(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044464
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】採取キット及び採取方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20240326BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20240326BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12M1/26
C12N1/04
G01N1/10 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149990
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】片桐 麻友
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2G052AA30
2G052AD06
2G052BA17
2G052CA02
2G052CA40
2G052GA29
2G052JA04
2G052JA05
2G052JA11
4B029AA09
4B029BB20
4B029CC01
4B029DG08
4B029GA02
4B029GB05
4B029HA05
4B029HA06
4B065AA90X
4B065BD12
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血液製剤の培養検査を効率的に行うための採取キット及び採取方法を提供する。
【解決手段】採取キット10は、医療用バッグが接続される流入チューブ12と、第1収容室31及び第2収容室32を有する収容部14と、収容部14から空気を排出するエアベント16と、培養ボトルB1、B2に接続可能な少なくとも1つのアダプタ21、22とを備える。収容部14の上部に、第1収容室31と第2収容室32とを連通させる連通路33が形成される。アダプタ21、22の移送管38に親水性フィルタ24が配置されている。採取方法では、採取キット10を用いて2つの培養ボトルB1、B2に採取対象物を採取する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取対象物を収容した医療用バッグが接続される流入チューブと、
前記流入チューブの下流に接続され、前記採取対象物を収容可能な第1収容室及び第2収容室を有する収容部と、
前記第1収容室の上部に接続され、前記収容部から空気を排出するエアベントと、
前記第1収容室又は前記第2収容室に接続され、培養ボトルに接続可能な少なくとも1つのアダプタと、を備え、
前記収容部の上部に、前記第1収容室と前記第2収容室とを連通させる連通路が形成され、
前記アダプタは、前記第1収容室又は前記第2収容室から前記培養ボトルへと前記採取対象物を移送させる移送管を有し、前記移送管に親水性フィルタが配置されている、採取キット。
【請求項2】
請求項1記載の採取キットにおいて、
前記収容部は、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する隔壁を有し、前記隔壁の上方に前記連通路が形成されている採取キット。
【請求項3】
請求項1又は2記載の採取キットにおいて、
前記エアベントは、開閉可能な蓋を有する、採取キット。
【請求項4】
請求項1又は2記載の採取キットにおいて、
前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室に接続された第1アダプタと、前記第2収容室に接続された第2アダプタとを有する、採取キット。
【請求項5】
請求項1又は2記載の採取キットにおいて、
前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室及び前記第2収容室の一方のみに接続された単一のアダプタである、採取キット。
【請求項6】
請求項1又は2記載の採取キットにおいて、
前記第1収容室と前記第2収容室とが、一体となって前記収容部を形成している、採取キット。
【請求項7】
採取キットを用いて採取対象物を2つの培養ボトルに採取する採取方法であって、
前記採取キットは、
前記採取対象物を収容した医療用バッグが接続される流入チューブと、
