d)シラノール基を有する微粒子を含有する、活性エネルギー線硬化型インキである、印刷物の製造方法。
(2)前記フィルムにインキを印刷する工程の前に、前記ビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を、コロナ放電処理する工程を有する、(1)記載の印刷物の製造方法。
(3)前記(d)シラノール基を有する微粒子として、BET比表面積が50~400m/gであるヒュームドシリカ微粒子を含有する、(1)または(2)に記載の印刷物の製造方法。
(4)前記(d)シラノール基を有する微粒子を、前記インキ中に0.5~5質量%含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
(5)前記(b)樹脂として、酸価が30~250mgKOH/gであるアクリル樹脂を含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
(6)前記(a)顔料としてカーボンブラックを含有し、さらにフタロシアニン顔料および/またはフタロシアニン顔料誘導体を含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
(7)前記インキが、さらに(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体を含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
(8)前記インキに活性エネルギー線を照射する工程の後に、さらに40~150℃で熱処理する工程を有する、(1)~(7)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
(9)前記活性エネルギー線が電子線である(1)~(8)のいずれかに記載の印刷物の製造方法。
(10)(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレート、(d)シラノール基を有する微粒子ならびに(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体を含有する、活性エネルギー線硬化型インキであって、前記(a)顔料としてカーボンブラックを含有し、さらにフタロシアニン顔料および/またはフタロシアニン顔料誘導体を含有する、活性エネルギー線硬化型インキ。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有するフィルムに対してもインキとの密着性に優れる印刷物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「以上」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも大きいことを意味する。また、「以下」とは、そこに示す数値と同じかまたはそれよりも小さいことを意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを含む総称、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含む総称である。
【0010】
まず、本発明の第一の態様として、印刷物の製造方法について説明する。本発明の印刷物の製造方法は、フィルムにインキを印刷する工程(以下、「印刷工程」と略記する場合がある)、および、前記インキに活性エネルギー線を照射する工程(以下、「照射工程」と略記する場合がある)を、この順に有する。さらに、印刷工程の前に、ビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層(以下、「有機無機混合層」と略記する場合がある)を、コロナ放電処理する工程(以下、「コロナ放電処理工程」と略記する場合がある)を有してもよいし、照射工程の後に、照射工程により得られた硬化後の印刷物を、さらに40~150℃で熱処理する工程(以下、「熱処理工程」と略記する場合がある)を有してもよい。印刷工程においてフィルムに転写されたインキを、照射工程において活性エネルギー線により硬化させる。印刷工程の前にコロナ放電処理工程を有する場合、フィルムの有機無機混合層表面の極性官能基を増加させる作用を有する。また、照射工程後に熱処理工程を有する場合、フィルムとインキ硬化膜界面の相互作用を活発にさせる作用を有する。本発明において、フィルムは、表面にビニルアルコール系樹脂およびポリシロキサンを含有する層を有し、インキは、(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレートおよび(d)シラノール基を有する微粒子(以下、「(d)微粒子」と略記する場合がある)を含有する、活性エネルギー線硬化型インキ(以下、「インキ」と略記する場合がある)である。(a)顔料を含有することにより、インキに所望の色彩を付与し、(b)樹脂を含有することにより、インキに適した流動性を付与し、硬化後の耐水性を向上させることができる。また、(c)多官能(メタ)アクリレートを含有することにより、活性エネルギー線により硬化する特性を付与することができる。前述のとおり、本発明において用いるフィルムは、ガスバリア層として緻密な構造を有する有機無機混合層を有するため、インキの密着性に課題があった。本発明においては、(d)シラノール基を有する微粒子を含有するインキを用いることにより、かかるガスバリア層を有するフィルムであってもインキとの密着性を向上させることができる。
