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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044466
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20240326BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240326BHJP
   H02P 21/24 20160101ALI20240326BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/08
H02P21/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149995
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高野 竜児
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA01
5H505AA06
5H505AA16
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505LL14
5H505LL16
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】損失が大きくなることを抑制すること。
【解決手段】電動機は、制御部を備える。制御部は、電流座標変換部と、速度制御部と、位相調整部と、を備える。電流座標変換部は、モータの各相に流れる実電流を、d軸電流及びq軸電流に変換する。速度制御部は、角速度と角速度指令値との差分を用いたPI制御により、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を算出する。位相調整部は、変調率が所定の閾値未満の場合、d軸電流指令値及びq軸電流指令値の合成ベクトルとq軸との位相差である電流位相を予め定められた位相調整量で段階的に減算させ、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を調整する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子及び3相のコイルが巻回された固定子を有するモータと、
スイッチング素子を有し、前記モータを駆動するインバータ部と、
角速度指令値が入力され、PWM信号を用いて前記スイッチング素子を制御する制御部と、
を備える電動機であって、
前記制御部は、
電圧指令値とキャリア周波数とに基づいて前記PWM信号を生成し、
前記モータの各相に流れる実電流を、d軸電流及びq軸電流に変換する電流座標変換部と、
前記コイルに発生する誘起電圧を算出し、前記誘起電圧に基づき前記回転子の回転位置を推定し、前記回転位置に基づいて前記回転子の角速度を推定する角速度推定部と、
前記角速度推定部によって推定された前記角速度と前記角速度指令値との差分を用いたPI制御により、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を算出する速度制御部と、
前記電圧指令値の変調率を演算する変調率算出部と、
前記変調率算出部によって演算された前記変調率が所定の閾値未満の場合、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値の合成ベクトルとq軸との位相差である電流位相を予め定められた位相調整量で段階的に減算させ、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を調整する位相調整部と、を有することを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記制御部は、前記変調率が前記所定の閾値以上の場合、前記位相調整量が0になるまで前記位相調整量を大きくする、請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記制御部は、前記位相調整量が予め定められた調整量下限より小さい場合、前記位相調整量を前記調整量下限にする、請求項1又は請求項2に記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータをセンサレス制御することによってモータを駆動する場合、モータの回転子の回転位置を推定する必要がある。センサレス制御は、回転子の回転位置をソフトウェアで推定することによってハードウェアの位置センサを用いずにモータを駆動する制御方式である。回転子の回転位置は、モータの備えるコイルに発生する誘起電圧に基づいて推定することができる。
【0003】
回転子が低速域で回転している場合、誘起電圧が小さくなり、回転子の回転位置の推定精度が低下する。
また、回転数が一定であっても、入力電圧が大きく、変調率が小さい場合、デッドタイムの影響によって回転位置の推定精度が低下する。この場合、デッドタイム補償によってデッドタイムによる電圧誤差の影響を小さくしているものの、電圧誤差を完全に排除することは難しい。デッドタイムによる電圧誤差は変調率に依存しない。
【0004】
一方で、入力電圧が大きく、変調率が小さいときほど、インバータの出力電圧が小さくなるため、変調率が小さいときほど出力電圧に対する電圧誤差の割合が大きくなる。この結果、出力電圧に対する電圧誤差の影響によって、入力電圧が大きく、変調率が小さい場合、回転位置の推定精度が低下する。
【0005】
