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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044467
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】電池スタックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240326BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240326BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0566
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149997
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】米山 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 博昭
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AM02
5H029AM07
5H029CJ16
5H029CJ28
5H029HJ00
5H029HJ14
5H029HJ18
(57)【要約】
【課題】電圧安定化工程において電池スタックを構成する複数の電池セルを放置する時間を短縮できる。
【解決手段】リチウムイオン二次電池である複数の電池セルを備える電池スタックの製造方法は、セル組立工程と、初期充電工程と、セル自己放電工程と、セル自己放電工程の完了時の電池セルの電圧値を測定する電圧値測定工程と、セル自己放電工程後の電池セルを常温域において休止させるセル休止工程と、電池セルの充電状態を調整する充電状態調整工程と、電池スタックを構成する複数の電池セルを常温域において放置することで電池セルの各々の電圧を安定化させる電圧安定化工程と、電池スタックを構成する複数の電池セルを常温域において一定時間自己放電させるスタック自己放電工程とを備え、電圧値測定工程において測定された電圧値が高い場合には低い場合に比べて、セル休止工程において電池セルを休止させる休止時間を長く設定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池である複数の電池セルを備える電池スタックの製造方法であって、
正極板及び負極板を有する電極体と、非水性の電解液とがケースに収容された電池セルを組み立てるセル組立工程と、
前記電池セルを常温域において所定の電圧値まで充電する初期充電工程と、
前記電池セルを常温域において一定時間自己放電させるセル自己放電工程と、
前記セル自己放電工程の完了時の前記電池セルの電圧値を測定する電圧値測定工程と、
前記セル自己放電工程後の前記電池セルを常温域において休止させるセル休止工程と、
前記電池セルの充電状態を調整する充電状態調整工程と、
前記電池スタックを構成する複数の前記電池セルを常温域において放置することで前記電池セルの各々の電圧を安定化させる電圧安定化工程と、
前記電池スタックを構成する複数の前記電池セルを常温域において一定時間自己放電させるスタック自己放電工程と、を備え、
前記電圧値測定工程において測定された前記電圧値が高い場合には低い場合に比べて、前記セル休止工程において前記電池セルを休止させる休止時間を長く設定する、
電池スタックの製造方法。
【請求項2】
前記電圧値測定工程において測定された前記電圧値が高い場合ほど前記休止時間を長く設定する、
請求項1に記載の電池スタックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池スタックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池である複数の電池セルを備える電池スタックがある。
こうした電池スタックの製造方法としては、特許文献1に記載の非水電解液二次電池の製造方法がある。
【0003】
特許文献1に記載の製造方法は、電池組立体構築工程と、初期充電工程と、高温エージング工程と、セル自己放電工程と、低電圧放置工程と、スタック自己放電工程とを備えている。
【0004】
電池組立体構築工程では、正極及び負極を有する電極体と、非水電解液とを電池ケースに収容した電池組立体(以下、電池セル)が構築される。