【0011】
(フィルム)
本発明におけるフィルムは、表面に有機無機混合層を有する。フィルム基材上にガスバリア層を有することが好ましく、ガスバリア層を2層以上有してもよい。ガスバリア層としては、有機無機混合層や、無機化合物層などが挙げられる。フィルム基材上に、無機化合物層および有機無機混合層をこの順に有することが好ましい。
【0012】
(フィルム基材)
フィルム基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリαメチルスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどのフィルムが挙げられる。これらを2種以上含有してもよいし、これらのフィルムを2層以上積層してもよい。これらの中でも、ポリエステルフィルムが好ましく、二軸延伸ポリエステルフィルムがより好ましい。
【0013】
フィルム基材の厚さは、10μm以上30μm以下が好ましい。
【0014】
(無機化合物層)
無機化合物層を形成する無機化合物としては、金属酸化物が好ましく、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、加工性やガスバリア性能の観点から、酸化アルミニウムが好ましい。
【0015】
無機化合物層の厚さは、5nm以上100nm以下が好ましい。
【0016】
無機化合物層は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法等により形成することができる。これらの中でも、生産性の観点から、真空蒸着法が好ましい。
【0017】
(有機無機混合層)
有機無機混合層は、有機化合物であるビニルアルコール系樹脂および無機化合物であるポリシロキサンを含有する。ビニルアルコール系樹脂を含有することによって、ガスバリア性能が向上する。さらにポリシロキサンを含有し、有機無機混合層中においてネットワークを形成し固定することにより、有機無機混合層を構成する成分の分子鎖の動きを抑制し、温度等の環境変化による酸素や水蒸気の透過経路の拡大を抑制することができるため、親水性の低い緻密な構造を有する。このため、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用を小さくし、ガス分子の透過経路を遮断することにより、高温熱水処理後でも優れたガスバリア性を発現すると考えられる。
【0018】
ビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコールやその誘導体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールやその誘導体が好ましく、誘導体としては、例えば、部分ケン化ポリ酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0019】
ポリシロキサンは、Si(OR)で表されるアルコキシシランの加水分解および重縮合により得ることができる。ここで、Rは、アルキル基を示す。Rとしては、低級アルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。アルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどが挙げられる。
【0020】
水、触媒、有機溶媒の存在下、アルコキシシランを加水分解する。加水分解に使用される水は、Si(OR)のアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下が好ましい。触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等の酸触媒が好ましい。有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類などが挙げられる。なお、ポリシロキサンとして、あらかじめSi(OR)が複数結合した市販のシリケートオリゴマー原料を使用することもできる。
【0021】
有機無機混合層の厚さは、100nm以上600nm以下が好ましい。
【0022】
有機無機混合層は、例えば、ビニルアルコール系樹脂およびアルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)を含む塗液を、必要に応じて無機化合物層や易接着層を形成したフィルム基材上に塗工し、加熱することにより得ることができる。加熱温度は100~180℃が好ましく、アルコキシシランの加水分解物を重縮合し、ポリシロキサンを効率的に得ることができる。
【0023】
アルコキシシラン(SiO換算)に対するビニルアルコール系樹脂の混合比(ビニルアルコール系樹脂/SiO換算アルコキシシラン)は、60/40~85/15(質量比)が好ましい。SiO換算アルコキシシランとは、アルコキシシランに含まれるケイ素原子のモル数からSiO質量に換算したものであり、前述の混合比は、ビニルアルコール系樹脂/アルコキシシラン(質量比)で表される。