特許文献1に開示のモータ制御装置は、モータの回転数が所定の回転数よりも低い場合に、d軸電流指令値を0より大きい値にする。これにより、コイルに発生する誘起電圧を大きくすることができる。誘起電圧が大きくなると、回転位置の推定精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-196309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、モータの回転数が所定の回転数よりも低い場合に、入力電圧が変動して大きくなると、変調率が変動して小さくなり、回転位置の推定精度が低下する。また、d軸電流指令値が過剰に大きくなる場合がある。この場合、モータ電流が大きくなることによって損失が増加するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する電動機は、回転子及び3相のコイルが巻回された固定子を有するモータと、スイッチング素子を有し、前記モータを駆動するインバータ部と、角速度指令値が入力され、PWM信号を用いて前記スイッチング素子を制御する制御部と、を備える電動機であって、前記制御部は、電圧指令値とキャリア周波数とに基づいて前記PWM信号を生成し、前記モータの各相に流れる実電流を、d軸電流及びq軸電流に変換する電流座標変換部と、前記コイルに発生する誘起電圧を算出し、前記誘起電圧に基づき前記回転子の回転位置を推定し、前記回転位置に基づいて前記回転子の角速度を推定する角速度推定部と、前記角速度推定部によって推定された前記角速度と前記角速度指令値との差分を用いたPI制御により、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を算出する速度制御部と、前記電圧指令値の変調率を演算する変調率算出部と、前記変調率算出部によって演算された前記変調率が所定の閾値未満の場合、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値の合成ベクトルとq軸との位相差である電流位相を予め定められた位相調整量で段階的に減算させ、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を調整する位相調整部と、を有することを要旨とする。
【0009】
位相調整部は、変調率が所定の閾値未満の場合、電流位相を位相調整量で段階的に減算する。これにより、モータ電流は大きくなる。モータ電流が大きくなることによってインバータ部の出力電圧が大きくなる。変調率が大きくなるため、回転位置の推定精度を向上させることができる。変調率が所定の閾値以上になるまで電流位相が位相調整量で段階的に減算されることで、変調率が所定の閾値以上になると、電流位相が位相調整量で減算されなくなる。モータ電流が過剰に大きくなることが抑制されるため、モータ電流が大きくなることを原因として損失が大きくなることを抑制できる。
【0010】
上記電動機について、前記制御部は、前記変調率が前記所定の閾値以上の場合、前記位相調整量が0になるまで前記位相調整量を大きくしてもよい。
上記電動機について、前記制御部は、前記位相調整量が予め定められた調整量下限より小さい場合、前記位相調整量を前記調整量下限にしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、損失が大きくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モータ制御装置の概略構成図である。
図2】電流位相を説明するための図である。
図3】IPMモータの電流位相指令値とトルクとの関係を示す図である。
図4】位相調整部が行う処理を示すフローチャートである。
図5】位相調整量を示す図である。
図6】モータ電流を変化させたときの電流位相指令値とトルクとの関係を示す図である。
図7】SPMモータの電流位相指令値とトルクとの関係を示す図である。
図8】SPMモータの電流位相を負側に変化させたときの電流ベクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
電動機の一実施形態について説明する。
図1に示すように、電動機M1は、モータ11を備える。モータ11は、回転子12及び3相のコイルU,V,Wが巻回された固定子13を有する。モータ11は、3つのコイルU,V,Wを備える3相モータである。モータ11は、回転子12の内部に永久磁石を埋め込んだIPM(Interior Permanent Magnet)モータである。モータ11は、どのような装置に搭載されるものであってもよい。モータ11は、例えば、車両に搭載される冷凍回路の圧縮機の駆動源や、燃料電池車に搭載されるエアーポンプや水素ポンプ等の駆動源である。
【0014】
電動機M1は、モータ駆動装置10を備える。モータ駆動装置10は、バッテリBAと、平滑コンデンサCと、インバータ部21と、相電流検出部22と、電圧検出部23と、制御部30と、を備える。
【0015】
インバータ部21は、6つのスイッチング素子Q1~Q6と、ダイオードD1~D6と、を備える。スイッチング素子Q1~Q6としては、例えば、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が用いられる。スイッチング素子Q1~Q6とダイオードD1~D6とが一体の場合、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)が用いられる。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは互いに直列接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とは互いに直列接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6とは互いに直列接続されている。スイッチング素子Q1~Q6にはそれぞれダイオードD1~D6が並列接続されている。各スイッチング素子Q1~Q6には、平滑コンデンサCを介してバッテリBAが接続されている。
