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特開2024-44583プラント応答推定装置、プラント応答推定方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044583
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】プラント応答推定装置、プラント応答推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/04 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G05B13/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150202
(22)【出願日】2022-09-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】丹下 吉雄
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004GB02
5H004GB03
5H004GB04
5H004KB01
5H004KC28
5H004LA12
(57)【要約】
【課題】操業中のプラントの運転データから応答モデルのパラメータを安定的に推定することができる技術を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様によるプラント応答推定装置は、制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算するように構成されている推定計算部と、前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算するように構成されている安定化計算部と、前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算するように構成されている応答計算部と、を有し、前記推定計算部は、前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算部によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算するように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算するように構成されている推定計算部と、
前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算するように構成されている安定化計算部と、
前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算するように構成されている応答計算部と、
を有し、
前記推定計算部は、
前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算部によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算するように構成されている、プラント応答推定装置。
【請求項2】
前記安定化計算部は、
前記モデルパラメータの推定値を表すベクトルの各要素から所定の統計量を計算し、前記統計量により前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算するように構成されている、請求項1に記載のプラント応答推定装置。
【請求項3】
前記プラント応答モデルは多項式モデルであり、
前記安定化計算部は、
前記多項式モデルの次元毎に、前記モデルパラメータの推定値を表すベクトルの各要素のうち、前記次元方向の要素から前記統計量を計算し、
前記次元毎に、前記次元方向の要素を前記統計量で置換した第1のパラメータを計算し、
前記第1のパラメータと前記モデルパラメータとを所定の比率で混合した第2のパラメータを計算し、
前記第2のパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第1の予測誤差が、前記モデルパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第2の予測誤差よりも所定以上改善している場合は前記第2のパラメータを前記安定化モデルパラメータとし、前記第1の予測誤差が前記第2の予測誤差よりも所定以上改善していない場合は前記モデルパラメータを前記安定化モデルパラメータとする、ように構成されている、請求項2に記載のプラント応答推定装置。
【請求項4】
前記多項式モデルは、ARMAモデル又はARMAXモデルであり、
前記モデルパラメータは、前記ARMAモデル又はARMAXモデルの係数を要素とするベクトルで表される、請求項3に記載のプラント応答推定装置。
【請求項5】
前記安定化計算部は、
前記ARMAモデル又はARMAXモデルの自己回帰係数の平均値を表す第1の重心と、前記ARMAモデル又はARMAXモデルの移動平均係数の平均値を表す第2の重心とを前記統計量として計算し、
前記自己回帰係数を前記第1の重心、前記移動平均係数を前記第2の重心でそれぞれ置換することで、前記第2のパラメータを計算する、ように構成されている、請求項4に記載のプラント応答推定装置。
【請求項6】
前記ARMAモデル又はARMAXモデルには、前記制御対象プラントの定常状態を表すオフセット項が含まれる、請求項4又は5に記載のプラント応答推定装置。
【請求項7】
制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算する推定計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算する安定化計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算する応答計算手順と、
をコンピュータが実行し、
前記推定計算手順は、
前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算手順によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算する、プラント応答推定方法。
【請求項8】
制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算する推定計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算する安定化計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算する応答計算手順と、
をコンピュータに実行させ、
前記推定計算手順は、
