(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044536
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】液化ガスタンク
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240326BHJP
F17C 13/12 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F17C13/00 302Z
F17C13/12 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150115
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】池崎 明博
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB15
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172EB03
3E172EB10
3E172KA02
3E172KA03
(57)【要約】
【課題】ポンプバレルにヘッドプレートを取り付けた状態のままポンプを吊り上げられるようにする。
【解決手段】液化ガスタンク1は、液化ガスを貯留するタンク本体10と、液化ガスを払い出すためにタンク本体10内に配置されたポンプ3と、ポンプ3を収容するとともに当該ポンプ3の収容位置から上方に延びてタンク本体10の外側へと至る筒状のポンプバレル2と、ポンプバレル2の上端開口を閉鎖するヘッドプレート25と、ヘッドプレート25を貫通しかつ下端がポンプ3に接続されたワイヤ4と、ヘッドプレート25に着脱可能に取り付けられ、ヘッドプレート25よりも上方に位置するワイヤ余剰部4aを収容するワイヤ収容器7とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留するタンク本体と、
前記液化ガスを払い出すために前記タンク本体内に配置されたポンプと、
前記ポンプを収容するとともに当該ポンプの収容位置から上方に延びて前記タンク本体の外側へと至る筒状のポンプバレルと、
前記ポンプバレルの上端開口を閉鎖する着脱可能なヘッドプレートと、
前記ヘッドプレートを貫通しかつ下端が前記ポンプに接続されたワイヤとを備えた、液化ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ヘッドプレートに取り付けられ、前記ワイヤのうち前記ヘッドプレートよりも上方に位置する部分であるワイヤ余剰部を収容するワイヤ収容器をさらに備えた、液化ガスタンク。
【請求項3】
請求項2に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ポンプバレルと前記ワイヤ収容器とを連通する連通部に、前記ワイヤの外周に密着するシール部材が設けられた、液化ガスタンク。
【請求項4】
請求項3に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ヘッドプレートと前記ワイヤ収容器とを連結する継手をさらに備え、
前記継手の内部における前記ワイヤの貫通部に前記シール部材が設けられた、液化ガスタンク。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ワイヤ収容器内のガスを不活性ガスに置換可能なガス置換装置をさらに備えた、液化ガスタンク。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ポンプバレルの上下方向の途中に配置された開閉弁と、
前記ポンプバレルにおける前記開閉弁よりも上方の部分である上部室に適用され、当該上部室内のガスを前記液化ガスに対応するガスと不活性ガスとの間で切り替え可能なバレル用ガス置換装置とをさらに備えた、液化ガスタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化ガスを貯留する液化ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
液化水素や液化天然ガスなどの液化ガスを貯留する液化ガスタンクには、タンク内の液化ガスを払い出すためのポンプが設けられる。タンク屋根を通じて液化ガスの払い出しを行う場合、ポンプはタンク内に配置され、タンク屋根を貫通する筒状のポンプバレルを通して液化ガスが外部に送り出される。
