(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044538
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】液化ガスタンクおよびタンク内ポンプの取出方法
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20240326BHJP
B65D 88/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F17C13/00 302Z
B65D88/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150117
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】池崎 明博
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AB29
3E170BA03
3E170CA01
3E170CB10
3E170EA07
3E170RA01
3E170RA02
3E170VA20
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB04
3E172AB05
3E172AB11
3E172AB15
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172CA03
3E172DA90
3E172KA02
3E172KA03
(57)【要約】
【課題】タンク本体内に設置されたポンプを、ポンプバレルを通して外部に取り出す際に当該ポンプバレル内に空気が進入しても、その空気を排除することを可能とする。
【解決手段】液化ガスタンク1は、液化水素LHを貯留するタンク本体10と、タンク本体10を垂直方向に貫通するポンプバレル2と、タンク本体10内に設置され、ポンプバレル2を通して液化水素LHを外部へ払い出すポンプ3と、タンク本体10内のポンプ3を、ポンプバレル2内およびバレル開口2Aを通して外部に取り出す吊り上げ装置5と、ポンプバレル2の内壁面2Bを加熱するヒーター41と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯留するタンク本体と、
前記タンク本体を垂直方向に貫通するポンプバレルと、
前記タンク本体内に設置され、前記ポンプバレルを通して前記液化ガスを外部へ払い出すポンプと、
前記タンク本体内の前記ポンプを、前記ポンプバレル内を通して外部に取り出す吊り上げ装置と、
前記ポンプバレルの内壁面を加熱するヒーターと、を備える液化ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ポンプバレルは多重管構造を有し、
前記ヒーターは、多重管の層間に配設されている、液化ガスタンク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ポンプバレルの内壁面の温度を計測する温度センサをさらに備える、液化ガスタンク。
【請求項4】
請求項3に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ヒーターは線状ヒーターからなり、前記温度センサは線状の分布型温度センサからなり、前記ヒーターおよび前記温度センサは前記ポンプバレルの周囲に巻回されている、液化ガスタンク。
【請求項5】
請求項1に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ポンプバレルは上端開口を有し、
前記上端開口を開閉するヘッドプレートと、
前記ヘッドプレートを開放しての前記ポンプの吊り上げの前に、前記上端開口が前記ヘッドプレートで閉止された状態で、前記ポンプバレル内を減圧する減圧装置と、
をさらに備える液化ガスタンク。
【請求項6】
請求項1に記載の液化ガスタンクにおいて、
前記ヒーターの動作時に、前記ポンプバレル内で発生するガスを排気する排気装置をさらに備える、液化ガスタンク。
【請求項7】