前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算手順によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント応答推定装置、プラント応答推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
温調制御装置やPLC(Programmable Logic Controller)、DCS(Distributed Control System)等の制御装置、パーソナルコンピュータや組み込み制御機器上で実装される制御装置等が産業上広く利用されている。
【0003】
また、制御対象の制御量を目標値に追従させることを目的とする制御方式として、PID(Proportional-Integral-Differential)制御、モデル予測制御、内部モデル制御、LQG(Linear-Quadratic-Gaussian)制御、H2制御、H∞制御等の各種の制御方式が知られている。
【0004】
モデル予測制御は、制御対象の状態空間モデルや将来の時間応答モデルを用いた最適化計算を逐次的に行うことで望ましい応答を得る方式であり、産業界で広く用いられている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。このようなモデル予測制御等で用いられる線形予測モデルに関してそのモデルパラメータを推定(同定)する手法として、逐次最小2乗法(RLS法:Recursive Least Squares法)やカルマンフィルタ法等が知られている(例えば、非特許文献2、非特許文献3)。
【0005】
なお、制御対象プラントの定常状態を表すオフセット項が含まれるモデルパラメータを推定する技術も知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-21411号公報
【特許文献2】特許第7047966号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ヤン M. マチエヨフスキー,「モデル予測制御 制約のもとでの最適制御」,東京電機大学出版局,2005
【非特許文献2】足立 修一,「MATLABによる制御のためのシステム同定」,東京電機大学出版局,1996
【非特許文献3】足立 修一,「MATLABによる制御のための上級システム同定」,東京電機大学出版局,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
逐次最小2乗法やカルマンフィルタ法は、操業中(運転中)のプラントのデータから逐次的にモデルパラメータを推定できる点で大変有益であるが、モデルパラメータの推定値が逐次的に更新されるため以下の2つの課題がある。
【0009】
1つ目の課題は、真値に収束するまでの途中の段階ではモデルパラメータの推定値の信頼性が担保されないという点である。2つ目の課題は、真のモデルパラメータの次数が事前に未知であるため、推定対象のモデルパラメータが過剰な次数を持つ場合には多重共線性が生じ得るという点である。
【0010】
上記の2つの課題により、例えば、本来安定であるはずのプラントに対して不安定極を持つようなモデルパラメータが途中で計算されたり、観測ノイズの影響によってモデルパラメータが大きく変動したり、多重共線性によって複数の局所最適解が生じたりする等といった不安定性が生じる恐れがある。
【0011】
オンラインでモデルパラメータの更新と制御対象の制御とを実現する場合、モデルパラメータの不安定性が制御に重要な影響を与えかねないため、収束途中におけるモデルパラメータの安定性を確保することは重要である。
【0012】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたもので、操業中のプラントの運転データから応答モデルのパラメータを安定的に推定することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様によるプラント応答推定装置は、制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算するように構成されている推定計算部と、前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算するように構成されている安定化計算部と、前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算するように構成されている応答計算部と、を有し、前記推定計算部は、前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算部によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算するように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
操業中のプラントの運転データから応答モデルのパラメータを安定的に推定することができる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第一の実施形態に係るプラント応答推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図2】第一の実施形態に係るプラント応答推定装置の機能構成の一例を示す図である。
図3】バッファ部の動作の一例を説明するための図である。
図4】モデルパラメータ推定処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図5】安定化モデルパラメータ計算処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図6】ステップ応答計算部の動作の一例を説明するための図である。
図7】ステップ応答計算処理の一例を説明するためのフローチャートである。
図8】第二の実施形態に係るプラント応答推定装置の機能構成の一例を示す図である。
図9】パラメータ変換部の動作の一例を説明するための図である。
図10】一実施例におけるプラントのステップ応答を説明するための図である。
図11】一実施例で対象とするデータ1の一例を説明するための図である。
図12】一実施例におけるモデルパラメータの推定結果(安定化モデルパラメータ計算部なし)の一例を説明するための図(その1)である。
図13】一実施例におけるモデル予測制御(安定化モデルパラメータ計算部なし)の制御結果の一例を説明するための図(その1)である。
図14】一実施例におけるモデルパラメータの推定結果(安定化モデルパラメータ計算部あり)の一例を説明するための図(その1)である。
図15】一実施例におけるモデル予測制御(安定化モデルパラメータ計算部あり)の制御結果の一例を説明するための図(その1)である。
図16】一実施例で対象とするデータ2の一例を説明するための図である。