【0016】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続線は、途中で分岐してコイルUに接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続線は、途中で分岐してコイルVに接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6との接続線は、途中で分岐してコイルWに接続されている。
【0017】
相電流検出部22は、少なくとも2相分の相電流を検出する。本実施形態において、相電流検出部22は、u相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwを検出する。3相のうち2相分の相電流を検出して、残りの1相分の相電流は2相分の相電流から算出するようにしてもよい。u相電流Iu、v相電流Iv、及びw相電流Iwは、モータ11の各相に流れる実電流である。
【0018】
電圧検出部23は、バッテリBAからインバータ部21に入力される入力電圧Viを検出する。車両に搭載される場合、入力電圧Viの電圧値は変動するため、電圧検出部23は、変動する入力電圧Viを検出する。
【0019】
<制御部>
制御部30は、プロセッサと、記憶部と、を備える。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。記憶部は、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部は、処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御部30は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御部30は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0020】
制御部30は、センサレス制御によってインバータ部21を制御する。センサレス制御は、モータ11の回転子12の回転位置を検出するハードウェアの位置センサを用いずにインバータ部21を制御する方式である。インバータ部21が制御されることでモータ11が駆動する。
【0021】
制御部30は、電流座標変換部31と、角速度推定部32と、減算部33,36と、速度制御部34と、位相調整部35と、電流制御部37と、2相/3相変換部38と、変調率算出部39と、を備える。
【0022】
電流座標変換部31は、相電流Iu,Iv,Iwを、角速度推定部32が推定した回転子12の回転位置θに基づいてd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。例えば、電流座標変換部31は、3相(U,V,W)の固定座標系の相電流Iu,Iv,Iwを2相(α,β)の固定座標系の電流Iα,Iβに変換する。電流座標変換部31は、回転位置θを用いて電流Iα,Iβを2相(d,q)の回転座標系のd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。d軸及びq軸は、dq座標系の座標軸である。dq座標系は、モータ11の回転子12と共に回転する座標系である。
【0023】
角速度推定部32は、電流座標変換部31から出力されたd軸電流Id及びq軸電流Iqと、電流制御部37が算出したd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、に基づいてモータ11の回転子12の回転位置θを推定する。例えば、角速度推定部32は、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、モータ11によって定まる定数と、に基づいてコイルU,V,Wに発生する誘起電圧を算出する。そして、角速度推定部32は、誘起電圧に基づき回転位置θを推定する。また、角速度推定部32は、回転位置θに基づいて回転子12の角速度ωを推定する。
【0024】
減算部33は、角速度指令値ω*と、角速度推定部32によって推定された角速度ωとの差分Δωを算出する。角速度指令値ω*は、車両の上位制御装置から制御部30に入力される。
【0025】
速度制御部34は、差分Δωに基づいてd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。速度制御部34は、例えば、フィードバック制御を用いることによって差分Δωが0に収束するように、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。フィードバック制御としては、例えば、PI制御を用いることができる。
【0026】
図2に示すように、回転磁界をつくるための電流ベクトルIaは、d軸電流Idとq軸電流Iqとの合成ベクトルとして表現できる。q軸と電流ベクトルIaとの位相差を電流位相βとする。
【0027】