【0024】
塗液の塗工方法としては、例えば、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等が挙げられる。
【0025】
(インキ)
インキは、(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレートおよび(d)微粒子を含有する。さらに、(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体を含むことが好ましい。さらに、光重合開始剤、顔料誘導体、ワックス、顔料分散剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を含有してもよい。また、溶剤を含有してもよく、インキ粘度を所望の範囲に調整することができる。
【0026】
(a)顔料
(a)顔料としては、無機顔料、有機顔料が挙げられる。無機顔料、有機顔料としては、それぞれ、国際公開第2021/44838号に例示したものが挙げられる。
【0027】
本発明においては、有機顔料が好ましく、前記フィルムとインキとの密着性をより向上させることができる。この原因については、ほぼすべての有機顔料に共通して含まれる窒素を含む官能基が、有機無機混合層の極性基、特にカルボキシル基と強く相互作用することによると考えられる。例えば、墨インキにおいては、黒色性の観点から、カーボンブラックが主に用いられるが、カーボンブラックとともに有機顔料を含有することにより、密着性をより向上させることができる。カーボンブラックと組み合わせる有機顔料としては、フタロシアニン顔料が好ましい。また、有機顔料に替えて、フタロシアニン顔料骨格にアミノ基等の極性基が導入された、フタロシアニン顔料誘導体をカーボンブラックとともに含有することも好ましく、フタロシアニン顔料と同様に密着性をより向上させることができる。
【0028】
墨インキにおける、フタロシアニン顔料およびフタロシアニン顔料誘導体の合計含有量は、カーボンブラック100質量部に対して、5~30質量部が好ましい。フタロシアニン顔料およびフタロシアニン顔料誘導体を合計5質量部以上含有することにより、密着性をより向上させることができる。一方、フタロシアニン顔料およびフタロシアニン顔料誘導体の合計含有量を30質量部以下とすることにより、墨の色再現性を向上させることができる。ここで、フタロシアニン顔料およびフタロシアニン顔料誘導体の合計含有量とは、これらのいずれかのみを含有する場合にはその含有量を、両方を含有する場合にはそれらの含有量の合計を指す。
【0029】
インキ中における(a)顔料の含有量は、15質量%以上、40質量%以下が好ましい。
【0030】
(b)樹脂
(b)樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。カルボキシル基を有することにより、インキの水洗浄性や、平版印刷時の耐地汚れ性を向上させることができる。カルボキシル基を有する樹脂としては、アクリル樹脂が好ましく、酸価は、30mgKOH/g以上250mgKOH/g以下が好ましい。樹脂の酸価を30mgKOH/g以上とすることにより、フィルムとの密着性、樹脂の水系洗浄液への溶解性、顔料の分散性、耐地汚れ性をより向上させることができる。樹脂の酸価は、75mgKOH/g以上がより好ましい。一方、樹脂の酸価を250mgKOH/g以下とすることにより、インキ硬化後の耐水性を向上させることができる。樹脂の酸価は、150mgKOH/g以下がより好ましい。ここで、樹脂の酸価は、JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に準拠して求めることができる。
【0031】
(b)樹脂は、エチレン性不飽和基を有することが好ましく、インキの活性エネルギー線硬化性や硬化後の硬化膜の耐水性をより向上させることができる。
【0032】
インキ中における(b)樹脂の含有量は、印刷に適したインキの粘度に容易に調整する観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。一方、(b)樹脂の含有量は、インキの流動性とローラー間における転移性を向上させる観点から、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0033】
(c)多官能(メタ)アクリレート
(c)多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を1分子あたり2個以上有する化合物を指す。
【0034】
また(c)多官能(メタ)アクリレートは、安全・環境の観点から、揮発性が低いことが好ましい。揮発性が低いとは、アメリカ環境保護庁(EPA)のMethod24で定義される、110℃で1時間加熱した際の重量減少率が1重量%以下であることを指す。
【0035】
