(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044514
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】被覆防食構造
(51)【国際特許分類】
E02D 31/06 20060101AFI20240326BHJP
E02B 3/24 20060101ALI20240326BHJP
F16L 58/10 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
E02D31/06 D
E02B3/24
F16L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150075
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000211891
【氏名又は名称】株式会社ナカボーテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志鶴 真介
(72)【発明者】
【氏名】山口 辰寿
(72)【発明者】
【氏名】松本 友希
【テーマコード(参考)】
3H024
【Fターム(参考)】
3H024EB08
3H024EC09
3H024ED07
3H024EE02
(57)【要約】
【課題】機械的強度が高く、物理的な外力に対する耐久性に優れ、長期間にわたって優れた防食性能を発揮する被覆防食構造を提供すること。
【解決手段】本発明の被覆防食構造は、鋼構造物の表面を被覆して防食するものであり、該鋼構造物の表面から近い順に、防食層、緩衝層、保護層、補強層を有する。前記防食層は、ペトロラタム系防食材又はウレタン系樹脂を含む。前記緩衝層は、独立気泡の発泡ポリエチレン樹脂を含み、且つ25%圧縮応力が30~300kPaである。前記保護層は、繊維強化プラスチックを含む。前記補強層は、ポリウレア樹脂を含み、且つ厚みが0.6mm以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の表面を被覆して防食する被覆防食構造であって、
前記鋼構造物の表面から近い順に、防食層、緩衝層、保護層、補強層を有し、
前記防食層は、ペトロラタム系防食材又はウレタン系樹脂を含み、
前記緩衝層は、独立気泡の発泡ポリエチレン樹脂を含み、且つ25%圧縮応力が30~300kPaであり、
前記保護層は、繊維強化プラスチックを含み、
前記補強層は、ポリウレア樹脂を含み、且つ厚みが0.6mm以上である、被覆防食構造。
【請求項2】
前記緩衝層の厚みが5~20mmである、請求項1に記載の被覆防食構造。
【請求項3】
前記保護層は、締結具が挿通される挿通孔を有し、該挿通孔にポリウレア樹脂が充填されている、請求項1又は2に記載の被覆防食構造。
【請求項4】
前記鋼構造物は、水面に浮遊する浮遊構造物が係留装置を介して係留される係留杭であり、前記被覆防食構造は、該鋼構造物の表面における該係留装置との接触部位を被覆する、請求項1~3の何れか1項に記載の被覆防食構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物の表面を被覆して防食する被覆防食構造に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋又は河川の岸壁、桟橋、橋脚等に設置された鋼管杭、鋼矢板、鋼管矢板等を含む鋼構造物は、長期間にわたって海水、河川水等に曝されるため腐食しやすい。そのため、この種の鋼構造物には通常、防食処理が施されるところ、該防食処理として、鋼構造物の表面に、防食層を含む被覆防食構造を設置する方法が従来行われている。特許文献1には、前記被覆防食構造として、被防食体である鋼構造物の表面から近い順に、ペトロラタム系防食材を含む防食層と、ポリウレタン樹脂の発泡体からなる緩衝層と、繊維強化プラスチックの成形体からなる保護層とを含むものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の被覆防食構造は、海洋、河川等に設置された鋼構造物の防食処理に有用であるものの、特に耐衝撃性、耐摩耗性等の点で改善の余地がある。
したがって本発明の課題は、機械的強度が高く、物理的な外力に対する耐久性に優れ、長期間にわたって優れた防食性能を発揮する被覆防食構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、鋼構造物の表面を被覆して防食する被覆防食構造であって、
前記鋼構造物の表面から近い順に、防食層、緩衝層、保護層、補強層を有し、
前記防食層は、ペトロラタム系防食材又はウレタン系樹脂を含み、
前記緩衝層は、独立気泡の発泡ポリエチレン樹脂を含み、且つ25%圧縮応力が30~300kPaであり、
前記保護層は、繊維強化プラスチックを含み、
前記補強層は、ポリウレア樹脂を含み、且つ厚みが0.6mm以上である、被覆防食構造である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、機械的強度が高く、物理的な外力に対する耐久性に優れ、長期間にわたって優れた防食性能を発揮する被覆防食構造が提供される。
【0007】