図3に示すように、電流位相βとトルクには相関がある。電流位相βとトルクとの相関は、モータ電流の大きさによって異なる。d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*は、トルクが最大となる電流位相βになるように算出される。d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*による合成ベクトルである電流ベクトルIa*とq軸との位相差を電流位相指令値β*とする。
【0028】
図1に示すように、位相調整部35は、変調率算出部39によって算出された変調率Mに応じて電流位相指令値β*の調整を行う。電流位相指令値β*を調整すると、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*が変化する。位相調整部35は、電流位相指令値β*を調整することで得られた調整後d軸電流指令値Id*’及び調整後q軸電流指令値Iq*’を算出する。調整後の電流位相指令値β*を調整後電流位相指令値β*’とする。調整後d軸電流指令値Id*’及び調整後q軸電流指令値Iq*’を算出する処理について詳細に説明する。以下の処理は、所定の制御周期で繰り返し行われる。
【0029】
<位相調整部が行う処理>
図4に示すように、ステップS1において位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値未満か否かを判定する。所定の閾値は、予め定められた値である。変調率Mが所定の閾値未満の場合、角速度推定部32での回転位置θの推定精度が低くなる。変調率Mの所定の閾値としては、回転位置θの推定精度が許容できなくなる値に設定されている。ステップS1の判定結果が肯定の場合、位相調整部35は、ステップS2の処理を行う。ステップS1の判定結果が否定の場合、位相調整部35は、ステップS10の処理を行う。
【0030】
ステップS2において、位相調整部35は、電流位相指令値β*が小さくなるように調整する。即ち、電流位相指令値β*を位相調整量αで減算する。図5に示すように、位相調整量αは、速度制御部34で定まる電流位相指令値β*に対する調整量である。ステップS2の処理が行われる度に位相調整量αは小さい値になるように予め定められている。例えば、ステップS2の処理が行われる度に、電流位相指令値β*は位相調整量αで減算される。即ち、電流位相指令値β*は段階的に負側に変化する。なお、図5は、ある一周期における電流位相指令値β*と位相調整量αとの関係を示す。
【0031】
次に、ステップS3において、位相調整部35は、位相調整量αが予め定められた調整量下限より小さいか否かを判定する。位相調整量αは、ステップS2の処理が行われる度に小さくなるが、位相調整量αが小さくなるほどトルクは小さくなる。このため、位相調整量αに調整量下限を設定することによってトルクが過剰に小さくなることを抑制している。調整量下限は、トルクが過剰に小さくなることを抑制できる値に設定されている。例えば、調整量下限は、電流位相指令値β*が-90[deg]未満にならないように設定されている。ステップS3の判定結果が肯定の場合、位相調整部35はステップS4の処理を行う。ステップS3の判定結果が否定の場合、位相調整部35はステップS5の処理を行う。
【0032】
ステップS4において、位相調整部35は、位相調整量αを調整量下限にする。ステップS4の処理を終えると、位相調整部35は、ステップS5の処理を行う。
ステップS5において、位相調整部35は、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を調整することで、調整後d軸電流指令値Id*’及び調整後q軸電流指令値Iq*’を得る。位相調整部35は、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*からd軸電流指令値Id*とq軸電流指令値Iq*との合成ベクトルである電流ベクトルIa*と電流位相指令値β*を算出する。位相調整部35は、電流位相指令値β*を位相調整量αで減算する。この減算によって得られた値が調整後電流位相指令値β*’である。位相調整部35は、調整後電流位相指令値β*’に基づいてd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を調整することによって調整後d軸電流指令値Id*’及び調整後q軸電流指令値Iq*’を算出する。詳細にいえば、位相調整部35は、電流ベクトルIa*’の大きさと調整後電流位相指令値β*’から調整後d軸電流指令値Id*’及び調整後q軸電流指令値Iq*’を算出する。
【0033】
ステップS10において、位相調整部35は、電流位相指令値β*が大きくなるように調整する。即ち、電流位相指令値β*を位相調整量αで減算する。図5に示すように、位相調整量αは、速度制御部34で定まる電流位相指令値β*に対する調整量である。ステップS10の処理が行われる度に位相調整量αは大きい値になるように予め定められている。例えば、ステップS10の処理が行われる度に、電流位相指令値β*は位相調整量αで減算される。即ち、電流位相指令値β*は段階的に正側に変化する。この場合、ステップS10における位相調整量αは、ステップS2における位相調整量αと同一の値であってもよいし異なる値であってもよい。ステップS10における位相調整量αとステップS2における位相調整量αとを異なる値にする場合、ステップS2で位相調整量αをステップS10における位相調整量αよりも大きくしてもよい。
【0034】
次に、ステップS11において、位相調整部35は、位相調整量αが0より大きいか否かを判定する。ステップS11の判定結果が否定の場合、位相調整部35は、ステップS5の処理を行う。ステップS11の判定結果が肯定の場合、位相調整部35は、ステップS12の処理を行う。
【0035】