図17】一実施例におけるモデルパラメータの推定結果(安定化モデルパラメータ計算部なし)の一例を説明するための図(その2)である。
図18】一実施例におけるモデル予測制御(安定化モデルパラメータ計算部なし)の制御結果の一例を説明するための図(その2)である。
図19】一実施例におけるモデルパラメータの推定結果(安定化モデルパラメータ計算部あり)の一例を説明するための図(その2)である。
図20】一実施例におけるモデル予測制御(安定化モデルパラメータ計算部あり)の制御結果の一例を説明するための図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の各実施形態では、操業中のプラントの運転データから応答モデルのパラメータ(モデルパラメータ)を安定的に推定すると共に、そのパラメータによりプラント応答を推定することができるプラント応答推定装置10について説明する。なお、操業中とはプラントが正常に稼働し、通常の運転を行っている状態のことであり、例えば、オンライン中、運転中、運用中等と呼ばれてもよい。また、プラントとは1以上の機械、機器、装置等で構成される産業設備のことであり、プラント応答モデルを用いたモデル予測制御によって制御される制御対象である。プラントの具体例としては、例えば、石油化学プラント、食品プラント、鉄鋼プラント、発電プラント等といったものが挙げられるが、これらは一例であって、これらに限られるものではない。
【0017】
[第一の実施形態]
以下、第一の実施形態について説明する。
【0018】
<プラント応答推定装置10のハードウェア構成例>
本実施形態に係るプラント応答推定装置10のハードウェア構成例を図1に示す。図1に示すように、本実施形態に係るプラント応答推定装置10は、入力装置11と、表示装置12と、外部I/F13と、通信I/F14と、プロセッサ15と、メモリ装置16とを有する。これらの各ハードウェアは、それぞれがバス17を介して通信可能に接続される。
【0019】
入力装置11は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、各種物理ボタン等である。表示装置12は、例えば、ディスプレイ、表示パネル等である。なお、プラント応答推定装置10は、例えば、入力装置11及び表示装置12のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0020】
外部I/F13は、記録媒体13a等の外部装置とのインタフェースである。記録媒体13aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0021】
通信I/F14は、プラント応答推定装置10を通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。プロセッサ15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の各種演算装置である。メモリ装置16は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の各種記憶装置である。
【0022】
なお、図1に示すハードウェア構成は一例であって、プラント応答推定装置10はこれに限られるものではなく、他のハードウェア構成であってもよい。例えば、プラント応答推定装置10は、複数のプロセッサ15や複数のメモリ装置16を有していてもよいし、図示したハードウェアのうちの一部を有していなくてもよいし、図示したハードウェア以外の種々のハードウェアを有していてもよい。
【0023】
<プラント応答推定装置10の機能構成例>
本実施形態に係るプラント応答推定装置10の機能構成例を図2に示す。図2に示すように、本実施形態に係るプラント応答推定装置10は、モデルパラメータ推定部101と、ステップ応答計算部102とを有する。これら各部は、例えば、プラント応答推定装置10にインストールされた1以上のプログラムが、プロセッサ15等に実行させる処理により実現される。
【0024】
モデルパラメータ推定部101は、サンプリング周期Δ毎に、制御対象のプラント(又はその運転状態を計測するセンサ等の機器)から運転データの観測値(制御量y、操作量u及び外乱v)を受信し、そのサンプリング周期Δに応じて、プラント応答モデルのモデルパラメータを推定する。なお、運転データは、例えば、計測データや観測データ等と呼ばれてもよい。
【0025】
ここで、時刻をtとすれば制御量y、操作量u及び外乱vはそれぞれy(t)、u(t)及びv(t)と表され、各サンプリング時刻t(kはサンプリング時刻を表すインデックス)に関してtk+1-t=Δが成り立つ。なお、kは0以上の整数である。以下では、特に断らない限り、各サンプリング時刻tをそのインデックスkと同一視し、y(k)、u(k)及びv(k)とも表すことにする。
【0026】
また、以下では、プラント応答モデルは、パラメータθを持つプラント応答関数Sθ(t)で表されるものとして、パラメータθをモデルパラメータということにする。プラント応答モデルとしては様々なプラント応答関数Sθで表現されるモデルを採用することが可能であるが、以下では、主に、ARMAモデル(Autoregressive Moving Average Model)といった多項式モデルを想定する。プラント応答モデルがARMAモデル等といった多項式モデルである場合、モデルパラメータθはその多項式の係数を要素として持つベクトルとなる。なお、プラント応答モデルとしてARMAモデル以外の様々なモデルが採用可能であることは言うまでもない。
【0027】
ステップ応答計算部102は、モデルパラメータ推定部101によって推定されたモデルパラメータ(以下、モデルパラメータ推定値ともいう。)θを用いて、与えられた時刻tにおけるプラントのステップ応答の推定値(以下、ステップ応答推定値ともいう。)Sθ(t)を計算する。なお、ステップ応答とは、操作量としてステップ信号がプラントに印加されたときの制御量のことである。
【0028】
ここで、モデルパラメータ推定部101には、バッファ部111と、状態ベクトル変換部112と、逐次推定計算部113と、安定化モデルパラメータ計算部114とが含まれる。
【0029】
バッファ部111は、或る所定の期間における制御量y(k)、操作量u(k)及び外乱v(k)をメモリ装置16に蓄積(バッファ)する。状態ベクトル変換部112は、メモリ装置16にバッファされている制御量y(k)、操作量u(k)及び外乱v(k)の再サンプリングを行って、状態ベクトルと呼ぶベクトルを作成する。逐次推定計算部113は、状態ベクトルを用いて、RLS法により、プラント応答モデルのモデルパラメータを推定する。安定化モデルパラメータ計算部114は、モデルパラメータから安定化モデルパラメータを計算する。安定化モデルパラメータとは、モデルパラメータを或る統計量(例えば、自己回帰係数の平均値、移動平均係数の平均値等)により安定化したベクトルのことである。以下では、安定化モデルパラメータをθと表し、またサンプリング時刻tにおける安定化モデルパラメータをθ(k)と表す。