タンク本体内に貯留した液化ガスを、前記タンク本体を上下方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置したポンプとを用いて払い出す構造を備えた液化ガスタンクにおける、前記ポンプの取出方法であって、
前記ポンプバレルの内部空間を加圧して当該ポンプバレル内に存在する液化ガスをタンク本体内へ押し出す工程と、
前記ポンプバレルを開放して、前記ポンプバレル内を通して前記ポンプを外部に取り出す工程と、
前記ポンプバレルの開放後に、前記ポンプバレルの内壁面を加熱する工程と、
を含むタンク内ポンプの取出方法。
【請求項8】
請求項7に記載のタンク内ポンプの取出方法において、
前記ポンプバレルの開放前に、前記ポンプバレル内を減圧する工程をさらに含む、タンク内ポンプの取出方法。
【請求項9】
請求項7に記載のタンク内ポンプの取出方法において、
前記ポンプの取り出し後に、前記ポンプバレルを封止して、前記ポンプバレル内を排気する工程をさらに含む、タンク内ポンプの取出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液化ガスを貯留するタンク、および前記タンク内に設置されたポンプの取出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液化水素や液化天然ガスなどの低温の液化ガスを貯留するタンクとして、多重殻構造を備えた平底タンクが知られている。この種のタンクは、タンク本体を垂直方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置されるポンプとを備える。タンク本体内に貯留されている液化ガスは、前記ポンプの稼働により、前記ポンプバレルを通して外部へ払い出される。前記ポンプのメンテナンス時には、前記タンク本体内のポンプが前記ポンプバレルを通して吊り上げられる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ポンプを吊り上げてポンプバレルから取り出すとき、当該ポンプバレルの上端開口を封止しているヘッドプレートが取り外される。この際、前記上端開口から空気がポンプバレル内に進入し得る。ポンプバレル内に進入した空気は、タンク本体に貯留されている液化ガスにより冷却される。前記液化ガスが液化水素である場合、進入した空気は凝縮する。前記凝縮の結果、空気中の水分、窒素および酸素が凝固物となって、ポンプバレルの内壁に付着する不具合が生じる。
【0005】
本開示の目的は、タンク本体内に設置されたポンプを、ポンプバレルを通して外部に取り出す際に当該ポンプバレル内に空気が進入しても、その空気を排除することが可能な液化ガスタンク、およびタンク内ポンプの取出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面に係る液化ガスタンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記タンク本体を垂直方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置され、前記ポンプバレルを通して前記液化ガスを外部へ払い出すポンプと、前記タンク本体内の前記ポンプを、前記ポンプバレル内を通して外部に取り出す吊り上げ装置と、前記ポンプバレルの内壁面を加熱するヒーターと、を備える。
【0007】
本開示の他の局面に係るタンク内ポンプの取出方法は、タンク本体内に貯留した液化ガスを、前記タンク本体を上下方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置したポンプとを用いて払い出す構造を備えた液化ガスタンクにおける、前記ポンプの取出方法であって、前記ポンプバレルの内部空間を加圧して当該ポンプバレル内に存在する液化ガスをタンク本体内へ押し出す工程と、前記ポンプバレルを開放して、前記ポンプバレル内を通して前記ポンプを外部に取り出す工程と、前記ポンプバレルの開放後に、前記ポンプバレルの内壁面を加熱する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、タンク本体内に設置されたポンプを、ポンプバレルを通して外部に取り出す際に当該ポンプバレル内に空気が進入しても、その空気を排除することが可能な液化ガスタンク、およびタンク内ポンプの取出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る液化ガスタンクを概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係るタンク内ポンプの取出方法の工程フローチャートである。