初期充電工程では、電池セルを常温域において所定の電圧値まで充電する。
【0005】
高温エージング工程では、電池セルを所定の高温域において一定時間(5~250時間)保持する。ここで、電池セル内に金属異物が混入している場合、電池セルを高温域で保持することにより、同金属異物を金属イオンとして溶解させて負極上に析出させるとともに成長させる。これにより、電極体内において微小な内部短絡を発生させることができるので、次工程のセル自己放電工程において異物混入に起因して内部短絡している電池セルを検出できる。
【0006】
セル自己放電工程では、電池セルを常温域において一定時間(36~200時間)自己放電させる。そして、自己放電に伴う電池セルの電圧降下量を測定することで、初期の電圧降下量の大きい電池セルを内部短絡している電池セルとして選別する。
【0007】
低電圧放置工程では、セル自己放電工程後の電池セルをさらに3.45V以下の低電圧域まで放電させた後、低電圧域にて一定時間(1~3時間)放置する。これにより、初期充電工程や高温エージング工程において初期ガスが発生した場合であっても、電極体のガス噛み部に電解液が含浸することで、その後の充放電処理において充電ムラが生じにくくなる。
【0008】
そして、低電圧放置工程後の電池セルを複数用意し、各電池セルの電圧の調整、すなわち充電状態の調整を行った後に、複数の電池セルを電池スタックの配列状態にて拘束することで電池スタックを構築する。
【0009】
その後、電池スタックを構成する各電池セルを常温域において自己放電させるスタック自己放電工程が行われる。スタック自己放電工程では、各電池セルを常温域において一定時間(例えば18時間)自己放電させる。そして、自己放電に伴う電池セルの電圧降下量を測定することで、電圧降下量の大きい電池セルを内部短絡している電池セルとして選別する。
【0010】
ここで、スタック自己放電工程では、電圧降下量に基づいて内部短絡している電池セルを選別するため、電圧が急激に変化するタイミングで電圧を測定すると、電圧降下量がばらつくことで内部短絡している電池セルの検出精度が低下するおそれがある。
【0011】
そこで、複数の電池セルの充電状態の調整を行った後、電圧降下量の測定を行う前に、これら電池セルを常温域において一定時間(例えば24時間)放置することで、電池セルの各々の電圧を安定化させる安定化工程を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015-90806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、安定化工程において電池セルを放置する時間の短縮が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための電池スタックの製造方法の各態様を記載する。
[態様1]
リチウムイオン二次電池である複数の電池セルを備える電池スタックの製造方法であって、正極板及び負極板を有する電極体と、非水性の電解液とがケースに収容された電池セルを組み立てるセル組立工程と、前記電池セルを常温域において所定の電圧値まで充電する初期充電工程と、前記電池セルを常温域において一定時間自己放電させるセル自己放電工程と、前記セル自己放電工程の完了時の前記電池セルの電圧値を測定する電圧値測定工程と、前記セル自己放電工程後の前記電池セルを常温域において休止させるセル休止工程と、前記電池セルの充電状態を調整する充電状態調整工程と、前記電池スタックを構成する複数の前記電池セルを常温域において放置することで前記電池セルの各々の電圧を安定化させる電圧安定化工程と、前記電池スタックを構成する複数の前記電池セルを常温域において一定時間自己放電させるスタック自己放電工程と、を備え、前記電圧値測定工程において測定された前記電圧値が高い場合には低い場合に比べて、前記セル休止工程において前記電池セルを休止させる休止時間を長く設定する、電池スタックの製造方法。
【0015】
リチウムイオン二次電池においては、リチウムイオン(以下、Liイオン)の析出を抑制するために、電極体を構成する正極板に対して負極板の寸法が大きく設定されている。このため、負極板は、セパレータを挟んで正極板と対向する部分である対向部と、正極板と対向しない部分である非対向部とを有する。
【0016】