【0030】
<バッファ部111の動作例>
サンプリング時刻tにおける制御量バッファをY(k)、操作量バッファをU(k)、外乱バッファをV(k)として、これらの各バッファは以下のベクトルで表されるものとする。
【0031】
【数1】

すなわち、制御量バッファY(k)にはk-Bからkまでの制御量y、操作量バッファU(k)にはk-Bからkまでの操作量u、外乱バッファV(k)にはk-Bからkまでの外乱vがそれぞれ格納されているものとする。ここで、B、B及びBはそれぞれ0以上の整数であり、制御量バッファ、操作量バッファ及び外乱バッファの大きさを決めるパラメータである。これらのB、B及びBはメモリ装置16のサイズ等に応じて、適宜、その値が決定される。
【0032】
このとき、バッファ部111は、制御量y(k)、操作量u(k)及び外乱v(k)を受信すると、図3に示すように、制御量y(k)と制御量バッファY(k-1)から制御量バッファY(k)、操作量u(k)と操作量バッファU(k-1)から操作量バッファU(k)、外乱v(k)と外乱バッファV(k-1)から外乱バッファV(k)にそれぞれ更新する。
【0033】
具体的には、バッファ部111は、制御量バッファY(k-1)に格納されているy(k-B-1)を削除した上で、新たに観測された制御量y(k)を格納することで、y(k-B)からy(k)までの制御量が格納された制御量バッファY(k)に更新する。同様に、バッファ部111は、操作量バッファU(k-1)に格納されている操作量u(k-B-1)を削除した上で、新たに観測された操作量u(k)を格納することで、u(k-B)からu(k)までの操作量が格納された操作量バッファU(k)に更新する。同様に、バッファ部111は、外乱バッファV(k-1)に格納されている外乱v(k-B-1)を削除した上で、新たに観測された外乱v(k)を格納することで、v(k-B)からv(k)までの外乱が格納された外乱バッファV(k)に更新する。
【0034】
<状態ベクトル変換部112の動作例>
再サンプリング周期をDとする。このとき、状態ベクトル変換部112は、制御量バッファY(k)、操作量バッファU(k)及び外乱バッファV(k)が更新されると、これらの各バッファY(k)、U(k)及びV(k)から再サンプリング周期Dで再サンプリングを行って、以下の再サンプリング制御量ベクトルY(k)、再サンプリング操作量ベクトルU(k)及び再サンプリング外乱ベクトルV(k)をそれぞれ作成する。
【0035】
【数2】
ここで、N、M及びLはプラント応答モデルに応じて決定されるパラメータ(具体的には、NはARMAモデルの制御量yに関する項の係数の数、Mは操作量uに関する項の係数の数+1、Lは外乱vに関する項の係数の数+1)である。また、再サンプリング制御量ベクトルY(k)ではARMAモデルにならい、現在のサンプリング時刻を表す要素y(k)がスキップされる(つまり、y(k)は再サンプリングされない。)。
【0036】
なお、一般に、N、M及びLの値は大きい方が多様な表現が可能で、プラント応答の高精度な予測が期待できるが、モデルパラメータθの推定のために多くの計算資源やメモリ量が必要となる。
【0037】
そして、状態ベクトル変換部112は、再サンプリング制御量ベクトルY(k)、再サンプリング操作量ベクトルU(k)及び再サンプリング外乱ベクトルV(k)から以下により状態ベクトルξ(k)を作成する。
【0038】
【数3】
すなわち、状態ベクトルξ(k)とは、Y(k)、U(k)及びV(k)の要素を持つベクトルのことである。これにより、再サンプリング制御量ベクトルY(k)、再サンプリング操作量ベクトルU(k)及び再サンプリング外乱ベクトルV(k)が状態ベクトルξ(k)に変換されたことになる。
【0039】
<逐次推定計算部113の動作例>
逐次推定計算部113は、状態ベクトルξ(k)が作成されると、この状態ベクトルξ(k)を用いて、モデルパラメータθの値を推定する。すなわち、逐次推定計算部113は、サンプリング時刻t毎に、逐次的にモデルパラメータθの値を推定する。
【0040】
或るkに関してモデルパラメータθの値を推定する処理について、図4を参照しながら説明する。なお、以下では、サンプリング時刻tにおけるモデルパラメータθ又はその推定値をθ(k)とも表す。
【0041】
ステップS101:まず、逐次推定計算部113は、モデルパラメータθと共分散行列Pとを初期化するか否かを判定する。ここで、初期化すると判定される場合としては、例えば、初回計算時(つまり、k=0のとき)、ユーザ等により初期化指示が行われたとき等が挙げられる。
【0042】
モデルパラメータθと共分散行列Pとを初期化すると判定した場合(ステップS101でYES)、逐次推定計算部113は、ステップS102に進む。一方で、モデルパラメータθと共分散行列Pとを初期化すると判定しなかった場合(ステップS101でNO)、逐次推定計算部113は、ステップS103に進む。
【0043】
ステップS102:逐次推定計算部113は、サンプリング時刻tのインデックスkをk=0に初期化すると共に、θ(0)=θ及びP(0)=Iと初期化する。ここで、θは予め設定されたモデルパラメータの初期値、Iは予め設定された任意の行列(例えば、単位行列等)である。
【0044】
ステップS103:逐次推定計算部113は、安定化モデルパラメータ計算部114を呼び出して安定化モデルパラメータθ(k-1)を計算する。なお、安定化モデルパラメータθ(k-1)の計算方法については後述する。
【0045】
ステップS104:逐次推定計算部113は、安定化モデルパラメータθ(k-1)をモデルパラメータ推定値θ(k-1)に設定する。すなわち、逐次推定計算部113は、θ(k-1)←θ(k-1)とする。これは、モデルパラメータ推定値θ(k-1)を安定化モデルパラメータθ(k-1)に変換している、ということもできる。
【0046】
ステップS105:逐次推定計算部113は、モデルパラメータ推定値θ(k-1)と状態ベクトルξ(k)と制御量y(k)とを用いて、予測誤差ε(k)を計算する。予測誤差ε(k)は、例えば、ε(k)=y(k)-ξ(k)Τθ(k-1)により計算される。なお、Τは転置を表す。
【0047】
ステップS106:逐次推定計算部113は、共分散行列P(k-1)を以下により更新して共分散行列P(k)を得る。
【0048】
【数4】
ここで、λは0<λ≦1を取る忘却係数であり、予め設定された値である。忘却係数λは過去データを忘却するための係数であり、0に近いほど急激に過去データの影響が減少し、1に近いほど過去データの影響が保持される。
【0049】
ステップS107:そして、逐次推定計算部113は、モデルパラメータ推定値θ(k-1)を以下により更新してモデルパラメータ推定値θ(k)を得る。
【0050】
【数5】
これにより、サンプリング時刻tにおけるモデルパラメータ推定値θ(k)が得られる。