(c)多官能(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、テトラエチレンオキシド付加体等が挙げられる。3官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、テトラエチレンオキシド付加体等が挙げられる。4官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体等が挙げられる。5官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0036】
これらの中でも、硬化性の観点から、1分子あたりの(メタ)アクリロイル基の数が多いものが好ましく、5官能のジペンタエリスリトールペンタアクリレートや、6官能のジペンタエリスリトールヘキサアクリレートや、これらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体等が好ましい。
【0037】
インキ中における(c)多官能(メタ)アクリレートの含有量は、50質量%以上、70質量%以下が好ましい。
【0038】
(d)シラノール基を有する微粒子
本発明における微粒子とは、比表面積平均粒径1,000nm以下の粒子を指す。ここで、比表面積平均粒径は、BET法により測定された比表面積から得られる平均粒径であり、次式により算出される。
比表面積平均粒径(m)=6/pS(p:密度(g/m)、S:比表面積(m/g))。
【0039】
(d)シラノール基を有する微粒子としては、ヒュームドシリカ微粒子や、シルセスキオキサン微粒子等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、ヒュームドシリカ微粒子が好ましく、フィルムとの密着性をより向上させることができる。
【0040】
ヒュームドシリカ微粒子は、シリカ微粒子の表面にシラノール基を有する。シラノール基が、有機無機混合層に存在するカルボニル基やカルボキシル基などと水素結合等により相互作用することによって、前述のフィルムとの密着性をより向上させることができると考えられる。
【0041】
ヒュームドシリカ微粒子のBET比表面積は、50~400m/gが好ましい。BET比表面積を50m/g以上とすることにより、印刷物の色濃度を高め、また、フィルムとの密着性をより向上させることができる。BET比表面積は、100m/g以上がより好ましい。一方、BET比表面積を400m/g以下とすることにより、インキのチキソトロピー性を適度に抑え、印刷物の色濃度を高めることができる。BET比表面積は、300m/g以下がより好ましい。ここで、ヒュームドシリカ微粒子のBET比表面積は、JIS Z 8830:2013に準拠して吸着質として窒素ガスを用いたキャリアガス法により求めることができる。
【0042】
インキ中における(d)微粒子の含有量は、0.5~5.0質量%が好ましい。(d)微粒子の含有量を0.5質量%以上とすることにより、密着性をより向上させることができる。(d)微粒子の含有量は、1.0質量%以上がより好ましい。一方、(d)微粒子の含有量を5.0質量%以下とすることにより、インキのチキソトロピー性を適度に抑え、印刷物の色濃度を向上させることができる。
【0043】
(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体
(e)イソシアヌル酸およびイソシアヌル酸誘導体は、2級アミノ基を有し、有機無機混合層に含まれるカルボキシル基と相互作用することにより、インキとフィルムとの密着性をより向上させることができると考えられる。(a)顔料として、表面に窒素原子を有しないカーボンブラックを用いた場合、かかる効果が顕著に奏されるため、墨インキに(e)イソシアヌル酸および/またはイソシアヌル酸誘導体を含有することがより効果的である。
【0044】
(e)イソシアヌル酸またはイソシアヌル酸誘導体としては、例えば、イソシアヌル酸、イソシアヌル酸との互変異性を有するシアヌル酸、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリス(2-ヒドロキシエチル)、イソシアヌル酸トリス[(トリメトキシシリル)プロピル]、イソシアヌル酸トリアリル等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0045】
インキ中における(e)イソシアヌル酸およびイソシアヌル酸誘導体の合計含有量は、3~20質量%以下が好ましい。これらの合計含有量を3質量%以上とすることにより、フィルムとの密着性をより向上させることができる。これらの合計含有量は、5質量%以上がより好ましい。一方、これらの合計含有量を20質量%以下とすることにより、インキの保存安定性を維持することができる。これらの合計含有量は、15質量%以下がより好ましい。
【0046】
(その他添加剤)
光重合開始剤としては、例えば、α-アミノアルキルフェノン類、チオキサントン類、ベンジルケタール類、アシルホスフィンオキシド類などが挙げられる。
【0047】
