(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044525
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】障害物検知装置
(51)【国際特許分類】
B66F 9/24 20060101AFI20240326BHJP
B66F 11/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B66F9/24 H
B66F11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150092
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】503171913
【氏名又は名称】サコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽根田 健
(72)【発明者】
【氏名】市川 達也
(72)【発明者】
【氏名】千野 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】寺内 伸
(72)【発明者】
【氏名】村田 理
(72)【発明者】
【氏名】大堀 強
【テーマコード(参考)】
3F333
【Fターム(参考)】
3F333AA08
3F333AB03
3F333AC02
3F333AC07
3F333FA11
3F333FA36
3F333FD15
3F333FE04
3F333FE05
(57)【要約】
【課題】 本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、容易に高所作業を実施することができ、しかも従来技術に比して広い範囲で障害物を検知することができる障害物検知装置を提供することである。
【解決手段】 本願発明の障害物検知装置は、上昇中の高所作業車等の昇降バケットの上部の障害物を検知する装置であって、レーザ測距手段と座標算出手段、出力制御手段、出力手段を備えたものである。このうちレーザ測距手段は、略鉛直面内に放射状にレーザを照射することによって計測対象物までの距離を計測する手段である。なお出力制御手段は、水平離隔があらかじめ定めた水平範囲にあって、しかも鉛直離隔があらかじめ定めた接近鉛直範囲にあるときに、出力手段に接近警報を出力させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上昇中の昇降バケットの上部の障害物を検知する装置であって、
鉛直面又は略鉛直面内に放射状にレーザを照射することによって、計測対象物までの距離を計測するレーザ測距手段と、
前記計測対象物までの距離と、レーザの照射方向と、に基づいて、前記レーザ測距手段から該計測対象物までの水平距離である水平離隔と鉛直距離である鉛直離隔と、を算出する座標算出手段と、
前記座標算出手段による算出結果に応じて、前記障害物が接近したことを知らせる接近警報を出力させる出力制御手段と、
前記出力制御手段の制御に応じて、前記接近警報を出力する出力手段と、を備え、
前記出力制御手段は、前記水平離隔があらかじめ定めた水平範囲にあり、かつ前記鉛直離隔があらかじめ定めた接近鉛直範囲にあるとき、前記出力手段に前記接近警報を出力させ、
前記水平範囲は、前記レーザ測距手段からの下限水平距離と上限水平距離によって設定され、前記接近鉛直範囲は、該レーザ測距手段からの下限鉛直距離と上限鉛直距離によって設定される、
ことを特徴とする障害物検知装置。
【請求項2】
前記レーザ測距手段は、前記昇降バケットが具備する手摺に設置されるとともに、該手摺を含む鉛直面又は略鉛直面内にレーザを照射し、
前記出力制御手段は、前記水平離隔が前記水平範囲にあり、かつ前記鉛直離隔があらかじめ定めた危険鉛直範囲にあるとき、前記手摺と前記障害物との間に作業者が挟まれたことを知らせる危険警報を出力させ、
前記出力手段は、前記出力制御手段の制御に応じて、前記危険警報を出力し、
前記危険鉛直範囲は、前記レーザ測距手段からの下限鉛直距離と上限鉛直距離によって設定されるとともに、該危険鉛直範囲に係る上限鉛直距離が前記接近鉛直範囲に係る下限鉛直距離より小さい値で設定される、
ことを特徴とする請求項1記載の障害物検知装置。
【請求項3】
前記出力制御手段は、前記水平離隔が前記水平範囲にあり、かつ前記鉛直離隔があらかじめ定めた前記危険鉛直範囲にある状況が、あらかじめ定めた継続時間閾値を超えて継続したときに前記危険警報を出力させる、
ことを特徴とする請求項2記載の障害物検知装置。
【請求項4】
前記出力制御手段は、前記出力手段による前記接近警報の出力後、あらかじめ定めた経過時間閾値が経過する前に、前記水平離隔が前記水平範囲にありかつ前記鉛直離隔が前記危険鉛直範囲にあるときに前記危険警報を出力させる、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の障害物検知装置。
【請求項5】
繰り返し計測される前記レーザ測距手段の結果に基づいて、前記昇降バケットの上昇を判定する上昇判定手段を、さらに備え、
前記上昇判定手段は、前記レーザ測距手段による繰り返し計測に伴って前記鉛直離隔が減少しているときに、前記昇降バケットの上昇を判定し、
前記出力制御手段は、前記上昇判定手段が前記昇降バケットの上昇を判定しているときに、前記接近警報を出力させる、
ことを特徴とする請求項1記載の障害物検知装置。
【請求項6】
前記上昇判定手段は、前記レーザ測距手段による繰り返し計測に基づいて前記昇降バケットの上昇速度を算出するとともに、該昇降バケットの該上昇速度があらかじめ定めた速度閾値を上回るときに、前記昇降バケットの上昇を判定する、