【
図3】
図3は、タンク内ポンプの取出方法の工程の一つを示す断面図である。
【
図4】
図4は、タンク内ポンプの取出方法の工程の一つを示す断面図である。
【
図5】
図5は、タンク内ポンプの取出方法の工程の一つを示す断面図である。
【
図6】
図6は、タンク内ポンプの取出方法の工程の一つを示す断面図である。
【
図7】
図7は、タンク内ポンプの取出方法の工程の一つを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本開示に係る液化ガスタンク並びにタンク内ポンプの取出方法の実施形態を詳細に説明する。本開示の液化ガスタンクは、低温の液化ガスを貯留する平底タンクである。貯留される液化ガスは、例えば液化水素、液体ヘリウム、液体窒素、液化天然ガス、液化石油ガスまたは液化アンモニア等である。
【0011】
[液化ガスタンクの全体構造]
図1は、本開示の一実施形態に係る液化ガスタンク1を概略的に示す断面図である。液化ガスタンク1は、極低温の液化水素LHを貯留するタンクであって地上据え置き式の多重殻構造を備えた平底タンクである。液化ガスタンク1は、液化水素LHを貯留するタンク本体10と、液化水素LHをタンク本体10から払い出すための構造体であるポンプバレル2と、タンク本体10内において液化水素LHに浸漬された状態で設置される潜没式のポンプ3と、ポンプバレル2の内壁面2Bを加熱するヒーター41と、ポンプバレル2内を通してポンプ3を外部に取り出す吊り上げ装置5とを備える。
【0012】
タンク本体10は、液化水素LHを貯留する貯留空間を有する。
図1では簡略化して単殻構造を示しているが、実際のタンク本体10は、二重殻構造または三重殻構造 などの多重殻構造を備えている。二重殻構造の場合、タンク本体10は、基礎の上に立設される外槽と、この外槽に内包される内槽と、外槽と内槽との間の保冷層とで構成される。液化水素LHは、前記内槽の内部に貯留される。前記保冷層には、例えば粒状パーライトのような粉体断熱材と低沸点ガスとが充填される。三重殻構造の場合、タンク本体10は、前記外槽と前記内槽との間にさらに中間槽を備える構造となる。この他、タンク本体10は、平底以外の形状を備えるタンク、あるいは地中埋め込み式のタンク等であっても良い。
【0013】
ポンプバレル2は、タンク本体10を垂直方向に貫通するように設置された円筒体であり、タンク本体10内の液化水素LHを外部へ払い出す際の導出管である。ポンプバレル2は、液化水素LHが流通する内部空間であるバレル内空間20を有する。ポンプバレル2は、タンク本体10内に収容される内側部分と、タンク本体10から上方へ延び出す突出部分とを含む。ポンプバレル2の下端部21は、タンク本体10の底板付近に配置され液化水素LH内に没入されている。ポンプバレル2の上端部22は、タンク屋根11を貫通して所定高さ位置に配置されている。バレル内空間20は、下端部21と上端部22との間において鉛直方向に延び、ポンプ3を通過させ得る内径を有している。
【0014】
ポンプ3は、下端部21付近のバレル内空間20に収容されている。ポンプバレル2の下端部21の取り入れ開口には、フート弁23が取り付けられている。ポンプ3はフート弁23の上に載置された状態で配置されている。ポンプ3の自重によってフート弁23が垂下することで、下端部21の前記取り入れ開口が開放された状態となる。ポンプ3は、
図1に矢印a1で示すように、タンク本体10内の液化水素LHを取り込み、圧力を上げてバレル内空間20へ液化水素LHを送り出す。
【0015】
