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  • 特開-変位計測方法および変位計測システム 図1
  • 特開-変位計測方法および変位計測システム 図2
  • 特開-変位計測方法および変位計測システム 図3
  • 特開-変位計測方法および変位計測システム 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044573
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】変位計測方法および変位計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/89 20060101AFI20240326BHJP
   E21D 9/093 20060101ALI20240326BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
G01S13/89
E21D9/093 F
E21D9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150179
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩城 英朗
(72)【発明者】
【氏名】多田 浩幸
【テーマコード(参考)】
2D054
5J070
【Fターム(参考)】
2D054AB07
2D054AC20
2D054GA06
2D054GA82
5J070AC17
5J070AE07
5J070AF01
5J070AK04
5J070BE01
(57)【要約】
【課題】位相雑音の影響を低減することができる変位計測方法および変位計測システムを提供する。
【解決手段】対象物の前方から前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波をレーダーで受信するステップS1と、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求めるステップS2と、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求めるステップS3とを有する変位計測方法であって、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の前方から前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波をレーダーで受信するステップと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求めるステップとを有する変位計測方法であって、
前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うことを特徴とする変位計測方法。
【請求項2】
対象物の前方に配置され、前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波を受信するレーダーと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求める変位計測手段とを備える変位計測システムであって、
前記変位計測手段は、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うことを特徴とする変位計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダーの複素振幅データから観測対象物の変位を計測する変位計測方法および変位計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダーを用いてトンネル切羽の状態を監視する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この方法は、トンネル坑内に配置したイメージングレーダーで切羽に電波を照射し、切羽から反射した観測データを取得し、解析することで、切羽面における振動および変位を計測する。
【0003】
上記のイメージングレーダーや、人工衛星や航空機に搭載され地表の変位をとらえる合成開口レーダー(SAR)で取得される観測データは、観測対象から散乱される電波の強さ(散乱波強度)を実部Aとし、虚部をその散乱波の位相φとする複素振幅データで記される。これらのデータから観測対象の変位を求めるためには、観測初期の位相をφ0とし、各々の観測タイミングに応じた位相との差分(位相差)をφiとして、式(1)に示す時系列アンラップ処理を行うことで、アンラップ位相差uiを求める。求めたuiに対して、式(2)に示すようにレーダーの送信波の波長λを乗じる処理を行うことで、対象物の変位diが求められる。
【0004】
【数1】
【0005】
【数2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-219333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、レーダーと観測対象物との間に建機や車両、あるいは人などの何らかの障害物が入り、対象物が影となった場合や、レーダーから対象物に対して送信(照射)される電波の強さに対して対象物から反射・散乱される電波の強さが低い場合、さらにレーダーからの送信波を強く反射する物体、例えば金属が近接した場合には、観測データの虚部、すなわち位相に対する雑音が増大し、上記のアンラップ処理を行うと、対象物に異常な変位が生じたような処理結果となることがある。このため、レーダーに固有の位相雑音の影響を低減することができる技術が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、位相雑音の影響を低減することができる変位計測方法および変位計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る変位計測方法は、対象物の前方から前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波をレーダーで受信するステップと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求めるステップとを有する変位計測方法であって、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る変位計測システムは、対象物の前方に配置され、前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波を受信するレーダーと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求める変位計測手段とを備える変位計測システムであって、前記変位計測手段は、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る変位計測方法によれば、対象物の前方から前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波をレーダーで受信するステップと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求めるステップとを有する変位計測方法であって、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うので、位相雑音の影響を低減することができる。このため、変位計測をより適切に行うことができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る変位計測システムによれば、対象物の前方に配置され、前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波を受信するレーダーと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求める変位計測手段とを備える変位計測システムであって、前記変位計測手段は、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うので、位相雑音の影響を低減することができる。このため、変位計測をより適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る変位計測方法の実施の形態を示す概略フロー図である。