ことを特徴とする請求項5記載の障害物検知装置。
【請求項7】
前記昇降バケットの床体の一部がスライドすることによって、該昇降バケットの床面が拡張し、
前記床体の一部がスライドする前の通常状態と、該床体の一部がスライドした後の拡張状態と、のいずれかを設定する床面状態設定手段と、をさらに備え、
前記床面状態設定手段によって前記拡張状態が設定されると、前記通常状態に係る上限水平距離よりも大きい値で設定される上限水平距離に基づいて、前記水平範囲が設定される、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の障害物検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、高所作業車や橋梁点検車の昇降バケット内で作業を行う者の安全を図る技術に関するものであり、より具体的には、昇降バケットが上昇する際に不測の障害物から作業者を保護することができる障害物検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
労働安全衛生法では、地上2mメートル以上の高さで行う作業のことを「高所作業」と定義しており、この高所作業を行う際には転落防止をはじめ作業者の安全措置を講じるよう規定している。そして建設現場では頻繁に高所作業が行われ、例えば橋梁の主桁の構築やトンネル掘削における天端付近の作業では高所作業は避けられず、高層ビルの建設にあっては工事中あらゆる場所で高所作業が行われる。また高所作業は、構造物の建設に限らず、供用中の構造物の点検や補修工事、電線の架設、オフィスビルの窓清掃など様々な状況で実施される。
【0003】
中でも比較的高い位置で行われる高所作業や橋梁点検(以下、「高所作業等」という。)は、仮設としての足場を設置することがある。足場を設置すれば、いつでも高所作業等を行うことができ、しかも安全に作業を行うことができる。反面、足場を組むためには相当の労力と時間を要し、また足場をばらすときにも同様の労力と時間が必要となり、足場材料の損料などを併せて考えるとそれなりの予算を確保しなければならない。したがって、ある程度の期間継続して高所作業等が行われるときに足場が採用される傾向にある。
【0004】
他方、一時的あるいはごく短期間で高所作業が行われるケースでは、高所作業車を採用することが多く、また橋梁点検を実施するケースでは、橋梁点検車が利用されることが多い。高所作業車や橋梁点検車など(以下、「高所作業車等」という。)は、昇降バケットに乗った作業者を高い位置まで押し上げる建設機械であり、作業用途や作業環境に応じて多様な機種のものが利用されている。高所作業車等の機種はその着目点によって分類が異なり、例えば動力に着目するとエンジン式やバッテーリー式、バイエナジー式などに分類され、走行に着目するとトラック式や自走式、クローラ式、タイヤ式などに分類される。また昇降機構に着目すると、パンタグラフ構造を利用して昇降するシザース式や、マストに沿って昇降する垂直マスト式、何段かのブームの伸縮によって昇降する直進ブーム式、伸縮に加えブームが屈折したり旋回したりする屈折ブーム式などに分類することができる。
【0005】
ところで、作業者を載せた昇降バケットが上昇する際に、その上方に想定されていない障害物(例えば、構造梁やダクト、ラックなど)が配置されていることもある。もちろん、早めにその障害物を把握することができれば問題ないものの、その存在に気付くことなく昇降バケットの上昇を継続すると、作業者がその障害物にぶつかったり、あるいは作業者が昇降バケットと障害物との間に挟まれたりすることがあり、すなわち労働災害を引き起こすおそれがある。
【0006】
そこで、昇降バケットが上昇する際にその周囲の障害物を検知する種々の技術がこれまでにも提案されている。代表的な対策としては、距離センサ方式と、特許文献1で提案される物理センサ方式を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される物理センサ方式は、昇降バケットの側面にポール状のセンサを取り付け、そのセンサが障害物に接触するとアラートを発するものである。一方、従来の距離センサは、昇降バケットの手摺や操作盤に上向きの距離センサを設置し、その距離センサによって計測された距離が一定以上になるとアラートを発するものである。
【0009】
しかしながら、従来の物理センサ方式と距離センサ方式は、いずれも問題を指摘することができる。物理センサ方式は、設置されたポール状センサが高所作業等の障害になるうえ、ポール状センサが配置されているところでは障害物を検知することができるものの、ポール状センサから外れた位置にある障害物は検知することができないという問題がある。また距離センサ方式も同様に、距離センサが配置されているところでは障害物を検知することができるものの、距離センサから外れた位置にある障害物は検知することができないという問題がある。さらに物理センサ方式、距離センサ方式ともに、作業者が昇降バケットと障害物との間に挟まれたことを通知する機能を備えていないため、救助や治療が遅れてしまうといったおそれすらある。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、容易に高所作業等を実施することができ、しかも従来技術に比して広い範囲で障害物を検知することができる障害物検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、レーザ測距手段を利用するとともに、放射状に照射されたレーザによっていわば面状で障害物を検知する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の障害物検知装置は、上昇中の高所作業車等(高所作業車や橋梁点検車など)の昇降バケットの上部の障害物を検知する装置であって、レーザ測距手段と座標算出手段、出力制御手段、出力手段を備えたものである。