前記流入チューブの下流に接続され、前記採取対象物を収容可能な第1収容室及び第2収容室を有する収容部と、
前記第1収容室の上部に接続され、前記収容部から空気を排出するエアベントと、
前記第1収容室又は前記第2収容室に接続され、培養ボトルに接続可能な少なくとも1つのアダプタと、を備え、
前記収容部の上部に、前記第1収容室と前記第2収容室とを連通させる連通路が形成され、
前記アダプタは、前記第1収容室又は前記第2収容室から前記培養ボトルへと前記採取対象物を移送させる移送管を有し、前記移送管に親水性フィルタが配置され、
前記採取方法は、
前記医療用バッグを前記流入チューブに接合する接合工程と、
前記流入チューブを介して、前記第1収容室及び第2収容室に前記採取対象物を導入する導入工程と、
前記少なくとも1つのアダプタに同時に又は順次に前記2つの培養ボトルを接続して、前記収容部から前記2つの培養ボトルへと前記採取対象物を移送する移送工程と、を有する、採取方法。
【請求項8】
請求項7記載の採取方法において、
前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室に接続された第1アダプタと、前記第2収容室に接続された第2アダプタとを有し、
前記2つの培養ボトルは、第1培養ボトルと第2培養ボトルであり、
前記移送工程では、前記第1アダプタに前記第1培養ボトルを接続し、前記第2アダプタに前記第2培養ボトルを接続する、採取方法。
【請求項9】
請求項7記載の採取方法において、
前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室及び前記第2収容室の一方の収容室のみに接続された単一のアダプタであり、
前記移送工程は、
前記アダプタに1本目の培養ボトルを接続して、前記一方の収容室から前記1本目の培養ボトルに前記採取対象物を移送する第1移送工程と、
前記アダプタから前記1本目の培養ボトルを取り外す工程と、
前記第1収容室及び前記第2収容室の他方の収容室から前記一方の収容室へと前記採取対象物を移動させる移動工程と、
前記アダプタに2本目の培養ボトルを接続して、前記2本目の培養ボトルに前記採取対象物を移送する第2移送工程と、を有する、採取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取対象物を培養ボトルに移送するための採取キット及び採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液製剤には、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤、及び全血製剤がある。血液製剤は、患者が必要とする成分を含む製剤が輸血に利用される。血液製剤は、医療用バッグに収容された状態で保管及び輸送が行われる。血液製剤は、安全性を担保するために、少量の試料を採取して培養検査を行う場合がある。培養検査は、試料を培養ボトルに採取し、その培養ボトルを細菌の増殖に好適な環境に置くことで、病原体の有無を検出する。
【0003】
例えば血小板製剤の検査は以下の手順で行われる。血小板製剤を収容する医療用バッグ(以下、血小板バッグと呼ぶ)に、小容量の採取バッグが接続される。その後、血小板バッグの血小板製剤の一部は、採取バッグに移送される。次に、採取バッグは、血小板バッグから切り離される。
【0004】
次に、採取バッグは、クリーンベンチに運ばれる。クリーンベンチにおいて、血小板製剤は、採取バッグから血液培養ボトルに注入される。注入に先立って、サンプル採取管から延びるチューブに採取バッグのチューブが接続される。サンプル採取管の目盛を目安にして、規定量の血小板製剤が、採取バッグからサンプル採取管に移送される。
【0005】
その後、作業者は、サンプル採取管の目盛を目視しつつ、サンプル採取管のバルブを操作して、サンプル採取管から血液培養ボトルに規定量の血小板製剤を移送する。培養検査では、嫌気培養と好気培養とが行われる。そのため血小板製剤は、嫌気培養に用いる培養ボトルと、好気培養に用いる培養ボトルとに分注される。その後、各培養ボトルは、培養装置にセットされ、所定期間、培養検査に供される。
【0006】
例えば、特許文献1は、医療用バッグから試料を採取するための採取キットを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