本発明の被覆防食構造は、鋼構造物の防食処理全般に有用であるが、特に機械的強度、とりわけ耐衝撃性及び耐摩耗性が高いことが要求される用途に有用であり、そのような用途の一例として、係留杭の防食処理が挙げられる。係留杭は、船舶、浮き桟橋等の、水面を浮遊する浮遊構造物を、所定水域に係留する際に用いる杭であり、水底に打ち込まれて固定され、一部が水面より上方に突出している。鋼管製の係留杭には防食処理を施す必要がある。浮遊構造物は係留装置を介して係留杭に連結されるところ、該係留装置は、典型的には、該浮遊構造物の側面(該浮遊構造物が水上に浮遊した状態で水面から上方に立ち上がる面)に支持部材を介して固定された摺接部材を有する。前記摺接部材は、ガイドローラー、板状シュー等からなり、前記浮遊構造物が水上に浮遊した状態で、前記係留杭の周面における水上に位置する部分に接触する。前記浮遊構造物はこのような構成を有することで、前記摺接部材を介して係留杭と接触しつつ、潮位変動、波浪等による水位の上下に追従して上下方向に移動することができる。係留杭の防食処理としては従来、ポリオレフィン樹脂、熱硬化性樹脂等を被覆材として用いた重防食塗覆装が適用されているが、係留杭における重防食塗覆装が施された部位には、前記摺接部材の摺動に起因する摺動力・衝撃力が繰り返し作用するため、摩耗・破損が発生し、更には、この摩耗・破損が経時的に進展して係留杭の露出・腐食を招くことがあった。これに対し、本発明の被覆防食構造は、耐衝撃性及び耐摩耗性に優れるため、係留杭の表面における前記摺接部材の接触部位に適用されても摩耗・破損し難く、長期間にわたって優れた防食性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の被覆防食構造の使用例を示す図であり、表面に該被覆防食構造が設置された係留杭の模式的な正面図である。
【
図3】
図3は、
図2の一部(保護層における挿通孔の形成部位及びその近傍)を拡大して模式的に示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、発泡樹脂のひずみ-圧縮応力曲線を示す図面代用グラフである。
【
図5】
図5は、耐衝撃性の評価試験に供された後の実施例5の被覆防食構造における、研削材の被噴射面の図面代用写真である。
【
図6】
図6は、耐衝撃性の評価試験に供された後の比較例8の被覆防食構造における、研削材の被噴射面の図面代用写真である。
【
図7】
図7は、耐衝撃性の評価試験に供された後の実施例5の被覆防食構造について、研削材の貫入深さを測定する際にデジタルマイクロスコープにより撮像した、該被覆防食構造における補強層の厚み方向に沿う断面の図面代用写真である。
【
図8】
図8は、耐衝撃性の評価試験に供された後の実施例6の被覆防食構造について、研削材の貫入深さを測定する際にデジタルマイクロスコープにより撮像した、該被覆防食構造における補強層の厚み方向に沿う断面の図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0010】
図1~3には、本発明の被覆防食構造の一実施形態である被覆防食構造1が示されている。被覆防食構造1は、係留杭10の表面10aに設置されている。
図1中、斜線を付した領域が被覆防食構造1である。係留杭10は中空棒状の鋼管であり、鋼構造物である。
【0011】
係留杭10は、
図1に示すように、その長手方向の一端部が水底(図示せず)に打ち込まれて固定され、他端部が水面WSより上方に突出している。係留杭10には係留装置11が連結されている。係留装置11は、船舶、浮き桟橋等の浮遊構造物12を係留杭10に係留するための装置であり、摺接部材13及びこれを支持する支持部材14を含んで構成されている。支持部材14は、浮遊構造物12の側面12aに固定されており、浮遊構造物12が
図1に示すように水面WSに浮遊した状態で、係留杭10の周面における水面WSより上方に突出した部分に摺接部材13を接触可能に支持する。浮遊構造物12は、摺接部材13を介して係留杭10と接触しつつ、潮位変動、波浪等による水面WSの上下に追従して上下方向に移動可能である。なお、本実施形態では、摺接部材13は、係留杭10と接触する部材としてガイドローラーを備えているが、該部材は特に制限されず、例えば、板状シューであり得る。
【0012】
被覆防食構造1は、係留杭10(鋼構造物)の表面10aにおける係留装置11(摺接部材13)との接触部位を被覆する。係留杭10の表面10aにおける摺接部材13と接触し得る部位には、浮遊構造物12の上下方向の移動に伴う摺接部材13の摺動により、摺動力・衝撃力等の外力が繰り返し作用する。被覆防食構造1は、このような過酷な状況に適用されても摩耗・破損し難く、長期間にわたって優れた防食性能を発揮することができる。
【0013】
被覆防食構造1は、
図2に示すように、被防食体である係留杭10の表面10aから近い順に、防食層2、緩衝層3、保護層4、補強層5を有する。
前記4つの層2~5は、それぞれ、鋼構造物の如き被防食体の表面に設置された状態において、被防食体の表面に対向する(換言すれば、被防食体の表面から相対的に近い)「内面」と、該内面とは反対側に位置する(換言すれば、被防食体の表面から相対的に遠い)「外面」とを有する。
【0014】
防食層2は、被覆防食構造1が有する防食機能を発現する部位であり、防食材を主体として構成されている。防食層2に含まれる防食材としては本来、被覆防食の分野において従来用いられている材料を特に制限なく用いることができるが、本発明では、係留杭の防食用途のような、被覆防食構造1にとって過酷な状況での使用であっても、防食層2が被防食体の表面に密着した状態が長期間維持されるようにする観点から、防食層2に含まれる防食材として、ペトロラタム系防食材又はウレタン系樹脂を用いる。ペトロラタム系防食材は、被防食体に対して高い密着力を有し、防食性能も高い。また、ウレタン系樹脂を含む防食層2は、保護層4により保護され被防食体に圧着されることで強い接着力を発現し、更に、柔軟性を有するため、外力を受けたときにそれを分散吸収することができ、その上、防食性能が高い。防食層2は、ペトロラタム系防食材及びウレタン系樹脂の何れか一方又は両方を含有し得る。ペトロラタム系防食材及びウレタン系樹脂としては、それぞれ、この種の防食層として従来使用されているものを特に制限無く用いることができる。
【0015】