このうちレーザ測距手段は、略鉛直面(鉛直面を含む)内に放射状にレーザを照射することによって計測対象物までの距離を計測する手段であり、座標算出手段は、計測対象物までの距離とレーザの照射方向に基づいて水平離隔(レーザ測距手段から計測対象物までの水平距離)と鉛直離隔(レーザ測距手段から計測対象物までの鉛直距離)を算出する手段である。また出力制御手段は、座標算出手段による算出結果に応じて接近警報(障害物が接近したことを知らせる情報)を出力させる手段であり、出力手段は、出力制御手段の制御に応じて接近警報を出力する手段である。なお出力制御手段は、水平離隔があらかじめ定めた水平範囲にあって、しかも鉛直離隔があらかじめ定めた接近鉛直範囲にあるときに、出力手段に接近警報を出力させる。また水平範囲は、レーザ測距手段からの下限水平距離と上限水平距離によって設定され、接近鉛直範囲は、レーザ測距手段からの下限鉛直距離と上限鉛直距離によって設定される。
【0013】
本願発明の障害物検知装置は、昇降バケットが具備する手摺にレーザ測距手段を設置したものとすることもできる。この場合、レーザ測距手段は手摺を含む略鉛直面(鉛直面を含む)内にレーザを照射する。また出力制御手段は、水平離隔が水平範囲にあって、しかも鉛直離隔があらかじめ定めた危険鉛直範囲にあるときに、危険警報(手摺と障害物との間に作業者が挟まれたことを知らせる情報)を出力させ、出力手段は、出力制御手段の制御に応じて危険警報を出力する。なお危険鉛直範囲は、レーザ測距手段からの下限鉛直距離と上限鉛直距離によって設定され、危険鉛直範囲に係る上限鉛直距離は接近鉛直範囲に係る下限鉛直距離より小さい値で設定される。
【0014】
本願発明の障害物検知装置は、所定の状況(水平離隔が水平範囲にあって、しかも鉛直離隔があらかじめ定めた危険鉛直範囲にある状況)があらかじめ定めた継続時間閾値を超えて継続したときに危険警報を出力させるものとすることもできる。
【0015】
本願発明の障害物検知装置は、出力手段によって接近警報が出力された後、あらかじめ定めた経過時間閾値が経過する前に所定の状況(水平離隔が前記水平範囲にあって、しかも鉛直離隔が危険鉛直範囲となる状況)となったときに危険警報を出力させるものとすることもできる。
【0016】
本願発明の障害物検知装置は、上昇判定手段をさらに備えたものとすることもできる。この上昇判定手段は、繰り返し計測されるレーザ測距手段の結果に基づいて昇降バケットの上昇を判定する手段であり、レーザ測距手段による繰り返し計測に伴って鉛直離隔が減少しているときに昇降バケットが上昇していると判定する。この場合、出力制御手段は、上昇判定手段が昇降バケットの上昇を判定しているときに、接近警報を出力させる。
【0017】
本願発明の障害物検知装置は、レーザ測距手段による繰り返し計測に基づいて昇降バケットの上昇速度を算出するものとすることもできる。この場合、上昇判定手段は、昇降バケットの上昇速度があらかじめ定めた速度閾値を上回るときに、昇降バケットが上昇していると判定する。
【0018】
本願発明の障害物検知装置は、昇降バケットの床体の一部がスライドすることによってその床面が拡張するケースでは、床面状態設定手段をさらに備えたものとすることもできる。この床面状態設定手段は、通常状態(床体の一部がスライドする前の状態)と拡張状態(床体の一部がスライドした後の状態)のいずれかを設定することができる手段である。この場合、床面状態設定手段によって拡張状態が設定されると、通常状態に係る上限水平距離よりも大きい値で設定される上限水平距離に基づいて水平範囲が設定される。
【0019】
本願発明の障害物検知装置は、昇降バケットが最上端の手摺よりも低い位置にレーザ測距手段が設置されたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の障害物検知装置には、次のような効果がある。
(1)放射状に照射されたレーザによって面状で障害物を検知することから、従来技術に比して障害物の検知漏れを低減することができる。
(2)従来技術のポール状センサなどとは異なり、比較的コンパクトなレーザ測距手段を設置することから、昇降バケット内での作業を障害なく容易に実施することができる。
(3)上昇判定手段を備えることによって、作業者の頭上にある障害物のみを検知してアラートを発報することができ、すなわちアラートの誤発報を抑制することができる。
(4)接近警報に加え危険警報を出力する仕様にすることによって、万が一に作業者が挟まれた際にもアラートを発報し、迅速に救助や治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】高所作業車の昇降バケットに取り付けられたレーザ測距手段がレーザを照射している状況を模式的に示す斜視図。
【
図2】本願発明の障害物検知装置の主な構成を示すブロック図。
【
図4】レーザ測距手段を基準とした対象物座標を説明するモデル図。
【
図6】出力制御手段が接近状況を判定する際の基本的な処理を示すフロー図。
【
図7】出力制御手段が上昇判定手段を利用して接近状況を判定する処理を示すフロー図。
【
図8】出力制御手段が危険状況を判定する際の基本的な処理を示すフロー図。
【
図9】危険領域内の障害物が継続して検知されたときに出力制御手段が危険状況を判定する処理を示すフロー図。
【
図10】経過時間閾値の経過前に危険領域内の障害物が検知されたときに出力制御手段が危険状況を判定する処理を示すフロー図。
【
図11】接近情報や危険警報、計測結果、対象物座標などが表示された端末機器を模式的に示すモデル図。
