(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004447
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】鋼板の矯正機への通板可否判定方法、矯正方法、製造方法、及び矯正機への通板可否判定モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
B21B 39/12 20060101AFI20240109BHJP
B21D 1/05 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B21B39/12 B
B21D1/05 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060365
(22)【出願日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2022103162
(32)【優先日】2022-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 慎也
(72)【発明者】
【氏名】植野 雅康
(72)【発明者】
【氏名】山内 和真
【テーマコード(参考)】
4E003
【Fターム(参考)】
4E003AA02
4E003BA12
4E003BA27
(57)【要約】
【課題】鋼板の先端部における反り形状に応じて鋼板の矯正機への通板可否を判定可能な鋼板の矯正機への通板可否判定方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る鋼板の矯正機への通板可否判定方法は、少なくとも1対のロールを備える矯正機と、鋼板を矯正機に装入する搬送装置と、鋼板の先端部の反り画像を撮像する反り形状撮像装置と、を含む鋼板の製造設備における鋼板の矯正機への通板可否判定方法であって、反り形状撮像装置によって矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の反り画像を入力データとして含み、鋼板の矯正機への通板可否情報を出力データとした、畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習により学習された通板可否判定モデルを用いて、鋼板の矯正機への通板可否を判定する通板可否判定ステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1対のロールを備える矯正機と、鋼板を前記矯正機に装入する搬送装置と、前記鋼板の先端部の反り画像を撮像する反り形状撮像装置と、を含む鋼板の製造設備における鋼板の矯正機への通板可否判定方法であって、
前記反り形状撮像装置によって前記矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の反り画像を入力データとして含み、前記鋼板の矯正機への通板可否情報を出力データとした、畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習により学習された通板可否判定モデルを用いて、前記鋼板の矯正機への通板可否を判定する通板可否判定ステップを含む、鋼板の矯正機への通板可否判定方法。
【請求項2】
前記通板可否判定モデルの入力データとして、前記鋼板の板厚、板幅、板長さ、重量、及び前記搬送装置による前記矯正機への鋼板の装入速度の中から選択した1つ以上の操業パラメータを含む、請求項1に記載の鋼板の矯正機への通板可否判定方法。
【請求項3】
前記鋼板の製造設備は、前記鋼板の先端部の平面形状画像を撮像する平面形状撮像装置を備え、
前記通板可否判定モデルの入力データとして、さらに前記平面形状撮像装置によって前記矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の平面形状画像を含む、
請求項1又は2に記載の鋼板の矯正機への通板可否判定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の鋼板の矯正機への通板可否判定方法を用いて、鋼板が前記矯正機に装入される前に前記鋼板の通板可否を判定し、通板不可と判定された場合には、前記鋼板の製造設備の操業条件を再設定するステップを含む、鋼板の矯正方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼板の矯正方法を用いて鋼板を製造するステップを含む、鋼板の製造方法。
【請求項6】
少なくとも1対のロールを備える矯正機と、鋼板を前記矯正機に装入する搬送装置と、前記鋼板の先端部の反り画像を撮像する反り形状撮像装置と、を含む鋼板の製造設備における鋼板の矯正機への通板可否を判定するために使用される通板可否判定モデルを生成する鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法であって、
前記反り形状撮像装置によって前記矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の反り画像を入力実績データとして含み、その入力実績データに対応する前記鋼板の矯正機への通板可否情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得し、取得した複数の学習用データを用いた畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習によって、前記通板可否判定モデルを生成するステップを含む、鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の矯正機への通板可否判定方法、矯正方法、製造方法、及び矯正機への通板可否判定モデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の製造工程において、熱間圧延後の鋼板を冷却する際に鋼板に冷却ムラが発生すると、鋼板製品の平坦度の悪化、残留応力に起因するキャンバーの発生、機械特性のばらつき等の原因となるため、可能な限り均一な冷却が行われるのが好ましい。そのため、熱間圧延後の鋼板を冷却する前に鋼板の平坦度を矯正する場合がある。例えば厚鋼板の製造工程で熱間圧延後の鋼板を加速冷却する場合、冷却ムラの発生を抑制するために、ローラーレベラ等の矯正機によって鋼板の平坦度を矯正してから加速冷却を行うことがある。また、熱延鋼板の製造工程においてラインパイプ素材等の比較的厚物材を製造する場合、粗圧延後の鋼板(シートバー)に反りが生じていると仕上圧延における通板が不安定となるため、粗圧延後の鋼板の平坦度を矯正してから仕上圧延を行うこともある。しかしながら、熱間圧延後の鋼板は、厚み方向の温度差によって先端部に反りを有することが多い。鋼板の先端部に大きな反りがあると、矯正機に鋼板が噛み込まないという問題が生じることがある。また、鋼板の先端部にフィッシュテール形状やタング形状といった不均一な平面形状が形成されている場合、鋼板が矯正機に通板される際、鋼板が矯正ロールと衝突し、鋼板の先端部に折れ曲がりが発生して通板不良となることがある。このような鋼板の矯正機への噛み込みの不具合や通板不良が発生すると、後続の冷却工程や仕上圧延工程の能率が阻害され、大きな機会損失が生じる。