ポンプバレル2の上端部22付近の側面には、第1バルブV1を備えた払い出し配管24が突設されている。ポンプバレル2の上端には、バレル内空間20と外部空間とを連通させるバレル開口2A(上端開口)が設けられている。液化ガスタンク1の運用時、バレル開口2Aにはヘッドプレート25が取り付けられ、当該バレル開口2Aが封止される。第1バルブV1は、液化水素LHの払い出し時に「開」とされる。ポンプ3の稼働により、バレル内空間20から払い出し配管24を通して、液化水素LHが払い出される。
【0016】
払い出し配管24には、供給管241および排気管242が分岐接続されている。供給管241には第2バルブV2が、排気管242には第3バルブV3が、各々配置されている。供給管241および排気管242は、払い出し配管24を通してバレル内空間20と連通している。供給管241は、所要のガスをバレル内空間20へ供給するための配管である。本実施形態では、水素ガスを供給するガス供給装置32が、供給管241に接続されている。排気管242は、バレル内空間20に存在する気体を外部へ排出するための配管である。本実施形態では、バレル内空間20を真空引きする減圧装置33が、排気管242に接続されている。減圧装置33に代えて、バレル内空間20に存在する気体を排気して水素ガスに置換するガス置換装置を用いても良い。
【0017】
ポンプバレル2には、多重管構造部2Wが備えられている。多重管構造部2Wは、ポンプバレル2の一部と、当該ポンプバレル2に外嵌された外皮管27とで構成されている。外皮管27は、ポンプバレル2の下端部21付近からタンク屋根11のやや上方まで、上下方向に延びている。ポンプバレル2の外周面と外皮管27の内壁面との間には、所定間隔の層間が形成されている。当該層間に、所要の断熱性能を具備させるべく、断熱材やシールガスを封入しても良い。あるいは、前記層間を真空する真空断熱構造を採用しても良い。
【0018】
多重管構造部2Wの前記層間には、ヒーター41および光ファイバー温度計42(温度センサ)が配設されている。ヒーター41は、電気的に発熱する線状ヒーターからなり、ポンプバレル2の周囲に螺旋状に巻回されている。ヒーター41は、多重管構造部2Wにおいてポンプバレル2の内壁面2Bを加熱する。線状ヒーターからなるヒーター41に代えて、例えば面状発熱体からなるヒーターでポンプバレル2の周囲を包皮しても良いし、前記層間に温風を供給するヒーターを用いても良い。
【0019】
光ファイバー温度計42は、ポンプバレル2の内壁面2Bの温度を計測する、線状の分布型温度センサである。光ファイバー温度計42は、ヒーター41の巻回ターン間に収まる態様で、ポンプバレル2の周囲に螺旋状に巻回されている。光ファイバー温度計42に代えて、例えば熱電対方式の温度センサを用いるようにしても良い。
【0020】
ヒーター41の加熱動作は、コントローラ43によって制御される。コントローラ43は、ヒーター41に供給する電力を制御することで、ヒーター41の発熱量を調整する。前記制御に当たり、コントローラ43は光ファイバー温度計42の温度計測結果を参照する。コントローラ43は、光ファイバー温度計42に検査光を入射し、そのラマン散乱光を検出することで、内壁面2Bの温度分布を求める。線状のヒーター41を用いることで、内壁面2Bを均一温度に加熱し易くなる。また、線状の分布型温度センサからなる光ファイバー温度計42を用いることで、内壁面2B全体の温度分布を正確に計測できる。従って、コントローラ43は、内壁面2Bの加熱状態を精度良くコントロールできる。
【0021】
吊り上げ装置5は、ポンプ3のメンテナンス時等に、タンク本体10内に設置されたポンプ3を、ポンプバレル2内およびバレル開口2Aを通して外部に取り出す。また、吊り上げ装置5は、メンテナンス後のポンプ3や新たなポンプ3の設置のため、ポンプバレル2を通してポンプ3を吊り下げる。バレル内空間20には、ポンプ3の吊り上げ用のリフティングワイヤ31が垂下されている。吊り上げ装置5は、リフティングワイヤ31の巻き取りおよび繰り出しを行うドラムと、当該ドラムを回転駆動するモーターを含む。
【0022】