血液製剤の培養検査を大量に行う場合、培養検査の作業効率の向上が求められる。従来の検査手順は、上記のように血液製剤バッグから培養ボトルに血液製剤を分注するまでの工程で、採取バッグ及びサンプル採取管の脱着作業が必要となり、作業が煩雑である。また、従来の採取キットでは、作業者が採取キットの取り扱いに不慣れである場合、エアベントを介して大量の空気が嫌気性菌用培養ボトルに混入する可能性がある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の第1の態様は、採取対象物を収容した医療用バッグが接続される流入チューブと、前記流入チューブの下流に接続され、前記採取対象物を収容可能な第1収容室及び第2収容室を有する収容部と、前記第1収容室の上部に接続され、前記収容部から空気を排出するエアベントと、前記第1収容室又は前記第2収容室に接続され、培養ボトルに接続可能な少なくとも1つのアダプタと、を備え、前記収容部の上部に、前記第1収容室と前記第2収容室とを連通させる連通路が形成され、前記アダプタは、前記第1収容室又は前記第2収容室から前記培養ボトルへと前記採取対象物を移送させる移送管を有し、前記移送管に親水性フィルタが配置されている、採取キットである。
【0011】
この採取キットによれば、採取キットを用いて培養ボトルへと採取対象物を採取する作業において、チューブ同士の接合及び分離回数を最小限に抑えることができるため、作業効率に優れる。濡れることで空気を通過させにくくする性質を有する親水性フィルタがアダプタの移送管に配置されているため、培養ボトルに大量の空気が混入するリスクを低減することができる。このため、培養ボトルを嫌気性菌用培養ボトルとして培養検査に用いることができる。
【0012】
(2)上記項目(1)記載の採取キットにおいて、前記収容部は、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する隔壁を有し、前記隔壁の上方に前記連通路が形成されてもよい。
【0013】
これにより、第1収容室と第2収容室とが連通路を介して連通する構造を有する収容部を簡素な構成で構築することができる。
【0014】
(3)上記項目(1)又は(2)記載の採取キットにおいて、前記エアベントは、開閉可能な蓋を有してもよい。
【0015】
この構成により、採取対象物を収容部内に採取後、エアベントの蓋を閉じることで、培養ボトルへ採取対象物を移送する際に培養ボトルに多量の空気が混入するリスクを一層効果的に低減することができる。
【0016】
(4)上記項目(1)~(3)のいずれか1つに記載の採取キットにおいて、前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室に接続された第1アダプタと、前記第2収容室に接続された第2アダプタとを有してもよい。
【0017】
第1アダプタと第2アダプタが設けられるため、2本の培養ボトルに同時に採取対象物を採取することができる。これにより、培養検査の作業効率を向上させることができる。
【0018】
(5)上記項目(1)~(3)のいずれか1つに記載の採取キットにおいて、前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室及び前記第2収容室の一方のみに接続された単一のアダプタでもよい。
【0019】
この構成によれば、アダプタに2本目に接続される培養ボトルへの空気の混入は、ほとんど無いか、ゼロである。従って、2本目の培養ボトルは、嫌気性菌用培養ボトルとして特に好適である。
【0020】
(6)上記項目(1)~(5)のいずれか1つに記載の採取キットにおいて、前記第1収容室と前記第2収容室とが、一体となって前記収容部を形成してもよい。
【0021】
(7)本発明の第2の態様は、採取キットを用いて採取対象物を2つの培養ボトルに採取する採取方法であって、前記採取キットは、前記採取対象物を収容した医療用バッグが接続される流入チューブと、前記流入チューブの下流に接続され、前記採取対象物を収容可能な第1収容室及び第2収容室を有する収容部と、前記第1収容室の上部に接続され、前記収容部から空気を排出するエアベントと、前記第1収容室又は前記第2収容室に接続され、培養ボトルに接続可能な少なくとも1つのアダプタと、を備え、前記収容部の上部に、前記第1収容室と前記第2収容室とを連通させる連通路が形成され、前記アダプタは、前記第1収容室又は前記第2収容室から前記培養ボトルへと前記採取対象物を移送させる移送管を有し、前記移送管に親水性フィルタが配置され、前記採取方法は、前記医療用バッグを前記流入チューブに接合する接合工程と、前記流入チューブを介して、前記第1収容室及び第2収容室に前記採取対象物を導入する導入工程と、前記少なくとも1つのアダプタに同時に又は順次に前記2つの培養ボトルを接続して、前記収容部から前記2つの培養ボトルへと前記採取対象物を移送する移送工程と、を有する採取方法である。