【0051】
<安定化モデルパラメータ計算部114の動作例>
安定化モデルパラメータ計算部114は、逐次推定計算部113から呼び出されると、安定化モデルパラメータθ(k-1)を計算する。すなわち、安定化モデルパラメータ計算部114は、サンプリング時刻tで逐次推定計算部113から呼び出される毎に、モデルパラメータ推定値θ(k-1)から安定化モデルパラメータθ(k-1)を計算する。
【0052】
或るサンプリング時刻tで逐次推定計算部113から呼び出されたときに、安定化モデルパラメータ計算部114が安定化モデルパラメータを計算する処理について、図5を参照しながら説明する。ただし、以下では、一例として、プラント応答モデルとしては以下のARMAモデルを想定する。
【0053】
y(k)=ay(k-1)+・・・+ay(k-N)+bu(k)+・・・+bu(k-M)
また、このとき、モデルパラメータ推定値θ(k-1)は以下で表される。
【0054】
θ(k-1)=[a,・・・,a,b,・・・,bΤ
ここで、Nは制御量yに関する次数、Mは操作量uに関する次数である。すなわち、上記のプラント応答モデルは(N,M)次のARMAモデルである。なお、a,・・・,aは自己回帰係数、Nは自己回帰係数の次数とも呼ばれる。また、b,・・・,bは移動平均係数、Mは移動平均係数の次数とも呼ばれる。
【0055】
ステップS201:まず、安定化モデルパラメータ計算部114は、重心化パラメータθを計算する。安定化モデルパラメータ計算部114は、自己回帰係数a,・・・,aの重心aと移動平均係数b,・・・,bの重心bとをそれぞれ計算した上で、モデルパラメータ推定値θ(k-1)の各自己回帰係数を重心a、各移動平均係数を重心bにそれぞれ置き換えたものを重心化パラメータθとする。すなわち、重心化パラメータθは以下で表される。
【0056】
θ=[a,・・・,a,b,・・・,bΤ
ここで、a=(a+・・・+a)/N、b=(b,・・・,b)/(M+1)である。
【0057】
ステップS202:次に、安定化モデルパラメータ計算部114は、安定化モデルパラメータの候補となるパラメータ(以下、候補パラメータともいう。)計算する。安定化モデルパラメータ計算部114は、以下により候補パラメータθを計算する。
【0058】
θ=(1-β)×θ(k-1)+β×θ
ここで、βは0<β≦1を取るブレンド係数であり、予め設定された値である。ブレンド係数βが1に近いほど候補パラメータθは重心化パラメータθに近づき、0に近いほど候補パラメータθはモデルパラメータ推定値θ(k-1)に近づく。
【0059】
ステップS203:次に、安定化モデルパラメータ計算部114は、2種類の予測誤差を計算する。すなわち、安定化モデルパラメータ計算部114は、モデルパラメータ推定値θ(k-1)を用いたときの予測誤差eと、候補パラメータθを用いたときの予測誤差eとをそれぞれ以下により計算する。
【0060】
=y-ξ(k)Τθ(k-1)
=y-ξ(k)Τθ
ここで、yは制御量の現在値、すなわちy=y(k)である。また、ξ(k)は状態ベクトルである。すなわち、eは、モデルパラメータ推定値θ(k-1)を用いたときの制御量予測値と、制御量現在値との誤差を表している。同様に、eは、候補パラメータθを用いたときの制御量予測値と、制御量現在値との誤差を表している。
【0061】
ステップS204:次に、安定化モデルパラメータ計算部114は、予測誤差eの絶対値と予測誤差eの絶対値とを比較する。安定化モデルパラメータ計算部114は、例えば、予測誤差eの絶対値と予測誤差eの絶対値とを比較し、以下を満たすか否かを判定する。
【0062】
|e|<α|e
ここで、αは0<α≦1を取る比較係数であり、予め設定された値である。比較係数αは、候補パラメータθを用いたときの予測誤差eをどの程度厳しく評価するかを制御しており、0に近いほど、予測誤差eに対して予測誤差eの改善が顕著であることが要求される。
【0063】
上記の比較の結果、|e|<α|e|を満たす場合、安定化モデルパラメータ計算部114は、ステップS205に進む。一方で、|e|<α|e|を満たさない場合(つまり、|e|≧α|e|を満たす場合)、安定化モデルパラメータ計算部114は、ステップS206に進む。
【0064】
ステップS205:|e|<α|e|を満たす場合、安定化モデルパラメータ計算部114は、候補パラメータθを安定化モデルパラメータθ(k-1)とする。すなわち、安定化モデルパラメータ計算部114は、θ(k-1)←θとする。
【0065】
ステップS206:|e|<α|e|を満たさない場合、安定化モデルパラメータ計算部114は、モデルパラメータ推定値θ(k-1)を安定化モデルパラメータθ(k-1)とする。すなわち、安定化モデルパラメータ計算部114は、θ(k-1)←θ(k-1)とする。
【0066】
なお、上記では、一例として、外乱を考慮していないが、外乱が存在する場合であっても同様に適用できることはいうまでもない。外乱を考慮する場合、例えば、ARMAモデルには外乱に関する移動平均モデルが追加され、その結果、モデルパラメータには外乱に関する自己回帰係数が追加される。
【0067】
また、上記では、一例として、自己回帰係数a,・・・,aの平均値をa、移動平均係数b,・・・,bの平均値をbとしたが、これに限られるものではない。aとして、自己回帰係数a,・・・,aから計算可能な任意の統計量を用いることが可能である。同様に、bとして、移動平均係数b,・・・,bから計算可能な任意の統計量を用いることが可能である。より一般には、次元毎に、その次元方向の係数から計算可能な任意の統計量を用いることが可能である。このような統計量としては、平均の他、例えば、加重平均、中央値、最頻値等といったものが挙げられる。
【0068】
<ステップ応答計算部102の動作例>
以下、ステップ応答の推定に用いられるモデルパラメータ推定値(つまり、プラント応答関数Sθに設定されるモデルパラメータ推定値)θ=θ(k)のことを「モデルパラメータ設定値θ」ともいう。また、以下では、簡単のため、ステップ信号として単位ステップ信号を想定する。
【0069】
ステップ応答計算部102は、図6に示すように、モデルパラメータ設定値θと時刻tとが与えられると、初期時刻0から時間t経過後の時刻tにおける単位ステップ応答Sθ(t)を計算する。なお、単位ステップ応答とは、操作量uとして単位ステップ信号を印加した場合における応答(つまり、制御対象プラントのプラント応答モデルの出力)のことである。
【0070】
或る時刻tと或るモデルパラメータ設定値θとが与えられたときに、ステップ応答Sθ(t)を計算する処理について、図7を参照しながら説明する。ただし、以下では、一例として、プラント応答モデルとしては以下のARMAモデルを想定する。
【0071】
y(k')=ay(k'-1)+・・・+ay(k'-N)+bu(k')+・・・+bu(k'-M)
また、このとき、インデックスk'における状態ベクトルφ(k')を以下で表すものとする。
【0072】
