(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044540
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】機能性組成物及びそれを用いた機能性紙材、機能性段ボール
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240326BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240326BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20240326BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20240326BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240326BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240326BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240326BHJP
D21H 19/06 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08L101/00
A01P1/00
A01N59/20 A
A01N25/04
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D7/61
D21H19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150119
(22)【出願日】2022-09-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)予稿集 公開日:令和4年7月21日から同月31日 公開場所:日本包装学会webサイト内(http://www.spstj.jp/) (2)オンライン学会発表 開催日:令和4年7月21日 集会名:第31回日本包装学会年次大会 開催場所:オンライン会議システムZoomを用いた口頭発表
(71)【出願人】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】田中 章雄
(72)【発明者】
【氏名】藤本 丹民
(72)【発明者】
【氏名】坂田 進
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
4J038
4L055
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC01
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC19
4H011DA08
4H011DA14
4H011DH02
4H011DH05
4H011DH14
4J002AA001
4J002AC101
4J002BB061
4J002BC061
4J002CK021
4J002DG046
4J038BA021
4J038CB051
4J038CC041
4J038CF031
4J038CG141
4J038DG001
4J038MA15
4J038NA03
4J038PC10
4L055AG03
4L055AG08
4L055AG59
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG71
4L055AG76
4L055AG85
4L055AG89
4L055AG97
4L055AH37
4L055BE08
4L055BE10
4L055EA25
4L055EA31
4L055EA32
4L055FA30
4L055GA06
(57)【要約】
【課題】還元性硫黄化合物の除去性能を有し、抗ウイルス性を発揮する紙材の人体への安全性を向上させる。
【解決手段】水溶性銅化合物及び水不溶性銅化合物中の銅を質量比1:5~1:300で有し、バインダーと水を含有する機能性組成物を紙材へ塗工又は含浸させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性銅化合物及び水不溶性銅化合物を、含有する銅の質量比が1:5~1:300で有し、バインダーと水を含有する機能性組成物。
【請求項2】
上記水溶性銅化合物の含有量が1質量%未満である請求項1に記載の機能性組成物。
【請求項3】
pHが5.0以上6.3未満である請求項2に記載の機能性組成物。
【請求項4】
粘度が100mPa・sec以上である請求項3に記載の機能性組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の機能性組成物を紙又は板紙に塗工又は含浸させた、機能性紙材。
【請求項6】
請求項5に記載の機能性紙材を表ライナに用いた、機能性段ボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防食性及び抗ウイルス性を有する機能性組成物と、それを含有する紙や板紙である機能性紙材、及び機能性段ボールに関する。