前述のインキは、例えば、(a)顔料、(b)樹脂、(c)多官能(メタ)アクリレート、(d)微粒子および必要に応じて光重合開始剤やその他添加剤、溶剤などを混合した後、粘度に応じて分散または混練することにより得ることができる。混合温度は、室温~80℃が好ましく、混合装置としては、ミキサーなどが挙げられる。混合後または混合の過程において、真空または減圧条件下で脱泡することも好ましい。分散または混練装置としては、例えば、アトライター、ボールミル、サンドミル、三本ロールミル等が挙げられる。
【0048】
(印刷物の製造方法)
次に、本発明の印刷物の製造方法における各工程について説明する。
【0049】
(印刷工程)
インキをフィルムへ印刷する方法としては、例えば、フレキソ印刷、平版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、バーコーター塗布等が挙げられる。高速で大量の印刷が可能であることから、平版印刷が好ましく用いられる。
【0050】
平版印刷には、水なし平版印刷版を用いる方式と、水あり平版印刷版を用いる方式がある。本発明の印刷物の製造方法においては、水なし平版印刷版を用いることが好ましい。水なし平版印刷版を用いる方式では、印刷時に湿し水を用いないため、インキに活性エネルギー線を照射した際にラジカルを安定的に発生させられる。そのため、インキを十分に硬化させ、インキとフィルムとの密着性をより向上させることができる。
【0051】
印刷物上のインキの厚みは、0.1~50μmが好ましい。
【0052】
(照射工程)
照射工程において用いられる活性エネルギー線源としては、例えば、紫外線、電子線、ガンマ線などが挙げられる。活性エネルギー線照射により、(メタ)アクリロイル基が反応し、共有結合で架橋することにより、活性エネルギー線硬化型インキが瞬時に硬化される。活性エネルギー線としては、紫外線や電子線などが挙げられる。それぞれの線源および照射装置、電子線の加速電圧および線量としては、国際公開第2021/44838号において例示したものが挙げられる。
【0053】
(コロナ放電処理工程)
本発明で用いるフィルムは、前述のとおり、表面に有機無機混合層を有し、有機無機混合層の表面にインキを印刷する。印刷工程に先立ち、有機無機混合層表面にコロナ放電処理を施すことが好ましく、有機無機混合層の表面を酸化して極性官能基を増加することにより、インキとの密着性をより向上させることができる。コロナ放電処理により生じる極性官能基は、時間とともに減少することから、コロナ放電処理工程は、印刷工程の直前に行うことが好ましく、印刷機上でインラインコロナ放電処理を実施することがより好ましい。
【0054】
(熱処理工程)
熱処理工程において、インキ中に含まれる、(a)顔料や(d)シラノール基を有する微粒子等の成分と、有機無機混合層の極性官能基との相互作用を活性化させ、インキとフィルムとの密着性をより向上させることができる。
【0055】
熱処理工程は、照射後直ちに実施してもよいし、ラミネート等の後加工の後に実施してもよい。照射工程後に実施する場合、印刷機上でインライン熱処理を実施してもよい。
【0056】
熱処理温度は、密着性をより向上させる観点から、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。一方、熱処理温度は、フィルムに対する熱履歴を抑える観点から、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。熱処理時間は、熱処理温度に応じて設定することができる。例えば、熱処理温度が60℃であれば、熱処理時間は48時間程度が好ましく、熱処理温度が80℃であれば、熱処理時間は12時間程度が好ましく、熱処理温度が120℃であれば、熱処理時間は30分間程度が好ましい。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0058】
[測定・評価方法]
(1)酸素透過率
後述するフィルム1~2について、温度23℃、湿度90%RHの条件で、モコン社製の酸素透過率測定装置(“OX-TRAN”(登録商標)2/21)を使用して、酸素透過率を測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を酸素透過率の値とした。
【0059】
(2)水蒸気透過率
後述するフィルム1~2について、温度40℃、湿度90%RHの条件で、モコン社製の水蒸気透過率測定装置(“PERMATRAN”(登録商標)-W3/31)を使用して、水蒸気透過率を測定した。測定は2枚の試験片について2回ずつ行い、合計4つの測定値の平均値を水蒸気透過率の値とした。
【0060】
(3)印刷物の色濃度
各実施例・比較例で得られた印刷物のベタ部分について、分光測色計“X-Rite”(登録商標)eXact(Advance)(Xrite社製)を用いて、色濃度を測定した。
【0061】
(4)剥離強度
各実施例・比較例で得られた印刷物に、混合ラミネート接着剤(三井化学(株)製“タケラック”(登録商標)A626/“タケネート”A50)を、塗工量3.0g/mとなるように塗工し、厚み60μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)(東レフィルム加工(株)製ZK-297)によりラミネートした。その後、40℃で3日間エージングし、ラミネートサンプルを得た。得られたラミネートサンプル中の活性エネルギー線硬化型インキの塗工部分を15mm幅で短冊状に裁断し、テンシロン万能試験機((株)オリエンテック製RTG-1210)を用いて、剥離速度:300mm/分、剥離角度:90°の条件で剥離試験を行い、剥離強度を測定した。測定は5枚の試験片について行い、合計5つの測定値の平均値を剥離強度の値とした。
