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  • 特開-繊維成形体及び止血パッド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044517
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】繊維成形体及び止血パッド
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/541 20120101AFI20240326BHJP
   D04H 1/4291 20120101ALI20240326BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20240326BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240326BHJP
   D06M 13/03 20060101ALI20240326BHJP
   A61F 13/02 20240101ALI20240326BHJP
【FI】
D04H1/541
D04H1/4291
D06M13/17
D06M15/53
D06M13/03
A61F13/02 310A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150079
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】596105644
【氏名又は名称】株式会社東北イノアック
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 健志
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健之
【テーマコード(参考)】
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB09
4L033AC07
4L033BA03
4L033BA14
4L033CA48
4L047AA14
4L047AA27
4L047AB02
4L047CB01
4L047CB07
4L047CC03
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】毛羽立ちの発生が少なく、吸液性に優れた繊維成形体を提供する。
【解決手段】繊維成形体10は、熱可塑性樹脂繊維を熱圧成形してなる繊維成形体である。熱可塑性樹脂繊維として、芯部と、芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する芯鞘構造の繊維が含まれる。芯鞘構造の繊維の含有量は、前記熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、60質量%以上である。鞘部は、ポリオレフィン系樹脂を含有している。熱可塑性樹脂繊維の表面における少なくとも一部は、界面活性剤によって親水化されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂繊維を熱圧成形してなる繊維成形体であって、
前記熱可塑性樹脂繊維として、芯部と、前記芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する芯鞘構造の繊維が含まれ、
前記芯鞘構造の繊維の含有量は、前記熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、60質量%以上であり、
前記鞘部は、ポリオレフィン系樹脂を含有しており、
前記熱可塑性樹脂繊維の表面における少なくとも一部は、界面活性剤によって親水化されている、繊維成形体。
【請求項2】
前記繊維成形体の密度は、40kg/m以上210kg/m以下である、請求項1に記載の繊維成形体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の繊維成形体を備える、止血パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維成形体及び止血パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工透析、注射、点滴、採血などにおいて、皮膚表面の血管から注射針等を抜針する際には、穿刺部に脱脂綿やガーゼ、パッドを当て、指で圧迫し、さらにテープやバンドで穿刺箇所付近を覆って押圧することにより、止血を行っていた。
【0003】