【背景技術】
【0002】
包装材として様々な場面で用いられている段ボールの中には、特定の用途に適した製品が検討されている。段ボールは板紙の製造工程に由来する硫化水素等の還元性硫黄化合物を生じることがあり、この還元性硫黄化合物は、銀や銅などと反応してこれらを発錆、変色させてしまうことがある。このため通常の段ボールは、銅や銀を含有する精密機器や宝飾品などの包装には使いにくいという問題があった。
【0003】
これに対して特許文献1には、硫酸銅などの水溶性無機酸塩と水酸化ナトリウムなどのアルカリ成分とバインダーとを含有する防食用組成物が提案されている。この防食用組成物を塗工した段ボールは、還元性硫黄化合物を吸着除去する吸着除去性を発揮し、被包装物に含まれる銅や銀が錆びたり、変色したりすることを防ぐ防錆段ボールとして利用できる。
【0004】
また、特許文献1に記載の防食用組成物中の水溶性無機酸塩の硫酸銅は、抗ウイルス性も発揮することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の防食用組成物を塗工した段ボールは、抗ウイルス性を示すが、効果を発揮する水溶性無機酸塩は生体への有害性があるため、運搬や梱包などの作業中あるいはパーティションなどとして使用中に段ボールの表面に水がかかったり、高湿環境下に長時間置かれたりすると、水溶性である成分が皮膚等に付着して、人体に影響を及ぼすおそれがあった。
【0007】
そこでこの発明は、そのような機能性段ボールについて、人体への安全性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、水溶性銅化合物の一部を水不溶性銅化合物に置換することで、具体的には水溶性銅化合物及び水不溶性銅化合物を、含有する銅の質量比が1:5~1:300で有し、バインダーと水を含有する液状の機能性組成物により、上記の課題を解決したのである。
【0009】
水不溶性銅化合物も防食性や抗ウイルス性を担うことで、皮膚に付着しやすい水溶性銅化合物の量を減らしながら、目的とする効果を発揮させることができる。
【0010】
この発明にかかる機能性組成物は、水溶性銅化合物を硫酸銅5水和物に換算して、その含有量が1質量%未満である形態を採用することができる。
【0011】
また、この発明にかかる機能性組成物は、pHが5.0以上6.3未満である実施形態を採用することができる。
【0012】
さらに、この発明にかかる機能性組成物は、液としての粘度が100mPa・sec以上である形態を採用することができる。
【0013】
この発明にかかる機能性組成物は、これを紙又は板紙である紙材に塗工又は含浸させた機能性紙材として利用することができる。この機能性紙材は、例えば防食性、消臭性、抗ウイルス性を発揮することができる。この機能性紙材を表ライナに用いた段ボールは、これらの効果を発揮するとともに、直接、皮膚が接触しても安全性が高い機能性段ボールとなる。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる機能性組成物は、従来の組成物に比べて同様の機能を発揮しながら、水不溶性銅化合物の比率が高いことで、接触した際に皮膚に付着する量を減らすことができる。これにより、それを塗工又は含浸させた紙材を用いた製品が防食性や抗ウイルス性を発揮するとともに、従来よりも高い安全性を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明について実施形態を挙げながら詳細に説明する。この発明は、防食性及び抗ウイルス性を有する機能性組成物と、それを塗工又は含浸させた機能性紙材、それを用いた機能性段ボールである。
【0016】
この発明にかかる機能性組成物は、水溶性銅化合物及び水不溶性銅化合物を含有する。以下、「銅化合物」という場合はこれらの両方を指す。このうち水溶性銅化合物とは、常温の水に溶解する銅化合物である。具体的には常温の水に対する溶解度が、0.1g/100ml以上である銅化合物である。水溶性であると、皮膚等に接触した場合に付着しやすく、そのような溶解度が高い水溶性銅化合物の占める質量比は少ないことが望ましい。このような水溶性銅化合物の例としては、硫酸銅水和物、塩化第二銅、酢酸銅などが挙げられる。
【0017】
一方で、水不溶性銅化合物とは、常温の水に対して不溶である銅化合物である。具体的には、常温の水に対する溶解度が0.1g/100ml未満である銅化合物であるとよい。水不溶性であると、皮膚等に付着しても影響を及ぼしにくく、大量に使用されていても水溶性銅化合物に比べて、皮膚等に接触した際の安全性が高くなる。このような水不溶性銅化合物の例としては、塩基性硫酸銅、塩基性塩化銅、塩基性炭酸銅が挙げられる。
【0018】
この発明で用いる水溶性銅化合物と水不溶性銅化合物とは、互いに水中で平衡状態を維持し、pHなどの条件によりその質量比が変動するものを採用できる。上記の化合物では、硫酸銅水和物と塩基性硫酸銅とは、水中で平衡状態となりpHにより質量比を調整可能である。また、塩化第二銅と塩基性塩化銅の組合せも同様に、水中で平衡状態になる。
