(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044450
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20240326BHJP
B28B 1/00 20060101ALI20240326BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20240326BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C04B35/64
B28B1/00 C
C04B35/622 040
C04B35/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149966
(22)【出願日】2022-09-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへのCO2利用技術開発/「マイクロ波によるCO2吸収焼結体の研究開発(CO2-TriCOM)」」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594127330
【氏名又は名称】中国高圧コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中本 健二
(72)【発明者】
【氏名】玉井 孝謙
(72)【発明者】
【氏名】河内 友一
(72)【発明者】
【氏名】福本 直
(72)【発明者】
【氏名】宮本 将太
(72)【発明者】
【氏名】黒岡 浩平
(72)【発明者】
【氏名】天道 一成
(72)【発明者】
【氏名】畝川 了
(72)【発明者】
【氏名】樫村 京一郎
(57)【要約】
【課題】石炭灰と廃コンクリート等のCa源とを混合させた混合物を用いて二酸化炭素を吸収させた二酸化炭素吸収焼結体を製造するに当たり、焼結時に炭酸カルシウムとして吸収された状態が分解されることを抑制し、また、フライアッシュに含まれる未燃炭素の燃焼により二酸化炭素が放出されることを抑制することが可能な二酸化炭素吸収焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】石炭灰(例えば、フライアッシュ)に対してCa源(例えば、廃コンクリート)を混合させた混合物に二酸化炭素雰囲気下でマイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで二酸化炭素吸収焼結体を製造するに当たり、混合物を、マイクロ波の磁界による加熱によって昇温させるようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰に対してCa源を混合させた混合物に二酸化炭素雰囲気下でマイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで二酸化炭素吸収焼結体を製造する方法であって、
前記混合物を、前記マイクロ波の磁界による加熱によって昇温させたことを特徴とする二酸化炭素吸収焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記石炭灰は、フライアッシュであり、前記Ca源は、廃コンクリート紛であることを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素吸収焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロ波の磁界による加熱によって混合物を600℃~1000℃の範囲で焼結させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素吸収焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記混合物にNa源を更に加えて前記マイクロ波を照射させることを特徴とする請求項1又は2に記載の二酸化炭素吸収焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記混合物にNa源を更に加えて前記マイクロ波を照射させることを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素吸収焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰と廃コンクリート等のCa源とを混合させた混合物を用いて二酸化炭素を吸収させた二酸化炭素吸収焼結体を製造する方法に関し、特に、焼結体の製造時に二酸化炭素の放出を低減することが可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュは、火力発電所で化石燃料を燃焼させた場合の主な副産物であり、世界中で年間約5億トンが生成されている。このフライアッシュには、約20質量%の未燃炭素が含まれている。したがって、多くの研究者は、生成されるフライアッシュの量を減らす方法、または残留炭素を除去する方法を模索してきている(非特許文献1~3参照)。
【0003】
本出願人も、石炭火力発電所から排出される石炭灰(フライアッシュ)と電柱の製造・リサイクル時に発生する廃コンクリート(Ca源)を混合させた混合物にマイクロ波を照射させ、マイクロ波による昇温工程や焼結体を降温させる降温工程で二酸化炭素を炭酸カルシウムとして吸収させて二酸化炭素吸収焼結体を製造する技術を開発してきている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Miyake M, Kimura Y, Ohashi T, Matsuda M. Preparation of activated carbon-zeolite composite materials from coal fly ash. Microporous Mesoporous Mater 2008;112:170-7. https://doi.org/10.1016/j.micromeso.2007.09.028.
【非特許文献2】Yang L, Li D, Zhu Z, Xu M, Yan X, Zhang H. Effect of the intensification of preconditioning on the separation of unburned carbon from coal fly ash. Fuel 2019;242:174-83. https://doi.org/10.1016/j.fuel.2019.01.038.
【非特許文献3】Murayama N, Yamamoto H, Shibata J. Zeolite synthesis from coal fly ash by hydrothermal reaction using various alkali sources. J Chem Technol Biotechnol 2002;77:280-6. https://doi.org/10.1002/jctb.604.