φ(k')=[y(k'-1),y(k'-2),・・・,y(k'-N),u(k'),u(k'-1),・・・,u(k'-M)]Τ
なお、インデックスk'は、サンプリング時刻tのインデックスkと同じ値を取り得る変数であるが、本処理の中でのみ利用され、インデックスkとは独立に値が更新されることに留意されたい。
【0073】
ステップS301:ステップ応答計算部102は、本処理の中でのみ利用する時刻を表すインデックスをτとして、τ=0、k'=0と初期化すると共に、状態ベクトルφ(0)を以下のように初期化する。
【0074】
φ(0)=[0,0,・・・,0,1,0,・・・,0]Τ
すなわち、u(0)のみ1、それ以外の要素は0と状態ベクトルφ(0)を初期化する。これは、単位ステップ応答を模擬する際の初期値を表している。
【0075】
ステップS302:次に、ステップ応答計算部102は、y(k')=φ(k')Τθにより制御量予測値y(k')を計算する。
【0076】
ステップS303:次に、ステップ応答計算部102は、制御量予測値y(k')を用いて、状態ベクトルφ(k')を、次のインデックスk'+1における状態ベクトルφ(k'+1)に更新する。このとき、ステップ応答計算部102は、状態ベクトルφ(k'+1)のy(k')には上記のステップS302で計算した制御量予測値y(k')を設定し、y(k'-N+1)~y(k'-1)には状態ベクトルφ(k')と同じ値を設定する。また、状態ベクトルφ(k'+1)のu(k'+1)には1を設定し、u(k'-M+1)~u(k')には状態ベクトルφ(k')と同じ値を設定する。
【0077】
ステップS304:次に、ステップ応答計算部102は、時刻τをτ+Δに更新すると共に、インデックスk'をk'+1に更新する。
【0078】
ステップS305:次に、ステップ応答計算部102は、τ≧tであるか否かを判定する。そして、τ≧tであると判定されなかった場合(ステップS305でNO)、ステップ応答計算部102は、ステップS302に戻る。これにより、τ≧tとなるまで、ステップS302~ステップS304が繰り返し実行される。
【0079】
一方で、τ≧tであると判定された場合(ステップS305でYES)、ステップ応答計算部102は、処理を終了する。これにより、最終的に計算された制御量予測値y(k')が単位ステップ応答Sθ(t)として得られる(つまり、Sθ(t)=y(k)が、プラント応答モデルの単位ステップ応答として得られる。)。
【0080】
[第二の実施形態]
以下、第二の実施形態について説明する。第二の実施形態では、制御対象のプラントの定常状態を表すオフセット項が含まれるモデルパラメータを対象とする。なお、プラントの定常状態を表すオフセット項が含まれるモデルパラメータとそれに関連する技術については、例えば、上記の特許文献3等を参照されたい。
【0081】
具体的には、第二の実施形態では、プラント応答モデルとして以下のオフセット項が含まれるARMAXモデル(Autoregressive Moving Average Model with Exogenous Variables)を想定する。
【0082】
y(k)=ay(k-1)+・・・+ay(k-N)+bu(k)+・・・+bu(k-M)+c
ここで、cがオフセット項である。
【0083】
このとき、モデルパラメータ(及びその推定値)θは、以下で表されるモデルパラメータに拡大することができる。
【0084】
θ=[a,・・・,a,b,・・・,b,cΤ
このモデルパラメータ(及びその推定値)θを「拡大モデルパラメータ」とも呼ぶ。
【0085】
なお、第二の実施形態では、主に、第一の実施形態と相違点について説明し、第一の実施形態と同様としてよい箇所についてはその説明を省略する。
【0086】
<プラント応答推定装置10の機能構成例>
本実施形態に係るプラント応答推定装置10の機能構成例を図8に示す。図8に示すように、本実施形態に係るプラント応答推定装置10は、パラメータ変換部115がモデルパラメータ推定部101に含まれている点が第一の実施形態と異なる。
【0087】
パラメータ変換部115は、拡大モデルパラメータθをモデルパラメータθに変換する。
【0088】
<状態ベクトル変換部112の動作例>
状態ベクトル変換部112は、状態ベクトルを拡大した拡大状態ベクトルと呼ぶベクトルを作成する点が第一の実施形態と異なる。その他の点は第一の実施形態と同様としてよい。
【0089】
拡大状態ベクトルとは、状態ベクトルξ(k)をオフセット項に対応する要素を加えて拡大したものであり、以下で表される。
【0090】
【数6】
最後の要素「1」がオフセット項に対応する要素である。
【0091】
<逐次推定計算部113の動作例>
逐次推定計算部113は、モデルパラメータθの代わりに拡大モデルパラメータθを用いる点、状態ベクトルξ(k)の代わりに拡大状態ベクトルξ(k)を用いる点が第一の実施形態と異なる。その他の点は第一の実施形態と同様としてよい。
【0092】
<安定化モデルパラメータ計算部114の動作例>
安定化モデルパラメータ計算部114は、モデルパラメータθの代わりに拡大モデルパラメータθを用いる点、状態ベクトルξ(k)の代わりに拡大状態ベクトルξ(k)を用いる点が第一の実施形態と異なる。その他の点は第一の実施形態と同様としてよい。
【0093】
なお、上記のステップS201で重心化パラメータθを計算する際に、オフセット項は置き換えの対象外であることに留意されたい。すなわち、モデルパラメータ推定値θ(k-1)がθ(k-1)=[a,・・・,a,b,・・・,b,cΤである場合、重心化パラメータθはθ=[a,・・・,a,b,・・・,b,cΤとなる。
【0094】
<パラメータ変換部115の動作例>
以下、一例として、拡大モデルパラメータ推定値θ(k)は以下で表されるものとする。
【0095】
θ(k)=[θ(k),θ(k),θ(k),θ(k)]Τ
ここで、θ(k)はサンプリング時刻tにおけるARMAXモデルの制御量yに関する項の係数を要素とするN次元ベクトル、θ(k)は操作量uに関する項の係数を要素とするM次元ベクトル、θ(k)は外乱vに関する項の係数を要素とするL次元ベクトル、θ(k)はオフセット項を表すスカラー値である。
【0096】
このとき、パラメータ変換部115は、拡大モデルパラメータ推定値θ(k)が得られると、図9に示すように、θ(k)を除いたベクトルに変換することで、モデルパラメータ推定値θ(k)を得る。これにより、以下のモデルパラメータ推定値が得られる。
【0097】
θ(k)=[θ(k),θ(k),θ(k)]Τ
このように、制御対象プラントのステップ応答を推定する際には、拡大モデルパラメータ推定値θ(k)からθ(k)を除くことで、モデルパラメータ推定値θ(k)が得られる。この理由は、上記の特許文献1に記載されている通り、制御量yの変化量に対してオフセット項は影響しないためである。
【0098】
[実施例]