ステップS12において、位相調整部35は、位相調整量αを0にする。ステップS10で位相調整量αが0より大きい値になったとしても、ステップS12で位相調整量αは0にされる。位相調整量αの最大値は0である。位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値以上の場合、位相調整量αが0になるまで位相調整量αを大きくすることになる。ステップS12の処理を終えると、位相調整部35は、ステップS5の処理を行う。
【0036】
図1に示すように、減算部36は、調整後d軸電流指令値Id*’とd軸電流Idとの差分ΔIdを算出する。減算部36は、調整後q軸電流指令値Iq*’とq軸電流Iqとの差分ΔIqを算出する。
【0037】
電流制御部37は、差分ΔId及び差分ΔIqに基づいてd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。電流制御部37は、例えば、フィードバック制御を用いることによって差分ΔId及び差分ΔIqが0に収束するように、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。フィードバック制御としては、例えば、比例積分制御を用いることができる。
【0038】
2相/3相変換部38は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、角速度推定部32が推定した回転子12の回転位置θに基づいてu相電圧指令値Vu*、v相電圧指令値Vv*、及びw相電圧指令値Vw*に変換する。例えば、2相/3相変換部38は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*をdq座標系からαβ座標系への座標の電圧指令値Vα*,Vβ*に変換する。2相/3相変換部38は、2相の電圧指令値Vα*,Vβ*を3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。インバータ部21は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて制御される。詳細にいえば、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とキャリア周波数とに基づいて、PWM信号を生成し、PWM信号によってスイッチング素子Q1~Q6が制御される。
【0039】
変調率算出部39は、インバータ部21の入力電圧Viと電圧指令値とから電圧指令値の変調率Mを演算する。変調率Mは、モータ11に対する電圧指令値をインバータ部21に入力される入力電圧Viで除算した値である。電圧指令値は、d軸電圧指令値Vd*の2乗値とq軸電圧指令値Vq*の2乗値との和の平方根として定義される。変調率算出部39は、以下の(1)式から変調率Mを算出する。
【0040】
【数1】
[本実施形態の作用]
図6を用いて本実施形態の作用について説明する。図6に示す線L11、線L12及び線L13は、電流位相指令値β*とトルクとの相関を示す。線L12は、線L11よりもモータ電流が大きい場合の電流位相指令値β*とトルクとの相関を示す。線L13は、線L12よりもモータ電流が大きい場合の電流位相指令値β*とトルクとの相関を示す。電流位相指令値β*が-90[deg]~90[deg]において、線L13は線L11及び線L12よりもトルクが常に大きい。電流位相指令値β*が-90[deg]~90[deg]において、線L12は線L11よりもトルクが常に大きく、線L13よりもトルクが常に小さい。電流位相指令値β*が-90[deg]~90[deg]において、線L11は線L12及び線L13よりもトルクが常に小さい。なお、線L11のトルクの最大値と線L12のトルクの最大値と線L13のトルクの最大値とは重なっていない。
【0041】
位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値未満の場合、電流位相指令値β*を位相調整量αで減算する。調整後電流位相指令値β*’が電流位相指令値β*から負側に変化する。これにより、電流位相βは負側に変化する。位相調整部35によって変調率Mが所定の閾値未満と判定された時点での電流位相βを電流位相P1とした場合、電流位相P1が負側に変化することによって電流位相P2になる。図6から把握できるように、電流位相P1が負側に変化して電流位相P2になることによって瞬間的にトルクが減少する。トルクが減少する分、モータ電流は大きくなる。詳細にいえば、速度制御部34は、電流位相P1でのトルクを維持するためにモータ電流が大きくなるようにd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。図6に示すように、電流位相P1でのトルクと電流位相P2でのトルクの差分が小さくなるようにモータ電流は大きくなる。図6に示す例では、線L11に対応するモータ電流から線L12に対応するモータ電流に変化する。
【0042】
モータ電流が大きくなることによってインバータ部21の出力電圧が大きくなる。インバータ部21の出力電圧が大きくなることで、変調率Mは大きくなる。詳細にいえば、電流位相βを負側に変化させることでd軸電流Idが正側に変化する。d軸電流Idが正側に変化すると、以下の(2)式からd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqの合成ベクトルである電圧ベクトルVa(=√(Vd*^2+Vq*^2))が大きくなることがわかる。これにより、出力電圧が大きくなることによって変調率Mが大きくなる。
【0043】
【数2】