ポンプ3には、リフティングワイヤ31の下端が取り付けられる。リフティングワイヤ31の上端側は、ヘッドプレート25に取り付けられたシールヘッド26を通して外部に引き出される。シールヘッド26は、昇降するリフティングワイヤ31が、バレル内空間20の気密性を損なうことなくヘッドプレート25を貫通するようシールするシール構造部を有している。
【0023】
[ポンプの取出方法のフロー]
図2は、タンク本体10内のポンプ3を取り出すポンプ取り出し工法の一例を示す工程フローチャートである。ポンプ取り出し工法は、大別して、
図2に示す工程S1~S5からなる。ポンプ3のメンテナンス時、あるいは新たなポンプ3への交換時などに、工程S1~S5が実行される。
【0024】
工程S1は、ポンプバレル2の下端部21に設置されているフート弁23が「開」から「閉」となるまで、ポンプ3を少しの高さだけ吊り上げる、第1次のポンプ吊り上げ工程である。続く工程S2は、ポンプバレル2の内部空間であるバレル内空間20を加圧して、バレル内空間20内に存在する液化水素LHをタンク本体10内へ押し出す工程である。工程S3は、ポンプ3の取り出しのためにポンプバレル2を開放する前に、水素ガスがバレル開口2Aから流出しないよう、ポンプバレル2内を減圧する工程である。
【0025】
工程S4は、ポンプバレル2を開放して、ポンプバレル2内のバレル内空間20を通してポンプ3を外部に取り出すようにポンプ3を吊り上げる、第2次のポンプ吊り上げ工程である。工程S5は、ポンプバレル2の内壁面2Bを加熱すると共に、当該加熱により生じる気体を排気するために、ポンプバレル2を封止してバレル内空間20を真空引きする工程である。以下、上記工程S1~S5を、
図3~
図7を参照して具体的に説明する。
【0026】
<工程S1>
図3は、タンク内ポンプの取出方法の工程S1の実施状況を示す断面図である。リフティングワイヤ31が、シールヘッド26を通して上方へ引き出されている。第1、第2、第3バルブV1、V2、V3は、全て「閉」とされている。リフティングワイヤ31がヘッドプレート25を貫通しているが、シールヘッド26によりバレル内空間20の気密性は保たれている。
【0027】
シールヘッド26から引き出されたリフティングワイヤ31の始端が、吊り上げ装置5に巻き掛けられている。吊り上げ装置5によりリフティングワイヤ31が少量だけ巻き取られ、これによりポンプ3が少しだけ吊り上げられた状態とされる。工程S1でのポンプ3の吊り上げ高さは、フート弁23を「閉」とするのに足りる高さである。既述の通り、フート弁23は、ポンプ3の重量が加わることによって液化水素LHの取り入れ開口が「開」となる弁である。ポンプ3の重量が解放されると、復帰スプリングの作用によりフート弁23は「閉」の状態となる。なお、工程S1の段階では、バレル内空間20に液化水素LHが入り込んでいる状態である。
【0028】
<工程S2>
図4は、上記工程S2の実施状況を示す断面図である。工程S2では、供給管241から水素ガスが圧送され、バレル内空間20内に取り入れられている液化水素LHをタンク本体10内へ戻す作業が行われる。第1~第3バルブV1~V3のうち、第2バルブV2だけが「開」とされる。供給管241には、
図1に示したガス供給装置32から水素ガスが加圧ガスとして供給される。加圧ガスが、タンク本体10に貯留されている液化水素LHの気化ガスであるので、当該気化ガスに凝縮が生じても支障はない。
【0029】
供給管241から供給された水素ガスは、払い出し配管24を経てバレル内空間20内へ入る。水素ガスの供給が継続されると、バレル内空間20が加圧される。水素ガスの加圧力によって、バレル内空間20内の液化水素LHの液面には押圧力が加わる。この押圧力が、フート弁23の前記復帰スプリングの付勢力を上回ると、フート弁23は「開」の状態となる。そして、バレル内空間20の液化水素LHが、
図4で矢印a2にて示すように、フート弁23の前記取り入れ開口からタンク本体10内へ押し出される。これにより、バレル内空間20は水素ガスで加圧された状態となる。
【0030】
<工程S3>
図5は、上記工程S3の実施状況を示す断面図である。工程S3では、ポンプバレル2のバレル内空間20の真空引きが行われる。第1~第3バルブV1~V3のうち、第3バルブV3だけが「開」とされる。ヘッドプレート25でバレル開口2Aはまだ閉止された状態であり、バレル内空間20は密閉状態である。