【
図12】(a)は床体の一部がスライドしていない状態の昇降バケットを模式的に示す側面図、(b)は床体の一部がスライドした状態の昇降バケットを模式的に示す側面図。
【
図13】本願発明の障害物検知装置を使用して接近警報や危険警報を出力する処理の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の障害物検知装置の例を図に基づいて説明する。
【0023】
1.全体概要
本願発明は、「上方作業用機械」の昇降バケットが上昇する際、その上方に位置する障害物を事前に検知することができるものである。ここで上方作業用機械とは、高所作業車や橋梁点検車のように上昇可能な昇降バケットを有する建設機械であり、移動可能な場合はトラック式やホイール式、クローラ式とすることもできるし、また伸縮ブームや屈折ブーム、混合ブーム、垂直昇降型とすることもできるし、エンジン式やバッテーリー式、バイエナジー式などとすることもでき、従来用いられている種々の形式や種類とすることができる。なお便宜上ここでは、上方作業用機械が高所作業車の例で説明することとする。
図1は、高所作業車HV(上方作業用機械)の昇降バケットBCに取り付けられたレーザ測距手段101が、レーザLSを照射している状況を模式的に示す斜視図である。この図に示すようにレーザ測距手段101は、昇降バケットBCの上方に向かって放射状にレーザLSを照射し、つまり昇降バケットBC上方の略鉛直面(鉛直面を含む)に計測範囲を形成しており、その結果、昇降バケットBCの上方にある障害物をいわば面状に探索している。このように面状に探索することによって、上昇中の昇降バケットBCの上方にある障害物を漏れなく検知することができるわけである。
【0024】
図1の例では、昇降バケットBCを構成する手摺HDのうち上から2段目の水平部材にレーザ測距手段101を取り付けており、そしてこの手摺HDを含む略鉛直面(鉛直面を含む)と同一の(あるいは接近した)略鉛直面にレーザを照射している。この場合、当然ながら手摺HDの上方に位置する障害物を事前に検知することができ、これにより昇降バケットBCに乗った作業者(例えば、腕や手指など)が手摺HDと障害物の間に挟まれることを未然に防ぐこともできる。なおレーザ測距手段101は、昇降バケットBCの上方に照射することができれば、
図1の位置に限らず任意の位置に取り付けることができる。また
図1の例では、シザース式の高所作業車HVを示しているが、これに限らず垂直昇降型の高所作業車HVや、伸縮ブーム式の高所作業車HV、屈折ブーム式の高所作業車HV、混合ブーム式の高所作業車HVなど、種々の高所作業車HVで本願発明を実施することができる。
【0025】
2.障害物検知装置
本願発明の障害物検知装置について詳しく説明する。
図2は、本願発明の障害物検知装置100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の障害物検知装置100は、レーザ測距手段101と座標算出手段102、出力制御手段103、出力手段104を含んで構成され、さらに上昇判定手段105や床面状態設定手段106、制限領域記憶手段107、後述する表示手段などを含んで構成することもできる。
【0026】
障害物検知装置100を構成する主な要素のうち座標算出手段102と出力制御手段103、上昇判定手段105、床面状態設定手段106は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。ディスプレイを具備したコンピュータ装置を利用する場合は、そのディスプレイを出力手段104として利用することもできる。
【0027】
また制限領域記憶手段107は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバーとすることもできる。
【0028】
以下、本願発明の障害物検知装置100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0029】
(レーザ測距手段)
レーザ測距手段101は、計測対象物に対して照射したレーザLSの反射信号を受けて計測する測距手段であり、略鉛直面(鉛直面を含む)内で照射方向を変えながら(つまり、首を振りながら、あるいは回転しながら)照射するものである。このように照射方向を変えながらレーザLSを照射することによって、レーザLSが放射状に照射され、すなわち略鉛直面に計測範囲を形成することができるわけである。なおレーザLSの照射方向(3次元空間における照射角度)は、レーザ測距手段101によって取得される。照射されたレーザLSが計測対象物で反射すると、レーザ測距手段101はその反射信号を受信し、レーザLSの照射時刻と受信時刻から計測対象物までの距離(以下、「計測距離」という。)を求めることができる。
【0030】
図3は、レーザ測距手段101を模式的に示す斜視図である。この図に示すレーザ測距手段101は、ケース内に収められており、ケース上部に設けられたスリットを開口部としてレーザLSが照射されている。また、このケースには出力手段104としての警報ブザーも収容され、さらに座標算出手段102や出力制御手段103、上昇判定手段105、床面状態設定手段106などが構成された小型のコンピュータPCも収容されている。したがって、この図に示すケースを昇降バケットBCなどに取り付けると、レーザ測距手段101が設置されるうえ、出力手段104と座標算出手段102、出力制御手段103、上昇判定手段105、床面状態設定手段106も併せて設置される。
【0031】