【0022】
(8)上記項目(7)記載の採取方法において、前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室に接続された第1アダプタと、前記第2収容室に接続された第2アダプタとを有し、前記2つの培養ボトルは、第1培養ボトルと第2培養ボトルであり、前記移送工程では、前記第1アダプタに前記第1培養ボトルを接続し、前記第2アダプタに前記第2培養ボトルを接続してもよい。
【0023】
(9)上記項目(7)記載の採取方法において、前記少なくとも1つのアダプタは、前記第1収容室及び前記第2収容室の一方の収容室のみに接続された単一のアダプタであり、前記移送工程は、前記アダプタに1本目の培養ボトルを接続して、前記一方の収容室から前記1本目の培養ボトルに前記採取対象物を移送する第1移送工程と、前記アダプタから前記1本目の培養ボトルを取り外す工程と、前記第1収容室及び前記第2収容室の他方の収容室から前記一方の収容室へと前記採取対象物を移動させる移動工程と、前記アダプタに2本目の培養ボトルを接続して、前記2本目の培養ボトルに前記採取対象物を移送する第2移送工程と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、採取キットを用いて培養ボトルへと採取対象物を採取する作業において、チューブ同士の接合及び分離回数を最小限に抑えることができるため、作業効率に優れる。濡れることで空気を通過させにくくする性質を有する親水性フィルタがアダプタの移送管に配置されているため、培養ボトルに大量の空気が混入するリスクを低減することができる。このため、培養ボトルを嫌気性菌用培養ボトルとして培養検査に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る採取キットの全体概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第1の図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第2の図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第3の図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る採取キットの全体概略図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第1の図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第2の図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第3の図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第4の図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る採取キットの使用方法を説明する第5の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示す第1実施形態に係る採取キット10は、採取対象物である血液製剤を培養ボトルB1、B2に移送するために使用される。採取キット10は、例えば、血液製剤を製造する血液センター等の事業所において、血液製剤の安全性を確認するための培養試験に用いられる。培養試験では、嫌気性菌の培養及び好気性菌の培養の試験が行われる。従って、培養試験には、好気培養のための培養ボトルと嫌気培養のための培養ボトルとの合計2本の培養ボトルが用いられる。2本の培養ボトルB1、B2のうち、一方の培養ボトルが好気性菌用培養ボトルとして検査に用いられ、他方の培養ボトルが嫌気性菌用培養ボトルとして検査に用いられる。以下、培養ボトルB1、B2をそれぞれ「第1培養ボトルB1」、「第2培養ボトルB2」ともいう。
【0027】