ここで、対向部においては、電池セルの充放電の際に、正極板との間でLiイオンが授受されることでLiイオンの濃度が変動する。一方、非対向部においては、正極板との間でLiイオンの授受はほとんどされず、対向部とのLiイオンの濃度差を駆動力としてLiイオンが対向部と非対向部との間で移動する。このため、対向部と非対向部との間でLiイオンの濃度が平衡状態に達するまでに、すなわち対向部と非対向部との間でLiイオンが移動しなくなるまでには多くの時間を要する。
【0017】
上記スタック自己放電工程において、対向部と非対向部との間でLiイオンの濃度差が大きい場合には、Liイオンの移動に伴い負極板の電位の変動が生じる。この場合、電池セルの電圧が長時間にわたり安定しない。
【0018】
上述したように、上記スタック自己放電工程では、自己放電に伴う電池セルの電圧降下量を測定することで、電圧降下量の大きい電池セルを内部短絡している電池セルとして選別する検査が行われる。このため、対向部と非対向部とのLiイオンの濃度差に起因して電池セルの電圧が不安定な状態において電圧降下量を測定すると、見かけ上の電圧降下量がばらつくことで内部短絡している電池セルを精度良く選別できないおそれがある。
【0019】
これに対して、上記態様によれば、スタック自己放電工程に先立ち、電池セルの各々の電圧を安定させるべく電池スタックを構成する複数の電池セルを常温域において放置する電圧安定化工程が行われる。
【0020】
セル自己放電工程の完了時においては、対向部と非対向部との間でLiイオンの濃度差はほとんどない。一方、セル自己放電工程完了時の負極板の電位が低いときには高いときに比べて、充電状態調整工程後における負極板の電位との差が大きくなる。このため、セル自己放電工程完了時の負極板の電位が低いときには高いときに比べて、負極板の非対向部の電位が、充電状態調整工程後における負極板の電位、すなわち負極板の対向部の電位と等しくなるまでに要する時間が長くなる。
【0021】
上記態様によれば、セル自己放電工程完了時の電池セルの電圧値を測定し、測定された電圧値が高い場合には低い場合に比べて、セル休止工程において電池セルを休止させる休止時間が長く設定される。すなわち、負極板の電位が低い場合には高い場合に比べて、休止時間が長く設定される。これにより、セル自己放電工程完了時の電圧値の大きさにかかわらず、充電状態調整工程後における負極板の対向部と非対向部との電位差、すなわちLiイオンの濃度差を小さくできる。その結果、電圧安定化工程において、電池セルの電圧が安定するまで、すなわち負極板の対向部と非対向部との電位差が小さくなるまでに要する時間を短くできる。
【0022】
したがって、電圧安定化工程において電池スタックを構成する複数の電池セルを放置する時間を短縮できる。
[態様2]
前記電圧値測定工程において測定された前記電圧値が高い場合ほど前記休止時間を長く設定する、態様1に記載の電池スタックの製造方法。
【0023】
同態様によれば、セル自己放電工程完了時の電池セルの電圧値を測定し、測定された電圧値が高い場合ほど、すなわち負極の電位が低いほど、セル休止工程において電池セルを休止させる休止時間が長く設定される。このため、測定された電圧値に応じて上記休止時間を緻密に設定することができる。したがって、電圧安定化工程において電池スタックを構成する複数の電池セルを放置する時間を効果的に短縮できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電圧安定化工程において電池スタックを構成する複数の電池セルを放置する時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、一実施形態に係る電池スタックの斜視図である。
図2図2は、図1の電池スタックを構成する電池セルの斜視図である。
図3図3は、図2の電池セルを構成する電極体の分解斜視図である。
図4図4は、図2の電池セルを構成する電極体の正面図である。
図5図5は、一実施形態に係る電池スタックの製造工程を順に示すフローチャートである。
図6図6は、セル自己放電工程の完了時の電池セルの電圧値とセル休止工程における休止時間との関係を示すマップである。
図7図7(a)~図7(c)は、負極板の対向部と非対向部との間におけるLiイオンの移動態様をそれぞれ説明する模式図である。
図8図8は、セル自己放電工程の完了時における負極電位が高い場合の負極板の対向部及び非対向部の電位の推移の一例を示すタイミングチャートである。
図9図9は、セル自己放電工程の完了時における負極電位が低い場合の負極板の対向部及び非対向部の電位の推移の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図1図9を参照して、電池スタックの製造方法の一実施形態について説明する。