【0003】
ここで、例えば下記特許文献1に示されるように、タンク内のポンプをメンテナンス等のためにタンクから搬出する作業が行われる場合がある。具体的に、特許文献1では、ポンプバレルの下端部にあるポンプが、ポンプバレルの上端を閉鎖するヘッドプレートとワイヤを介して連結されており、ポンプを搬出する際には、まずクレーンを用いてヘッドプレートが吊り上げられる。これにより、ヘッドプレートと一緒にポンプを吊り上げて、当該ポンプをポンプバレルの上部へと移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、特許文献1では、ポンプとヘッドプレートとが一緒に吊り上げられるため、ポンプバレルからヘッドプレートを取り外した上でなければ吊り上げ作業を行うことができない。ただし、液化ガスタンクの運用中、ポンプバレルの内部には、貯留されている液化ガスに対応するガス(例えば水素ガスや天然ガス)が存在している。そこで、このような液化ガスに対応するガスが外部に飛散するのを防止するべく、特許文献1では、ヘッドプレートの取り外し前に、ポンプバレル内に窒素ガスを充填する作業が行われる。具体的に、特許文献1では、ポンプバレルの上部に接続された窒素ガス供給管に加圧窒素ガスが供給されることにより、ポンプバレル内のガス又は液体が全体的に窒素ガスに置換される。
【0006】
しかしながら、前記のようにポンプバレル内を全体的にガス置換するには、相応の時間が必要である。言い換えると、ヘッドプレートを取り外した上でないとポンプを吊り上げることができない特許文献1では、当該吊り上げ前の準備に時間がかかるという問題があった。
【0007】
本開示は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、ポンプバレルにヘッドプレートを取り付けた状態のままポンプを吊り上げることが可能な液化ガスタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためのものとして、本開示の一局面に係る液化ガスタンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記液化ガスを払い出すために前記タンク本体内に配置されたポンプと、前記ポンプを収容するとともに当該ポンプの収容位置から上方に延びて前記タンク本体の外側へと至る筒状のポンプバレルと、前記ポンプバレルの上端開口を閉鎖するヘッドプレートと、前記ヘッドプレートを貫通しかつ下端が前記ポンプに接続されたワイヤと、前記ヘッドプレートに着脱可能に取り付けられ、前記ワイヤのうち前記ヘッドプレートよりも上方に位置する部分であるワイヤ余剰部を収容するワイヤ収容器とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の液化ガスタンクによれば、ポンプバレルにヘッドプレートを取り付けた状態のままポンプを吊り上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る液化ガスタンクの構造を示す概略図である。
【
図2】ポンプバレルの上部を拡大して示す断面図である。
【
図3】タンク本体からポンプを搬出する作業の第1段階を説明する説明図である。
【
図4】タンク本体からポンプを搬出する作業の第2段階を説明する説明図である。
【
図5】前記実施形態の変形例を説明するための
図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本開示の実施形態に係る液化ガスタンクを詳細に説明する。本開示の液化ガスタンクは、低温の液化ガスを貯留するタンクである。貯留される液化ガスは、例えば液化水素、液体ヘリウム、液体窒素、液化アンモニア、液化天然ガス又は液化石油ガス等である。とりわけ、本開示に係る液化ガスタンクは、液化水素を貯留するタンクとして好適である。
【0012】
[タンクの構造]
図1は、本開示の一実施形態に係る液化ガスタンク1の構造を示す概略図である。液化ガスタンク1は、極低温の液化水素LHを貯留するタンクであって、地上据え置き式の多重殻構造を備えた平底タンクである。液化ガスタンク1は、タンク本体10と、ポンプバレル2と、ポンプ3と、ワイヤ4と、開閉弁5と、ガス置換装置6と、ワイヤ収容器7とを備える。タンク本体10は、液化水素LHを貯留するドーム型の容器である。ポンプ3は、液化水素LHに浸漬された状態でタンク本体10内に配置される潜没式のポンプである。ポンプバレル2は、ポンプ3によってタンク本体10から払い出される液化水素LHが流通する上下方向に延びる筒状体である。ワイヤ4は、ポンプ3を吊り上げるためにポンプ3に接続されたワイヤである。開閉弁5は、ポンプバレル2の途中に開閉可能に設けられたバルブである。ガス置換装置6は、ポンプバレル2における開閉弁5の上方空間(後述する上部室22)内のガスを置換する装置である。ワイヤ収容器7は、ポンプバレル2の上側においてワイヤ4の一部を収容する容器である。