以下、一実施例について説明する。本実施例では、第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10によりモデルパラメータとステップ応答を推定した。
【0099】
制御対象プラントのプラント応答モデルとしては、以下のARMAXモデルを採用した。
【0100】
y(k)=ay(k-1)+ay(k-2)+bu(k)+bu(k-1)+bu(k-2)+c
すなわち、制御量yに関する2次元の要素と、操作量uに関する3次元の要素と、オフセット項とを有するARMAXモデルを採用した。
【0101】
このとき、拡大状態ベクトルξ(k)は以下で表される。
【0102】
ξ(k)=[y(k-1),y(k-2),u(k),u(k-1),u(k-2),1]Τ
また、拡大モデルパラメータθは以下で表される。
【0103】
θ(k)=[a(k),a(k),b(k),b(k),b(k),c(k)]Τ
制御量の予測値(以下、これをyestとも表す。)は以下で表される。
【0104】
est(k)=ξ(k)Τθ(k-1)
ここで、本実施例における制御対象プラントのステップ応答は、図10に示すようなものであるとする。なお、rは目標値、yは制御量、uは操作量、vは外乱を表す。また、本実施例では、再サンプリング周期D=2、忘却係数λ=0.999、比較係数α=0.9とした。
【0105】
このとき、本実施例では、2つのデータ(後述するデータ1、データ2)をそれぞれ用いて、モデルパラメータとステップ応答を推定した。
【0106】
・データ1を用いた場合
制御対象プラントをPID制御で制御したデータ1を図11に示す。このとき、安定化モデルパラメータ計算部114を利用しないでモデルパラメータを推定した結果とモデル予測制御の制御結果とをそれぞれ図12及び図13に示す。また、第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10によりモデルパラメータを推定した結果とモデル予測制御の制御結果とをそれぞれ図14及び図15に示す。図12及び図14では、モデルパラメータのa、a、b、b、bを時系列で示している。図12(安定化モデルパラメータ計算部114なし)と図14(安定化モデルパラメータ計算部114あり)とを比較すると、自己回帰係数a、aは安定化モデルパラメータ計算部114ありの方が重心に近く、移動平均係数b、b、bは安定化モデルパラメータ計算部114ありの方が重心に近いことがわかる。一方で、図13(安定化モデルパラメータ計算部114なし)と図15(安定化モデルパラメータ計算部114あり)とを比較すると、大きな違いはなく、安定化モデルパラメータ計算部114によって制御性能の劣化は生じていないことがわかる。
【0107】
・データ2を用いた場合
制御対象プラントをPID制御で制御したデータ2を図16に示す。データ2では、制御量yに観測ノイズが加わっており、その結果、操作量uにもノイズが加わっている。なお、ノイズの影響以外はデータ1とデータ2とで条件は同一である。このとき、安定化モデルパラメータ計算部114を利用しないでモデルパラメータを推定した結果とモデル予測制御の制御結果とをそれぞれ図17及び図18に示す。また、第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10によりモデルパラメータを推定した結果とモデル予測制御の制御結果とをそれぞれ図19及び図20に示す。図17及び図19では、モデルパラメータのa、a、b、b、bを時系列で示している。図17(安定化モデルパラメータ計算部114なし)と図19(安定化モデルパラメータ計算部114あり)とを比較すると、自己回帰係数a、aは安定化モデルパラメータ計算部114ありの方が重心に近く、移動平均係数b、b、bは安定化モデルパラメータ計算部114ありの方が重心に近いことがわかる。また、安定化モデルパラメータ計算部114なしの場合(図17)では、自己回帰係数a、aが徐々に互いに離れた値となっていくが、安定化モデルパラメータ計算部114ありの場合(図19)では、その動きが抑制できていることがわかる。すなわち、ノイズのあるデータ2ではノイズによって自己回帰係数及び移動平均係数が重心から離れた値で推定されるが、安定化モデルパラメータ計算部114によって重心から離れる動きが抑制できている。
【0108】
一方で、図18(安定化モデルパラメータ計算部114なし)と図20(安定化モデルパラメータ計算部114あり)とを比較すると、図18では操作量uが比較的鋭く変化している。これに対して、図20では、上記のような鋭い変化は少なく、ノイズのないデータ1での制御結果(図15)の応答波形と比較的良く似た結果となっている。したがって、安定化モデルパラメータ計算部114により、ノイズの影響を抑制しており、モデル予測制御の安定化に寄与しているといえる。
【0109】
[まとめ]
以上のように、第一及び第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10は、操業中のプラントの運転データからプラント応答モデルのモデルパラメータを安定的に推定することができる。すなわち、重心化パラメータによってモデルパラメータの推定には重心方向に推定されるような力が働くため、例えば、図17のように、a、aが徐々に互いに離れた値となっていく、というような動き(つまり、モデルパラメータが発散するような動き)を抑制することが可能となり、その結果、モデルパラメータを安定的に推定することが可能となる。これにより、真値に収束するまでの途中の段階でもモデルパラメータ推定値の信頼性が担保され、上記の1つ目の課題が解決される。このため、第一及び第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10によれば、推定したモデルパラメータを制御(例えば、モデル予測制御)に容易に用いることが可能となる。
【0110】
また、第一及び第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10では、モデルパラメータの次数が未知であり、必要以上に高い次数が設定された場合であっても、重心方向に推定されるような力が働くため、重心に近いモデルパラメータが推定されやすくなり、多重共線性等の高次数に由来する問題を回避することができるようになる。これにより、上記の2つ目の課題が解決される。
【0111】
更に、第一及び第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10では、安定化モデルパラメータ計算部114にて現状のモデルパラメータを用いた場合の予測誤差と候補パラメータを用いた場合の予測誤差とを比較し、予測精度が改善する場合にのみ候補パラメータを安定化モデルパラメータとして採用する。このため、予測精度の改善も期待できる。
【0112】
加えて、第一及び第二の実施形態に係るプラント応答推定装置10では、観測値に対するノイズに対してもモデルパラメータ推定値が安定するため、ノイズの影響を抑制した推定が可能となる。