特許文献1は、止血用パッドを開示する。この止血用パッドは、熱接着性合成繊維を含有する不織布片の周縁部及び底部を熱融着させて硬化させると共に、上記底部の中央部分を上方に向かって突出させ、血管に対する穿刺部に当接する上面を柔らかな球面状に成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-169402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の止血パッドは、例えば柔らかな球面状に成形した部分等において、毛羽立ちが発生しやすいという課題がある。また、止血パッド等の繊維成形体において、吸液性を高める技術が望まれている。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、毛羽立ちの発生が少なく、吸液性に優れた繊維成形体を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
熱可塑性樹脂繊維を熱圧成形してなる繊維成形体であって、
前記熱可塑性樹脂繊維として、芯部と、前記芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する芯鞘構造の繊維が含まれ、
前記芯鞘構造の繊維の含有量は、前記熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、60質量%以上であり、
前記鞘部は、ポリオレフィン系樹脂を含有しており、
前記熱可塑性樹脂繊維の表面における少なくとも一部は、界面活性剤によって親水化されている、繊維成形体。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、毛羽立ちの発生が少なく、吸液性に優れた繊維成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る繊維成形体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
[2]
前記繊維成形体の密度は、40kg/m以上210kg/m以下である、[1]に記載の繊維成形体。
[3]
[1]又は[2]に記載の繊維成形体を備える、止血パッド。
【0011】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
1.繊維成形体10
本実施形態の繊維成形体10は、熱可塑性樹脂繊維を熱圧成形してなる繊維成形体である。熱可塑性樹脂繊維として、芯部と、芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する芯鞘構造の繊維(以下、芯鞘繊維とも称する)が含まれる。芯鞘繊維の含有量は、熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、60質量%以上である。鞘部は、ポリオレフィン系樹脂を含有している。熱可塑性樹脂繊維の表面における少なくとも一部は、界面活性剤によって親水化されている。
【0013】
(1)熱可塑性樹脂繊維
熱可塑性樹脂は、特に限定されない。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン(ポリブテン-1等を含む)、ブテン-1を主たる成分とするブテン-1共重合体、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66等のポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等のエンジニアリングプラスチック、並びにそれらのエラストマー等を例示できる。
【0014】
熱可塑性樹脂繊維として、芯部と、芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する芯鞘繊維が含まれる。芯鞘繊維の含有量は、熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。芯鞘繊維の含有量の上限は、100質量%である。
熱可塑性樹脂繊維として、芯鞘繊維のみが含まれてもよく、芯鞘繊維と、単一の樹脂からなる繊維(以下、単一繊維とも称する)と、が含まれてもよい。例えば、熱可塑性樹脂繊維は、芯鞘繊維 60質量%以上100質量%以下、残部が単一繊維であってもよい。単一繊維を構成する熱可塑性樹脂は、例えば、上記の熱可塑性樹脂から選択でき、共に含まれる芯鞘繊維の芯部と同じ樹脂であってもよい。
【0015】