図2図2は、対象物とレーダーとの間に障害物がない静止時の計測例を示す図である。
図3図3は、静止時の計測値を用いたAminの設定例を示す図である。
図4図4は、計測値の時間波形であり、(1)は散乱波強度、(2)は比較例により求めた変位、(3)は実施例により求めた変位である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る変位計測方法および変位計測システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
(変位計測方法)
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る変位計測方法は、対象物の前方から対象物に電波を照射するとともに対象物で散乱した散乱波をレーダーで受信するステップS1と、レーダーで受信した散乱波の強度を実部とし、散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求めるステップS2と、求めた位相差とレーダーの電波の波長に基づいて対象物の変位を求めるステップS3とを有する。ステップS3の処理では、上記の式(2)を用いることができる。なお、本実施の形態の対象物はトンネル切羽を想定しているが、本発明はこれに限るものではない。
【0016】
上記のステップS2において、従来は無条件に複素振幅データの虚部、すなわち位相に対して上記の式(1)のように時系列アンラップ処理を行っていた。これに対し、本発明では、複素振幅データの実部、すなわち散乱波強度が、散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合にのみ、アンラップ処理を行う。すなわち、レーダーと観測対象物の間に障害物などがなく、対象物に変位や振動が生じていない静止時において取得した散乱波強度や対象物と同種の材料を用いた観測結果を用いて一定の範囲AminからAmaxを設定し、実際の観測における対象物の散乱波強度AiがAminからAmaxの範囲内か否かを示す条件(パラメータf)を加えた式(3)を導入し、これを用いてアンラップ処理を行う。これにより、位相雑音の影響を低減することができ、変位計測をより適切に行うことができる。
【0017】
【数3】
【0018】
次に、上式(3)のパラメータfの設定について補足説明する。
図2は、トンネル切羽全面に対して手前の三脚上のレーダーから電波を照射し、切羽(対象物)の変位を計測する場合を例示したものである。対象物の散乱波は、材質、表面の凸凹およびレーダーと対象物との相対位置(角度)などで一定しないため、式(3)のAminおよびAmaxを設定するために、まず図2の例のように、対象物とレーダーの間に建機などの障害物がなく、かつ作業など対象物に動きなどがない静止時に、対象物に対して一定の間、レーダーから電波を送信し、対象物からの散乱波を受信する。
【0019】
受信した散乱波の強度Aおよび位相φを、強度AのRMS(二乗平均平方根:Root Mean Square)値と、位相φから従来技術(式(1)、(2))で求める変位dのばらつき(標準偏差)σで整理すると図3のようになる。この図から、レーダーに固有の位相雑音の影響を受けずにアンラップ誤差を生じないAの下限値を求めることができる。この値をAminとすることができる。
【0020】
図3では、静止している対象物から受信した散乱波の位相φから、変位dを求めた際の変位計測値のゆらぎ(=ばらつきσ)が1mm未満の範囲を位相ノイズが低く、散乱波強度が十分に得られている範囲と考え、その下限値(図3の例では約150[a.u.])をAminと設定した。なお、計測に求められている精度がさらに微細な場合、例えば計測値のばらつきを0.1mm以内としたい場合は、Aminの設定は異なり、本例におけるAminは250[a.u.]となる。
【0021】
一方、障害物となる建機などは、概ね表面に凸凹が多数ある金属製であり、同様に静止時の計測を行うと散乱波強度Aは上記の図3の計測例より大きい。したがって、対象物からの散乱波φから変位dを正しく求めるためには、静止した対象物からの散乱波強度RMS値の上限をAmaxと設定すればよい。なお、上記の図3の例ではAmaxは約3000[a.u.]となる。
【0022】
図2の計測例において、Amin=250、Amax=10000に設定した場合の計測結果を図4に示す。図4(1)は観測された散乱波の強度、(2)は比較例により計測された変位、(3)は本発明の実施例により計測された変位である。対象物とレーダーとの間に建設機械のドリルアームが数回横切る条件下で計測している。
【0023】
図4(1)に示すように、区間2および区間4では、対象物(切羽)の前面に建機などの障害物があり、対象物(注目点)の散乱波強度がAminより低いためf=0となる。図4(2)の比較例では、区間2および区間4におけるアンラップ処理で誤差が生じ、この結果、区間3および区間5で正しい変位が得られないことがわかる。例えば、区間5の変位は40mmを超過した異常値を示している。これに対し、図4(3)の実施例では、同区間(区間3および区間5)において0.4mm程度の微小変位を計測できており、比較例に比べてより正しい変位が得られることがわかる。したがって、本実施例によれば、位相雑音の影響を低減することができ、誤差を含めないより正しい変位を計測することができる。
【0024】
(変位計測システム)
本発明の実施の形態に係る変位計測システムは、上記の実施の形態に係る変位計測方法を、コンピュータを用いて処理実行するシステムとして具現化したものである。上記のステップS2、S3の処理が変位計測手段に相当する。本実施の形態によれば、上記と同様の効果を奏することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明に係る変位計測方法によれば、対象物の前方から前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波をレーダーで受信するステップと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求めるステップとを有する変位計測方法であって、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うので、位相雑音の影響を低減することができる。このため、変位計測をより適切に行うことができる。
【0026】
また、本発明に係る変位計測システムによれば、対象物の前方に配置され、前記対象物に電波を照射するとともに前記対象物で散乱した散乱波を受信するレーダーと、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度を実部とし、前記散乱波の位相を虚部とする複素振幅データにおいて、前記位相のアンラップ処理を行うことで位相差を求め、求めた位相差と前記レーダーの電波の波長に基づいて前記対象物の変位を求める変位計測手段とを備える変位計測システムであって、前記変位計測手段は、前記レーダーで受信した前記散乱波の強度が、前記散乱波の位相雑音の影響を低減するために予め設定された所定の範囲内である場合に、前記位相のアンラップ処理を行うので、位相雑音の影響を低減することができる。このため、変位計測をより適切に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上のように、本発明に係る変位計測方法および変位計測システムは、レーダーによるトンネル切羽などの変位計測に有用であり、特に、観測データにおける位相雑音の影響を低減するのに適している。
図1
図2
図3
図4