既述したとおりレーザ測距手段101は、昇降バケットBCの上方に向かってレーザLSを照射することができれば、任意の位置に取り付けることができる。また、1体のみのレーザ測距手段101を昇降バケットBCなどに取り付けることもできるし、
図1や
図3に示すように2体のレーザ測距手段101を1セットとして取り付けることも、あるいは3体以上のレーザ測距手段101を1セットとして取り付けることもできる。2体のレーザ測距手段101を取り付ける場合、
図1に示すように、対向する手摺HDに取り付けるとよい。これにより、異なる2つの略鉛直面内にそれぞれ計測範囲が形成され、すなわち対向する手摺HDの上方をそれぞれ面状に計測することができる。
【0032】
(座標算出手段)
座標算出手段102は、レーザ測距手段101によって得られる計測結果(計測距離と照射方向)から、計測対象物の位置、すなわちレーザ測距手段101(特に照射点)を基準とした相対的な座標(以下、「対象物座標」という。)を算出する手段である。
図4に示すように対象物座標は、レーザ測距手段101(照射点)から計測対象物OJまでの水平距離(以下、「水平離隔DH」という。)と、レーザ測距手段101から計測対象物OJまでの鉛直距離(以下、「鉛直離隔DV」という。)によって規定することができる。この水平離隔DHは、計測距離DS(照射点から計測対象物OJまでの距離)の余弦長として求められ、また鉛直離隔DVは、計測距離DSの正弦長として求められる。放射状に照射されるレーザLSは鉛直面を形成し、故に計測された計測対象物OJはその鉛直面内に位置するはずである。したがって対象物座標は、レーザLSによる鉛直面上の2次元座標(水平離隔DH,鉛直離隔DV)として規定することができるわけである。
【0033】
(出力制御手段)
出力制御手段103は、座標算出手段102によって得られる対象物座標に基づいて、上昇中の作業者にとって計測対象物OJが障害物に該当するか否か、つまり障害物が作業者に接近している状況(以下、「接近状況」という。)を判定する手段である。そして接近状況として判定した場合、出力制御手段103は障害物が接近したことを知らせる情報(以下、「接近警報」という。)を出力手段104が出力するように制御する。また出力制御手段103は、手摺HDと障害物との間に作業者が挟まれた状況(以下、「危険状況」という。)を判定するとともに、危険状況として判定した場合、手摺HDと障害物との間に作業者が挟まれたことを知らせる情報(以下、「危険警報」という。)を出力手段104が出力するように制御することもできる。
【0034】
出力制御手段103は、計測対象物OJ(対象物座標)が「接近領域」にあるときに接近状況として判定し、また計測対象物OJ(対象物座標)が「危険領域」にあるときに危険状況として判定する。
図5は、接近領域と危険領域を説明するモデル図である。なおこの図では、レーザ測距手段101(照射点)を原点とし、横軸方向は左側が正となるように、縦軸方向は上側が正となるように2次元(鉛直面上)の座標系を設定している。この図に示すように接近領域は、水平範囲WHと接近鉛直範囲WV1によって設定される。そして、水平範囲WHはレーザ測距手段101(照射点)からの下限水平距離HLと上限水平距離HUによって設定され、接近鉛直範囲WV1は、レーザ測距手段101(照射点)からの接近下限鉛直距離VL1と接近上限鉛直距離VU1によって設定される。
図5では、下限水平距離HLが負の値となる例を示しているが、もちろん0以上の値で下限水平距離HLを設定してもよい。
【0035】
一方の危険領域は、水平範囲WHと危険鉛直範囲WV2によって設定される。そして、危険鉛直範囲WV2は、レーザ測距手段101(照射点)からの危険下限鉛直距離VL2と危険上限鉛直距離VU2によって設定される。なお、下限水平距離HLと上限水平距離HU(つまり、水平範囲WH)、接近下限鉛直距離VL1と接近上限鉛直距離VU1(つまり、接近鉛直範囲WV1)、危険下限鉛直距離VL2と危険上限鉛直距離VU2(つまり、危険鉛直範囲WV2)は、それぞれあらかじめ設定しておくとよい。ただし
図5に示すように、危険上限鉛直距離VU2は接近下限鉛直距離VL1よりも小さい値(つまり、低い位置)で設定される。事前に設定された水平範囲WHと接近鉛直範囲WV1、危険鉛直範囲WV2は、制限領域記憶手段107に記憶される(
図2)。
【0036】
以下、
図6を参照しながら、出力制御手段103が接近状況として判定する主な手順について説明する。
図6は、出力制御手段103が接近状況を判定する際の基本的な処理を示すフロー図である。この図に示すように、座標算出手段102によって対象物座標が求められると(
図6のStep201)、出力制御手段103が水平離隔DHと水平範囲WHを照らし合わせる(
図6のStep211)。そして、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれているとき(
図6のStep211のYes)は後続の処理(
図6のStep212)に進み、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれていないとき(
図6のStep211のNo)は作業者(昇降バケットBC)の上方に障害物OBがない状況(常態)であると判定する(
図6のStep214)。
【0037】
水平離隔DHが水平範囲WHに含まれると判定されると、出力制御手段103は鉛直離隔DVと接近鉛直範囲WV1を照らし合わせる(
図6のStep212)。そして、鉛直離隔DVが接近鉛直範囲WV1に含まれているとき(
図6のStep212のYes)は接近状況として判定し(
図6のStep213)、鉛直離隔DVが接近鉛直範囲WV1に含まれていないとき(
図6のStep212のNo)は常態であると判定する(
図6のStep214)。接近状況として判定した場合、出力制御手段103は、出力手段104が接近警報を出力するように制御する(