以下、第1実施形態(及び後述する第2実施形態)では、血液製剤として血小板製剤を使用する例について説明するが、採取キット10、10Aによって採取される血液製剤は、赤血球製剤、血漿製剤又は全血製剤でもよい。
【0028】
採取キット10は、流入チューブ12と、収容部14と、エアベント16と、第1アダプタ21と、第2アダプタ22とを備える。採取キット10において、使用時の配置状態に基づいて、流入チューブ12及びエアベント16が位置する方向を上側又は上方と呼び、第1アダプタ21及び第2アダプタ22が位置する方向を下側又は下方と呼ぶ。
【0029】
流入チューブ12は、例えば、塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂よりなる半透明の医療用チューブである。流入チューブ12は、例えば無菌接合装置やチューブシーラー等によって、内部を外気に曝すことなく他の医療用チューブとの接続又は分離が可能である。流入チューブ12は、上流側の第1端部121と下流側の第2端部122とを有する。第1端部121は、初期状態において溶着されて封止されている。第2端部122は、収容部14の上端に接続されている。
【0030】
収容部14は、流入チューブ12の下流端(第2端部122)に接続されている。収容部14は、硬質素材で形成されている。収容部14の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリアセタール樹脂等の硬質樹脂材料が挙げられる。収容部14は、採取対象物を収容可能な第1収容室31及び第2収容室32を有する。第1収容室31と第2収容室32とが、一体となって収容部14を形成している。収容部14は、例えば、約20mLの容量を有する。第1収容室31は、所定量(例えば、約10mL)の血小板製剤を収容する容積を有する。第2収容室32は、所定量(例えば、約10mL)の血小板製剤を収容する容積を有する。第1収容室31と第2収容室32の容量は互いに同じである。
【0031】
収容部14は、第1収容室31と第2収容室32とを区画する隔壁26を有する。隔壁26は、収容部14の下部(底部)から上方に向かって延びる。収容部14の上部に、第1収容室31と第2収容室32とを連通させる連通路33が形成されている。連通路33は、隔壁26の上端に形成されている。収容部14における連通路33の直上位置に、流入チューブ12が接続されている。
【0032】
なお、流入チューブ12は、
図1において連通路33に対して収容部14の左右方向にずれた箇所で収容部14に接続されてもよい。すなわち、流入チューブ12は、第1収容室31に接続されてもよく、あるいは、第2収容室32に接続されてもよい。
【0033】
エアベント16は、収容部14の上部に接続され、収容部14からエアを排出する。エアベント16は、ベント本体を構成する通気筒161と、通気筒161の開口部を開閉可能な蓋162とを有する。通気筒161の内側に無菌フィルタ163が配置されている。蓋162は、通気筒161の開口部を気密に閉じることができる。蓋162を開けると収容部14の内部(第1収容室31及び第2収容室32)が大気開放される。蓋162を閉じると収容部14の外部から内部への大気の流入が阻止される。なお、
図1では、第1収容室31の上部にエアベント16が接続されているが、第2収容室32の上部にエアベント16が接続されてもよい。
【0034】
第1アダプタ21は、収容部14の下部に接続される。第1アダプタ21は、第1収容室31と連通し、第1培養ボトルB1と接続可能である。第1アダプタ21は、第1培養ボトルB1の頭部を収容可能な収容筒34と、収容筒34の内側に配置された管状の針部36を有する移送管38と、針部36を覆うゴムカバー40とを備える。収容筒34は、開閉可能な蓋341を有する。なお、蓋341は設けられなくてもよい。蓋341が設けられない場合、収容筒34の開口部が薄膜フィルム等の封止体でシールされてよい。使用時に封止体を剥がすことで、収容筒34を開放することができる。針部36は、第1培養ボトルB1の頭部に装着されたゴム栓に穿刺可能である。第1アダプタ21の針部36が第1培養ボトルB1のゴム栓を貫通すると、第1培養ボトルB1と第1収容室31とが連通する。針部36が第1培養ボトルB1のゴム栓に穿刺される際、ゴムカバー40が基端側に押し込まれて針部36がゴムカバー40を貫通する。針部36が第1培養ボトルB1のゴム栓から抜けるとき、ゴムカバー40はその弾性復元力で伸張して再び針部36を覆う。
【0035】