ペトロラタム系防食材としては、ペトロラタムを主成分とし、必要に応じ、腐食抑制剤等の添加剤を含有するペースト状組成物が挙げられる。防食層2は、前記ペースト状組成物を含んでいてもよく、あるいは該ペースト状組成物を基布に塗布又は含浸する等して付着させた、ペトロラタム防食テープを含んでいてもよい。前記基布としては、織布又は不織布を用いることができ、その構成繊維としては、ナイロン、ポリエステル等の合成繊維が好ましい。
【0016】
防食層2は、ウレタン系樹脂に加えて更に、吸水性高分子を含有することが好ましい。これにより、防食層2が設置される被防食体表面に存在し、防食層2の被防食体表面への接着を阻害し得る水分が、防食層2に含有される吸水性高分子により吸収されるので、防食層2の被防食体表面への接着力が一層向上し得る。
吸水性高分子としては、例えば、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、ポリ酢酸ビニル・無水マレイン酸反応物、イソブチレン・マレイン酸共重合体架橋物、ポリエチレンオキシド系、デンプン・アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系、ポリビニルN-ビニルアセトアミド系が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
防食層2における吸水性高分子の含有量は、防食層2に含有されるウレタン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部である。
【0017】
防食層2は、ウレタン系樹脂に加えて更に、水溶性腐食抑制剤及び/又は脱酸素剤を含有することが好ましい。これにより、防食層2の被防食体の表面に対する接着力が向上するため、被防食体が長期間厳しい腐食環境に晒される場合でも、被防食体の腐食を防止することが可能となる。水溶性腐食抑制剤としては、例えば、正リン酸塩、ポリリン酸塩、亜硝酸塩、安息香酸塩、珪酸塩が挙げられる。脱酸素剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、ヒドラジン等が挙げられる。本発明では、防食層2の含有成分として、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
防食層2に含有されるウレタン系樹脂は、JIS A5758:2016の引張特性試験において伸び率が100%以上であることが好ましい。これにより、被覆防食構造1が係留杭の防食のような比較的過酷な用途に適用された場合でも、防食層2が被防食体の表面に密着した状態が長期にわたって維持されやすくなる。
【0019】
防食層2の厚みは特に制限されないが、防食効果と取り扱い性とのバランスの観点から、好ましくは2~10mm、より好ましくは3~5mmである。
防食層2は、単層構造でもよく、複数の層(例えば前記ペトロラタム系防食テープ)が積層された積層構造でもよい。後者の場合、積層構造全体の厚みが2~10mmであることが好ましい。
【0020】
緩衝層3は、被覆防食構造1が受けた外力による衝撃を和らげる役割を担うもので、弾性を有する緩衝材を含む。緩衝材としては従来様々なものが知られているが、本発明では、緩衝層3を構成する緩衝材として、独立気泡の発泡ポリエチレン樹脂を採用している。
【0021】
発泡ポリエチレン樹脂のような発泡樹脂は、発泡倍率を調整することで圧縮応力等の物性を調整できるので、緩衝層3に発泡樹脂を採用することで、被覆防食構造の用途に適合した発泡ポリエチレン樹脂を選択するに際し、発泡倍率を指標とすることが可能となり、緩衝層の制御が比較的容易になるという利点がある。
また、発泡樹脂は、内包する複数の空隙どうしが個々独立していて互いに繋がっていない独立気泡タイプと、内包する複数の空隙のうちの一部どうしが互いに繋がっている連続気泡タイプとに大別できるところ、一般に、前者は後者に比べて形状安定性に優れ、吸水しにくい傾向があるので、前者を含む緩衝層3は、係留杭の防食用途に好適である。
係留杭10の防食に適用される緩衝層3としては、係留杭10の表面を摺動する摺接部材13による外力を吸収してその衝撃を和らげる観点からは、弾性限界が大きく高弾性であり、外力を受けた際の変形の程度が大きいものが好ましいが、緩衝層3の弾性限界が大きすぎると、補強層5及び摺接部材13の摩耗、劣化を招くおそれがあり、また、摺接部材13による外力を受けた際に緩衝層3が大きく変形して保護層4の大きな変形をもたらし、その大きく変形した保護層4によって防食層2が破損するおそれもある。したがって緩衝層3としては、摺接部材13による外力を吸収でき、且つ保護層4の変形量が大きくならない程度の形状安定性を有するものが好適と考えられる。本発明ではこのような観点から、緩衝層3を構成する発泡樹脂の素材としてポリエチレン樹脂を採用している。
発泡樹脂の素材としては、ポリエチレン樹脂の他に、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂が知られているが、
図4に示すひずみ-圧縮応力曲線(S-S曲線)から明らかなように、これら3種類の樹脂を素材とする発泡樹脂は、圧縮特性が互いに大きく異なっている。すなわち、発泡ポリスチレン樹脂は比較的硬くて強いが脆く、発泡ポリウレタン樹脂は比較的柔らかくて弱いが粘り強く、発泡ポリエチレン樹脂はこれら両樹脂の中間の性質を有している。具体的には、発泡ポリスチレン樹脂は小さなひずみで破断が生じ、発泡ポリウレタン樹脂は小さな応力でもひずみが大きく圧縮エネルギー損失が小さく、発泡ポリエチレン樹脂は大きな応力でも破断せず圧縮エネルギー損失が大きくなる。このことからも明らかなように、一口に発泡樹脂と言ってもその物性は様々であり、被覆防食構造に要求される機能に鑑みて適切な発泡樹脂を選択する必要がある。本発明者の知見によれば、S-S曲線が
