(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024044592
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】オイルシール構造
(51)【国際特許分類】
F16J 15/14 20060101AFI20240326BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240326BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16J15/14 D
F16J15/10 T
F16J15/10 X
F02F11/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150215
(22)【出願日】2022-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 絵梨香
(72)【発明者】
【氏名】山本 絢香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徳昭
【テーマコード(参考)】
3J040
【Fターム(参考)】
3J040AA17
3J040BA03
3J040EA01
3J040EA16
3J040EA25
3J040FA05
3J040FA06
3J040HA01
3J040HA04
3J040HA16
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、ゴムガスケットの耐久性を維持でき、シール性能も向上した高寿命かつ高機能のオイルシール構造を提供する。
【解決手段】開口部80を備える端面12aを有する第1部材12と、少なくとも開口部80を覆う第2部材30との間を弾性の環状のシール部材40を介在させて密閉するシール構造において、開口部80を囲んで第1部材12の端面12aに形成された環状の凹部であってシール部材40を端面12aから一部突出させた状態で内部に収容する環状凹部20を備え、シール部材40は、少なくともオイルに触れる面が耐油性の素材60で被覆されて環状凹部20内に収容されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備える端面を有する第1部材と、少なくとも前記開口部を覆う第2部材との間を弾性の環状のシール部材を介在させて密閉するシール構造において、
前記開口部を囲んで前記第1部材の端面に形成された環状の凹部であって前記シール部材を前記端面から一部突出させた状態で内部に収容する環状凹部を備え、
前記シール部材は、少なくともオイルに触れる面が耐油性の素材で被覆されて前記環状凹部内に収容されてなることを特徴とするオイルシール構造。
【請求項2】
前記被覆は、前記シール部材表面への耐油性の液素材の塗布または粘性素材の滞留にてなされることを特徴とする請求項1に記載のオイルシール構造。
【請求項3】
前記環状凹部の左右両壁の間隔が前記シール部材の左右いずれかの側面とのみ接触する幅寸法で形成されたことを特徴とする請求項1に記載のオイルシール構造。
【請求項4】
前記環状凹部の幅寸法および該環状凹部内に収容される前記シール部材の外径寸法は、収容された前記シール部材が前記環状凹部の左右両壁と密着するように寸法調整されていることを特徴とする請求項1に記載のオイルシール構造。
【請求項5】
前記環状凹部の底面またはオイルが存在する側の内壁面に凸状部が設けられたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のオイルシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール構造、特に車両に用いられるオイルシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においては、たとえばオイル通路の合わせ面や吸気マニホールドなどに使用されるシール構造が知られている。このようなシール構造のシール部材としては、一般的に合成ゴムからなるゴムガスケットが使用される。こうしたゴムガスケットには、外部へのオイルの漏出を防いだり、またはオイル、土砂ほこり、雨水等の侵入を防ぐなどといった密閉機能が十分果たされることが期待されている。
【0003】
しかしながら、特にオイルシール用のゴムガスケット、一般的にはACM(アクリルゴム)やHNBR(水素化ニトリルゴム)を用いたオイルシール構造においては、以下のような問題があった。すなわち、こうしたオイルシール用ゴムガスケットでは、常にゴムガスケットがオイルに晒されているため、ゴムガスケットに劣化(老化)防止剤として添加されている酸化防止剤が長期的にはオイル内に徐々に流出してしまい、劣化防止機能が低下してしまうという問題である。