【0019】
この発明にかかる機能性組成物は、水溶性銅化合物と水不溶性銅化合物とに含有される銅を、質量比1:5~1:300で含有することが必要であり、1:10~1:200であると好ましい。1:5よりも水溶性銅化合物の質量比が高いと、機能性組成物を用いた紙材に接触した人の皮膚に付着する量が多くなり、高い安全性を確保するには好ましくなくなる。一方で、1:300よりも水不溶性銅化合物の質量比を高めることは、平衡状態が崩れるため、現実的に難しくなってしまう。
【0020】
この発明にかかる機能性組成物は、水溶性銅化合物が含有する銅の質量から硫酸銅5水和物(CuSO4・5H2O)に換算して、その含有量が1質量%未満であると好ましく、0.5質量%以下であるとより好ましい。1質量%以上であると、機能性組成物を用いた紙材に接触した際に、水溶性銅化合物の付着が無視できない量になりやすい。なお、少ない方が好ましいが、水不溶性銅化合物との平衡であるため、0.05質量%以上となるのが現実的である。
【0021】
この発明にかかる機能性組成物は、水不溶性銅化合物が含有する銅の質量から塩基性硫酸銅(CuSO4・[3Cu(OH)2]・1/2H2O)に換算して、その含有量が3.5質量%以下であると好ましく、3.2質量%以下であるとより好ましい。3.5質量%を超えるとpHの調整が難しくなり、液状である機能性組成物中の水不溶性銅化合物の分散性が低下するため、均一に塗工又は含浸させにくくなるおそれがある。一方で、水不溶性銅化合物の含有量は2.5質量%以上であると好ましく、2.9質量%以上であるとより好ましい。含有量が少なすぎると、効果を発揮させるために機能性組成物を大量に塗工又は含浸させなければならなくなるだけでなく、平衡にある水溶性銅化合物が増えすぎてしまうおそれがある。
【0022】
この発明にかかる機能性組成物は、水溶性銅化合物と水不溶性銅化合物以外に、pHを調整するためのpH調整剤を含んでいてよい。このpH調整剤としては、無機塩が好適に利用でき、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、リン酸3ナトリウム、炭酸ナトリウム、硼砂などが挙げられる。
【0023】
この発明にかかる機能性組成物は、pH調整剤の含有量が1.5質量%以上であると好ましく、1.7質量%以上であるとより好ましい。少なすぎると平衡を維持しにくく、銅化合物の質量比を目標通りに調整しにくくなってしまう。一方で、1.9質量%以下であると好ましく、1.8質量%以下であるとより好ましい。多すぎるとpHが上がりすぎてしまい、銅化合物の質量比を目標通りに調整しにくくなってしまう。
【0024】
この発明にかかる機能性組成物は、上記の組成を有する水溶液及び水分散液であり、pHが5.0以上7未満であると好ましく、6.3未満であるとより好ましい。pH7以上では銅化合物が酸化して色調が黒変し、防食性と抗ウイルス性が低下してしまう。また、pH6.3以上では、液状である機能性組成物中の水不溶性銅化合物の再分散性が低下する傾向にある。一方で、pH5.0以下では、水溶性銅化合物の方に平衡が傾きすぎて、水溶性銅化合物の比率が増加し、皮膚等に接触した際に付着しやすくなりすぎてしまう。
【0025】
また、この発明にかかる機能性組成物は、pH調整の結果として生じる塩を含んでいてもよい。例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0026】
この発明にかかる機能性組成物は、バインダーを含有する。バインダーは組成物を紙材に塗工又は含浸させることで、銅化合物やアルカリ成分などを固定するものである。高分子を含むものであり、水溶性でも水分散性でもよい。具体的には、スチレン-ブタジエンラテックスなどの合成ゴムラテックス、ポリ(メタ)アクリル酸エステル又はこれとスチレンや酢酸ビニル等との共重合体ラテックス、ポリウレタン、一部ケン化ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、メチルセルロースやカルボキシメチルセルロースなどの繊維誘導体、ポリアクリル酸ナトリウムなどの水溶性高分子等が挙げられる。
【0027】
この発明にかかる機能性組成物は、バインダーの含有量が固形分として0.3質量%以上であると好ましく、0.5質量%以上であるとより好ましい。少なすぎると銅化合物が紙材に固定されにくく、剥離したり、脱離したりしてしまうおそれがある。一方で、2質量%以下であると好ましく、1質量%以下であるとより好ましい。多すぎると、塗工又は含浸させる際の粘度が上がりすぎて、作業困難になってしまうおそれがある。
【0028】
この発明にかかる機能性組成物は、その機能を損なわない範囲でその他の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば粘度調整剤などが挙げられる。
【0029】
この発明にかかる機能性組成物は、粘度が100mPa・sec以上であると好ましい。100mPa・sec未満では、紙材へ塗工又は含浸させて表面に銅化合物を固定することが難しくなってしまう。なお、塗工又は含浸の方法は特に限定されず、塗工又は含浸できる範囲であれば粘度は高くてもよいが、500mPa・sec以下であるのが好ましい。