図4に示す如き形状を有する発泡ポリエチレン樹脂は、弾性と形状安定性とのバランスが良好で、係留杭の防食用途に適している。また、係留杭は通常、水域に設置されるので、係留杭用の被覆防食構造の緩衝層には、その内面側に配置された防食層への水の侵入を防止する機能(防水性)が必要となるところ、発泡ポリエチレン樹脂は比較的吸水性が低く水が浸透しにくいため、この点でも係留杭の防食用途に適している。
【0022】
緩衝層3の25%圧縮応力は、30~300kPaであり、好ましくは40~280kPa、より好ましくは50~260kPaである。前記「25%圧縮応力」は、JIS K6767:1999に準じて測定することができる。
緩衝層3の25%圧縮応力が30kPa未満では、緩衝層3の形状安定性が低下し、緩衝層3が外力を受けた際に大きく変形するため、前述した不都合(補強層5及び摺接部材13の摩耗や劣化、防食層2の破損等)を招くおそれがある。また時間が経つとへたりが生じることで緩衝層3の基本性能である緩衝機能(クッション機能)が十分に発現しないおそれがある。一方、緩衝層3の25%圧縮応力が30kPa~300kPaであれば、緩衝層3は弾性が大きくクッション性に優れたものとなるので、緩衝層3による衝撃を和らげる効果は高まるが、緩衝層3の25%圧縮応力が300kPaを超えると、緩衝層3の緩衝機能(クッション機能)が低下し、緩衝層3が外力を受けた際の圧縮によるエネルギー吸収が小さくなるため、前述した不都合(補強層5及び摺接部材13の摩耗や劣化等)を招くおそれがある。
【0023】
緩衝層3の25%圧縮応力は、緩衝層3の主体をなす発泡ポリエチレン樹脂の発泡倍率を調整することで調整可能である。
緩衝層3として使用可能な市販の独立気泡の発泡ポリエチレン樹脂として、東レ株式会社製の「トーレペフ(登録商標)」を例示できる。
【0024】
緩衝層3の厚みは特に制限されないが、防食効果と取り扱い性とのバランス及び被防食体の表面の凹凸に対する吸収可能性の観点から、好ましくは5~20mm、より好ましくは5~10mmである。
緩衝層3は、単層構造でもよく、複数の層(例えば緩衝材)が積層された積層構造でもよい。後者の場合、積層構造全体の厚みが5~20mmであることが好ましい。
【0025】
保護層4は、被防食体に防食層2を密着させるとともに、外部の衝撃から防食層2を保護する役割を担うものである。この種の保護層(保護カバー)としては従来様々なものが知られているが、本発明では、機械的強度、柔軟性、取り扱い性、コスト等の観点から、保護層4として、繊維強化プラスチックを含むものを採用している。保護層4は、典型的には、繊維強化プラスチックのみを含む。
繊維強化プラスチックは周知のとおり、少なくともプラスチック(樹脂)及び繊維を含む。繊維強化プラスチックにおける繊維の含有量は、該繊維強化プラスチックの全質量に対して、好ましくは20~60質量%、より好ましくは30~50質量%である。
【0026】
繊維強化プラスチックに含まれるプラスチック(以下、「保護層用プラスチック」とも言う。)としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂が好適である。熱硬化性樹脂の具体例として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂を例示できる。熱可塑性樹脂の具体例として、飽和ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂を例示できる。本発明では、保護層用プラスチックとして、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
保護層用プラスチックには、重合用触媒として、該プラスチックの種類に応じて従来使用されている硬化剤を適量含ませることができる。例えば、保護層用プラスチックとして熱硬化性樹脂を用いる場合には、硬化剤として、有機過酸化物、酸無水物、変性脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン等を用いることができる。保護層用プラスチックとしての不飽和ポリエステル樹脂に有機過酸化物を含有させる場合には、完全硬化、硬化の際の発熱を考慮すると、有機過酸化物の含有量は、保護層用プラスチック(又は保護層)の全質量に対して、好ましくは0.5~2.0質量%である。
また、保護層用プラスチックとして熱可塑性樹脂を用いる場合には、併用される繊維との結合による強度向上の観点から、シラン化合物等のカップリング剤を適量含ませることができる。
【0027】
繊維強化プラスチックに含まれる繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、繊維強化プラスチックにおける繊維の形態は特に制限されず、例えば、個々の繊維が独立した状態で含有されていてもよく、あるいは複数の繊維からなるシートとして含有されていてもよい。後者の場合、前記シートは、例えば、織布(例えばクロス状に編み込まれたシート)、不織布、起毛シートであり得る。
【0028】
本実施形態では、
図3に示すように、保護層4は、締結具6が挿通される挿通孔40を有している。より具体的には、保護層4は、被防食体である係留杭10の周方向の長さが、係留杭10の表面の周長よりも長く、
図3に示すように、被覆防食構造1の一部として係留杭10の表面に設置された状態において、保護層4の該周方向の一方の端部(係留杭10の長手方向に沿う側部)と他方の端部との重なり部を有するところ、保護層4における該重なり部を構成する部位に、該部位を厚み方向に貫通する挿通孔40が形成されている。つまり、保護層4における係留杭10の周方向の両端部それぞれに挿通孔40が形成されており、保護層4の使用時には、該両端部のうちの一方の挿通孔40と他方の挿通孔40とが重ねられて、前記重なり部を厚み方向に連続する複合貫通孔が形成される。前記複合貫通孔に締結具6を挿通させることで、保護層4を係留杭10の表面に固定することができる。前記重なり部は、保護層4における係留杭10の長手方向(上下方向)の全長にわたって延在しており、該重なり部には、複数の挿通孔40が該長手方向に間欠配置されている。締結具6としては、リベットを使用することができる。