【0003】
これに対して、従来は鋼板が矯正機に通板される前に目視により先端部の反りが大きいと判断された場合、鋼板の矯正機への通板を中止し、鋼板を一旦熱間圧延機に逆送し、熱間圧延機により反りを矯正してから再び矯正機に通板するような操業がなされていた。また、矯正機の入側に配置されるノックダウンロールを用いて、鋼板の先端部に曲げ変形を付与してから鋼板を矯正機に通板する場合もあった。しかしながら、鋼板を矯正機に通板する前に追加的な工程が加えられると、その間に鋼板の温度が低下し、加速冷却における冷却開始温度を確保できない等、鋼板製品の材質不良の原因となる。そこで、特許文献1には、矯正機の入側に鋼板誘導ガイドを配置する方法が開示されている。これにより、鋼板の先端部に反りがあっても、安定的に鋼板を矯正機に噛み込ませることができるとされている。また、特許文献2には、鋼板の搬送方向に沿って分割された2つの誘導ガイドを矯正機の入側に備え、下流側の誘導ガイドの位置が矯正機の矯正ロールの昇降に同期する装置が開示されている。これにより、鋼板の先端部の反りや板厚が異なる場合であっても、鋼板の矯正機への噛み込みを安定的に行うことができるとされている。また、特許文献3には、鋼板の先端部が矯正機に噛み込まれる際は矯正機のロール押し込み量を所望のロール押し込み量よりも小さくした状態に維持し、その後、所望のロール押し込み量までロール押し込み量を増加させる方法が開示されている。これにより、矯正機への噛み込み時において鋼板に作用する抵抗力を低減し、鋼板の噛み止まりを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5007697号公報
【特許文献2】特許第5531772号公報
【特許文献3】特開2003-117606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、鋼板の先端部に反りが発生している場合であっても矯正機への鋼板の噛み込みを可能にするためのものであり、鋼板の先端部の反りが過大になると通板不良の発生を抑制できない。また、特許文献1には、鋼板誘導ガイドの設置角度の好適な条件が記載されているものの、鋼板の先端部の通板不良を完全に防止することは困難である。また、特許文献2に記載の方法も同様であり、通板不良を防止するための誘導ガイドの設置角度の好適範囲の記載はあるものの、通板が可能な鋼板の反り量は開示されていない。また、鋼板の先端部に反りがある場合に鋼板の矯正機への通板可否を事前に判定することはできない。一方、特許文献3には、鋼板の先端部の噛み込みが可能な矯正機のロール押し込み量は、矯正機の設備仕様や鋼板の寸法等をパラメータとして用いて実験や操業実績データから設定することが記載されている。しかしながら、鋼板の先端部の反り量の大小によらず初期のロール押し込み量を設定するため、鋼板の先端部の通板不良を完全に防止することは困難である。また、通板が可能な鋼板の反り量は開示されておらず、鋼板の先端部に反りがある場合に鋼板の矯正機への通板可否を事前に判定することはできない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、鋼板の先端部における反り形状に応じて鋼板の矯正機への通板可否を判定可能な鋼板の矯正機への通板可否判定方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、鋼板の矯正機への通板不良の発生を抑制可能な鋼板の矯正方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、材質の均一性に優れる鋼板を製造可能な鋼板の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、鋼板の先端部における反り形状に応じて鋼板の矯正機への通板可否を判定する通板可否判定モデルを生成可能な鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鋼板の矯正機への通板可否判定方法は、少なくとも1対のロールを備える矯正機と、鋼板を前記矯正機に装入する搬送装置と、前記鋼板の先端部の反り画像を撮像する反り形状撮像装置と、を含む鋼板の製造設備における鋼板の矯正機への通板可否判定方法であって、前記反り形状撮像装置によって前記矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の反り画像を入力データとして含み、前記鋼板の矯正機への通板可否情報を出力データとした、畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習により学習された通板可否判定モデルを用いて、前記鋼板の矯正機への通板可否を判定する通板可否判定ステップを含む。
【0008】
前記通板可否判定モデルの入力データとして、前記鋼板の板厚、板幅、板長さ、重量、及び前記搬送装置による前記矯正機への鋼板の装入速度の中から選択した1つ以上の操業パラメータを含むとよい。
【0009】
前記鋼板の製造設備は、前記鋼板の先端部の平面形状画像を撮像する平面形状撮像装置を備え、前記通板可否判定モデルの入力データとして、さらに前記平面形状撮像装置によって前記矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の平面形状画像を含むとよい。
【0010】
本発明に係る鋼板の矯正方法は、本発明に係る鋼板の矯正機への通板可否判定方法を用いて、鋼板が前記矯正機に装入される前に前記鋼板の通板可否を判定し、通板不可と判定された場合には、前記鋼板の製造設備の操業条件を再設定するステップを含む。