【0062】
(5)レトルト後剥離強度
上記(4)と同様にして得られたラミネートサンプルを、120℃の熱水に30分間浸漬させて、レトルト後剥離強度評価サンプルを得た。得られたレトルト後剥離強度評価サンプルを用いて、上記(4)と同様にして剥離試験を行い、レトルト後剥離強度を測定した。
【0063】
(6)BET比表面積測定
後述するシラノール基を有する微粒子1~6およびシラノール基を有さない微粒子1のBET比表面積は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製“Macsorb”(登録商標)HM model-1201)を用い、JIS Z 8830:2013に準拠して、吸着質として窒素ガスを用いたキャリアガス法により求めた。
【0064】
次に、各実施例および比較例において用いた材料について以下に示す。
【0065】
[製造例1:フィルム1]
フィルム基材として、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー”(登録商標)P60)を使用し、無機化合物層として、真空蒸着法により厚さ15nmの酸化アルミニウム層を形成した。
【0066】
ビニルアルコール系樹脂として、ポリビニルアルコール(重合度:1,700、ケン化度:98.5%)を、水/イソプロピルアルコール=97/3(質量比)の混合溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%のポリビニルアルコール溶液を得た。
【0067】
テトラエトキシシラン11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴して、テトラエトキシシラン加水分解液を得た。一方で、直鎖状ポリシロキサンとしてコルコート(株)製エチルシリケート40(平均5量体のエチルシリケートオリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、5量体エチルシリケート加水分解液を得た。5量体エチルシリケート加水分解液とテトラエトキシシラン加水分解液を、SiO換算固形分の質量比が15/85になるように混合し、アルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)を含む塗液を得た。
【0068】
上記のポリビニルアルコール溶液とアルコキシシラン(アルコキシシランの加水分解物を含む)を含む塗液を、ポリビニルアルコール/SiO換算アルコキシシラン=85/15(固形分質量比)になるように混合・撹拌し、水により希釈して固形分12質量%の塗液を得た。この塗液を、無機化合物層上にバーコーターを用いて塗工し、130℃で加熱して有機無機混合層を形成した。
【0069】
[製造例2:フィルム2]
有機無機混合層を形成しなかったこと以外は製造例1と同様にして、無機化合物層を有するPETフィルムを得た。
【0070】
フィルム1~2について、前述の方法により酸素透過率と水蒸気透過率を測定した結果を表1に示す。有機無機混合層を有するフィルム1はガスバリア性に優れる。
【0071】
【表1】
【0072】
[インキ原料]
顔料1:“MOGUL”(登録商標)E(キャボット社製) カーボンブラック顔料
顔料2:シアニンブルー4920 (大日精化工業(株)製) フタロシアニン顔料
顔料3:カーミン6B 1483LT(大日精化工業(株)製) モノアゾレッド顔料
顔料4:LIONOL YELLOW TT1405G(トーヨーカラー(株)製) ジスアゾイエロー顔料
顔料誘導体1:“ソルスパース”(登録商標)5000 (日本ルーブリゾール(株)製) フタロシアニン系顔料誘導体
樹脂1:25質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、50質量%のメタクリル酸からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.55当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、エチレン性不飽和基と親水性基を有するアクリル樹脂を得た。得られた樹脂は重量平均分子量34,000、酸価105mgKOH/g、ヨウ素価2.0mol/kgであった。
多官能(メタ)アクリレート1:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物“Miramer”(登録商標)M340 MIWON社製 分子量298
多官能(メタ)アクリレート2:トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M3190 分子量692
多官能(メタ)アクリレート3:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート MIWON社製、“Miramer”(登録商標)M600 分子量578