図1に示した減圧装置33により、バレル内空間20のガスが吸引され、排気管242から排出される。先の工程S2の実行によって、バレル内空間20には水素ガスが存在していることから、当該水素ガスが排気管242を通して抜き出され、例えば放散処理などの所定の処理が実行される。
【0031】
水素ガスを抜き取ってゆくことにより、バレル内空間20は徐々に減圧されてゆく。なお、工程S2では「開」状態となっていたフート弁23は、水素ガスによる加圧が停止された時点で「閉」となっているので、バレル内空間20への液化水素LHの進入が阻まれる。バレル内空間20は、少なくとも大気圧よりも低い圧力に減圧される。このような減圧によりバレル内空間20から水素ガスは除去されるので、ヘッドプレート25を外してバレル開口2Aを開放しても、水素ガスの外部への流出を抑制できる。
【0032】
工程S3の真空引き作業に代えて、バレル内空間20の水素ガスを他のガスに置換する作業を実行しても良い。用いる置換ガスとしては、窒素ガスのような不活性ガスが好適である。この場合、ポンプバレル2に不活性ガスの供給ポートを設け、当該供給ポートからバレル内空間20に向けて不活性ガスを供給する。また、例えば排気管242から、不活性ガスと共にバレル内空間20の水素ガスを排出させる。このようなガス置換作業によっても、後にバレル開口2Aを開放したときの水素ガスの流出を抑制できる。
【0033】
<工程S4>
図6は、上記工程S4の実施状況を示す断面図である。工程S4では、先ずポンプバレル2の上端部22に取り付けられているヘッドプレート25が外され、バレル開口2Aが開放される。次いで、吊り上げ装置5によりリフティングワイヤ31が順次巻き取られ、ポンプ3がバレル内空間20において吊り上げられてゆく。最終的には、ポンプ3がバレル開口2Aよりも上方に至るまで、リフティングワイヤ31の巻き取りが継続される。この作業により、ポンプ3がタンク本体10内から外部へ取り出される。
【0034】
ヘッドプレート25の取り外しにより、バレル内空間20が外気と連通した状態となる。また、先の工程S3でバレル内空間20が減圧されている。このため、
図6に矢印a3で示すように、周囲の空気がバレル開口2Aからポンプバレル2内へ進入する。ポンプバレル2のタンク本体10に突入している部分並びにその近傍部分は、タンク本体10に貯留されている液化水素LHの冷熱の影響を受ける極低温領域である。このため、ポンプバレル2内へ進入した空気は、前記極低温領域において液化水素LHによって極低温に冷却されて凝縮し、液化または固化して凝縮物Cとなって内壁面2Bに付着する。凝縮物Cは、空気中の水分の水滴、液体酸素、液体窒素、もしくは前記水分が凝固した氷、凝固酸素、凝固窒素などである。
【0035】
工程S4に続いて、吊り上げたポンプ3を地上に降ろす作業が行われる。例えば、吊り上げ装置5を、タンク本体10の径方向外側まで移動させるホイストレールが、予めタンク屋根11に設置される。ポンプ3を吊った状態の吊り上げ装置5を、前記ホイストレールに沿って径方向外側へ移動させ、前記ドラムに巻き取られているリフティングワイヤ31を繰り出すことで、ポンプ3が地上に降ろされる。その後、ポンプ3はメンテナンス作業に供される。
【0036】
<工程S5>
図7は、上記工程S5の実施状況を示す断面図である。工程S5は、メンテナンスを終えたポンプ3をタンク本体10へ再設置する際の前作業として実行される。工程S5では、内壁面2Bの凝縮物Cを除去する作業が行われる。具体的には、
図1に示したコントローラ43がヒーター41を起動させ、多重管構造部2Wにおいてポンプバレル2の内壁面2Bを加熱させる。内壁面2Bの加熱温度は適宜設定できるが、例えば摂氏30℃程度以上に設定することができる。コントローラ43は、光ファイバー温度計42による温度計測に基づいてヒーター41への通電量を制御することで、内壁面2Bの加熱温度を調整する。なお、ヒーター41の起動は、先の工程S4の実行中、もしくはヘッドプレート25の取り外し直前または直後としても良い。
【0037】