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マイクロ波を照射させる昇温工程において、マイクロ波を調整することなく混合物に照射すると、吸収された炭酸カルシウムが、酸化カルシウムと二酸化炭素に分解され、二酸化炭素の吸収状態が解消される不都合が確認されている。また、焼結時においては、石炭灰(フライアッシュ)に含まれている未燃炭素の燃焼により二酸化炭素が放出される恐れもあるため、これを抑制することも要請される。
【0007】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、石炭灰と廃コンクリート等のCa源とを混合させた混合物を用いて二酸化炭素を吸収させる二酸化炭素吸収焼結体を製造するに当たり、マイクロ波による昇温時に二酸化炭素を炭酸カルシウムとして混合物に吸収させた状態が分解されることを抑制し、また、石炭灰に含まれる未燃炭素の燃焼による二酸化炭素の放出を抑制することが可能な二酸化炭素吸収焼結体の製造方法を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明に係る二酸化炭素吸収焼結体の製造方法は、石炭灰に対してCa源を混合させた混合物に二酸化炭素雰囲気下でマイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで二酸化炭素吸収焼結体を製造する方法であって、前記混合物を、前記マイクロ波の磁界による加熱(磁界による寄与が最大となる加熱)によって昇温させたことを特徴としている。
すなわち、マイクロ波による磁界加熱を採用し(混合物に照射されるマイクロ波を磁界成分とし)、電界の寄与による加熱を無くす又は最小にすることで二酸化炭素吸収焼結体を製造することを特徴としている。
【0009】
マイクロ波による電界加熱(電界の寄与が最大となる加熱)を行った場合には、300℃付近まで昇温した時点で二酸化炭素の放出が顕著に表れたが、マイクロ波の磁界加熱(磁界の寄与が最大となる加熱)を行った場合には、1000℃付記まで加熱しても二酸化炭素の急激な放出は認められなかった。このことから、二酸化炭素雰囲気下においてマイクロ波の磁界加熱を採用することで、混合物に吸収された炭酸カルシウムや混合物に混在する未燃炭素の加熱が抑制され、二酸化炭素の放出を抑制することが可能となる。
【0010】
ここで、石炭灰としては、フライアッシュを利用し、Ca源としては、コンクリート廃棄物(コンクリートスラッジ、電柱の製造・リサイクル時に発生する廃コンクリート)や、鉄鋼スラグなどのCa分を豊富に含んだ粉末を用いるとよい。
また、磁界加熱において1000℃付近で二酸化炭素の放出が多くなることから、マイクロ波による磁界加熱によって混合物を焼結させる場合には、混合物を600℃~1000℃の範囲で焼結させるようにすることが好ましい。
なお、昇温特性を良くするために、混合物にNa源を更に加えて磁界加熱を行うようにしても、また、昇温工程において二酸化炭素の放出をさらに抑えるために、水を添加するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によれば、石炭灰に対してCa源を混合させた混合物に二酸化炭素雰囲気下でマイクロ波を照射させて焼結温度以上に昇温させることで二酸化炭素吸収焼結体を製造するにあたり、混合物をマイクロ波の磁界による加熱を行うことで昇温させるようにしたので、昇温時に混合物に吸収された炭酸カルシウムや混合物に混在する未燃炭素の加熱が抑制され、二酸化炭素の放出を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、石炭灰(フライアッシュ)に廃コンクリートの代替として炭酸カルシウム(CaCO3)粉末を混合させた混合物を電界加熱した場合の混合物の温度と二酸化炭素の放出量との経時変化を示す線図である。
【
図2】