【0029】
本実施形態では、
図3に示すように、挿通孔40にポリウレア樹脂が充填されている。より具体的には、挿通孔40を画成する壁面が、ポリウレア樹脂を主体とするポリウレア樹脂層7で被覆されている。
図3に示す形態では、ポリウレア樹脂層7は、挿通孔40だけでなく、保護層4の外面全体も被覆している。
ポリウレア樹脂は、せん断付着力、伸び変形性能が高く、摩擦係数が低いという特徴を有し、これを主体とするポリウレア樹脂層7は、耐衝撃性、耐摩耗性、耐久性に優れる。一方、保護層4の使用中には、挿通孔40を起点として保護層4に亀裂が発生する場合があるところ、このような亀裂の起点となりやすい部位である挿通孔40にポリウレア樹脂層7を配置することで、保護層4に亀裂が発生する不都合を効果的に防止できる。
図3に示す形態のように、挿通孔40を画成する壁面及び保護層4の外面の双方にポリウレア樹脂層7を配置することで、より高い効果が得られる。
ポリウレア樹脂層7としては、後述する補強層5と同様の組成のものを用いることができる。補強層5は、典型的には、ポリウレア樹脂を主体とする。
【0030】
保護層4の厚みは特に制限されないが、機械的強度、衝撃強さ、コスト等の観点から、好ましくは2~10mm、より好ましくは2~5mmである。保護層4の厚みは均一でもよく、部分的に異なっていてもよい。後者の場合は例えば、摺接部材13との接触部位に対応する保護層4の厚みを、他の部位に比べて厚くしてもよい。
保護層4は、単層構造でもよく、複数の層(例えば前記繊維強化プラスチック含有層)が積層された積層構造でもよい。後者の場合、積層構造全体の厚みが2~10mmであることが好ましい。
【0031】
補強層5は、保護層4の機械的強度、特に耐衝撃性、耐摩耗性及び耐久性を向上させる役割を担うもので、典型的には、保護層4と一体不可分である。
被覆防食構造1の主たる特徴の1つとして、繊維強化プラスチックを含む保護層4の外面側に、ポリウレア樹脂を含む補強層5が配置されている点が挙げられる。
従来品の被覆防食構造として、最外層(被防食体から最も離れた層)が繊維強化プラスチックで構成されたものが知られているが、斯かる従来品は、最外層の機械的強度が不十分なため、係留杭の防食のような比較的過酷な用途に適用すると、比較的短い期間で摩耗、破損してしまう。繊維強化プラスチック及びポリウレア樹脂それぞれの単体での機械的強度は、防食用途において必ずしも十分ではないが、ポリウレア樹脂が外面側となるように両者を積層することで、両者の欠点が補われ、係留杭の防食のような比較的過酷な用途にも耐え得る高い機械的強度を有し、物理的な外力に対する耐久性に優れ、長期間にわたって優れた防食性能を発揮する被覆防食構造が得られる。被覆防食構造1に代表される本発明の被覆防食構造は、このような知見に基づいてなされたものである。
特に、ポリウレア樹脂は摩擦係数が低いので、これを含む補強層5の外面を摺接部材13が摺動しても、それによる負荷が保護層4及び補強層5に蓄積し難い。したがって、被覆防食構造1が係留杭の防食に適用された場合でも、保護層4及び補強層5は長期にわたって破損しない。また仮に、最外層の補強層5が破損したとしても、その破損した部分から露出するのは、被覆防食構造1の防食機能を発現する防食層2ではなく、防食層2の外面側に配置された保護層4であるので、防食層2への影響はほとんどない。
また、
図2に示す形態のように、保護層4の外面に補強層5が接触するように配置された構成の場合は、保護層4を構成する繊維強化プラスチックの外面に、ポリウレア樹脂をはじめとする補強層5の構成樹脂を直接塗布する等して補強層5を形成することで、両層4、5が一体となった補強保護層を得ることができ、この補強保護層を緩衝層3の外面に設置するだけの簡単な作業で、被覆防食構造1が得られる。このように、本発明の被覆防食構造は、高品質でありながら、製造、設置が容易である。
【0032】
本発明で用いるポリウレア樹脂は、イソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネートと、アミノ基を2個以上有するポリアミン(硬化剤)とを反応させて得られるものである。
【0033】
ポリイソシアネートの具体例として、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0034】
ポリイソシアネートの他の具体例として、前記ポリイソシアネートの具体例の1種又は2種以上と、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールとを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーが挙げられる。
前記ポリエーテルポリオールは、多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加重合させて得られる化合物であり、その例には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール等が含まれる。
前記ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸と多価アルコールを縮合させて得られるものであり、その例には、ポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)、ポリ(ヘキサメチレングリコール-1,6-カーボネート)等が含まれる。
【0035】
ポリウレア樹脂の製造に際しては、1種類のポリイソシアネートを用いてもよく、2種類以上のポリイソシアネートを併用してもよい。