さらに、車両が実際に置かれる市場環境よりも過酷な温度などの条件での耐久試験を経たゴムガスケットよりも、熱の影響が比較的少ないまま所定の走行距離を経た車両におけるゴムガスケットの方がゴムガスケット内に残留する酸化防止剤の量は少なくなっていることも確認されている。このように経時変化した状況では、オイルシール構造は当初の耐久性能よりも劣化が加速されてしまい、車両寿命の中途でオイルシール機能が損なわれることにもなりかねない。
【0004】
オイルシール構造として、例えば特許文献1においては、一方のフランジ合わせ面にOリング用の溝を設け、このOリングは中空で外側(フランジ部のオイルとは反対方向)に向かう貫通孔を備え、圧縮される前において液状ガスケットが内部に充填されているシール構造が提案されている。このシール構造によれば、フランジ部の締結後、圧縮されるOリング内に充填されていた液状ガスケットがあふれ出てフランジ合わせ面に行き渡る。このため、フランジ締結前にフランジ合わせ面に液状ガスケットを塗布する工程を省略でき、フランジ締結作業負担が軽減され、高いシール性能を確保することができる。
【0005】
また、例えば特許文献2においては、オイルパンの頂面とシリンダブロックの下端面とを接合させてオイルパンの壁内に形成された潤滑オイル通路とシリンダブロック内に形成された潤滑オイル通路との接合面のシール構造が提案されている。このシール構造は、オイルパン頂面上にシリンダブロックに対向する環状の接合面(端面)を形成し、この接合面を囲むように環状溝を形成し、この環状溝内のオイル通路側である内径側にシールリングを挿入して、環状溝内のシールリング周りの外周を埋めるように液状ガスケットが注入されている。これにより潤滑オイル通路がシールリングによってシールされるので、潤滑オイルが潤滑オイル通路から外部に漏れ出ることが防止され、かつ液状ガスケットが潤滑オイル通路内に侵入することもなく、シール構造の加工も容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-144884号公報
【特許文献2】特開平5-65960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2において提案されたシール構造では、いずれも封止したい対象であるオイルの存在する側にOリング(環状のゴムガスケット)が露出している状態は解消されていない。そして、この状態でOリングのシール性能を補填するものとして、補助的に液状ガスケットがOリングのオイルに接する面とは反対側の面に封入または充填されている。したがって、Oリングはオイルに直接触れることになり、オイルによる劣化を回避することができない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成でゴムガスケットの耐久性を維持でき、シール性能も向上した高寿命かつ高機能のオイルシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一実施の形態は、開口部を備える端面を有する第1部材と、少なくとも前記開口部を覆う第2部材との間を弾性の環状のシール部材を介在させて密閉するシール構造において、前記開口部を囲んで前記第1部材の端面に形成された環状の凹部であって前記シール部材を前記端面から一部突出させた状態で内部に収容する環状凹部を備え、前記シール部材は、少なくともオイルに触れる面が耐油性の素材で被覆されて前記環状凹部内に収容されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るシール構造によれば、簡易な構成でゴムガスケットの耐久性を維持でき、シール性能も向上した高寿命かつ高機能のオイルシール構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るオイルシール構造の縦断面を示す模式図である。
【
図2】本発明の他の実施の形態に係るオイルシール構造の縦断面を示す模式図である。
【
図3】本発明のさらに他の実施の形態に係るオイルシール構造の縦断面を示す模式図である。
【
図4】本発明のさらに他の実施の形態に係るオイルシール構造の縦断面を示す模式図である。
【
図6】車両に用いられるロッカーカバー(rocker cover)のカバー内側の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図6は、本発明の実施の形態に係るシール構造の適用対象となる例としてのロッカーカバー100の内側の平面構成を示している。ロッカーカバー100は、シリンダヘッドの上面に設置されるカムキャリアを間に挟んで上部から覆うことで、ロッカーアームやカムシャフトなどを主に潤滑するオイルが外部へ飛散するのを防止する役割を担っている。したがって、ロッカーカバー100には、外部にオイルが漏出しないためのオイルシール構造が要求されている。
【0013】