図6のStep215)。なお出力手段104は、音を出力するブザーやスピーカーを利用することもできるし、回転灯(パトランプ)や表示板、振動装置など、人が感知することができる情報を出力する種々の機器を利用することができる。さらに接近状況として判定した場合、接近警報の出力に加え、高所作業車HVによる昇降バケットBCの上昇を停止するように出力制御手段103が制御する仕様とすることもできる。
【0038】
図6に示す手順では、昇降バケットBCが降下している、あるいは停止しているときであっても、出力手段104が接近警報を出力するケースがあり、このようなケースにおける接近警報は誤報となることが多い。そこで、昇降バケットBCが上昇しているときに限って、出力制御手段103が接近状況として判定する、つまり出力手段104が接近警報を出力する仕様とすることもできる。この場合、昇降バケットBCが上昇していることを判定する上昇判定手段105が利用される。
【0039】
レーザ測距手段101は、極めて短い時間間隔でレーザLSを照射し、すなわち計測距離DSが繰り返し取得される。そして時間とともに計測距離DSが漸減しているときは、昇降バケットBCが上昇していると考えられる。したがって上昇判定手段105は、レーザ測距手段101によって繰り返し計測された計測距離DSを取得し、その計測距離DSが漸減しているときに昇降バケットBCが上昇していると判定する仕様とすることができる。また上昇判定手段105は、レーザ測距手段101によって取得された計測距離DSと、その計測距離DSに係る計測時刻を取得することによって、昇降バケットBCの上昇速度を求めることもできる。その上方に障害物OBがあるときの昇降バケットBCの上昇速度は、昇降バケットBCに乗った作業者が障害物OBに接近する速度であり、換言すれば障害物OBが作業者に接近する速度である。
【0040】
図7は、出力制御手段103が上昇判定手段105を利用して接近状況を判定する処理を示すフロー図である。この図に示すように、昇降バケットBCの上昇時に接近状況の判定を行うケースでは、座標算出手段102が対象物座標を求める(
図7のStep201)とともに、上昇判定手段105が昇降バケットBCの上昇速度を求める(
図7のStep216)。次いで、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれ(
図7のStep211のYes)、しかも鉛直離隔DVが接近鉛直範囲WV1に含まれているとき(
図7のStep212のYes)は、上昇判定手段105が繰り返し取得される計測距離DSの状況を評価する(
図7のStep217)。そして、計測距離DSが漸減しているとき(
図7のStep217のYes)は後続の処理(
図7のStep218)に進み、計測距離DSが漸減していないとき(
図7のStep217のNo)は常態であると判定する(
図7のStep214)。
【0041】
計測距離DSが漸減していると判定されると、上昇判定手段105は昇降バケットBCの上昇速度とあらかじめ定めた閾値(以下、「速度閾値」という。)を照らし合わせる(
図7のStep218)。そして、昇降バケットBCの上昇速度が速度閾値を上回る(あるいは、以上となる)とき(
図7のStep218のYes)は昇降バケットBCが上昇していると判定し、出力制御手段103が接近状況として判定(
図6のStep213)する。一方、昇降バケットBCの上昇速度が速度閾値を下回る(あるいは、以下となる)とき(
図7のStep218のNo)は昇降バケットBCが上昇してないと判定し、出力制御手段103が常態であると判定する(
図7のStep214)。なお、昇降バケットBCの上昇速度が速度閾値を照らし合わせることなく、すなわち計測距離DSが漸減していることをもって昇降バケットBCが上昇していると判定し、そのまま出力制御手段103が接近状況として判定(
図6のStep213)する仕様とすることもできる。この場合、昇降バケットBCの上昇速度の算出処理(
図7のStep216)や、昇降バケットBCの上昇速度と速度閾値の照合処理(
図7のStep218)は省略することもできる。
【0042】
続いて、
図8を参照しながら、出力制御手段103が危険状況として判定する主な手順について説明する。
図8は、出力制御手段103が危険状況を判定する際の基本的な処理を示すフロー図である。この図に示すように、座標算出手段102によって対象物座標が求められると(
図8のStep201)、出力制御手段103が水平離隔DHと水平範囲WHを照らし合わせる(
図8のStep221)。そして、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれているとき(
図8のStep221のYes)は後続の処理(
図8のStep222)に進み、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれていないとき(
図8のStep221のNo)は常態であると判定する(
図8のStep224)。
【0043】
水平離隔DHが水平範囲WHに含まれると判定されると、出力制御手段103は鉛直離隔DVと危険鉛直範囲WV2を照らし合わせる(
図8のStep222)。そして、鉛直離隔DVが危険鉛直範囲WV2に含まれているとき(
図8のStep222のYes)は危険状況として判定し(
図8のStep223)、鉛直離隔DVが危険鉛直範囲WV2に含まれていないとき(
図8のStep222のNo)は常態であると判定する(
図8のStep224)。危険状況として判定した場合、出力制御手段103は、出力手段104が危険警報を出力するように制御する(