ポリイソシアネートの好ましい一例として、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネートやそれを原料とするイソシアネート基末端プレポリマーが挙げられる。これらは、比較的入手が容易で、一定の機械的強度が得られやすいという特徴を有する。
ポリイソシアネートの好ましい他の一例として、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;及びそれらを原料とするイソシアネート基末端プレポリマーが挙げられる。これらは、耐候性及び耐黄変性に優れるため、斯かる特性が要求される用途に特に好適である。
【0036】
ポリアミンの具体例として、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレエンヘキサミン、ポリオキシアルキレンの末端ヒドロキシル基をアンモニアと反応させて得られるポリエーテルポリアミン(例えばポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン)等の脂肪族ポリアミン;m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、3,3′-ジクロロ-4、4′-ジアミノ-ジフェニルメタン、ポリ(テトラメチレン/3-メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4-アミノベンゾエート)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルトルエンジアミン(DMTDA)等の芳香族ポリアミンが挙げられる。
ポリウレア樹脂の製造に際しては、1種類のポリアミンを用いてもよく、2種類以上のポリアミンを併用してもよい。
前記ポリアミンの数平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは18~3000、より好ましくは30~300である。
【0037】
補強層5におけるポリウレア樹脂の含有量は、ポリウレア樹脂による作用効果(被覆防食構造の機械的強度の向上効果)を一層確実に奏させるようにする観点から、補強層5の全質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、100質量%すなわち補強層5の全部がポリウレア樹脂であってもよい。
【0038】
補強層5は、ポリウレア樹脂に加えて更に、ポリウレア樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、充填剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン紫外線安定剤、着色剤、酸化防止剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0039】
補強層5の厚みは0.6mm以上であり、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上である。補強層5の厚みが0.6mm未満では、被覆防食構造1の機械的強度、特に耐衝撃性が低下し、本発明の所定の効果が奏されないおそれがある。
補強層5の厚みの上限は特に制限されないが、補強層5の内面側に配置される緩衝層3及び保護層4の特性を活かす観点、機械的強度と取り扱い性とのバランスの観点等から、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、更に好ましくは3mm以下である。
補強層5は、単層構造でもよく、複数の層が積層された積層構造でもよい。後者における「複数の層」は、例えば、ポリウレア樹脂の含有量が互いに異なる複数の層であり、ポリウレア樹脂を非含有の層が含まれ得る。後者の場合、積層構造全体の厚みが0.6~3mmであることが好ましい。
【0040】
補強層5は、保護層4の外面の少なくとも一部を被覆していればよいが、保護層4の外面の全域を被覆していることが、保護層4の保護の観点からは好ましく、また、それにより、保護層4が破損された場合に破片等の散逸が防止されるという効果も期待できる。
補強層5と保護層4との間に他の層が介在配置されていてもよいが、本発明の所定の効果を一層確実に奏させるようにする観点から、両層4,5の間に他の層が介在配置されず、両層4,5どうしが密着していることが好ましい。
【0041】
補強層5は、補強層5に期待される作用効果の一層の向上の観点から、伸び変形性能が高いことが好ましい。具体的には、補強層5は、破断伸びが200%以上であることが好ましい。
ここで言う「破断伸び」は、次の方法で測定することができる。まず、測定対象(補強層)からJIS K6251に規定するダンベル状3号形試験片を作製する。次に、試験片について、テンシロン万能試験機UTM-5T型(エー・アンド・デイ社製)を用いてJIS K6251に準拠して引張試験を行い、破断伸びを測定する。すなわち、前記引張試験において試験片が破断した時点での該試験片の伸び率を測定する。
補強層5の破断伸びは、補強層5の主体をなすポリウレア樹脂の種類を適宜調整することで調整可能である。補強層5の破断伸びの数値を大きくする方法の一例として、ポリウレア樹脂の原料であるポリアミンとして、分子量が比較的大きい脂肪族ポリアミン(例えばポリエーテルポリアミン等)を用いる方法が挙げられる。
【0042】
補強層5は、種々の方法で形成することができる。補強層5の形成方法の一例として、ポリイソシアネート及び硬化剤としてのポリアミンを含む硬化性組成物を、保護層4の外面における補強層5の形成予定部位等の被塗布部に塗布した後、該硬化性組成物を硬化させる方法が挙げられる。
硬化性組成物は、塗布直前に、ポリイソシアネートを含む主剤液と、ポリアミン(硬化剤)を含む硬化剤液とを衝突混合させる方法によって調製してもよい。