第2アダプタ22は、収容部14の下部に接続される。第2アダプタ22は、第2収容室32と連通し、第2培養ボトルB2と接続可能である。第2アダプタ22は、第1アダプタ21と同様の構成を有する。第2アダプタ22の針部36が第2培養ボトルB2のゴム栓を貫通すると、第2培養ボトルB2と第2収容室32とが連通する。
【0036】
第1アダプタ21の移送管38に親水性フィルタ24が配置されている。第2アダプタ22の移送管38に親水性フィルタ24が配置されている。具体的には、各移送管38の上端(上流端)に親水性フィルタ24が固定されている。親水性フィルタ24は、第1収容室31の底部及び第2収容室32の底部にそれぞれ位置する。親水性フィルタ24は、濡れることで気体を通過させにくくする性質を有する。以下、第1アダプタ21の移送管38に配置された親水性フィルタ24を「親水性フィルタ24a」と表記する場合もある。第2アダプタ22の移送管38に配置された親水性フィルタ24を「親水性フィルタ24b」と表記する場合もある。
【0037】
上記のように構成された採取キット10は、以下のように使用される。本実施形態では、採取キット10を用いて血小板製剤を2本の培養ボトルB1、B2に分注する採取方法について説明する。
【0038】
図2に示すように、採取キット10に血小板バッグ50が接合される。血小板バッグ50は、血小板製剤を収容した医療用バッグである。血小板バッグ50は、接続用のチューブ52を有している。チューブ52は、流入チューブ12に接合される。チューブ52は、流入チューブ12に、無菌接合装置を用いて外気と接することなく接合される。
【0039】
次に、
図3に示すように、収容部14に血小板製剤が導入される(導入工程)。導入工程では、血小板バッグ50が収容部14よりも上に配置されるとともに、エアベント16の蓋162が開けられる。血小板製剤は、重力によって血小板バッグ50から流出し、チューブ52及び流入チューブ12を介して、収容部14に貯留される。
【0040】
血小板製剤は、第1収容室31及び第2収容室32に貯留される。この場合、血小板製剤は、第1収容室31及び第2収容室32の各底部から貯留されていき、第1収容室31内及び第2収容室32内で血小板製剤の液面がそれぞれ上昇する。第1収容室31内及び第2収容室32内で血小板製剤の液面が上昇することに伴い、第1収容室31及び第2収容室32の内部の空気は、血小板製剤によって押し出されて、エアベント16を介して収容部14の外部へと排出される。
【0041】
やがて第1収容室31及び第2収容室32が血小板製剤で満たされる。これにより、収容部14への血小板製剤の導入が完了する。第1収容室31及び第2収容室32には、それぞれ所定量(例えば、10mL程度)の血小板製剤が収容される。導入工程の終了後、エアベント16の蓋162は閉じられる。
【0042】
その後、チューブシーラー(高周波シーラー又は超音波シーラー)等によって、流入チューブ12から血小板バッグ50が分離される。チューブシーラーは、流入チューブ12を血小板バッグ50のチューブ52から分離させると同時に、流入チューブ12の第1端部121を溶着により封止する。流入チューブ12とチューブ52との分離は、内部の流路を外気に曝露することなく行われる。
【0043】
取り外された血小板バッグ50は、培養検査が完了するまで保管された後、利用に供される。一方、血小板製剤を充填した採取キット10は、クリーンベンチに搬入される。次に、ユーザは、血小板製剤を採取キット10から第1培養ボトルB1及び第2培養ボトルB2に移送するための操作を行う。
【0044】
図4に示すように、収容部14から2つの培養ボトルB1、B2へと採取対象物を移送する(移送工程)。移送工程では、第1培養ボトルB1が第1アダプタ21に接続され、第2培養ボトルB2が第2アダプタ22に接続される。第1培養ボトルB1が第1アダプタ21に接続されることに伴い、第1アダプタ21の針部36が第1培養ボトルB1のゴム栓を貫通する。第1収容室31の血小板製剤が、第1培養ボトルB1の陰圧によって吸い出され、親水性フィルタ24a及び移送管38を介して第1培養ボトルB1に所定量(例えば、10mL程度)の血小板製剤が導入される。同様に、第2培養ボトルB2が第2アダプタ22に接続されることに伴い、親水性フィルタ24b及び移送管38を介して第2培養ボトルB2に所定量(例えば、10mL程度)の血小板製剤が導入される。次に、第1アダプタ21が第1培養ボトルB1から取り外され、第2アダプタ22が第2培養ボトルB2から取り外される。