<電池スタック>
図1に示すように、電池スタックは、一列に配列された複数の電池セル10を備えている。電池セル10は、リチウムイオン二次電池である。
【0027】
電池スタックは、複数のスペーサ61、一対のエンドプレート62、及び一対の拘束部材63を備えている。
スペーサ61は、略平板状であり、電池セル10同士の間に設けられている。
【0028】
一対のエンドプレート62は、複数の電池セル10の配列方向の両端に設けられており、複数の電池セル10を挟んでいる。
一対の拘束部材63は、一対のエンドプレート62同士の間に架け渡されており、複数の電池セル10及び一対のエンドプレート62を拘束している。
【0029】
<電池セル10>
図2に示すように、電池セル10は、正極板20、負極板30、及びセパレータ40を有する電極体11と、電解液12と、電極体11及び電解液12を収容するケース50とを備えている。
【0030】
電極体11は、正極板20と負極板30との間にセパレータ40が挟まれた状態で積層されている。電極体11は、正極板20、負極板30、及びセパレータ40の積層体を捲回することにより形成されている。
【0031】
電解液12は、非水性であり、電極体11に含浸されている。電解液12としては、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられる。
ケース50は、扁平略四角箱状のケース本体51と、ケース本体51の開口を閉塞する蓋部材52とを備えている。ケース本体51及び蓋部材52は、例えば、アルミニウム合金やステンレス鋼等の金属材料により形成されている。そして、ケース本体51及び蓋部材52は、例えば、レーザー溶接等を用いて液密に接合される。
【0032】
図3に示すように、正極板20は、板状の集電体21と、集電体21上に積層された活物質層22とを備えている。具体的には、アルミニウム等を素材とする集電体21上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだスラリーを塗工することにより、活物質層22が形成される。
【0033】
負極板30は、板状の集電体31と、集電体31上に積層された活物質層32とを備えている。具体的には、銅等を素材とする集電体31上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだスラリーを塗工することにより、活物質層32が形成される。
【0034】
負極板30の幅寸法(図3の上下方向の長さ)は、正極板20の幅寸法に対して大きく設定されている。
図2に示すように、蓋部材52には、外側に突出する正極端子24及び負極端子34が設けられている。
【0035】
図3に示すように、正極板20には、集電体21上に活物質層22が形成されていない未塗工部23が形成されている。正極板20の未塗工部23と正極端子24とが接続部材25を介して電気的に接続されている(図2参照)。
【0036】
負極板30には、集電体31上に活物質層32が形成されていない未塗工部33が形成されている。負極板30の未塗工部33と負極端子34とが接続部材35を介して電気的に接続されている(図2参照)。
【0037】
図4に示すように、電池セル10は、電極体11とともにケース50内に収容される絶縁フィルム41を備えている。絶縁フィルム41は、ケース本体51の開口側、すなわちケース50の蓋部材52側に開口する袋形状を有している。絶縁フィルム41の内部に電極体11を配置することで、電極体11とケース50とが電気的に絶縁されている。
【0038】
図2に示すように、蓋部材52には、注入口53及び安全弁54が設けられている。注入口53を通じてケース50内に電解液12を注入することで、ケース50内に封缶された電極体11に対して電解液12が含浸される。なお、注入口53は、電解液12の注入後に、例えばレーザー溶接によって封止される。
【0039】
上述した電池スタックは、複数の電池セル10を直列接続して構成されている。これにより、電スタック全体としての充放電容量及び出力電圧が高められている。
次に、図5のフローチャートを参照して、電池スタックの製造方法について説明する。
【0040】
図5に示すように、電池スタックの製造方法は、セル組立工程、初期充電工程、高温エージング工程、セル自己放電工程、電圧値測定工程、セル容量測定工程、セル休止工程、抵抗値検査工程、及び充電状態調整工程を備える。また、電池スタックの製造方法は、スタック組立工程、電圧安定化工程、及びスタック自己放電工程を備える。