硬化性組成物におけるポリアミンの含有量は、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基1モルに対して、ポリアミン中の活性水素が約0.8モル以上、好ましくは約0.95~1.2モルとなる量であり得る。
硬化性組成物は、ポリイソシアネートとポリアミンとの反応を促進する観点から、必要に応じて硬化触媒を更に含んでいてもよい。前記硬化触媒としては、例えば、N-アルキルベンジルアミン、N-アルキル脂肪族ポリアミン、トリエチレンジアミン、N-アルキルピペラジン、N-アルキルモルホリン、ジモルホリノジエチルエーテル、オクテン酸錫やジブチル錫ジラウレート等の有機金属化合物が挙げられる。
硬化性組成物の塗布方法は、特に制限されず、従来公知の塗布方法を用いることができ、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、バーコート法を用いることができる。特に好ましい塗布方法はスプレーコート法であり、その中でも特に、スプレーガンを用いて、ポリイソシアネートを含む主剤液と、ポリアミンを含む硬化剤液との2液を混合してスプレーする方法が好ましい。斯かる好ましい塗布方法は、ポリイソシアネートとポリアミンとの硬化反応が比較的速く進行する、被塗布物の形状が複雑であっても硬化性組成物を均一に塗布することができる、等の利点を有する。
硬化性組成物をスプレーコート法により塗布する場合、ポリイソシアネートを含む主剤液及びポリアミンを含む硬化剤液それぞれの粘度は、好ましくは4000mPa・s以下、より好ましくは3000mPa・s以下である。
硬化性組成物をスプレーコート法により塗布する場合、塗布する液の粘度を下げるために、前記2液の温度を例えば50~100℃に調節してもよい。
硬化性組成物の被塗布部には、その塗布前に下地処理を施してもよい。前記下地処理は、例えば、被塗布部(例えば保護層4の外面)をサンドペーパーで擦る等して粗面化した後、アセトン等の有機溶媒を塗布する等して脱脂することにより行うことができる。前記硬化性組成物は、保護層4の外面に直接塗布してもよいし、保護層4の外面に形成されたプライマー層に塗布してもよい。
硬化性組成物の硬化温度(硬化性組成物の品温)は、該硬化性組成物の組成等に応じて適宜調整すればよいが、典型的には、好ましくは室温~200℃、より好ましくは23~60℃である。また、硬化性組成物の硬化時間(前記硬化温度を維持した状態で硬化性組成物を静置する時間)は、典型的には、好ましくは5秒~25分、より好ましくは10秒~5分である、更に好ましくは10秒~3分である。
【0043】
本明細書において「粘度」とは、特に断らない限り、E型粘度計を用いて下記の粘度測定条件で測定された値を指す。E型粘度計としては、例えば、東機産業株式会社製のE型粘度計「TV-30」を用いることができる。
(粘度測定条件)
・測定対象物の温度:25℃
・ロータ:コーン角度1°34’、コーン半径24mm
・ロータの回転速度:測定レンジが20~80%となるように0.1~10rpmの範囲から選択
【0044】
被覆防食構造1は、前記4つの層2~5からなり、これら以外の他の層を有していないが、本発明の被覆防食構造は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記他の層を有していてもよい。前記他の層は、例えば、保護層4と補強層5との間、及び/又は、補強層5の外面に配置され得る。前記他の層の一例として、被覆防食構造に所望の機能を付与することを目的とした機能性層が挙げられる。前記機能性層が付与する機能としては、例えば、耐候性、易滑性、帯電防止性等が挙げられ、該機能は、1つでも複数でもよい。前記機能性層は、例えば、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂から選択される1種以上を主体とするものであり得る。
【実施例0045】
〔実施例1~4、比較例1~3〕
縦100mm、横100mmの平面視正方形形状を有し、且つ緩衝層、保護層及び補強層を有する3層構造の被覆防食構造を製造した。なお、この3層構造の被覆防食構造は、本来は、緩衝層の内面側に防食層を有するが、後述する試験に供するにあたって防食層は不要であるので、防食層無しの構成とした。
緩衝層として、厚み及び25%圧縮応力が下記表1に示す値である独立気泡の発泡ポリエチレン樹脂(東レ株式会社製「トーレペフ(登録商標)」)からなるシートを用いた。保護層として、繊維強化ポリエステル樹脂(日東紡績株式会社製「GFRP」)からなる層を用いた。緩衝層と保護層とは接着剤を介して接合した。補強層は、保護層の外面に、ポリウレア樹脂を含む硬化性組成物(三井化学産資株式会社製「スワエールAR-450」(登録商標))を、乾燥後の厚みが下記表1に示す厚みとなるようにスプレーコーティングした後、室温で硬化させること形成した。前記硬化性組成物の粘度は700mPa・s(温度25℃でB型粘度計を用いて測定)、硬化温度は25℃、硬化時間は6秒であった。補強層におけるポリウレア樹脂の含有量は、該補強層の全質量に対して100質量%であった。
【0046】
〔比較例4〕
緩衝層として、25%圧縮応力が6kPaである連続気泡の発泡ポリエチレン樹脂(東レ株式会社製「トーレペフ(登録商標)」)からなるシートを用いた以外は比較例1と同様にして、緩衝層、保護層及び補強層を有する3層構造の被覆防食構造を製造した。
【0047】
〔比較例5〕
緩衝層を形成しなかった以外は比較例2と同様にして、保護層及び補強層を有する2層構造の被覆防食構造を製造した。
【0048】
〔比較例6〕
緩衝層及び保護層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、補強層のみからなる単層構造の被覆防食構造を製造した。
【0049】
〔比較例7〕
緩衝層及び補強層を形成しなかった以外は比較例2と同様にして、保護層のみからなる単層構造の被覆防食構造を製造した。
【0050】