【0045】
第1培養ボトルB1及び第2培養ボトルB2に血小板製剤を採取する際、2つの親水性フィルタ24a、24bは血小板製剤で濡れている。親水性フィルタ24は、濡れると気体を通過させにくくする性質を有する。このため、第1収容室31から血小板製剤がすべて排出されたとき(親水性フィルタ24aの外表面が第1収容室31内の空間に露出したとき)に、第1培養ボトルB1による吸引が停止する。同様に、第2収容室32から血小板製剤がすべて排出されたとき(親水性フィルタ24bの外表面が第2収容室32内の空間に露出したとき)に、第1培養ボトルB1による吸引が停止する。第1培養ボトルB1に流入する空気は、第1アダプタ21の移送管38(針部36を含む)内の流路に存在していた空気のみである。このため、第1培養ボトルB1への空気の混入は少ない。第2培養ボトルB2に流入する空気は、第2アダプタ22の移送管38(針部36を含む)内の流路に存在していた空気のみである。このため、第2培養ボトルB2への空気の混入は少ない。
【0046】
培養ボトルB1、B2に血小板製剤を採取する際、エアベント16の蓋162は、開いた状態でもよいが、
図4のように、閉じていることが好ましい。培養ボトルB1、B2に血小板製剤を採取する際にエアベント16の蓋162が閉じていることで、エアベント16を介した収容部14への空気の流入が阻止される。これにより、培養ボトルB1、B2への空気の混入を効果的に少なくすることができる。
【0047】
第1培養ボトルB1に所定量の血小板製剤が導入されたら、第1アダプタ21が第1培養ボトルB1から取り外される。第2培養ボトルB2に所定量の血小板製剤が導入されたら、第2アダプタ22が第2培養ボトルB2から取り外される。
【0048】
以上の工程により、採取キット10を用いた血小板製剤の採取が完了する。第1培養ボトルB1と第2培養ボトルB2の一方が好気性菌用培養ボトルとして検査に用いられ、他方が嫌気性菌用培養ボトルとして検査に用いられる。第1培養ボトルB1と第2培養ボトルB2とでは、いずれも空気の混入が少ないため、どちらが嫌気性菌用培養ボトルとして用いられてもよい。
【0049】
なお、第1培養ボトルB1に対する第1アダプタ21の接続と、第2培養ボトルB2に対する第2アダプタ22の接続は、異なるタイミングで行ってもよい。この場合も、親水性フィルタ24が濡れているため、第1培養ボトルB1及び第2培養ボトルB2への空気の混入は少ない。
【0050】
第1実施形態は、以下の効果を奏する。
【0051】
採取キット10を用いて培養ボトルB1、B2へと採取対象物を採取する作業において、チューブ同士の接合及び分離回数を最小限に抑えることができるため、作業効率に優れる。濡れることで空気を通過させにくくする性質を有する親水性フィルタ24が第1アダプタ21及び第2アダプタ22の移送管38に配置されているため、培養ボトルに大量の空気が混入するリスクを低減することができる。このため、培養ボトルを嫌気性菌用培養ボトルとして培養検査に用いることができる。第1培養ボトルB1に対する第1アダプタ21の接続と、第2培養ボトルB2に対する第2アダプタ22の接続とを同時に行えば、2本の培養ボトルB1、B2に同時に採取対象物を採取することができ、効率的である。
【0052】
また、採取対象物を目盛り線に合わせて目分量で測り採る作業が不要となるため、作業が容易になるとともに、計量誤差を減らすことができる。従って、採取キット10によれば、第1培養ボトルB1と第2培養ボトルB2とに導入される採取対象物の量のバラツキを抑制できる。
【0053】
収容部14は、第1収容室31と第2収容室32とを区画する隔壁26を有し、隔壁26の上方に連通路33が形成されている。これにより、第1収容室31と第2収容室32とが連通路33を介して連通する構造を有する収容部14を簡素な構成で構築することができる。
【0054】
エアベント16は、開閉可能な蓋162を有する。この構成により、採取対象物を収容部14内に採取後、エアベント16の蓋162を閉じることで、培養ボトルB1、B2へ採取対象物を移送する際に培養ボトルB1、B2に多量の空気が混入するリスクを一層効果的に低減することができる。
【0055】
採取キット10は、第1収容室31に接続された第1アダプタ21と、第2収容室32に接続された第2アダプタ22とを有する。第1アダプタ21と第2アダプタ22が設けられるため、2本の培養ボトルB1、B2に同時に採取対象物を採取することができる。これにより、培養検査の作業効率を向上させることができる。