【0041】
(セル組立工程)
セル組立工程は、電極体11と、電解液12とをケース50に収容することで電池セル10を組み立てる工程である(図2参照)。
【0042】
(初期充電工程)
初期充電工程は、セル組立工程において組み立てられた電池セル10を常温域において所定の電圧値まで充電する工程である。初期充電工程では、電池セル10の正極端子24と負極端子34との間に外部電源を接続することで所定の電圧値まで充電する。初期充電工程における常温域とは、常温とされる温度領域であり、例えば5~35℃である。また、初期充電工程における所定の電圧値とは、電池セル10の充電状態(State of Charge :SOC)が満充電時の80%以上であるときに示し得る電圧値とすることが好ましい。
【0043】
(高温エージング工程)
高温エージング工程は、初期充電工程を終えた電池セル10を所定の高温域において一定時間保持する工程である。
【0044】
高温エージング工程では、電池セル10を高温域において保持することにより、電池セル10内に金属異物が混入している場合において、同金属異物を金属イオンとして溶解させて負極板30上に析出させるとともに成長させる。これにより、電極体11内において微小な内部短絡を発生させることができるので、次工程のセル自己放電工程において異物混入に起因して内部短絡している電池セル10を検出できる。
【0045】
高温エージング工程における保持温度としては、40~85℃であることが好ましい。また、高温エージング工程における保持時間としては、5~250時間であることが好ましい。
【0046】
(セル自己放電工程)
セル自己放電工程は、電池セル10を常温域において放置して一定時間自己放電させる工程である。
【0047】
セル自己放電工程では、電池セル10の自己放電に伴う電池セル10の電圧降下量を測定することで、初期の電圧降下量の大きい電池セル10を内部短絡している電池セル10として選別する。内部短絡している電池セル10を取り除くことができる。
【0048】
セル自己放電工程における常温域とは、常温とされる温度領域であり、例えば5℃~35℃である。また、セル自己放電工程における放置時間としては、36~200時間であることが好ましい。
【0049】
(電圧値測定工程)
電圧値測定工程は、後述するセル休止工程における休止時間Tを設定するために、セル自己放電工程の完了時の電池セル10の電圧値V1を測定する工程である。
【0050】
(セル容量測定工程)
セル容量測定工程は、セル自己放電工程を終えた電池セル10の電池容量を測定する工程である。セル容量測定工程では、電池セル10の正極端子24と負極端子34との間に負荷を接続して電池セル10を一定時間放電させた後の電池セル10の電圧を測定することで、電池セル10の電池容量が基準値以上であるか否かを検査する工程である。
【0051】
(セル休止工程)
セル休止工程は、セル自己放電工程を終えた電池セル10を常温域において放置して休止させる工程である。
【0052】
セル休止工程では、電圧値測定工程において測定された電圧値V1が高い場合には低い場合に比べて、電池セル10を休止させる休止時間Tを長く設定する。詳しくは、図6に示すように、電圧値V1が高い場合ほど休止時間Tが長く設定される。休止時間Tとしては、0.8~4時間であることが好ましい。
【0053】
(抵抗値検査工程)
抵抗値検査工程は、電池セル10の抵抗値を測定する工程である。抵抗値検査工程では、電池セル10に対して一定の大きさの電流を流したときの電池セル10の電圧値を測定することで、これら電流値と電圧値とに基づき電池セル10の抵抗値を導出する。
【0054】
(充電状態調整工程)
充電状態調整工程は、電池セル10の充電状態を調整する工程である。充電状態調整工程では、抵抗値検査工程を終えた電池セル10を常温域において所定の電圧値まで充電する工程である。充電状態調整工程では、電池セル10の正極端子24と負極端子34との間に外部電源を接続することで所定の電圧値まで充電する。充電状態調整工程における常温域とは、常温とされる温度領域であり、例えば5℃~35℃である。また、充電状態調整工程における所定の電圧値とは、電池セル10の充電状態(SOC)が満充電時の50~80%であるときに示し得る電圧値とすることが好ましい。
【0055】
(スタック組立工程)