芯鞘繊維は、芯部と、芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する。鞘部は、ポリオレフィン系樹脂を含有している。芯部も、ポリオレフィン系樹脂を含有していることが好ましい。芯鞘繊維は、例えば、上記の熱可塑性樹脂から選択される融点の異なる2種類を組み合わせて、芯部と鞘部を構成できる。なお、鞘部は、耐薬品性の観点から、ポリエステル系樹脂を含まないことが好ましく、ポリエチレンテレフタラートを含まないことがより好ましい。
芯部と鞘部の組み合わせは、特に限定されない。芯部と鞘部の組み合わせ(芯部/鞘部)としては、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリブテン、ポリエチレンテレフタラート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート/プロピレン共重合体、ポリトリメチレンテレフタラート/ポリエチレン、ポリブチレンテレフタラート/ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン-アクリル酸共重合体等が挙げられる。これらの組み合わせによれば、鞘部を構成する熱可塑性樹脂の融点以上の温度で熱処理することで鞘部の少なくとも一部を溶融又は軟化させ、繊維同士を接着できる。これらの中でも、耐薬品性、人体適合性が高く、患部に対して低刺激である等の観点から、ポリプロピレン/ポリエチレン又はポリプロピレン/ポリブテンが好ましい。
なお、例示した熱可塑性樹脂は、具体的に示された熱可塑性樹脂を50質量%以上含む限りにおいて他の成分を含んでよい。例えば、ポリプロピレン/ポリエチレンの組み合わせにおいて、「ポリエチレン」はポリエチレンを50質量%以上含んでいれば、他の熱可塑性樹脂および添加剤等を含んでいてよい。
【0016】
芯鞘繊維の芯部と鞘部の質量比(芯部/鞘部)は、特に限定されない。芯鞘繊維の芯部と鞘部の質量比(芯部/鞘部)は、芯部による繊維形状の維持と、鞘部による接着性の観点から、例えば80/20-20/80であってよく、60/40-40/60であってもよい。
【0017】
芯鞘繊維の繊度は、特に限定されない。芯鞘繊維の繊度は、例えば、0.5dtex以上15.0dtex以下であってよく、1.0dtex以上8.0dtex以下、1.5dtex以上3.0dtex以下であってもよい。
芯鞘繊維の繊維長は、特に限定されない。芯鞘繊維の繊維長は、例えば、25mm以上100mm以下であってよく、30mm以上80mm以下、40mm以上60mm以下であってもよい。
【0018】
また、芯鞘繊維は、立体捲縮を発現している顕在捲縮、又は加熱することにより立体捲縮を発現する潜在捲縮のいずれかであってもよい。捲縮は波形状もしくは螺旋形状のいずれでもよい。なかでも螺旋形状および波形形状が混合された繊維が、繊維集合体の弾力性および形状変形後の戻り性に優れており好ましい。
芯鞘繊維の断面形状は、特に限定されない。芯鞘繊維の断面形状は、円形であってよく、楕円形、Y形、X形、井形、多角形、星形などの異形又は中空形であってもよい。芯部の断面形状は、特に限定されない。芯部の断面形状は、円形であってよく、楕円形、Y形、X形、井形、多角形、星形などの異形又は中空形であってもよい。
芯鞘繊維は、繊維断面において芯部の中心と鞘部の中心が一致する同心芯鞘型複合繊維であってよく、繊維断面において芯部の中心と鞘部の中心が一致しない偏心芯鞘型複合繊維であってもよい。
【0019】
(2)界面活性剤
熱可塑性樹脂繊維の表面における少なくとも一部は、界面活性剤によって親水化されている。界面活性剤による親水化は、例えば、熱可塑性樹脂繊維の表面に界面活性剤を塗布して、行うことができる。界面活性剤による親水化は、繊維の状態の熱可塑性樹脂繊維に対して行ってもよく、成形された状態の熱可塑性樹脂繊維に対して行ってもよい。
【0020】
界面活性剤は、特に限定されない。界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤が使用できる。これらの中でも、人体適合性が高く、患部に対して低刺激である観点から、ノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤が好ましい。
【0021】
ノニオン系界面活性剤としては、アセチレングリコールのアルキレンオキシド付加体、アルキルフェノールのアルキレンオキシド付加体、アルコールのアルキレンオキシド付加体、多価アルコール脂肪酸エステル、アルキルアミンのアルキレンオキシド付加体、脂肪酸アミドのアルキレンオキシド付加体、及びポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。
界面活性剤は、下記一般式(1)で表されるアセチレングリコールのエチレンオキシド付加体であることが好ましい。
【化1】