【0013】
タンク本体10は、液化水素LHを貯留するための空間を内部に画成する密閉体である。
図1ではタンク本体10を簡略化して単殻構造のように表現しているが、実際のタンク本体10は、二重殻構造又は三重殻構造などの多重殻構造を備えている。二重殻構造の場合、タンク本体10は、基礎の上に立設される外槽と、この外槽に内包される内槽とで構成される。液化水素LHは、前記内槽の内部に貯留される。前記外槽と前記内槽との間には断熱空間としての保冷層が形成され、当該保冷層には、例えば粒状パーライトのような粉体断熱材と低沸点ガスとが充填される。三重殻構造の場合、タンク本体10は、前記外槽と前記内槽との間にさらに中間槽を備える構造となる。
【0014】
ポンプバレル2は、タンク本体10の内外を連通するようにタンク屋根11を貫通している。すなわち、ポンプバレル2は、タンク本体10の内部における底面近傍の高さからタンク屋根11の上方の高さまでに亘って、タンク屋根11を貫通しつつ上下方向(鉛直方向)に延びるように形成されている。ポンプバレル2は、タンク本体10内の液化水素LHを外部へ払い出すための導出管として機能する。
【0015】
ポンプバレル2は、開閉弁5の下側に位置する下部室21と、開閉弁5の上側に位置する上部室22とを備える。言い換えると、ポンプバレル2は、その上下方向の途中に取り付けられた開閉弁5によって、下部室21と上部室22とに区分されている。
【0016】
下部室21は、上下方向にストレート状に延びる円筒体であり、タンク本体10の内部におけるポンプ3に対応する位置から上方に延びてタンク本体10の外側(タンク屋根11の上方)へと至るように形成されている。下部室21は、ポンプ3を収容する下端部21aと、タンク屋根11の上方に突出する上端部21bとを有する。上端部21bには、払い出しポート24が突設されている。払い出しポート24は、ポンプ3の稼働時に払い出される液化水素LHを外部に排出するためのポートである。
【0017】
上部室22は、下部室21の上端部21bに開閉弁5を介して接続されている。上部室22は、下部室21と同軸に延びるストレート状の円筒体である。
【0018】
上部室22の上端には、ヘッドプレート25が取り付けられている。すなわち、ヘッドプレート25は、上部室22の上面の開口、換言すればポンプバレル2の上端開口を開閉可能に塞ぐプレートであり、上部室22(ポンプバレル2)の天井を構成する部材である。
【0019】
図2は、ヘッドプレート25を含むバレル上部の構造を拡大して示す断面図である。本図に示すように、ヘッドプレート25は、ポンプバレル2の上部室22にボルト等の締結部材B1を介して着脱可能に結合されている。すなわち、径方向外側に張り出すフランジ22aが上部室22の上端に形成されるとともに、当該フランジ22aにヘッドプレート25が締結部材B1を用いて締結されることにより、ヘッドプレート25が上部室22に着脱可能に結合されている。
【0020】
図1に示すように、ポンプ3は、ポンプバレル2(下部室21)の下端部21aに収容されかつ液化水素LHに浸漬された状態でタンク本体10内に配置されている。ポンプバレル2の下端部21aには、その下面開口である取込み口Sを開閉するためのフート弁9が取り付けられている。フート弁9の上にはポンプ3が載置されており、ポンプ3の自重を受けてフート弁9が下降することにより、ポンプバレル2の取込み口Sが開放されるようになっている。ポンプ3は、このように取込み口が開放された状態で駆動されることにより、タンク本体10内の液化水素LHを取込み口Sから取り込んで上方に圧送し、ポンプバレル2(下部室21)を通じて液化水素LHを外部に払い出す。
【0021】
ワイヤ4は、ポンプバレル2の内部を通って上下方向に延びるとともに、その下端がポンプ3に接続されている。ワイヤ4の上部は、ヘッドプレート25を貫通してワイヤ収容器7の内部まで延びるように配索されている。
【0022】