シラノール基を有する微粒子1:“アドマナノ”(登録商標)YA010C (株)アドマテックス製 ヒュームドシリカ微粒子 BET比表面積300m/g 比表面積平均粒径10nm
シラノール基を有する微粒子2:“アエロジル”(登録商標)200 日本アエロジル(株)製 ヒュームドシリカ微粒子 BET比表面積200m/g 比表面積平均粒径14nm
シラノール基を有する微粒子3:“アエロジル”(登録商標)380 日本アエロジル(株)製 ヒュームドシリカ微粒子 BET比表面積380m/g 比表面積平均粒径7nm
シラノール基を有する微粒子4:“アエロジル”(登録商標)130 日本アエロジル(株)製 ヒュームドシリカ微粒子 BET比表面積130m/g 比表面積平均粒径21nm
シラノール基を有する微粒子5:“アドマナノ”(登録商標)YA050C (株)アドマテックス製 ヒュームドシリカ微粒子 BET比表面積65m/g 比表面積平均粒径46nm
シラノール基を有する微粒子6:“アドマナノ”(登録商標)YA100C (株)アドマテックス製 ヒュームドシリカ微粒子 BET比表面積30m/g 比表面積平均粒径100nm
シラノール基を有さない微粒子1:“アエロキシド”(登録商標)AluC 日本アエロジル(株)製 ヒュームドアルミナ微粒子 BET比表面積100m/g 比表面積平均粒径17nm
イソシアヌル酸またはイソシアヌル酸誘導体1:シアヌル酸 東京化成工業(株)製
イソシアヌル酸またはイソシアヌル酸誘導体2:イソシアヌル酸トリス(2-ヒドロキシエチル))アクリル酸エステル MIWON社製 “Miramer”(登録商標)M370。
【0073】
[実施例1]
[インキの作製]
表2に示す組成で各材料を秤量し、ハイブリッドミキサー((株)シンキー製)を用いて、溶解・分散した後、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M-80S(EXAKT社製)により混練し、活性エネルギー線硬化型インキを得た。
【0074】
[実施例1]
水なし平版印刷版(TAN-E、東レ(株)製)を、センターインプレッション型印刷機(CI-8、COMEXI社)の1胴目に設置し印刷機付属のコロナ処理装置を用いて、製造例1により得られたフィルム1の有機無機混合層側にコロナ照射した(コロナ放電処理工程)。コロナ処理条件は、下記で定義される放電量が50になる条件とした。
放電量(W・分/m)=放電電力(W)/(放電電極幅(m)×フィルム送り速度(m/分))。
【0075】
コロナ放電処理を施したフィルム1に、前述の[インキの作製]工程において得られたインキを用いて、インキ送り量:5%、圧胴用チラー設定温度:25℃、揺動ローラーおよびインキ壺用チラー設定温度:28℃の条件で、ブランケットにT414((株)金陽社製、厚み1.95mm)を用い、100m/分の速度で印刷した(印刷工程)。
【0076】
続いて、印刷機付属の電子線照射装置を用いて、加速電圧:100kV、照射量:30kGyの条件で電子線を照射し、インキを硬化させ印刷物を得た(照射工程)。
【0077】
得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0078】
[実施例2~8]
インキ組成を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により印刷物を得た。得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0079】
[実施例9]
コロナ処理工程を実施しなかったことと、照射工程の後、印刷物を80℃のオーブン中に12時間静置した(熱処理工程)こと以外は実施例1と同様の方法により印刷物を得た。得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0080】
[実施例10]
照射工程の後、印刷物を80℃のオーブン中に12時間静置した(熱処理工程)こと以外は実施例1と同様の方法により印刷物を得た。得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0081】
[実施例11]
コロナ放電処理工程を実施しなかったこと以外は実施例1と同様の方法により印刷物を得た。得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表2に示す。
【0082】
[実施例12~20]
インキ組成を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により印刷物を得た。得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表3に示す。
【0083】
[比較例1~2]
インキ組成を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により印刷物を得た。得られた印刷物について、前述の方法により評価した結果を表3に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】