(一般式(1)において、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、mおよびnはそれぞれ、0以上の整数であり、m+nは、0以上20以下である。)
【0022】
一般式(1)において、Rは、例えば、イソブチル基である。Rは、例えば、メチル基である。m+nは、5以上15以下が好ましく、8以上12以下がより好ましい。
【0023】
アニオン系界面活性剤としては、アルキルホスフェートナトリウム塩、アルキルエーテルホスフェートナトリウム塩、ジアルキルホスフェートナトリウム塩、ジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、アルキルベンゼンスルホネートナトリウム塩、アルキルスルホネートナトリウム塩、アルキルサルフェートナトリウム塩等を挙げることができる。アニオン系界面活性剤において、いずれのアルキルも炭素数が6-22であることが好ましい。また、これらのアニオン系界面活性剤において、ナトリウム塩に代えてカリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩)を用いることもできる。
【0024】
2.繊維成形体10の物性及び用途
繊維成形体10の物性は、用途等に応じて適宜設定できる。繊維成形体10は、以下の物性を備えることが好ましい。
【0025】
(1)密度(見掛け密度)
繊維成形体10の密度は、特に限定されない。繊維成形体10の密度は、例えば、30kg/m以上300kg/m以下とすることができる。繊維成形体10の密度は、剛性及び吸液性の観点から、好ましくは40kg/m以上であり、60kg/m以上、80kg/m以上であってもよい。繊維成形体10の密度は、柔軟性及び吸液性の観点から、好ましくは210kg/m以下であり、190kg/m以下、150kg/m以下であってもよい。これらの観点から、繊維成形体10の密度は、好ましくは40kg/m以上210kg/m以下である。
なお、密度を求めるにあたり、体積は繊維成形体10の寸法を測定して算出できる。
【0026】
(2)吸水性
繊維成形体10の吸水時間は、以下の測定方法で測定した場合に、好ましくは0.7秒以下であり、より好ましくは0.6秒以下である。吸水時間の下限値は特に限定されず、例えば、0.1秒以上である。
[測定方法]
JIS-L1907「繊維製品の吸水性試験法」の最大吸水速度及び最大吸水速度時点の吸水量(表面吸水法)に準じて測定する。サンプルである繊維成形体の上に、0.05g/滴の水滴を10mmの高さから1滴滴下し、その水滴が成形体に吸い込まれるまでの時間を吸水時間(秒)とする。
【0027】
繊維成形体10の吸水率は、以下の測定方法で測定した場合に、好ましくは75%以上であり、より好ましくは78%以上であり、80%以上である。吸水率の上限値は特に限定されず、例えば、98%以下である。
[測定方法]
円盤状のサンプルの厚さ及び直径をノギスで測定して、サンプルの体積を算出する。サンプルを生理食塩水中に沈める前に、質量(吸水前質量、g)を測定する。サンプルを生理食塩水中に5分間沈めておき、その後引き上げた状態において1分間放置して、質量(吸水後質量、g)を測定する。サンプルの体積1cmを生理食塩水1gと換算して、サンプルの体積分の生理食塩水の質量(体積分質量、g)を算出する。以下の式に基づいて吸水率(%)を算出する。
吸水量(g)=吸水後質量-吸水前質量
吸水率(%)=(吸水量/体積分質量)×100
【0028】
(3)50%圧縮応力
JIS K7181に準じて測定した繊維成形体10の50%圧縮応力は、剛性及び吸液性の観点から、好ましくは0.015MPa以上であり、より好ましくは0.05MPa以上であり、さらに好ましくは0.1MPa以上である。繊維成形体10の50%圧縮応力は、柔軟性及び吸液性の観点から、好ましくは3.5MPa以下であり、より好ましくは2.5MPa以下であり、さらに好ましくは2.0MPa以下である。これらの観点から、50%圧縮応力は、好ましくは0.015MPa以上3.5MPa以下であり、より好ましくは0.05MPa以上2.5MPa以下であり、さらに好ましくは0.1MPa以上2.0MPa以下である。
なお、50%圧縮応力の測定は、円形加圧板を5mm/minの速度で動かし、20mmφの円柱状のサンプルの最初の厚みの50%まで押し込んだ後、その圧縮時の応力(MPa)の値を読み取る。これを5つのサンプル(N=5)について行い、その平均値をサンプルの50%圧縮応力とする。
【0029】
(4)用途