開閉弁5は、下部室21と上部室22との間に配置された開閉可能なバルブであり、下部室21と上部室22とを連通する開状態と両者を遮断する閉状態との間で切り替え可能である。液化ガスタンク1の運用中、開閉弁5は開状態に維持される。ワイヤ4は、この開状態の開閉弁5を通って上部室22から下部室21に延び、かつ当該下部室21の下端部21aにあるポンプ3へと至るように配索されている。一方、メンテナンス等のためにポンプ3をタンク本体10から搬出する際には、ワイヤ4を用いてポンプ3が下部室21から上部室22まで吊り上げられる。このとき、開閉弁5は、ポンプ3の上部室22への移動が完了するまで開状態に維持され、移動完了後に閉状態へと切り替えられる。下部室21と上部室22との間のポンプ3の移動が可能になるように、開閉弁5は、開状態においてポンプ3の通過を許容し得る弁体を有している。そのような開閉弁5としては、中空ボール状の弁体を有するボール弁が好適である。
【0023】
ガス置換装置6は、ポンプ3を搬出する等の必要時に上部室22内のガスを置換する装置である。具体的に、ガス置換装置6は、タンク本体10に貯留されている液化ガス(ここでは液化水素LH)に対応するガスつまり水素ガスを上部室22に導入する水素ガス導入管61と、不活性ガスとしての窒素ガスを上部室22に導入する窒素ガス導入管62と、上部室22から被置換ガスを排出する導出管63と、水素ガス導入管61に設けられた第1バルブ64Aと、窒素ガス導入管62に設けられた第2バルブ64Bと、導出管63に設けられた第3バルブ64Cとを備える。水素ガス導入管61の上流端には、水素ガスを圧送可能な送気ポンプ等からなる水素ガス供給源が接続され、窒素ガス導入管62の上流端には、窒素ガスを圧送可能な送気ポンプ等からなる窒素ガス供給源が接続されている。なお、ガス置換装置6は、本開示における「バレル用ガス置換装置」に相当する。
【0024】
ガス置換装置6は、開閉弁5が閉じた状態、つまり下部室21と上部室22との連通が遮断された状態で作動することにより、上部室22内のガスを置換する。具体的に、ガス置換装置6は、水素ガス導入管61から導入される水素ガスによって上部室22の内部を満たしたり、窒素ガス導入管62から導入される窒素ガスによって上部室22の内部を満たしたりすることが可能である。言い換えると、上部室22の内部は、水素ガスで満たされる状態と窒素ガスで満たされる状態とに切り替え可能である。上部室22内のガスを入れ替えるガス置換の際、第1~第3バルブ64A~64Cは必要に応じて開かれる。一方、液化ガスタンク1の運用中は、第1~第3バルブ64A~64Cはいずれも閉状態に維持される。
【0025】
ワイヤ収容器7は、ポンプバレル2の上端よりも上側のワイヤ余剰部4a、つまりワイヤ4のうちヘッドプレート25よりも上方に位置する部分であるワイヤ余剰部4aを収容する容器である。
図2に示すように、ワイヤ収容器7は、ボックス状の収容器本体71と、収容器本体71から下方に延びる筒状のネック部72と、ネック部72の下端から径方向外側に張り出すフランジ73とを備える。ワイヤ余剰部4aは、例えばボビン等に巻き付けられて纏められた状態で収容器本体71の内部に収容されている。
【0026】
ワイヤ収容器7とヘッドプレート25との間には、継手8が介設されている。継手8は、ヘッドプレート25とワイヤ収容器7とを連結する連結部品である。すなわち、継手8は、ワイヤ収容器7のフランジ73に結合される上フランジ82と、ヘッドプレート25に結合される下フランジ83と、上フランジ82と下フランジ83とを連結する胴部81とを備える。上フランジ82は、ボルト等の締結部材B2を介してワイヤ収容器7のフランジ73に着脱可能に結合されている。下フランジ83は、ボルト等の締結部材B3を介してヘッドプレート25に着脱可能に結合されている。胴部81には、ワイヤ4を通すための貫通孔H1が形成されている。この貫通孔H1に対応するヘッドプレート25の中央部にも、貫通孔H2が形成されている。ワイヤ4は、両貫通孔H1,H2を通ってポンプバレル2の上部室22からワイヤ収容器7へと至るように配索される。
【0027】
胴部81における貫通孔H1の上側には、当該貫通孔H1よりも内径が拡大されたパッキン収容部81aが形成されている。パッキン収容部81aには、複数段のパッキン85が収容されている。パッキン85は、ワイヤ4を取り囲むリング状のシール部材であり、上下多段に重ねられた状態でパッキン収容部81aに配置されている。
【0028】