【0011】
本発明に係る鋼板の製造方法は、本発明に係る鋼板の矯正方法を用いて鋼板を製造するステップを含む。
【0012】
本発明に係る鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法は、少なくとも1対のロールを備える矯正機と、鋼板を前記矯正機に装入する搬送装置と、前記鋼板の先端部の反り画像を撮像する反り形状撮像装置と、を含む鋼板の製造設備における鋼板の矯正機への通板可否を判定するために使用される通板可否判定モデルを生成する鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法であって、前記反り形状撮像装置によって前記矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の反り画像を入力実績データとして含み、その入力実績データに対応する前記鋼板の矯正機への通板可否情報を出力実績データとした、複数の学習用データを取得し、取得した複数の学習用データを用いた畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習によって、前記通板可否判定モデルを生成するステップを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る鋼板の矯正機への通板可否判定方法によれば、鋼板の先端部における反り形状に応じて鋼板の矯正機への通板可否を判定することができる。また、本発明に係る鋼板の矯正方法によれば、鋼板の矯正機への通板不良の発生を抑制することができる。また、本発明に係る鋼板の製造方法によれば、材質の均一性に優れる鋼板を製造することができる。また、本発明に係る鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法によれば、鋼板の先端部における反り形状に応じて鋼板の矯正機への通板可否を判定する通板可否判定モデルを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の製造設備の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す反り形状撮像装置の構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す平面形状撮像装置の機能を説明するための図である。
【
図4】
図4は、鋼板の先端部の通板不良を説明するための図である。
【
図5】
図5は、鋼板の矯正機への通板不良が発生する条件を調査した結果の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、矯正機への鋼板の通板不良に対する搬送装置による鋼板の装入速度と鋼板の板長さの影響を調べた結果の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、機械学習を用いた通板可否判定モデルの生成方法を説明するための図である。
【
図8】
図8は、畳み込みニューラルネットワークの構成例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、畳み込みニューラルネットワークの構成例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、畳み込みニューラルネットワークの構成例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態である通板可否判定部の構成を示す図である。
【
図12】
図12は、実施例及び従来例における誤判定率を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例及び比較例における材質不良発生率を示す図である。
【
図14】
図14は、通板可否判定モデルの入力データに用いた鋼板の先端部の反り画像を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の矯正機への通板可否判定方法、矯正方法、製造方法、及び矯正機への通板可否判定モデルの生成方法について詳しく説明する。
【0016】
〔鋼板の製造設備〕
まず、
図1~
図3を参照して、本発明が適用される鋼板の製造設備の構成について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の製造設備を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である鋼板の製造設備は、上下方向に配置された少なくとも1対のロールを備える矯正機1、矯正機1に鋼板Sを装入する搬送装置2、及び鋼板Sの先端部の反り画像を撮像する反り形状撮像装置3を備えている。また、本実施形態の鋼板の製造設備は、鋼板Sの先端部の平面形状画像を撮像する平面形状撮像装置4を備えている。但し、平面形状撮像装置4はなくてもよい。また、本実施形態の鋼板の製造設備は、鋼板の製造設備の操業条件を設定して制御するための制御用計算機5を備えている。本実施形態の鋼板の製造設備は熱間圧延ラインの一部として配置され、鋼板の製造設備の上流側に配置された1又は2基の圧延機によってリバース圧延が行われた鋼板Sが鋼板の製造設備に搬送される。鋼板の製造設備の下流側には鋼板Sを冷却する冷却設備が配置されてよい。圧延機によって熱間圧延が行われた鋼板Sに対して冷却設備を用いて加速冷却を行うことにより、優れた材質特性を有する厚鋼板を製造することができる。
【0018】
矯正機1において矯正される鋼板Sは、例えば板厚6~30mm、板幅2000~4500mm、板長さ10~50m、重量8~25tonである。矯正機1に装入される鋼板Sの温度は限定されないが、熱間圧延ラインに配置される矯正機の場合には、650~950℃程度となる。矯正機1は、上下方向(鋼板Sの厚み方向)に配置された少なくとも1対のロールを備え、鋼板Sの形状を矯正する機能を有する。矯正機1は例えばローラーレベラである。ローラーレベラは、上下方向に千鳥状に配置された複数本の矯正ロールを用いて鋼板Sに対して繰り返し曲げ曲げ戻し変形を付与することによって、鋼板Sの形状を平坦化する。矯正ロールは、例えば上側に4~6本、下側に4~6本配置される。一般的なローラーレベラでは、上側の矯正ロールが上フレームに保持され、下側の矯正ロールが下フレームに保持される。そして、下フレームの位置を固定して、上フレームを傾動させることにより、鋼板Sの搬送方向において順次異なる曲率の曲げ変形を鋼板Sに付与する。その場合、