【0113】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0114】
10 プラント応答推定装置
11 入力装置
12 表示装置
13 外部I/F
13a 記録媒体
14 通信I/F
15 プロセッサ
16 メモリ装置
17 バス
101 モデルパラメータ推定部
102 ステップ応答計算部
111 バッファ部
112 状態ベクトル変換部
113 逐次推定計算部
114 安定化モデルパラメータ計算部
115 パラメータ変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【手続補正書】
【提出日】2022-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算するように構成されている推定計算部と、
前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算するように構成されている安定化計算部と、
前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算するように構成されている応答計算部と、
を有し、
前記推定計算部は、
前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算部によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算するように構成されており
前記プラント応答モデルは多項式モデルであり、
前記安定化計算部は、
前記多項式モデルの次元毎に、前記モデルパラメータの推定値を表すベクトルの各要素のうち、前記次元方向の要素から所定の統計量を計算し、
前記次元毎に、前記次元方向の要素を前記統計量で置換した第1のパラメータを計算し、
前記第1のパラメータと前記モデルパラメータとを所定の比率で混合した第2のパラメータを計算し、
前記第2のパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第1の予測誤差が、前記モデルパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第2の予測誤差よりも所定以上改善している場合は前記第2のパラメータを前記安定化モデルパラメータとし、前記第1の予測誤差が前記第2の予測誤差よりも所定以上改善していない場合は前記モデルパラメータを前記安定化モデルパラメータとする、ように構成されている、プラント応答推定装置。
【請求項2】
前記多項式モデルは、ARMAモデル又はARMAXモデルであり、
前記モデルパラメータは、前記ARMAモデル又はARMAXモデルの係数を要素とするベクトルで表される、請求項に記載のプラント応答推定装置。
【請求項3】
前記安定化計算部は、
前記ARMAモデル又はARMAXモデルの自己回帰係数の平均値を表す第1の重心と、前記ARMAモデル又はARMAXモデルの移動平均係数の平均値を表す第2の重心とを前記統計量として計算し、
前記自己回帰係数を前記第1の重心、前記移動平均係数を前記第2の重心でそれぞれ置換することで、前記第2のパラメータを計算する、ように構成されている、請求項に記載のプラント応答推定装置。
【請求項4】
前記ARMAモデル又はARMAXモデルには、前記制御対象プラントの定常状態を表すオフセット項が含まれる、請求項又はに記載のプラント応答推定装置。
【請求項5】
制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算する推定計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算する安定化計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算する応答計算手順と、
をコンピュータが実行し、
前記推定計算手順は、
前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算手順によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算し、
前記プラント応答モデルは多項式モデルであり、
前記安定化計算手順は、
前記多項式モデルの次元毎に、前記モデルパラメータの推定値を表すベクトルの各要素のうち、前記次元方向の要素から所定の統計量を計算し、
前記次元毎に、前記次元方向の要素を前記統計量で置換した第1のパラメータを計算し、
前記第1のパラメータと前記モデルパラメータとを所定の比率で混合した第2のパラメータを計算し、
前記第2のパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第1の予測誤差が、前記モデルパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第2の予測誤差よりも所定以上改善している場合は前記第2のパラメータを前記安定化モデルパラメータとし、前記第1の予測誤差が前記第2の予測誤差よりも所定以上改善していない場合は前記モデルパラメータを前記安定化モデルパラメータとする、プラント応答推定方法。
【請求項6】
制御対象プラントの運転データに基づいて、前記制御対象プラントのプラント応答モデルを表す関数のパラメータであるモデルパラメータの推定値を逐次的に計算する推定計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値を安定化した安定化モデルパラメータを計算する安定化計算手順と、
前記モデルパラメータの推定値に基づいて、前記プラント応答モデルを表す関数により前記制御対象プラントの応答を計算する応答計算手順と、
をコンピュータに実行させ、
前記推定計算手順は、
前記運転データと、前回計算したモデルパラメータの推定値を前記安定化計算手順によって安定化した安定化モデルパラメータとに基づいて、前記モデルパラメータの推定値を計算し、
前記プラント応答モデルは多項式モデルであり、
前記安定化計算手順は、
前記多項式モデルの次元毎に、前記モデルパラメータの推定値を表すベクトルの各要素のうち、前記次元方向の要素から所定の統計量を計算し、
前記次元毎に、前記次元方向の要素を前記統計量で置換した第1のパラメータを計算し、
前記第1のパラメータと前記モデルパラメータとを所定の比率で混合した第2のパラメータを計算し、
前記第2のパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第1の予測誤差が、前記モデルパラメータを用いて前記制御対象プラントの応答を予測したときの第2の予測誤差よりも所定以上改善している場合は前記第2のパラメータを前記安定化モデルパラメータとし、前記第1の予測誤差が前記第2の予測誤差よりも所定以上改善していない場合は前記モデルパラメータを前記安定化モデルパラメータとする、プログラム。