パッキン収容部81aは、上述した貫通孔H1,H2と共に、ポンプバレル2の上部室22とワイヤ収容器7とを互いに連通する連通部として機能する。言い換えると、パッキン85は、ポンプバレル2とワイヤ収容器7とを連通する連通部に配置されている。
【0029】
継手8の上面には、パッキン押え86が取り付けられている。パッキン押え86は、ワイヤ4に外挿される筒状の軸部86aと、軸部86aの上端から径方向外側に張り出すフランジ86bとを含む。軸部86aは、パッキン85を上から押さえるようにパッキン収容部81aに部分的に挿入されている。フランジ86bは、ボルト等の締結部材B4によって継手8の上面に締結されている。この締結部材B4の締結力により、軸部86aからパッキン85に対し下向きの押圧力が作用する。この押圧力は、パッキン85をワイヤ4の外周に密着させる作用をもたらす。
【0030】
[ポンプの搬出入作業]
上述したとおり、ポンプ3は、例えばメンテナンスのためにタンク本体10から搬出されることがある。この作業の概要を以下に説明する。
【0031】
ポンプ3の搬出時には、まず、ワイヤ収容器7を取り外す作業が行われる。すなわち、ワイヤ収容器7を継手8に結合する締結部材B2(
図2)の締結が解除されて、ワイヤ収容器7が継手8から取り外される。これにより、ワイヤ収容器7に収容されていたワイヤ余剰部4aが暴露され、当該ワイヤ余剰部4aへのアクセスが可能になる。
【0032】
次に、
図3に示される吊上げ装置100にワイヤ余剰部4aを係合させる。吊上げ装置100は、例えばワイヤ4を巻き上げるウィンチである。この場合、吊上げ装置100は、ドラム101と、ドラム101を回転駆動する駆動源とを含む。ここでは、当該吊上げ装置100によるワイヤ4の巻き上げが可能になるように、ドラム101にワイヤ余剰部4aが巻き付けられる。
【0033】
次に、
図3に示すように、吊上げ装置100によってポンプ3を吊り上げる。すなわち、ワイヤ4を巻き上げる方向にドラム101を回転駆動することにより、ポンプバレル2の上部室22までポンプ3を吊り上げる。この吊り上げの際、開閉弁5は、液化ガスタンク1の運用中と同じく開状態に維持される。吊り上げられたポンプ3は、開状態にある開閉弁5を通過しつつポンプバレル2の下部室21から上部室22へと移動する。
図3では、移動前のポンプ3が破線で、移動後のポンプ3が実線でそれぞれ示される。また、上部室22へのポンプ3の移動が完了するまで、第1~第3バルブ64A~64Cはいずれも閉状態に維持される。これにより、上部室22は、ポンプ3の移動(吊り上げ)が完了するまで、貯留されている液化ガス(ここでは液化水素LH)に対応するガスつまり水素ガスで満たされた状態に維持される。
【0034】
なお、前記のようなポンプ3の吊り上げ作業の前に、ポンプバレル2内の液化水素LHをタンク本体10内に押し出す作業を行ってもよい。すなわち、液化ガスタンク1の運用中は、一般に、タンク本体10の液面と同程度の高さまでポンプバレル2内に液化水素LHが存在している。ポンプ3の吊り上げ抵抗を小さくする、もしくは液体の抱き込みを抑制する等の観点から、ポンプバレル2内の当該液化水素LHをポンプ3の吊り上げ前にタンク本体10内に押し出しておくことが望ましい。このような液化水素LHの押出し作業は、例えば、払い出しポート24からポンプバレル2内に対し水素ガスを圧送することで実現可能である。これにより、液化水素LHがポンプバレル2から押し出されるとともに、ポンプバレル2内が全体的に水素ガスで満たされた状態が得られる。
【0035】
前記のようにしてポンプ3を上部室22まで吊り上げた後は、当該上部室22内のガスを置換する次のような作業が行われる。まず、開閉弁5を閉じて上部室22と下部室21との連通を遮断する。その後、ガス置換装置6を用いて、上部室22内のガスを水素ガスから窒素ガスに置換する。例えば、第1バルブ64Aを閉じかつ第2及び第3バルブ64B,64Cを開いて、窒素ガス導入管62から供給される窒素ガスを上部室22に導入しつつ、上部室22に存在していた水素ガスを導出管63を通じて外部に排出することにより、上部室22内のガスを水素ガスから窒素ガスに置換する。
【0036】
次に、
図4に示すように、上部室22からポンプ3を搬出する。例えば、ヘッドプレート25を上部室22に固定している締結部材B1(
図2)による締結を解除して、ヘッドプレート25をポンプバレル2から切り離す。そして、例えば吊上げ装置100とは別のチェーンブロック等の機器を用いて、ヘッドプレート25及びその上面に固定された継手8を吊り上げる。また、当該ヘッドプレート25等の吊り上げに連動するように、吊上げ装置100のドラム101による巻上げ量を増大させる。これにより、