図2は、石炭灰(フライアッシュ)に廃コンクリートの代替として炭酸カルシウム(CaCO3)粉末を混合させた混合物を磁界加熱した場合の混合物の温度と二酸化炭素の放出量との経時変化を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき説明する。
石炭灰を用いて二酸化炭素吸収焼結体(二酸化炭素を炭酸カルシウムとして吸収固定させた焼結体)を生成するために、本発明においては、石炭灰にCa源とNa源を混合させ、この混合物をマイクロ波を利用して焼結温度以上に昇温させて焼結させ、その過程で二酸化炭素(CO2)を吸収させるようにしている。
石炭灰としては、微粉炭をボイラ内で燃焼することによって生成された灰であればクリンカアッシュであっても、シンダーアッシュであっても、フライアッシュを用いてもよいが、ここでは、ボイラ出口において電気集じん器で捕集された最も多量に生成されるフライアッシュを用いた場合について説明する。
このフライアッシュのマイクロ波吸収は、炭素濃度に大きく依存するが、フライアッシュの未燃炭素の量は、発電所によって大きく異なっている。そこで、融点を調整するために(融点を降下させるために)、複数の発電所からのフライアッシュを混ぜ合わせて用いるようにしてもよい。
Ca源としては、コンクリート廃棄物(コンクリートスラッジ、電柱の製造・リサイクル時に発生する廃コンクリート)や鉄鋼スラグなどのCa分を豊富に含んだ粉末が選定される。ここでは、Ca源として、廃コンクリート紛を用いた場合について説明する。
Na源は、二酸化炭素吸収焼結体を生成する上で、必ずしも必須となるものではないが、昇温特性を高めるために(短時間で焼結体を製造するために)、焼結助剤として添加するとよい。Na源としては、水酸化ナトリウムを用いるようにしても、塩化ナトリウムを用いるようにしても、また、塩化ナトリウムの代わりに海水を用いるようにしてもよい。ここでは、Na源として、塩化ナトリウムを用いた場合について説明する。
【0014】
上述した材料を用いて二酸化炭素吸収焼結体を製造するために、フライアッシュ(石炭灰)に廃コンクリート(Ca源)と塩化ナトリウム(Na源)を混合させた混合物を形成する。そして、この混合物に二酸化炭素雰囲気下でマイクロ波(例えば、2.45GHz±0.5GHz)を照射して混合物を焼結温度以上に昇温させる。
二酸化炭素雰囲気は、混合物の昇温工程において、混合物にCO2を吹き込むことで行われ、実用レベルにおいては、火力発電所の燃料排ガスを吹き込むこと、より具体的には、ボイラからでてすぐの公害対策設備に流入する燃焼排ガスを用いるとよい。
これにより、廃コンクリート紛に含まれるCa分(CaO)と排ガス中の二酸化炭素(CO2)により次式により炭酸カルシウムが(CaCO3)が生成され、CO2が炭酸カルシムとして混合物に吸収される。
【0015】
CaO+CO2 ⇒ CaCO3
【0016】
しかしながら、マイクロ波を調整することなく混合物に照射すると、吸収されていた炭酸カルシウムが酸化カルシウムと二酸化炭素に分解されて、炭酸カルシウムの吸収状態が解消される。このため、吸収されている炭酸カルシウムをマイクロ波で直接加熱しないようにすることが望ましい。また、石炭灰に残留している未燃炭素の燃焼により二酸化炭素が発生しないように、未燃炭素においてもマイクロ波で直接加熱しないようにすることが望ましい。
そこで、炭酸カルシウムや未燃炭素を加熱しないようにするために、マイクロ波の電界による寄与と磁界による寄与を調整し、磁界の寄与が最大となる加熱(磁界加熱)を行うようにしている。
【0017】
マイクロ波の照射による昇温よって炭酸カルシウムが分解して二酸化炭素が生成される量(二酸化炭素放出量)を評価するために、実験においては、廃コンクリートの代替としてCaCO3粉末を用い、フライアッシュ:廃コンクリート(代替としてCaCO3粉末):NaClを重量比で5:1:1に配合し、この試料1.5gに対し、水0.8gを配合した。マイクロ波は1.5kW級の2.45GHzマイクロ波発信装置により評価し、温度は赤外線温度計により計測した。また、四重極形質量計(QMS)により、CO2の発生量を評価した。