図1に示す例では、傾動圧下を行う上側の矯正ロールの中で最も上流側の矯正ロール6_1の押し込み量と最も下流側の矯正ロール6_i(i=4~6)の押し込み量が鋼板Sの材質や寸法に応じて予め設定される。但し、矯正ロールの押し込み方式は、傾動式の押し込み方式ではなく、個々の矯正ロールの押し込み量を任意に設定可能な方式としてもよい。さらに、矯正機1は上下方向に対向配置された1対のロールを備えるものであってよい。これはいわゆる圧延機と同様、上下方向に対向配置された1対のロールによって鋼板Sを押圧し、鋼板Sの形状を矯正するものである。本実施形態では、矯正機1の入側に鋼板誘導ガイド7が配置されている。鋼板誘導ガイド7により鋼板Sの先端部が矯正機1に装入される際の通板不良を低減できるからである。
【0019】
搬送装置2は、矯正機1の上流側から鋼板Sを搬送し、鋼板Sの先端部を矯正機1に装入するように動作する。搬送装置2は、鋼板Sの製造設備の搬送テーブルであってよい。その場合、搬送テーブルは複数のゾーンに分割され個別に制御されることがあるが、本実施形態では、矯正機1の上流側にあって、最も矯正機1に近いゾーンの搬送テーブルを搬送装置2という。搬送装置2による鋼板Sの矯正機1への装入速度は、制御用計算機5によって設定される。制御用計算機5は、矯正機1の矯正ロールの押し込み量の設定と共に、矯正ロールの回転速度を設定する。搬送装置2による鋼板Sの装入速度は、矯正ロールの回転速度VLに対して、0.5~0.8VL程度に設定されることが多い。搬送装置2による鋼板Sの装入速度を矯正ロールの回転速度VLよりも小さく設定することにより、鋼板Sが矯正機1に噛み込まれる際の衝撃力を緩和して設備破損を抑制するためである。
【0020】
反り形状撮像装置3は、鋼板Sの先端部の反り画像を撮像する。鋼板Sの先端部とは、鋼板Sの搬送方向に沿って先端側となる部分をいう。鋼板Sの先端部は、例えば鋼板Sの先端から1~3mの範囲をいう。鋼板Sの先端部が矯正機1に装入される際に、矯正ロールとの間でスリップ等が発生して通板不良となる場合が多い。
図2に示すように、本実施形態では、反り形状撮像装置3は、鋼板Sの先端部の反り画像を撮像する撮像部(エリアカメラ)3aと、撮像部3aによって撮像された画像データの明度や色調を調整する反り形状画像調整部3bと、を備えている。撮像部3aとして用いるエリアカメラは、カラー方式でも白黒方式でも構わない。撮像素子もCCDやCMOS等の任意の撮像素子を用いることができる。撮像部3aは、赤外線方式のエリアカメラ等、光の波長の中で特定の波長信号を選択的に画像に変換するものであってもよい。撮像部3aとしては、有効画素数が640×480ピクセルのものから4872×3248ピクセル程度のものまで、鋼板Sの先端部の反り形状を識別するために必要な解像度や、撮像部3aと鋼板Sの先端部までの距離等に応じて適宜選択できる。本実施形態では、撮像部3aによる鋼板Sの撮像範囲(視野)V1は、鋼板Sの先端部(先端から1~3mの範囲)が1枚の画像に収まるように設定するとよい。撮像部3aは、鋼板Sの搬送方向の側方側から、鋼板の製造設備における搬送装置2よりもやや上方の位置であって、斜め下に向いて鋼板Sの先端部を撮影するように配置するのが好ましい。但し、搬送装置2とほぼ同一の高さから、鋼板Sの側面の方向に向けて、概ね水平方向で鋼板Sの先端部を撮影するようにしてもよい。鋼板Sの一方の端面の輪郭を判別しやすく、画像により反り形状を識別しやすいからである。反り形状画像調整部3bは、撮像部3aによって撮像された鋼板Sの先端部の画像データに含まれるノイズを除去する機能を有してよく、鋼板Sの温度によって異なる色調を概ね一定の範囲に調整する機能を有してもよい。反り形状撮像装置3が撮像する鋼板Sの先端部の反り画像は、鋼板Sの先端部における反り高さ及び反り曲率が判別できるように取得されるのが好ましい。後述するように、鋼板Sの矯正機への通板可否に対して鋼板Sの先端部における反り高さ及び反り曲率の両者が影響するからである。
【0021】
平面形状撮像装置4は、鋼板Sが矯正機1に装入される前に鋼板Sの先端部の平面形状画像を撮像する。本実施形態では、平面形状撮像装置4は、鋼板Sの搬送方向の上部から鋼板Sの先端部の上面画像を撮像する撮像部(エリアカメラ)4a(
図1参照)と、撮像部4aが撮像した画像データの明度や色調を調整する平面形状画像調整部4b(
図3参照)と、を備えている。撮像部4aとして用いるエリアカメラは、反り形状撮像装置3に用いられるものと同様のものを用いてよい。平面形状画像調整部4bは、撮像部4aによって撮像された鋼板Sの先端部の画像データに含まれるノイズを除去する機能を有してよく、鋼板Sの温度によって異なる色調を概ね一定の範囲に調整する機能を有してもよい。
【0022】
〔鋼板の先端部の通板不良〕
次に、
図4~
図6を参照して、鋼板Sの先端部の通板不良について説明する。
【0023】
鋼板Sの矯正機1への通板(噛み込み)とは、鋼板Sの先端部が矯正機1に到達し、鋼板Sの先端部が全ての矯正ロールの位置を通過する過程をいう。つまり、鋼板Sの先端部が上下方向に配置された矯正ロールの間を通過する前に、鋼板誘導ガイド7や矯正機1のハウジング等に衝突して鋼板Sが矯正ロールを通過しない場合だけでなく、鋼板Sの先端部が一部の矯正ロールの間を通過しているものの鋼板Sと矯正ロールとの間でスリップが生じ、鋼板Sが搬送されずに停止してしまう場合を含む。
図4(a)~(c)は、鋼板誘導ガイド7を備える矯正機1に鋼板Sが装入される過程を模式的に示したものである。
図4(a)に示すように、矯正機1に装入される際に鋼板Sの先端部の上反りが大きい場合、鋼板Sの先端部が鋼板誘導ガイド7に接触する。このとき、鋼板Sには搬送装置2によって慣性力(運動エネルギー)が付与されている。このため、鋼板Sが鋼板誘導ガイド7から受ける反力よりも鋼板Sが有する慣性力の方が大きい場合、
図4(b)に示すように、鋼板Sの先端部が鋼板誘導ガイド7に誘導されて上下の矯正ロールの間に導かれる。そして、
図4(c)に示すように、鋼板Sの先端部が上下の矯正ロールの間を通過する際には、鋼板Sに付与される曲げ仕事に対して、矯正ロールを回転させる駆動力のエネルギーが十分あれば、鋼板Sは矯正機1内で搬送方向を進行して、鋼板Sの先端部が全ての矯正ロールの位置を通過することになる。逆に、鋼板Sが鋼板誘導ガイド7から受ける反力よりも鋼板Sが有する慣性力の方が小さい場合や矯正ロールを回転させる駆動力のエネルギーが十分でない場合には、矯正機1内で鋼板Sの進行が停止して通板不良となる。