図4に示すように、上部室22の外方へとポンプ3を搬出し、最終的に所定の搬出先まで移動させる。
【0037】
以上により、ポンプ3をタンク本体10から搬出する作業が完了する。搬出されたポンプ3は、メンテナンス等の所定の処置に供される。その後、ポンプ3は、再びタンク本体10に搬入される。この搬入作業は、例えば次のようにして行われる。
【0038】
まず、上部室22の内部にポンプ3を挿入するとともに、ヘッドプレート25を上部室22の上面に固定する。すなわち、吊上げ装置100のドラム101からワイヤ4を引き出す方向にドラム101を回転駆動することにより、ワイヤ4に吊られたポンプ3を下降させて上部室22の内部に挿入する。また、締結部材B1(
図2)を用いてヘッドプレート25を上部室22のフランジ22aに結合することにより、ヘッドプレート25及び継手8を上部室22に固定する。
【0039】
次に、ガス置換装置6を用いて、上部室22内のガスを水素ガスに置換する。詳しくは省略するが、このガス置換は、安全性等の観点から、上部室22を一旦窒素ガスで満たした上で当該窒素ガスを水素ガスに置換するというように、2段階に分けて行うのが望ましい。
【0040】
次に、開閉弁5を開くとともに、ドラム101からのワイヤ4の引出し量をさらに増大させることにより、ポンプ3を上部室22から下部室21の下端部21aまで下降させる。その後、ドラム101に巻き付けられていたワイヤ余剰部4aをドラム101からリリースし、リリースされたワイヤ余剰部4aをワイヤ収容器7に収めた状態で当該ワイヤ収容器7を締結部材B2を用いて継手8に結合する。これにより、ワイヤ余剰部4aが大気と共にワイヤ収容器7の内部に閉じ込められる。
【0041】
以上により、
図1に示すように、ポンプ3がポンプバレル2内の正規の収容位置(下部室21の下端部21a)へと戻され、ポンプ3をタンク本体10に搬入する作業が完了する。
【0042】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、ヘッドプレート25を貫通してポンプバレル2の内部に導入されるワイヤ4の下端がポンプ3に接続されるとともに、ヘッドプレート25の上面に継手8を介して着脱可能に取り付けられたワイヤ収容器7の内部に、ヘッドプレート25よりも上方に位置するワイヤ余剰部4aが収容される。このような構成によれば、ポンプバレル2にヘッドプレート25を取り付けたままポンプ3を吊り上げることができ、ポンプ3の搬出作業を迅速化できるという利点がある。
【0043】
すなわち、本実施形態では、ワイヤ余剰部4aを収容するワイヤ収容器7がヘッドプレート25に取り付けられるため、液化ガスタンク1の運用中にワイヤ余剰部4aをワイヤ収容器7によって適切に保護することができる。一方、ポンプ3の搬出時には、当該ワイヤ収容器7をヘッドプレート25から取り外してワイヤ余剰部4aを暴露することにより、この暴露したワイヤ余剰部4aを利用してポンプ3を吊り上げることができる。例えば、吊上げ装置100のドラム101にワイヤ余剰部4aを巻き付けた状態で当該ドラム101を回転駆動することにより、ワイヤ4を引き上げてその下端に接続されたポンプ3を上方に移動させることができる。しかも、当該ポンプ3の吊り上げを、ポンプバレル2の上部室22にヘッドプレート25を取り付けたまま行うことができるので、ポンプ3の吊り上げ前の準備を簡素化することができる。
【0044】
例えば、ポンプ3の吊り上げ前にヘッドプレート25を取り外す必要がある場合、当該ヘッドプレート25の取り外しに伴い、貯留されている液化ガス(ここでは液化水素LH)に対応するガスつまり水素ガスがポンプバレル2から外部に飛散することが懸念される。これを避けるには、ポンプ3の吊り上げ前の準備として、例えばポンプバレル2内に存在している水素ガスを全体的に窒素ガス(不活性ガス)に置換し、その上でヘッドプレート25を取り外すことが求められる。これに対し、ヘッドプレート25を取り付けたままポンプ3を吊り上げることが可能な本実施形態では、当該吊り上げの前にポンプバレル2内を全体的にガス置換する前記のような作業を行なう必要がない。このため、ポンプ3の吊り上げ前の準備に要する時間を短縮でき、ポンプ3をタンク本体10から搬出する作業を迅速化することができる。
【0045】
なお、