【0018】
マイクロ波加熱炉は、一定方向からマイクロ波を照射可能であるシングルモードの空洞共振器を用いた。シングルモードキャビティ内では,電界と磁界の分布が異なっており,それぞれが最大となる位置に試料(混合物)を置くことで、電界の寄与が最大となる加熱(電界加熱)と磁界の寄与が最大となる加熱(磁界加熱)が可能となる。
【0019】
すなわち、電界加熱を行うために、試料(混合物)を電界が最大(Emax)となる炉内の位置に配置し、磁界を排除して電界のみが試料に照射されるようにした。マグネトロンより発振されたマイクロ波は、E―H チューナにより最も照射効率の良い波に調整され、共振器内部に導入されるが、試料が電界最大点に配置されるようにマイクロ波が反射する距離をプランジャによって調整し、またマイクロ波の入射波(PW)と反射波(RW)の位相ずれが生じないようにした。
【0020】
また、磁界加熱を行うために、試料(混合物)を磁界が最大(Hmax)となる炉内の位置に配置し、電界を排除して磁界のみが試料に照射されるようにした。すなわち、試料が磁界最大点に配置されるようにマイクロ波が反射する距離をプランジャによって調整し、またマイクロ波の入射波(PW)と反射波(RW)の位相ずれが生じないようにした。
【0021】
図1は、上記混合物を電界加熱によって昇温した場合の試料の温度と二酸化炭素の放出量(イオン発生量)の時間的推移を示したグラフであり、
図2は、上記混合物を磁界加熱によって昇温した場合の試料の温度と二酸化炭素の放出量(イオン発生量)の時間的推移を示したグラフである。
【0022】
ここで用いた赤外線温度計は、300℃以上の温度を検知可能な仕様であるため、測定対象の温度が300℃未満である場合には温度計の出力は300℃と表示されて実際の温度を反映しないが、測定対象の温度が300℃以上になると、その温度が正確に表示される。
【0023】
電界加熱においては、
図1から明らかなように、試料の温度が300℃を超えたタイミングにほぼ同期して二酸化炭素の放出量が急激に増加したため、電界加熱の場合には、試料が300℃付近に達すると試料中の炭酸カルシウムが電界加熱により分解し、二酸化炭素が多量に放出されることが確認された。
このため、フライアッシュに廃コンクリートを混合させた混合物を電界加熱する場合には、CO2が一旦炭酸カルシウムとして混合物に取り込まれた後に、炭酸カルシムが分解して二酸化炭素に戻されることが推定される。
【0024】
これに対して、磁界加熱においては、
図2から明らかなように、試料の温度が300℃を超えると、二酸化炭素も多少放出されているが、試料の温度が1000℃付近に至るまでは二酸化炭素の放出量がほぼ一定であり、1000℃付近になると急激に増加することが認められる。このため、1000℃までの範囲で石炭灰と廃コンクリートとの混合物を磁界加熱によって焼結すれば、二酸化炭素の放出は抑えられることになる(炭酸カルシムや未燃炭素は加熱されず、その他のSiO2等が加熱されて焼結が形成される)。
【0025】
このため、石炭灰(フライアッシュ)と廃コンクリート(Ca源)の混合物は、磁界加熱により1000℃までの温度で焼結させることが望ましく、焼結温度を低く抑えることができるほど、マイクロ波の照射時間を短くすることができるので経済的となる。焼結可能な最低温度については、一概に設定することはできないが、磁界加熱による焼結温度を600℃~1000℃の範囲内とすれば、炭酸カルシウムの分解や未燃炭素の燃焼を抑制(低減)した状態で二酸化炭素を効果的に吸収した焼結体を形成することが可能となる。
【0026】
なお、Na源の添加は、昇温特性を高めてマイクロ波の照射時間を短くし、これにより炭酸カルシウムの分解を低減する上で有用であり、また、水の添加は、これによって分解した炭酸カルシウムを再び炭酸カルシウムとして保持させ、二酸化炭素の放出量を抑える上で有用である。