図8のStep225)。なお出力手段104は、接近警報の出力と同様、音を出力するブザーやスピーカーを利用することもできるし、回転灯(パトランプ)や表示板、振動装置など、人が感知することができる情報を出力する種々の機器を利用することができる。また出力手段104は、接近警報と危険警報のブザーの音量を変えて出力したり、接近警報を回転灯で出力し危険警報をブザーで出力したりするなど、接近警報と危険警報が区別できるようにそれぞれ異なる種類の情報で出力することもできる。さらに危険状況として判定した場合、危険警報の出力に加え、高所作業車HVによる昇降バケットBCの上昇を停止するように出力制御手段103が制御する仕様とすることもできる。
【0044】
図8に示す手順では、危険領域内の障害物OBが極めて短時間だけ検知されるときであっても、出力手段104が危険警報を出力するケースがあり、このようなケースにおける危険警報は誤報となることが多い。そこで、危険領域内の障害物OBが一定程度だけ継続して検知されるときに限って、出力制御手段103が危険状況として判定する、つまり出力手段104が危険警報を出力する仕様とすることもできる。
【0045】
図9は、危険領域内の障害物OBが継続して検知されたときに出力制御手段103が危険状況を判定する処理を示すフロー図である。この図に示すように、障害物OBの継続検知を考慮するケースでは、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれ(
図9のStep221のYes)、しかも鉛直離隔DVが危険鉛直範囲WV2に含まれているとき(
図9のStep222のYes)、出力制御手段103がひとまず暫定的に危険状況であると判定する。そして、その暫定的な危険状況があらかじめ定めた閾値(以下、「継続時間閾値」という。)を超えて(あるいは、継続時間閾値以上)継続すると(
図9のStep226のYes)、出力制御手段103が最終的に危険状況であると判定する。一方、暫定的な危険状況が継続時間閾値を超えない(あるいは、以下となる)とき(
図9のStep226のNo)は、出力制御手段103が常態であると判定する(
図9のStep224)。
【0046】
ここまで説明したように、接近警報の出力に関わらず、換言すれば接近状況の判定とは独立して、危険状況を判定し、危険警報を出力する仕様とすることができる。他方、手摺HDと障害物OBとの間に作業者が挟まれた危険状況は、多くの場合、接近領域内の障害物OBが検知された後に発生する。そこで、接近警報の出力後、一定期間(以下、「経過時間閾値」という。)が経過する前に諸条件が満たされたときに限って、出力制御手段103が危険状況として判定する、つまり出力手段104が危険警報を出力する仕様とすることもできる。
【0047】
図10は 経過時間閾値の経過前に危険領域内の障害物OBが検知されたときに出力制御手段103が危険状況を判定する処理を示すフロー図である。この図に示すように、接近警報出力後の経過時間を考慮するケースでは、接近警報が出力された(
図10のStep215)後、水平離隔DHが水平範囲WHに含まれ(
図10のStep221のYes)、しかも鉛直離隔DVが危険鉛直範囲WV2に含まれているとき(
図10のStep222のYes)、出力制御手段103がひとまず暫定的に危険状況であると判定する。そして、その暫定的な危険状況の判定が接近警報の出力後の経過時間閾値を経過する前であるとき(
図10のStep227のYes)、出力制御手段103が最終的に危険状況であると判定する。一方、暫定的な危険状況の判定が接近警報の出力後の経過時間閾値を経過しているとき(
図10のStep227のNo)は、出力制御手段103が常態であると判定する(
図10のStep224)。
【0048】
障害物検知装置100は、出力手段104とは異なる態様で情報を出力する端末機器TEを備えたものとすることもできる。この端末機器TEは、接近情報や危険警報のほか、レーザ測距手段101によって得られる計測結果、座標算出手段102によって得られる対象物座標などを視覚情報として表示する手段であり、例えば
図11に示すようにタブレット型PCなどを端末機器TEとして利用することができる。もちろん、タブレット型PCに限らず、スマートフォンやパーソナルコンピュータ、あるいはモニターやディスプレイと称される表示装置などを、端末機器TEとして利用することもできる。この場合、座標算出手段102や出力制御手段103、上昇判定手段105、床面状態設定手段106などが構成されたコンピュータPCと、端末機器TEとの間で通信可能な構成とし、コンピュータPCが取得した(あるいは、計算した)情報を端末機器TEでも表示可能にするとよい。これにより、地上で待機している作業者が端末機器TEを通じて昇降バケットBCの状況を把握することが可能となり、さらに管理事務所や監督員詰め所といった現地から離れた場所でも昇降バケットBCの状況を把握することができる。
【0049】
(床面状態設定手段)
図12に示すように高所作業車HVによっては、昇降バケットBCの床体FLの一部がスライド(図では左方向へスライド)することによってその床面が拡張するものもある。
図12は、床体FLの一部がスライドする昇降バケットBCを模式的に示す側面図であり、(a)は床体FLの一部がスライドしていない状態(以下、「通常状態」という。)を示し、(b)は床体FLの一部がスライドした状態(以下、「拡張状態」という。)を示している。
【0050】