繊維成形体10の用途は特に限定されない。繊維成形体10は、毛羽立ちの発生が少なく、吸液性に優れる点から、止血パッドとして好適である。止血パッドは、例えば、穿刺傷跡や切開患部等の出血部に接触させて出血を抑制し、また、血液を吸収するために用いることができる。それ以外にも、繊維成形体10は、化粧料保持体、インク塗布材、クッション等としても好適である。
【0030】
止血パッドの形状は特に限定されない。止血パッドは、出血の抑制及び血液の吸収の観点から、シート状であることが好ましい。また、止血パッドがシート状である場合には、大型の繊維成形体10のシート材から打ち抜いて止血パッドを製造できる。
止血パッドの厚さは特に限定されない。止血パッドの厚さは、吸液性及び取扱性の観点から、1mm以上30mm以下が好ましく、2mm以上20mm以下がより好ましく、3mm以上10mm以下が更に好ましい。
【0031】
3.繊維成形体10の製造方法
(1)熱圧成形
繊維成形体10は、熱可塑性樹脂繊維を熱圧成形して製造できる。熱圧成形とは、加熱と加圧を経ることで繊維成形体10を成形する方法である。熱圧成形によれば、接着性繊維を構成する樹脂成分のうち融点の低い成分が加熱によって溶融または軟化し、繊維成形体10を構成する繊維同士を接着させることができる。
【0032】
熱圧成形の方式は特に限定されない。熱圧成形の方式としては、例えば、熱風コンベア炉式、型成形式、メッシュベルトを用いる方法(日本国特許第4195043号に記載の方法)等を例示できる。
加熱温度は、特に限定されない。加熱温度は、鞘部の融点以上であり、芯部の融点未満であることが好ましい。例えば、鞘部がポリエチレン(融点130℃)、ポリブテン-1(融点127℃)の場合には、熱風コンベア炉式、メッシュベルトを用いる方法等においては、熱風の温度を135℃以上150℃以下に設定することができる。
加圧態様は、特に限定されない。例えば、熱風コンベア炉式、メッシュベルトを用いる方法等においては、繊維成形体10の厚さ以上の熱可塑性樹脂繊維のウェブを準備し、熱可塑性樹脂繊維のウェブを厚さ方向に圧縮して加圧することができる。
熱風コンベア炉式、メッシュベルトを用いる方法等において、得られたシート状の繊維成形体に、切断などの加工をして、目的の形状にしてもよい。
【0033】
(2)親水化処理
繊維成形体10は、熱可塑性樹脂繊維を界面活性剤により親水化して製造できる。界面活性剤による親水化は、熱圧成形の前に行われてもよく、熱圧成形の後に行われてもよい。
熱圧成形の前に行う場合には、例えば、次のようにして、親水化された熱可塑性樹脂繊維を得ることができる。アセチレングリコールのエチレンオキシド付加体の水溶液Aを準備する。水溶液Aの濃度は、例えば、0.1質量%以上2質量%以下とすることができる。未処理の熱可塑性樹脂繊維を、水溶液Aに所定時間(例えば24時間)浸漬した後に、乾燥する。それ以外にも、市販品の親水化された熱可塑性樹脂繊維を用いてもよい。
熱圧成形の後に行う場合には、例えば、次のようにして、親水化された熱可塑性樹脂繊維を得ることができる。未処理の成形体を、上記の水溶液Aに所定時間(例えば24時間)浸漬した後に、乾燥する。
【実施例0034】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
【0035】
1.実施例1-11及び比較例1-3の作製
(1)熱可塑性樹脂繊維
実施例1-12及び比較例1,2の熱可塑性樹脂繊維として、以下の熱可塑性樹脂繊維を使用した。表1中、「繊維材質」は、例えば、芯部がPPであり、鞘部がPEである芯鞘繊維の材質を「PP/PE」を表し、PPからなる単一繊維の材質を「PP」と表す。「芯鞘繊維の含有量」は、熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合の芯鞘繊維の含有量を表す。
・実施例1-4,6,7,10,11
PP(ポリプロピレン、融点165℃)の芯部と、PE(ポリエチレン、融点130℃)の鞘部と、を有する芯鞘繊維である。芯部と鞘部の質量比 50/50、繊度 2.2dtex、繊維長 51mmである。繊維は、アニオン系界面活性剤により親水化されている。繊維は、品番 NBF H(011)、大和紡績社製である。
・実施例5
PP(ポリプロピレン、融点165℃)の芯部と、PE(ポリエチレン、融点130℃)の鞘部と、を有する芯鞘繊維である。芯部と鞘部の質量比 50/50、繊度 2.2dtex、繊維長 51mmである。繊維は、界面活性剤等により親水化されていない。
・実施例8,9
PP(ポリプロピレン、融点165℃)の芯部と、PB(ポリブテン-1、融点127℃)の鞘部と、を有する芯鞘繊維である。芯部と鞘部の質量比 50/50、繊度 6.7dtex、繊維長 51mmである。繊維は、界面活性剤等により親水化されていない。
・比較例1
実施例5に用いた芯鞘繊維である。芯鞘繊維は、界面活性剤等により親水化されていない。