Rは電気子巻線抵抗値、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Keは誘起電圧定数、pは微分演算子を示す。R、Ld、Lq、Keは既知の値である。
【0044】
電流位相P1を負側に変化させて電流位相P2としても変調率Mが所定の閾値以上にならない場合、位相調整部35は位相調整量αを小さくする。これにより、電流位相は、電流位相P2よりも負側となる電流位相P3に変化する。電流位相P2が電流位相P3に変化することによってモータ電流は更に大きくなる。図6に示すように、電流位相P2でのトルクと電流位相P3でのトルクとの差分が小さくなるようにモータ電流は大きくなる。図6に示す例では、線L12に対応するモータ電流が線L13に対応するモータ電流に変化する。なお、図示の都合上、図6では電流位相P1と電流位相P2との位相差と、電流位相P2と電流位相P3との位相差が異なっているが、両者は同一であってもよい。
【0045】
変調率Mが所定の閾値未満と判定される度に位相調整量αが小さくなっていくことによって電流位相βが段階的に負側に変化するように、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*が調整される。ステップS2における位相調整量αをステップS10における位相調整量αよりも大きくした場合、変調率Mを短時間で増加させることができる。変調率Mが所定の閾値以上になるまで電流位相βが段階的に負側に変化することで、変調率Mが所定の閾値以上になると、電流位相βが負側に変化しなくなる。
【0046】
変調率Mが所定の閾値以上と判定されると、位相調整部35は、位相調整量αが0になるまで位相調整量αを大きくする。これにより、変調率Mが所定の閾値以上になると、モータ電流は徐々に小さくなっていく。ステップS2における位相調整量αをステップS10における位相調整量αよりも大きくした場合、変調率Mを緩やかに増加させることができる。これにより、制御の安定性を高めることができる。
【0047】
[本実施形態の効果]
(1)位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値未満の場合、電流位相指令値β*を位相調整量αで減算することで電流位相指令値β*が負側に変化するようにしている。モータ電流が大きくなることで変調率Mが大きくなるため、回転位置θの推定精度を向上させることができる。また、位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値以上になるまで電流位相βを段階的に負側に変化させる。変調率Mが所定の閾値以上になると、電流位相βが負側に変化しなくなる。これにより、電流位相βが負側に過剰に変化することを原因としてモータ電流が過剰に大きくなることが抑制される。モータ電流が大きくなることを原因として損失が大きくなることを抑制できる。
【0048】
(2)位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値以上の場合に位相調整量αを大きくしていくことで、電流位相βを負側にずらすことによって大きくなったモータ電流を小さくしていく。これにより、損失の増加を抑制できる。
【0049】
(3)位相調整部35は、位相調整量αが調整量下限より小さい場合、位相調整量αを調整量下限にする。位相調整量αが調整量下限より小さい値になることを抑制できる。
[変更例]
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0050】
○制御部30は、モータ11として、回転子12の表面に永久磁石が設けられたSPM(Surface Permanent Magnet)モータの制御に用いられてもよい。
図7に示すように、SPMモータの場合、電流位相指令値β*が0でトルクが最大になる。制御部30は、モータ11がIPMモータの場合と同様に、電流位相βが負側に変化するように電流位相指令値β*を調整する。図7に示す線L21、及び線L22は、電流位相指令値β*とトルクとの相関を示す。線L22は、線L21よりもモータ電流が大きい場合の電流位相指令値β*とトルクとの相関を示す。位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値未満の場合、電流位相指令値β*を調整する。これにより、電流位相P11が負側に変化することによって電流位相P12に変化する。電流位相P11が電流位相P12に変化することで、線L21に対応するモータ電流が線L22に対応するモータ電流に変化する。図7では、省略しているが、電流位相P11が電流位相P12に変化する過程で、位相調整量αは段階的に小さくされている。即ち、図6では、段階的に負側に変化した電流位相のうち最初の電流位相P11と最後の電流位相P12のみを図示している。
【0051】
図8に示すように、電流位相βが負側に変化することによってd軸電流Idが正側へ変化する。これにより、インバータ部21の出力電圧が高くなることによって変調率Mが大きくなる。
【0052】
○位相調整部35は、変調率Mが所定の閾値以上の場合、位相調整量αが0になるまで位相調整量αを段階的に大きくするのに代えて、1回の処理で0にしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
M1…電動機、Q1~Q6…スイッチング素子、U,V,W…コイル、11…モータ、21…インバータ部、30…制御部、31…電流座標変換部、32…角速度推定部、34…速度制御部、35…位相調整部、39…変調率算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8