【0024】
本発明者らは、このような矯正機1への鋼板Sの通板不良が発生する条件を検討した結果、以下の知見を得た。まず、先端部の反り高さが大きく板厚が厚い鋼板では、矯正機1への通板不良が発生しやすいことがわかった。これは、反りが大きく、板厚も厚い場合には、鋼板Sの先端部が鋼板誘導ガイド7に衝突した際、鋼板Sの先端部を曲げて矯正ロールを通過させる際の鋼板Sの慣性力による運動エネルギーが大きく消費されるためであると考えられる。
図5は、鋼板Sの矯正機1への通板不良が発生する条件を調査した結果の例を示す。
図5は、鋼板Sの板厚が25~30mm、板長さが30~32m、搬送装置2による矯正機1への鋼板Sの装入速度(噛み込み速度)が50m/minの操業条件において取得された通板不良の発生条件を示したものである。
図5からは、鋼板Sの先端部の反り高さが同一でも鋼板の先端部の反り曲率が小さい場合には通板不良が発生せず、反り曲率が大きい場合に通板不良が発生していることがわかる。これは、先端部の反り高さが同一であっても、反り曲率が異なると、鋼板Sの先端部が鋼板誘導ガイドに衝突し、曲げ変形を受けながら矯正ロールを通過する際に消費される運動エネルギーが変化する。これにより、鋼板Sの先端部が矯正ロールを通過する際の慣性力が変化し、鋼板Sの矯正機への通板可否に影響を与えることになる。
図5に示す結果は、先端部の反り高さの情報のみを用いて矯正機への通板可否を判断することはできず、反り高さと反り曲率の両方の情報を用いる必要があることを示している。一方、
図6は、同一の反り高さ及び反り曲率を有する鋼板Sについて、矯正機1への鋼板Sの通板不良に対する、搬送装置2による鋼板の装入速度と鋼板Sの板長さの影響を調べた例である。この場合の鋼板の板厚は25~30mm、先端反り高さは100~120mmである。
図6からは、搬送装置2による矯正機1への鋼板Sの装入速度と鋼板Sの板長さが大きいほど、矯正機1への鋼板Sの通板性が向上していることがわかる。これは、鋼板Sが矯正機1に装入される際の慣性力(運動エネルギー)が増加することにより、矯正機1への鋼板Sの噛み込み不良を抑制できたものと考えられる。さらに、本発明者らは、鋼板Sの先端部の平面形状も矯正機1への鋼板Sの通板不良の発生に影響していることを知得した。
図3に示すように、鋼板Sの先端部が不均一な形状になると、噛み込み時に局所的に前方に突き出ている部分(先端クロップ部)が折れこみやすい。この先端クロップ部の長さ(先端クロップ長)が長く幅が細いほど、鋼板Sが折れこみやすく鋼板Sの通板不良が発生しやすくなる。例えば板厚30mm、先端反り高さ100mmの鋼板について、先端クロップ長と通板不良の発生有無を調査したところ、先端クロップ長が50mmである鋼板Sについては通板可能であったが、先端クロップ長が200mmの鋼板Sについては通板不良が生じていた。なお、鋼板Sが矯正機1に装入される際の鋼板Sの温度やその温度における鋼板Sの降伏応力が、矯正機1への噛み込み性に影響を与える場合がある。鋼板Sの温度や降伏応力と鋼板Sの先端部が鋼板誘導ガイド7を通過する際の抵抗力との間に相関関係がみられるからである。
【0025】
〔通板可否判定モデル生成部〕
次に、
図7~
図10を参照して、本発明の一実施形態である通板可否判定モデル生成部の構成について説明する。
【0026】
本発明の一実施形態である鋼板の矯正機への通板可否判定モデルの生成方法は、複数の学習用データを取得し、取得した複数の学習用データを用いた畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習によって、通板可否判定モデルを生成する。学習用データは、反り形状撮像装置3によって矯正機1に装入される前に撮像された鋼板Sの先端部の反り画像を入力実績データとして含み、その入力実績データに対応する鋼板Sの矯正機1への通板可否情報を出力実績データとする。入力実績データとして、鋼板Sの板厚、板幅、板長さ、重量、及び搬送装置2による鋼板Sの矯正機1への装入速度の中から選択した1つ以上の操業実績データを含むのが好ましい。さらに、入力実績データとして、平面形状撮像装置4によって矯正機1に装入される前に撮像された鋼板Sの先端部の平面形状画像を用いるのがより好ましい。
【0027】
図7に示すように、本実施形態の通板可否判定モデル生成部11は、データベース部11aと機械学習部11bを備えている。データベース部11aは、反り形状撮像装置3によって撮像された鋼板Sの先端部の反り画像の実績データと、鋼板の製造設備における鋼板Sの通板可否情報の実績データを蓄積する。データベース部11aは、必要に応じて、鋼板Sの板厚、板長さ、重量、及び搬送装置2による鋼板Sの矯正機1への装入速度等の操業パラメータの実績データや、平面形状撮像装置4によって撮像された1の先端部の平面形状画像の実績データを蓄積してもよい。この場合、通板可否判定モデルの入力実績データとして、鋼板の製造設備の動作を制御する制御用計算機5に保存されている情報を適宜取得するようにするとよい。また、入力実績データを収集するためにデータ取得部12を設け、データ取得部12において実績データを一旦保存し、複数種の実績データを対応付けたデータセットを生成した後に、データベース部11aに蓄積するようにしてもよい。データ取得部12が取得した実績データは、鋼板Sの製造番号等の情報に基づいて対応付けを行うことができる。データベース部11aには、500個以上のデータセットが蓄積される。好ましくは2000個以上、より好ましくは10000個以上である。データベース部11aに蓄積されるデータについては、必要に応じてスクリーニングが行われる場合がある。反り形状撮像装置3によって撮像される反り画像には不鮮明なものが含まれる場合があり、これらを除外することで通板可否判定モデルの予測精度が向上するからである。一方、データベース部11aに蓄積されるデータセット数は、一定数を上限として、その上限内でデータベース部11aに蓄積されるデータセットを適宜更新してもよい。
【0028】