図4に示したように、本実施形態でも、ポンプ3をポンプバレル2の上部室22まで移動させた後は、当該ポンプ3を上部室22から搬出するためにヘッドプレート25を取り外す必要がある。ただし、このヘッドプレート25の取り外しによって解放されるのは上部室22に限定されるので、ヘッドプレート25の取り外し前のガス置換は、上部室22に対してのみ行えばよい。すなわち、上部室22までポンプ3を吊り上げた後、開閉弁5を閉じて上部室22を下部室21から分離し、さらにその状態でガス置換装置6によるガス置換を行うことにより、上部室22内のガスを水素ガスから窒素ガスに置換することができる。このように、上部室22に対してのみガス置換を行えばよいので、ガス置換に要する時間を短縮でき、ポンプ3の搬出作業をトータル的に効率化することができる。
【0046】
また、上部室22に対するガス置換が行われることで、上部室22からのポンプ3の搬出のためにヘッドプレート25を取り外したときに、上部室22から水素ガスが外部に飛散するのを防止できるとともに、下部室21に空気が混入するのを防止することができる。
【0047】
また、本実施形態では、ワイヤ収容器7が継手8を介してヘッドプレート25に接続されるとともに、当該継手8におけるワイヤ4の貫通部(パッキン収容部81a)にシール部材としてのパッキン85が設けられる。このような構成によれば、液化ガスタンク1の運用中に、ポンプバレル2内に存在している水素ガスが継手8を通じてワイヤ収容器7にリークしなくなるので、ワイヤ収容器7の取り外し時に水素ガスが飛散するのを防止することができる。
【0048】
[変形例]
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示はこれに限定されるわけではなく、例えば次のような変形が可能である。
【0049】
前記実施形態では特に言及しなかったが、継手8の内部に設けられたパッキン85のシール性能によっては、液化ガスタンク1の運用中に、ワイヤ4とパッキン85との隙間を通じてワイヤ収容器7に水素ガスがリークする可能性がある。そこで、
図5に示すように、ワイヤ収容器7にガス置換装置75を適用してもよい。具体的に、この
図5の変形例におけるガス置換装置75は、窒素ガスを圧送可能な窒素ガス供給源とワイヤ収容器7とを接続する導入管76と、ワイヤ収容器7から被置換ガスを排出する導出管77と、導入管76に設けられた導入側バルブ78Aと、導出管77に設けられた導出側バルブ78Bとを備える。ポンプ3の搬出のためにワイヤ収容器7を取り外す際には、このガス置換装置75を用いてワイヤ収容器7内のガスを窒素ガスに置換する操作が行われる。すなわち、導入側バルブ78A及び導出側バルブ78Bをいずれも開くことにより、導入管76からワイヤ収容器7内に窒素ガスを導入するとともに、ワイヤ収容器7内に存在し得る被置換ガス(空気及び水素ガスの混合ガス)を導出管77を通じて外部に排出する。そして、このような操作によってワイヤ収容器7内のガスを不活性ガスである窒素ガスに置換した後に、ワイヤ収容器7を継手8から取り外す。このようにすれば、液化ガスタンク1の運用中にワイヤ収容器7内に水素ガスが存在し得る場合でも、当該水素ガスの飛散を防止しつつワイヤ収容器7を取り外すことができる。
【0050】
前記実施形態では、ワイヤ収容器7を継手8を介してヘッドプレート25に着脱可能に取り付けたが、継手8を省略して、ワイヤ収容器7をヘッドプレート25に直接取り付けてもよい。また、ヘッドプレート25に対するワイヤ収容器7の着脱は必須ではない。すなわち、ワイヤ収容器7をヘッドプレート25に対し固定的に取り付けてもよい。この場合、ワイヤ収容器7の天井部を開閉可能な蓋部材とすることが考えられる。このようにすれば、ポンプ3の搬出時に、当該蓋部材を開操作してワイヤ収容器7の上面を開放することにより、ワイヤ収容器7の内部のワイヤ余剰部4aを暴露し、この暴露したワイヤ余剰部4aを利用してワイヤ4を引き上げることができる。
【0051】
前記実施形態では、液化ガスタンク1に貯留される液化ガスが液化水素LHであることを前提に、ポンプバレル2の上部室22内のガスを水素ガス又は窒素ガスに置換可能なガス置換装置6をポンプバレル2に適用したが、この上部室22用のガス置換装置6は、上部室22内のガスを液化ガスに対応するガス又は不活性ガスに置換可能なものであればよく、その限りにおいて置換ガスの種類は適宜変更可能である。このことは、上述した
図5の変形例に示したワイヤ収容器7用のガス置換装置75でも同様である。
【0052】
[まとめ]
上述した実施形態及びその変形例には、以下の開示が含まれる。
【0053】