スタック組立工程は、充電状態調整工程を終えた電池セル10を複数用意し、各電池セル10の電圧の調整、すなわち充電状態の調整を行った後に、複数の電池セル10を一列にて配列した状態にて拘束することで電池スタックを組み立てる工程である(図1参照)。
【0056】
(電圧安定化工程)
電圧安定化工程は、電池スタックを構成する複数の電池セル10を常温域において放置することで電池セル10の各々の電圧を安定化させる工程である。電圧安定化工程では、電池スタックを構成する複数の電池セル10を常温域において一定時間放置する。電圧安定化工程における常温域とは、常温とされる温度領域であり、例えば5℃~35℃である。また、電圧安定化工程における放置時間としては、24~72時間であることが好ましい。
【0057】
(スタック自己放電工程)
スタック自己放電工程は、電池スタックを構成する複数の電池セル10を常温域において放置して一定時間自己放電させる工程である。スタック自己放電工程では、各電池セル10の自己放電に伴う各電池セル10の電圧降下量を測定することで、電圧降下量の大きい電池セル10を内部短絡している電池セル10として選別する。スタック自己放電工程において各電池セル10を放置する時間は、例えば18~96時間であることが好ましい。
【0058】
次に、本実施形態の作用について説明する。
上述したように、電池セル10においては、リチウムイオン(以下、Liイオン)の析出を抑制するために、電極体11を構成する正極板20に対して負極板30の寸法が大きく設定されている(図3参照)。
【0059】
このため、図7(a)~図7(c)に模式的に示すように、負極板30は、セパレータ40を挟んで正極板20と対向する部分である対向部30Aと、正極板20と対向しない部分である非対向部30Bとを有する。
【0060】
ここで、対向部30Aにおいては、電池セル10の充放電の際に、正極板20との間でLiイオンが授受されることでLiイオンの濃度が変動する。
一方、非対向部30Bにおいては、正極板20との間でLiイオンの授受はほとんどされず、対向部30AとのLiイオンの濃度差を駆動力としてLiイオンが対向部30Aと非対向部30Bとの間で移動する。このため、対向部30Aと非対向部30Bとの間でLiイオンの濃度が平衡状態に達するまでに、すなわち対向部30Aと非対向部30Bとの間でLiイオンが移動しなくなるまでには多くの時間を要する。
【0061】
図7(a)に示すように、対向部30Aの電位が非対向部30Bの電位よりも高い場合、すなわち対向部30AにおけるLiイオンの濃度が非対向部30BにおけるLiイオンの濃度よりも高い場合には、対向部30Aから非対向部30BにLiイオンが移動する。これにより、対向部30AのLiイオン数が減少することで電位が上昇するとともに、電池セル10の電圧が低下する。
【0062】
図7(b)に示すように、対向部30Aの電位が非対向部30Bの電位よりも低い場合、すなわち対向部30AにおけるLiイオンの濃度が非対向部30BにおけるLiイオンの濃度よりも低い場合には、非対向部30Bから対向部30AにLiイオンが移動する。これにより、対向部30AのLiイオン数が増加することで電位が低下するとともに、電池セル10の電圧が上昇する。
【0063】
図7(c)に示すように、対向部30Aの電位と非対向部30Bの電位とが等しい場合、すなわち対向部30AのLiイオンの濃度と非対向部30BのLiイオンの濃度とが等しい場合には、非対向部30Bと対向部30Aとの間でLiイオンが移動しない。このため、電池セル10の電圧は変動しない。
【0064】
ここで、セル自己放電工程が完了してから充電状態調整工程が完了するまでの負極板30の対向部30A及び非対向部30Bの電位(負極電位)の推移の一例を図8及び図9に示す。
【0065】
なお、図8は、セル自己放電工程の完了時(タイミングt1)における負極電位が高い場合を示しており、図9は、セル自己放電工程の完了時(タイミングt1)における負極電位が低い場合を示している。また、図8及び図9における実線及び一点鎖線は、対向部30Aの電位の推移及び非対向部30Bの電位の推移をそれぞれ示している。
【0066】
図8及び図9に示すように、タイミングt0からタイミングt1までの期間は、セル自己放電工程後に行われるセル容量測定工程の期間を示しており、同期間においては、電池セル10の放電に伴って対向部30Aの電位が上昇する。
【0067】
タイミングt1からタイミングt2までの期間は、セル休止工程(抵抗値検査工程)に先立ち電池セル10の充電が行われるため、同充電に伴って対向部30Aの電位が低下する。