【0030】
この発明にかかる機能性組成物は、上記のpH及び上記の粘度の状態で、紙材に塗工、噴霧、浸漬、含浸、印刷などを行うことにより、防食性、消臭性、抗ウイルス性を発揮する機能性紙材を得ることができる。具体的には、銅化合物により、還元性硫黄化合物を吸収除去することで防食性と消臭性を発揮し、抗ウイルス性も発揮する。
【0031】
本発明に用いる紙材としては特に限定されるものではなく、板紙でも紙でもよい。板紙としては、段ボール原紙、紙器用板紙、その他の板紙等が挙げられる。上記段ボール原紙としては、クラフトライナ、ジュートライナ、内装用ライナ等のライナ、セミ中しん、特しん等の中しん等が挙げられる。上記紙器用板紙としては、マニラボール、白ボール等の白板紙、黄ボール、チップボール、色ボール等が挙げられる。上記その他の板紙としては、紙管原紙やワンプ等が挙げられる。これらの板紙の中には、クラフトライナのように、硫黄化合物を含有し、還元性硫黄化合物を発生するものがあるが、本発明にかかる機能性組成物によりこれを吸収除去できる。また、包装用途を考慮して、これら板紙は、通常、前記組成物を塗工又は含浸させる前の坪量が100g/m2以上950g/m2以下であることが望ましい。一方、紙としては、壁紙、障子紙、包装紙などが挙げられる。これらの紙では、前記組成物を塗工又は含浸させる前の坪量が40g/m2以上100g/m2以下であるとよい。
【0032】
この発明にかかる機能性紙材は、例えば建築内装などの壁紙や障子紙としても用いることができる。また、そのままで包装材として用いたり、段ボールのライナや中芯として用いたりすることもできる。これらの包装材とする場合、家電製品、デバイス、各種電子部品の梱包材として好適に利用できる。水不溶性銅化合物の比率が高いことにより、包装に直接接触しても、皮膚等への付着が従来品より抑えられた安全性の高い包装材とすることができる。特に、この発明にかかる機能性紙材を段ボールの表ライナに用いた場合、防食性、消臭性、抗ウイルス性を発揮し、なおかつ素肌で接触しても皮膚への銅化合物の付着が抑えられて安全性が高い機能性段ボールとすることができる。さらに、この機能性段ボールは、例えばオフィスや避難所などのパーティションとしても好適に使用できる。
【0033】
この発明にかかる機能性紙材が含有する、前記機能性組成物中の銅の含有量は、0.1g/m2以上であると好ましく、0.15g/m2以上であるとより好ましい。0.1g/m2未満では、塗工又は含浸させたことにより得られる効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0034】
この発明にかかる機能性紙材の安全性の指標として、例えば溶出試験を行った際の水への銅化合物の溶出量を用いることができ、それが小さければ安全性が高いと判断できる。
【実施例0035】
次に、この発明を実際に実施した実施例を挙げて、この発明にかかる機能性組成物及び機能性紙材をさらに具体的に示す。まず、用いた原材料などについて列挙する。
【0036】
<銅化合物>
・硫酸銅5水和物・・キシダ化学(株)製:試薬特級、分子量=246.69
<バインダー>
・カルボキシ変性SBRラテックス・・日本エイアンドエル(株)製:ナルスター SR103、固形分44%
・スチレン-アクリル樹脂エマルジョン・・BASFジャパン(株)製:JONCRYL PDX-7357、固形分48%
・エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョン・・住友化学(株)製:スミカフレックス S-355HQ、固形分55%
・1液型ポリウレタンディスパージョン・・三井化学(株)製:タケラックW6061、固形分30%
<粘度調整剤>
・ウレタン変性ポリエーテル・・サンノプコ製:SNシックナー612、固形分40%
・高分子型特殊ノニオン系増粘剤・・ADEKA製:アデカノール UH420、固形分30%
<pH調整剤>
・5質量%水酸化ナトリウム・・キシダ化学(株)製
【0037】
次に、測定方法とサンプルの作製方法について説明する。
<pH試験>
(株)堀場製作所製:pHメーターF-51により測定した。
【0038】
<粘度測定>
(株)トキメック製:B型粘度計により23℃で測定した。粘度が100mPa・S以下では、No.1ローターを用いて30rpmで測定した。粘度が100mPa・S以上では、No.2ローターを用いて60rpmで測定した。
【0039】
<色調観察>
各例にかかる機能性組成物を調製してから40℃で3日保管した後、銅化合物が酸化されて黒変していないこと等を確認するため、上澄みと沈降物の色調を目視で観察した。
【0040】
<再分散性測定>
各例にかかる機能性組成物100gをポリ容器に入れて密栓し、東京理化器械(株)製マルチシェーカーMMS300で100rpm×10分間振とうして、5分間静置した後に液の状態を目視で観察した。均一な分散状態を維持したものを「〇」と、沈降物が見られるものを「×」と評価した。