ロッカーカバー100は、中央部分に開口部80があり、この開口部80の外周部分が端面12aとなっており、この端面12aは、開口部80を取り囲んで形成されている。この端面12aには、同じく開口部80を囲むように延在する所定深さの環状凹部20が形成されている。環状凹部20はオイルシール構造の構成要素であり、後述するようにシール部材が内部に収容されるものである。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態によるオイルシール構造10の縦断面構成を示したものである。図示のように、第1部材12の端面12aには、所定の幅および深さを有する環状凹部20が形成されている。この環状凹部20は、略水平な底面21とこの底面21に対して垂直な対向する2つの側壁18,19とによって構成されている。そしてこの環状凹部20内に、底面21に載置されるようにシール部材40が収容されている。
【0015】
図5は、本実施の形態に用いられているシール部材40であるゴム製のガスケットの垂直断面形状を示しており、図示の様に略楕円形状を有している。また、環状凹部20内全長にわたって伸長する長さを有する環状に形成され、その材質としては、例えばACM(アクリルゴム)やHNBR(水素化ニトリルゴム)などから形成されている。
さらに、環状凹部20内に収容された状態におけるシール部材40のオイルの存在する側(図面上右側)の面には、小さい凹凸の連続する粗面部40aが形成されている。この粗面部40aは後述する耐油性の素材の表面定着性を高めるために設けられるものである。この粗面部40aは、例えば、サンドブラスト法やサンドペーパ掛けなどの粗面加工で形成することが可能である。
【0016】
そして、
図1の実施の形態では、収容されているシール部材40のオイルの存在する側の面が、耐油性の素材60で被覆されている。この被覆は、シール部材40のオイルの存在する側の面に液状の耐油性の素材60を塗布するか、または、シール部材40のオイルの存在する側の面と内壁18との間に、粘性を有する耐油性の素材60を滞留させることで行われている。なお、ここで滞留とは、耐油性の素材60の存在を、単に塗布するよりも厚みを持たせるように形成することができるものである。
図1の実施の形態では、粘性のある耐油性素材60が、シール部材40のオイルの存在する側の面と内壁18との間に充填されている。これにより、シール部材40とオイルとの間に耐油性素材60が介在する。しかも、耐油性素材60の厚い層を確保することができ、オイルが耐油性素材を透過してしまう可能性を低減できる。シール部材がオイルに直接触れない結果、シール部材に含有されている酸化防止剤がオイル内へ流出する可能性が減少する。これにより、シール部材の劣化が防止され、すなわちシール部材の耐久性能が維持され、このシール部材を用いたオイルシール構造の高寿命化が実現される。
【0017】
また、本実施の形態では、環状凹部20の幅は、シール部材40の厚さ(図面上左右方向の厚さ)よりも大きなサイズとされており、シール部材40の外側面と環状凹部20の壁面との間には空間が存在するように構成されている。さらに、本実施の形態では、底面から突出するように形成された突起22によって、オイルの存在する側の内壁18側にシール部材40が移動しない構成とされている。この突起22は、環状凹部20の内部底面21上に周方向に点在してまたは連続的に設けられている。この構成により、シール部材40の表面に塗布等されたオイルによる劣化を防ぐための耐油性素材60の滞留量を多く取ることが可能となっている。上述のようにシール部材40のオイルの存在する側の面には粗面部40aが設けられていることから、塗布又は滞留する耐油性素材60のシール部材40の表面への定着性が良好なものとなっている。
【0018】
なお、シール部材40の表面の被覆を、耐油性素材60を滞留させることにて行う場合、環状凹部20内に耐油性素材60を充填してからシール部材40を収容して、シール部材40を耐油性素材60に浸漬させるようにすることも可能である。また、シール部材40を環状凹部20内に収容してから耐油性素材60を注入してもよい。
【0019】
ここで、耐油性の素材60には、例えばFIPG(Formed In Place Gasket、液状ガスケット)を用いる。このFIPGは、汎用のものを使用することができる。一般的なFIPGは、オイルや熱に強い素材であるシリコーンを主成分としており、室温条件下で塗布後およそ30分経過すると硬化し始めるようになっている。
【0020】
FIPGをシール部材40に塗布等する耐油性素材60として用いることにより、シール部材40は耐油性だけでなく耐熱性もまた強化される。特に、環状凹部20内でシール部材40にFIPGが滞留されたり、シール部材40と環状凹部20のオイルが存在する側の内壁18との間に多くのFIPGが存在したりしている場合には、シール構造10の組立後、第2部材30の端面30aが対向する第1部材12の端面12aに対して多少変位(口開き)しても、FIPG特有の粘弾性や密着性によってFIPGがその変位に追従することができ、オイルの侵入する隙間の発生が予防される。すなわち、この構成により、オイルシール性能が向上し、オイルシール構造そのものの耐久性も向上する。
【0021】
図2は、他の実施の形態の構造を示しており、
図1の実施の形態で説明した要素と同様の要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