【0056】
図5に示す第2実施形態に係る採取キット10Aは、単一のアダプタ20を備える点で、
図1~
図4に示した第1アダプタ21及び第2アダプタ22を備える採取キット10と異なる。
図5において、アダプタ20は、第2収容室32に接続されている。なお、アダプタ20は、第2収容室32に接続される代わりに、第1収容室31に接続されてもよい。アダプタ20の構成は、
図1等に示した第1アダプタ21(又は第2アダプタ22)と同じである。
【0057】
上記のように構成された採取キット10Aは、以下のように使用される。第2実施形態では、採取キット10Aを用いて血小板製剤を2本の培養ボトルB1、B2に分注する採取方法について説明する。採取キット10Aの使用方法において、
図1に示した採取キット10の使用方法と同様の部分については説明を省略する。
【0058】
図6に示すように、採取キット10Aに血小板バッグ50が無菌的に接合される(接合工程)。次に、
図7に示すように、エアベント16の蓋162が開けられ、血小板製剤は、血小板バッグ50から流出し、チューブ52及び流入チューブ12を介して収容部14に貯留される(導入工程)。第1収容室31及び第2収容室32には、それぞれ所定量(例えば、10mL程度)の血小板製剤が収容される。導入工程の終了後、エアベント16の蓋162は閉じられる。
【0059】
その後、チューブシーラー(高周波シーラー又は超音波シーラー)等によって、流入チューブ12から血小板バッグ50が分離される。取り外された血小板バッグ50は、培養検査が完了するまで保管された後、利用に供される。一方、血小板製剤を充填した採取キット10Aは、クリーンベンチに搬入される。次に、ユーザは、血小板製剤を採取キット10Aから第1培養ボトルB1及び第2培養ボトルB2に移送するための操作を行う(移送工程)。
【0060】
図8に示すように、移送工程では、まず1本目の培養ボトルB1に採取対象物を移送する(第1移送工程)。第1移送工程では、エアベント16の蓋162は閉じられたままであることが好ましい。第1移送工程では、1本目の培養ボトルB1がアダプタ20に接続される。第1収容室31の血小板製剤が、培養ボトルB1の陰圧によって吸い出され、親水性フィルタ24及び移送管38を介して培養ボトルB1に所定量(例えば、10mL程度)の血小板製剤が導入される。培養ボトルB1に所定量の血小板製剤が導入されたら、アダプタ20が培養ボトルB1から取り外される。第1収容室31と第2収容室32とは隔壁26によって区画されているため、第1収容室31には血小板製剤が残されている。
【0061】
次に、第1収容室31から第2収容室32へと採取対象物を移動させる(移動工程)。具体的には、採取キット10Aを横に向けて、連通路33を介して第1収容室31から第2収容室32へと血小板製剤を移動させる。これにより、
図9に示すように、採取キット10Aは、第2収容室32に血小板製剤が収容されており、第1収容室31に血小板製剤が収容されていない状態となる。
【0062】
次に、
図10に示すように、2本目の培養ボトルB2に採取対象物を移送する(第2移送工程)。第2移送工程では、エアベント16の蓋162は閉じられたままであることが好ましい。第2移送工程では、培養ボトルB2がアダプタ20に接続される。この接続に伴い、培養ボトルB2に所定量(例えば、10mL程度)の血小板製剤が導入される。培養ボトルB2に所定量の血小板製剤が導入されたら、アダプタ20が培養ボトルB2から取り外される。
【0063】
以上の工程により、採取キット10Aを用いた血小板製剤の採取が完了する。培養ボトルB1、B2の一方が好気性菌用培養ボトルとして検査に用いられ、他方が嫌気性菌用培養ボトルとして検査に用いられる。初期状態で移送管38の流路に存在していた空気は、1本目の培養ボトルB1に血小板製剤を採取する際に培養ボトルB1に回収されるため、2本目の培養ボトルB2への空気の混入は、ほとんど無いか、ゼロである。従って、2本目の培養ボトルB2は、嫌気性菌用培養ボトルとして特に好適である。
【0064】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0065】
10、10A…採取キット 12…流入チューブ
14…収容部 16…エアベント
21…第1アダプタ 22…第2アダプタ
24、24a、24b…親水性フィルタ 33…連通路