【0041】
<水不溶性銅化合物含有量測定>
微量高速遠心機(日立工機(株)製:himac CF15R)を用いて、ポリ容器に入れた各例にかかる機能性組成物を10000Gで30分間遠心分離した後、沈降物をろ紙でろ過し、蒸留水で水洗してから、熱風乾燥機にて105℃で乾燥させた。得られた残渣の質量を測定し、機能性組成物中の水不溶性銅化合物の銅含有量を算出した。塩基性硫酸銅としての定性試験は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(日本電子(株)製:JSM-6010PLUS/LA)を用いて、Cu・S・Oを分析して行った。
【0042】
<水溶性銅化合物含有量測定>
上記の水不溶性銅化合物含有量測定において、各例にかかる機能性組成物を遠心分離して得られた上澄み液を、偏光ゼーマン原子吸光光度計(日立ハイテクサイエンス(株)製:Z-2010)を用いて測定して、銅標準液による検量線から上澄み液中の銅イオン濃度を算出し、機能性組成物中の水溶性銅化合物の銅含有量を算出した。
【0043】
<塗工サンプルの作製手順>
ライナ原紙(レンゴー(株)製:RKA170、坪量170g/m2)を縦25cm×横20cmに裁断し、ガラス板に粘着テープで貼り付けた。一方、上記の各原材料を、表1に記載の配合比で調製し、同表に示す物性に調整された機能性組成物を得た。ガラス板に貼り付けたライナ原紙に対して、各例の機能性組成物をバーコーターにより乾燥前の湿潤状態の塗工量が10g/m2となるよう塗工した後、熱風乾燥機中で105℃×1分間乾燥して塗工サンプルを得た。なお、原材料に用いた硫酸銅5水和物が、機能性組成物及び塗工サンプルにおいては、機能性組成物として調整されたpHに応じて、水溶性銅化合物である硫酸銅5水和物のままであるものと、水不溶性銅化合物である塩基性硫酸銅になったものとに分かれている。
【0044】
<防食性・消臭性:硫化水素除去性能試験>
各例において作成した塗工サンプルを、6.5cm角に裁断してテトラーバッグに入れ、濃度248ppmの硫化水素ガス1000mlを封入し、23℃で10分間静置した。その後、バッグ内の硫化水素濃度(ppm)をガス検知管(光明理化学工業(株)製:120SB型)で測定し、試験前時の硫化水素ガス濃度から除去率(%)を算出した。
【0045】
<溶出試験>
各例において作成した塗工サンプルを1cm角に裁断して三角フラスコに入れ、浸出用液として蒸留水2mlを加えて、室温にて前記マルチシェーカーで100rpm×30分間振とうすることにより溶出試験を行った。得られた試験溶液中の銅イオン濃度を、偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いて分析し、銅イオン濃度が1mg/l未満のものを「〇」と、1mg/l以上のものを「×」と評価した。
【0046】
<抗ウイルス性試験>
ISO21702法により、5cm角の塗工サンプルを試料、上記ライナ原紙を試験対照として試験した。試験には、インフルエンザAウイルスとしてH3N2:ATCC VR-1679を用いた。なお、上記ライナ原紙については、ナイロンフィルムを試験対照として抗ウイルス性を評価した。判定基準としては、抗ウイルス活性値R=Ut-At(Ut:試験対照のウイルス感染価の常用対数値、At:試料のウイルス感染価の常用対数値)を算出し、2>Rであるものを抗ウイルス性なしの「×」と、2≦R≦3であるものを抗ウイルス性ありの「〇」と、3<Rであるものを優れた抗ウイルス性を示す「◎」と評価した。
【0047】
【0048】
pHを調整した実施例1~3では、pHが上昇するにつれ上澄みの色が薄くなり、着色の元であり水溶性銅化合物である硫酸銅5水和物としての銅の質量比が減少した。これにより、これら実施例の範囲ではpHが高いほど、溶出量が小さく安全性がより高い塗工サンプルが得られた。この塗工サンプルは、硫化水素除去試験、抗ウイルス性試験において、いずれも良好な結果を示した。実施例3からバインダーを変更した実施例4,5でも、ほぼ同様の好適な結果を示した。増粘剤を変更した実施例6でも、ほぼ同様の好適な結果を示した。
【0049】
比較例1に対照となるライナ原紙の硫化水素除去試験、抗ウイルス性試験の結果を示す。硫化水素除去性能はほとんど発揮されず、抗ウイルス性も十分に示されなかった。
【0050】
実施例1においてpH調整剤を含めず、組成剤のpHが3.5となった比較例2では、原材料に用いた硫酸銅5水和物がそのままの状態で組成物に含まれるものとなった。塗工サンプルの硫化水素除去性能は低く、高い溶出量を示したので安全性が十分とは言えない結果となった。実施例1においてpH調整剤の量を減らし、pHが4.2となった比較例3では、水溶性銅化合物である硫酸銅5水和物中の銅の質量比が高く、硫化水素除去性能と抗ウイルス性は発揮できたものの溶出量が多すぎる結果となった。pH調整剤を実施例6からさらに増加させていった比較例4~6では、組成物のpHの値が高くなりすぎて銅は水不溶性銅化合物として存在し、再分散性に問題を生じてしまい、粘度も低下して塗工しにくいものとなった。また、比較例5、6では、硫化水素除去性能も低下してしまった。