【0068】
図8におけるタイミングt2からタイミングt3までの期間及び図9におけるタイミングt2からタイミングt5までの期間は、いずれもセル休止工程が行われるため、対向部30Aの電位はほとんど低下しない。
【0069】
図8におけるタイミングt3からタイミングt4までの期間及び図9におけるタイミングt5からタイミングt6までの期間は、いずれも充電状態調整工程が行われるため、充電に伴って対向部30Aの電位が低下する。
【0070】
図8及び図9にそれぞれ実線及び二点鎖線にて示すように、セル自己放電工程の完了時のタイミングt1においては、対向部30Aと非対向部30Bとの間で電位差はほとんどない。すなわち、対向部30Aと非対向部30Bとの間でLiイオンの濃度差はほとんどない。
【0071】
上述したように、非対向部30Bにおいては、対向部30AとのLiイオンの濃度差を駆動力としてLiイオンが対向部30Aと非対向部30Bとの間で移動する。このため、セル自己放電工程完了時の負極板30の電位が低いときには高いときに比べて、充電状態調整工程後(図8ではタイミングt4、図9ではタイミングt6)における負極板30の電位との差ΔVが大きくなる。このため、セル自己放電工程の完了時の負極板30の電位が低いときには高いときに比べて、負極板30の非対向部30Bの電位が、充電状態調整工程後における負極板30(対向部30A)の電位と等しくなるまでに要する時間が長くなる。
【0072】
本実施形態によれば、セル自己放電工程の完了時の電池セル10の電圧値V1を測定し、測定された電圧値V1が高い場合には低い場合に比べて、セル休止工程において電池セル10を休止させる休止時間Tが長く設定される。すなわち、負極板30の電位が低い場合には高い場合に比べて、休止時間Tが長く設定される。これにより、セル自己放電工程の完了時の電池セル10の電圧値V1の大きさにかかわらず、充電状態調整工程後における負極板30の対向部30Aと非対向部30Bとの電位差、すなわちLiイオンの濃度差を小さくできる。
【0073】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)電圧値測定工程において測定された電圧値V1が高い場合には低い場合に比べて、セル休止工程において電池セル10を休止させる休止時間Tを長く設定するようにした。
【0074】
こうした方法によれば、上記作用を奏するので、電圧安定化工程において、電池セル10の電圧が安定するまで、すなわち負極板30の対向部30Aと非対向部30Bとの電位差が小さくなるまでに要する時間を短くできる。したがって、電圧安定化工程において電池スタックを構成する複数の電池セル10を放置する時間を短縮できる。
【0075】
(2)電圧値測定工程において測定された電圧値V1が高い場合ほど休止時間Tを長く設定するようにした。
こうした方法によれば、電圧値V1が高い場合ほど、すなわち負極板30の電位が低いほど、セル休止工程において電池セル10を休止させる休止時間Tが長く設定される。このため、測定された電圧値V1に応じて上記休止時間Tを緻密に設定することができる。したがって、電圧安定化工程において電池スタックを構成する複数の電池セル10を放置する時間を効果的に短縮できる。
【0076】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、電圧値測定工程において測定された電圧値V1が高い場合ほど、セル休止工程における休止時間Tが長くなるようにしているが、休止時間Tの設定態様はこれに限定されない。例えば、電圧値V1が所定の閾値以上の場合には、休止時間Tを第1の休止時間T1に設定するとともに、電圧値V1が所定の閾値未満の場合には、休止時間Tを第1の休止時間T1よりも短い第2の休止時間T2に設定してもよい。
【符号の説明】
【0077】
10…電池セル
11…電極体
12…電解液
20…正極板
21…集電体
22…活物質層
23…未塗工部
24…正極端子
25…接続部材
30…負極板
30A…対向部
30B…非対向部
31…集電体
32…活物質層
33…未塗工部
34…負極端子
35…接続部材
40…セパレータ
41…絶縁フィルム
50…ケース
51…ケース本体
52…蓋部材
53…注入口
54…安全弁
61…スペーサ
62…エンドプレート
63…拘束部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9