〔試験例1〕
実施例1~4及び比較例1~7の被覆防食構造について、下記方法により耐摩耗性を評価した。その結果を下記表1に示す。
【0051】
(耐摩耗性の評価方法)
評価対象の被覆防食構造の角部から、縦100mm、横100mmの平面視正方形形状を切り出してサンプルとする。サンプルの中心に直径6.35mmの貫通孔を穿設した後、サンプルをロータリーアブレーションテスター(株式会社東洋精密製作所製)の回転円板上に固定し、テーバー摩耗試験を実施する。前記テーバー摩耗試験は、JIS K7204:1999(プラスチック-摩耗輪による摩耗試験方法)に準拠し、磨耗輪CS-17、荷重9.8N、回転数1000回転(60回転/min)の条件で実施し、摩耗質量を測定する。摩耗質量の数値が小さいほど、耐摩耗性に優れる。
【0052】
【0053】
表1に示すとおり、各実施例の被覆防食構造は、緩衝層、保護層及び補強層の3層構造を有し、且つ該緩衝層の25%圧縮応力が30~300kPaの範囲にあるため、これを満たさない比較例に比べて摩耗質量が少なく、耐摩耗性に優れていた。このことから、各実施例の被覆防食構造は、係留杭の防食のような比較的過酷な用途にも耐え得る高い機械的強度を有し、物理的な外力に対する耐久性に優れ、長期間にわたって優れた防食性能を発揮し得ることがわかる。
【0054】
〔実施例5〕
被覆防食構造のサイズを縦70mm、横70mmとし、保護層の厚みを2.0mmとし、補強層の原料である硬化性組成物として三井化学産資株式会社製「スワエールAJ-800」(登録商標)を用いた。以上の点以外は実施例1と同様にして、緩衝層、保護層及び補強層を有する3層構造の被覆防食構造を製造した。
【0055】
〔実施例6〕
補強層の原料である硬化性組成物として三井化学産資株式会社製「スワエールAJ-900」(登録商標)を用いた以外は実施例4と同様にして、緩衝層、保護層及び補強層を有する3層構造の被覆防食構造を製造した。
【0056】
〔比較例8〕
補強層を形成しなかった以外は実施例4と同様にして、緩衝層及び保護層を有する2層構造の被覆防食構造を製造した。
【0057】
〔試験例2〕
実施例5、6及び比較例8の被覆防食構造について、下記方法により耐衝撃性を評価した。その結果を下記表2に示す。
【0058】
(耐衝撃性の評価方法)
評価対象の被覆防食構造を万力に固定し、ブラスト加工装置を用いて、該被覆防食構造の緩衝層側とは反対側の表面の中央部に向けて研削材を噴射し、該研削材を衝突させる。研削材としては、例えば、株式会社不二製作所製「不二ガラスビーズFGB-120」(中心粒径125~150μm)を用いることができる。ブラスト加工装置から研削材を噴射する際には、噴射される研削材の流れ方向が被覆防食構造の表面に対して直交するようにし、且つ噴射圧力は0.6MPa、噴射距離は60mm、噴射時間は最大60秒とし、研削材の噴射によって被覆防食構造に開孔が生じる等して、被覆防食構造が破損した場合は、その破損した時点で研削材の噴射を終了する。研削材の噴射終了後、デジタルマイクロスコープを用いて、被覆防食構造における研削材の被噴射面側の表層部を観察し、研削材の貫入深さを測定する。具体的には、デジタルマイクロスコープを用いて前記表層部の厚み方向に沿う断面を撮像し、その画像に基づいて、研削材の被噴射面から該被噴射面と直交する方向(法線方向)において最も離間した位置に存在する研削材を特定し、その特定した研削材の該被噴射面からの法線方向に沿う離間距離を、研削材の貫入深さ(単位:mm)とする。貫入深さの数値が小さいほど、耐衝撃性に優れる。
【0059】
図5には、耐衝撃性の評価試験に供された後の実施例5の被覆防食構造における、研削材の被噴射面側の厚み方向に沿う断面が示されている。
図5中、黒色ないしグレー色のドットが「研削材」、研削材(ドット)が存在しない左下のグレー色の領域が「被覆防食構造の背景」であり、この背景と研削材の存在領域との境界線が「被覆防食構造の表面」(研削材の被噴射面)である。
図6には、耐衝撃性の評価試験に供された後の比較例8の被覆防食構造における、研削材の被噴射面が示されている。
図6中、2本の黒色の直線の交差点の近傍の白色の円形部は、研削材が噴射されたことで生じた開孔である。つまり、比較例8の被覆防食構造は、耐衝撃性の評価試験で破損した。
【0060】
【0061】
表2に示すとおり、実施例5、6の被覆防食構造は、研削材の貫入深さが0.6mmであり、すなわち、当該被覆防食構造の外面である補強層の外面から0.6mm離間した位置に研削材が存在したが、厚み2.5mmの補強層における残りの厚み1.9mmの領域、及び補強層の内面側に位置する保護層には、研削材は存在しなかった。これは、
図7及び
図8からも明らかである。
図7は、実施例5の被覆防食構造における補強層(研削材の被噴射面側の表層部)の、耐衝撃性の評価試験に供された後の厚み方向に沿う断面を示し、
図8は、実施例6のそれを示す。これに対し、補強層を有しない比較例8の被覆防食構造は、耐衝撃性の評価試験において、研削材の噴射開始から10秒経過した時点で、
図6に示すように開孔が生じてしまった。このことから、被覆防食構造の最外層として、ポリウレア樹脂を含む、厚み0.6mm以上の補強層を設けることの有用性が明らかである。
ここで、
図1を参照して、係留杭10の表面に接触する摺接部材13は、潮位変動、波浪による水面WSの変動等に起因して、係留杭10の表面を被覆する被覆防食構造1(補強層5)に繰り返し衝突するところ、この被覆防食構造1に対する摺接部材13の衝突による影響は、前記の耐衝撃性の評価試験で実施する、被覆防食構造に対する研削材の噴射による影響を見ることで推定することができる。
したがって、表2に示す結果から、表2の各実施例の被覆防食構造は、係留杭の防食のような比較的過酷な用途にも耐え得る高い機械的強度を有し、物理的な外力に対する耐久性に優れ、長期間にわたって優れた防食性能を発揮し得ることがわかる。