本開示の一局面に係る液化ガスタンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記液化ガスを払い出すために前記タンク本体内に配置されたポンプと、前記ポンプを収容するとともに当該ポンプの収容位置から上方に延びて前記タンク本体の外側へと至る筒状のポンプバレルと、前記ポンプバレルの上端開口を閉鎖する着脱可能なヘッドプレートと、前記ヘッドプレートを貫通しかつ下端が前記ポンプに接続されたワイヤとを備える。
【0054】
本開示によれば、ポンプバレル内のポンプに接続されたワイヤが、ポンプバレルの上端に取り付けられたヘッドプレートを貫通するので、当該ヘッドプレートよりも上方に位置するワイヤの一部(以下、ワイヤ余剰部という)を利用してポンプを吊り上げることができる。例えば、ウィンチ等の吊上げ装置にワイヤ余剰部を係合させた状態で当該吊上げ装置を作動させることにより、ワイヤを引き上げてその下端に接続されたポンプを上方に移動させることができる。しかも、当該ポンプの吊り上げを、ポンプバレルにヘッドプレートを取り付けたまま行うことができるので、ポンプの吊り上げ前の準備を簡素化することができる。また、ポンプを上方に吊り上げた後は、ヘッドプレートを取り外してポンプバレルの上端開口を開放することにより、この開放されたポンプバレルの上端開口を通じてポンプを搬出することができる。
【0055】
好ましくは、前記液化ガスタンクは、前記ヘッドプレートに取り付けられ、前記ワイヤのうち前記ヘッドプレートよりも上方に位置する部分であるワイヤ余剰部を収容するワイヤ収容器をさらに備える。
【0056】
この態様では、ワイヤ余剰部を収容するワイヤ収容器がヘッドプレートに取り付けられるので、液化ガスタンクの運用中にワイヤ余剰部をワイヤ収容器によって適切に保護することができる。一方、ポンプの搬出時には、当該ワイヤ収容器をヘッドプレートから取り外すか又はワイヤ収容器の上面を開放し、これによってワイヤ余剰部を暴露することにより、当該暴露したワイヤ余剰部を利用してポンプを吊り上げることができる。
【0057】
好ましくは、前記ポンプバレルと前記ワイヤ収容器とを連通する連通部に、前記ワイヤの外周に密着するシール部材が設けられる。
【0058】
この態様では、液化ガスタンクの運用中に、液化ガスに対応するガスがポンプバレルから連通部を通じてワイヤ収容器にリークしなくなる。このため、ワイヤ収容器を取り外すか又はその上面を開放したときに、液化ガスに対応するガスが飛散するのを防止することができる。
【0059】
前記液化ガスタンクは、前記ヘッドプレートと前記ワイヤ収容器とを連結する継手をさらに備えていてもよい。この場合、前記シール部材は、前記継手の内部における前記ワイヤの貫通部に設けることが好ましい。
【0060】
このように、ヘッドプレートとワイヤ収容器との間の継手にシール部材を設けた場合には、シール部材を交換する等のメンテナンス作業の作業性を向上させることができる。
【0061】
好ましくは、前記液化ガスタンクは、前記ワイヤ収容器内のガスを不活性ガスに置換可能なガス置換装置をさらに備える。
【0062】
この態様では、液化ガスタンクの運用中に液化ガスに対応するガスがワイヤ収容器内に存在し得る場合でも、当該ガスの飛散を防止しつつワイヤ収容器を取り外すことができる。
【0063】
好ましくは、前記液化ガスタンクは、前記ポンプバレルの上下方向の途中に配置された開閉弁と、前記ポンプバレルにおける前記開閉弁よりも上方の部分である上部室に適用され、当該上部室内のガスを前記液化ガスに対応するガスと不活性ガスとの間で切り替え可能なバレル用ガス置換装置とをさらに備える。
【0064】
この態様では、ポンプバレルの上部室までポンプを吊り上げた後、開閉弁を閉じて上部室を下部室から分離し、さらにその状態でバレル用ガス置換装置によるガス置換を行うことにより、上部室内のガスを液化ガスに対応するガスから不活性ガスに置換することができる。このため、上部室からのポンプ搬出のためにヘッドプレートを取り外したときに、液化ガスに対応するガスが上部室から外部に飛散するのを防止できるとともに、下部室に空気が混入するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 液化ガスタンク
2 ポンプバレル
3 ポンプ
4 ワイヤ
4a ワイヤ余剰部
5 開閉弁
6 ガス置換装置(バレル用ガス置換装置)
7 ワイヤ収容器
8 継手
10 タンク本体
22 上部室
25 ヘッドプレート
75 ガス置換装置
85 パッキン(シール部材)