床体FLの一部がスライドする高所作業車HVを利用する場合、通常状態と拡張状態では水平範囲WHを変えることが望ましく、すなわち通常状態と拡張状態では接近領域や危険領域を異なる領域として設定することが望ましい。つまり、通常状態の水平範囲WHと、拡張状態の水平範囲WHをそれぞれ別の領域として設定するとよい。より具体的には、下限水平距離HLに関しては通常状態と拡張状態で共通した値とするものの、上限水平距離HUに関しては通常状態と拡張状態でそれぞれ異なる値として設定し、これにより通常状態の水平範囲WHと拡張状態の水平範囲WHを別に設定する。ただし、拡張状態の上限水平距離HUは、通常状態の上限水平距離HUよりも大きな(長い)値で設定される。事前に設定された通常状態の水平範囲WH(通常状態の上限水平距離HU)と拡張状態の水平範囲WH(拡張状態の上限水平距離HU)は、それぞれ制限領域記憶手段107に記憶される(
図2)。
【0051】
床面状態設定手段106は、昇降バケットBCの状態(通常状態/拡張状態)を受け付けるとともに、その状態を出力制御手段103に伝達する手段である。例えば床面状態設定手段106は、オペレータの操作によって昇降バケットBCの状態を受け付ける仕様とすることができる。つまり、昇降バケットBCの状態を目視したオペレータが通常状態と拡張状態のいずれかを判断し、その判断結果を床面状態設定手段106に入力するわけである。あるいは、床体FLの一部がスライドしたことを検知するセンサを利用することもできる。この場合、センサが検知した信号を伝達すると床面状態設定手段106が拡張状態として判定し、センサの信号が伝達されていないときは床面状態設定手段106が通常状態として判定する仕様とすることができる。
【0052】
障害物検知装置100が床面状態設定手段106を備える場合、出力制御手段103は次の手順で判定処理を実行する。すなわち、床面状態設定手段106から昇降バケットBCが通常状態であることを伝達されたとき、出力制御手段103は、制限領域記憶手段107から通常状態の水平範囲WHを読み出したうえで、水平離隔DHと水平範囲WHを照らし合わせる。一方、床面状態設定手段106から昇降バケットBCが拡張状態であることを伝達されたとき、出力制御手段103は、制限領域記憶手段107から拡張状態の水平範囲WHを読み出したうえで、水平離隔DHと水平範囲WHを照らし合わせる。
【0053】
(使用例)
図13を参照しながら、本願発明の障害物検知装置100を使用する例について説明する。
図13は、本願発明の障害物検知装置100を使用して接近警報や危険警報を出力する主な処理の流れを示すフロー図である。なおこの図では、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な情報等を、右列にはその処理から生ずる情報等を示している。
【0054】
接近警報や危険警報を出力するにあたっては、
図13に示すようにまずレーザ測距手段101による計測を開始する(
図13のStep301)。これに伴ってレーザ測距手段101は極めて短い時間間隔でレーザLSの照射を続け、すなわち計測距離DSが繰り返し取得されていく。計測距離DSが取得されると、その都度(あるいは、適宜間引きながら)、座標算出手段102が対象物座標(水平離隔DH,鉛直離隔DV)を算出する(
図13のStep302)。
【0055】
一方、上昇判定手段105は、昇降バケットBCの上昇速度を求める(
図13のStep303)とともに、昇降バケットBCが上昇しているか否かを判定する(
図13のStep304)。具体的には、計測距離DSが漸減している状況にあって、しかも昇降バケットBCの上昇速度か速度閾値を上回るときに昇降バケットBCが上昇していると判定する。
【0056】
上昇判定手段105によって昇降バケットBCの上昇が判定されると、出力制御手段103が接近状況の判定処理を実行する(
図13のStep305)。具体的には、計測対象物OJ(対象物座標)が接近領域にあるときに接近状況として判定し、計測対象物OJが接近領域にないときは常態(昇降バケットBCの上方に障害物OBがない状況)として判定する。そして、出力制御手段103によって接近状況が判定されると、出力手段104によって接近警報が出力される(
図13のStep306)。
【0057】
出力制御手段103によって接近状況の判定処理が行われると、出力制御手段103が危険状況の判定処理を実行する(
図13のStep307)。具体的には、計測対象物OJ(対象物座標)が危険領域にあるときに危険状況として判定し、計測対象物OJが危険領域にないときは常態として判定する。そして、出力制御手段103によって危険状況が判定されると、出力手段104によって危険警報が出力される(
図13のStep308)。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願発明の障害物検知装置は、橋梁の主桁の構築やトンネル掘削における天端付近の作業、高層ビルの建設のほか、供用中の構造物の点検や補修工事、電線の架設、オフィスビルの窓清掃など様々な高所作業で好適に利用することができる。本願発明によれば安全に高所作業を行うことができ、換言すれば労働災害の軽減に寄与することを考えると、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0059】
100 本願発明の障害物検知装置
101 (障害物検知装置の)レーザ測距手段
102 (障害物検知装置の)座標算出手段
103 (障害物検知装置の)出力制御手段
104 (障害物検知装置の)出力手段
105 (障害物検知装置の)上昇判定手段
106 (障害物検知装置の)床面状態設定手段
107 (障害物検知装置の)制限領域記憶手段
BC (高所作業車の)昇降バケット
FL (昇降バケットの)床体
HD (昇降バケットの)手摺
HV 高所作業車
LS レーザ
OB 障害物
OJ 計測対象物
PC (障害物検知装置の)コンピュータ
TE (障害物検知装置の)端末機器