機械学習部11bは、データベース部11aに蓄積されたデータセットを用いて、複数の学習用データを用いた機械学習により、鋼板Sの通板可否情報を予測する通板可否判定モデルMを生成する。学習用データは、鋼板Sの先端部の反り画像の実績データを入力実績データ、鋼板の通板可否情報の実績データを出力実績データとする。通板可否判定モデルMを生成するための機械学習モデルは、実用上十分な鋼板Sの通板可否情報の判定精度が得られれば、いずれの機械学習モデルでもよい。例えば一般的に用いられるニューラルネットワーク(深層学習や畳み込みニューラルネットワーク等を含む)、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰等を用いればよい。また、複数のモデルを組み合わせたアンサンブルモデルを用いてもよい。また、k―近傍法やロジスティック回帰のような分類モデルを用いてもよい。但し、本実施形態では、畳み込みニューラルネットワークの手法による機械学習を用いるのが好ましい。入力となる画像データが有する反り形状や平面形状に関する特徴量を効果的に抽出し、鋼板の通板可否情報の判定精度を向上させることができるからである。
【0029】
例えば
図8に示すように、先端部の反り画像を入力として、入力層L1、畳み込み層L2、プーリング層L3、全結合層L4、及び出力層L5を備える畳み込みニューラルネットワークを用いるとよい。これにより、反り画像が有する鋼板の先端部の反りに関する特徴量を維持しながら画像データを圧縮して1次元の情報とすることができる。この場合、先端部の反り画像がカラー画像である場合には、先端部の反り画像をRGBのチャンネル毎の画像データ(画像の輝度値を0~255の数値情報に変換したデータ)に変換し、3チャンネルの反り画像として入力層L1に入力してもよい。但し、先端部の反り画像は鋼板Sの反り形状を表す比較的単純な画像である場合が多いため、先端部の反り画像をグレースケールの画像に変換し、1チャンネルの反り画像が入力されるようにしてもよい。また、画像の輝度値は必ずしも0~255の数値情報で表す必要はなく、画像の輝度値を0~15程度の区分まで圧縮してから入力層L1に画像データを入力してもよい。さらに、先端部の反り画像に対してデータ圧縮処理を行い、横方向及び縦方向の画素数を圧縮してから入力層L1に画像データを入力してもよい。
【0030】
入力層L1の下流側に配置される畳み込み層L2は、入力データに対してカーネルと呼ばれるフィルターを用いたフィルタリング処理を施して第1特徴マップを生成する。畳み込みとは、入力データにフィルターを適用して特徴マップと呼ばれる出力を生成する演算処理をいう。畳み込み層L2に用いるフィルターは、例えば縦方向3ピクセル×横方向3ピクセルのフィルターとし、フィルターの位置を画像内で移動させるストライドを1とすると共に、画像データの周辺を0で埋めるパディングを適用するのが好ましい。また、畳み込み層L2の活性化関数としては、非線形関数を用いることが好ましく、学習時の勾配消失問題が抑制できるようRelu関数を用いるとよい。
【0031】
プーリング層L3は、畳み込み層L2が出力した第1特徴マップを入力として、第1特徴マップの情報を圧縮する。圧縮処理には最大プーリング又は平均プーリングを適用することができる。最大プーリングとは、プーリング層L3の入力となる第1特徴マップを一定の領域(プールサイズ)で区切って、その中の最大値を抽出して新たな特徴マップとして出力する処理である。平均プーリングとは、最大値ではなく平均値を抽出するものである。このようなプーリング層L3により、入力される反り画像の特徴を維持しながら情報量を削減して第2特徴マップを生成することができる。プーリング層L3に用いるフィルターの大きさとしては、例えば縦方向3ピクセル×横方向3ピクセルのものを用いることができる。プーリング層L3は画像が有する特徴量を残しつつ出力データのサイズを縮小することを目的としているので、出力データの周囲を0で埋めるパディングは行わない。
【0032】
全結合層L4は、プーリング層L3で生成した第2特徴マップを変換するものであり、第2特徴マップの値を一列に配置して、プーリング層L3からの出力をまとめるために配置される。全結合層L4の好ましい形態を例示すると、ノード数16~2048の全結合層である。なお、
図8に示す畳み込みニューラルネットワークの構成においては、畳み込み層L2とプーリング層L3を複数配置し、入力層L1から入力される先端部の反り画像をより圧縮するように構成してもよい。
【0033】
出力層L5では、全結合層L4により伝達されたニューロンの情報が結合され、最終的な通板可否に関する判定情報が出力される。すなわち、出力層L5では、シグモイド関数を用いて、入力されるセンタ部の反り画像に対する通板判定情報(「通板可」又は「通板不可」)が出力されるようにしてよい。また、出力層L5は、ソフトマックス関数により「通板不可」と判定される確率を出力してもよい。
【0034】
他の実施形態として、
図9に示す畳み込みニューラルネットワークの構成を用いてもよい。
図9に示す畳み込みネットワークは、先端部の反り画像を入力として、第1入力層L6、畳み込み層L7、プーリング層L8、全結合層L9、第2入力層L10、中間層L11、及び出力層L12を備えている。先端部の反り画像は、予め画像データのチャンネル数や解像度を落として画像データに含まれる情報量を圧縮してから第1入力層L6に入力してもよい。また、画像の横方向及び縦方向の画素数を圧縮してから第1入力層L6に入力してもよい。そして、畳み込み層L7、プーリング層L8、及び全結合層L9により、反り画像が有する鋼板の反りに関する特徴量を維持しながら画像データを圧縮して1次元情報とすることができる。全結合層L9によって1次元情報に圧縮されたデータは第2入力層L10に入力される。第2入力層L10には、先端部の反り画像に基づくデータと共に、鋼板の製造設備の操業パラメータが入力され、通常のニューラルネットワークと同様に中間層L11及び出力層L12に接続される。例えば中間層は2層、ノード数は3個ずつとし、活性化関数としてシグモイド関数を用いたものを用いることができる。
【0035】
他の実施形態として、畳み込みニューラルネットワークの入力に鋼板の先端部の平面形状に関する平面形状画像を用いる場合には、畳み込みネットワークとして
図10に示す構造のものを用いることができる。この場合、先端部の反り画像と平面形状画像をそれぞれ入力する第1入力層に対して、畳み込み層及びプーリング層を各1層ずつ備える畳み込みニューラルネットワークを構成することができる。これにより、それぞれの画像データが有する特徴量が抽出され、全結合層で1次元の配列データに集約される。一方、第2入力層には、先端部の反り画像及び平面形状画像からそれぞれ集約された配列データに加え、鋼板の製造設備の操業パラメータである鋼板の板厚、板長さ、重量、及び搬送装置2による鋼板Sの矯正機1への装入速度等が入力されるようにして、通常のニューラルネットワークの構造に接続できる。