・比較例2
実施例5に用いた芯鞘繊維 50質量%と、PP(ポリプロピレン)からなる単一繊維 50質量%とを、混ぜた繊維である。単一繊維は、繊度 2.2dtex、繊維長 51mmである。芯鞘繊維と単一繊維は、界面活性剤等により親水化されていない。
・比較例3
PET(ポリエチレンテレフタラート、融点252℃)の芯部と、PET(ポリエチレンテレフタラート、融点110℃)の鞘部と、を有する芯鞘繊維 50質量%と、PET(ポリエチレンテレフタラート)からなる単一繊維 50質量%とを、混ぜた繊維である。単一繊維は、繊度 2.2dtex、繊維長 51mmである。芯鞘繊維と単一繊維は、界面活性剤等により親水化されていない。
【0036】
(2)熱圧成形
上記の熱可塑性樹脂繊維のウェブを、熱風コンベア炉式にて熱圧成形し、厚さ6mm、表1に記載の密度の繊維成形体を得た。得られた繊維成形体を切断加工して、直径20mm、厚さ6mmの繊維成形体を得た。
【0037】
(3)親水化処理
・実施例1-4,6,7,10,11
親水化された熱可塑性樹脂繊維を用いた。表1の「親水処理」の欄に「繊維」と表す。
・実施例5,8,9,12及び比較例2
未処理の繊維成形体をアセチレングリコールのエチレンオキシド付加体の水溶液(0.5質量%)に、24時間浸漬し、乾燥した。表1の「親水処理」の欄に「成形体」と表す。
・比較例1
親水化処理を行わなかった。表1の「親水処理」の欄に「なし」と表す。
【0038】
【表1】
【0039】
2.評価
(1)密度(見掛け密度)
各サンプルの密度(見掛け密度、kg/m)を測定した。
(2)吸水性
実施形態に記載の方法で、吸水時間(秒)、吸水量(吸水後質量-吸水前質量、g)、吸水率(%)を測定した。
(3)50%圧縮応力
実施形態に記載の方法で、50%圧縮応力(MPa)を測定した。
(4)毛羽立ちの有無
サンプルを目視にて観察して、毛羽立ちの有無を判定した。毛羽立ちが観察される場合を「有」とし、毛羽立ちが観察されない場合を「無」とした。
(5)耐薬品性
サンプルを70%エタノールに24時間浸漬し、目視にて膨潤の有無を観察した。膨潤が観察される場合を「膨潤あり」とし、膨潤が観察されない場合を「膨潤なし」とした。
【0040】
3.結果
評価結果を表1に示す。
以下、実施例及び比較例について検討する。
実施例1-11は、下記要件(a)-(e)を全て満たしている。これに対して、比較例1は、要件(e)を満たしていない。比較例2は、要件(c)を満たしていない。比較例3は、要件(c)、(d)を満たしていない。
要件(a):熱可塑性樹脂繊維を熱圧成形してなる繊維成形体である。
要件(b):熱可塑性樹脂繊維として、芯部と、芯部よりも融点が低い鞘部と、を有する芯鞘構造の繊維が含まれる。
要件(c):芯鞘構造の繊維の含有量は、熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、60質量%以上である。
要件(d):鞘部は、ポリオレフィン系樹脂を含有している。
要件(e):熱可塑性樹脂繊維の表面における少なくとも一部は、界面活性剤によって親水化されている、
【0041】
実施例1-11は、毛羽立ちが観察されず、十分な吸水性を有していた。また、実施例1-11は、アルコールに浸漬した場合に膨潤がなく、耐薬品性を有していた。
比較例1は、吸水せず、吸水性が不十分であった。比較例2は、毛羽立ちが観察された。比較例3は、毛羽立ちが観察された。また、比較例3は、アルコールに浸漬した場合に膨潤があり、耐薬品性が悪かった。
よって、要件(a)-(e)を満たすことで、毛羽立ちの発生を抑制し、吸液性を向上できることが示唆された。さらに、要件(a)-(e)を満たすことで、耐薬品性を向上できることが示唆された。
【0042】
次に、実施例1-11を比較検討する。実施例1-9は、要件(a)-(e)に加えて要件(f)も満たしている。実施例10は、密度が40kg/m未満である。実施例1-9は、実施例10に比して、50%圧縮応力(MPa)が高く、十分な剛性を有していた。実施例11は、密度が210kg/mより大きい。実施例1-9は、実施例11に比して、吸水率が高く、また、適度な剛性を有していた。よって、要件(d)を満たすことで、適度な剛性とすることができ、吸水性を向上できることが示唆された。
要件(f):繊維成形体の密度は、40kg/m以上210kg/m以下である。
【0043】
4.実施例の効果
実施例1-11の繊維成形体は、毛羽立ちの発生が少なく、吸液性に優れていた。
【0044】
本開示は上記で詳述した実施例に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。
図1