図示のように、環状凹部20の内壁18の表面上には、複数の凸部24が高さ方向上下に3箇所設けられている。凸部24は環状凹部20の伸長方向に連続して、または点在するように設けられている。そして、
図1の場合と同様に、この環状凹部20内にシール部材40がオイルの存在しない側の内壁19に寄せられて収容されている。ここで、シール部材40のオイルの存在する側の面40aと環状凹部20のオイルの存在する側の内壁18との間には、耐油性の素材60が滞留している。
【0022】
本実施の形態によれば、内壁18の表面上に形成された凸部24の存在により、シール部材40が環状凹部20に設置された後に環状凹部20内で径方向に移動してズレることを防止することができる。したがって、耐油性の素材60がシール部材40に定着する前にシール部材40が内壁18側に寄ってしまうことが防がれるだけでなく、シール部材40のオイル側の面と環状凹部20の内壁18との間に耐油性の素材60の層がより好適に確保される。
【0023】
図3は、さらに他の実施の形態の構造を示しており、
図1の実施の形態で説明した要素と同様の要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
図示のように、環状凹部20内の内壁18には、底面21から中段位置まで立ち上がる段部26が設けられている。そして、
図1の場合と同様に、この環状凹部20内にシール部材40がオイルの存在しない側の内壁19に寄せられて収容されている。ここで、シール部材40のオイルの存在する側の面40aと環状凹部20の、段部26が形成されたオイルの存在する側の内壁18との間には、耐油性の素材60が滞留している。
【0024】
本実施の形態によれば、環状凹部20内に突起22や凸部24を周方向に形成する構成に比し、より構成が簡易となり、耐油性の素材60の使用量も抑制することができる。
【0025】
図4は、さらに他の実施の形態の構造を示しており、
図1の実施の形態で説明した要素と同様の要素については同一の符号を付しその説明を省略する。
図示のように、環状凹部20内に収容されたシール部材40は、シール部材40の径方向の幅と環状凹部20の内壁18および内壁19との間の幅がほぼ同一になるように寸法調整されている。本実施の形態では、シール部材40のオイルの存在する側40aと環状凹部20のオイルの存在する側の内壁18との間に、耐油性の素材60のやや薄い層が形成されている。また、上記寸法調整は、シール部材40が環状凹部20内の両内壁18,19と密着するように嵌入されるように行うことも可能である。
【0026】
本実施の形態によれば、環状凹部20内に突起22、凸部24、または段部26を形成する必要がないので、構成がさらに簡略化されるだけでなく、耐油性の素材60の使用量も低減することができる。耐油性の素材60の塗布または滞留のためのスペースは少ないが、シール部材40の上下と側面での環状凹部20との接触によりシール性能が良好となり、耐油性の素材60へのオイルの接触はほぼ上部のみに限られるので、シール部材40の保護の作用も低下することはない。
【0027】
以上は本発明を、主に車両におけるロッカーカバーに対して適用した形態について説明したが、本発明は、ロッカーカバーはもとより、その他の任意のオイルシール機構に対しても同様に適用可能である。例えば、本発明は、チェーンカバーなど、オイル漏れを防止するための他のオイルシール機構にも適用することができる。
【0028】
さらに、適用対象車種は、乗用車両に限られるものではなく、例えば、過酷な環境で使用に供される大型モビリティや産業用途機械(車両)に対しても、当然に適用することが可能である。
【0029】
なお、本発明は、上記の実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書と図面に記載された技術的思想、すなわち本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0030】
例えば、本実施の形態ではシール部材40のオイル側の側面を粗面加工した例を示したが、必須の構成ではなく、平滑面のシール部材40であってもよい。
【0031】
また、耐油性の素材60の材質も同様の機能を奏するもので有れば適用でき、フッ素化ポリエーテルをベースとしたフッ素系グリースを用いることも可能である。フッ素系グリースは耐油性、耐荷重性、耐熱性等に優れ、しかもゴムに親和性がありつつゴムの性能にほとんど影響を及ぼさないという利点があるため、本発明のシール構造に用いるにあたり好適である。
【符号の説明】
【0032】
10 オイルシール構造
12 第1部材
12a 第1部材の端面
18 環状凹部の内壁(オイルが存在する側の内壁)
19 環状凹部の内壁(オイルが存在しない側の内壁)
20 環状凹部
21 環状凹部の内部底面
22 環状凹部の内部底面上に形成された突起
24 環状凹部の内壁18側面に形成された凸部
26 環状凹部の内壁18側面と内部底面21とに連続した段部
30 第2部材
30a 第2部材の端面
40 シール部材
40a シール部材の粗面部
60 耐油性の素材
80 開口部
100 ロッカーカバー