【0036】
以上の畳み込みニューラルネットワークの構成に対して、機械学習部11bは、データベース部11aに蓄積されたデータセットを訓練データとテストデータに分けて学習を行うことにより鋼板Sの通板可否情報の推定精度を向上させてもよい。例えば機械学習部11bは、訓練データを用いてニューラルネットワークの重み係数の学習を行い、テストデータでの鋼板の通板可否情報の正解率が高くなるようにニューラルネットワークの構造(中間層の数やノード数)を適宜変更しながら通板可否判定モデルMを生成してもよい。重み係数の更新には、誤差伝播法を用いることができる。通板可否判定モデルMは、例えば6ヶ月毎又は1年毎に再学習により新たなモデルに更新してもよい。データベース部11aに保存されるデータが増えるほど、精度の高い鋼板の通板可否情報の予測が可能となるからである。また、最新のデータに基づいて通板可否判定モデルMを更新することにより、製造設備に装入される鋼板の製造条件の変化等を反映した通板可否判定モデルMを生成できる。
【0037】
〔通板可否判定モデル〕
次に、通板可否判定モデルMについて説明する。
【0038】
以上のようにして生成された通板可否判定モデルMを用いると、鋼板Sの矯正機1への通板可否を判定することができる(通板可否判定ステップ)。通板可否判定モデルMの入力データに鋼板Sの先端部の反り画像を含むのは、
図5に示したように、鋼板Sの先端部の反り高さや反り曲率が矯正機1への通板不良の発生に影響を与えるからである。また、畳み込みニューラルネットワークにより反り画像に含まれる鋼板Sの反り高さや反り曲率に関する特徴量が抽出されるからである。また、通板可否判定モデルMの入力データに鋼板Sの板厚、板長さ、重量、及び搬送装置2による鋼板Sの矯正機1への装入速度等の操業パラメータを含むのは、これらの操業パラメータは、鋼板Sが矯正機1に装入される際の慣性力(運動エネルギー)に影響を与え、矯正機1への通板性に影響するからである。さらに、通板可否判定モデルMの入力データに平面形状撮像装置4によって撮像された鋼板Sの先端部の平面形状画像を含むのは、鋼板Sの先端部が不均一な形状になると、噛み込み時に局所的に前方に突き出ている部分(先端クロップ部)が折れこみやすく、通板性に影響を与えるからである。また、畳み込みニューラルネットワークにより平面形状画像に含まれる鋼板のクロップ形状に関する特徴量が抽出されるからである。
【0039】
〔鋼板の矯正機への通板可否判定方法〕
次に、
図11を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の矯正機への通板可否判定方法について説明する。
【0040】
本発明の一実施形態である鋼板の矯正機への通板可否判定方法は、通板可否判定モデルMを用いて、鋼板Sの矯正機への通板可否を判定する通板可否判定ステップを含む。通板可否判定モデルMの入力データとして、鋼板Sの板厚、板幅、板長さ、重量、及び搬送装置2による鋼板Sの矯正機1への装入速度の中から選択した1つ以上の操業データを含むのが好ましい。通板可否判定モデルMの入力データとして、平面形状撮像装置4によって鋼板Sが矯正機1に装入される前に撮像された鋼板Sの先端部の平面形状画像を含むのが好ましい。この場合、通板可否判定モデルMは、下記の通板可否判定方法が実行される前に生成されている。本実施形態の鋼板の矯正機への通板可否判定方法は、
図11に示す通板可否判定部21によって実行される。通板可否判定部21は鋼板の製造設備を制御する制御用計算機5に設けることができる。また、通板可否判定部21は、制御用計算機5に製造指示を与える上位計算機に設けられてよく、他の機器と通信可能である独立の計算機に設けてよい。
【0041】
図11に示す通板可否判定部21の動作は、鋼板の製造設備において通板可否判定の対象となる鋼板Sの先端部の反り画像を反り形状撮像装置3が取得した後に実行される。反り形状撮像装置3が取得した鋼板Sの先端部の反り画像は、通板可否判定部21に送られ、上記方法により生成した通板可否判定モデルMに対する入力データとなる。そして、通板可否判定部21は、鋼板の通板可否情報である「通板不可」又は「通板可」の情報を出力データとして出力する。通板可否判定モデルMの出力データとして「通板不可」となる確率を出力する場合には、予め閾値を設定し、その閾値を基準として「通板不可」、「通板可」を判定してよい。以上のようにして出力される鋼板の通板可否情報は、通板可否判定部21に接続されたモニター等に表示されるようにしてよい。また、操業オペレータに注意を促すように、操作室内に設置したスピーカーから警報(アラーム)が発せられてよい。通板可否判定部21が出力する通板可否情報の出力表示に基づき、操業オペレータは通板不可と判定された鋼板Sを目視により改めて確認することができる。
【0042】
上記通板可否判定方法を用いて鋼板Sが矯正機1に装入される前に鋼板の製造設備における鋼板Sの通板可否を判定し、通板可(通板不良なし)と判定された場合、鋼板の製造設備に対して制御用計算機5が予め設定している操業条件のまま、矯正機1による鋼板Sの矯正を行えばよい。一方、鋼板Sが矯正機1に装入される前に、鋼板の製造設備における鋼板Sの通板可否を判定し、通板不可(通板不良あり)と判定された場合には、操業条件再設定部22が、鋼板の製造設備の操業条件を再設定するとよい。例えば操業条件再設定部22は、制御用計算機5が予め設定している鋼板Sの矯正機1への装入速度を増加するように搬送装置2の操業条件を再設定する。また、特許文献3に記載されているように、操業条件再設定部22は、鋼板Sの先端部が矯正機1に装入される際の矯正ロールの押し込み量を低減するように再設定してもよい。通板不可と判定された鋼板Sが矯正機1に装入される前に、矯正機1の操業条件を再設定することにより、鋼板Sの通板不良に起因する操業トラブル及び設備破損を未然に防止することができる。また、矯正機1を通過した後に冷却される際に、不均一な冷却を抑制でき、材質の均一性に優れた鋼板Sを生産することができる。
【0043】