工程S5の実行態様の一例を示す。先ず、吊り上げ装置5で吊った状態のポンプ3を、バレル開口2Aからバレル内空間20内へ降下させてゆく。
図7に示すように、ある程度の深さだけバレル内空間20へポンプ3を進入させたら、直ちにヘッドプレート25でバレル開口2Aを封止する。ヒーター41の動作に伴う内壁面2Bの加熱により、当該内壁面2Bに付着している空気および含有水分の凝縮物Cも加熱されて気化する。すなわち、前記加熱により、バレル内空間20には水分を含む空気が発生する。空気がバレル内空間20に残存することは望ましくないので、当該空気を排気する。
【0038】
具体的には、第3バルブV3を開放すると共に、減圧装置33(
図1)を動作させて、バレル内空間20を真空引きする。この真空引き動作により、内壁面2Bの加熱により生じたバレル内空間20の空気は、
図7に矢印a4で示すように、払い出し配管24および排気管242を経て外部へ排気される。なお、減圧装置33に代えて、バレル内空間20の空気を窒素ガスに置換後、さらに水素ガスやヘリウムガス等に置換する機能を有するガス置換装置を適用しても良い。排気を終えたら、ポンプ3を所定の位置まで吊り下げる。これによりフート弁23が「開」となり、ポンプ3が稼働可能な状態となる。また、フート弁23が「開」となることで、バレル内空間20も水素ガスで満たされる。
【0039】
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係る液化ガスタンク1およびタンク内ポンプの取出方法によれば、ポンプバレル2を通してポンプ3をタンク本体10から外部に取り出す際に、ポンプバレル2内への空気の進入を許容する。このため、バレル内空間20のパージのための設備やパージのための工数を削減できる。一方、ポンプバレル2内に進入した空気は、液化水素LHの冷熱により凝縮され、内壁面2Bに凝縮物Cとなって付着する。しかし、液化ガスタンク1は内壁面2Bを加熱するヒーター41を備える。ヒーター41の熱によって凝縮物Cは空気に戻され、さらに減圧装置33の動作によりバレル内空間20から排出される。従って、ポンプ3の取り出し時に一旦空気が進入しても、ポンプバレル2内に空気が存在しない状態に復帰させることができる。
【0040】
[本開示のまとめ]
以上説明した具体的実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0041】
本開示の第1の態様に係る液化ガスタンクは、液化ガスを貯留するタンク本体と、前記タンク本体を垂直方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置され、前記ポンプバレルを通して前記液化ガスを外部へ払い出すポンプと、前記タンク本体内の前記ポンプを、前記ポンプバレル内を通して外部に取り出す吊り上げ装置と、前記ポンプバレルの内壁面を加熱するヒーターと、を備える。
【0042】
この液化ガスタンクによれば、ポンプバレルを開放して吊り上げ装置でポンプを外部に取り出す際に、前記ポンプバレル内に空気が進入し得る。前記ポンプバレル内に進入した空気は、タンク本体に貯留されている液化ガスにより冷却されて凝縮し、液滴や凝固物となってポンプバレルの内壁面に付着することがある。しかし、液化ガスタンクは前記ポンプバレルの内壁面を加熱するヒーターを備える。従って、たとえ前記ポンプバレルの内壁面に空気の進入に起因する液滴や凝固物が付着しても、これらをヒーターで加熱して気化させて除去することができる。
【0043】
第2の態様に係る液化ガスタンクは、第1の態様の液化ガスタンクにおいて、前記ポンプバレルは多重管構造を有し、前記ヒーターは、多重管の層間に配設されていても良い。
【0044】
第2の態様によれば、ヒーターが多重管の内部に配設されるので、前記ヒーターとタンク本体内の液化ガスとを直接接触させることなく、ポンプバレルの内壁を加熱できる。また、ヒーターが発生する熱による液化ガスの蒸発を抑制できる。
【0045】
第3の態様に係る液化ガスタンクは、上記の第1または第2の態様の液化ガスタンクにおいて、前記ポンプバレルの内壁面の温度を計測する温度センサをさらに備えていて良い。
【0046】
第3の態様によれば、ヒーターによるポンプバレルの内壁面の加熱状況を把握することができる。従って、前記内壁面の加熱温度を適温に加熱するよう、前記ヒーターをコントロールすることが可能となる。
【0047】
第4の態様に係る液化ガスタンクは、第3の態様の液化ガスタンクにおいて、前記ヒーターは線状ヒーターからなり、前記温度センサは線状の分布型温度センサからなり、前記ヒーターおよび前記温度センサは前記ポンプバレルの周囲に巻回されている構成とすることができる。
【0048】
第4の態様によれば、ポンプバレルの内壁面を均一温度に加熱し易くなる。また、前記内壁面の温度分布を計測できる。従って、より詳細に前記内壁面の加熱状態をコントロールできる。
【0049】
第5の態様に係る液化ガスタンクは、第1から第4の態様の液化ガスタンクにおいて、前記ポンプバレルは上端開口を有し、前記上端開口を開閉するヘッドプレートと、前記ヘッドプレートを開放しての前記ポンプの吊り上げの前に、前記上端開口が前記ヘッドプレートで閉止された状態で、前記ポンプバレル内を減圧する減圧装置と、をさらに備えていても良い。
【0050】
第5の態様によれば、ヘッドプレートを開放する前に、ポンプバレル内を減圧状態とすることができる。このため、ヘッドプレートを取り外した際に、タンク内の液化ガスが上端開口から外部へ流出することを抑制できる。
【0051】
第6の態様に係る液化ガスタンクは、第1から第5の態様の液化ガスタンクにおいて、前記ヒーターの動作時に、前記ポンプバレル内で発生するガスを排気する排気装置をさらに備えていても良い。
【0052】
第6の態様によれば、ヒーターの加熱により生じる、ポンプバレルの内壁面に付着した凝縮物の気化ガスを、排気装置でポンプバレル内から排出することができる。
【0053】
本開示の第7の態様に係るタンク内ポンプの取出方法は、タンク本体内に貯留した液化ガスを、前記タンク本体を上下方向に貫通するポンプバレルと、前記タンク本体内に設置したポンプとを用いて払い出す構造を備えた液化ガスタンクにおける、前記ポンプの取出方法であって、前記ポンプバレルの内部空間を加圧して当該ポンプバレル内に存在する液化ガスをタンク本体内へ押し出す工程と、前記ポンプバレルを開放して、前記ポンプバレル内を通して前記ポンプを外部に取り出す工程と、前記ポンプバレルの開放後に、前記ポンプバレルの内壁面を加熱する工程と、を含む。
【0054】
第7の態様の方法によれば、ポンプバレル内を通してポンプを外部に取り出す工程において、前記ポンプバレル内に空気が進入し得る。しかし、ポンプバレルの開放後に、前記ポンプバレルの内壁面を加熱する工程を有するので、前記ポンプバレルの内壁面に空気の進入に起因する液滴や凝固物が付着しても、これらをヒーターで加熱して気化させて除去することができる。
【0055】
第8の態様に係る方法は、第7の態様のタンク内ポンプの取出方法において、前記ポンプバレルの開放前に、前記ポンプバレル内を減圧する工程をさらに含んでいてもよい。
【0056】
第8の態様によれば、減圧によりバレル内の液化ガスが排出されるので、ポンプバレルを開放した際に液化ガスが上端開口から外部へ流出することを抑制できる。
【0057】
第9の態様に係る方法は、第7の態様のタンク内ポンプの取出方法において、前記ポンプの取り出し後に、前記ポンプバレルを封止して、前記ポンプバレル内を排気する工程をさらに含んでいても良い。
【0058】
第9の態様によれば、前記加熱する工程で生じた、ポンプバレルの内壁面に付着した凝縮物の気化ガスを、ポンプバレル内から排出することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 液化ガスタンク
10 タンク本体
2 ポンプバレル
20 バレル内空間(内部空間)
2A バレル開口(上端開口)
2B 内壁面
2W 多重管構造部
24 払い出しポート(パージ機構/パージガス排出ポート)
25 ヘッドプレート
3 ポンプ
32 ガス供給装置
33 減圧装置(排気装置)
41 ヒーター(線状ヒーター)
42 光ファイバー温度計(温度センサ)
5 吊り上げ装置
LH 液化水素(液化ガス)
C 凝縮物