鋼板Sの板厚、板幅、板長さ、重量、及び搬送装置2による矯正機1への鋼板Sの装入速度の中から選択した1つ以上の操業パラメータは、鋼板の製造設備の操業条件として制御用計算機5の内部に生成される情報である。このため、通板可否判定部21は制御用計算機5からこれらの操業パラメータを取得することができる。一方、鋼板Sの平面形状画像を入力データに用いる場合には、通板可否判定部21は、鋼板Sが矯正機1に装入される前に平面形状撮像装置4によって撮像された平面形状画像を取得し、通板可否判定モデルMの入力データに用いることで上記と同様に通板可否を判定することができる。このような操業条件再設定部22により操業条件を再設定するステップを実行する鋼板の矯正方法は、厚板製造ラインの圧延機と冷却装置(加速冷却装置)の間に配置されるホットレベラ(熱間矯正機)に適用されるのが好ましい。鋼板の製造設備において鋼板Sが平坦な形状に矯正されるので、冷却装置において鋼板Sの冷却ムラが発生することを抑制できる。また、鋼板Sを矯正機1に装入する際に、通板不良によって鋼板Sの処理時間が増加することによる鋼板Sの温度低下を抑制し、冷却設備において適切な冷却開始温度を確保できるため、所期の材質を確保することができる。
【実施例0044】
本発明の実施例として、
図1に示す鋼板の製造設備を、厚板圧延ラインに配置されるリバース圧延機の下流側にローラーレベラとして配置した例について説明する。本実施例では、ローラーレベラの上流側に反り形状撮像装置3及び平面形状撮像装置4を配置した。これらはCCDカメラによって鋼板Sの先端部の側面及び上面からの画像を撮影する装置である。また、鋼板の製造設備の操業データとして、鋼板Sの板厚、板長さ、矯正機1に装入される際の鋼板温度、及び装入速度を取得し、データベース部11aに蓄積した。そして、約半年間の操業実績データが蓄積された段階で通板可否判定モデルMを生成した。
【0045】
本実施例における通板可否判定モデルM1は、
図9に示す畳み込みニューラルネットワークの手法を用いた機械学習により生成した。通板可否判定モデルM1は、入力データとして、矯正機に装入される前に撮像された鋼板の先端部の反り画像、鋼板Sの板厚、板長さ、矯正機1に装入される際の鋼板温度、及び装入速度の4つの操業パラメータを用いた。通板可否判定モデルM1の入力データに用いた鋼板Sの先端部の反り画像は、鋼板Sの先端から1mの範囲が撮像範囲となるように取得した。その結果、通板可否判定モデルM1の入力データに用いた鋼板Sの先端部の反り画像は、
図14(a)に示すように、鋼板Sの先端部における反り高さだけでなく、鋼板Sが反っている形状が判別でき、反り曲率に関する情報を含むように取得された。一方、本実施例における通板可否判定モデルM2は、
図10に示す畳み込みニューラルネットワークの手法を用いた機械学習により生成した。通板可否判定モデルM2は、入力データとして、矯正機1に装入される前に撮像された鋼板Sの先端部の反り画像及び平面形状画像を用い、さらに鋼板Sの板厚、板長さ、矯正機1に装入される際の鋼板温度、及び装入速度の4つの操業パラメータを用いた。
【0046】
通板可否判定モデルM1,M2は、制御用計算機5の内部に構成した通板可否判定部21に記憶させ、鋼板の通板可否の判定を行った。なお、いずれの通板可否判定モデルも出力層にソフトマックス関数を用いて、「通板不良あり(×)」又は「通板不良なし(〇)」を判定するように構成した。その後、操業時において、鋼板Sが矯正機1に装入される前に、鋼板の製造設備における鋼板Sの通板可否を判定した。但し、通板可否についての判定結果にかかわらず、製造設備の操業条件を再設定することなく、初期設定のまま矯正機により鋼板Sの矯正を行った。実施例1では、通板可否判定モデルM1を用いて通板判定を行った。そして、通板可(通板不良なし)と判定した場合であって、実際には鋼板の矯正機への通板不良が発生したケースの割合を誤判定率とした。一方、実施例2では、通板可否判定モデルM2を用いて実施例1と同様に誤判定率を算出した。これに対して、従来例として、製造設備の操業を担当するオペレータが目視により鋼板の先端部の反り状態を確認し、オペレータが通板可と判定したものの、実際には通板不良が発生した割合を評価した。
図12は、板厚20~40mmである20000枚の鋼板に対して誤判定率を評価した結果である。
図12に示すように、従来例に比べて、実施例1による誤判定率が低下していることが分かる。また、実施例2によれば、さらに誤判定率が低下することがわかった。
【0047】
次に、実施例2で生成した通板可否判定モデルM2をオンラインで使用して、鋼板Sが矯正機1に装入される前に通板可否判定ステップにおいて鋼板Sの通板可否を判定した。そして、「通板不良なし(〇)」と判定した場合には、制御用計算機5が予め設定した操業条件のまま矯正機1によって矯正を行い、「通板不良あり(×)」と判定した場合には、鋼板Sの矯正機への装入速度を当初の設定値に対して増加させて操業を行った。その結果、
図13に示すように、製造設備の操業条件を再設定した場合には(実施例)、再設定しない場合(比較例)に比べて材質不良(鋼板の機械的性質が目標範囲外となる不良)の発生率が低下した。
【0048】
本実施例における通板可否判定モデルM3として、上記の通板可否判定モデルM1と同様の機械学習により通板可否判定モデルを生成した例について説明する。通板可否判定モデルM3は、入力データとして、矯正機に装入される前に撮像された鋼板Sの先端部の反り画像、鋼板Sの板厚、板長さ、矯正機1に装入される際の鋼板温度、及び装入速度の4つの操業パラメータを用いた。但し、矯正機に装入される前に撮像された鋼板Sの先端部の反り画像は、
図14(b)に示すように、鋼板Sの先端から500mmの範囲が撮像範囲となるように取得した。すなわち、通板可否判定モデルM1の生成に用いた学習用データに比べて、通板可否判定モデルM3は鋼板Sの先端部の撮像範囲が狭い学習用データを用いた点が異なる。そして、通板可否判定モデルM3についても、上記と同様に誤判定率を評価した(実施例3)。実施例3における誤判定率を
図12に示す。通板可否判定モデルM3は、従来例に比べて誤判定率が低下していることが分かる。但し、通板可否判定モデルM3の誤判定率は、通板可否判定モデルM1の誤判定率に比べてやや高い結果となった。これは、
図14(a)に示す鋼板Sの先端からの撮像範囲に比べて、
図14(b)の撮像範囲が狭いため、鋼板Sの先端部において鋼板Sが反っている形状が画像として判別しにくくなり、反り画像に含まれる反り曲率に関する情報が少なくなっているためと考えられる。
【0049】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。